少しファンタシーな鎮守府で   作:朝宮 糸瓜

77 / 120
 心優しく儚い系な死神の彼女が本作江風の性癖の様子。
 今回のエネミーはブリュー・リンガーダ(PSO2)の骨格のようなモノとイメージしていただければ。骨格だけですが。


74話 逢魔が時に狂い咲け

 翌日 07:30 立花家

 

 

 「ごちそうさまでした!」

 「あいよ。やっぱ食わせがいがあるなぁ」

 

 死神との朝食を終える。今日は智也叔父さんにカメラを渡し、死神を両親に紹介して、ミッケを引き取って鎮守府に帰る日である。

 智也叔父さんが駅に到着するのが12:00で両親が帰宅できるのが昼過ぎと聞いている。智也叔父さんが到着するまでにお通夜も告別式も終わらせてしまう算段なのだそうだ。告別式は今日の午前中の予定である。

 

 「蒼さん、今日はどうするんですか?」

 「とりあえず……ショッピング、行こうか」

 

 昨日、術具機能時に死神が写真に写ることを確認してから羽黒に案を依頼していたのだ。結果、起床するまでにいくつか案が飛んできている。羽黒は寝ていないのだろうか?

 

 「昨日もお洋服選んでもらったのに!?」

 「足りない足りないぜんっぜん足りない!まあ他の用事もあるから軽く行くことしか出来ないけどさ」

 

 0からスタートなのだ。いくら買っても足りないに決まっている。

 

 「私、お礼なんて出来ないですよ」

 「私がお礼してるしもう趣味の領域入ってるし気にしなくていいよ」

 

 認めよう。どうやら私はこういうタイプの子が好みらしい。

 そうしてわちゃわちゃとショッピングをしてーー本当に私が選んだものより提示されたものが似合っていて羽黒に嫉妬を覚えるーー昼食を取り、智也叔父さんと合流する時間になった。

 

 

 12:00 東条の駅前

 

 

 「蒼!大きくなったな!それと目印に、と言っていたその子は一体……?」

 「可愛いでしょ?全部説明するよ」

 「はわわ……」

 

 死神のこと、祖父の最期、そして遺品のカメラについてすべて話した。遺言メッセージも当然見せた。

 

 「信じ難いが……艦娘や深海棲艦がいる世界だものな。それに証拠もあって信じないわけにもいかないな。死神さん、父をありがとう。本当に、ありがとう」

 「ひゃ、ひゃい……」

 「それで依頼のカメラがコレ。見覚えはあるでしょ?」

 「あぁ。懐かしいな……」

 「それで長崎でもなんでもこの街以外の風景を収めて欲しい。それがじいちゃんの願いだからさ」

 「あぁ。その前に蒼に死神さん、君達を写真に収めていいか?……死神さんは写真に写るのか?」

 「視えるし写れるようなアイテム持たせてるから大丈夫だよ。どうせなら智也叔父さんも一緒に写ろう?」

 「自撮りは角度が難しいからまず2人からやるぞ」

 「私もなのは決定なんですか!?」

 「「勿論」」

 

 じいちゃん曰く、私と智也叔父さんは性格などが似通っているそうだ。

 そうしていくつか写真を撮って一息ついて。

 

 「蒼、ありがとう。大事にするよ」

 「うん。……話は逸れるんだけど、この街で信仰されてる母多神様って知ってる?」

 「いや、あまり分からないな……この十年ぐらい活発に信者が動いているという話は聞いたことがあるが、俺はそもそも十年以上前にこの街を出たからな」

 「そっか」

 「何かあったのか?」

 「もしかすると、深海棲艦が出現した直後の海と同じかそれ以上の大事になるかもしれない。もし私が母さんや父さんを避難させたとして、その時は手伝ってもらえる?」

 「冗談じゃあ……ないんだろうな。分かった。深くは聞かないが備えはしておこう」

 「ありがとう。そうさせる気はないけどね」

 「あんまり背負いすぎるなよ、蒼」

 「うん」

 

 智也叔父さんも用事があるようで、それからすぐに取って返して街を離れて行った。

 

 「じゃあ次は帰って来るまで自宅待機だねぇ」

 (そわそわ)

 

 死神もだんだん前向きになっているようで良かった。

 

 

 14:00 立花家

 

 

 昼食をとってしばらく。両親が帰ってきた。

 

 「おかえり。無事に終わった?」

 「ただいま蒼。まあ一区切りね」

 「相続問題も遺言書が詳細に書いてあるから今後も落ち着いてやれそうだ」

 「蒼は兄さんに渡せたの?」

 「うん。しっかりと渡せたよ。智也叔父さんは忙しいみたいでもう街を離れたけど」

 「たまには挨拶でもしたいんだがな」

 「私達が会いたがっても、よねぇ」

 「それとさ、1つ相談があるんだけどいいかな」

 「「?」」

 「術具起動。死神さん、おいで」

 (おずおずと視界に入る)

 「この子は?」

 「じいちゃんの最期を助けてくれた死神さん、で分かる?」

 「あら!」

 「こんなに若い子だったのか……!」

 

 パッと見た限り両親ともに嫌悪感を本能的に覚えている様子でもないようだ。

 

 「仕事先の関係で本来視えない幽霊とかを視えるようにする術具ってのを使って視えるようにしたんだ。今着てる服は私が着せた。仕事着がボロ布で痛々しくてね」

 「そうなの……ちゃんと食べてるの?」

 「あちこちに痣も見えるな」

 「この街の担当でなまじ見えるやつにはボロボロにされるわ上司がクソで支給も転属もダメで心身共にズタボロで見てられなくてさ。この3日間2人が留守の間にうちに上げて食べさせてお洒落させてをしていたンだ」

 「そうなの……大変だったわね、よしよし」

 「わひゃう」

 「相談というのはこの子についてか?」

 「うん。私が東京に帰ってから、この子をウチに居候させてやってくれない?食費とか諸々出すからさ」

 「蒼さん、私、一応ご飯食べなくても……」

 「ご飯食べて涙ポロポロこぼすようなヒトに絶食させる趣味ないからね」

 「そうね……蒼、この死神さんはいくつぐらいの年齢なの?それとお名前は?」

 「不明だね。多分見た目通りの年齢で死んだヒトの霊が死神業やらされてて、精神年齢もソレに準じているってところ。

 その上でヒト時代の死因が衰弱死っぽいのに無理してまでこれから死ぬ人が心残りのないようにって頑張れる優しい子だよ」

 「ねえ、貴方」

 「断る理由もないな。蒼がいなくなって寂しかったのもあるからな」

 「歓迎するわ。でも、名前が欲しいわね……」

 「ええと、そのことなんだけど」

 

 濁流さんに言われた命名事情について話をする。

 

 「道理で蒼が死神さん、で通してきた訳だ」

 「でもそうねぇ、責任を負えばいいんでしょう?」

 「あ、やっぱりそう思う?」

 「その上でしっかり決めたいわね……時間を頂戴。貴方、会議よ!」

 「二人目の子というわけだな。しっかり考えないとな……」

 「え、ええと……」

 「クク……あははっ!」

 

 堪えきれずに笑ってしまう。

 

 「どうしたの蒼」

 「いや、やっぱ私って2人の子供なんだなって思ってさ」

 「友好的な深海棲艦やらを次々に引き込んでいるという話だったな。よくやったと思っているよ」

 「だから死神さんのことは安心しなさい」

 「うん、ありがとう」

 

 両親がこの2人で良かった、と心底思うのだった。

 

 「ところで蒼、この後の予定は?」

 「帰るにしても見送りたいしなぁ」

 「うん、16:00に廃神社で飼われてる保護猫を回収して鎮守府に帰るつもり。鎮守府にはOK貰ってるし、ウチの鎮守府猫たくさんいるって話もしたでしょ?」

 「ついて行ってもいいかしら?」

 「いいけど……どうして?」

 「娘の活躍を少しでも見たいという親心だよ」

 「いいけど……父さんは猫アレルギー気を付けてね」

 「あぁ」

 「それまで色々と話をしましょう。この数日何をしていたの?死神さん含めて、ね」

 

 そうして時間までこの数日の出来事について話をした。振り返ってみるとだいぶ濃い日程である。

 

 

 15:50 立花家

 

 

 「ンじゃそろそろ神社に向かうよ」

 「あぁ、出かけよう」

 「死神さんも来る?」

 「はい!」

 「じゃあーーッ!?」

 

 術具が警報を鳴らす。これはヒロとカオリに渡した術具からの警報だ。直後、カオリから連絡が入る。

 

 『蒼お姉ちゃん、蒼お姉ちゃん!』

 「どうしたカオリ!」

 『保健所の人が変な人と追いかけてくるの……!』

 「今どこに……いや、神社に逃げ込めるか!?ヒロは!?」

 『う、うん!すぐ近くだから……ヒロ、神社に……!』

 『でもあっちだと……!』

 「ヒロ、聞こえるか!?私が駆けつける!そうしたら大丈夫だ、いいな!通信はこのままにしておけ!」

 『うん!』

 

 最後の最後で保健所と……おそらく鎖鎌が勘付いたらしい。

 

 「蒼、今のは……」

 「先に走って神社に行くから、後から追いかけてきて。私ってどうもあの保健所と相性が悪いみたいだ……!」

 「気を付けろよ、俺達もすぐに追いかける」

 「うん、先に行ってる!それと、こちら江風ーー」

 

 そうして走り出した。

 

 

 16:00 廃神社

 

 

 「階段下についたが……あれは!」

 

 階段の上、鳥居の前でヒロを掴み上げる保健所の所長ーーミケの件で顔を覚えていたーーとその横にいる鎖鎌を発見した。

 

 「離せ!離せよ!」

 「煩いガキめ、大人の邪魔をするんじゃない!」

 「フフフ……その奥にいるんだろう、猫が……」

 「そこまでだクソ野郎共」

 「!?」

 「フフフフフフ……」

 

 一気に階段を駆け上がり対峙する。

 

 「お前は?子供がまた出しゃばるんじゃーー」

 「私は国連軍事組織『大本営』日本支部、第127鎮守府所属の立花蒼だ。大方貴様らの目的は神社にいる猫の確保だろうが、昨日付で当鎮守府の所属が正式に決定している。保健所の出る幕はない、子供を解放して失せろ」

 「なっ!?」

 

 識別表を見せながら名乗りを上げる。

 

 「聞こえなかったか?直ちにその子を放せ。ここに野良猫はいないしお前達が子供に暴力を振るう大義名分もない。それでも暴力行為を辞めない場合はこちらも武力行使を辞さない」

 

 「海の連中が、なんでこんなところにーー」

 「放せっつってンだろうがァ!!」

 「ぬわっ!?」

 

 ヒロを掴んでいる腕にめがけてサマーソルトを当てるフリをする。保健所所長は驚いてヒロを手放した。

 

 「ヒロ、ヒロ!」

 「いってて……大丈夫だ、カオリ!」

 「フフフ、何をしているんだい所長さん。……また会ったねぇ、立花蒼。邪魔をしないで欲しいなぁ」

 「当鎮守府は所属構成員及びその縁者に手を出すやつを許さない。お前達が狙っている猫も、それを保護していた子供達も護るべき対象だ」

 「この街の組織でもない連中がーー」

 「何をやっているんだお前達!」

 「ッ!」

 

 追いついた父さん達が階段を駆け上がって来た。

 

 「アンタ保健所の、役人だろう!?子供を吊り上げて何をしようとしているんだ!」

 「警察に通報するわよ!……あら?」

 

 私を庇うように出てきた父さんが言い放ち、母さんが警察に通報しようとしたが様子がおかしい。

 

 「圏外!?どうして……」

 「フフフフフフ。今は黄昏時……あのお方の領域だからさ!」

 

 そう鎖鎌が叫ぶのと同時に、周囲が異常な朱に染まる。同時に空気が酷く粘ついた厭なモノになる。ーー怪異だ。

 

 「父さん達も神社の中に、早く!コレは異常だよ!具現武装!ツインダガー!」

 「フフフフフフフフフ……そんな玩具で何になると言うんだい……!これが、あのお方からの恩恵!さあ全員僕が贄にしてあげるよ……!」

 

 そう言うと鎖鎌の体が変化する。体が盛り上がり、肉が服を突き破り膨張する。膿のような肉塊へと体を変化させていく。ヒトの形を失っていく。

 最終的に体長3メートル、ケンタウロスのような腕が1対で足が2対、更には肉塊で出来た翼を生やした怪物に変容し、頭部に恍惚とした表情の鎖鎌の顔が残るのみとなっていた。

 

 「ンだよ、それは……!それが母多神の力だって言うのかよ!」

 「知っているんだねぇ。フフフ……僕が、僕こそが眷属筆頭に相応しい!さあ母多神様、僕の活躍をご照覧あれ!!」

 

 涎を撒き散らしながら酔ったように叫ぶ鎖鎌。そして鎖鎌の周囲にいつの間にか肉塊がーー狂咲の記憶で見た母多神の眷属ーー複数出現していた。

 

 「さあ、1人も逃さな……うん?」

 「ぐじゅ……」

 

 肉塊が鳥居をくぐるのを拒んでいる。

 

 「フフフフフフ、この神社はなんなんだい?」

 『完全に眷属に堕ちた奴を見るのは何時ぶりかしら』

 「……狂咲?」

 『母多にとっての天敵である私の領域に奴ら眷属の雑魚どもは入りたがらない。だけどあの男までの規模の眷属は話が別よ』

 「鎖鎌は止めないとか!」

 『それに数が多すぎれば強行突破もあり得るわ。母多は数で攻めるの。体を貸しなさい、コレは私の戦いなの』

 「私の戦いでもあるンだ。逆に力を貸せ。それに、数は問題ないよ」

 「鎖鎌さんに負けてはいられない、私もっ!?」

 「私は1人じゃないから」

 

 私が言うのと同時に眷属化しようとした保健所所長が殴り倒され意識を失う。殴り倒したのはーー

 

 「第127鎮守府基地司令、福山梓現着。状況は大方把握しています」

 「てーとく!」

 「鎖鎌と言ったか。私達第127鎮守府は身内の犠牲を容認しない。このようなハリボテの結界を張ったところで無駄だ」

 「フフフ、結界を破られた……?でも1人じゃあ」

 「江風さんどうしますか?アレは貴方のトラウマ対象だと聞いています。一切合切私が斬り捨てても構いませんが」

 「な……」

 「てーとく、我儘いいかな。鎖鎌は私がやる。他の雑魚は基本結界を越えられないけど数が増えすぎると越えられるから、てーとくはそっちを任せていい?」

 「壁を越えますか、分かりました。防衛戦には一家言ありますので。では、江風さん」

 「うん!」

 「「変身!」」

 「第127鎮守府基地司令及び駆逐艦不知火!肉塊風情が越えられると思うな!」

 「同じく127鎮守府所属『迷い猫(ストレイ・キャット)』江風!ここまでだ鎖鎌ァ!」

 「斬り拓け、コートエッジ!不知火、火器管制はお任せします!私は斬ります!」

 『不知火に落ち度はありません。全て叩き落とします』

 「具現武装、江風改二!各オプションパーツ起動!江風、全部出せよ!」

 『きっひひひ!こうでなくちゃなァ!』

 『なら私も乗ろうかしら。大口を叩いたのだから扱ってみせなさい、お嬢さん?』

 「あァ、行くぜェ!」

 

 

 梓視点

 

 

 「『スライドエンド』!『ギルティブレイク』!」

 『対空機銃全砲門開け!』

 「ぐじゅっ!?」

 「じゅーー」

 

 現在の状況はこうだ。神社の敷地内に鎮守府に迎え入れる猫のミッケさん、保護していた少年少女、そして江風さんの両親がいる。

 神社は鳥居を境界に怪異から隔てられていて、それを突破せんと大小様々な肉塊が突撃をかけていて、私はそれを迎撃している。保健所所長は気絶しているので付近に殴ったまま転がしている。

 少し離れたところで江風さんと鎖鎌だったモノが対峙している。

 

 「50!ふん、母多神とやらは随分と本作戦に戦力を投じているようですが……!」

 『鎖鎌という男は自称眷属筆頭でしたか。であればそれを投入する以上、今まで以上の結果を求めていると考えてもいいでしょうね』

 「であればこそ、完封してしまえば損失も大きく次の作戦を躊躇するでしょうね」

 『今までが小動物の殺害や腐敗した食用肉の献上。今回は小動物のミケさんだけでなく保護者の子供達も狙いの内であったと考えても良さそうですね』

 「人とそれ以外の怪異にとっての栄養価は大きく違うと聞きます。それにタブー化されていたであろう地元民への手出し……成功すれば大きくどのような計画であれ前進するでしょう。更にはこの神社の制圧も狙っていたのかもしれません」

 『精神汚染を広く深く行える中でこの神社の影に位置するだけでそれが行えない。非常に厄介な存在だと認識していると思っていいでしょうね』

 「だからこそ、防ぐ意義がある!」

 『この街の崩壊へのタイムリミットにも影響するでしょう』

 「80!さあ、全てつぎ込むがいい!」

 『私達はその尽くを打ち破る!』

 

 要は【若人(アプレンティス)】の電さんや和泉リナさんを狙ったときのような状況なのだ。しっかり防ぐ必要がある。

 そうして夥しい数の眷属を斬り捨てる。私を無視して空から結界に齧りつこうとする連中は不知火が対空機銃を回しているので防げている。このマルチタスクが素体(ベース)と艦娘の魂が明確に別れている私と不知火の唯一無二の強みだ。

 そう思いながら江風さんの方へ意識を向ける。

 

 「あの鎖鎌という男……実践経験はさしてありませんね」

 『異形という特異性を活かせていませんね。鎌のような腕にどこからでも伸びる太く勢いのある触手に馬を超える4足の巨体。どれも命中すれば致命傷でしょうが』

 「当たらなければ意味はありませんし、ただ振るえるだけの存在に負けるほど江風さんは弱くありません」

 

 江風さんが戦い切るまで当初の予定通り捌けばいい、と意識を目の前に戻した。

 

 

 江風視点

 

 

 てーとくがこちらへの意識を逸らしたのを感じた。それはこのまま任せて良さそうだという信頼であり、私の戦意を漲らせる。

 

 『きひひっ単純だなァ!』

 「部下ってのはこれぐらいのが丁度いいだろうがよ!」

 『それもそうだ!』

 『母多相手に上向きな気持ちで戦い続けられるのね。いい傾向よ』

 「ハッ、そうかよ!」

 「フフフ、誰と話しているのか知らないけど、僕に攻撃は届いていないよ」

 「うっせェ!」

 

 実際問題、鎖鎌の体表は硬く反撃で差し込んでいる斬撃も砲撃もあまり効果が出ていなかった。逆に鎖鎌が攻撃のために生やして伸ばしてくる触手を斬り落とすのは容易なのだが。

 

 『攻撃が届いていないというのは嘘ね。斬り落とされた肉塊が腐食の池になっているもの。アレは撃破された証拠よ』

 「逆にこっちが追い詰められている感じはあるけど……まあ最終的にどこを撃てばいいのかは分かってる」

 

 ほぼ全身が異形の肉塊になっているが頭頂部が穴になっていて、そこから顔が覗いているのだ。おそらくその顔面に叩き込めば致命打になるのだろうが、今の所ガードが硬く狙っていけない状況だ。

 

 「それにしても、『この肉塊は何で出来ている』ンだ?」

 『え?』

 「蒼さん!」

 「ッ、死神さん!?」

 「その人、たくさんの霊を、犬や猫の霊を体にびっしりと括り付けています!怖い……怖い……!」

 「……そうか」

 

 死神の声で状況を理解した。怪異化した鎖鎌は『鎖鎌という人物が怪異化しただけのもの』ではないのだ。母多神の力で今までアレが手にかけてきた命を体に纏うことで外骨格のようなものにしているため、そのダメージが鎖鎌本体に通らないというカラクリなのだ。

 

 「テメェは……命を何だと思ってンだクソ野郎!」

 「当然、僕の道具だよ?それをあのお方は認めてくださっている!あーだむが認めなくてもあのお方、僕達の母多神様は正しいんだ!」

 「こんの……うん?」

 

 突然出てきた外国の名前ーーアダム?ーーに違和感を覚える。この街の怪異に異国人の介在する余地はなさそうだが。

 ……どうせなら。

 

 「ハッ、そのあーだむとかいう上位存在に認められないようなクズが正しいだって?」

 「アレは上位存在などではない!新たな優秀な人類をとか言っている癖にあのお方のことを認めないような奴が!」

 「……大した虚栄心だなァ、直接母多神は駄目だとでも言われたのがそんなに堪えたかァ?」

 「言いがかりは止めるんだ!本人じゃなくてはーばーとを寄越して伝えるような臆病者に!!」

 「ハーバート、か」

 

 電の両親の断末魔に上げた名前がハーバーなんとかであったことを思い出す。つまり、母多の復活、あるいは人々の眷属化にも第二技研の連中に関わっていた『黒幕』が関与していて、ハーバートとはその伝達役であることが伺える。

 

 「だから示してやる!フフフ、お前を、お前を倒して吸収することでぇ!!」

 「やれるモンなら……!」

 

 鎖鎌の攻撃が激しくなる。先程のやり取りで機嫌を損ねたようだ。それ程までに彼の、あるいは信者の母多への信仰と信頼は篤く揺るぎないものなのだろう。

 

 「こういう時こそ落ち着いてカウンター……!」

 「このっ、このっ!フフフフフフ、いつまで、保つかな……!」

 「テメェの母多神サマの加護が切れるまで、かなァ!」

 「貴様ぁ!!」

 

 感情的になるからこそ動きは大ぶりで強力になり、隙も大きくなる。ならばそれに合わせて狩ればいい。てーとくの迎撃戦術の基本だ。そしてアークスの対大型の基本戦術と言えば、部位破壊だ。

 

 「試してみるか……!江風、出力上げろ!仕掛ける!」

 『きひひっ、負担に悲鳴上げるなよ!』

 『なら……力をあげる。負担は引き受ける。やってみせて』

 「おうよ!」

 

 濁流さんの言う『ゾーン』に入る。感覚が引き伸ばされるような意識の中で怪異に対する知覚も鋭敏になる。鎖鎌が纏う魂の鎧の隙間が『視える』。

 

 「次を切り裂いて……そのままァ!」

 「ぐっ、僕の手は通らな……がぁっ!?」

 

 一直線に伸びてきた触手に刃を重ねてそれを斬り裂きながら前進し、鎌のようになっている右腕に斬りかかる。狙いは本来なら肘であろう関節部だ。

 

 「手応えアリ、ならさァ!」

 「ぐっ、このっ!」

 

 迎撃、斬撃、砲撃、迎撃、斬撃、砲撃、迎撃、斬撃、砲撃。

 集中力が本来なら切れそうな立ち回りを続ける。そして。

 

 「あがっ……!」

 「まずは一本。そしてアークスの基本戦術その2ィ!」

 「ぐっ!?」

 

 部位破壊をした場所は弱点になる。その部位を修復しようとするタイプであれば更に攻撃を加えることでより消耗させられるし、単純に傷口としても狙い目である。

 そしてアークスはーー特に対大型においてはーーこの部位破壊と生じた弱点を集中的に狙って崩していくのが基本の共通戦術である。無論てーとくも例に漏れず、敵の攻撃に剣を合わせてそのまま弱点ないし弱点足りうる部位まで薙ぎ払うのだ。

 そしててーとくの指揮下で訓練し戦っている私達127の面々もそういった前提があるため、ウィークポイントを執拗に狙う戦術を取る連中という目で他所の鎮守府から見られている。

 

 「装甲の硬さに胡座かいてたツケを払いな!二本目!」

 「ぐうっ!フフフフフフ、おのれ、おのれおのれおのれぇッ!」

 (想定通り、腕を庇い始めたな)

 

 両腕とも破壊された鎖鎌はこれ以上腕を傷つけさせまいと腕を胸に押し付けながら触手を振るう。つまり『防御においても』腕は期待できないわけである。

 

 「この因縁、終わりにしてやる!」

 「やれるものかぁ!」

 「『シンフォニックブレイク』」

 「知っているんだよぉその技はぁ!」

 「その上でブチ抜く!偏向ブースター最大出力!いっけええええ!!」

 

 判りやすく顔面狙いで放つ飛び蹴りを肉塊で出来た羽をクロスさせて防ごうとする鎖鎌。しかし羽は本来ヒトに存在しない部位であり、結合部も粗がみえる。

 

 「その羽を砕いてやる!」

 「なあっ!?」

 

 魚雷も合わさり派手な爆炎を上げて両羽がひしゃげる。その痛みに鎖鎌が仰け反る。

 

 「狙い通りだ!『フォールノクターン』!」

 

 更に跳躍し、真下に急降下し刃を突き立てるPA(フォトンアーツ)を顔面に深々と入れる。

 

 「狂咲、お前の技を使うぞ!『狂い咲け』!!」

 

 左右に全身全霊の力と殺意を込めて斬り開く。狂咲が最期に母多に対して行った技の応用だ。

 

 「ーーー!!!」

 

 斬り裂いた顔のある頭部から噴水のように血のような腐った液体をまき散らす鎖鎌。

 

 「はーっ、はーっ、まだやるかよ?」

 「痛い!いだいイダイイダイイダイイダイ!!ナンデ!アノオカタニミトメラレタコノボクガァ!!」

 「報いを受けろ、鎖鎌」

 「ーーーごばぁ」

 

 硬かった鎧のような体が嘘だったかのように溶けて腐臭漂う液体だけになった。

 

 「江風さん、お疲れ様でした。集中を解いてください」

 「ありがとうてーとく。……ふぅ」

 「鎖鎌の討伐に伴い他の眷属も溶けていきました。作戦終了ですね」

 「そっか、私やったんだぁ……」

 「ええ、よく頑張りましたね」

 「きひひっ」

 

 労いの頭を撫でられるのが心地良い。

 

 「……腐食の液体は地中に溶けていきますか。母多に吸収されたといったところですね」

 「そんな!解析材料が!」

 「体に付着した分は消えないようなので私が浴びた返り血を分析すればいいでしょう。後はそこで伸びている保健所所長を回収すれば問題ありません。

 私はあの男を回収して先に戻ります。江風さんはミッケさんとゆっくり帰ってきてください」

 「そっか。ありがとうてーとく!」

 「えぇ。では、また後で」

 

 そう言っててーとくは保健所所長を担ぎ上げて神社を去った。人の目のないところで転移して行く目算だろう。

 さあ、私も色々と済ませなければならない。




 この結末のために登場した鬼畜所業系ヴィラン、鎖鎌の退場です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。