4月6日 16:00 第127鎮守府 情報室 響視点
「ふむ。ベトール氏の炙り出し作戦が行われるとは聞いていたけど……大分過激にやっているね」
ギリギリ隔離領域に収まる範囲での市街地への無差別攻撃――に見せかけた炙り出し――の情報を見て独り呟く。
「一見無差別なように見えてパターンがあって、成程……本命は明日かな」
そう思い連絡を取る。対象は爆撃犯ことベトール・ゼラズニイ本人である。使徒メンバーには一通り連絡先の交換を出来るようにマザー氏に手配してもらっていた。
「響だよ。炙り出し作戦の調子はどうかな?監督」
『順調さヒビキガール。守護輝士(ガーディアン)チャンとヒツギガールの対応パターンも見えてきたからNE!これから仕上げさ』
「明日の19時、座標は東京の――と言ったところかな」
『流石だNEヒビキガール。そしてそれはアークスも読めてきているだろうぜ』
「そうだろうね。あちらの演算能力はマザーには劣るけどヒトのそれを遥かに凌駕する。時に相談なんだけれど」
『なんだい?』
「うちのマザー・クラスタ艦娘や一部構成員をその決戦の舞台の観戦に向かわせてもいいだろうか」
『ほう?その心は?』
「その行く末を見届けたい。いや、見届けさせたいと言った方がいいだろうか。現状中途半端にそちらの事情に食い込んでいる状態だからね。状況把握は現場に居合わせてナマの映像(え)を見せるべきだと思っているんだ」
『俺の邪魔をしないっていうなら構わないZE!最近はオフィエルが煩いからね!』
「やりすぎ、ってところかな?被害規模がそろそろ隠蔽の限界を迎えそうだからね。決戦ともなれば限界を超えそうだ」
『そういうことだNE。だからこそ邪魔をしないことを約束してくれるならオーディエンスは歓迎だZE!』
「ついでに戦場での隠蔽もお願いしたいな。よろしく頼んだよ」
『オーゥケェーイ!』
現在のエーテル技術として各言語の自動翻訳機能が搭載されているのだが、彼の言葉の癖が強いせいかそれを突き破って独特な口調になっている。話をしていて飽きないので個人的には歓迎だが、好みは分かれると思う。
「さて、では動くとしようか」
亜贄社長の件といい、今回のベトール氏といい、苛ついているのが『オフィエル』だということが気にかかっている。これがマザー氏であるなら納得するのだが。
4月7日 19:00 隔離領域
ドォン、ドォンと各所で爆発が発生する。
「フンフンフフーン……!さぁ、種は蒔き終えた。最高のステージがステンバイ!あとはメインアクターの入り待ちだぜ?ヒツギガール!守護輝士チャン!」
「うわ、本当に派手にやってる……」
「オーウ、シット!無粋なホットラインはカットしておくべきだったZE!イエス?要件は手短に頼むぜ、ユーシー?」
『……ベトール、いい加減にしてもらおう。こちらでもみ消すのにも限度がある。同じ場で繰り返せば、なおさらだ。マザーはこの地を愛している。無闇に傷つけるのは、許されん。無意味な破壊行為を、いつまで続けるつもりだ』
「ハハハ!それはヒツギガールたちに確認してもらいたいところだNE。こちらから手の届かないところに逃げられてしまうんだから、手の届くところに出て来てもらうしかないだろ?それにこれはマザーからのお願いでもあるんだZE?止めるリーズンがナッシング!」
『……度が過ぎると言っているのだ。我々の目的は、地球の破壊ではない』
「アイシーアイシー、アンダースタン。聞き飽きたからもういいだろう?ポチッと、なーッと!全く、何にもわかっちゃいないな。こんなスペクタクルな映像(え)をナマで撮れる機会なんて今ぐらいしかないんだZE?そこには最高のエキサイティングがある!全世界が求める映像が、そこにある!……なァ、そうだろうマザー?だから俺はユーの誘いに乗ったんだぜ?」
そうして電話を切るベトール監督。それに対しててーとくが声をかける。
「今のは?」
「無粋なオフィエルからさ。これを無意味な破壊行為としてしか見ていないのさ」
「事実、これほどまで大規模に、効果的にやらなければアースガイド等で対処可能でしょうからね。アレらをオラクルという穴蔵から引きずり出すにはこの程度は必要の範囲内だと思いますよ」
「分かってるねぇ、アズサガール?」
「ベトールさん、いえ、ベトール監督!」
「何かな?イナヅマガール?」
「サイン下さい!!」
「電ァ!?」
この爆発騒ぎの中で言い出すことかそれが。
「何言ってるんですか今しかないでしょう!?不屈の鬼才!立ちはだかるCG技術に負けずにSFXでナマの映像を撮り続ける名監督ベトール・ゼラズニイ!ずっと、ずっと大ファンなのです!!」
「お、おう……」
「オーケーオーケー、メインアクターが来たらそれどころじゃなくなるからササっと書いてしまおう。『イナヅマガールへ、ベトール・ゼラズニイ』これでいいかい?」
「わぁ……!ありがとうなのです!」
「電さんが落ち着いたようなので一つ忠告を」
「なんだいアズサガール?」
この『撮影現場』に来ている鎮守府メンバーは私、電、加賀、海風のマザー・クラスタ艦娘とてーとく、卯月の姐さんだった。それ以上は流石に隠蔽が厳しい。
「響さんからお聞きしましたが、守護輝士に感情を求めるのは厳しいかと思われます。アレは宇宙の危機ですら大して表情を変えませんから。それこそ大切なものを失う瀬戸際にならない限りは」
「参考にしておくよ」
「てーとくは感情豊かだけどね。あ、勿論てーとくの方がいいって意味だよ!」
「アレより感情制御が出来ていないようで癪ですが……いいでしょう。……ッ、来ますよ」
てーとくやベトール監督の視線の先に守護輝士と八坂が到着するのが確認できた。
「……オーケーェイ、アクターも揃った!クラッパーボードを慣らそうじゃないか!最高の、フィルムのために!」
「各員ベトール監督の付近に待機を。基本的に手出しは禁じます。いいですね?」
「「了解!」」
19:30 隔離領域
町中に張り巡らされた幻創種を蹴散らした守護輝士と八坂が待機ポイントに到着する。
「はあっ……はあっ……これで、一通り倒したでしょ……!」
息を切らしている八坂と対照的に落ち着き払っている守護輝士。やはりタフネスが違う。そこにベトール監督が降りてくる。私達は地上の物陰に隠れている。
「グッドだ、ヒツギガール!守護輝士チャン!ここまでは俺の想像通りのアクトだよ!」
「……ベトール!」
八坂にとっては兄の仇であるので感情が前に出ている。少なくとも今回に関してはブレはないようだ。
「だが、それだけではソーバッド!俺が君達に、君達のようなアクターに期待しているのは、それだけじゃない!わかるかいヒツギガール?君にも守護輝士にも足りないものがある!」
「あんたの都合なんか知らないわよ!あたしたちは、あんたみたいな馬鹿野郎をぶっ飛ばすためにここに……!」
その声を遮るようにベトール監督はクラッパーボードを鳴らし、爆発を起こす。そして幻創種が八坂達を取り囲む。
「な……!」
「そいつだヒツギガール!その表情!絶望に染まりかけたナマのカオ!そいつを俺は、求めてたんだYO!」
パニックホラー監督らしい感性である。そして素直な八坂はこういったアクターとしてぴったりだろう。
「……だが、守護輝士チャン。君のカオはいただけないな。イマイチだ。君達も、俺達と、同じような表情をするんだろ?もっともっともーっと、人間の生々しい表情をプリーズショウミー!ユーシー?」
実際守護輝士の表情は「ああ、そう」ぐらいの涼しげな表情である。アクターとしては最低である。そしてベトール監督はさらにクラッパーボードを鳴らし、爆発を起こし幻創種を生み出す。
「爆発から……幻創種を生み出してる……?あんたの具現武装は、爆弾なんじゃ……!」
「ノーノーノーノーノーォウ!大きなミステイクだ、ヒツギガール!俺の能力はエス・エフ・エックス!火薬爆発だけじゃない、電飾艤装フィジカルエフェクト!何でも出来る!ロートルと馬鹿にされ続けた技術だ……」
噛みしめるように言うベトール監督。
「……だがこうして、今の世に俺の力として復活した、最高最大のフィルムテクニックだ!フィルムをよりエキサイティングに!クレイジーに!センセーショナルに!仕上げるのが俺ロールさ!ヒツギガール!君だってハギトから聞いたはずだZE?エーテルとは通信だけの技術じゃナッシング!願いを、カタチにするものだって!これが俺の、エーテルの使い方SA!」
ガンガン煽っていくベトール監督。本来映画撮影に活かす能力として最高のその力を、今回は関係ない破壊活動に使っている。それについてはあえて触れていない。
「……ふざけんじゃないわよ。そんなことのために、色々なものを巻き込んであんた、何様のつもりよ!」
「ハハハ!そのワード、そっくりそのままユーに返すぜヒツギガール!君も、マザー・クラスタのメンバーだっただろう?マザー・クラスタに入るときに言われたはずだ。俺達は選ばれたんだ、と。力を持つ存在なんだ、とNE!その力を以て、己の欲望を果たす!己の欲求を満たす!チェンジ、ザ、ワールド!それこそが、俺達のロール!」
それは選ばれた者特有の選民思想で、エゴであり、八坂への煽り文句である。実際、ベトール監督は『八坂火継を炙り出すため』でなければそれを破壊活動に転用はしていなかったのだ。だがそれを八坂が知る由もない。
「違う!そんなのは、絶対に違う!誰かが悲しんだり、いなくなったりする世界を作り上げるために、この力があるんじゃない……!あたしは……アルを守りたいと思っただけ。そして、この子はあたしの元に来てくれた。守るための力なのよ、これは」
そういって八坂は手にしている具現武装を見る。守護輝士はそれを見守るような視線を送っている。
「全てを守るとか、全てを平和にとか、そんなのが夢物語なのは、とっくの昔に分かってる。それでも、それに近づく努力は忘れたくない。皆が笑って、何も失うことなく……。……悲しまずにすむ世界に、近づけたい。……あんたのやってることはそれとは逆だ。欲望でも、欲求でもない、ただの八つ当たり。創作の皮を被った、ただの破壊活動だ!」
八坂の主張は間違っていない。ことこの状況においては。だが、欠けている。
「ノォーウ、ぜんっぜんダメだよヒツギガール。できないと思いながらやっているとかちゃんちゃらおかしい話だNE?夢物語を具現する、それが俺達の力……エーテルのパワーなんだぜ?ドゥーユーアンダスタン?」
エーテルを、具現武装を扱うのに必要なものは「やりたい」という願望ではなく「やるんだ」という覚悟とやり抜く意志である。八坂にはそれが致命的に欠けている。恐らく本人的には無自覚なのだろうが。
「そんなネガティブな意志じゃマインドも、ワールドも、動かすことはできやしないんだよ、ヒツギガール!」
そう断定するベトール監督。ベトール監督の言う通り、仮にここでベトール監督を打倒できてもどこかで砕かれるときがくる。それを八坂には分かって欲しいのだけれど、無意識的な問題であるから厳しいだろう。
「……そろそろフィルムも終わりが近い。クライマックスのシーンを演ろうじゃないか。守護輝士、君は最後まで表情を変えることがなかったね。思いの外、イマイチなアクターだったよ。まあアズサガールに聞いていた通りだったけどNE!だからせめて、ラストシーンぐらいは悲痛と苦痛に歪んだナマの表情を観客に見せてあげるといい!」
そう宣言してベトール監督はクラッパーボードを鳴らすが、反応がない。
「……ホワッツ?どうした、フィルムは動いているぞ!」
「撮影中止ってことだよ、ダメ監督」
その声は空から銃弾と共に降ってきた。周囲の幻創種が撃破される。
「……炎雅、兄さん!」
「よーう、元気そうだな、火継」
現れたのは八坂炎雅。アースガイドのアーデムの懐刀で先日ベトール監督が住んでいる部屋ごと爆破したはずの人物だった。
「ユーは……!八坂、炎雅……!フ……エンガボーイ。君はあの部屋ごと、消えたはずでは?」
「オレがあんな見え見えなのに巻き込まれるわけねえだろ。多少はトリックを疑えよ、映画監督サン?」
この数日死んだふりをして潜伏していたらしい。
「……シット。だがノープロブレム、ここでまとめて消せばフィニッシュ!エンディングだZE!」
「おいおい冗談だろ。今日び、そんな脚本じゃ許されないぜ?」
確かにそういう強引なオチは駄目かもしれない。そして周囲で衝撃が起きる。
「今のは……反応多数。アースガイドの様ですね。周辺に展開されていた幻創種が鎮圧されているようです」
「アースガイドもしっかり仕掛けてきたってことか……!」
それを通信越しに――おそらくシエラ――に聞いたらしい八坂も困惑する。
「友軍?アークスじゃなくて?」
ここで八坂は初めてアースガイドを知ったようだ。あるいは守護輝士も。
「ホーリィシィィィーット!俺の舞台が!作り上げていたステージが!」
「こんなバレバレの誘いしている場所に何の策もなしに来るかっての」
あくまでも守護輝士と八坂だけを相手どるつもりだったベトール監督としっかり迎撃するつもりだったアースガイドの差だろう。これは決着もついたか。
「もっとも、無策で飛び込んできたバカもいるにはいるらしいけどな」
八坂のことである。
「エンガボーイ……君はミスキャストだ!即刻この場から、去ってもらおう!この舞台は……俺の映像には……世界が望む映像には、君のようなイレギュラーは不要!まったく、ふさわしくないッ!」
「まあまあ、そう邪険にしないでくれよ。オレ、腹芸とか化かし合いとかは結構得意なんだぜ?」
「シャラァァァーーーップ!!」
激昂するベトール監督。精神的な優位性も八坂炎雅に軍配が上がっている状況と見て良いだろう。
「……あんたの話は聞いてるぜ守護輝士。会っていきなりで悪いがその力、頼りにさせてもらっていいか?」
(頷く)
「で、そこのバカ妹。お前はどうする、疲れてんなら寝ててもいいぞ?」
「ば、バカ言わないで!戦うわよ、あたしも!」
「んじゃあ、このクソくだらねえ映画をぶっつぶしてやろうじゃねえか、なあ」
そうしてベトール監督と八坂兄弟、守護輝士との交戦が始まった。
20:00 隔離領域
「オゥマィ……ガッ……!俺の……ステージが……崩れる……?だが、グッド……グゥゥッドだ……!ヒツギガール、エンガボーイ、そして守護輝士チャン……!」
息絶え絶えになっているベトール監督。正直最強のアークスと才能の塊である八坂にアースガイド中核の八坂炎雅という布陣を相手にしてよく持った方だと思う。
「アクターは、監督の予想を上回ってこそ!そのときにこそ、最高のフィルムが生まれる……!」
「……ったく、この状況でも映画の心配が。大した根性だな?」
「!」
「アレは……」
「てーとく?」
「守護輝士……?……っ、兄さん、あれ!」
八坂達の後ろに5人の人物がエーテルで生成された足場に立って並んでいた。服装からしてマザー・クラスタの使徒だろう。
「全員でっていうから、どんなやつがいるのか50%期待してたのに……どいつもこいつも、70%ぐらい弱そう。で、あのちんちくりんが、火継っての?100%生意気そうだし、今ここでやっちゃおうよ、フル」
「……だ、だめだよオークゥ。確かに弱そうだけど、私達は挨拶に来ただけなんだから」
とんでもなく失礼なことを言う女性2人である。というか、キャラが濃い。
「……あ、挨拶に来ただけ、って台詞。なんだか無駄に強そう。使えるかも。……メモメモ」
「……ほほ、フルの言う通りじゃよ、オークゥ。此度のわしらの目的は、きゃつらではない」
「…………っ」
それを嗜める好々爺じみた男性にフードを深くかぶって様子の伺えない女性……だが、見覚えがある気がした。
「……鷲、宮?」
「え?」
「いや、気のせいだと、思う」
そうであってほしくないという思いの方が大きい。
「おいおい、奴さん勢ぞろいかよ。こりゃちょいとマズいかな……?」
そういう八坂炎雅の台詞を無視するように中央にいる中年の男性が転移し、ベトール監督の背後にまわる。ぞわり、と身の毛がよだつ。
「なあ、電」
「江風ちゃんも、ですか?」
「あぁ……なにを、考えてる……?」
そう思いながら様子を窺う中、男はベトール監督に声をかける。
「手ひどくやられたようだな、ベトール。こちらの進言に従わないから、そうなる」
「ハ……そんな事を言いに来たんじゃないだRO?オフィエル?」
「あいつが、オフィエル……!」
「卯月さん、抑えて!」
現状疑わしい名前トップにいる名前、オフィエル・ハーバート。彼がその当人らしい。
「……ああ」
その直後、ベトール監督の周囲に多数のメスが出現する。それが意味することは――
「駄目ーっ!!」
メスが殺到。ベトール監督を突き刺す。庇った電ごと。
「が、は……っ」
「うぅ……っ」
「電ァ!」
「電さん!」
電とベトール監督の元に駆け寄る。
「マザーが粛正を決められた。著しい独断専行、そして作戦遂行のミス。とうてい、看過できるものではない。私はその決定に従ったまでだ、ベトールよ。……して、何故貴公は邪魔をした?駆逐艦電」
「嘘を、吐くな……!この、嘘つき……!」
「へ、はは……は……がふっ!オーケイ、オーケェェェイ……!……それがマザーの決定なら、いいだろう!」
「んなわけが、ないので……!」
「総員全方位に牽制射撃!私は転移します!」
「オラオラオラオラァ!!」
電とベトール監督を連れててーとくが転移する。守護輝士たちにもマザー・クラスタの使徒にも、特にオフィエルには卯月の姐さんが牽制どころか本気で当てる気で射撃する。
「……目的を達成できずか。何故邪魔をした、127鎮守府よ」
「電が嘘だって言った。それだけで十分だろ」
「マザーはそんなにあっさり仲間を見捨てるなんてしません!」
「今回のことは余程のこと、と捉えさせてもらうわ」
そうして牽制して膠着状態になる。
「ちぃ……。まあ、いい。アレでは助かるまい。世界の病巣よ。今一度、宣告しよう。我々、マザー・クラスタの目的はそちらにいるアルという少年の身柄のみ。引き渡せば、地球人の身は保証する」
「地球人って……あたしたちだけ?オラクルの人たちは、どうなるのよ!」
八坂の言うとおりである。
「私はマザーの言葉を伝えるのみ。引き渡さなければ、全ての病巣を取り除く。……それだけだ」
そう言ってオフィエルと他のマザー・クラスタの使徒は転移していった。
「アルを引き渡せって……あいつらの……マザーの目的は何なの!?」
「ッチ、随分と高等な転移技術だな……!」
「八坂、落ち着け」
「蒼!また隠れて見てたの!?」
「落ち着け。そうして見ていたから分かる。勘だけど。アレは、オフィエルは、マザーの言葉を正しく伝えてない。黒か白か、0か1か、そういう目で見ないことをお勧めするよ」
「装甲車が来た!撤退するぞお前ら!」
「了解!八坂、ベトール監督も言っていたけど、ちゃんと腹決めろよ!出てきたからにはな!」
「ジャミング起動、発進!」
そうして私達も撤退した。
21:00 第130鎮守府 医務室
「うっ、ぐ……ワット?ここは……」
「127鎮守府の第二拠点こと旧130鎮守府さ、ベトール」
「ハギト!?俺は死んだはずじゃ……っぐ!」
「電君が庇ってくれなかったら確実に死んでいただろうねぇ。電君には感謝するといい。ああも熱心なファンは貴重だよ?」
「そのイナヅマガールは?」
「艦娘としてのダメージだったから入渠ドックで治療中だ。命に別状はないよ」
「そうか。ふっ、人の死ぬシーン、撮り損ねた、ZE……」
「マザーからの命令であればそれも悪くはないだろうけど、127鎮守府はそうではないと判断した。だからキミを保護したのさ」
「ええ。それに電さんが庇ったのですから生きてもらわねば困ります」
「ワット!?いつからそこに?」
「ずっといましたよ。第130鎮守府に緊急医療設備を増築して正解でした。ですがベトール・ゼラズニイ。貴方はしばらく集中治療が必要な重傷です。それをお忘れなきよう」
130鎮守府は正式な鎮守府としては機能していない為、非常用拠点としての整備がなされていた。負傷者の治療、隠蔽、保護。それらは現在の130の十八番である。
「イナヅマガールが庇ったから、それ以外の目的はなんだい?」
「いえ?何も。私は電さんが身を挺して庇った相手に死なれるのは嫌だと思ったから助けただけですよ。さて、貴方も起きたようですし、ここは亜贄社長にお任せしますね。私は電さんの様子を見てきます。事情聴取はまた後ほど」
そう言って梓は足早に去って行った。
「不思議な連中だね、127は」
「素直なだけさ。仲間に対してね。改めて、脱落者の間へようこそベトール」
21:10 第130鎮守府 入渠ドック
「あ、司令官さん!……っだぁ~!」
「大破レベルのダメージです、無理はなさらず。ベトール監督が目を覚ましました」
「本当ですか!?」
「ええ。貴方のおかげで一命をとりとめました。よくやりましたね、電さん」
「えへへ……!」
「今後のことですが、今は後回しにしましょう。まずはしっかりと傷を癒してくださいね」
「はいなのです!」
歯車が、狂い始める。
梓が足早に去ったのは一早く電に伝えたいためでそれ以上でもそれ以下でもありません。