3月頭 12:00 エスカタワー近辺のカフェ
私は濁流さんと合流してとある人物を待っていた。
「あぁ、こっちだこっち」
「やっほー矢矧ちゃん?」
「本当にいるのね……」
「へぇ〜、この子が『迷い猫(ストレイ・キャット)』なんだ☆」
「……矢矧?」
「一応断りはしたのよ?」
「2対1なのはマルチ商法っぽくて阿賀野良くないと思いまーす!」
「って聞かなくて……」
「まあいいけど。いいんですよね?濁流さん」
「ハハ、話を聞いてくれるならいいけど。『一番星』の阿賀野かぁ……」
呼び出したのはアースガイド派鎮守府の『紫電一閃』こと矢矧だったが、「姉の阿賀野が来るかもしれない」と事前連絡があり、その通りやってきたという次第である。
鋭い剣閃及び帯電から『紫電一閃』の二つ名がついている矢矧に対して阿賀野の『一番星』は一番星のように仲間を照らすだけでなく、敵を惹きつけてやまない脅威であり、どんな状況でも揺るがない光源という意味でもある。説得という今回においてかなり厄介なのではないか、と思っている。何度も交戦経験のあるらしい濁流さんの苦い言葉もそれを如実に示している。
「きらりーん☆ちゃんとお話『なら』聞くよ〜?」
「お話、ね」
「その前に、こんな人通りの多いカフェの店の外側なんて場所で合っているの?」
「これでお互い戦闘するには向いてないって思えるでしょ?」
「人質ってわけね〜」
「周囲に聞かれてもいい内容なの?」
「周囲が話し言葉を気にしなくなる簡易結界を貼るから安心してよ。騒いだら貫通始める程度の精度だけどね」
どちらかの陣営だと話が拗れた際が厄介なのでこういった場所にさせてもらったのだ。結果、『組合』側の私と濁流、アースガイド側の矢矧と阿賀野という2対2の形式になった。
「お金は出すからなにか頼んでもいいよ。私はサンドイッチとコーヒー」
「えー、どうしよ……」
「デラックスパフェとドリンクバーで☆」
「姉さん。……私はコーヒーでいいわ」
「昼扱いでランチセットAで」
「江風まで!?なら私のサンドイッチお願いするわ……」
そうして注文して出てきた昼食を食べながらーー1人だけパフェを食べているがーー話を切り出した。
「お話に来てくれてありがとねぇ。ちょっとシャレにならない大規模怪異案件が発生しそうだから共有しておきたくてね。話が通じそうな矢矧ちゃんに来てもらったんだ」
阿賀野のことはスルーしていくつもりらしい。
「噂は回ってきたけど……なんで江風がいるのかしら?」
「なんでもなにもその渦中にいるのが江風ちゃんだからだねぇ」
「今回の件は私の地元、地方都市東条で発生して、先日帰郷した時に発覚したンだ」
そう言って先日起きたことについて話した。鎖鎌があーだむやはーばーとといった固有名を出したことだけは伏せて。
「そんなことが……」
「どうして阿賀野達に話すのかな?」
「そりゃ勿論、127だけでも『組合』だけでもアースガイドだけでも解決が出来ない問題だからさ。このリストを見てほしい」
濁流が数名の個人情報のリストを出した。
「これ、大手テレビ局の現場を動かせるないしヘリ飛ばして現場に行けるレベルの連中でかつ東条関係者よ」
「どういうこと?」
「もし母多神が復活する時が確定したら緊急生中継とかしそうだね☆」
「そういうことよ。母多神の復活や動向は東条の地の問題に収まらないの」
「断頭台の前ってこういう気分なのかしら」
「ホントだよ」
「だから江風ちゃんと縁があって話を聞いてくれそうな101鎮守府の貴方達に話をしておきたかったの。いざという時に我々は一致団結して事に当たらなければならない。分かる?」
「でもそれは無理じゃないかな?」
「阿賀野姉!?」
「アースガイドは『組合』もその手先の127も信用していないから。これは私達アースガイドがやり遂げるよ」
「無理だって言ったの分からない?解析データも足りない、急激な信仰とエーテル環境による力の増大でスケールを推し量ることも出来ない。大前提として近隣の街への被害を防ぎつつ無実の東条住民も守る。どれだけ大規模な話だと思っているの?」
「だからって『不可能』を前提に話を進めるのは良くないんじゃないかなぁ」
「……”スラング”」
「ちょっと阿賀野姉!?」
濁流さんと阿賀野の間の溝は最悪と言っていい状況だった。だから『矢矧のみ』を呼び出したかったのだろう。
「それに、頑張ればどうにかなると思うんだ〜。『組合』と違ってね」
「その『どうにか』に無実の東条住民の身の安全は含まれているのかしら」
「そこはもう不可能のラインだって分かって言ってるよね?アースガイドを悪者にしたいみたいだけーー」
「冗談じゃない!」
「江風……」
「渦中に私の友人がいる。東条麗華、次の依り代候補。アイツを助けられなければこんな作戦意味なんてねェ!」
「私達『組合』にとっても貴方達アースガイドにとっても現地住民のことは二の次の話よね。でもここにいるのはその現地住民だってことを忘れないで」
「だから道理を蹴り飛ばす為に手を組むって不可能を前提にしなくてはいけないのね」
「矢矧?無理は無理なんだよ?」
「……ちょっと江風とサシで話をさせて。2人共付いてこないで。……来てくれるかしら、江風」
「あぁ。お代先に置いておきますね」
そうして矢矧と2人だけ外に出て、しばらく歩き、別のカフェに入った。
「まずはごめんなさい」
「矢矧?」
「阿賀野姉のことよ。振り切ってくるべきだった」
「阿賀野型4人で1チームだったンだろ?誰かしら付き添いは想像してたよ」
「中でも阿賀野姉は一番状況を正しく理解できて現実主義なの。喋り方こそふわふわしているけどね」
「127は横須賀からアースガイドとは付き合うな、ぐらいの情報しかなかったけど深刻さがよくよく分かったよ。溝があるどころか断絶の領域なんだね」
「えぇ。私は反対しているけど、事故を装って濁流を討つべし、って声も少なくないの」
「殺して死ぬかなあの人」
「同感ね。だからこそその濁流が貴方を出汁に共闘を持ちかけてくるなんて思わなかったわ」
「話を聞くに平安時代からの敵対だもんなァ」
「……私が貴方と会ったのは八尺様の1件だけだったけど、それで貴方の人となりは少しは理解したつもりよ。それこそあの時言われたことを皆に秘密で調べて納得もしたわ」
「矢矧……」
「もし阿賀野姉が来なかったら開示する予定だった情報、あるんでしょう?殺し合うと決めた上でも情報を引き出すことをやり抜く貴方ならあの鎖鎌から聞き出したのではないかしら?」
「随分と買ってくれているンだね」
「バミューダの戦闘記録も見たからね。それでどうなの?」
「あったよ。ただ、頑なな状態で話をしたら絶対に拗れる話だったンだ」
「あの場で伏せて正解ね……」
矢矧にならいいかもしれない。濁流さんも「矢矧だけが来たなら明かそう」と言っていたこともある。
「東条の怪異復活に関して、スポンサーらしきものが居た。5年前、私が鎖鎌逮捕に導いた事件辺りを機に打ち切られたらしいけどね」
「スポンサー、か」
「錯乱気味だった鎖鎌が正しい発音をしていたかは分からない。その上で言うと、スポンサーの上司は『アーダム』という」
「アーダム?待って、それって」
「アースガイドの指導者アーデム・セイクリッドに名前が似ているよね。彼のことを指しているのか、自称最古の人類アダムを自称しているのかアースガイドのアーデムを詐称しているのかは不明だよ」
「……続けて頂戴」
「連絡役にはハーバートという人物がいたそうだよ」
「ハーバート?」
「そこが疑問点だ。『組合』の把握している中でもアースガイドの、それもアーデム直近にハーバートなる人物の情報がない」
「そうね。私も本部の内情に詳しいわけじゃないけど、少なくとも側近の名前にハーバートなんて居なかったはずよ」
「こっちだけが偽名なのも何か変なんだよね」
「……あ」
「うん?」
「それこそ、貴方の神経を逆撫でするかもしれないわ」
「言ってみて」
「ハーバートに心当たりがあるわ。アースガイドではなくマザー・クラスタの中核の1人がオフィエル・ハーバートよ」
「!」
「それこそ知らなかったの?」
「中核メンバーは1人しか知らない。入ってすぐ鎮守府に入った下っ端未満だから」
「なる程ね。……その上でいくつか選択肢があるんだけど」
「うん。1つはアースガイドのアーデムは本人でマザー・クラスタのオフィエルはブラフ。あるいはその逆。もう1つはどちらもブラフの第3勢力。そして……」
「どちらも本当で両者が裏で繋がっている、ね。1番厄介だけど」
「第二技研やバミューダの連中のスポンサーで旧127や130の襲撃、睦月さん達の人体改造を行った連中にもハーバートという名前があった。加担していた電の親が死に際に助けを求めた名前だった」
「ということは私達が知らない他の事件にも関与しているのね」
そこで1つ思いだした。
「あぁ、それとアースガイドへの不信感への原因がもう1つ。鎮守府を裏から操ってた連中の掃討作戦があっただろ?私は協力者である電の親とかの制圧に回っていたから直接は聞いていないんだけどさ」
「聞き及んでいるわ。何かしら」
「そういう裏のやつの頂点にあえて立つことで抑制に回っていた東雲曰く、アーデムかオフィエルか……とりあえず『黒幕』でいいか」
「そうね、ややこしいもの」
「『黒幕』らしき通信履歴がラスベガス方面から飛んできていたことまでは掴んでいた、だそうだ」
「ラスベガス……アースガイドの本拠よ。認めたくないけど状況証拠が揃いつつあるわね」
「オフィエルの方の情報はある?」
「所在地で言えば無いに等しいわね。何故なら表向きの彼は『奇跡の執刀医』と呼ばれるほどの名医で、世界中から難しいオペのために引っ張りだこなの。邪推するならその世界行脚のついでにやらかしていると思えるけど、拠点がどこかまでは分からないわ」
「オフィエル側の状況証拠も揃いつつある……逆に言えば詐称するには持ってこいとも言えるのか」
「悩ましい話ね。それこそ本人達に揺さぶりをかけるぐらいしか無いでしょうけど……」
「今までが今までだ。勘付かれたら痕跡隠滅に走るよね」
「本当に厄介ね」
「あぁ、これで下手にアースガイドにもマザー・クラスタにも探りを入れられない訳だ」
非常に頭が痛い話である。
「ともあれ、『黒幕』について矢矧と共有できて良かった。冷静な判断を期待しているよ」
「えぇ。そうね、話しておこうかしら。私達阿賀野型四姉妹が頑なに怪異に敵対的な訳を。逆に貴方達が怪異と友好的な理由も教えてもらっていいかしら?」
「喜んで」
注文したコーヒーを啜り一息置いてから矢矧は話し始めた。
「まず私ね。艦娘になった切欠が、海辺で友人を殺されたからなの」
「!」
「最初は深海棲艦なんだと思って艦娘になった。でも、配属先、というか今所属している101鎮守府ね。そこで阿賀野姉から私の友人を殺したのは深海棲艦ではなく怪異だと知らされたの。そしてどちらにも対抗していかなければならない、ともね」
「友人の仇が怪異だったのか……八重の、八尺様での態度も納得だ」
「具現武装の扱いも陸海問わず戦うやり方もそこで教わったわ。私のような悲劇を二度と繰り返さない為にもね。だからこそ怪異と話し合おう、深海棲艦とも話し合おうとする貴方が不思議で悪い洗脳でも受けているのではないかと疑ったわ。……最後に切り結ぶまではね」
「刃に心が乗るってのは本当みたいだね。あの『紫電一閃』を受けた時も矢矧の覚悟が伝わってきたから」
「他のメンバーについて話す前に、江風、貴方自身の経緯というかそのスタンスになった理由を話してもらってもいいかしら」
「いいよ」
こちらもコーヒーを飲んで一息ついてから話し始める。
「矢矧にとって不倶戴天の敵が、仇が怪異であったように、私にとっての敵は人間だった。さっき皆で話した東条の街は身内や身内になった人には異常に甘くて庇うけど、外部の人間にはどんな加害しても許されるぐらいのイカれた住民性だった。私も身内とその他の線引はっきりしててその傾向があるって言われて内心複雑だよ。
その上でエーテル適性が原因か不明だけど、東条生まれにして東条の異物として認識されたのが私だ。だから私にとっての敵は周囲の人間だった。一部例外は居たとは言えいじめも嫌がらせも冤罪も犯罪未遂も一通り経験したよ」
「壮絶ね……」
「そんな中で『君には力がある』って言葉で外に導いてくれたのがマザーで、同じ日に沿岸まで辿り着いた深海棲艦と鉢合わせた私を救ったのが同じく深海棲艦のアウトローだった。そこで言われたんだ。艦娘になれよって。アイツはおもしれー奴になってくれ以上の意味はなかっただろうけどね。マザーも実績のない人を見出す辺り、ヒトなのか怪しいかなって思っている」
「貴方にとって怪異は転機だったのね」
「うん。その上で127は友好的な深海棲艦とやりとりしていて、それを人間勢力にぶっつぶされてその復讐にそんな深海棲艦と一緒に動いてバミューダの決戦でやりきった。私にとって敵とは種族じゃなくて何をやる奴か、ってことになる」
「道理で根本的に話が噛み合わなかったわけね……」
「あの時はお互い感情的だったのもあるからね。で、東条人メンタルもあって仲間を害する気があるお前は敵だ!って本能的に判断していたんだ。感情的になりすぎた。ごめん」
「いいのよ。溝を埋めることは出来ないかもしれないけどどうして溝があるかを理解できた。収穫ね」
「全くだ」
しばらくお互い言葉を噛みしめるように黙りこくる。そして再び矢矧が口を開く。
「次は阿賀野姉について話すわ。阿賀野姉は艦娘になる前に家族を怪異に皆殺しにされて唯一生き残ったの。そこをアースガイドに助けられて、生きていくために、そして力を得るために艦娘になったの」
「道理で頑なな訳だ。うちのてーとくも同じでね。敵性存在に家族を皆殺しにされて、引き取られた孤児院の同じように潰されて復讐鬼になった経緯があるから理解できるよ」
「だからこそ、怪異と手を組むなんてあり得ない。怪異と仲良くしようという『組合』なんて絶対に信用できない。その想いは人一倍大きいわ」
「それこそ濁流さんなんて殺したくて仕方ない相手なわけだ」
「えぇ。短絡的な行動に出る人でもないから大丈夫だとは思うけど……置いてきて良かったのか不安になってきたわ」
「まあ、大丈夫だと思っておこうか。他のメンバーは?会ったこともないけどもう2人いるんだろ?」
前途多難、という言葉が現状しっくり来るのだろう。
「能代と酒匂は実の姉妹なの。両親に惜しみない愛情を受けて育ったわ。けど、その両親が怪異に殺された。その助けに入ったのが私と阿賀野姉だったの」
「全員怪異の被害者なのか……」
「能代姉は阿賀野姉を信奉している。酒匂は家族愛を何よりも大事なものとして抱えているわ」
「ウチの、というか挙げるならマザー・クラスタ組かな。全員と言っていいほど真逆だ。電は家族の不仲と理不尽をぶつけられる中で読心に近いエーテル能力を得て、親がただの鬱憤晴らしのクズだと知って失望した。友達付き合いも心の底が透けて視えて人間不信になった。色々知った上で知ったこっちゃないを地で行く私達や裏表のない母性で包みこんでくれる雷の姐さんやそれでも、と求めてくれたてーとくを信奉している」
「本当に敵は人で……確か敵性勢力に加担していたのよね、その両親」
「うん。最期まで電への謝罪は聞けず仕舞いだった。そこでハーバートの名前を知ったわけだけど」
「続けて」
「加賀は優秀な姉と常に比べられ続けていた。成績も性格も絵に書いたような優等生な姉でね。親の愛情もその姉だけに向かっていた。だからずっと劣等感の中で戦っていて、唯一褒めてくれた横須賀の赤城さんの背中を追いかけるべく艦娘になった。マザー・クラスタから『貴方には力がある』ってメッセージを受けて勘違いしたのもあってね。
多分『黒幕』ないし第二技研関連の手先の影響だろうけど、同じく艦娘になった姉が会いに来て一悶着あったよ。結果姉である赤城も127に引き入れたけどね」
「すごい話ね……」
「赤城も親からの期待の重さや妹への扱いの悪さ、その上で都合のいいように扱い続ける親に嫌気が差して加賀の後追いで艦娘になった経緯だ」
「能代姉や酒匂と真逆なのね」
「本当にな。海……海風もだいぶいじめられていてね。その上で負けず嫌いとド根性を活かして奮闘していた。それを認めた彼氏もできて私達の中ではマシな方だったかもしれないけど、その上でマザー・クラスタへの誘いがあったのと嫌がらせで勝手に艦娘の検査受ける羽目になって艦娘になった。丁度マザー・クラスタから『貴方には力がある』ってワードを受けてね」
「待って、そちらの4人は全員マザー・クラスタからの言葉で艦娘になったの!?」
「正しくはマザー・クラスタからの言葉を勘違いして、だね。単純にマザー・クラスタに誘うつもりが4人も何故か艦娘になったからマザー・クラスタ主宰のマザーも困惑していたよ」
「す、すごい話ね……」
呆れるのも無理はないだろう。
「海には続きがある。1人だけ別の、128の所属になったンだ。そしてそこは秘密裏に本人達にも抵抗できない形で第二技研の手が入って、洗脳状態にあった。エーテル適性のある海はそこで実験対象にされた」
「……!」
「敵対勢力である横須賀の肝いりの部下である127を貶めたかったのか、単に実験したかっただけなのか、海を一般公開日にぶつけてきた。姉妹艦である私を救うためにてーとくを討つ、ってね」
「実行されたらとんでもないスキャンダルじゃないの!」
「卯月の姐さんが機転を利かせて『今回はこういう趣向の演習イベントだ、正義のお姉ちゃんVS悪のてーとくの戦いをご覧あれ』ってやってくれたから丸く収められたよ。危なかった」
「凄まじく危ない橋を渡り続けているのね……」
「洗脳状態はそこで解除できたんだけど後遺症が残ってね。私達異常適性(イレギュラー)は姉妹艦相手でも『他人だけどそういう関係らしい』という認識で、相手の姉妹艦からは『姉妹艦のコスプレした不審者』に本能的に捉えられるンだ」
「難儀な……」
「だから私と海の間にも姉妹感情なんてなかった。だけど事が終わってからうざ絡みする駄目な姉ムーブを始めてベタベタするようになってね。驚いたよ」
「人が変わったような状況ね」
「うん。そしてそれは今も変わらない。原因は洗脳時に江風を取り戻すんだ、大事な妹の江風を……って刷り込まされたからだと推測している。なにせ、他所の江風見てもなんの反応も示さないんだよね」
「これも人の仕業……貴方達が人間不信になる理由は分かったわ」
「なまじこの上で同じ人間のせいで酷い目に遭った深海棲艦と仲良くしてると種族とかどうでもいい、問題は敵か味方かだ、ってなるわけさ」
「あの時話が噛み合わなかったのも当然ね。『主人公』や『役割』を抜きにしてもね」
お互い深くため息を吐く。
「そこを含めても落ち着いて矢矧とやり取りできて良かったよ」
「私もよ。それにあの時濁流に言われた通り、無理やり解決することでの反動があったことも確認できたから色々悩みを抱えていたの。それらも腑に落ちたわ」
「そして問題は……」
「阿賀野姉を筆頭に説得よね。正直厳しいわ。うちの提督もガチガチのアースガイドというかアースガイドから出向した人物でね。それこそアーデム・セイクリッドの熱心な信奉者よ」
「それじゃあ知らせられないなぁ」
「連絡先は交換しておきましょう。何はどうあれ、東条においての戦いには私は援護するわ。無実な人を犠牲にしたくないからこそフットワーク軽く動いているの」
「ありがとう。クソみたいな街で滅べばいいとすら思っているけど、友達は別なんだ」
「それと忠告よ。アースガイドはマザー・クラスタとも敵対しているし、一部マザー・クラスタ……おそらく幹部級ね。アースガイドと直接戦闘も発生しているの。『魔人』ってワードを調べるといいわ」
「『魔人』か。強そうな二つ名だことで」
「実際支部のいくつかが壊滅させられているわ。激しい抵抗でもしなければ命までは取られないけど、施設も人員の心もボロボロにされているわ」
「そんなに強い部隊なのか?」
「個人よ」
「な……」
「金髪で糸目の麗人。物腰は穏やかな狂戦士。その力の行使にエーテルを用いらない上で常軌を逸した戦闘能力を誇る、だからこそ『魔人』と呼んでいるの」
「こっちでも調べておく。敵対したくないモノだね」
「貴方達の提督も大概だけどね。何よ、深海棲艦の首を突っ込んでへし折って殺すって」
「ハハハ……」
そもそもてーとくは正しい意味で人間を辞めているからだが。
「あぁ、それに関して。てーとくが外部から横須賀の要請で提督してるのは知ってる?」
「えぇ。どこから拾ってきたのよ」
「そこは秘密なんだけど、てーとくは未来的にてーとくですら命と引き換えにしなくちゃいけない敵と戦う運命にある」
「あの規模の人間が刺し違えて!?」
「私達127はそれでてーとくを犠牲にしたくない。だからそこで一緒に戦って一緒に生きて帰る。そのために訓練を積んでいるのさ」
「壮大ね……でも1年弱の戦歴の貴方がそこまで仕上がっている理由にも納得がいったわ」
「だからこそ、そんな戦いに勝ちに行くのに友人1人救えなくてどうするんだ。こんな戦いで犠牲なんて出してて本懐を果たせるなどと思うな。それが私達の共通認識だよ。その為には外部との協力も惜しまないしなんだってやってやるのさ」
「だから『組合』とアースガイドの共闘なんて無茶を通しに来たのね……。分かったわ、最大限協力するわ。でもいつか、それが何か教えて頂戴」
「約束するよ」
『組合』とアースガイドの共闘こそ叶わなかったが、私と矢矧の間で共に戦う意思疎通が出来たのは大きな収穫だろう。