少しファンタシーな鎮守府で   作:朝宮 糸瓜

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 バチバチの戦闘回です。


82話 衝突、阿賀野型

 3月26日 14:00 東京市街地 情報封鎖エリア

 

 

 「今度はこっちか!皆、行けるな!」

 「全員状況ヨシ、なのです!」

 「次から次へと面倒な連中ね!」

 

 ここ数日、私達127のメンバーは東京市街地で戦っていた。話はコハルとライルが来た23日の夜に遡る。

 

 

 23日 20:00 執務室

 

 

 「お久しぶりです、詠さん。直接やってきて我々に依頼とはなんでしょうか」

 「はい、お久しぶりです福山提督も皆さんもお元気そうで何よりです!」

 

 稗田詠。地上で対怪異の事件解決に奔走している表向きフリーカメラマンであり、正体は横須賀所属の死亡の偽装工作を行った戦艦比叡だ。127の非機械的な結界などの特殊工作を依頼している相手でもある。

 

 「要件は私達の手伝いをしてほしいんです。最近、東京の市街地でエーテルが暴走して具現化する事件が相次いでいます。それを蹴散らす手伝いをしてほしいんです」

 「エーテルの具現化?具現武装の類ですか?」

 「具現武装は扱う術者がいますが、今回のものはそういう術者が不在なんです。滞ったかなにかしたエーテルが勝手に集まって具現化した、としか言い様がありません」

 「……ふむ」

 「エーテルによる怪異の活発化はご存じだと思います。今回のものはエーテルそのものが怪異になったと捉えて頂ければ話が早いと思います!」

 「それは確かに重要ですが、原因は?」

 「不明、としか言いようがありません。この数日から突然ひどくなったんです。以前から近しいケースは度々あったんですけれど。無人自動車の暴走事件、目撃事件についてはご存じですか?」

 「響だよ。最近、というかこの1年あたりで聞くようになった都市伝説の類だね。実際の事故は起きていないみたいだけれど」

 「そうです。その正体は暴走したエーテルだったんです。あれらの自動車は一定時間走っていれば溜まったエーテルを消費して自然消滅していたようなんですが、今回は人を害する形をした怪異として現れています」

 「では解決策も同様にエーテルを消費してしまえばいい、と」

 「はい。東京市街地で発生しているのも恐らくはエーテル供給施設のエスカタワーが東京にあるためだと推測されますし、暴走自動車を含めた発生地点もエスカタワーを中心にしています」

 「今のところ表沙汰にはなっていないようですが、どのように対処されているのですか?」

 「エーテルの怪異自体がまず通常人が感知できない空間に具現化し、そのまま濃度を増していくことで人の前に姿を現します。ですのでこの空間に乗り込み発生した時点で叩く、単純ですね。今のところ通上空間に出ての騒ぎは『組合』等の記憶処理でなんとかなっています。アースガイドも活発に動いているようですね」

 「なる程。エスカタワーへの調査も必要でしょうか……とにかく、エーテル怪異討伐の件は了承します。皆さんのいい戦闘経験にもなるでしょうから」

 

 それから現在に至る。現在判明している段階としてはエスカタワーの異常は見られず、原因不明。ただ確かに人手不足を感じる程にエーテル怪異というエネミーが多いということだった。

 

 「今いる面子は……私と電、加賀に海、瑞鳳、羽黒、赤城そしてココ。27年同期組とココってとこか」

 「さっきまでもっと少数単位で動いていたけど、何かあるの?」

 「瑞鳳さん、この先にかなり大きめの反応があります。こちらも数を揃えて対処した方がいいのでしょう」

 「赤城の言うとおりね。逆にここまで大きな反応ならこれを片づければ少しは休憩できるのではないかしら?」

 「補給は輸送車各車両に積んであるから今も準備万端とはいえ、疲れてきたもんね」

 「シャキっとしなさいよ海風!やる前から疲れていては何もできないわよ!」

 「ココちゃんもやる気ですね」

 「よっし、全員出撃!片づけるぞォ!」

 「輸送車は一旦後方へ下がります、皆さん御武運を!」

 「憲兵さんも気を付けて!」

 

 敵は通常の人間より一回り大きい程度の体格のゾンビがヤクザよろしく短刀(ドス)や拳銃(チャカ)を装備したものや、大きいドブネズミ程度の大きさのものが攻撃時にハリネズミのように尻尾を尖らせて回転しながら突撃してくるもの、分身攻撃をしてくる烏のようなもの、無人のブルドーザー、とカオスな面々だった。今回の領域はやたらその数が多い。

 

 「誰のイメージだよこの連中!」

 「夢とかに出てきそうな感じなのです」

 「でも雑魚に雑魚!敵じゃないわ!」

 「ココちゃん油断しないで!」

 

 実際今相手どっている連中は深海棲艦よりもはるかに弱く、攻撃も単調かつ読みやすい。新人組を投入してもいいかもしれない。事実、コハルやライルも投入している。そう思っていると目の前でエーテル反応が強くなった。

 

 「おい、なんか出るぞ……って恐竜!?」

 「なんか上半身を逸らしてってうわーっ!?」

 

 今度出てきたのは恐竜代表のTレックスのようなモノ。仰け反って腹部を露出したと思ったら化石の頭部が出現し、レーザーを吐き出してくるというかなり謎な攻撃をしてきた。流石に直撃を喰らうような間抜けはこの面子には居ないが。

 

 「今度は熊がいます!ってうわっ」

 「ホラゲーみたいに顔が割れて暴れてるー!」

 「真面目に考えていたら頭がおかしくなりそうですね」

 「全員殴り飛ばせばいいのよねぇ!!」

 「ココちゃんが一番最適解なのでは?」

 「そうかも」

 

 その後も現行機に近い戦闘ヘリだの戦車だのと現代兵器タイプのエーテル怪異を相手にしたりと混沌とした戦況が続いた。一番活躍したのはココである。敵はエーテル属性なので深海棲艦に攻撃が通りがよくない為、一方的に殴れるのだ。

 

 「皆注意するのです!より大きな反応が……!」

 「これ以上何が来るってンだよ!」

 『プルルルル……』

 「駅の警笛?電車でも来るって……うわぁーっ!?」

 

 空中に3両分の線路が出現したと思ったらそこを本当に列車が乗り込んできた。そしてそれが絡み合うように動き、長い三つ首の怪獣の姿として変化した。

 

 「こ、これって……トレイン・ギドランなのです!?」

 「電、知っているの?」

 「私の推し監督、べトール・ゼラズニィ監督の最新作『THE LINER』に出てくる怪獣なのです!体の構成は東京回りの電車とかで出来ていて頭は新幹線で――」

 「詳しい解説は後でいい!襲ってくるぞ!」

 

 攻撃は多彩かつ珍奇なものだった。素直に首を突き出したり地面に突き刺す勢いでぶつけてくる他、尻尾部分の車両がぱっくり割れてパンタグラフを展開、放電したり一部車両が変化して除雪機と化して氷をまき散らしてきたりと滅茶苦茶だった。

 

 「けどこいつも他のもだけど、隙を見せるタイミングでダーカーコアみたいにエスカマーク出すな……?」

 「殴ると通りがいいわよここ!」

 「そこも条件が同じか……って待て、また警笛が鳴ったぞ」

 「これは……各自散会!突っ込んでくるのです!」

 「映画に合った演出ってことかー!?」

 

 流石に電車の巨体に轢かれたら大惨事である。全員必死に避ける。

 

 「やって……くれたなァー!『シンフォニックブレイク』!」

 

 その攻撃の後に晒した隙にエスカマークに向かって攻撃を放つ。するとトレイン・ギドランは大きく立ち上がり、くるくると転倒するように倒れて消えていった。

 

 「やったか?」

 「江風ちゃんそれフラグ」

 「やっべ」

 『プルルルル……』

 「江風の馬鹿ー!なんか複数聞こえるよぉー!?」

 「5体……!?」

 「ふざけんなー!?」

 

 追加増援でトレイン・ギドランが5体出現した。やっていられるか。そう思った直後だった。

 

 「『紫電一閃』」

 「きらりーん☆」

 「阿賀野姉に負けていられないわ!」

 「ぴゃーん!」

 「矢矧!?」

 

 トレイン・ギドランの1体が矢矧の斬撃からの阿賀野型の斉射で一気に撃退された。

 

 「お前、どうしてここに!?」

 「ここに大型反応があったから……貴方達と同じね」

 「反応増加!トレイン・ギドラン以外のエーテル怪異が出現しています!」

 「ッチ、兎にも角にもこいつらを殲滅してからだ!ここは共闘でいいよな、矢矧!」

 「ええ!阿賀野姉達もいいわね!?」

 「仕方ないなぁ」

 

 そうして臨時共闘による殲滅戦が開始された。

 

 

 15:00 東京市街地 情報封鎖エリア

 

 

 「ふぅ、反応消滅か」

 「こちらの機器にも反応はないわね。任務達成ね」

 

 およそ一時間の戦闘の末、エーテル怪異の殲滅に成功した。機器のエーテル測定値も大分下がっている辺り、もうこのエリアは大丈夫だろう。だが。

 

 「それじゃあ、今度は君達だね☆」

 「阿賀野姉!?」

 「ッチ、大義名分も何もないと思うんだけどその心は?」

 「今回の怪異騒ぎ、君達があんな放送をしたせいだと思うなぁ☆」

 「既に調べてそこは関係ないって分析結果が出ているンだけど?」

 

 既に半ギレな面々を手で制しつつ何を考えているのか分からない阿賀野に対して言葉をかける。

 

 「考えればわかると思うけどなぁ。今回出てきた怪異は新しくて、人の恐怖や迷信が形になったようなモノ。パニックホラーの怪獣が出てきたのもその証拠だと言えるし、なにより戦車や戦闘ヘリと言った兵器群が新しく出てきた。これは軍事に対する不安に他ならない」

 「大型に絞ればそうだろうけど、頭の割れる熊とか化石頭がビーム出してくる恐竜とかの説明にはならないよね。その理論が通るならこれらも何かしらの私達関連の元ネタがないと可笑しいと思うけど」

 「それこそ恐怖だよ。得体のしれないバケモノ。深海棲艦のような、ね☆」

 「曖昧な認識と不安を持たないように言葉を選んだと思うけど」

 「そんなモノは無駄なんだよ、人々はもっと純粋なんだから」

 「人間はそんな綺麗で純粋無垢な存在じゃないと思うけど。東条の怪異信仰の話を都合よく忘れてる?」

 「怪異に肩入れしているからそんな風に思うんじゃないかな☆それともマザー・クラスタってそういう思想教育がされているのかな?」

 「……アンタにとっては怪異と付き合いがあること、マザー・クラスタであることが何をやってもおかしくないって理論武装になっているわけか」

 「事実でしょう?」

 

 濁流さんと一緒に話した時も思ったが、話がまるで通じない。強力な大前提があって色眼鏡でモノを見ている。そしてその色眼鏡に気付きもしていない。

 

 「マザー・クラスタでもない艦娘をそうやって騙して連れ歩いて、深海棲艦なんかも侍らせて。マザー・クラスタって恥はないのかなぁ?」

 「今ここにマザー・クラスタとしての意識で作戦に参加している奴はいないよ」

 「嘘ばっかり」

 「黙っていれば好き放題ぴーちくぱーちくうるさいですね」

 「……羽黒?」

 「阿賀野さん、貴方には私がどう見えているんですか?ただただ巻き込まれたかわいそうな被害者?何も知らない愚者?どうなんですか?」

 「被害者だね☆こんな悪意のある人たちに振り回されて疲れない?私達101に来ればそんな提督からもマザー・クラスタからも深海棲艦からも苦痛からも解放されるよ?そう、アースガイドなら」

 「瑞鳳ちゃん」

 「うん、艦爆隊発艦」

 「主砲構え。目標、阿賀野」

 「「ってぇー!!」」

 「えっうわっ!?」

 

 問答無用で羽黒と瑞鳳の攻撃が阿賀野相手に降り注ぐ。流石に直撃はしなかったがかすりはしている。それを見て嘆息する。

 

 「矢矧、お前の姉って地雷でタップダンスするのが得意なのか?」

 「いや、えっと」

 「好き放題っさっきから言って、私達を勝手に除外して!私達は特殊能力がなくても自分の意思でここにいますし一緒に戦うって決めているんです!それを汚さないでください!」

 「なーにがそう、アースガイドならぁ、よ!結局自分が妄信している思想に酔っぱらっているだけのへべれけじゃない!分解剤でも飲んで出直してきてよ!あぁ~、むかつくなぁ~!」

 「「江風」」

 「おう」

 「私達が潰していいよね?」

 「一応相手はネームドだから他の面子もつけておけ?阿賀野型姉妹で一番ヤバいのがアイツだぞ」

 「江風、貴方も止めないの!?」

 「こいつらの怒りを止める権利なんて私にはないよ。矢矧、悪いけど付き合ってもらうよ。どうせどこかでぶつかるんだ。周辺被害の出ないこの空間でやるのがベターだろうね」

 「他の貴方達も!こんなことをして誰に迷惑をかけるかわかっているの!?」

 「?司令官さんは許可を出すと思うのですけど。だって私達の選択なのですから」

 「旧陸軍みたいな言い方になるけど、それで困るのは家族なのよ!?こんなテロリスト然に暴れたらそんな奴の家族だって――」

 「『ラストネメシス』」

 「きゃあっ!?」

 「ぴゃあっ!?能代お姉ちゃん!なんで今ので撃つの!?家族は大事って当たり前でぴゃん!?」

 「家族に愛されてその家族愛を至上として信じて疑わない姉妹、能代と酒匂。話には聞いていたわ」

 「喧嘩売るならもっと調べてこいなのです。こちとら家族に憂さ晴らしに虐待された挙句敵に家族特権で情報を売られた娘と!」

 「愛情を注ぐこともしないクソ親と」

 「愛情を注いだ気になって都合のいい玩具として振り回していた同じその親の娘の姉妹です」

 「なら私も参戦していいわよねぇ!深海棲艦に生まれたけど人間とやり合うつもりがなかったらクソみたいな連中にクソ怪異にと占拠されてずっと地獄の中にいたのを救いあげられたのがどんな気持ちだったのかを考えもしないで侍らってる扱いするようなクソ女に一発入れるのぐらいねぇ!」

 「ねえ江風。私どこに参戦しようかなぁ」

 「阿賀野と能代・酒匂姉妹の分断を頼むわ。総合指揮の取れる阿賀野と連携が得意な能代・酒匂姉妹の強みを発揮させたくない」

 「うん!……あれ、江風は?」

 「矢矧、『物語』に載せられて暴走している姉妹については同情するよ。だけど私達は怒りを軸に戦ってる。そんな中で地雷を的確に全部踏み抜いたお前の姉妹共をぎゃふんと言わせなきゃ気が済まない連中ばかりだし、止めるのは無理だ。お前にはその気はないだろうけど、ここで戦わなきゃお前の地位も危ないだろ。だから……久々にサシで付き合えよ。海、こっちは任せろ。阿賀野は指揮能力に、能代・酒匂は連携に優れてる。組み合わせるのがまずい。頼ンだぜ」

 「うん!」

 「そうね、私じゃ阿賀野姉達を抑えられない。この戦いも止められない。けれど、貴方達がどこまで本気なのか察しあぐねているのも事実よ」

 「仲間の分の想いまで私が刃に乗せる。こういう時は刃をぶつけ合って確認する方が手っ取り早いだろ?」

 「……そうね。それに以前は混乱しながら押し切られたけど、そのリベンジもしたかったし。受けるわ、その戦い」

 

 私と矢矧、羽黒、瑞鳳、ココと阿賀野、電、加賀、赤城と能代、酒匂。分断を海。この面子で非対称戦ではあるが戦闘が始まった。向こうが圧倒的にベテランなのだから数がという言い訳はさせる気はない。私はまあ、腕試しだ。

 

 

 対阿賀野 羽黒視点

 

 

 「沈んでください!」

 「殺意高いね☆」

 「ああもうあの余裕の口調むかつく~!」

 「ぬぁあ!ふぉあ!ぬぅん!」

 

 私達3人は完全に切れながら攻撃を殺到させていた。だが相手はネームド「一番星」。そう簡単に倒れてはくれない。

 

 「おいぶち切れ対阿賀野班!おちょくられて切れたらアイツの思うつぼだぞ!表は冷静に芯を熱くしろ!卯月の姐さんも言ってただろ!挑発に対するのは冷静な殺意だって!」

 「そうだけど~!」

 

 怒りを隠しきれていない瑞鳳ちゃんに阿賀野が武装を持っていない指を差す。特殊能力こそないがそんな私でも戦闘の勘は鍛えられていて、警告を発する。

 

 「瑞鳳ちゃんそこから逃げて!」

 「ッ!」

 「きらり~ん☆」

 

 ズドン、と大きな音を立てて瑞鳳ちゃんのいた地点が爆発する。瑞鳳ちゃんは間一髪で避けた。

 

 「しょうがないから皆黙らせるしかないかな☆」

 「物理的に爆発させられるから「一番星」なんて2つ名なの!?」

 「私を忘れてんじゃないわよおおお!」

 「深海棲艦は沈めなきゃね」

 「ぐっ、このおっ!」

 「ココちゃんいったん離れて!『ラ・ザン』連発!」

 「きゃっ、うん、視界が……!?」

 「今だよ皆!適宜支援するから!」

 「海風ちゃんありがとう!」

 「一気に畳みかけます!」

 「反撃の時間よねぇ!」

 

 確か海風ちゃんのテクニック、『ラ・ザン』は敵を巻き上げるのと認識障害を起こす状態異常『ミラージュ』を引き起こすのに適したものだと聞いている。ちゃんと狙えなければあの爆発の脅威も下がるだろう。

 

 

 対能代・酒匂姉妹 電視点

 

 

 「僻むつもりはないんですけど、ね!」

 「流石に頭に来ました」

 「家族事情が悪いなんて話は今ではいくらでも聞けるでしょうに、幸せな家庭の押し付けだなんて!」

 「喪った家族への侮蔑をこの能代、許すわけにはいかないわ!」

 「ぴゃん!酒匂もだよ!」

 「家族に裏切られた挙句、事情を聞こうとしたら目の前で死なれて最期の最期まで謝罪の一つも聞けなかった奴にいうことかぁ!」

 「「!」」

 

 人の心が読めるから人間不信に陥るのと同時に、確かな家族愛の中で幸せに生きている人を観測して羨むことがなかったわけがない。だけれど、それを叩き棒にして振りかざすのを許せる程私は人が出来ていない。とはいえ強豪鎮守府のエース、怒りを原動力にしてもそうそうどうにかできるものではない。

 

 「羨ましいわね。妬ましいわね。そして悍ましいわ」

 「人生を玩具にされたこともなかったんでしょうね。その上で喪ったという話ですから、さぞかし美しいまま記憶に残っているのでしょうね」

 

 加賀ちゃんと赤城ちゃんの嫌悪もピークに達している。ただ、その二人の連携攻撃ですら的確に連携して捌かれている。このままだと先程の戦闘もあり、弾薬が尽きてしまう。

 

 (電ちゃん、加賀ちゃん、赤城ちゃん!10秒後に支援法撃を行います!それまで耐えて!)

 「「!」」

 

 YMTコーポレーションの萩斗社長が試作段階のアプリを流してくれていた。その名も「トラトラ♪」。言葉に出さなくても意思疎通ができる補助アプリで、主に興行時に厄介な客に絡まれた際に表向きバレないように憲兵さんを呼べるシステムとして仮導入をしているものだ。これによって敵にバレずに意思疎通を行える。

 

 (3、2、1!)

 「構え直すのです!」

 「『イル・フォイエ』!連発~!!」

 「きゃあっ!?」

 「ぴゃん、目も耳も滅茶苦茶だよ!?」

 (電、『ウィークバレット』を能代に)

 (加賀の後にまとめて爆撃します)

 (お任せあれなのです!)

 

 爆発の中心で連携どころか耳目を奪われた能代・酒匂姉妹に対して「トラトラ♪」で無言で正確な連携を行える私達。練度の差はあってもこれなら負ける気はしない。

 

 

 対矢矧 江風視点

 

 

 「へっ、皆上手くやってるな。海のアシストが効いているぜ」

 「戦闘経験1年程度なのよね?それなのに強いわね」

 「怒りと克己心で逆境を芯に戦ってきた面々だからね」

 「本当に侮っていい相手じゃなかったわね。散々忠告したのだけどいざ本人を目の前にしたらああなってしまったわ」

 「他の鎮守府メンバーを引き連れていないだけマシ……いや、他の戦場に居るのか?」

 「ええ。あくまでも支援要因だけれど」

 「こっちも各小隊にばらけて戦っているよ。そっちと違ってメインアタッカーだけどね」

 「普通なら身内を信じるところなんだけど……私達の負けね。妄信的に正しいと思ってる前提が地雷だったんだから想定以上の猛反撃で対処しきれていないもの」

 「矢矧はいいのか?そのまま見捨てて」

 「私を向かわせないように陣取ってそれを言うの?いいお灸だと思っておくわ」

 

 矢矧は非常に冷静でいるようだった。

 

 「でも、ただの妄信お馬鹿集団と思われるのも癪だから皆の分までこの刃に乗せる。貴方も仲間たちの想いを刃に乗せて」

 「おう、そうでなくっちゃな」

 

 ただ、私達の間にも戦わないという選択肢はない。どこかでやりあうというコミュニケーションが必要だったのだから。

 

 「まずは一撃。全てを載せて。その上で雌雄を決しましょう」

 「ハッ、状態異常付与攻撃の大技でそれを言うか?乗ったよ。江風!」

 『きひひっ、そうでなくちゃなァ!』

 

 通常では受け切れない大技、『紫電一閃』。それに応えるには『ゾーン』に入る必要がある。『ゾーン』の消耗も大きいしそもそも大技を受ける想定で鍛えていないのでその後が不利だが、心置きなく戦ってやる所存だ。

 

 「全てを込める!『紫電一閃』!」

 「エーテルよ、想いを全部載せろ!迎撃だ!」

 

 バチィ、と刃が交差した瞬間雷と火花が派手に上がる。そして伝わる。阿賀野がどれだけ絶望に居て、どれだけアーデムに救われてきたのか。それを今度は皆に返していきたいのか。能代と酒匂がどれだけの愛情を受けて来たのか。それを忘れないために、新しい家族である阿賀野型姉妹をどれだけ大事に思っているのか。そんな姉妹達を眩しく思い、絶対に見捨てないと誓う矢矧の心の強さが。

 代わりに私は返した。羽黒や瑞鳳がどれだけの仕打ちを受けて127に来たか、特殊能力を得られないと分かっても置いてけぼりは嫌だと人一倍訓練に明け暮れて隣に立つべく努力してきたことを。ココがどれだけの絶望から引き揚げられ、127での生活を愛しているということ、そんな彼女を送り出してくれた艤装島への想いを。電が家族に裏切られ続け、摩耗しながら普通に憧れ続け、そんな彼女を受け入れて頼ってくれるてーとくを始めとする127をどれだけ愛しているかということを。偏った自己満足の愛に苦しんだ加賀と赤城がどれだけそれから解放されたことが大きかったのか、だからこそ好敵手として互いに切磋琢磨して自分らしい人生を取り戻せたことを。海が不遇から拾い上げられて束の間、また酷い環境下に置かれて苦しみ抜いた末に127に辿り着き、どれだけ救われたのかを。私がそんな仲間たちをどれだけ信頼して背中を、全てを預けられる相手として見ているのかを。

 

 「……」

 「……」

 

 たっぷり10秒。お互いに載せた意志をじっくり受け止めて再びお互い構えなおす。

 

 「だから負けられない、加減も出来ないわ」

 「お互い様だ。手ェ抜いたら否定になっちまう」

 

 そして私と矢矧の全力での戦いが始まった。

 

 

 30分後

 

 

 「ぜぇ、ぜぇ……!」

 「ふぅ……!」

 

 小手先、正攻法、奇襲に迎撃。持てるものは全て出し尽くした。だが、まだお互い倒れずにいる。お互いに意地があるのだ。仲間の分まで戦うのだと。

 

 「最後の、一撃に全てを賭けるわ……!」

 「江風、後は考えなくていい、出し切るぞ!」

 『きひひひひっ!楽しい戦いも終わりかァ』

 

 「「はぁっ!」」

 

 もう戦技もなにもない一撃の応酬。防御を考えずに相手に叩き込むことだけをお互いに考えていて。

 

 「……見事ね」

 「こっちの、セリフ……」

 

 その一撃で同時に倒れて意識を失ってしまった。

 

 

 さらに30分後

 

 

 「んう……」

 「江風、起きた?」

 「海?……膝枕?」

 「良く寝れた?」

 「良く寝れたよ。どうなってんだよお前の体のフィット感」

 「えへへ。江風専用だよ」

 「彼氏にもとっておけよ!この彼氏持ち!!」

 「起きたのね、江風」

 

 声のする方に膝枕をされたまま顔を向けると同じく阿賀野に膝枕をされた矢矧が目に入った。

 

 「引き分け、ね」

 「そして色々と収まった感じか?」

 「えっとね、2人がやり合っている間に他の戦いは全部終わっていて、2人の攻防から皆の想いがそれぞれに伝わったの」

 「ははっ、それならやった甲斐があったってモンだ」

 「うぅ、認められないよ~!私達のが強いんだってもっかいやれば分かるよぉ!」

 「分断されていた時点で無理よ阿賀野姉。私達連携してナンボの前提でしょ」

 「その分だとだいぶ熱は冷めたみたいだな、そっちも」

 「マザー・クラスタは敵だし私達アースガイドが正しいって思いは変わらない。だけど、127がただの尖兵だったり巻き込まれたかわいそうな子の集まりだって認識は変わったよ」

 「やったじゃンかさ、矢矧」

 「えぇ。後は調べていきましょう。私達を巻き込んでいる大本の存在をね」

 

 その後お互いの回収部隊が来て各自撤収となった。私と矢矧は数日は戦えない身となってしまったがそれだけの価値はあっただろう。




 MVPは海風。
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