少しファンタシーな鎮守府で   作:朝宮 糸瓜

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 危機感を覚えているのが部外者しかいねぇ回です。


72話 東条異変 承

 22:00 第127鎮守府 情報室

 

 

 「響さん、お疲れ様です。遅くまですいません。……情報はどうですか?」

 「一言で言えば多すぎるね。重要部分が分からない点も多い。でも、早急に纏める必要があると思うよ」

 「やはり、ですか」

 

 梓を迎え入れながらも私は情報端末とにらめっこを続けている。内容は昨日今日と立て続けに江風が送ってきた、異常都市とでも言うべき地方都市東条の抱える多くの内容だ。

 

 「まず怪異・母多神について。『組合』に確認を取ったけど、認知はしているが手を出せない状況にあるそうだよ」

 「狂信者と化した現地住民の抵抗でしたか」

 「それもあるし、今の世の中であの規模の街に隣接する山というより丘。そんなところで大規模作戦を秘密裏に行うことが出来ないこともあるね。閑散とした田舎町あるいは怪異封印地点がずっと山奥ならまだ実行可能性はあるけどね」

 

 人も流通も大きな地方都市のすぐ脇ーー車で30分もかからないだろうーーにある封印地点に対し、大規模行動をすれば衆目を集めるどころではない。大規模行動をすれば不要な騒動を引き起こしてしまうが少数精鋭でことを成すには深刻すぎるという、『詰み』とでも言うべき状況だ。

 

 「それに狭い地域を根城に深く浸透していた怪異なだけあって、外部に情報がほとんどないよ。だから『組合』もアースガイドも要警戒までの対応しかできないんだ」

 「一番協力を仰げるであろう管理者が怪異に精神汚染されていると思しき東条氏でしたか。友永さんの話を聞く限り、私のようなタイプの汚染と考えていいでしょうね」

 「目標は変わらないと本人は認識している上で実際はそれと乖離する精神汚染。ほとほと手を焼くね」

 

 梓も魂がダークファルスに汚染されてから、『大切なマトイには幸せに生きて欲しい』から『幸せの中で死なせてあげることが最上だ』と外から見れば目茶苦茶にも程がある思考の飛び方を無意識にしていたのだ。

 東条氏も同様と見るべきだろうし、汚染源の怪異対策の助力を得るのも難しいと判断すべきところだ。

 

 「その上で怪異はお孫さんを次の依り代として画策している、と」

 「取り入り易かったということは賢三氏は依り代としては弱かったんだろうね。彼をステップにしてより強力でで本来付け入る隙のない有力な素質持ちを狙っていると『組合』も判断したよ」

 「【若人(アプレンティス)】もそうして依り代を乗り換えていました。想像は出来ますね」

 

 梓にとって因縁のダークファルスであり、地球の私達とも交戦した【若人】。かの存在を彷彿とさせる本件は私達にとって他人事ではない。

 

 「となればこれ以上の被害を看過することは出来かねます。ですが……」

 「介入理由に乏しいね」

 

 問題はこれだ。海を防衛する鎮守府組織が陸の問題に介入する大義名分も何もないのだ。『組合』らの組織以上に表立って動くことが出来ない。

 

 「せめて一夜にして解決出来る程度に解析できれば強行するのですが」

 「怪異の街への浸食度合いやどうすれば『適切に』対処出来るのか、当時対処した東条氏ですら把握していないからね」

 

 狂咲とやらの齎したデータからはシンプルに怪異と影響対象の村を結界で分断し、そこを決戦戦力による力づくで討伐するという戦果以上に明らかになるものはなかった。

 その上で当時は小規模な村だから可能な話であり、地方都市まで規模を拡大した現在では同様の手段は取れないだろう。

 

 「交戦する最中から詳細に解析できる存在でも居れば話は変わるけどね」

 「それこそ全知存在や類する者でも必要でしょうね。シャオは……地球がオラクル宇宙と亜空間で遮られている以上、それでも厳しいですね。地球にそういう存在ないしエキスパートがいれば……期待のし過ぎですね」

 「そうでもないかもしれない」

 「と、言いますと?」

 「マザー・クラスタ。彼らは何かしらに特化した、ないし特化する芽のあるメンバーを集めて構成されているエキスパート集団だ。東条の件は今日明日の話ではないし、彼らにコンタクトを取るのも1つだと思うよ」

 「なる程……」

 

 問題を今日明日に解決する必要がない、ということは多少遅れても想定しうる被害も変わりがないということだ。ならば最善を尽くせる状況で挑むのが望ましい。

 

 「もう少し話を纏めたらたらコンタクトを取るつもりだよ」

 「分かりました。裁量は響さんに委ねます」

 「分かったよ。そして次の問題、江風が出会った保護猫の件だけど」

 「既に仮所属として手続き済みです。明日に飼い主が見つかれば解消ですが、そうでない場合は明日正式に認める流れで行きます。そうすれば江風さんも強硬的な手段が取れるでしょうから」

 「よろしく頼むよ。それに関連して、犬や猫の惨殺及び江風への殺人未遂やその他子供を狙った犯行計画を企てていた凶悪犯、鎖鎌についてだ」

 「私はこちらの法律に詳しいわけではありませんが……釈放は早いのでは?という認識です」

 「異常なまでに早いね。まずが犯行が明らかになった時の騒動から振り返ろう」

 

 江風の住んでいる東条では犯罪報道として大きく取り上げられなかったらしいが、その他の地域での反響は凄まじかったのだ。

 私達の間でも、怒ってもやんわり怒気を込めて嗜める程度で済ませていた龍田ーー実は旧127では一番の猫好きだーーが珍しく口悪く罵りが止まらなくなり、軽い騒動にもなっていた。

 

 「犬猫の殺害は最大でも求刑は5年。裁判を経てだから逮捕時から見れば実際は6年とかになるね。日本の法的及び倫理観的にも減刑はあり得ないレベルだよ。

 更には一般児童であった江風への拉致殺人未遂に、今後街の外の児童をターゲットに犯行の拡大計画をしていた計画性に凶悪性。こっち方面だけでも懲役5年以上や最大で死刑も見えるラインなんだ。

 私は法律は専門外だからこれ以上は分からないけど、少なくとも現時点で釈放は『あり得ない』と断言していいだろうね」

 「異常性が凄まじいですね」

 「更に当時話題になった異常性がある。地元住民、つまり東条の住民から捜査や裁判への不当性を訴える運動が発生したんだ」

 「減刑を、ということですか?」

 「それどころか無罪主張だったんだ。この程度のことで犯罪扱いはおかしい、とね」

 「そんなものが、通るわけが……」

 「誰もがそう思ったよ。だけどそれを通そうとした人達が居た。東条出身の警察、検察、裁判官や弁護士だ。警察に至っては手違いという体で証拠を隠滅した程だよ。

 鎖鎌の逮捕と江風の保護に動いた本庁の刑事、彼は東条近隣の市街でも犬猫の行方不明事件が多発していて調査に来ていた人なんだけど、まあ当然怒ってね。異例となる東条関係者を纏めて追い出しての裁判を行ったんだ」

 「追い出せただけ僥倖というわけですね」

 「そうだね。そうして泣き寝入りにさせられていた東条住民による犯罪の洗い直しとかも始まったり、その本庁の刑事を軸として東条警察の監視も行うようになったそうだよ」

 「警察組織として最早崩壊していますね」

 「それも街全体を覆う精神汚染の類としてみれば納得だね。ちなみに江風が中学2年生の時に遭遇した連れ去り事件も東条住民による街の外から転勤で来た一家の子供を狙った事件で、鎖鎌の一件で江風がその刑事の連絡先を知っていたからこそ機転を効かせて何とかなったみたいだ」

 「コミュニティ外に厳しく当たるどころか加害しても構わない、と」

 「この事件も東条人が関わった事件で取り扱ったのも東条人の警察組織だったから、かなり減刑されていたようだね。彼が関わらなければ無罪放免もあったと思うよ」

 「怪異による精神汚染が原因だとしても許されるものではありませんし、周囲から不倶戴天の敵として見られるのも当然ですね」

 「そうだね。それと鎖鎌については続きがあってね」

 

 ある意味ここが悩みどころの中心かもしれない。

 

 「最終的に無期懲役になった鎖鎌を釈放させようと働きかけた団体があるんだ。東条青年団。要は東条住民の自治体組織だね」

 「そして警察関係の東条住民も手伝ったお陰で現在大手を振って外を出歩いている、と」

 「うん。この青年団だけど、規模がまあ凄まじく大きいね。翻ってここまで大規模に動く人員が揃って問題視されない程に東条の精神汚染は深刻だと言えるね」

 「早急に根幹たる怪異を排除して……どうにかなるものですかね」

 「『組合』もそこがもう保証できない域だと判断しているね。だからこそ今日明日で焦って動いても意味がないんだ。もう手遅れな人が多くいると言えるね」

 「さりとて犯罪を起こしていない他の住民ごと対処する訳にも行きませんね。なる程、『詰み』ですか」

 「この状況打破について1つ提案があるんだけど聞いてくれるかな」

 「えぇ」

 「従来の組織や異能者ではこの東条という街を抱えた母多神の対処は厳しい。だけど、在野にならどうだろうかと思ってね」

 「東条における江風さんのようなイレギュラーな存在を探すということですか?」

 「アテはある。さっき述べたマザー・クラスタだよ」

 「……確かに、彼らは本来埋もれてしまう得難い人材の発掘と相互支援を行っている組織です。ならば可能性はあるか……」

 「表とは言い切れないけど社会に根ざした『組合』やアースガイドと違って完全にアングラ組織で確証もないけど、私達はこの1年で彼らとは少なくない交流を経ている。試してみるのもいいと思うんだ」

 「そうですね。僅かな可能性も余さず拾い尽くさなければいけません。私はその判断を支持します」

 「それでなんだけどね、マザー・クラスタと接触するつもりなんだけど、そこからを私に一任してもらえないかい?」

 「私が関わることなく、と?」

 「推測の域だけど梓をどこか警戒しているようでね。その理由も推測しているけどあえて触れないでおきたい。……それでも任せてもらえるかな?」

 「お任せします。ただ、ただでさえ負担の大きい響さんに更に背負わせるのは申し訳なく思いますが……」

 「専属サポートが欲しいのはその通りだけど、構わない。情報源で負けて悔しさを覚えるより情報の海で戦い続けるほうがずっといいよ。強いて言うなら、暁と休みを同じ日にしてくれると嬉しいな」

 「それこそいくらでも。必要になったら私の名前も体もいつでも使ってください。そのために私は基地司令の立場にいるんですからね」

 「頼りにさせてもらうよ、私達の梓」

 

 過労を心配してくれるのも信頼を寄せてくれるのも嬉しいが、それはこちらも同様なのだ。だからこそ、『この程度の逆境』は力を借りてでも私達の手で踏み越えなければならない、と思っている。

 

 

 翌日 06:00 立花家

 

 

 「……朝、か。結構寝たな」

 「すや……」

 「よく寝てるね。私はひとっ走りしてくるから……メモ残しておかなくちゃね?」

 

 死神を起こさないようにベッドを抜け出して準備をする。今日も麗華が外にいれば話をしようと思っているのだ。

 その後は朝食を死神ととってゆっくりしたり風景撮影の続きやミッケの処遇の確認をしようかと思っている。

 

 「しっかし、死神さんほんと痩せ細ってるな……抱きしめると折れないか不安になるって実物に会ったのは初めてだよ」

 

 死神界隈の事情はどうなっているのか。

 

 「濁流さんならその辺にもコネクションあったりして……まあ後だ後」

 

 改めて意識して自宅から狂咲の神社を迂回して東条家へ向かうと空気の粘つき度合いが違うことを実感する。自宅がマシな立地にあって本当に良かったと思いながら走り続け、東条家の前に到着した。

 

 「麗華は……いやなんであいつらがいるンだよ」

 

 昨日麗華が居た敷地の手前には取り巻きである鎌倉と坂東が居た。……半分寝かけているが何をしているのか。

 

 「んぐ……あ!やっぱり来たわね立花!」

 「え……あ、本当……じゃなくてなんでこんな時間に動いてるの!?」

 「叫ぶな近所迷惑だボケ。こちとら軍属で普段5時起きなんだよ」

 「ご、ごじ……」

 「人間辞めてる……」

 「人のハードル低いな!?」

 

 まあ朝は限界まで寝ていたいような連中にとって目を剥くような話ではある。

 

 「で、お前達が早起きしてこんな時間にここにいるってことは、麗華は外出禁止でも食らったのか?」

 「なんでアンタが呼び捨てなのよ!」

 「私が様でも付けたら気持ち悪いだろうが」

 「それはそう」

 「……で、どうなのさ」

 「立花の言う通りよ。昨日立花が色々やらかしたせいで麗華様は斎藤様に学校と習い事以外で外に出ないようにと言われるたの。私達は立花が乗り込んでこないように見張りをしていたのよ」

 「よりにもよってなんでこんな朝早くに……ふわぁ」

 「……斎藤サマ、ねェ。つっても昨日麗華を連れて行ったのは今のご当主様の親友の家だぞ?ご当主様本人もその意見か?」

 「斎藤様が言うなら当主様も同じ意見に決まってるじゃない!」

 「私達なんて当主様に滅多にお目にかかれないんだから!」

 「ふぅん。じゃああくまでも『斎藤サマからの言葉』で動いてて東条賢三本人の言葉で動いていてねェンだな」

 「それはーー」

 「同じ人間じゃないンだ、どこかで絶対に意見は食い違う。その時にお前達はその斎藤サマと麗華、どっちの味方をするンだ?」

 「「……」」

 「別にお前達がどっちを選ぼうが選ばなからろうがどっちでもいいよ。けどな、麗華を泣かせることしてみろ。絶対に私はお前達を許さない」

 「そんなの、麗華様に決まっているでしょう!?全部麗華様のためにーー」

 「本当に本人が望んでいるのか?麗華が『私の言いたいことを言ってくださってありがとう』とでも言ってくれたことが一度でもあったか?」

 「うぐ……」

 「じゃあ、私達はどうすればいいっていうのよ!」

 「麗華本人に聞けよ!今一番麗華の近くに居られるのはお前達だろう!?察している察していないじゃなくてちゃんと言葉にしろ!」

 「……」

 「そんな恐れ多いことっ」

 「恐れ多いだァ!?そうやって麗華の言葉を、意思を奪いたいのかよ!」

 「そんな訳ないでしょ!?」

 「お前達がやってることはそういうことなんだよ。……ちゃんと確かめて、選べよ。選ばないと後悔することだけは何を賭けてもいい、保証してやる」

 「それで、私達が間違っていたらどうしろと!?」

 「まひる!?」

 「すみれ、私、立花の言葉が否定できない……だって、いつも麗華様、困った顔をして……でも、だったら……」

 「鎌倉まひるに坂東すみれ。お前達がこれまで間違っていようが正しかろうが大した問題じゃないよ。自分にそこまでの価値が、意味があったとでも思っているのか?たかだか高1のクソガキ2人が?思い上がってンじゃねェ」

 「っ……!」

 「逆に言えば『これからいくらでも軌道修正出来る』って話だよ。麗華とサシで話をしても、お前達のことは嫌っていなかった。それだけは伝えてやる」

 「麗華、様」

 「だからこれから調べて、知って、選べ。私から言えるのはそれだけだ。あぁ、麗華によろしく伝えておいてくれよ。じゃあな」

 

 一方的に言い切って踵を返す。麗華は2人が迷惑なことに気づいても見放したくはない様子だった。ならば私がかけるべき言葉はこういうものだろう。私は彼女らのことが嫌いだが、わざわざ友人の麗華が悲しむ方向に話を持っていく方が嫌だった。

 

 

 06:45 東条の街

 

 

 「……アイツは……!」

 

 帰路につく中で、吐き気を伴う非常に強い悪寒がした。それを確かめるように走っていると、鎖鎌が居た。見間違いではない。見間違うはずがない。見つからないように物陰から様子を窺う。

 

 (何だアイツ、こんな時間から徘徊?いや、何かを探している……?)

 

 「フフフ……中々見つからないね」

 

 恍惚とした表情で残念そうな言葉を吐き出す。気持ち悪いというより生理的に無理だと思う。そう思っていると鎖鎌から妙な気配がした。

 

 (……今、何か怪異的な気配がーー)

 「コソコソ何をしているんだい?久しぶりの再会だというのに。立花蒼」

 「ッ!?」

 

 視界に入っていないはずなのに気付かれた。そして、私を名前込みで認識している。おそらく、気付いたのは鎖鎌本人ではなくーー

 

 「テメェ、何を連れて、何してやがる」

 「君には関係ないよね」

 「私人通報って知ってるか?あの当時の刑事さんとは縁が続いてるンだよ」

 「フフフ、『この街で犯罪になること』なんてしていないよ」

 「……」

 

 嘘だ。いや、あるいは言葉通り、『この東条という異常都市では許される犯罪行為』だと直感する。

 

 「下手なことしてみやがれ。もう無力なあの時の私じゃない、もう、負けない」

 「フフフ、怖いね」

 

 余裕の笑みを崩さない鎖鎌に本能やトラウマの記憶が悲鳴を上げるが、それを必死に抑える。

 

 「意地を張って産まれたての子鹿のように震えていないで、帰ったらどうだい?」

 

 そんな言葉に怯えるか、と口に出そうとしたら頭に声が響いた。江風だ。

 

 『ピンチも苦境も乗り越えてきた江風らしくないしオメーは私をやった電探攻撃の類を最大限使ってンだろ?その程度でビビってンじゃねーよ。きひひっ』

 「あぁ。それでも進む。斬り拓く。それが、私だ!ふざけたこと企んでるならその薄汚い気配と一緒に首を洗ってやがれ!」

 「汚い気配、だって?」

 「ア?」

 「このお力を汚いとはやはり君は……フフフ……フフフフフフ……!!」

 (何かの琴線に触れた?)

 「覚悟しておくのは君の方だよ、フフフ……」

 

 私の『薄汚い』という言葉に明確に不快感を示して鎖鎌は去っていった。

 

 「江風、記録したな?」

 『きひひっ、トーゼン!』

 「確かめないとね。思ったより厄介かもしれない」

 

 そうこぼしつつ帰宅した。




 まだ取り返しが付く人もいればつかない人もいます。
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