少しファンタシーな鎮守府で   作:朝宮 糸瓜

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 江風達の休日
 瑞鳳達の休日
 天龍達の休日
 基地司令の休日?
 の4本です。


7話 それぞれの休日

 2027年5月某日、江風、電、加賀の休日 06:00 鎮守府寮

 

 

 「畜生ッ!!……あー、またこの夢か」

 「江風も今日は見たのね」

 「電は今日は平気だったのです。昨日は見ましたけど」

 

 この数か月、私達3人は同じ内容の悪夢を見る。訓練校時代、旧127鎮守府陥落のニュースが流れてしばらくしてから、3人とも同じタイミングで見始めて、それ以降頻繁に見ている悪夢だ。

 

 「今日こそは1人ぐらい道連れ増やしたかったンだけどなァ」

 「私は未だに誰も倒せてないんだけれど」

 「電の方は一方的にやられるだけですからねぇ……」

 

 悪夢の内容は、おそらく127鎮守府で銃武装した襲撃者一行に殺される夢だった。よく考えれば、その時にすでにやられた人たちはこの鎮守府にいる人と重なっていた。

 他の皆を殺しつくした敵が言う。「お前たちは降れば研究に付き合わせてやる。マザークラスタに入れるかもしれないぞ」、と。私はそいつに砲撃を浴びせて殺し、お前らのような奴がMCに入れるものかよと啖呵を切って殺される。ついで一緒に追い詰められていた加賀も殺される、という内容だった。

 電の方はどこか別の施設で、姉妹艦――暁さん、響さん、雷さん――が倒れる中同様のことをそこの職員に問われ、拒否して殺されるという内容だった。騙された、という思いもあるのだという。

 

 「アレ、夢の中の日付は6月よね。近づくほど見る頻度が増えている気がするわ」

 「夢と分かっているのだから抵抗内容変えてみたいと思うのですけど、変えられないのも嫌なのです」

 「よくわかんねェのは、夢の中の鎮守府の人員、だいぶ少ないのとその『施設』とやらに行く話を聞いたことねぇことだよな」

 

 夢の中の127鎮守府の人員は現実に比べるとだいぶ少ないし、電の話では1ヵ月以上その施設にいたということだった。話はもっと前から出ていたので、現実の話ならもう知らないとおかしい話でもあるとのことだった。

 

 「それらを踏まえると非現実の話なんだろうけどなァ……」

 「夢、と一蹴するには内容を共有でき過ぎているし、同じ夢を何度も見ているし、鎮守府の様子に至っては初めて来る前から一致しているのだからやりにくいわ」

 「幸いなのは、それでグロッキーな時はちょっとは福山司令官さん達が手加減してくれることですよね」

 「それな。まァとにかく、久々に皆で休暇取れたんだし、行くか。飯食って、東京観光」

 「ですね」

 「一度行ってみたかったのよね、エスカタワー」

 

 

 11:00 東京 エスカタワー前

 

 

 東京都心にあるエーテル送受信施設、エスカタワー。世界中に存在していて、ランドマークの一つとして認識されているしその周りは観光街として賑わっているそうだ。私達は艦娘の変身を解いて訪れていた。

 

 「間近で見るとホントでっけぇな……」

 「東京タワーより大きいんでしたっけ?」

 「大きすぎて、正直誤差よね」

 

 私達3人は初めて見る。展望台が有名らしいので、そこを見てから観光街を見てまわる計画だった。

 

 「それじゃ早速……うぇ!?」

 「ッ……!!」

 「きつい……!」

 

 心臓が大きく跳ねる感覚。訓練を受けていなかったら立っていられなかったであろう衝撃。すごい『力』に吞まれて行く感覚。

 

 「おや、君たち。エーテルに当てられたのかな?大丈夫かい?」

 

 ぐったりする私達に金髪の青年が近づいてくる。エーテルに当てられている、とは。

 

 「このエスカタワーには非常に大きなエーテルが出入りしているからね。敏感な体質だとそうやって体調を崩してしまうのさ。慣れてしまえば、二度はならないから安心するといい」

 「そうなンすか……ってか、アナタは誰……?」

 

 しばらく耐えれば大丈夫ということだろうか。それはそれとして、この人は誰だろうか。

 

 「怪しい者じゃないよ。これは名刺」

 「YMTコーポレーション社長、亜贄萩斗(あにえはぎと)……あのYMTの社長!?」

 

 エスカ端末で使うアプリの中でも評判のいいアプリを多数配信している、新進気鋭の企業、YMTコーポレーション。その社長だというのだ。

 

 「畏まらなくていいよ。君たちは学生さんかな?今日は平日だけど」

 「いや、えーと、こういうモンです」

 

 鎮守府の、軍属の証明票を提示する。あまりこの場合は本名は出さないように、とも言われている。

 

 「艦娘!?ここから近い127鎮守府のかい!?是非とも会ってみたかったんだよ!とまあ、少し移動しようか。そこのカフェで休む方がいいだろう」

 

 亜贄社長の奢りでカフェで休むことになった。

 

 「社長さんがなんで艦娘に興味を持たれたのです?」

 「電ちゃんだったね。本名は出さないように、か。そういうセキュリティを布いているのは聞いていたけど本当だったんだね。私の社名、YMT。これは戦艦大和から取っているのさ」

 「聞いたことがあります。史実の戦艦大和、武蔵が好きで社名にした社長、だと」

 「その通りさ。だからこそ、それを引き継いでいる君達艦娘にも興味はあるんだ。時に、君たちの鎮守府に大和型はいるかい!?」

 「申し訳ないンですけど、いないっすね」

 「余所のやっかみもありますから、大和型なんて着任難しそうなのです」

 「確実に他に回されるわね」

 「それは残念だ。どこの世界でもそういうやっかみはあるものなんだね」

 

 本気で残念そうな亜贄社長。MCの金の人を思い出すようなフレンドリーな社長さんだった。いや、待ってこれは。

 

 「私の力が及べば、いや、これは越権行為かな?とにかく残念だよ」

 「あの、すいません。勘違いだったら悪いんですけども。『金の人』とか呼ばれること、ないです?」

 「気付いてくれたかい?江風君」

 「「!」」

 

 勘で言っていたら本当だったらしい。

 

 「君たちがSNS・MCでやりとりをしていた『金の人』とは僕のことさ。偶然にも艦娘の方に行ってしまった江風、電、加賀の3人。時折君たちがいないところでもその奮闘ぶりには話題になっているよ」

 「ってことはもしかして最初から?」

 「確証はなかったけどね。君たちが今日は休暇でエスカタワーに行く、と聞いていたからね。エーテル酔いを起こすかもしれないと思って少し抜け出してきていたんだ」

 

 私達がダウンした辺りで当たりを付けていたらしい。これが若くして実力者企業の社長を務める実力というモノだろうか。

 

 「さて、そろそろ体調も快復してきたんじゃないかな?」

 「マシになってきたのです」

 「それはよかったよ。それとね、こちらが本題なんだが……」

 

 亜贄社長が提示してきたのはウチへの援助、つまり127鎮守府とYMTコーポレーションの提携だった。

 

 「勿論君たちだけで判断できる内容ではないのはわかっている。持ち帰ってみて欲しい」

 「いいのですが、127鎮守府が足りないのは資金ではないですよ。横須賀から資金設備「だけ」は豊富にもらってるので他のサポートは不要ですし」

 「加賀ちゃんの言う通りなのです。足りないのは……」

 「それ以外、人材と技術だろう?前者は私としてもどうしようもないけれど、観光にも力を入れなければいけない君たちへのソフト面での技術提供。僕が援助したいのはこっちの方さ」

 「ますます要相談っぽいなァ」

 

 言ってしまえば、機密の部分のある程度を外部委託するということ。本当に私達で決められる話ではない。

 

 「検討するのは君たちの上司の方さ。私たちがMCでやりとりしていること、そのログは君たちの上司も知っているところだろう?話を通すだけなら簡単だろう」

 「亜贄社長のメリットは?」

 「江風君、ハギトでいいよ。私の方のメリットと言えば、鎮守府に貢献している、というのは1つの社会的なステータスでね。主に資金面で援助している個人、組織は実は珍しくもないのさ」

 「珍しくないのです!?」

 「主に関係者が艦娘をしているだとか、海上護衛を優先的に引き受けて欲しいだとかで融通を図ってもらうためにね。事実上、支援者の犬と化している鎮守府もあるという話さ」

 「うちの娘が戦場で死なないように配慮しろ、とかそういう……」

 「私にはそういう気はないけどね。僕の会社のソフトは日常生活を便利にするものが多い。観光の方で活かしてもらえれば、これはオープンに出来る実績となる。あの鎮守府でも活用しているアプリはYMT製だ、とね。後はまあ、妙な連中がMC仲間の君たちの鎮守府に支援者として手を出す前に、先に手を出しておこうという打算もある」

 「聞く限りだとWIN―WINそうなのです」

 「ある程度は鎮守府の人たちも把握は確かにしてるだろうし、話してみますよハギトさん」

 

 そうして、話がまとまろうとしたところで。話しかけてくる女性がいた。

 

 「面白そうなこと話してるじゃないかルーキー共!」

 「え、誰」

 「あん?あぁ、これでわかるか?」

  

 片目を隠して親しみやすい笑みを浮かべる。

 

 「天龍さん!?」

 「そうだぜ、後ろにいるのは龍田だ。で、その後ろにいるのは鎮守府職員候補な」

 「頭が痛いわ……」

 「ど、ども……」

 

 後ろの儚さそうな女性が龍田さんらしい。そして候補とは一体。

 

 「YMTの社長って言ったなアンタ。私……いや、俺は天龍、そいつらの上司で人事の一部を引き受けてる。その提案、持ち帰らせてもらうぜ」

 「やれやれ、どこから聞いていたのか。話が省けたね、よろしく頼むよ」

 「ウチに足りないのは『信頼できる』協力者だからなァ。信頼に足るなら、歓迎するぜ」

 

 目が笑っていない。怖めの念押しをするいつもの天龍さんの仕草だった。

 

 「そこは期待に添えたいものだね。さて、私はそろそろ戻らないといけないから、失礼するよ。江風君たちもまた、SNSでね」

 

 怯まず返すハギトさん。そこで解散となった。天龍さん達は職員候補者という男性……というか高校生くらいの少年を鎮守府に連れ帰るらしい。

 

 「江風達はしっかり遊んで来いよな。龍田もそっち行くか?」

 「天龍ちゃんが息を吸うようにこれ以上何かやらかさないか見ている方が精神衛生上いいから、同行するわ」

 「厳しいなぁハハハ」

 

 ……龍田さんは胃薬飲んだ方がいいんじゃなかろうか。

 

 

 5月某日、瑞鳳、羽黒の休日 10:00 鎮守府寮調理室

 

 

 「江風ちゃんに煽られた手前、やってみようと準備はしてきたけどちょっと緊張してきたよ」

 「瑞鳳さん、たくさん材料は買い込んだし頑張りましょう!お手伝いしますから!」

 「羽黒ちゃんは変身してなくても献身的だね。お願いするね」

 

 私瑞鳳は、卵焼きの調理に挑もうとしていた。羽黒ちゃんはオフなので変身を解いている。私は『瑞鳳補正』を狙って変身したままだ。羽黒ちゃんは、おどおどキャラから落ち着いた敬語キャラになっていた。これが「素」らしい。

 

 「聞いている限りだと、瑞鳳さんは色々と力み過ぎているみたいです。落ち着いてやってみましょう」

 「常時強火だったって羽黒ちゃんに指摘されて初めて気が付いたよ……」

 

 他にも、力み過ぎて卵を割るのに失敗して殻が混ざってしまうとか、変に力を入れてしまっているのが失敗の原因らしかった。私の家族も料理下手なので、参考になる相手がいなかったともいう。

 

 「力加減はこんな風に、トントントン、っと」

 「こうね、トントントン……あ、うまくヒビが入った」

 

 羽黒ちゃんのアドバイス通りに卵を割り、予め調味料を混ぜ込み、仕込みをしていく。

 

 「次は少し流して、軽くかき混ぜて固まってきたら次を少し流し込んで、多層構造にしていきます」

 「緊張するなぁ」

 「火は弱めてありますからゆっくりでいいんですよ」

 

 卵焼き用のフライパン――そんなものがあると初めて知った――を使い少しずつ焼いていく。

 

 「そろそろひっくり返して……先に深呼吸をして、力を抜きましょう」

 「すー、はー……それっ」

 「上手ですよ!」

 

 不格好だが、形になった卵焼きが完成した。正直感動している。

 

 「では試食しましょう」

 「これで中身生焼けとかだったらダメだもんね」

 「少し程度なら、余熱でなんとかなりますけどね……うん、しっかり焼けてますね」

 「やった……!」

 

 なんとか成功したようだ。その後も、いくつか焼いて技術向上を図り、変身を解いてもやってみる。

 

 「やることは同じですから、さっきまでの感覚を思い出して、ゆっくりとやっていきましょう」

 「うん、やってみるね」

 

 だいぶ「瑞鳳」の時に比べて完成度は下がったが、いくつかの失敗を経て見られる形の卵焼きが出来るようになってきていた。

 

 「羽黒ちゃん、私に必要だったのは羽黒ちゃんみたいな先生だったみたいだよぉ……」

 「瑞鳳さん、泣かなくても」

 「泣くほどなんだよぅ!」

 

 感極まって泣いて抱き着いたりしていたが、あることに気づく。

 

 「ところで、この量の卵焼きどうしよう……」

 「私達だけじゃ食べきれないですね……」

 

 結果的に、憲兵隊の人たちが引き受けてくれた。失敗分も「女の子の手料理だぜ!喜べ野郎ども!」と坂田さんがノリノリで食べてくれていた。また料理して余ったら、いつでも食べると言ってくれたのでまた何か挑戦してみようと思う。

 

 

 江風達の休日と同日 9:00 エスカタワー近辺

 

 

 「こうして龍田と休日を練り歩くの、いつ以来だ?前の時も遠征隊の隊長副隊長まとめて休めねぇからって同じ日は取りにくかったからなぁ」

 「そうねぇ。いつ以来かしらねぇ」

 

 私、天龍と龍田は変身を解いて街を散策していた。変身を解くと一人称も変わるし、龍田なんて儚げな女性に変貌している。艦娘に変身する、というか適合する際、素体の性格とかガタイは基本的に一致しないのだ。どこかしら、「その艦らしい」要素なりの共通点があると選出されやすい、ぐらいで後はランダムだ。

 

 「この姿だと、胸が楽でいいわ」

 「天龍ちゃんは変身解くといつもそれねぇ」

 「しょうがねぇだろ、素体の体はあんなでけぇの持ってねぇんだから」

 

 私の場合は胸部の差が大きな差異だが、小柄でまな板体型変身を解いたら高身長グラマラスな女性になったとかそういう極端な例もある。ちょこちょこ訓練校の講師に来る第2鎮守府――通称呉――の龍驤さんがそれだった。訓練校時代は驚いたし、おそらく江風達も驚いたことだろう。

 

 「さーて、なんかめぼしい変化はねぇかなぁっと」

 「天龍ちゃんずっと127鎮守府にいたんでしょう?変化も何もないと思うんだけど」

 「あの件からずっと、外出休暇なんて取ってなくてな。スカウトには出てたが……。で、今回響にルーキー共が休暇取りやすいように、率先して上官のお前たちも取ってこいって話で休暇になったんだよ」

 「……」

 「あの時の、鎮守府がやられたときの傷は私達も変わらねぇんだ。響なんて情報管制室から出てこなくなったしな。まあ、踏ん切りはつけるさ。おいおいな」

「……そうね、ずっと引きずってもいられないものね」

 

 もう半年前になる鎮守府陥落の絶望。それは今でも生存者の私達の心に深く傷を残していた。平気な体をしている私や響も、正直吹っ切れたとは言い難い。むしろ悪化しているからこその今なのだが。

 

 「やめだやめ、ちゃんとリフレッシュしなきゃ示しがつかねぇ。ってことで遊ぶぞ龍田!」

 「……そうねぇ。ブティックとか久々に見て回りたいわぁ」

 「私のこと着飾らせるためだろそれ」

 「そうよ?皆、華が足りないんだもの」

 「程ほどに頼むぜ」

 

 そんな調子で服屋を軽く物色していたら、遠くで喧嘩の声が聞こえた。

 

 「龍田、ちょっと行ってくる」

 「私も行くわ。ホント、こういうのに首を突っ込みたがるんだから」

 「悪ィな。憲兵隊か警察への連絡の準備も頼んだ」

 

 こういうことは初めてではない。鎮守府の響に通信をつなぎつつ走る。やれやれと溜息をつきながらサポートの準備をしてくれる龍田の存在はありがたかった。

 

 「待て、その宝石、差し押さえさせろ!」

 「お前たちにくれてやるもんか!これは親父とお袋の形見なんだ!」

 「質屋に入れようとしていたくせに!それなら俺たちに寄越せってんだよ!」

 「支払日は今日じゃないだろ!それに、これは妹の治療費に……ぐあっ!」

 「難病の治療だろ?そんなモン諦めろってんだ。てこずらせやがって」

 「おうおうおうおう昼間っからずいぶんと乱暴だなぁ、お前ら?」

 「誰だテメェ!」

 「通りすがりのお姉さんだ、おらっ!」

 

 軽く殴って行動不能にしていく。軍人がその技術で民間人に手を出すのはアウトなのだが、名乗らずにいればいいだろう。それに相手もカタギではないようだし。

 

 「そこのお前、こっち来い!逃げるぞ!」

 「あ、アンタ達は……?」

 「いいから走るわよ。話はその後で」

 

 人気の多い通りに逃げていくことにした。結果、エスカタワー前のカフェで話を聞くことになった。

 

 「へぇ、両親は死に、妹は難病……あれかぁ。聞いたことはあるけど確かにまだ治験の段階なんだよな」

 「だから、治せなくて、でも、治療費はかかって。金を借りた相手があいつらだったんです。闇金だとは思っていなくて」

 「高校生なんだからその辺りわからなくてもしょうがないわ。大切な形見を売ってでもお金を出そうとするぐらい頑張ってたのだから、責めはしないわ」

 

 なだめる龍田にその少年を任せ、響に連絡を取る。

 

 「天龍だ。○○病って奴の治験者募集しているとこ、軍属で探せないか」

 『響だよ。中々奇妙なとこをついてくるね。確かそれなら横須賀に近いあの……あったよ』

 「仕事が速いな」

 『で、その子を雇うつもりかい?』

 「裏切り、って面じゃこれ以上の奴はいないと思うぜ」

 『そうだね、面白い。その方向で進めよう。ちょっと話を付けてくるよ』

 

 宣言通り、速攻で横須賀との約束を取り付けてきた響の連絡を受け、誘うことにする。

 

 「なあ、その病気だけどよ。今、軍属病院で治験やろうとしているんだ。成功するかはわからんが、今の延命治療よりはマシだろう」

 「え、けど、それって金が……」

 「ウチが全部持つ、って言ったらどうよ」

 「天龍ちゃん!?」

 「そ、れは……」

 「ついでに、お前さんをバイトでもなんでもいいから、ウチの職員として雇いたい。こっちが本命なんだけどな。一般人の目線で物を考えられる職員が欲しいんだ」

 「……」

 「危険なことはさせねぇさ。ウチは最近、一般公開なんて始めててな。そのスタッフが足りてねぇんだよ。それに、一般って目線が足りねぇ。一般相手にこれは致命傷だ」

 「そうねぇ。正直、食いつきが悪いものね。あまり面白い展示ができないから仕方ないけれど」

 「そこをなんとかするために、他の視点なりなんなりが欲しいのさ。なんなら、お前さんの高校卒業までの学費も持ってやってもいい」

 「そこまでしてくれるんですか……?」

 「そこまでしてでも人が欲しいんだ。闇金相手に必死こくか、怪しいかもしれねぇが鎮守府の誘いに乗るか。好きな方を選びな」

 「……お願いします。妹を、最後の家族を失いたくないんです。……それに、高校も卒業したいし」

 「よっし!じゃあ、早速手続きと……あの闇金どもに蹴りつけるかぁ」

 

 その算段を立てるために鎮守府へ少年を連れて行こうとして、江風達と亜贄社長に遭遇するのだった。少年の契約は済んで――ついでに闇金の連中は法的にシバいて――妹さんを入院させて、味方を得ることに成功した。龍田の休暇を潰してしまったのは申し訳ないので、いつか埋め合わせしなきゃなぁ。

 

 

 5月 04:00 ???

 

 

 プシュー、と解放音が聞こえ浄化槽から出る。体に付着した汚れを落とす感覚、それでいて力が抜ける感覚。総合的に不快だが、必要なことだった。

 

 「お疲れ様ですルーファさん。して、体調はどうでしょう」

 「……フン。問題あれば言うといったはずですが、カスラ」

 「貴女の敬語は未だに慣れないものですね。こちらでは素でもいいんですよ?福山梓司令?」

 「どちらかに合わせる方が楽だから敬語にしているだけです。それに、敬語を使うようにと言ったのは貴様でしょう」

 「そうでしたね。バイタルはチェックさせていただきましたが、内部のダーカー因子は安定。外面のダーカー因子は規定値を大きく下回っています。これでしばらくは問題なく活動できるでしょう」

 「今回はアムドゥスキアのヒ族の領域の一区画を根こそぎ『喰らった』。追跡調査を頼みます」

 「ヒのエンさんから感謝の声が届いているそうですよ。ですよね、クーナさん?」

 「えぇ、これでヒの部族の安全圏が大きく広がったと。ロガさんにもまたダーカー因子が溜ってきていましたから、その排除もしてくれて助かった、とのことです」

 「導き手である彼には無理はしてほしくないのですが。まあ仕方ないでしょうね」

 「無理をすることに関しては引けを取りませんからねぇ、貴女も」

 「「黙っていろ腹黒陰険眼鏡」」

 「これは、怖い怖い」

 

 カスラ曰く心温まる――どこかだ――やりとりをして、気になっていることを聞く。

 

 「例の準備の件、進捗はどうでしょうか」

 「潜水艦専用鎮守府でしたか。かの拠点とは協力を得られました。必要な時に派遣してもらえますよ」

 「助かります、クーナ。127鎮守府のものがアプローチしては敵に気づかれてしまう。その為にも、貴女に動いてもらう必要がありました」

 「横須賀の手配もありましたからね。動きやすかったですよ」

 「かの鎮守府の基地司令は、信用に値しますか?」

 「……」

 「クーナ?」

 「まあ、信用できると思います。腕は確実にいいでしょう。はあ」

 「万が一も潰さなければならない。大丈夫ですか」

 「そこは大丈夫です。そうですね、味方になったルーサーを見て、溜息をつかずにいられるか。そういう話ですよ」

 「それは……」

 「一発殴りたいところですね。まあ、その様子なら大丈夫でしょう。では、また『地球の基地司令業務』、頼みますよ」

 「了解」

 

 私の『食事』はダーカー因子。通常の食事は意味がないのだ。そして、外部へのダーカー汚染を防ぐために外面は浄化槽にて浄化する。これで、やっと人前に出ることができるのだ。

 

 「また業務の山が待っていますね……」

 『天龍さんが持ってきた協力者の差配も必要です。やることは多いですよ』

 「分かっています不知火。はあ、ただただ暴れるのが一番楽ですね」

 『必要な時になったら思う存分暴れてください』

 「……はぁ」

 

 積みあがっている一般業務の山――苦手過ぎる――を想い、大きく溜息をつくのであった。

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