???「コハルここにまで出てこないの!!」
4月4日 10:00 第127鎮守府入口
今日、鎮守府は少しどころではない騒ぎになっていた。
『こちら守衛、帰れって言っても聞きません!こちらにお嬢がいるはずだって話を聞きません!』
『こいつら建設業って言ってるけどカタギじゃねぇっ……!』
「あ、ああ……」
桐嶋建設と名乗る連中が大勢お嬢を出せ、と詰め寄ってきていた。今日が一般公開日でなくて助かったというべきか。
そして大潮の様子がおかしい。
「ごめんなさい皆さん!アレは……」
「大潮?」
「私の、実家です……」
悔恨するように告げる大潮。顔も青ざめている。
「そうとも限らないっぽい」
が、夕立の姉貴がそれを遮る。
「守衛、映像回して。大潮、顔見知りはいる?」
「え、あ……いない……?」
「本家筋の人間に顔も覚えられないような木端か成りすましか、どちらにせよ『桐嶋建設』の意向とは思えない布陣っぽい」
確かに説得目的で来るならある程度親しい人が詰め掛ける中にいなければ通らないだろう。
「福山提督、私が出るわ」
「私も出たほうがいいでしょう。その上でお任せします。大潮さんは待機を。朝潮さん、荒潮さん、大潮さんをお願いします」
そういっててーとく達はゲートに向かって出ていった。
「一応中核メンバーは履歴書に目を通してある。カタギじゃねぇ表向きは建設会社の桐嶋組がお前の実家ってことはそこそこ知ってるっぴょん」
「え……」
「知った上で受け入れてるって話だ。安心しろっぴょん」
「はい……」
「大潮!」
「わひゃい!?」
朝潮が大潮の手を強く握る。
「朝潮は、何があっても大潮の味方です!」
「朝潮姉さん……」
「あらあら、1人だけハブられるのは悲しいわぁ?」
「荒潮……」
彼女には支えがいる。とりあえず状況次第ではあるがこちらは落ち着いていくだろう。
「……なあ、ライル。コハルどこ行った?」
「あれ……?」
不安要素が増えた気がした。
10:30 第127鎮守府入口ゲート前 梓視点
「貴方達ですか。騒いでいるというのは」
「いい加減妨害行為として排除するわよ」
「誰だおまえ達は!お嬢を出せ!」
「この鎮守府の基地司令、福山です」
「駆逐艦、夕立よ」
「基地司令だと……!?」
「鎮守府組織において所属艦娘の素性は縁者であっても基本的に秘匿されています。何を根拠にそちらの関係者がいると判断されたのでしょうか」
「うっ……」
圧をかける。下手な口答えを聞くつもりはない。
「た、確かな情報筋からお嬢がいると聞かされてきたんだ!ただでは引かないぞ」
「はあ、『また』確かな情報筋、ですか」
加賀さんや赤城さん、電さんとの親族のやり取りを思い出して嘆息する。
「そのお嬢がどなたかは存じ上げませんが、弊鎮守府に参加されている方は自由意志で参加しています。早々にお引き取りを」
「そんなわけには」
「架空のお嬢とかいう人物のために時間を割く暇が無いのよ。これ以上騒ぐと拘束させてーー」
「桐嶋怜というお嬢さんがいるのは掴んでいる。架空ではないはずだよ、美琴」
美琴こと天王寺美琴。夕立さんの素体(ベース)の本名だ。
「あなたの差し金なのね、白上凌」
「夕立さん?」
「この男は私の婚約者。私から戦いは不要と遠ざけようとする張本人。あなたならまあやれるでしょうね」
「ああ、本人の意向を無視した傍迷惑な婚約者という話でしたね」
「なっ」
「私、鎮守府基地司令福山梓は所属員の味方でありその身内の味方ではない。勘違いしないことです」
つまり今回の敵か、と見据える。対する彼は殺気に当てられて冷や汗こそ書いているが平静を取り繕っている。夕立さんから聞いている通り、政治界隈の荒波を潜ってきただけのことはあるのだろう。
「鎮守府所属員の身内が情報を売って騒ぎを起こすことは今に始まったことではありません。そちらの目的は知りませんが無駄な行為であると告げさせて頂きます」
「どうでしょう福山基地司令。今までの騒動は反社会組織の仕業であり、本件はまた別のものです。桐嶋の御令嬢が戻らない限り、本件は解決しませんよ?」
「それを手引し続ける、と」
「ええ。それだけの理由がありますから。そして貴方がたが相手をしてきた過去の人々とは違い、正統的な押しかける理由があります」
「別にそれは扇動者である貴方を拘束しない理由にはならない」
「待って提督さん……」
「夕立さん?」
「彼の目的は私よ。あの子を引っ張り出そうとするのはあくまでも手段なの」
「状況を正しく理解しているようだね、琴音。さあ、なら取るべき行動はーー」
「随分と白のように情けない殿方ですわね。あぁ、名実ともに白なのでしたわねぇ、白上某様?」
「……何?」
「コハルさん?」
ずいっと前に出てきたのは自称私の妹のコハルさん。彼女はどうやら白という色を侮蔑対象としてみている節がある。
「惚れた女に逃げられたからと情けなく脅しでよりを戻す等と白らしいみみっちく情けない弱者のすることですわねぇ?」
「……失礼、コハルさんと言ったかな。君については存じ上げないが何者かな?」
「存じ上げない小娘に心乱されているということは図星なのでしょう?矮小な貴方の狙いは琴音様を抱えることが鎮守府の負担になるように差配して切り捨てさせること。そして自らの手元へ戻すこと。浅ましい努力ですわねぇ?ほぉ~っほ!」
「何を根拠に言うのかな?お嬢さん」
「貴方の下にいることを琴音様は拒みましたが琴音様の実家は貴方が婿入することを良しとしている。故に琴音様の所属していた鎮守府に所属期限を設けさせ、帰って来るようにした。その上で支援の下に安全を保証させればそれだけで手中にいれるのに問題はありませんでしたから。
ですが此度は琴音様が契約外のこの鎮守府に移ったから別の対応をせざるを得なかった。この鎮守府において琴音様は命を賭すことを躊躇わないですしこの鎮守府もまたそれを止めないことは先日の放送でも明らかになりましたものねぇ。であれば琴音様が落命する前に早急に自らの手中に収める必要がある。桐嶋建設に限らずとも火種を作り続けてでも成すべきである。これが貴方の此度の動機、違いまして?」
夕立さんの生い立ちなど彼女が知らないはずの情報までスラスラと言ってのける。……口を挟まないほうがよさそうだ。
「……よく知っているようだ。私は琴音を愛している。だから『お遊び』も容認していたけれどそうもいかなくなった。それだけのこと。琴音も理解しているのだからお嬢さんが口を出す権利も隙もありはしなーー」
「ほぉ~っほ!仮に鎮守府が貴方を拘束し貴方が手綱を握っている天王寺グループが再び斜陽に傾こうものなら琴音様は天王寺家に戻らなければならない。何故ならば琴音様の父母は経営者として能無しですからねぇ?そしてグループの方々を露頭に迷わすような精神を琴音様はしていませんもの。
その上でも貴方は天王寺家に迎え入れられる程に立場を盤石なものとしている。鎮守府が強硬手段に出ようと最終的に貴方が得をするだけですわねぇ?」
「そこまで知っているのならーー」
「惚れた相手に逃げられた理由から目を逸らし続けて体だけ手に入れても心は生涯かけても手に入りませんわよ?貴方は琴音様の肉体だけを愛しているのでしょうか?お人形ごっこがお望みならお人形相手になさいまし!」
「っ!」
夕立さんがそこまでして彼から逃げ出した理由。それは闘争の機会を彼がすべて奪ってしまうと本能で認識してしまったからだ。事実、夕立さんが経営戦略闘争を目指すほど傾いていた実家の天王寺グループの経営は彼が介入しただけでV字回復を見せていて、夕立さんの出る幕はない。
そして、そこには闘争なくしては生きていけないような彼女の心が生存可能な空間はない。だからこそ艦娘という闘争の鉄火場に逃げ込んできたのだ。
「いい加減受け入れたらどうでして?天王寺美琴という女性は闘争の中でしか生きられないお方。それを奪うということは天王寺美琴の命を奪うも同義。一目惚れであろうとなかろうと、貴方という籠の中の鳥になるということは最悪の末路である、と。知らないわけではないでしょう?」
「闘争のなんたるかを知らないようだね?いずれ摩耗し、擦り切れる。こうも鮮烈に輝いている彼女であってもいずれはそうなる!だからその前に保護しなければならない!そして、それを私は出来る!」
「それは貴方のご両親の話ですよね?今は琴音様の話をしていますのに?」
「っ!?」
いよいよもって知らない情報で戦い始めている。そして、それは図星であるということがフォトンを通じて理解できた。このやりとりに事の当人である夕立さんですら口を挟めていない。
「強い強いご両親が見るに見かねる程に擦り切れていく様を見る無念、理解できないわけではありませんわ」
「君に、何が」
「私(わたくし)の両親もそうして討ち死にしましたもの」
「!」
その情報は私も知らない。というか彼女の、コハルという少女の経歴の一切を私は知らない。シャオ、後で教えてもらうぞ。
「だからこそ目を逸らす気はありませんの。何の為に戦い、何の為に擦り切れ、死んでいったのか。その魂を!貴方はどうですの?どうして琴音様に惹かれましたの?見目?声?経歴?そういった魂を含めた琴音様の全てではありませんの!?」
「そうだ!だからこそ愛する人をこれ以上擦り切れさせるわけにはいかない!理解できるならなぜそれが分からない!」
「その姿勢こそが亡くなった方への侮辱に他ならないからですわ!」
「!?」
「貴方は亡くなられたご両親のことを情けなく可哀想に朽ち果てた存在として見下しているからこそその発言が出来るのですわ!ですが心の奥底でそれが焼き付いているから魂に闘争が紐づいている琴音様に心惹かれた!いい加減、自分の心に目を背けて当たり散らすのは止めては如何?そうでなければ琴音様に向き合う権利は、司法も神も認めようとも、貴方には存在しえませんわ!!」
「私は……」
「私としたことが少し熱くなってしまいましたわね。ところでそちらの殿方、関係者なのでしょう?名乗ったら如何ですの?」
コハルさんの目が言い争いの間に現れた壮年の男性の方へ向けられる。
「私の協力者が見苦しいところを見せたようだ。私は桐嶋建設代表取締役の桐嶋耀。桐嶋怜の父親だと言えば理解してもらえるだろうか。監視の上で構わない。娘と会わせてくれないか福山基地司令」
「名刺を拝見。……本物のようですね。先に聞かせて頂きますが、先程まで騒いでいた桐嶋建設を名乗る者達は貴方の関係者で間違いはないですか?」
「娘と会ったこともない下っ端だが間違いない。白上氏に人手を借りると言われ応じたがこのようなことになるとは想定していなかった。騒ぎを聞きつけ今到着したところだ。……今日は解散しろ。これ以上騒ぎを起こすな。白上さん、構いませんね?」
「……ああ」
「しゃ、社長!でも」
「でもも何もない!カタギに迷惑をかけるな馬鹿者共!!」
「「はっ、はい!!」」
蜘蛛の子を散らすように散々粘ってきていた連中が散っていく。
「……今回は特別です。応接室へ案内します。弥生さん、お茶を入れておいてください。さて、白上とやら、貴方は如何しますか?」
「……」
「よければ共にさせてもらいたい。この男は自分も何もかもを駒として見れる男だ。逆に言えば現場目線が足りないと言える。いい機会だろう」
「では、そのように」
11:00 第127鎮守府 応接室 梓目線
「……」
「……」
(勢いで着いてきちゃったけどどうしよう私!?)
(荒潮さん勢いで来ましたねあれは……)
応接室に桐嶋氏らを連れて到着したら大潮さんを挟むように、というか庇うように朝潮さんと荒潮さんが座っていた。キリっとしている朝潮さんに対して荒潮さんは現実が見えて来たのか慌てている内心が透けて見える。
(江風さんを呼ぶ余裕はありませんでしたね)
早々にお茶とお茶請けを置いて退出した弥生さんを目にしながらこの部屋にいる人物を確認する。
桐嶋社長と白上氏と対面するように朝潮さん、大潮さん、荒潮さんが座っていて横面に私と夕立さんが座り(私が桐嶋社長側、夕立さんが朝潮さん達側である)、その対面にコハルさんが座っている。中央の大テーブルを中心に3人掛けの椅子が四方にあるがこれ以上人手を増やすのは蛇足だと判断した。江風さんの直感や電さんの読心を頼りにしているが、そのために呼び寄せて不要な警戒をさせるのも悪手だろう。どうせ他の部屋で全員がこの状況を見ているだろうし問題もないか、と独り納得する。
「……怜」
「お父様」
「姿を、みせてくれないか」
「大潮、私達がついています!」
「そうよ姉さん」
「うん。……変身解除」
大潮さんが艦娘の姿を解除する。確かに、こうしてみるとこの父娘に血の繋がりを感じる印象を受ける。
「あいつを納得させたようだが俺は納得していない。何故、出ていったんだ」
「……太陽の光に憧れていたから」
「太陽?」
「裏の仕事をメインにしていないとはいえ、桐嶋組はヤクザ上がり。お天道様には顔向けできない存在だった。私の願いは、お天道様に堂々と顔向け出来る陽の当たるところで邁進していきたかった。だから、枷だったんです」
「連中はお前のことを大事にしていたと思うが、それでもか」
「それでも。お父様は尊敬できるし組の皆は良くしてくれた家族分だった。だけど、そこに私の目指す、居たい場所はなかった」
「……そうか」
「艦娘になったのは軽い気持ちだった。もし、自分が変われるのなら。変身願望を満たしてくれるのなら。それだけの気持ちだった。だけど、いざ艦娘になってみてここの人達の、そして朝潮姉さんの覚悟を見て。私も腹を決めたんです」
「……本気の目だな。やんちゃ娘の軽率な行動として見咎めに来るつもりだったが……その顔はそういうモノじゃあない。言いたいことは色々あったが、そんな顔をしている奴に何を言っても無駄だということぐらいは分かる」
「お父様……!」
「やるからには気張れよ。父親として応援している。……白上さんよ」
「……はい」
「娘の奪還のためにと手を組んだが、ここまでだ。俺は娘を見誤っていた。そもそもちゃんとみる機会がなかったがな?」
「うぅ……」
「そこの、朝潮と言いましたか」
「はい!」
「うちの娘を、よろしくお願いします」
そうして桐嶋社長は深々と礼をした。驚く荒潮さんと対照的に朝潮さんはしっかりと見据えてから返事をした。
「こちらこそよろしくお願いします!」
そして朝潮さんはビシッと音が聞こえるような綺麗な敬礼をしたのだった。
12:00 東京市街地 霧島耀目線
鎮守府から離れたあたりで俺は口を開く。
「手を組んでいた誼です。天王寺のお嬢さんのことは一旦手を引くべきだと助言させてもらいますよ」
「……私は心配なんです。彼女がいつ消えてしまうのか、と」
「私に見せてくれた鎮守府の戦闘放送、あったでしょう。あの時は危ない連中だと思いましたがね、改めて思い返せば手前の命も対象の命も失わないための最適解をクレバーに決めているだけだった。そこらの鉄火場の鎮守府に預けるよりは余程安心して預けられると思いますがね」
「……そうかもしれません」
「ただ見ているだけでいろとは言いませんよ。定期的に放送をして、情報を開示していくという話です。その上で信用ならないと判断が覆った時は……私は、いや俺は躊躇わない。白上さんもそういう目線で見ていくのはどうです?」
「……まずはあのコハルというお嬢さんに指摘された通り、自分自身を見つめなおす必要があります。その上でよければ、是非」
「それでは『今後』もよろしく頼みますよ」
「ええ」
同時刻 第127鎮守府 食堂 江風目線
「瑞鳳さんの卵焼き美味しいですわぁ~!!お代わりいただけますかしら!」
「はーい、どんどん食べてねー!今日のMVP!」
「あの気迫が嘘みたいだな」
「というかコハル?僕にも想定外のことしないでくれないかな?」
「ライルも知らなかったのかよあの大立ち回り!」
今回自由に暴れまわったコハルだが、誰一人としてその挙動を予測できたものがいなかったらしい。正にスタンドプレーといったところか。
「コハル、なんであの行動に出たのか教えてもらえるかな?シャオからの指示?」
「いいえ?もっともっと前に受けていた『依頼』を果たしただけですわ」
「依頼?」
「まだ言えない段階ですの。恨むなら緘口令を布いたシャオに言ってくださいませ。ほぉ~っほ!」
「まったくコイツは……」
「でも助かったのは事実っぽい」
「夕立さん」
追加の卵焼きを持って夕立の姐さんがコハルの前の席に座る。
「私だけでは凌に勝てなかった。私は感情で動いていて、理論を完全に封じられているのは分かっていたから。そして感情で喚き散らしても意味がないと思っていたから。突破してくれてありがとう、コハル」
「礼には及びませんわ!まあ、何か礼をというのであれば……今後も組み稽古の方をよしなにお願いしますわ」
「任せるっぽい!」
「あの、コハルさん、私もありがとうございました!」
「大潮さんはお父様と意思を確かめ合えたようで何よりですわ」
「絶対に聞いてくれないと諦めていて……対話から逃げてここに来ちゃったんですけど、本当に、良かった」
「そこは貴方方が想い合っていたからこそですわ。でなければあそこまですんなり話は通らなかったでしょうし……江風」
「おん?」
「だからこそ桐嶋殿を失望させないためにも、表に立つ貴方には頑張ってもらう必要がありますわ。覚悟はよろしくて?」
「ハッ、そこなら安心しろよ。誰にも公開も落命もさせないっての!」
後輩の為にも、私は決意を新たにするのだった。
梓「コハルさん」
コハル「お姉様!」
梓「よく頑張ってくれましたね」
コハル「……はい!」
江風(てーとくの賛辞が最大の報酬だったみたいだね)