少しファンタシーな鎮守府で   作:朝宮 糸瓜

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78話 正義と信念の衝突

 朝潮達着任から5日後 13:00 東京市街地 荒潮視点

 

 

 「お昼のお店良かったわね……ああ、疲れが抜けていくわぁ」

 「へとへとでしたものね唯お姉さん!」

 「この後もアゲアゲで参りましょー!」

 「待ってなんでもう2人共体力お化けなの!?」

 

 着任から待ちに待った休日。私は変身を解いて一般人の石井唯として、朱里ちゃんや大潮姉さんは本人の要望で変身したまま休暇に繰り出している。大和と武蔵は別日で休暇を貰っている。

 素体(ベース)が私が大卒、朱里ちゃんが中卒、大潮姉さん(本名も素体の姿も出したくないようで教えてもらっていない)が高卒の為、同期組ーー卯月さんからややこしいから私達は28年同期組、江風さん達が27年同期組と呼称するように指示されたーーでは最年長となる。大和と武蔵も高卒である。

 その上で中学生程度の見た目の朝潮型である。さながら私は引率の大人であった。……のだが、2人の底しれぬ体力に振り回されつつあった。案内が終わった翌日から始まったハードなーー江風さん曰く他所に比べてずっとハードらしいーー訓練を受け、身も心もクタクタになっている私にはかなり厳しい。

 

 「もうちょっと、もうちょっとゆっくり行きましょう?」

 「「はい!」」

 「素直で助かるわ……」

 

 だから入れ込んでいるのだけれど。

 

 買いたいものや自分で着たい、朱里ちゃん達に着せたいと思う服は多かれどまだ初任給もまだの身である。今日は後はゆったりするぐらいでいいだろう。

 そして私は気がついていなかった。後をつける人物がいたことに。

 

 「きらりーん☆127の子みぃ~つけた☆」

 

 

 14:00 東京市街地 カフェ 荒潮視点

 

 

 オフなこともあり、鎮守府の話は抜きにして雑談に花を咲かせようとしたのだが……

 

 (わ、話題がない……!)

 

 朱里ちゃんは鎮守府一筋で話題もそれ関連ばかりである。他に興味はないのだろうか。大潮姉さんも過去の自分を話したくないようで出せる話題が皆無である。結果、私がなんとか話題を出そうにも世代差もあり空振っているのが現状である。2人と年が近くて今日は空いている江風先輩に同行願うべきだったか。

 

 「唯さん、ごめんなさい。話を合わせられなくて」

 「私も……」

 「いいのよ、配慮にかけてた私が……謝罪合戦もよくないから追加で美味しいもの頼んじゃいましょう!」

 「話題がないなら相席いいかな?」

 「「!?」」

 「『一番星』の阿賀野さん、ですよね」

 「あはっ、ちゃんと『教育』されてるんだねぇ、127(そっち)は」

 「いや、それ朝潮ちゃんが熱心なだけ……誰ですか?」

 「……あれ?」

 

 いきなり剣呑な空気を向けてきた艦娘らしき女性だが私は心当たりがない。127を快く思っていない鎮守府もいるからいざというときにはすぐに連絡するようにとは言われているが。

 

 「朝潮ちゃん、『一番星』って?」

 「第101鎮守府のエース部隊、阿賀野型4姉妹の長女阿賀野の二つ名です。江風さんの『迷い猫(ストレイ・キャット)』等と同じですね」

 「この5日間で説明あったかしら……?」

 「大潮も覚えていません」

 「まあ、1人知ってるならいいかぁ。あ、店員さんこの季節のパフェお願いしまーす☆」

 「図々しいことだけは分かったわ」

 「新規着任の朝潮に大潮、それに一緒にいて事情を知らない……貴方は荒潮かな?」

 「なっ、なんでそこまでっ」

 「あははっ、当たってるみたいだね☆」

 

 正直、怖い。なんで他所の新人の情報まで事細かに把握しているのだろうか。そう思っていると阿賀野の端末が震える。

 

 「んー?矢矧?もう、後ででいいや。それより……貴方達はどういう立ち位置で127(そこ)にいるのかな?」

 「私はーー」

 「いきなり押しかけて、まともに自己紹介もなしに変な言いがかりをつけるのはやめてください。警察呼びますよ」

 

 ここは大人の私が守らねばならない。

 

 「酷いなぁ、私は貴方達を助けに来たのに」

 「はぁ……?」

 

 何か、前提が狂っている。話がまるで通じない。

 

 「127(そんなとこ)にいちゃ心も体もおかしくされちゃうから辞めるか転属したほうがいいよ?って言いに来たの」

 「訓練は他よりハードらしいですけど、そういう意味ではないですよね?」

 「はぐらかすのかな?」

 「意味がわからないって言っているんです。確かに私達の所属しているところは色々抱えてるのかもしれませんが、着任から数日の私達に詳しく話してはいません。話されても理解する余裕がないですし」

 「ふーん?でもそこの朝潮は知っているみたいだけど」

 「わたーー」

 

 発言しようとする朱里ちゃんを手で制する。

 

 「彼女は着任前から127が好きで勉強熱心なだけよ。去年の一般公開時から熱心に通っていた程だもの」

 「そんなことがある?」

 「朝潮ちゃん年パス」

 「これですか?」

 「半年以上前に発行……?」

 「ちなみに年パス取得者第一号だそうよ」

 「……」

 

 なんのことはない、朱里ちゃんがぶっ飛んでいる例外というだけである。

 

 「詳しいのはそれだけ通い詰めていた朝潮ちゃんだけ。そもそも配属直後の人員に裏の姿だのなんだの教えてる暇がそちらの鎮守府にはあるんですか?正直基礎訓練とかの内容を頭に留めるので精一杯なんですけど?」

 「大潮もそう思います」

 

 正直127は何かしらの秘密がないとおかしいだろうぐらいの鎮守府だと私も思っているが、そんなことを気にしていられる程体が慣れていないのだ。だからこそこの休暇は砂漠のオアシスのようなモノなのである。

 

 「私は楽しいですけど……」

 「朝潮ちゃんがすごいだけだからね?」

 

 この差が普段から訓練時に福山司令官がかけているえげつない圧に慣れているかどうかの差であることを私と大潮ちゃんはまだ知らなかった。

 

 「その上で聞きますけど、新人の貴重な初休暇を台無しにして何しに来たんですか?さっきから発言の意図が何も掴めないんですけどなんでも知っている前提で話すのやめてもらえます?」

 「あれぇ……?」

 「1から順序よく話してください。私達の貴重な初休暇をこれ以上台無しにしないでください」

 

 そこまで押してようやく私達ーー朱里ちゃん以外はーー知らないことを飲み込めたらしいその人は話し始めた。

 曰く、人とは相容れない排除すべき脅威である深海棲艦、そして深海棲艦以外の似たようなものである怪異。私達の日常の裏側にいていつ牙を向くかわからない存在。

 彼女、阿賀野もそれによって家族を全員喪った身でありこれ以上の被害を出さないために戦っているということ。また、彼女の姉妹艦の似たような身の上であること。

 そして彼女らの後援として、世界の裏から人々を護り導く正義の組織、アースガイドという組織が存在すること。

 一方で127はアースガイドとの交流をーー最優の鎮守府である横須賀もグルらしいーー一方的に拒絶し、怪異と手を組んでいる勢力である『組合』や反アースガイドのマザー・クラスタと協力関係を結び、自身も深海棲艦を招き入れるなど危険団体である。

 その上で武力介入に躊躇いがなく、多くの死傷者を出すことも厭わない、人々を護る鎮守府としてあってはならないものである。

 だいぶ熱が入っていたが要約するとそういったところであるらしい。要はそんな悪の組織に参加しないで離脱しろということだそうだ。

 

 「これで分かったかな?」

 「異議があります!」

 

 間を置かずに朱里ちゃんが挙手をする。真面目な子だなぁとぼんやりと見る。情報の洪水で正直疲れていたのだ。おかしい。今日は休息しに来たはずなのに。

 

 「まず、『組合』やマザー・クラスタが人々に危害を加えた証拠がありません!言いがかりです!」

 「それは」

 「次に!武力介入って第二技研やそういう悪い人が裏で集まっていた組織の話ですよね!悪いことをしてきた人達が悪いことをされた人達に恨みを晴らされた、それをそんな風に言うのは間違っています!」

 「でもあーー」

 「そして!怪異は敵だ、深海棲艦は敵だと思う気持ちを否定はしませんが、なんの力も持たない人から見たら艦娘もエーテル能力者も『ヒトを超えたナニカ』になります!

 怪異や深海棲艦を滅ぼしたあと、怖いから貴方達も死んでくれって言われたら受け入れるんですか!?そういう無理解から来るすれ違いが起きてほしくないから、私は一般人から艦娘になったんです!」

 「ーー」

 「どうなんですか?何か1つではなく、全部答えてください!」

 

 一気に論点を並べ立ててずらすことも許さない。これが朱里ちゃんの戦い方だった。というのも訓練校時代に127への悪評を撒いている人々にこうやって食って掛かるのを何度も見ているから冷静に見ていられるのだ。

 

 「私達は人々の為に戦っているのに、否定なんてされるわけがないでしょ!」

 「その手の事例なら……これとこれと、少なくともこの辺りがありますね」

 

 艦娘反対運動。年若い少女を戦争に送るな、だけではなく『艦娘という化け物』を抱えることへの抗議運動。どうせどこかのパトロンの元で活動家をしている連中なのだろうが、そういう動きがないわけでもなかった。代わりに既存戦力で立ち向かえ、と無理なことを当事者ではないから平然と言える連中でもある。これは海外が主なもので、日本国内はかなり早期に横須賀が主軸となって鎮圧したと訓練校で習った。朱里ちゃんはエスカ端末でそれらの具体例をピックアップしていく。

 

 「そういう人たちは間違ってーー」

 「それこそ自分が正しくて他が間違っているという証拠はあるんですか?」

 

 今度は大潮ちゃんが遮る。確かに今まで阿賀野は自分達の正当性に疑いはない前提で話をしてきていた。

 

 「あの人は間違っていない、全人類を憂いているの!だから、正しいよ」

 「あの人?」

 「アーデム・セイクリッド。アースガイドの導き手。彼以上に人々を想っている人なんていない!」

 

 つまるところそれはーー

 

 「狂信者じゃないの。話すだけ無駄だったわね。朝潮ちゃん、大潮ちゃん、行きましょう」

 

 カルト宗教にハマっているそれである。そしてその手合いはさっさと距離を置くに限る。

 

 「待ってーー」

 「そんなやり方じゃあ誰も納得しませんよ。私達の休暇を無駄にしないでください」

 

 そう言い放って私達は席を立った。

 

 

 同時刻 カフェ付近の物陰 江風視点

 

 

 「……出る幕もなかったな」

 「阿賀野姉……」

 

 私は朝潮が速攻で鳴らしていた警報を受けて近くに陣取っていた。話がヒートアップする前に呼んだ矢矧も合流して一緒に聞き耳を立てていた。幸い声が大きかったので楽だった。

 

 「一応言い訳しておくとマジであいつらにはまだ何も話してねェンだわ。基礎訓練でヘトヘトな上に一般業務が多くて覚えることが多いのに更に詰め込めるかよ」

 「そう」

 「それはそれとして反面教師にさせてもらうよ、あの対応。アレで説得に応じるやつがいるかよ」

 「言い訳をしておくと、絶望の淵にいた阿賀野姉を救ったのがアースガイドだったからああなるのも仕方ないのよ。確か、さっき名前が出てきたアーデムさん直々に助け出されたって話だったわ」

 「それをうちのてーとくやらに置き換えたら否定できねェのがこう」

 「言い訳を重ねてしまうけれど、阿賀野姉を止められない理由もそこなのよね」

 「そりゃあまァ……そして阿賀野のいる前でアーデムの名前出さなくてマジで正解だったね」

 「激昂して止められなかったでしょうね」

 

 そう話していてふと気になった。

 

 「普通は組織のトップが前線に出てくることはないと思うンけど……いやうちのてーとくはそういう前提で迎え入れられてるから別だけどさ。そうやってアースガイドの代表ことアーデムに拾われた面子って多いのか?」

 「どうかしら。少なくとも私はそうではないし、能代姉や酒匂を助けたのも私達だったし……ああ、有名どころは今のアーデムさんの右腕的存在の八坂炎雅ね」

 「へぇ?」

 「エスカタワー建設のゴタゴタでテロが発生して八坂一家が犠牲になったそうなの。生き残った彼をアーデムさんが手を差し伸べて、妹さんを養っていくんだと奮起させているって聞いているわ」

 「八坂……その妹の名前ってなんて言うんだ?」

 「え?確か……火継だったはず」

 「ウッソだろオイ」

 「え、何」

 

 八坂火継はマザー・クラスタ仲間の私の友人で、おそらく何も知らない一般マザー・クラスタ構成員であることを伝える。そして2人で天を仰いだ。

 

 「どうして……」

 「兄妹で敵対組織に入ってンじゃねェよ……」

 「ああ、でもそれなら八坂炎雅の行動に納得がいくわ。彼はもう学校に行かないでアースガイド本拠地でアーデムさんの右腕をしていればいいのに東京の学校に転入したのよ」

 「もしかして八坂火継の通っている天星学院?」

 「えぇ……」

 「目的はどっちだ?マザー・クラスタである妹やマザー・クラスタの多いあの学院の監視か?それとも妹が心配なだけか?」

 「彼と交流がないから分からないのよね」

 「ッチ、どんどんややこしくなるなこの辺りの関係性!」

 「半端に知っているとなんで貴方達が渦中にいないのか謎に思えてくるのよね」

 「それで阿賀野の全部知ってるだろムーブなわけね。はぁ、私達127は旧127や130を潰した連中への報復しか考えてないし知らない組織だったンだけどねェ」

 「すごい淵にいたのよね、貴方達というか貴方。そしてそれは八尺様の件かバミューダの件でライン超えをした」

 「バミューダの方だろうな。東条の件で忙しいのに身辺整理も忙しくなってきやがったぜ」

 「説得力はないだろうけど、ちゃんと手伝うわ」

 「マジに頼むよ。とりあえず阿賀野とかが暴走したら一報くれ」

 「えぇ。必ず」

 

 もう一波乱覚悟しておかねばならないだろう。

 

 

 数時間後 ラスベガス アースガイド本拠地

 

 

 『ーーというわけで127の危険性をーー』

 「分かった。後はこちらに任せて欲しい。何か動いてもらう時はエンガから指示を出すよ、アガノ」

 『よろしくお願いします、アーデムさん!』

 「……ということだけど、悪いねエンガ。君にも調査してもらいたい」

 『学院の近場だし別に構わねぇけどよ。立場の違いからの対立なんて今更だろ。何をそんなに気にしてるんだ?』

 「彼らは強大な人類の敵を目の前にしてなお現実を直視していない上で暴走している。世界の平穏を憂う身としては警戒対象として十分だとは思わないかい?」

 『……そういうことにしておく。だが現状わかっている限りでさえ異常な特化戦力だ。下手に藪を突付く真似をする気はないぜ』

 「エンガなりの方法でやってくれればいいよ」

 『……分かった。追って連絡する』

 「頼んだよ」

 

 通信を切った金髪で物憂げな表情を浮かべた青年は独りの空間でため息を付く。

 

 「日本の第二技研に東条に。それらと敵対する君達を気に掛けておくのは道理だろう。その上で人ならざるものとそのまま対話をする。相容れなさそうだね。第127鎮守府、いや立花蒼。オフィエルにも連絡を入れておいたほうが良さそうだ」

 

 まだ誰も知らない。調査を任された八坂炎雅ですら。アーデム・セイクリッドがより第127鎮守府を、立花蒼を危険視していることに。そしてその理由と根幹に。

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