カテゴリCは南西諸島以降のエリート級以降、カテゴリBはx―5系の強敵群、カテゴリAはイベント海域でガンガン喋ってくる姫級のような面子のイメージです。
2027年6月上旬 11:00 第127鎮守府
今日は一般公開の日だった。スポンサーとしてついたYMTのアプリによって多少は回りやすくなっていたが、まだもう一声欲しいというのが実情だった。
「今日も今日とで私は奥の方の担当、っと。派手に演習でもやれば映えるんだろうけどなァ」
「あ、江風さん!今日もお勤めご苦労様です!」
「ン、あァ、いつもの嬢ちゃんか。飽きないね君も」
演習は機密が混じるため、許可を得るのが中々難しい状態らしい。ハギト社長の言うとおり、スポンサーとズブズブであれば、ひた隠しにしてもバレるとこにはバレてそうだけれども。
話しかけてきたのは、頻繁に鎮守府の一般公開に足を運んできている一般人の少女だ。中3らしいので、私達の1個下となる。
「何度来ても飽きませんよ!色々聞きたいこともまた増えましたし!」
「勤勉だなァ。ちょいちょい機密に引っかかるとこ聞いてくるから答えていいかいつも確認してンだぞ」
つまらないと満場一致を受けている本館展示。そこでさえ色々と興味をもって質問攻めにしてくる少女。印象に残らないはずもなく、今では鎮守府におけるちょっとしたアイドル扱いになっていた。
「お前さんさァ。艦娘にでもなる気かい?」
「それは考え中ですね。でも、そうじゃなくてもいろいろと出来るのは皆さん見せてくれているじゃないですか!そういう意味では気になります!」
「どうあがいても大変だからお勧めはしないからな。もう何度も言ってるけど」
この子が思うほどキラキラした存在ではない、と思うので忠告は毎回している。私達みたいに他に行く当てがないならともかく。
しばらくその子と応対していて、本館担当の時間が過ぎたのでふらりと外に出る。話は続いており、その子もついてきた。
「あ、江風さん。アレなんですか?生物?」
「え、なんか漂着し……は!?」
彼女が指さす先には、本館目の前の岸に打ち上げられている駆逐イ級……のようなモノ。ずいぶんとデフォルメされた見た目になっていて怖さは感じないものの、あってはいけない存在だった。それ以上に。
「なんだ、このコブ……嬢ちゃん、離れててくれ」
「え、あ、はい」
無理矢理つけられたかのようなコブ。それに対し、悪寒が走る。アレは危険だ、と直感が告げる。とりあえず通信で報告を入れようとしたところで割り込む人がいた。
「やはり『今日』でしたか。おぞましいことを……」
「福山提督……?」
「江風さん、この高速修復材でこの子を治療してあげてください。……ハッ!」
「え、ちょ、ま!?」
持っていたバケツ――高速修復材が入っている――を押し付け、躊躇わずにイ級らしきものからコブをむしり取った。肌がえぐれて酷いことになっているが気にせず、提督はコブを思いっきり遠くの海に投げ飛ばしていた。
「この子、大丈夫なんですか!?」
「これ高速修復材っていってな、入渠施設の成分を濃縮した奴なんだけど、多分大丈夫……ってうわっ!?」
コブが飛んで行った方から爆音がする。もしここで爆発していたら、大破ストッパーのある私はともかく、少女は無事では済まなかっただろうし、本館も大きな被害を受けていたであろう大爆発だ。
「その特殊個体は『北の姫』勢力のイ級、カテゴリはB、非好戦的と聞いています。あのような爆弾を括り付けて突撃してくるタイプではないでしょう。江風さん、彼女とこの個体を連れて入渠施設へ。少し説明も必要でしょうから」
矢継ぎ早に指示を出す福山提督。応急処置をしたイ級?と少女を連れて地下の入渠施設へ向かう。少女は驚きつつも素直に従ってくれていた。
「……反撃の時間です」
提督がそう呟いたのを聞き取ることは出来なかった。
11:30 鎮守府地下入渠施設
「よっし、お前さん、ここでじっとしてな。その傷も癒えるはずだからよ」
「きゅ……」
「意識もうろうとしてますけど、大丈夫なんですか、この子」
「提督が言ってるから大丈夫なんだろうけど、私も深海棲艦が入渠施設にぶち込まれるの見るのは初めてなンだよな……」
先ほど提督が迷いなく指示したからその通りに救助しているものの、この個体の素性もよくわからないし、いざという時には倒さなければいけないだろう。
「きゅー、きゅー……きゅー」
「流石カテゴリB、何言ってるのかわかんねぇ……敵意はなさそうだけど」
「怖いけど、大丈夫って言われたから大人しく待つよって言ってません?」
「わかるの!?」
「なんとなく、ですけど」
なんか話が通じているらしい。ただ、敵意がないことは分かった。そう思った矢先、警報音が鳴り響く。
『こちら鎮守府。レーダーに深海棲艦の反応多数有。一般の皆さんは係員の誘導に従って地下に避難をお願いします。繰り返します――』
多数と言う辺り、この個体のことではなさそうだ。入渠施設の天井部に情報がぶわっと広がる。
「あ、コレこういうシステムになってんのか……敵は3艦隊ほど、あと5分で接敵か……」
「吸い込まれて行くように皆さん避難していきますね」
「タグのおかげで取りこぼしはないからなァ……あ、迎撃部隊が出た」
「出た皆さんの映像が出てきました!」
迎撃に出たのは2部隊。天龍さん、龍田さん、暁さん、雷さん、瑞鳳、羽黒の部隊と卯月さん、長月さん、菊月さん、電、加賀の部隊。おそらく前者が正面を担当して後者がサポートだろう。
「私は出なくていいのかコレ」
『響だよ。江風はそのまま待機をお願いするよ。上陸した敵がいたらその時は出番だよ。まあ、その前に梓が止めるけどね』
「あっはい」
響さんは先読みしたような勢いで通信いれてくるので心臓に悪い。福山提督が防衛ライン上に立つなら大丈夫そうだが、一応やられちゃいけない人が前に出ていいのだろうか。
『ただただ翻弄されるだけじゃない、と示すいい機会だね。抜けられても最終目標かつ最大の壁となる梓をどうすれば抜けられるのか、見せてもらおうじゃないか』
響さんは楽しそうに言う。だいぶ余裕があるようだ。
「あ、このコンソールで一般の避難先の状況は見えるな……パニックになって入るけど怪我人は居なさそうか」
「鎮守府ってすごいですね……!」
「他もそうなのかなぁ、コレ……っと、戦闘が始まったか」
開幕卯月さんが突撃、陣形を崩してそのまま突破、長月さんが牽制射撃をして菊月さんの魚雷で討ち取っていく。そこで乱れた残敵に電と加賀が制圧にかかる。あっという間に一部隊削り取ってしまった。
「うわ、すげぇ。卯月さん達がメイン張るの初めて見たけどすんごいスムーズに狩っていくな……」
「すごいです!」
「いやホントすげぇわ」
進路を大きく逸れた部隊を卯月さんが突撃してかく乱を行い、それを避けて鎮守府に近づく部隊を天龍さんの部隊が迎撃する。こちらもスムーズに迎撃が進んでいった。
『響だよ。ポイントD-6に新手、2部隊。卯月、長月、菊月は足止めをして。残りは綺麗にしてから援軍に。電、加賀は天龍隊に合流してもらうよ』
『『了解』』
レーダーに映っていないはずの増援に当たり前のように反応する響さん。その増援には戦艦級も混じっていた。どちらにしろ、間に合うのだろうか。
「あれって卯月さんですよね?すっごい早いです!」
「もう跳んでるじゃンアレ……」
卯月さんは以前、自分の異常適正を活かすなら高機動戦闘になる、とは言っていたがここまでとは。
「あ、鎮守府から何か出ますよ!」
「基地航空隊か!」
鎮守府から増援に向かって基地航空隊が発艦する。卯月さんが乱した敵陣に基地航空隊が殺到、撃滅していく。生き残りを長月さんと菊月さんがキッチリと狩り取っていく。2部隊居たはずだがあっさりと消し飛んでしまった。
『再び増援だよ。総大将みたいだ。天龍、君が近いよ』
『おっしゃあ!覚悟しやがれ!』
『何故だ、何故ここまでッ!?』
『舐めたツケだ!くたばりなぁ!!」』
錯乱したカテゴリCか何かの敵総大将の声が聞こえるが、それ以上に殺意の高い天龍さんの猛攻に押されているようだった。他の迎撃組も合流し、集中砲火の末に総大将らしきものも倒されたのだった。
『残敵の反応なし。総大将の亡骸は回収しておいてほしいな。各航空隊は彩雲飛ばして安全のダブルチェックを。それが終われば完了だよ。梓の力の見せ所はまた次回、か。そこは残念だね』
淡々としつつ気楽な響さんの通信の中で戦闘は終了した。正直、あっさりと終わったと思う。敵のほとんどがカテゴリDだったみたいだから当然といえば当然なのかもしれない。
12:00 鎮守府近海
「観測を終了、撤退す!?」
近海からレーダーに映ることもなく鎮守府の戦闘の様子を見ていた深海棲艦がいた。が、精密射撃の前に断末魔を上げる暇さえなく轟沈する。
「やっぱりジャミング持ちデスカ。まあ、生きて持ち帰る情報は何も与えまセンが」
撃沈した金剛が独り呟く。この存在を公にすることもなく、敵味方陣営両者にこの深海棲艦が沈められたことを知られるのを阻止していた。
『こちらアルファ。死体は回収しました』
「解析よろしくお願いシマス。情報はクーナさんへ」
『了解、貴官らも健闘を』
密かに亡骸を回収させ、金剛もその場を後にするのであった。
12:30 鎮守府工廠
「で、総大将からは所属の印とかは特に見られませんでしたっと」
「予想通りではあるね。捨て駒だったんだろうね」
「ねーねー、これいっそ展示に使えない?というか、もう一般の人に見せちゃったしさっきの戦闘も映像として使えるじゃーん?」
「アンタら落ち着きでしょ!?」
「つってもこの程度で尻尾掴ませるような連中じゃないのは予想ついてたからなっぴょん」
暁さんの突っ込みを受け流す天龍さん、響さん、卯月さん。むしろ活用方法まで考え始める秋雲さん。あの後、一部メンバーを工廠に集めて、他のメンバーは観光業の方に戻っていった。
「作戦としては、駆逐イ級さんを爆弾として扱い、被害が出て混乱が生じた中でレーダーに対してジャミング持ちだったこの連中による襲撃で実害を出す、といったところでしょう。無意味に終わりましたが」
「そうよこの子よ!この子は元々非戦闘要員で『北の姫』との決戦の時だって前に出てこなかったわ!なんで特攻なんて……」
「きゅー、きゅー……」
「無理やり連れられて、意識がもうろうとしてる中で爆弾つけられて送り込まれたですって!?」
「暁さんも分かるんだ……?」
「いや、分かるでしょ?」
「コツか何かの問題なのかな……」
このイ級?は『北の姫』の勢力の中でも非戦闘要員扱いだったらしく、武装もない状態だった。で、分かる人には何言ってるかわかるらしい。
「江風と貴女が見つけてくれたから間に合ったのよね。お礼を言わせてもらうわ。ありがとう」
「暁さん、いえ、そんな、私は見つけただけで後は司令官さんが」
「お二人が気付いたからこそ、そこにいると確信が持てて間に合ったのです。誇っていいですよ」
その割には迷いがなさ過ぎたけど、そういうことにしておけと福山提督の目が言っていたので従っておく。
「さて、保科朱里さん。申し訳ありませんが、今回のこの駆逐イ級……彼女のことは、口外しないようにお願いします。いずれ彼女のことを公に出すとしても、今はタイミングが悪いのです」
「私の名前知ってるんですか!?」
一応個人情報は入り口でタグを渡すタイミングで提出するので、知っててもおかしくはないけど覚えられていたら驚くだろう。私もこの子の名前は知らなかった。
「これでも基地司令ですから。口外しないことは、ひいては貴女の実の安全にも繋がります。重要な秘密、と勘違いした阿呆共が貴女に悪いアプローチをかけるかもしれません。知らない体を通していただけるとありがたいです」
「は、はい……」
「話の横から響だよ。しばらくは君の家の周りにひっそりとガードマンみたいなのを配置しておくから、そこまで心配はいらないよ」
「横須賀から専門部隊をしばらくつけマス」
「ま、気にすんなってことだ!」
「結論はそれなんだけどもう少し真面目さを見せろよっぴょん」
彼女の身の安全は全力でサポートする気らしい。
「それとなんですが、保科さん」
「は、はいっ!」
「この子……イ級さんは貴女に心を許しているようです。さっきから離れようとしませんし」
「きゅー……」
「一人で知らないとこに来て、怖いよね、君」
優しくイ級を撫でる少女。それを福山提督は安心したように見ていた。
「1つ依頼があるのですが、よろしいでしょうか。この子に、定期的に会いに来て欲しいのです」
「え、いいんですか!?」
機密だと言った傍から会いに来てくれ、とは確かに驚くだろう。
「いずれ彼女の仲間も迎え入れるつもりはありますが……それまで、いえ。それ以降も心を許せる方が1人でもいれば、と思います。入館料は……貴女は年間パスポートを既に持っていますので、来られる際の飲食代は謝礼として持ちますよ」
「ぜひ!ぜひお願いします!」
よく来るなと思っていたら年パス取得済みだったのか。
……そんな中で、一般人保科朱里という少女の協力を得て、非好戦的な駆逐イ級の保護に成功したのだった。というか、『いずれ仲間も』とは何を狙っているのだろうか。
「……」
(あ、まだ秘密ですって顔だ)
目で黙らされてしまった。というか、圧を消しきれていない福山提督に普通に対応しきるあたり、保科という子は胆力がすごいのかもしれない。恐れ知らずというか……
「……今回も蚊帳の外だったなァ」
中核にいるのは大変そうだが、これはこれでストレスが溜る。そう思いながらぼんやりと呟くのだった。蚊帳の外に置けないだけの力が欲しいな、と思う。
「それで暁、駆逐イ級がどこにいたかの情報は掴めたかい?」
「流石に朱里ちゃんの前では言えないもんね。駄目よ、南西の海に連れていかれる途中で、方向感覚がよくわからなくなったら着いた基地にいた。そこの連中のガラは悪かった。こっちに爆弾として連れてこられるときも、よくわからない海域を通過した気がするけど意識はもうろうとしていたからよくわからない。って」
「いや、それは収穫だよ。その『連中のガラは悪い』『南西に行く途中でよくわからない海域を通過している』という情報、結構重要だからね」
「どういうことよ?」
「私、というか私達は、私達が『南西の勢力』と思っている連中が仕掛け人だと思っている。証拠になるような所属印持ちは出てきていないから推測だけどね。けど、彼らは本当に『南西』にいるのか。調べがいがありそうだよ」
「……その辺りは任せるわ。ただ、あの子には、イ級には手を出さないで頂戴」
「分かっているさ。決裂に終わったけど、暁を中心にした私達旧127鎮守府と『北の姫』を中心にした勢力で、お互い友好的にいられる『タノシイウミ』を目指していたことは忘れていないし、君にその熱がまだ残っていることも分かっているよ」
「ならいいけど。さっきの福山司令官の言葉、他の生き残りもいずれ回収する気なんでしょ?やり方は知らないけど」
「そうだね。全容を明かすと『誰に』ばれるかわからないからその時まで待ってくれとしか言えないけどね」
「それなら私はやることをやるだけよ。その辺り、任せたわよ。響」
「期待に応えて見せるさ。『今度こそ』、ね」
「アンタ達はそればっかりねぇ」
工廠に残った二人の会話が響いて、消えた。