少しファンタシーな鎮守府で   作:朝宮 糸瓜

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85話 八坂火継への問いかけ

 3月31日 14:00 アークスシップ総司令部

 

 

 一夜明け、私はてーとくに連れられてアークスシップへ赴いてきた。総司令部に来たのは守護輝士(ガーディアン)がどこにいるか聞くためである。

 

 「失礼します」

 「ようこそ、梓に江風!」

 「ウルクさん、忙しい中すみませんね」

 「あんまり大丈夫じゃないけど君達が来るってことは重要なことなんでしょう?」

 「えぇ。地球にて大きな動きが。それには奴が……守護輝士が関わっていました」

 「ついこの間起こしたばかりなんだけどね……」

 「確か専属オペレーターが宛てがわれたと聞きましたが、連中はどこに?」

 「君達ならいいか。このアークスシップの艦橋だよ。最近投入できた管制用ハイキャストシエラタイプの一号がオペレーターを兼ねているの」

 「なる程、完成していたのですね。それにしても奴め、地球に既に先行部隊がいるのにも関わらずノータッチでことを荒立てて……」

 「カスラがシエラへの情報を止めてたから無理ないんじゃないかな。さっき『これ以上彼らに秘匿すべきではありませんね』とか言って艦橋に行ったから今頃把握して……しきれてるのかな」

 「整頓されたデータであれば、カタログスペック上さして時間もかからないのでは?」

 「整頓されていると思う?」

 「……微妙、ですね」

 「底意地悪いからね」

 

 情報部局長のカスラさんへの評価が酷い。

 

 「シエラへの面会許可と守護輝士の呼び出しをお願いできますか?それと、奴が連れている少年少女とも」

 「いいよ。あー、でも微妙な立場だって聞いたから気をつけてね?」

 「承知の上です」

 

 そうして面会の段取りがついた。

 

 

 15:00 アークスシップ 艦橋

 

 

 「福山梓、入室します」

 「あ、もう来た!いらっしゃい福山さ……って【仮面(ペルソナ)】!?」

 「最低限知っておけシエラタイプ。はあ。面子は……揃っているようですね」

 

 黄色いサイドテールというバナナみたいな頭をしたシエラという人物はてーとくの現状を何も知らないみたいだった。

 見回すと八坂とアル少年がいて、守護輝士が庇うような立ち位置にいる。

 

 「情報開示はされたはずですが?」

 「未整理のままドンって渡されて対処が追いつくわけないじゃないですか!」

 「……はぁ。では、改めて名乗っておきましょう。シエラ、私の情報を優先してください」

 

 てーとくは守護輝士をライバル視を通り越してかなり厳しい目で見ている。その専属オペレーターのシエラにも同様の扱いで行くようだ。

 

 「今の私は並行世界のダークファルス【仮面】ではなく、惑星地球の日本という国の東京……貴様が活動したエリアだ。そこで地球固有敵性エネミー、深海棲艦という存在を相手取る異能者、艦娘という存在の一司令官として活動しています。第127鎮守府基地司令官福山梓。これが私の今の名前です。以後間違えないように、シエラ」

 「鎮守府……?あ、アークスが最初に接触した地球組織……?」

 「その最初に接触したのが私です。そしてこちらは部下の艦娘、江風さん。本来秘匿情報ですが八坂さんの都合上本名も伝えておきます。名前は立花蒼」

 「今の姿、江風の時は江風って呼んで。そして変身解除。……こっちの素体(ベース)の時は立花蒼って呼んでくれればいいよ」

 「蒼……」

 「八坂、今日私はマザー・クラスタの手先として来てないから安心してよ」

 「次に我々第127鎮守府のスタンスを説明しておきます。我々とマザー・クラスタは今後発生するであろう惑星ハルコタンにおけるマガツのような極大敵性エネミーとの対決の為に契約を結んでいます。

 その内容は、現在マザー・クラスタは本懐を果たそうとしている。第127鎮守府は余程のことがない限りその妨害を行わないこと。マザー・クラスタの用事が終われば先のエネミーの対処に移る、という契約です」

 「マザー・クラスタと手を組んでいると言うことですか」

 「言葉を正しく理解しろ、シエラ。あくまでも我々はマザー・クラスタの妨害をしないのであってそれだけです。過剰に味方するわけでもなければ尖兵となるつもりもありません」

 「今日来た目的はなんですか?」

 「守護輝士、貴様の行動についてだ。先日目覚めたばかりのはずの貴様が起き抜けにやらかした騒動の顛末、その把握だ」

 

 オペレーターであるシエラの説明によると、起きたその日ーー22日だーーに不審なアークスとクエストを共にし様子を探るという任務を行った。その不審なアークスこそが八坂だった。

 クエスト先は【深遠なる闇】が生まれた決戦の地。そこの経過調査という形だった。問題なくーー慌てている八坂に怪しさを覚えつつーー最深部に到達した際、ダークファルスと思しき影と遭遇。

 八坂が取り込まれかけるが守護輝士の能力、『ダーカー因子の浄化』ーー他のアークスのそれと比較にならない規模でダークファルスにも有効らしいーーで救助、動けるようになったタイミングで八坂が消失。ログアウトした。

 この時に守護輝士と八坂の間にフォトン的なリンクが発生し、守護輝士が八坂の危険を察知したら駆けつけられるようになったそうである。

 そして八坂側はログアウトしたら部屋にアルが寝ていた、ということだった。

 そしてその話を聞きながらてーとくはずっとアルを見ていた。

 

 「……アルさん」

 「ひっ、怖いよ、お姉ちゃん!」

 「すいません表情が硬く。……アルさん、自分がどこから来た……いえ、どのような感覚から来たかは覚えていますか?」

 「……暗くて怖くて寂しいところ……」

 「ふむ。シエラ。貴方はアルさんの解析をしましたか?」

 「あっ!そうだ、解析しようとしたら昨日の騒動だったんです!強制的にあちらの世界に戻ってしまって亜贄萩斗の襲撃を受けて……」

 「では再解析を。ログインではなく直接こちらに来ている以上、もう邪魔はないはず」

 「はい、アルくん改めて握手しましょう……っ!」

 「答えは出たようですね。擦り合わせましょう」

 

 てーとくにはもう検討がついているようだった。

 

 「アルさんは生まれたてのダークファルスの成り損ないです。かの領域で遭遇した影のようなダークファルス。それが本来のアルさんです」

 「だ、ダークファルスって……!」

 「落ち着いてください八坂さん。それが貴方に、というより貴方のアバターに憑依しようとした時にコイツの浄化能力が作用。ダークファルスとは言ってしまえば負のフォトンの塊ですから、浄化すればただの、は語弊がありますがフォトンの塊になります。実行出来るのはコイツだけでしょうが」

 

 苛立たしそうに、羨ましそうに守護輝士を見るてーとく。

 

 「本来のダークファルス成分が浄化され、コイツのフォトンが流入し、八坂さんのエーテルと混ざった混合体。それが現在のアルさんの正体である。シエラ、相違は?」

 「……こちらも同じ結論です。でもこんなことが起きるなんて……」

 「アルさんが発生したての不完全で小規模であったからこそでしょうね。そして、八坂さんがログアウトする際に憑依しかけていたそのアバターを身に纏って地球に顕現した。といったところでしょう」

 

 アルは最初名前がないーー自分をヒツギだと思っていたらしいーーことも、裏付けになっていた。八坂のプレイヤーネームがヒツギだったからだ。

 

 「しかしまあ、アレだな」

 「何よ蒼」

 「お前の趣味、こうして見るとショタだなァ。小学生ぐらいじゃンかさ」

 「アバターぐらい好きにやっていいでしょ!?顔はそのままで胸だけ削ってた氷莉よりマシよ!」

 「にしても本名はねぇよ本名は」

 

 警戒心のないやつだな、と思う。

 

 「それで、アルって名前はどういう経緯で?」

 「ここにいる、有るからアル……って言ったら気に入られちゃって」

 「八坂のことだから神話とかから取ってくると思ったよ」

 「全部却下されたのよ」

 「当り前だろお前子供に厨二病ネーム付ける親になるなよ!?」

 「むぐぐ……!」

 

 無駄にロキとか付けそうになっていたんだろうだなぁ、と思っていた。

 

 「経緯は理解しました。地球への事前情報もない時期にいきなりその件が発生し、調査中に亜贄社長の襲撃などがあった、と。そしてやっと今日カスラが情報開示ですか」

 「そうなんですよ!だから今しっちゃかめっちゃで……」

 「一応弊鎮守府のデータを渡しておきます。こちらなりに整頓はしていますから」

 「また増えた……」

 「カスラ達とはまた独立勢力として動いていますからね、当然です。……さて」

 

 コホン、と一息入れてからてーとくが切り出す。

 

 「八坂さん、それにシエラ。何故アルさんがマザー・クラスタに狙われているか検討はついていますか?」

 「いえ全く……むしろ知らないんですか?」

 「先日までの我々のマザー・クラスタへの認識は才能に秀でた人々の共同体SNSである、といった程度でした。何も知りませんね。だからこそ直接見に来た次第です」

 「マザーはPSO2のバグを調べろって言ってた。だから、バグのようなアルを捕まえに来たんじゃないかって」

 「昨日も聞いたけど、マザーの言うことは絶対!だったお前がなんで対抗して突っぱねたんだ?」

 「アルは幻創種が襲ってきたとき、身を呈して私を庇ってくれた。だから、アルを分けのわからないまま自分で何も決めずに何も知らずに引き渡すのは違う、そう思ったから」

 「ふぅん。それで鷲宮を捨てた、と」

 「そんな、私は……!」

 「お前が去った後の鷲宮、見ていられなかったよ。なんで鷲宮に一緒に来いって言えなかったんだ?」

 「……っ!」

 「鷲宮に甘えているンだよ、お前は。一旦蔑ろにしても大丈夫だって。私が文句言いたいのはそこだよ」

 「氷莉……氷莉はどうなったの?」

 「マザーが回収した」

 「!」

 「初めて顔を合わせたけどあの人はマザーで間違いない。そして、こうも言っていた。『奪われたことを嘆くのならば……喪ったことを悲しむのならば……硬く手を握り、強く意志を持て。その手に、友のぬくもりを取り戻したいのならば』って。

 鷲宮は、お前を取り戻すためにお前や守護輝士相手に敵対してくるぞ」

 「そんな……!」

 「どっぷりマザー・クラスタに浸かっていたお前なら分かるだろう?マザーの言葉がどれだけ頼もしいか。正しいと思えるか。……私もそんなの違う、って言いたかったけど言い返せなかった。何より、鷲宮が受け入れていた」

 「氷莉……」

 

 真っ直ぐとした意志はあっても覚悟やそれに伴う結果までは考えられないようだった。それは大きな隙になってしまうのでは、と思う。

 

 「これからの方針について話しておきます。弊鎮守府はマザー・クラスタと同盟に近い関係にあり、彼らの妨害はしません。マザー・クラスタに積極的に加勢はしませんがアークスの援護もまた然り。

 それと、この戦いでドロップアウトした人々をこちらで回収する所存です。亜贄社長は昨日戦艦大和を生成した際に具現武装能力を一時喪失し、この戦いから降りると宣言したため身柄をこちらで預かっています。当然、そちらへの引き渡しもしません」

 「そんな!あなたもアークスじゃないんですか!?」

 「知りませんか、シエラ。私はアークスではなくシャオ直属のエージェント。そもそもダークファルスをアークスの枠組みに置けるわけがないでしょう」

 「そんなの屁理屈です!」

 「ともかく、こちらとしてはそういうスタンスです。その上で助言を。亜贄社長曰く、八坂さんにアルさんがオラクルという穴蔵に籠もった以上、マザー・クラスタの取る選択肢は炙り出しになります。貴方達が出てこざるを得ない状況を作ることで誘き出し、無力化して回収する算段でしょう。……覚悟しておくことです」

 「……」

 「八坂」

 

 私は声をかける。

 

 「お前の具現武装能力の素質は私以上だ。あんなにいきなり正気でぶん回せた奴を他に知らない。だけど、今のお前にはアルを守りたい、何がどうなっているのか知りたいという意志があっても結果何が襲ってくるかの覚悟が出来ていない。それは具現武装能力としては致命的になるよ」

 「蒼……」

 「具現武装は心を形にしたもの。迷いがあれば壊れるし、壊れたら連動して心もぶっ壊れちまう。ハギトさんの手放し方がイレギュラーなだけでね。だからいざ、鷲宮がお前を取り戻すって固い決意を胸に襲いかかってきたら、お前は負けるだろう」

 「……」

 「だから覚悟を持て。何が来ても受け止めてやる、自分の意志を押し切ってやるという覚悟を。少なくとも、私はそうしてる」

 

 そう言って具現武装を展開する。

 

 「私はコイツで理不尽を、私を中途半端に巻き込んで目茶苦茶する全てを斬り拓いてやるって決めてる。覚悟してる。そのために特訓だって欠かしていないし斃れてもいいってすら思ってる」

 「そんな覚悟なんて……」

 「出来ないなら全部守護輝士に任せてここに引き籠もることをお勧めするよ。ただその上で、鷲宮は絶対にお前を取り戻すために戦いを挑んでくるだろう。……参考になるかはわからないけどこの戦闘記録」

 

 シエラに海が127へ襲撃してきたときのデータを渡す。

 

 「藤堂が洗脳されてウチに殴り込んできたことがあってね。スキャンダル目当てらしく一般公開日の白昼堂々とね。その時はまあ卯月の姐さんが機転を利かせてくれたからなんとかなったし藤堂を奪い返せたけど。……これに近いことが起きるんじゃないかって思ってる。これ見てハラ決めろ」

 「小桃李が……」

 「その時の後遺症でお前に対する鷲宮みたいになって今も継続中でさ。アイツ彼氏いるのにこれで大丈夫か?愛想尽かされないか?ってのが目下の悩みだよ」

 「彼氏いたの!?」

 「マザー・クラスタに入る前から地元にな。私とあいつは元々は喧嘩もよくするただの友達だったのに、だ。マザーが鷲宮を連れて行く時、そういう思考誘導をする決意のようなものを感じた。……だから覚えておいてくれ」

 「わ、わかった……」

 「八坂。こういう時に大事なのは我儘だ。自分の我を通すんだという意志だ。正直意志のぶつけ合いだよこんなのは。自分に正直になることを心の底から勧めておく。そうすればお前の才能なら負けやしないさ」

 

 これは私の本音だった。

 

 「立花さん、言うことは言えましたか?」

 「うん。行こうか、てーとく。……変身。八坂!私は立花蒼として、艦娘江風として見守ってるからな!」

 

 そうして私達はアークスシップを去った。

 

 

 宇宙空間 キャンプシップ

 

 「江風さん」

 「何?てーとく」

 

 私達は鎮守府に帰るためにキャンプシップに乗っていた。ウルク総司令の好意でこの機体は私達が自由に使っていいことになっている。

 

 「八坂さんは大人しくしているでしょうか」

 「八坂が『主人公』だった場合、そういうわけにはいかないと思う。マザー・クラスタに炙り出されて出てこざるを得ない何かが起きると思うよ」

 「そうですか。歯痒いものですね」

 「うん」

 

 恐らく八坂火継という少女は戦わずにはいられないだろう。無事に走り切れることを私達は祈るしかなかった。

 そしてさして間を置かずして4月2日、天星学院の寮の一室がマザー・クラスタによって爆破された。そこに住んでいたのは八坂炎雅。八坂火継の唯一の肉親である兄である。

 犯人はベトール・ゼラズニイ。マザー・クラスタ木の使徒である。

 

 

 4月2日 20:00 第127鎮守府

 

 

 「ーー以上が先程発生した事件だよ。これによって八坂火継は表舞台に引っ張り出されたね」

 「べ、ベトールってあの不屈の鬼才、ベトール監督なのです!?」

 「電?」

 「私あの人の映画の目茶苦茶ファンで……最近だと「THE LINER」の監督なのです!」

 「あのトレイン・ギドランの群れになんか意味持っちまうな……」

 「響だよ。この八坂炎雅襲撃については私達127はアクションを起こさないで欲しい」

 「といいますと?」

 「彼は八坂火継の身内である以上にアースガイドの頭目、アーデム・セイクリッドの懐刀だ。つまりこれは裏組織のマザー・クラスタとアースガイドの抗争という形になるし他の被害も出ていないからね」

 「敵の中核にダメージを与えつつ八坂さんの炙り出しですか。上手い手を」

 「この直後に八坂火継と守護輝士がベトール・ゼラズニイと交戦、ベトールは一度引いたようだ」

 「では、この後は……」

 「亜贄社長の推測どおりなら炙り出しのために小規模な挑発行為を続けていくだろうね。その様子を伺おう」

 「分かりました。では、以後127はその方針で。これは推測ですが、そう長くはかからないと思います。兎にも角にも奴(守護輝士)が関わる案件は、生き急いでいるかのようなスケジュールになりますから」

 

 実際、ベトール監督の挑発行動の再開と決戦までには然程時間がかからなかった。

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