3月上旬 早朝 第127鎮守府
今日は重大な日だ。冬の訓練校卒業生が各鎮守府に配属される日である。人手不足にあえいでいる私達にとって心待ちにしていた日でもある。……訓練校の担当官がちゃんと配属させてくれればの話でもあるが。
「では、私と坂田さんは横須賀訓練校に迎えに行ってきます」
「一年前と同じ構図ってわけだ」
「頼んだよ」
私達が乗った装甲車が走り出していく。……毎年アレを使うつもりなのか。
「いやー、これで少しは楽になる……なるねあはは」
「……そうだね」
「だな……」
「なんか響お姉ちゃん達がテンション低いのです!?」
「人員欲しい言ってた筆頭の秋雲の姐さんまで」
「私は知らないんだけど、来るメンバーの個人情報見てからあの調子なのよ」
「龍田の姐さん」
一体誰が来るというのか。
「天龍ちゃんそんなに不満なのかしら?」
「不満というか……いや、要望はかなり通ってるんだよ。ただ、持て余すというのとなんというか……なぁ?」
「見れば分かるっぴょん」
「はぁ」
要望通りかつ苦虫を噛み潰したような反応とは一体。
13:00 第127鎮守府
『響だよ。鎮守府各員は食堂へ集合。繰り返す、鎮守府各員は食堂へ集合。新人が到着したよ』
「お、来たかぁ」
「どんな子が来るのかな」
「電お姉ちゃんとか呼ばれてみたいのです」
「それはないと思うわ」
「……瑞鳳どこいった?」
「歓迎の料理作るってもう食堂で調理してるよ」
「掴みが大事、と息巻いていましたね」
「止め……なくていいかァ」
同期組でわいわいしつつ食堂へ集合する。それから間もなくてーとくが新人艦娘を率いて入ってきて、自己紹介を促した。
「大和型戦艦1番艦、大和です!」
「同じく大和型戦艦2番艦、武蔵だ」
「「!?」」
「えぇ、正式に配属です」
「おぉぅ」
大和型戦艦はそれこそ建造自体が稀な貴重な艦種であり、その能力も折り紙付きである。他所のやっかみを受けていた127に配属など夢のまた夢と思っていたのだが。しかも2人も。
「続いて朝潮型2番艦、大潮です!」
「朝潮型4番艦、荒潮よ」
「朝潮型か、助かるな……」
総合バランスが良く積載能力も高い朝潮型は多くの駆逐艦任務に適している。
「最後は朝潮型1番艦、朝潮です!皆さんお久しぶりです!!」
「えっ」
元気よく敬礼し謎の言葉を吐く最後の一人、朝潮。その雰囲気にどこか覚えがありーー
「お気づきの方もいるでしょうが、保科朱里さんです……」
「な、なんで艦娘になってンだ保科ァ!!」
呻くようにてーとくが正体を告げる。彼女は昨年足繁く127に通っていた少女、保科朱里だったのだ。
「お前、お前……ッ」
「皆さんが南西海域との決着をつけている頃に訓練校に入り127に配属されるために頑張ってきました!」
「ゴタゴタしてたとはいえ確かにあれから来ないって思ってたけど受験じゃなかったのかよ!」
「皆さんのこと、皆さんが抱えていることは少しではありますが知っているつもりです!やっぱりその支えになりたいと思いました!」
元気よくハキハキと答える保科こと朝潮。
「朝潮姉さんがあまりにもまっすぐで心配になってついてきました」
「大潮もです!」
「姐さん達がモヤってる理由がよくわかったよ。……よろしくな」
「はい!」
「朝潮は自重を覚えような」
「きゅ〜!」
「イちゃん!お久しぶりです!」
「きゅきゅっきゅ〜!」
「本当に深海棲艦と仲が良い……」
「というかこんなフォルムでしたっけ?」
「イは特異型だからな」
可愛くデフォルメされたようなイを深海棲艦とカテゴライズするのに多少悩むことがある。
「大和ちゃんと武蔵ちゃんはどうして127へ来たのです?」
「訓練校に入って知りました。世の中人達は艦娘を知らなさ過ぎると……!」
「そこへより広く知らしめつつ前線でも戦っていく鎮守府がある、と教えてもらったんだ」
「教えてもらった?」
「いえ、朝潮ではありません!亜贄社長です!」
「何やってんだあの人!?」
「確かに127に大和型いないことを残念がってましたけど!」
「どれだけ裏で動いていたの……」
本来ならあり得なかっただろう貴重な大和型戦艦の着任をお偉方に説得してのけたであろうハギトさんに戦慄を覚えた。
「その後127について熱く語っていた朝潮さんと仲良くなりまして」
(ドヤ顔)
「私と大和は元々友人でな。想いも同じだったんだ」
「私と荒潮は朝潮姉さんに話を聞いてその気になりました!」
「放っておけなくてねぇ」
「まあ、気持ちは分かるし今後もよろしくな」
純真であり危うさもある彼女を放っておけないのは共通認識のようだ。
「具体的にどの部署に配属するかは訓練の後決めていくっぴょん」
「その前に、ちょっと大潮を借りていくっぽい」
「えっ」
「匂いは隠せないっぽい」
「……っ」
「まあ、悪いようにはしないっぽい」
「新人イビリとかマジでやめろよ夕立」
「違うっぽいので安心してよ卯月先輩」
夕立の姉貴が大潮を連れて行く以外はゴタゴタしつつもなんとか収まった。
16:00 第127鎮守府 情報室 響視点
「亜贄社長かい?響だよ。大和達の受け入れを無事完了したよ」
『それは良かった。根回しした甲斐があったよ』
「普通の鎮守府と違うから扱いに困る訳だけど、上手くやるさ。それで東条裕也氏との連絡はどうだい?」
『順調さ。彼も街から送り出された当時と現在の状況の違いに困惑していたし、怪異の存在にも気付けていた。だから納得して協力を取り付けることにも成功したよ。
表向きはただの業務提携でそれぞれの代表陣自ら行う肝いりの計画、といったところさ。そちらの夕立君がうまいことでっち上げてくれたお陰で弊社員にもあちらの部下にも怪しまれていないよ』
「順調そうで頼もしいね。……さて、もう1つ頼まれてくれないかな。『マザー・クラスタの金の使徒』さん」
『……へぇ?そういう呼び方をするってことは目的はマザーかな?』
「理解が早いね。流石だよ」
おおまかなことーー黒幕にオフィエル・ハーバートとアーデム・セイクリッドを自称する人物がいることも含めてーーは既に彼に伝えてある。
「端的に言おうか。マザー氏と話をしたい」
『オフィエルに悟られずに、と』
「出来れば他の人員も排して置きたいところだね。もし懸念があっていた場合他にも……なんてことも考えられる」
『その辺り、私はいいのかな?』
「君が裏切り者だったら尻尾の先すら既に掴めないだろうね」
『いいだろう。話す内容は母多神への協力依頼でいいのかな?』
「ついでにマザー氏に踏み込んだことを聞きたい。……『フォトナー』についてね」
『加賀君辺りが打ち明けたのかな』
「否定はしないよ。その上で認識の齟齬があるみたいだから修正しておきたい。私達はマザー氏の想定以上にもっと綿密なパートナー足り得ると私は思っているよ」
『……分かった。だけどそれには条件が付くだろうけど』
「この先の話に梓は関与しない。というか私以外関与しないしマザー氏に不利な展開にしないことを約束しよう。何をかけるのかと言われると返答に困るけどね」
『それこそ私達が積み上げてきた信頼をベットするとしようか。任せてくれ』
「快諾ありがとう。よろしく頼むよ」
同時刻 夕立の私室 夕立視点
「ここは私の私室だから誰にも聞かれないっぽい」
「……」
「ヤクザ関係の人間が鎮守府に何の用っぽい?」
「!」
「まあここの上層部は気にしないっぽいけど、ねぇ?」
「生まれ変わりたかったんです」
「へぇ?」
「カタギじゃない裏の人間の娘としてじゃない、表の人間として生まれ直したかったんです。艦娘適応できたのは正直予想外でしたけど、これは嘘じゃありません!」
「……信じるわ。私も似たような境遇っぽい。表の人間ではあるけどね」
「……」
「私は斜陽の経営者一家の一人娘でねぇ。経営立て直しのために牙を磨いたのにそんなもの要らないと言わんばかりの婚約者用意されて逃げてきたのよ。ある種似た者同士ってワケ」
「そう、なんですね」
「お互い用意されたレールの上じゃ生きていけないってことっぽい。そしてそれならではの問題も発生する。実家に話をキッチリ通してきたっぽい?」
「母には同意を得て来ました」
「他の一味は、ってことね。近い将来そのやり残しが朝潮やここの面子に襲いかかってくる。その覚悟は出来ているっぽい?」
「……」
「ああ、刺し違えてでもみたいな覚悟は要らないのよ?地べた這いずり回って泥啜ってでも生きて、めでたしめでたしで解決する覚悟の話よ」
「え……」
「ここの連中を舐めないほうがいいわ。何が何でもそういう着地点目指して暴走し始めるから。ま、この課題については人のコト言えないっぽい」
「そうなんで……いや何があるんですか!?」
「あと数ヶ月で本来は実家に帰る約束を転属前の鎮守府がしてたからその前にここに滑り込んだのよね。艦娘続けるにはおままごとでも酔狂でもない、この戦場こそが私の生きる場所だって近いうちに証明しなくちゃいけないっぽい」
「えーっ!?」
改めてヤクザの娘に説教できる立場ではないことを自覚する。
「だからこそここが適しているんだって演技含めて見せつけていくのよ。大潮ならなんて言うのかしら?」
「……あ、アゲアゲで乗り切っちゃいますよ〜!」
「その意気っぽい!」
この子のサポートは私がしよう、と決意するのだった。
17:00 朝潮・大潮・荒潮の部屋 荒潮視点
「たっだいま戻りましたー!」
「お帰りなさい大潮(ビシッと敬礼をする)」
「朝潮姉さんそこまでやらなくていいから。……大潮姉さんもなんかスッキリしたみたいねぇ?」
「アゲアゲで行きますよぉ〜!」
(……ってことは不安感じているのは私だけなの!?)
私、荒潮は大学卒業に伴う就活に難儀する中で保険ないし記念にと艦娘適合検査を受けた身である。バイト艦とやらをするだけでも就職に有利とも聞いていたことだったから。つまるところ他の姉妹艦や大和型の2人のような強い動機がないのだ。
それが崩れたのが検査会場になった鎮守府での朝潮姉さん、いや保科朱里ちゃんとの出会いであった。
ーー貴方も艦娘を目指しているんですね!
ーーえ?えぇ、貴女は随分と若いのにやるのね?
ーー自己紹介がまだでしたね!私は保科朱里です!
ーー石井唯よ。貴方は高校生?
ーー今年度中学卒業です!
ーーえっ!?確かに中卒でも検査受けられるけど……!?
ーー私に良くしてくれた127鎮守府の皆さんと一緒に頑張っていきたいんです!唯さんはどういった経緯で艦娘に?
ーーえ、いや、大した動機じゃないのよね……。
熱意に溢れる彼女に気圧されつつも、抱いた印象が。
ーー「保科朱里さんどうぞ」
ーー「はい、では先に行ってきますね!」
ーー「ええ。……可愛かったなあ、あの子……」
別に年下趣味や同性愛的なモノは覚えがなかったのだが、朱里ちゃんはドストライクだったのだ。そして。
ーー「石井唯さんどうぞ」
ーー「はい。……朱里ちゃんどうなったのかしら」
ーー「先程の子ですか?駆逐艦朝潮に適合しましたよ。その後の判断はまた別ですが」
ーー「あっ、聞かれてっ、今行きます!」
朱里ちゃんは朝潮とやらになったんだ、という雑念を抱えたまま建造システムにアクセスした結果。
ーー(あんな純真な姉さんを放ってはおけない、でしょう?だから貴方はわ・た・し・よぉ〜!)
ーー(私は……朝潮姉さんの妹艦娘、4番艦の荒潮)
完全に艦娘の魂にも見抜かれていたからこそ荒潮になったのだと思う。建造システムを出て案内された先には朝潮になった朱里ちゃんがいて。
ーー「唯さん、私とお揃いの朝潮型になったんですね!」
ーー「え、えぇ」
手を取り喜色満面の笑みを浮かべて純粋に喜んでくれる彼女を見て。
ーー「守護(まも)らなきゃ」
ーー「?」
ーー「いえ、よろしくね朝潮姉さん」
それから就職活動をぶん投げてーーその前に受けた会社の採用通知もあったが蹴ったーー朱里ちゃん、いや朝潮姉さんと同じ横須賀の訓練校に所属して、大潮姉さんとも同室になった。
朝潮姉さんは良くも悪くも純真で127の人々を尊敬していた。その一方でメディアややっかみをかけている他所の鎮守府の影響か127のネガティブな話題がちらほら聞こえてくる状況だった。
朝潮姉さんは真っ直ぐにそれに対峙した。感情的に食って掛かるのではなく、どこからの情報でどういう誤解から発生したのかを淡々と詰めて行っていた。
その中で127が南西海域との決戦を迎え、勝利したことで訓練校に激震が走った。恐怖を含めた本当にヤバい連中という意味合いが強かった。
そしてまもなく横須賀の金剛さんが抜き打ちで訓練校の監査に入った。大物の登場に驚く訓練生以上に血相を変えたのが訓練校職員の多くだった。
ーー二度目はありまセン。さて……
ーー「金剛さん!お久しぶりです!」
ーー「久しぶり?……まさか保科さんデスカ!?what!?」
その監査によって訓練校の職員ーー主に127の悪評を流していたような人々ーーが姿を消し、消した金剛さんへの畏怖と彼女を驚かせた朝潮姉さんへの評価も上書きされたのだった。
その後127に興味を持ったーーYMTコーポレーション社長の入れ知恵らしいーー大和と武蔵が私達の輪に交じるようになり、卒業を迎えた。
朝潮姉さんや大和、武蔵は当然127志望であり、127について調べた上で大潮姉さんも127を志望。私だけ置いていかれるのは嫌でーーそもそも朝潮姉さんを放っておけなくて艦娘になったのだーーなし崩し的に私も127を志望し、全員通ったというのが現状である。
正直127がどんなところかは朝潮姉さんの話だけでしっかりと把握できていなかった。そのため顔合わせを経て1人気圧されているのが現状である。言ってしまえば私だけこの鎮守府に対する思い入れがないのだ。
「荒潮?」
「な、なぁに?朝潮姉さん」
「上の空だったから。これから一緒に頑張りましょうね!」
「えぇ」
不純かもしれないが、この笑顔のために頑張るとしよう。
数日後 YMTコーポレーション社長室 響視点
亜贄社長の手助けでマザー氏への専用チャンネルを開いてもらった。流石新進気鋭の社長、仕事が早い。
「さて、先に断っておくけど1対1の対談は叶わなかった。マザーの腹心である土の使徒、アラトロン・トルストイ氏がマザー側で同席する。代わりに君には私がつくよ」
「アラトロン氏は信頼できるのかい?」
「少なくとも私よりマザーの良き理解者だ。彼が仮に敵だとしたらマザーも敵だと思ったほうがいいね」
「分かったよ」
「では繋ごう」
画面にマザー・クラスタのロゴが表示される。顔は分からないが通信は繋がったようだ
『駆逐艦響、亜贄萩人から話は聞いている。私がマザー・クラスタの代表、マザーだ』
「話し合いの席を設けてくれてありがとう。お会いできて光栄だよ」
『ほっほっほ、そう硬くなくてもいいじゃろう、のう、マザー?』
『ああ、そうだな』
落ち着いたーーやや機械的なーー女性の声のマザーと好々爺といった声色のアラトロン、対面しているのはこの2名のようだ。
「それは有り難いね。……さて、目的を率直に伝えさせてもらおうかな。地方都市東条の怪異討伐作戦に助力願いたい。内容は……」
「私が既に伝えてある。そうだね、マザー、貴方ならこの件は適任だと思うけどね」
『大怪異母多神、その成分分析と適切な攻略の為の解析及び指示か。そうだな、私が適任だ』
「出来るのかい?」
『可能だ。だが、参加はできない』
「ふむ。理由は『フォトナー捜索』を優先したいから、かな?」
『……知っているのか』
マザーの声が強張るのを感じた。
「うちの加賀、本沢みなもと言ったほうが通じるかな。彼女は弊鎮守府とマザー・クラスタどちらを取るかで言えば弊鎮守府だと公言している。彼女からの情報だね。
だけど安心して欲しい。これを知っている非マザー・クラスタの鎮守府人員は私だけだ。だからこそ単身話をさせてもらいに来たんだ」
『そうか』
「その上で弊鎮守府及び基地司令官の福山梓、本名ルーファのスタンスについて説明させてほしい」
『聞かせてもらおうかのう』
マザーの信用を得るにはここが1番重要だろう。一度深く深呼吸する。
「弊鎮守府はアークスと連携している。けどそれはあくまでも『提携組織の1つとしての相手』に他ならない。亜贄社長のYMTコーポレーションと同様にね。互いの利になるために行動をする。協力が必要な敵が出たら共同で対処する。そういうものであるし、それだけだとも言える。
次に梓について。彼女はアークスではないよ。運命に負けて、ダークファルスに堕ちて足掻き続ける元アークスだ。それもこの世界と繋がっているオラクル宇宙ではない、平行世界のね。こちらのオラクル宇宙に来たのは手違いが元だ。故に、アークス協力者でありそれ以上でもそれ以下でもないと言えるね」
『ダークファルス。ダーカーの上位種で宇宙の脅威か』
『そこまで一息に言うということは、PSO2の正体に気づいているのかのう?』
「表向きはSF系オンラインゲームでたまたま亜空間の先に似通った世界、オラクル宇宙があるというもの。だけど実態は『オラクル宇宙を知っているからこそ模倣して近しい世界観のゲームを作り上げた』ものだ。だからこそ繋がる事ができている。
エラーではなく意図的に。それがマザー、君のやったことだよね」
『間違いない』
「その可能性は私達鎮守府は想定していたよ。だけどその意図が掴めなかったんだ。だけど今回で判明した。『PSO2とオラクル宇宙を繋ぐ』のはあくまでも手段であって本命は『フォトナーを探すこと』だった。違うかな?」
『その通りだ。だから君達の基地司令に頼れない』
「どういうつもりでフォトナーを探しているのかは想像するしかなかったけど、だいぶネガティブな動機のようだね。だからこそ安心してほしいのだけど、私達というより梓もフォトナーを探している。生き残りが居たら殺すつもりでいるよ」
『信用できないな』
「フォトナーと現在のオラクル人の関係について整理しよう。フォトナーははるか昔に惑星シオンとの接触によりフォトンを扱えるようになり繁栄を極めた種族だ。その中で腐敗し、模倣シオンとでも言うべき存在の制作に着手した」
『……っ』
マザーが息を飲む音が聞こえた。おそらくここが最もデリケートな部分なのだろう。そう考えると彼女の正体にも想像が及ぶが後回しにする。
「フォトナーはいくつかの失敗を経て模倣シオンを創り上げた。だけどここで異常が発生した。模倣シオンが思考演算を行った結果、フォトナーもフォトンも滅ぶべきだという結論が出て行動に移した。それが【深遠なる闇】、ダーカーやダークファルスの母体にして宇宙を滅ぼすモノだ」
「PSO2でやれる【深遠なる闇】の討伐クエストはソレのことかな?」
「アレはあくまで膨大なダーカー因子が自称2代目【深遠なる闇】として活動しているに過ぎない。本物はとある人物を媒介にして封印したらしいね。
そしてその封印と戦いでフォトナーはフォトンを扱う能力も種族としても衰えた。だから彼らはフォトンの扱いに長けた人造種族を対抗兵器として用意した。これが現在のオラクル人の始まりでその戦闘組織がアークスだ」
『当然、知っている』
PSO2運営を請け負っている以上、この程度の基礎知識は知っているだろう。
「そしてフォトナーは肉体を捨てて惑星シオンの中で情報生命体として生きることを選んだ。全員、そう、例外なく全員だ」
『……』
「そして近年発生したダークファルス【敗者(ルーサー)】による惑星シオンを掌握しようとした戦い、マザーシップ防衛戦において惑星シオンはルーサーを道連れに消失。内部にいたフォトナーも全て死滅した」
『あり得ない!』
「……続けるよ。本来惑星シオンを本人の同意の元宇宙航行艦に改造したマザーシップの喪失に伴い管制や生命維持も不可能になるところだったところを、すんでのところでフォトナーの手が入っていない純粋な惑星シオン製作の模倣シオンというより劣化コピーである惑星シャオを内包したマザーシップシャオが掌握、壊滅の難を逃れた。
以降は未来の演算こそ出来ないけど管制と指揮は出来るマザーシップシャオの元でオラクル船団は宇宙を航海している、というのが現状だ」
「人知れずに人工惑星を作るとかどうかしているね?」
「惑星シオンは『全知(アカシックレコード)』に到達していたからね。それでもフォトナーの腐敗を見抜いてなお孤独よりもそういった崩壊を受け入れる選択肢を取ったのが惑星シオンだよ」
『孤独は心を蝕むからのう。同情はするが、その後を考えるとのう』
「梓も一回殴りたいとよく口にしているよ。残念ながらその機会はなかったけどね。そしてフォトナーにも、元フォトナーであった【敗者】の依り代ルーサーも知らないところで生み出されたマザーシップシャオにはフォトナーは存在しない。
マザーの懸念する通り、どこかに惑星シオンと運命をともにせず裏からオラクル船団を支配せんとするフォトナーがいるのではないか?というのはシャオや新しくアークス総司令に収まったウルク氏らも懸念していた。それにルーサーの息のかかった連中の生き残りもいたからね。
だからシオンの縁者でありオラクル宇宙の命運を託された『主人公』たる存在、今は守護輝士(ガーディアン)と呼ばれているアークスが表の厄介事に奔走する裏でそういうクロの人物を始末して回っていたのが梓だ。その梓や指揮を取るシャオですらフォトナーを探し出すことはなかった。これが私がフォトナーはもういないと主張する理由だよ」
『あいつらが……フォトナーがその程度で滅ぶ?そんなはずはない』
これでも認められないと主張するマザー。こうも頑なになる程にある種の信頼がある、ということは。
「1つ憶測で物を言っていいかい?」
『……なんだ』
「マザー、君は模倣シオン作製計画で失敗作とされて亜空間の先に放棄された1号機である。違うかい?」
『……』
「根拠と呼べるようなものではないけど、まずそのフォトナーへの深い憎しみと負の信頼。そして1号機は亜空間の先に放棄されたというアークスがかろうじて確保していた情報とこの地球のある宇宙とオラクル宇宙は亜空間で隔てられていること。それだけなんだけどね」
『……そうだ。私をフォトナーは失敗作として見放し、独り亜空間の先を彷徨うことになった。だから示さなければならない。私は失敗作などではないと!』
「なる程ね。では1つ約束をしよう。保証として預けられるものはないけれど」
『……なんだ』
「マザーのフォトナー探しを弊鎮守府は妨害しないし協力してもいい。ただ、私達の地球の身内や関係者、後は梓にとって大事な個人、マトイに手を出すならそこだけは妨害するよ。そのマトイに関するデータも送ろう」
『……反対されるものと予想していたが』
「弊鎮守府は復讐者の寄せ集めでスタートした組織だ。君の復讐を都合よく否定なんてできないよ。むしろ応援している。
その上で覚えておいて欲しいことがある。貴方がフォトナーの身勝手な都合で失敗作として見なされたように、今のオラクル人はフォトナーの身勝手な都合でダーカーと全滅戦争をする運命を押し付けられた被害者だ」
『……分かった』
「それが片付いたら改めて東条への攻略の手伝いを依頼したい。いいかな?」
『構わない』
「東条や第二技研といった連中を『新人類を作る』為に支援していた黒幕についても話したかったけど、また落ち着いてから話そう。
改めて、弊鎮守府は貴方の味方だよ、マザー」
『感謝する』
『ほっほっほ。頼んだぞ』
そうしてマザーとの会談は終わった。
「ほんっとうにロクでもないね、フォトナーは」
「まさに諸悪の根源、だね」
「もし私達127鎮守府が先に見つけたらボコボコにしてマザーに引き渡すと約束するよ」
「頼もしいね」
おのれフォトナー。