16:00 東条の街
「とは言ったものの、なァ」
母多神について調べるなら郷土資料館やこの街の図書館になるだろう。この街にだけ紐づいている伝承について他の街に期待するのは筋違いだ。とはいえ今から行っても閉館間近だが。
一方で私が麗華に直接会えるタイミングは残り少ない。こちらはなるべく邪魔を入れないようにしなければいけない。
「……案外時間も手札もないな」
「あら?蒼さんじゃない」
「え……友永の姐さん?」
考え込みながら歩く私に声をかけてきたのはこの街で数少ない私に友好的な一家の長、友永芳佳。フットワークが軽く東京の127鎮守府に気軽に来訪する東条に暮らしながら東条人らしからぬ人である。
鎮守府関連イベントや祭事の度にカジュアルな和服をコーディネートし用意してくれている人物で、直近だと私は初詣にもお世話になった。
形式張った和服ではない庶民タイプの和服の流派の家元であり、人々に和服を親しんでもらうことに積極的で精力的な初老の女性である。
「珍しいわね、帰省しているなんて。何かあったのかしら?」
「ええと、実は……」
事の経緯を伝える。怪異の件は話さないが。
「それは……残念だったわね。それで撮影巡りを、ね。でも他に何か気になっていることがある。そういう表情よ」
「それ、は」
「私の心配をしてくれているのかしら?それなら心配いらないわよ。この魔境で我を通してきた女を甘く見ないで頂戴。それとこれから家に来なさい。そこで話をしたほうがいいでしょう」
「だいぶ、深刻で異常な話ですよ」
「この街がそもそも深刻で異常な街なんだもの。今更よ」
そうして友永家へと招かれた。
17:00 友永家 居間
関わるならしっかりと、という方針の下話せる全てを話した。友永の姐さんはゆっくり咀嚼するように考え込んでから、口を開いた。
「この街が異常な原因は母多神様。その話には覚えがあるわ。それに賢ちゃんの様子の変わりようにも納得がいくもの」
「東条賢三と知り合いなんですか?」
「同級生だったのよ。あなたと麗華ちゃんのようにね。だから彼がどういう熱意を持ってこの街を良くしようとしていたかを私が一番良く知っているわ。取り巻き共は理解しようともせずにくっついていただけだったもの」
予想外のところで繋がりがあったものだ、と思う。
「実のところ、賢ちゃんの抱いていた目標と今の賢ちゃんのやってることや取り巻きの連中がやっていることが乖離しているの。精神汚染だったかしら?そういうのが賢ちゃんを狙い撃ちにしているというのなら納得できるわ」
「そんなに違うんですか?」
「そうねぇ……ああ、そうだ。高校ももうすぐ帰宅時間でしょう?麗華ちゃんをここに連れてきてもらえる?彼女にも知っておいてもらった方が良いわ」
「え、連れてって」
「斎藤みたいな取り巻きがいるんだったかしら?それを振り切って連れてきてほしいわね」
「斎藤?」
「今は東条家の家令をしてるらしい私達の同級生よ。いつも賢ちゃんにゴマすりしてきて私に噛みついて面倒だったわね。そういえばお孫さんのお付もしているとか……つまり麗華ちゃんにも悪影響を与えているってことね」
「鎌倉や坂東と同じタイプか……」
道理で麗華が高校進学で取り巻きから解放されてやっと異常に気付けたわけである。むしろ1年弱でよくやったと言うべきだろう。
そんな話をしながら麗華に「会って話がしたい、放課後に正門で待っている」とだけ連絡を飛ばす。
「それじゃあお出迎えにお菓子でも用意しなくちゃね。普段食べないような庶民の味といきましょう。蒼ちゃん、追加でコンビニのフライドチキンでも買っておいてもらえるかしら?」
「うっわ徹底的……そもそも私、さっきの流れで昼飯お預けになったんでガッツリ買ってきますからね」
「ついでに夕飯もどうかしら?」
「今日明日は両親が本家に居なきゃいけないから自炊か外食だったンでありがたいですけど、いいんですか?」
「と言っているけどどうかしら?」
(台所からサムズアップして見せる)
芳佳の姐さんの娘であり理恵の母親である人からも歓迎だという意思表示を受けてはもう断れない。というかこういった時に1番やる気を出すのは彼女である。
芳佳の姐さんの孫娘である理恵もこの家系らしく押しが強く、この街に住んでいた頃は振り回されていた。そういう相手の居なかった私には貴重な存在だった。
17:30 東条の街 北高前
「やあ、麗華」
「本当に、来たのですね」
「は?立花!?」
「なんでアンタがここに!?」
校門にもたれかかって麗華を迎える。案の定、取り巻きの鎌倉と坂東がひっついている。
「お前達に話すことはねェよ。麗華、この後は暇か?」
「え、お稽古がありますけど……」
「今日は休め」
「えっ」
「ってわけで連れて行くからお前らお稽古先への事情説明よろしくなっと!」
「きゃっ!?」
混乱している間に姫抱きにして駆け出す。日頃の訓練の成果と術具の補助もあるので、この状態でも余裕で全力疾走が出来る。
「麗華様に何をするのよ立花!って早……」
「アンタが麗華様を呼び捨てにってもう遠いし……」
麗華を上げて他を下げる事以外に取り柄がないーー冷静に何度か考え直しても本当に長所がないーー2人を撒くのは容易だった。
18:00 友永家 居間
「ってわけで覚悟完了のコンビニ品もこちらに」
「蒼ちゃんありがとう。温めておきますね」
「蒼先輩!ウチに来てくれるなんて久しぶりですね!」
「お願いします。よう理恵。なんやら色々あってなぁ」
「あ、あの……蒼さん?」
「私が呼んだのよ、賢ちゃんのお孫さんの麗華ちゃん」
奥の部屋から堂々とーー両手それぞれに庶民なお菓子の入ったトレイを持ちながらだがーー入ってくる芳佳の姐さん。
「あなたは……」
「東条賢三の同級生で友人の友永芳佳よ。まあ、あのボンクラの斎藤が隠そうとしていただろうから知らないかもしれないけれどね」
「いえ、お祖父様から聞いたことがあります。唯一無二で対等な友がいると。そしてあえて表向きには付き合って来なかった相手がであると。……それが貴方なのですか?」
「そうよ。表向きにやりとりすると余計な勘繰りする連中やそれこそあのボンクラ共が煩くてね。それこそ私は女で賢ちゃんは男でしょう?私達に恋愛感情はないし男女間の友情は存在するを地で行くんだけれど……分かるでしょう?」
「……えぇ」
電子レンジのチーンという音が鳴る。
「折角だから庶民の味や娯楽を楽しんで行って頂戴。そういうものも知らない者が統治なんて出来ないし発展に繫げることも出来ない、なんて主張は賢ちゃんのものなのよ?」
「え……でもそれはじいやが許してくれず……」
「本当にボンクラねあの男は。媚を売って自分が一番の配下だという態度を取っているくせに何一つ賢ちゃんの理念を理解しようともしないゴミクズめ」
「姐さんそのボンクラ嫌い過ぎない?」
「アイツへの呪詛だけで1日潰せるわよ?まあ、そんなことより食べましょう?蒼さんの買ってきたフライドチキンも冷めてしまうわ」
「えぇと、これは……?」
「あぁ、こうやってかぶりつく。手がベタつかないように袋が持ち手になっているのよ」
「放課後の味って感じ〜!」
「……あむ。……まぁ!」
「毎日はどうかと思うけれど、アリよねぇ」
コンビニの軽食に舌鼓を打つ一同。こんな場でも設けない限りあり得ない光景だった。
「さあ、我が家の用意したおかきもあるわ!たくさん食べて頂戴な!」
「その後に夕飯も用意していますからね」
「え、ええと……」
「そうね、実家に連絡しないと不安よね。……もしもし?賢ちゃん?久しぶりね。単刀直入に言うわ。貴方のお孫さんは預かったわ。夕飯までこちらで食べさせていくからそのつもりでいて頂戴。……何言っているのかしら?当然私が強行したのよ?そんなことも分からない貴方でもないでしょう?苦情は後で受け付けるから。それじゃあね」
「一方的ってか手慣れてますね姐さん?」
「元々私はこんなものよ?」
「押しが強くないお祖母ちゃんとかお祖母ちゃんじゃないものね」
「お祖父様をあんなに圧倒できるだなんて……」
「そうねぇ、とりあえず私と賢ちゃんの関係について話しておきましょうか。アレは高校の時。学力に自信のあった私を超える点数を期末テストで叩き出したのが彼でね、喧嘩売りに行ったのよ」
「喧嘩!?」
「私の数倍ぶっ飛んでないです?」
高校に進学して最初の期末テスト。努力家で手応えのあった芳佳の姐さんは順位表を見て愕然とした。姐さんは学内2位で、1位には同じクラスの他の名前ーー東条賢三ーーが書かれていたのだ。
素直に悔しいと思う一方で交流のなかったそんな人物がどんな者か見ると、仏頂面で媚びへつらう同級生の点数への賛辞の言葉を右から左へ聞き流していた。
「私に勝ったのにそんなつまらなさそうな顔をして、と若かった私はムカついたの。だから突っかかりに行ったのよね」
ーー貴方ね、東条賢三というのは。
ーー……なんだ?
ーー学内2位の友永芳佳よ!私に勝ったのだからもっと誇らしげにしなさいよ!腹ただしいわね!
ーー俺は最優でなければならない。それだけだ。
ーーはっ、だったら次は蹴落として吠え面かかせてやるから覚悟しなさい!
ーー覚えておこう。
「当然媚びへつらっていた斎藤なんかは東条様に楯突くなんてどうだこうだと煩かったけどお互い無視してたわ」
「まんま鎌倉と坂東だ」
「今の賢ちゃんも斎藤にはそっけないんじゃないの?」
「言われてみればそう……ですね」
「情けなくないんですかねそういうのって」
「さてねぇ」
理恵からもボロクソに言われている。
ーー待ちに待った期末の発表よ、覚悟はいいわね!?
ーー負けるつもりは……む?
ーーど、同点ですって!?
ーーふ、くふふ。
ーー貴方、初めて笑うとこ見たわ。
ーーむ、そうか。
ーーこれからも負けないわよ!
ーー望むところだ。
「そこから何かと私が絡むようになってね。私も今はともかく当時は流派の跡継ぎ候補だったから取り巻きだの何だのが鬱陶しくてね。言ってしまえば、似た者同士だったのよ」
ーーお祖母様も流派の連中も、ほんっとうにムカつくわ!
ーー俺も周囲の手のものにはほとほとうんざりしている。
ーー賢ちゃんはどうして頑張っているの?私は私なりに力をつけて見返してやる、崩してやるって思っているからだけれど。
ーー俺はこの街を託される身で、その覚悟もしている。だが、この街は小さい地方都市でしかない。ニュースにもなっているだろう?小さい街が巨大資本に、過疎に潰されていく話が山程な。
ーーえぇ。着物の流派もこのままだと先細りが見えているもの。他人事ではないわね。
ーー俺はそれを許したくない。この街は力をつけなければならない。だから、率いることになる俺がまず力をつけなければならないと思っている。
ーーふうん。
「お祖父様……」
「この街の行く末を憂う熱き若者、ってやつよね」
「……」
「蒼ちゃん、貴方の言いたいことは分かるわよ?そして、私の記憶と今の賢ちゃんのやり方がズレているのも事実。その後、こういう話をしたの」
ーーこの前の話だけど、私思うのよ。時代の流れって災害のようなものだって。
ーー大人しく受け入れろと?
ーー根本的に向き合い方を変えるべきって話よ。私ね、東京の大学に行って本格的に服飾周りを学んで、新しい道を切り開くつもりよ。
お高くとまってる和服なんて時代遅れ。だったら、時代に合ったソレを模索する必要がある。違うかしら?
ーーそうかもしれんが。
ーー賢ちゃんも、やってくる『これから』に身構えていないで、活用してみたら?東条の街を侵食させないんじゃなくて、東条の街を侵食させるのよ。
ーー!
ーー商店街と巨大施設の食い合わせの悪さとかが過疎化の原因なんでしょう?なら、そこもコントロールしてしまえばいいじゃない。私に成績を勝ち越している貴方に出来ない話ではないと思うけど?
ーーくふふ、そうか、お前を負かすよりは容易に思えてきたな。やってみせようじゃないか。
ーー大学卒業したらこの街で生きるつもりだから。見届けさせてもらわうよ。
ーー期待しているがいいさ。
「そうして私は流派の乗っ取りに、賢ちゃんは全ての掌握のために動き出したのでした、と」
ーー賢ちゃん今大丈夫?
ーー『書斎だ。誰にも入室を許可していない。問題はない』
ーーそう。結婚おめでとう。賢ちゃんのお眼鏡に適う相手がいたなんてね。
ーー『俺もそう思う。お前の方は?』
ーー実はとっくに、よ。
ーー『お前の方こそ基準も厳しいだろうに』
ーー家の持ってきたお見合いは全部蹴ったわ。そして大学時代に合コンで捕まえた男と結婚したわ!
ーー『くふふ、十二分に歴史のある家の令嬢が見合いを蹴った挙げ句合コンか。お前らしい』
ーー一緒に未来を見据えられる相手じゃないと論外だもの。それに、ちゃんと好きあっているのよ?
ーー『それは良かった』
ーー……これから本格的に始まるわね。私達の戦いが。
ーー『あぁ。俺自身に、そしてお前に恥じないように戦い抜くさ』
ーー私もよ。それじゃあ、お互いの戦いに向けて、将来に向けて。
ーー『乾杯』
「そんなこんなでこっそりと付き合いを続けているの」
「なんでそんなコソコソとやるの?」
「お互い身を固めた異性だもの。変に勘繰りされると面倒くさいのよ」
「だからお祖父様も名言は避けていたのですね」
「……それで賢三って男の取った選択肢が東条家の財閥化と東条の街を中心にした全国展開の販路の形成、有力者を東条の街に一旦入れる経営方針だ、と」
「えぇ」
「一旦入れるだけだから余所者。だから迫害の対象。そうやって潰されてきた人達を、家族を私はいくつも知ってる。これも計画のうちだってこと?」
「そんなつもりはなかったんだけどね。私がこの流派を継いでから体制を一新して旧い伝統ばかりに固執する連中を叩き出してカジュアルさに舵を切ったように、東条財閥もそうやって入れた人材を大事にするし悪いようにはさせない方針だったの。
……おかしくなってきたのはこの十年ね。それ以前からもそういう人達には住みづらい環境だったかもしれないけれど」
「……」
この十年程での劇的な変化は何かといえば、エーテルの発見と深海棲艦の出現だ。そしてそれは濁流さんの言う怪異の活発化と合致する。そして、それはーー
「ッ、頭痛?いや、何かーー」
ーーきひひっ、変身しなよ蒼。用意はしたからよ。
「かわ、かぜ……?」
「蒼ちゃん?」
ーー早くしろよすっとろいな。体掌握しちまうぞ?
「出来るのかよ!?いや、不知火さんがてーとくから制御奪ってたりするけど……ええい、変身!」
体が光りに包まれる。感覚が変わる。私は、『駆逐艦娘江風』だ。
「蒼先輩どうしていきなり艦娘に?」
「いや……あ?通信記録(ログ)に……待て待て待て、いつ記録した!?」
ーー他人にも見られるように工夫してやったンだから感謝しろよ?
「出来るならもっと早く言えよ!!」
「あ、蒼さん?」
「……お前の祖父さんがおかしくなった原因かもしれない話があってな。この映像を見てほしい」
いつの間にか習得していた映像記録技術と再生技術で狂咲との会話と映像を皆に見せる。江風の魂視点の情報らしく、目を白黒させている私が映っていた。
「これが、母多神様の……東条家の……」
「蒼先輩こんな事もできるんですね!」
「ぶっちゃけ知らねェ。なんか江風の艦娘の魂が出来るぞって言ってきたからよ……」
「この女性が言っていたことを信じるのであれば、母多神が賢ちゃんを狂わせている、ということね?」
「はい。この十年間で加速的におかしくなったのであれば、世界中で怪異現象が活発化しているのと関連性も見て取れます。今は鎮守府に連絡して解析待ちですけど……この映像も送らないと」
「蒼さん」
「おう、麗華」
「私に出来ることはありませんか?こんなの、こんなのってあんまりすぎます……!」
「それこそ聞いてからだなァ。なにせ、あのクソ怪異はお前を狙っている。何がトリガーになって依り代として適切になるか分からないんだ。強いて言うなら、異能関連で実家から言われてることはしない、ぐらいかな」
「そう……ですの……」
「出来る限り早く調べて共有するよ。約束する」
「お願い、します」
「私も思うところがないどころじゃないけど……まずはご飯にしましょう。温かいものを食べないと出来る考えも出来ないわ」
そうして友永家の「一般庶民の家庭の味」を味わったあとでひとまず解散した。
21:00 東条の街
「ン……?アレは……」
まっすぐ帰ってもやることがないため、食後の運動がてら遠回りで帰路についていた。その中で先日見た影を見た。祖父の最期をサポートしてくれた死神だ。
「やあ、死神さんってどうしたのそのボロボロ具合!?」
「ひぅっ!?あ、あぅ……」
見るからに暴行を受けた痕に霊力的な乱れも見て取れる。余程手酷い目に遭ったと思われる。
「私は敵じゃないから、落ち着いて。大丈夫には見えないけど……何があったの?」
「ひぐっ、ぐすっ、今回の対象の人の周りの人に『視える』人がいて、連れて行くなって殴られて塩を投げられて……痛いよぅ……」
「あぁ……というか塩効くんだ?」
「やっつけようと思ってぶつけられる塩は痛いよぅ……」
「辛かったね、お疲れ様。私の家で休んでいかない?丁度誰も居ないからさ」
「え……」
「あとは持ってるモノで出来るか分からないけど手当ても。じいちゃんの最期をいいものにしてくれたお前さんを悪いままにしておけないからね」
そうして、手を引いて自宅へ連れ帰る。
21:30 立花家
「あー、米炊いてねぇな……準備だけしてっと、死神さん、飯って食える?」
「えっと、必要じゃないけど食べられます……」
「オッケー、んじゃしっかり作らせてもらうよ。苦手なものとかある?」
「いえ、特には……」
「そしたら……うん、これでいいかな。それじゃ炊きあがるまで風呂から済ませようか。ボロボロのドロドロだし、服も洗濯機に入れちゃうよ。体格は……私ので大丈夫そうだね」
むしろ貧困で痩せぎすな少女といった印象である。
「あ、そういえば死神さんって男女どっち?それともそういうのないタイプ?」
「え、一応女で……え?」
「それじゃあ一緒に入ろうか、お・風・呂」
「ひゃわぁ!?」
それから傷だらけの体を慎重に洗い上げてしっかり湯船に浸かる。この手の羞恥心は海が付き纏ってくれたせいでもうなくなっていた。
「ひぐっ、あったかいよぉ……」
「本当によく頑張ったね。お疲れ様」
キシキシと傷んでいた肩にかかる程度の髪の毛も幾分かマシになっていた。そんな髪を労るように頭を撫でる。
「あったかい、あったかい……」
「嫌だったりするか?」
「嬉しい。だけど、死神になって初めてで……もっと前の記憶にもなくて……うえぇ……!」
死神がどういうシステムで生まれるのかは分からないが、かなり辛い環境で頑張ってきたようだった。それでいて連れて行く相手にあそこまで優しくできた彼女に感謝の念が強くなる。
「お前さんが与えてくれた優しさ、ほんの一部だけどお返しさせてね。……逆上せてない?」
「ひっぐ、うぇ……?」
「やっぱり脱水してる!ヒートショック対策しつつ上がるぞー!」
わたわたとしながら入浴を済ませ、手料理を完成させる。
「わ、これ、食べていいんですか?」
「お前さんのために作ったんだ。我が家自慢のオムライス、だよ!」
「はぐ、はぐ。〜〜!」
「瑞鳳の奴が料理にハマる理由、なんか分かったかもしれないなァ」
こちらからは事情などは聞かなかった。彼女が癒やされてくれればそれで良かったし、その上で話すことがあれば聞く体勢になるだけの話だ。
「ぽや、ぽや……」
「そろそろ寝ようか。えーと、客室とか準備できるのかな……」
「あの」
「うん?」
「一緒に寝て……うう、ごめんなさい」
「いいよ?」
「えっ」
「ちょっと2人だと狭いけどそこは勘弁な」
私の部屋の私のベッドに2人で入る。それこそ海が時折一緒に寝たがるので慣れたものだ。
「あったかい……うぐぅ」
「よく頑張ったね。おやすみ」
「おやすみなさ……すぅ……」
「私も寝よう。今日は色々ありすぎたから疲れたよ」
体をハードに使う日々よりももしかしたら疲れたかもしれない。そう思いながら、死神の体温を抱きかかえて感じながら意識を落としていくのだった。