少しファンタシーな鎮守府で   作:朝宮 糸瓜

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 思いっきりPSO2EP4の第1章~2章に抵触する部分です。ネタバレご注意を。


83話 八坂火継の選択

 3月27日 20:00 第127鎮守府 江風達の部屋

 

 

 101との戦いの後、私は無茶により数日の間の戦闘禁止を言い渡された。実際、エーテルを扱う器官――そんなモノは存在しないが――が痛みを発しているような気怠さを覚えている。

 

 「うん?メール着信?ハギトさんからだ」

 「電にも来ているのです」

 「私もね」

 「私も!えーと?内容は同じかな?」

 

 ――夜分遅くに失礼するよ。これはマザー・クラスタの亜贄萩斗からの連絡であり、マザー・クラスタではなく127の協力者である亜贄萩斗であるから義理を通すための連絡だ。君達もマザー・クラスタの一部がアースガイドと戦闘を行っていることを知っているだろう。マザー・クラスタ金の使徒である私もその一人であることをまず告白するよ。

 ――そして本題だ。私はマザーからある依頼を受けた。先日22日、PSO2にアクセスした八坂火継が正体不明の少年を連れ帰った。その確保をしてほしい、とね。これはまだ他のマザー・クラスタのメンバーには明かされていない情報であり、君達が関わることもないだろう。だけど、君たちのスタンスはよく理解しているつもりだ。

 ――明日私は八坂火継と接触し、反応を見た上で明後日その少年を回収する。もし彼女が反抗的な態度を取ったら有無を言わさずに、ね。私の行動に手を出さないのであれば、というより我慢が出来るのであれば、それらに君達を同行することを許可しようと思う。君たちの言う『物語』の一環ではないか、と思っているからね。

 ――響君から伝えられていると思うけれど、君達127はマザー・クラスタを妨害しない約束になっている。それを厳守できるなら、介入せずに見守れるなら来るといい。出来ない場合はこちらで行動した上でその内容を後日響君に伝えるつもりではあるよ。

 ――返答を待っているよ。亜贄萩斗。

 

 「「……」」

 

 随分と穏やかではない話だ。まるで暴力的な手段を行使して少年を拉致すると宣言しているようなものである。そしてそれを手を出さずに見守れるなら見学してもいいという内容。それが出来るのは……

 

 「なんでハギトさんが火継ちゃんを襲う流れになるんですか!?マザーは一体何を考えているんですか!?」

 「PSO2から、って言うのも謎ね。22日ってそこそこ日数が経っているけれどアークスからの連絡なんて来ていないわ。つまりアークスではない誰かを連れ帰ったということ?」

 「でも、親しい人同士での争いに手を出さないで見守るって言うのも……ううん……」

 「私が行くよ。そもそも数日は手を出せない体だからね。いいタイミングで消耗したというかなんというか。で、この件をてーとくから話がなかったってことは情報が来てていても響の姐さんで止めているってことだと思うからてーとくへの報告も後にした方がいいね。争いの後にはすぐ連絡するけど」

 「江風……」

 「心配するなよ海。ただ見て帰ってくるだけだよ。それにこの件は不可解な点がもう1つある。八坂がおそらくその少年についてマザーに報告していないであろう点だ」

 

 私たち以外のマザー・クラスタ構成員はマザーに対して盲目的な忠誠と信頼を寄せていると言っても過言ではない。もし、マザーに見いだされなかったらと思えば恐ろしいし、マザーの言うことに間違いはないからだ。少なくとも、構成員はそう信じているしそのマザー麾下の天星学院生徒会――伝統的に構成員は全員マザー・クラスタである――はそれが顕著だ。その中で次期生徒会長である八坂火継に関しては言うまでもないレベルであるはずだ。

 それでもなお、八坂火継が直接引き渡さずハギトさんの手を煩わせて回収するという手間が発生しているということは彼女の思考に何かしらの待ったをかけるほどの何かがあったということである。

 

 「そういえば火継ちゃんが報告しないなんてあり得ないのです」

 「そうね、自分の考えにまっすぐではあるけれどそれはマザーに全幅の信頼を置いている前提があるはず」

 「じゃあ、何が……」

 「行けば分かるさ。行って、確かめてくるよ」

 

 その後2日間の休暇及び外出の許可を得てハギトさんに同行する旨を伝えたのだった。

 

 

 3月28日 13:00 東京市街地

 

 

 私はハギトさんと合流して天星学院付近の東京の街に繰り出していた。艦娘への変身は解除してある。

 

 「ハギトさん、ここに八坂が来るの?」

 「ああ。鷲宮氷莉が弊社アプリを使ってショッピングをして、さらにこの後店の予約までしているからね。筒抜けさ」

 「アプリ開発者とはいえそれっていいの?」

 「マザーの指示だからねぇ」

 「つまり、八坂は何か隠しているけどマザーには筒抜けってことなんだ」

 「その通りさ。さて、先に店に向かうとしよう。それと」

 「それと?」

 「付近のエーテルインフラに妨害を。邪魔が入らないようにね」

 「マザー・クラスタがエーテルインフラの一部管理を担当しているって聞いてはいたけどえっぐいなァ。まあ非エーテル結界やらなにやらしたり色々グレーゾーン突っ走ってる私が言えたことじゃないけどね」

 「理解が早くて助かるよ。では、行こうか」

 

 

 14:00 東京市街地 とあるカフェ

 

 

 八坂火継、鷲宮氷莉、そして少年ことアルはそのカフェで昼食を取り終えていたところだった。

 

 「ふー、食べた食べた!おなかいっぱい、大満足だよー!」

 (アルもあたしたちと同じように、ケーキやドーナツをばくばく食べてた。そう、あたしたち人間と同じように食事を取ってるし、笑うし、驚くし……。やっぱりアルやあの世界は……)

 「?」

 「ああっと、なんでもない。お茶でも飲んで、のんびりしましょ。えっと店員さんは……」

 「飲み物でしたら、これをどうぞ。私からのプレゼントだよ」

 「飲み物3名分+2名分、どーぞっと」

 「あ、えっと…………あなたは?それに蒼?」

 「ああ、ああ、お気になさらず。感謝したいのは、むしろ私のほうさ。美しいお嬢さん方とお茶をする。それはとてもインスピレーションを刺激する。いやいやまったく、私もキミたちも幸運だ」

 (何言ってんだこの人)

 

 打合せにはないレベルで謎の気持ち悪さを醸し出しながら喋り始めるハギトさんにどこから突っ込めばいいのか、というか突っ込んでいいのか悩むところである。

 

 「なんか変なのが来たけど、氷莉、あなたの知り合い?というか蒼は何してんの?」

 「ち、違うよっ!こんな変態さん、わたしも知らないよ!」

 

 2人はひそひそ話にしては大きめな声でやりとりしている。まあ、気持ちはすごい分かるが。私の目が死んでいくのを自分で感じている。

 

 「お嬢さんたち、ひそひそ話かい?ダメだよ、声が漏れてしまっているぞ?」

 (指摘するところそこなんだ?)

 「そんなキミたちにお勧めしたいのが弊社開発のアプリ「トラトラ♪」だ。このアプリは自信作さ。文章を打たなくてもアプリを起動し、思うだけで相手に言葉が伝わる!テレパス気分になれるアプリなのさ」

 「あ、そこで売り込むんだソレ」

 

 試験運用として127で活用しているアプリ「トラトラ♪」。先日の対エーテル怪異との戦いでも重宝した。対深海棲艦相手でもノータイムで相手に悟らせずに通信が行えて連携できるのはとても有力な手段だと言える。

 

 「他人に聞かれたくない内緒話にうってつけ。そして、内緒話と言えば高校生。高校生と言えば花の女子高生」

 (そういえば一般向けでもそういう需要があるンだ)

 「本リリース前にキミたちに使ってみてもらって使い勝手を知りたいのだが……どうだろうか?」

 

 そう言ってハギトさんは八坂と鷲宮の目の前にアプリを起動した端末をそれぞれ置く。この辺りで私の存在は八坂達から抜け落ちている様子だった。

 

 (何このキモい人。モニター目的だとしてもキモい。どっかで見た気がするんだけど……。ねえ、本当に氷莉の知り合いじゃないの?)

 (わっ、わたしに押しつけないでよー!……どっかで見たような気がするけどわたしも知らないよ、こんな人!)

 (実は生き別れの兄弟だったりしない?)

 (こんな気持ちの悪い家族はいないよ!)

 (……ま、兄弟で行動が似ていたとしてもここまで露骨に気持ち悪く迫ってきたりはしないよね。ごめんごめん)

 (ヒツギちゃん……。こんな気持ち悪い人とわたしの行動に似てる部分を見いだしてたんだね……)

 

 なおモニター用機なので私とハギトさんには筒抜けである。いつも通り直球だなぁ、と思うのと同時に八坂はとりあえず変なモノは鷲宮関連だと雑に投げているがそれはどうなのか。逆に普段の鷲宮はどれだけ変態ムーブをしているのか。と思うと我慢ならなくなったのかハギトさんが立ち上がる。結構繊細だからなぁ、この人。と思いながら様子を見守る。

 

 「……キ、キミたちっ!裏でこそこそ他人を卑下したりするのは良くないことなんだぞ!」

 「なによ、思いっきり傍受されてるじゃん。全然ダメじゃない、このアプリ」

 「開発者なんだから当たり前だろう!モニターと言っただろ、モニターと!まったく……最近の女子高生は全然遠慮がなくておっかないなあ。…………だが、それがいい」

 

 そう言いながらハギトさんは端末を回収する。

 

 「氷莉ー、警察呼んでー。ヘンタイがいるー!って叫べばすぐに来てくれるはずだから」

 「躊躇ないねキミ!」

 「へ、ヘンタイがいるー!!」

 「そっちのキミも少しは躊躇えよ!」

 (私人逮捕しても良い気がしてきた)

 

 それとやっぱりどう取り繕ってもハギトさんは突っ込み属性のようだ。

 

 「まったく……そんなの来るわけないだろう。ここら一帯のエーテル通信にはすでに制限がかけてある、通報は無駄だよ」

 

 それを裏付けるようにここから見えるビルについた大型モニターが暗転している。非エーテルの通信は可能ではあるが今の時代、それを行う人など皆無である。

 

 「こう見えても私、結構有名人なんだ。騒ぎになって人が集まったら面倒だから外出時は周辺に通信制限をかけているのさ」

 「……犯罪者ってこと?未成年に対するあれこれの罪状で?」

 「違うよ!ほらこれ、名刺!」

 

 ここでやっとハギトさんが自分の正体を明かす。というか、不審者に対してかなり強気に出られる八坂達の度胸もすごいな、と思う。普通はもっと怖がるものだった気がするのだが。

 

 「亜贄……萩斗?YMTコーポレーション代表取締役社長って、なんかどっかで聞いた名前ね」

 「YMTコーポレーションってこの前アルくんの服を買う時に使ったアプリ。あれを作った会社さんだよ」

 

 それを聞いてハギトさんが立ち上がり大げさな身振り手振りを始める。

 

 「そう、エーテル通信時代の最先端を走るYMTコーポレーションの若き社長にして時代の寵児!それがこの私、亜贄萩斗さ!」

 「そんでその提携先の鎮守府所属の立花蒼でーす」

 「……ああ、あのミリタリ―オタクの人か。そんな時代の寵児さんが、あたしたちみたいなただの女子高生に何用ですか?というかまだいたの蒼」

 「ずっといたよ」

 「……ただの女子高生、ねえ?」

 

 ここでハギトさんの雰囲気が変わる。

 

 「何か不満でも?」

 「いいや、なんでもないよ。美しい二人のお嬢さん、ご協力ありがとう。また会える日を楽しみにしているよ」

 

 そういって会計用レシートを持ってハギトさんは退出していった。私はフェードアウトしつつ3人の様子を窺う。

 

 「……なんだかあの人、イヤな感じ」

 

 ここでアル少年が初めて声を発する。

 

 「そうだねアルくん、ヘンな人だったねー」

 「まるで、氷莉みたい」

 「そうね」

 「アルくん辛辣ッ!火継ちゃんも同意しないでよッ!?でも……火継ちゃん。今の人、本当に何だったんだろう」

 「……正直さっぱり。でも一つだけ、わかってることもあるわ。あたしたちのお茶代、浮いた」

 

 図太くそう締めくくる八坂。それを見て私はハギトさんの元へと戻った。

 

 

 東京市街地 カフェ外部

 

 

 「ハギトさん、あれで良かったんですか?ただの不審者ムーブになってましたけど。それと、私から見ても滅茶苦茶気持ち悪かったです」

 「キミも躊躇いなく言うねぇ!?……言っただろう?今回は視察。彼女たちがまだ平穏だと思い込んでいる日常に楔を打つことが今回の目的さ」

 「それで明日の回収、と。確かにインパクトは十分でしたね。……それと、あの回収対象のアルって少年。小学生ぐらい?どこかで見覚えが……」

 「ほう?」

 「あ。八坂のPSO2におけるアバター!見てくれとボイスがそっくりだった!じゃああのアルって八坂のアバター?でもなんで……」

 「だからこそ回収しろとのお達しの様だよ」

 「成る程。兎に角、明日ですね」

 

 PSO2にアクセスする際のアバターは基本的に自分とは異なるものにする。自分の見てくれそのままで登録した橘イツキのような人物の方が稀である。というか常識に欠けると言っていいだろう。八坂はそういうショタキャラが趣味なのか、金髪碧眼の少年アバターにしていたことを思い出す。鷲宮は割とそのままだった記憶がある。そのおかげで自分の常識を疑った記憶もある。

 

 

 3月29日 天星学院 運動場 12:30

 

 

 私とハギトさんはここで待機していた。ハギトさんは少し前に学院高等部の生徒会室に足を運んでいた。ハギトさんは5年前の生徒会長を務めていた為、OBとして顔を出すことが出来るのだそうだ。つまり、彼がマザー・クラスタであることの自白も兼ねている。そして、八坂や鷲宮に自分たちがマザー・クラスタであることを再認識させることも含まれている。そうしてそれを終えたハギトさんと合流して今に至る。私は流石に部外者なのでその場に立ち入りはしなかったが。

 

 「ン、エーテルインフラをまた弄ったンですか?」

 「あぁ、これはマザーが、だけどね」

 

 エーテルインフラが遮断されている。事を起こすには最適なシチュエーションだが。

 

 「……!この感じ、エーテル怪異!?」

 「心配しなくていいよ。あれは味方だから」

 「え……」

 「ここからは私が単独でやる。そこで見ていると良い」

 「……はい」

 

 物陰に隠れつつ待機していると鷲宮が八坂の手を引いて運動場に入ってきた。その後ろにはアルもいる。

 

 「氷莉……ここ、本当に安全なの?あのバケモノ、どこから出てくるかもわからないのに……」

 

 あのバケモノ、とはエーテル怪異のことだろう。

 

 「火継ちゃん、聞こえてないんだね……。……マザーが全部教えてくれてるのにどうして、火継ちゃんには聞こえてないの!?」

 

 激昂する鷲宮。ちなみに私もマザーからはなにも聞こえていない。ハギトさんの好意で居合わせることが出来ているだけだ。そしてそこにハギトさんが話に混ざりに行く。

 

 「だから言っただろう。その子は裏切り者で、マザーから見放されてしまったんだよ、ってさ」

 

 先ほど生徒会室に先行していたのはこれを鷲宮に吹き込むためだったようだ。

 

 「あんたは……!」

 

 ハギトさんが具現武装の要領で白と青の制服、「使徒」の姿に変わる。

 

 「改めて自己紹介しようか、お嬢さん。私はハギト、亜贄萩斗。マザー・クラスタ、金の使徒さ。マザー・クラスタの幹部って言えばイメージしやすいかな?」

 「幹部……?金の使徒って……何?マザー・クラスタは「エスカ」の管理を行うマザーに選ばれた人たちで……!」

 

 私の見立て通り八坂は何も知らない一般マザー・クラスタ構成員だったようだ。そしてエーテル怪異が八坂達を取り囲む。

 

 「「エスカ」の管理を行う、だけ?その程度のわけがないだろう?今や、全世界の通信技術はエーテルによってまかなわれているんだよ?……そのエーテルを発見し、技術を伝え世界に普及させたのが、マザー・クラスタ。マザー・クラスタは世界に繋がっている。

 私の会社を大きくしたのは……もちろん私の開発力によるものが大きいけれども……ま、いろいろ便宜は計ってもらったかな。大企業や各国政府の要人にもマザー・クラスタのメンバーは存在する。……この意味が、わかるかな?」

 

 実際、127が情報攻撃を受けた際に巻き返せたのはそういった大物ポジションに就いているマザー・クラスタのメンバーによる恩恵だった。

 

 「なによ、それ……!それってつまり、マザー・クラスタが世界中を支配してるってことじゃない……!」

 「……火継ちゃん、違うの。そうじゃないの。マザー・クラスタは、支配してるんじゃないの。世界を裏から支えてるの。マザーがそう、言ってたんだよ。マザーがそう、教えてくれたんだよ」

 

 詭弁だ、そう叫びたかった。この行いに、「正しさ」は私は見いだせない。そしてやはり、鷲宮はマザーに盲目的すぎる。マザーが白と言えば黒も白になるような言い草だ。

 

 「氷莉……」

 

 唖然とする八坂。ここで肯定しない辺り、やはり八坂には何か考えを改める大きな何かがあり、それがアルという少年にも関わっているのだろう。

 

 「このバケモノも全部、あんたが操って……氷莉まで……!」

 「おっと、勘違いしないでほしいな。私は氷莉ちゃんまでは操っていないよ。彼女は、彼女の考えで動いている。マザーから連絡を受けて、キミを救おうと思っている、それだけだよ。ねえ?」

 「……火継ちゃん。お願い、何も言わずにアルくんを渡して」

 

 昨日、あれだけアルに親しげだった鷲宮からの言葉とは思えない。

 

 「そうすれば、マザーは火継ちゃんを許してくれるって言ってたから……マザーは絶対に、約束を守ってくれるから……」

 「アルを、マザーが求めてる……?どうして……!?」

 「そんなの……そんなのどうだっていいのっ!!火継ちゃん、お願い火継ちゃん……!アルくんを渡して、いつもの日常に戻ろ?」

 

 鷲宮は『八坂と過ごす日常』に執着しているようだ。冷静になって考えれば、アルを渡してはい、元通りとなるわけがないのに。そう信じることでしか保てない様子だ。

 

 「……お姉ちゃん……怖い」

 「アル……」

 

 しばし黙考した八坂は怯えるアルを庇う動作に出た。八坂は、「考えて選んだ」ようだ。

 

 「火継……ちゃん……どうして…………」

 「ほんと、この状況でどうしてこんな選択をしたのか、あたしも聞きたい。合理主義者のつもりだったんだけどね……。……でもね、何もわからない状況でもアルはあたしを助けてくれたの。あたしだって、見捨てることはできない!」

 (八坂らしいな。眩しいぐらいだ)

 

 そう思う。自分で考えて、貫き通す。彼女はそういう人間だ。そして今回はマザーという絶対的な指針すら放棄して見せたのだ。

 

 「下がってなよ、氷莉ちゃん。キミの役目は終了、ここからは、私の役目」

 「待って!火継ちゃんは騙されてるだけなの!話せば、きっとわかってくれるから……!」

 

 ハギトさんが前に出る。それにすがるようにして止めようとする鷲宮。それを乱暴に振り払うハギトさん。

 

 (ッ!)

 「氷莉!」

 「学生のお遊戯は終わり。ここからはビジネスなんだよ、お嬢さん。私とマザーの契約に従ったビジネスだ。私の仕事は、そのアルという子を回収し、マザーの元に届ける。スムーズな仕事こそ、私の信条。すべて効率よく、手を煩わせず、簡単にまるでアプリをいじるかのように、さ」

 

 そういってハギトさんは自身の具現武装であるエメラルド・タブレットを取り出す。

 

 「光り輝く、タブレット……?」

 「へえ、コレが見えるんだね。マザーが目をつけるだけあって大したエーテル適正じゃないか」

 

 そういえばちゃんと力を込めていないと具現武装は非エーテル適正の人々には見えないんだったな、と思い返す。

 

 「これは、エメラルド・タブレット。幻創種を精密指揮し、能力の底上げや改造量産もお手の物とする、私の具現武装さ」

 

 ハギトさんはそう言いながら自信の背後に戦闘ヘリや戦車を召喚する。エーテル怪異は幻創種というカテゴリ名があったのか。

 

 「あのバケモノを、生み出した……!?」

 「おいおい、ここまでの説明を受けてなおエーテルが通信だけに使われるものだと思っていたのかい?エーテルの使役とはすなわち空想の具現。エーテルを掌握すれば、このように自分の軍隊を創り出すことも、容易なんだよ。……さあ、私の部下よ。私の手となり足となり無駄なく効率よく、仕事を完遂しろ」

 

 その命令を受けてゾンビ型のエーテル怪異こと幻創種が八坂を襲おうと手を振りかざす。八坂も身構えて――

 

 「……お姉ちゃん!」

 

 アルの小さい声に彼女は応えた。

 

 「あたしは、守って見せるんだぁッ!」

 

 そう言った瞬間八坂はその手に刀を具現化しゾンビを一蹴した。

 

 「な……!?その、武器は……具現武装!?この土壇場で、発現させたのか?」

 

 具現武装は強い意志によって創り出される自身の心の形。ならばこういう形での発現もあるだろう。私もそうだったように。そして、そうなるように私は願っていた。

 

 「はあっ、はあっ……!」

 「……成る程、私に仕事が回ってくるわけだ」

 

 平静さをなんとか取り戻そうとしつつ呟くハギトさん。

 

 「だが、この程度のイレギュラーは織り込み済み。キミのようなバグを潰すのも、仕事のうちさ」

 「くっ……!」

 

 具現武装を発現できたからといっていきなり十全に戦えるわけではない。ましてやハギトさんは十全に操り、数多くの幻創種を従えている状況なのだ。不利なのは八坂も自覚しているようだ。その時、ハギトさんを大きな影が覆う。

 

 「……何だ、この反応は。上……空……?」

 

 そう言って振り返り、見上げるハギトさんは驚愕する。

 

 「……な!」

 

 そこに居たのはアークスのキャンプシップだった。つまり、八坂への援軍だ。




 今回は契約の元に江風は大人しくしていましたが、ここまでです。義理を果たした江風はこれから好き放題「契約」の範囲内で暴れていきます。
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