4月12日 10:00 第130鎮守府 医務室
「経過良好、このまま療養していれば復帰できるでしょうね」
あの戦いから数日、気を張らなければ会話も困難だったべトール監督がある程度余裕を持てる程度に回復したので改めて事情聴取を行うことになった。同席しているのは27年同期組とてーとく、卯月の姐さん、そして響の姐さん、ハギトさん、ベトール監督だった。鎮守府側から本件に絡むのは私達同期組以外はその3名で行く基本方針だ。瑞鳳達はおまけ扱いは嫌だと参加を申し出た次第だ。
「インテレスティングな医療装置だがどこのものだい?」
「オラクル技術に貴方方の言う『エーテルの妄想は無限大』という主張に則ったインチキ技術ですね」
「グゥーッド、ソウグゥーッドだよアズサガール!」
「130は元よりその方向性で研究するために第二技研が改修した施設でしたからね」
「それに乗っかるのは癪だがやれることを広げるためには、な」
嫌そうに卯月の姐さんが呟く。活用できるものがなければ跡形もなく第二技研の痕跡は消し去りたいのが彼女の本音だ。
「さて、私達第127鎮守府はマザー・クラスタの行動を妨害しないとはいいましたが、脱落者である亜贄社長とゼラズニイ監督は別です。知っていることを教えていただきますよ」
「響だよ。知るべきではない情報だと思ったらストップさせてもらうよ」
「響は全部知ってるんだったか」
「うん。だからこそ『契約』を結ぶべきだと思っているよ」
「それに抵触しない辺りを聞いていきたいですね」
「不思議なグループだNE、ユー達は」
響の姐さんは短絡的なことはしないという信頼が前提にある。それを知らないと奇妙に映るだろう。
「まずマザー氏の短期目的ですが、八坂火継さんではなくアルさんの奪取、ということでよろしいでしょうか」
「私の知る限りそのはずだけれど、ベトールには何か新しい指令は来たのかい?」
「ノーだ。その為の炙り出しをマザーに依頼されたから俺はやっただけSA」
「八坂さんをどうにか出来ればそれを盾にアルさんの身柄の交渉もできるでしょうからね」
「守護輝士(ガーディアン)チャンの始末も依頼されていたんだけどNE。とんだモンスターだったZE」
「ぶっちゃけてーとくより強いからね?ベトール監督の能力もすごいと思うけど、てーとくや守護輝士っていう強力な『個』を殺すって意味だと無理だと思うなァ」
宇宙の災厄に正面切って戦う宇宙最強クラスを殺せる地球人が果たしているのか。
「まあオーバーな自覚はあったしあんなミステイクだ。マザーに見限られても仕方ないというマインドはあったYO」
「しかしそれは嘘だった、そうですね電さん」
「はいなのです!あのオフィエルからは傲慢な嘘が感じられたのです!絶対に許せないのです!」
「だそうなんですよね」
「そうするとやはり私も危うかったわけだ。そもそもマザー・クラスタの使徒なんて自分の欲求と力の誇示に強い意志を持っているんだけどね?」
「えっと、その人達……空に浮いていた人たち5人全員そうなんですか?」
「そうだよ、羽黒君。あの中の老人、アラトロンは比較的理性的だけどね」
「女の子2人も我が強そうだったよね」
「1人沈黙していたフードの女性は?」
「ミーにも分からないNE。彼女は使徒じゃない」
「付け加えると火の使徒である『魔人』ファレグはあの場にいなかったね」
「あの単騎でアースガイド支部をボコボコにしてるっていう」
「知っているのかい江風君」
「アースガイド艦娘の矢矧から聞きました。その人の戦闘能力が馬鹿高いから他の使徒の人にも目茶苦茶警戒してるンじゃないのかなって印象があります」
単騎でアースガイド支部を遊ぶように壊滅させていく女傑。使徒の基準が彼女であれば守護輝士の撃破も視野に入れても無謀とは思えない気がしている。
「彼女を基準にするのは……ねえ?」
「日本の有名怪獣映画とサメ映画を同じランクでトークしろと言っているようなもんだZE!」
「ですよねー」
「守護輝士と他の大多数のアークスの実力差も同様のことが言えます。あの場にいたのが守護輝士でなく一般アークスなら十二分に勝機はあったでしょうね。外縁部のアースガイドの支援攻撃がなければという前提ですが」
「マザーも無茶振りしてくれたものだよ、全く」
「だがこれでマザーも対守護輝士チャンに全力を出すプランで今後はやっていくだろうNE」
「そしてそのマザー氏の最終目的ですが……」
「知らないね」
「ギブアンドテイクだ。俺は昔マザーに助けられたから今度はマザーの願いを叶える。それだけSA」
「ふむ……」
マザーの目的は使徒メンバーですらよくわかっていないらしい。
「対象などまで言うのは契約に反するけど、彼女の目的は復讐だよ」
「おいおい、そりゃあ127(ウチ)が否定できねぇ案件じゃねぇかっぴょん」
「だから静観しているんだよ」
「復讐なら仕方ありませんね」
「むしろマザーに復讐を思い立たせるような悪い人がいるんですか!」
「本当に、物分りがいいね」
「ユー達も復讐には拘りがある、アイアンダスタン?」
「ええ。復讐、反抗心、そういうもので集まったメンバーで構成された鎮守府ですからね。散々復讐の為に動いて人の復讐に否定の声を上げるのは筋が通りません」
他の鎮守府や組織と明確に違うのはここだろう。私達は復讐を否定しない。
「ですが余計な周辺被害を出す、復讐が迷走していくなら話は別です。復讐は真摯に真っ直ぐであるべきだと思っていますから」
「響お姉ちゃん的にそこはどうなのです?」
「正直迷走が見えているかな。だけど、ある程度出しきらないとスッキリしないだろうとも思っているよ。そのスパーキングを受けるのが守護輝士ならまあなんとか丸く収まるかなという目論見もあるよ」
「火継ちゃんにはいい迷惑じゃないですか」
「そこが懸念点だね」
「懸念点はもう1つあります」
ふう、と嘆息しててーとくは続ける。
「手段としてマザー氏が狙っているアルという少年。彼の正体はダークファルスと守護輝士の浄化のフォトンの力、八坂火継さんのエーテルが入り混じった上で八坂火継さんのPSO2内のアバターを借りて顕現したもの。要は、その本質はダークファルスという悪質な汚染存在であるということです」
「下手に確保して使おうとしたらやばいってこと?」
「そうです瑞鳳さん。ダークファルスの本質は汚染。いくら優秀な方であろうともそのリスクを軽視してはいけません。それをマザー氏はどう捉えているのか……」
「その危険性について過去のダークファルス【若人(アプレンティス)】騒動の顛末を含めて伝えたけどマザー氏は方針を変えないつもりだそうだよ」
「とんだ爆弾を回収させようとしていたみたいだねマザーは」
「ユーの結論はなんだい、アズサガール?」
「アルさんを利用するのは止めておけ、ですね」
「でも、マザーのことだから何か考えがあるんじゃないですか?」
「海風ちゃん、前々から思っていたけどそのマザーさんへの絶対的な信頼は何なの?」
「羽黒ちゃん?」
「そうですね。いささか盲目的に思えます」
「赤城もなのね。……まあ、無理もないわ。私達マザー・クラスタがマザーを信頼する理由はマザーが『今まで一度も間違ったことがないから』と『欲しい言葉を適切にくれてきたから』の二重効果よ。
関わりのかなり薄い私達でそうなのだから、べったりな他のメンバーは言わずもがなといったところね」
「だからこそ私はマザーに手を引かれていく鷲宮に声をかけられなかったし、マザーに出会った時に何も言えなかった。逆に振り切った八坂が異常に見えるし、もっと評価されてもいいと思うンだよね」
てーとくが収集した情報だと兄の八坂炎雅にも覚悟ができていないなど結構言われているらしい。
「私はエーテルを、マザー・クラスタを舐めないで欲しいねぐらいのつもりだったけどずいぶんボロボロに言われているね!?」
「だがヒツギガールが相手をするのはマザーだ。強固なマインドで事を押し進める相手。ならエーテルを扱うにふさわしいハードな意志がないとソーバッドさ」
「自称ただの女子高生には荷が重い話だね」
「響だよ。更に八坂火継に追い打ちをかける人物が現れたそうだよ。日時は昨日、場所はラスベガス。やったのは『魔人』ファレグ=アイヴス。マザーに噂を聞いて任務なしに現れて殺す覚悟が足りないと説いたそうだよ」
ラスベガスということは八坂達はアースガイドの本拠地に行ったということだろうか。
「……火継君には同情するよ」
「ファレグのことだからわざと斬れるようにしてやってみろとでも言ったんだRO?」
「八坂に会ってエール送ったほうがいい気がしてきた」
「それと追加情報だ。そのファレグ=アイヴスが今127に訪問しに来ているよ」
「「!?」」
「響さん、先方は何の目的で?」
「守護輝士が強いと聞いてちょっかいかけたけど不完全燃焼だった。同等に強いとマザーから聞いたから梓と闘ってみたい、だそうだよ」
「シンプルに殴り合いしたいだけかよ!」
卯月の姐さんのツッコミが響き渡る。
「……じゃねぇや、マザーに言われてだとかそういう二心はありそうか?」
「ないそうだよ。というかマザー・クラスタとアースガイド及びアークス間の抗争にも特に思うところはないそうだよ。勝手にやりあえばいい、と言っているね」
「えぇ……」
「彼女ならまあ……」
「サプライズ要素もない話だNE」
「というわけでどうする梓?」
「純粋な戦士としての闘争ですか。懐かしいですね、いつかのヒューイさんの催し以来の感覚……受けましょう。ですが場所はどうしましょうか」
「私から言わせてもらうと、周囲が更地になっていい前提の場所でやり合うことをお勧めするよ」
「となると……響さん、アイヴスさんをこちらに連れてくるように手配を。地上演習空間を使います」
「分かったよ」
130は鎮守府コアが創り出した孤島である。その為、本来鎮守府にない人間に使える緊急医療設備の配備もできれば実験用の何も無いテスト用フィールドを各施設から離れた位置に生成することも可能だった。今回はそれを活用するらしい。
12:00 第130鎮守府
ファレグさんは艦娘母艦白峰に乗って悠々とやってきた。
「アイヴスさん、ご足労いただきありがとうございます。私が第127鎮守府基地司令、福山梓です」
「これはご丁寧に。マザー・クラスタ火の使徒、ファレグ=アイヴス。私については……ハギトやベトールから聞いているでしょうか」
「とても腕の立つ武人であると聞いていますよ。どうしましょうか、いい時間ですし先に食事と雑談を入れますか?それともーー」
「闘争を。先日の守護輝士との戦いで不完全燃焼で腕がむずむずしているんです」
「分かりました。ではこちらへ。被害を気にしなくていい空間を用意していますので」
「まあ、素敵ですね」
てーとくとファレグさんのお互いの印象は悪くないようだ。てーとくも表に出さない、というより機会がないだけで全力で闘えることは好きだ。周辺被害を考えて普段抑えてはいるが、全力で戦う私達を時折羨ましそうに見ているのを知っている。
そしてフィールドに双方立つ。こちらの要望でこの戦闘を記録させてもらうことにしている。撮影担当はベトール監督である。
「人に見られての闘い、あまり慣れていませんがいつも通りやらせていただきますね」
「えぇ。その方が後進の育成に繋がりますので」
「いいですね。私は『魔人』等と呼ばれますが、皆さん勘違いしていて本来人間だってこの領域に到達できるんです。それを過度に恐れてこそこそと隠して蓋をして……とってもくだらない」
「自分への脅威になりそうなものを片っ端から忌避したがるのも人の性ですからね。だからこそ、過度に恐れないように我々はテレビ局と提携してある程度の開示をして人々を慣らしていこうと思っています」
「素晴らしい考えだと思います。いずれこの戦いも公にできるぐらいになるといいのですけど」
「それは今後の人の可能性次第でしょうね。では、始めましょうか」
「えぇ。マザー・クラスタ火の使徒、ファレグ=アイヴス。人の可能性の極地、それが私です」
「第127鎮守府基地司令、福山梓。艦娘不知火としてその限界に挑むもの」
「「ではーー」」
「アークション!」
ベトール監督の宣言の直後両者は激突した。
「はっや」
「今の見えた?」
「な、なんとか……!」
一撃目は高速で両者接敵、鍔迫り合う。
「剣を手で。それにこの膂力!」
「速度も威力も上々。ですが殺すという意志が足りませんよ?」
「こんなに愉しい相手を殺すほうが勿体ないでしょう?殺さずに屈服させる、覚悟を示します!」
「あら……!」
剣撃と手刀、蹴撃。一撃一撃が私達にとっては必殺のそれである。最初はてーとくがどこまで力を出していいのかと出し渋り押され気味だったのが、徐々にアクセルを踏み込んでいき拮抗する。
「すげぇ、てーとくと拮抗してる」
「はわわ……」
「衝撃波で地面が割れまくっているわね」
「すぐに修復される仕様で良かったよね」
「ねえ、フォトンもエーテルも使っていないんだよね、あの人」
「みたいだね。霊力や呪術の類でもない。純粋なスペックだ」
「私達も鍛えていけば、あそこまで至らなくても……!」
「目が追いつくのであれば、伸ばせる下地はあるということですよね」
「ハハッ、お前達貪欲でいいなっぴょん!」
「卯月の姐さんはワクワクしないンですか?」
「するけどそれ以上に梓が楽しそうなのが見てていいな!」
剣が横に振られれば空気は斬り裂かれ直後に轟音がし、すらりとした腕が縦に撫でられれば地面は砕け発火する。人知を超えたような戦い。だけど本人達は人の到達できる範囲内であるという戦い。誰もが思った。もっとこの戦いを続けたいと、見ていたいと。
30分後
「そろそろ止めてもらえるかな!?フィールドが再生限界だよぉ!」
白熱した戦いに管理者である夏菜さんから待ったが入った。戦闘空間が限界を迎えたようだ。
「あら、これからでしたのに」
「要改修ですね。ですが、心躍る闘いでした」
「ええ、それはもう。修復が終わりましたら再度闘っていただけますか?」
「喜んで」
「あの、ファレグさん!」
「貴方は……江風さんでしたね、なんでしょう」
「私達に稽古をつけてくれませンか!?」
「あら?そのようなことを言われるのは初めてですね」
「後進の育成もまた、人として当たり前のものではないですか?いまのを見て皆さんがそう思っていただけているのなら……私も認識をアップデートしなければなりませんね」
その後休息を取りながら、アレがすごかったここもすごかったと感想戦になっていた。
「あの挙動、私も真似したいけどどこから着手したらいいのかな」
「羽黒も偏向バーニア使えよ。慣れれば微調整で任意の位置にスライドして静止も可能だよ」
「空母組としてももっとこう……」
「思考分割をもっと鍛錬して動きは……福山提督の動きが参考になりますね」
「……そうだ、ファレグさん」
「はい、何でしょう」
「八坂に人を斬る意志がない、って煽ったみたいですけど、てーとくが開戦時に言っていた『殺さずに屈服させる覚悟』じゃ駄目なの?」
「それでも構いません。ですが強力な力で殺さずに無力化というのは殺すより余程困難であるのが事実。それなら、順番にステップを踏んで殺す覚悟を、と思ったのですけど語りかけただけで明確に動揺されていましたね」
「一般日本人にとっての殺害って最大級に忌避反応がでるものだからね。艦娘は艦娘補正で深海棲艦を沈められるメンタルに調整されるけど、それでも無理だって人はある程度才能の有無に限らず出てくるものだから」
「非常に残念な話です」
「だからやれる方がやれるように最大限サポートが必要だと鎮守府組織は認識しています」
そしてついていけない人を笑ってはいけない、むしろ結論を出せたことを褒めるべきだというのが主流の流れである。
「その点八坂は……まだ日常のどこか延長にいると思っているみたいだから殺人への忌避反応も大きかったンだろうね。無理もないよなァ……」
その後、ファレグさんに数日滞在してもらって指導を受けたりてーとくと何度か再戦したりするなどする流れになった。
20:00 第127鎮守府 江風達の部屋
「……繋がるかな」
『もしもし、蒼?』
「時間大丈夫?っつか今どこよ」
『こっちは朝起きたところよ。ラスベガスにいるの』
「そっち行ったって話は聞いてたけど滞在してるンだ?」
『ちょっと詰めることが色々あるみたいでね。それで?何の用?』
「八坂が色んな人からボロクソ言われてるって聞いてちょっと励ましにな」
『……うん』
「とりあえずファレグさんはウチの鎮守府にしばらく滞在してるから心配しなくていいよ」
『え”っ、そっちに行ったの!?』
「お前ら相手で不完全燃焼だーって訪問してきたよ。てーとくもノリノリでスパーキングに付き合ってるよ」
『うわぁ……』
常識的な反応だなぁ、と思う。127で同様の反応をしてくれるのは荒潮ぐらいである。
「それでさ、敵にも味方にも散々覚悟ないから駄目だーって言われまくったんだって?」
『うん。もう訳分かんないわよ!どいつもこいつも無茶苦茶やってることを棚に上げて偉そうに!』
「伝え聞いた限り私も同意見だよ。八坂が正常だっての」
『兄さんだってさぁ……』
しばらく八坂の愚痴を聞く。言ってくる兄に超然としすぎている守護輝士、心配をかけさせたくないアルと『同じ目線』で話ができる存在が案の定彼女には不在だった。
『あぁ、でもマトイって人が話を聞いてくれてね』
「マトイ……あのマトイさん!?」
『知ってるの?』
「むしろなんで知らねェンだ守護輝士の二人目だよ、出力で言えば守護輝士を上回るアークスの中でも最強のフォースだよその人」
『そんなすごい人だったの!?……それにしてはそういう雰囲気っていうかプレッシャーっていうか?そういうの感じなかったけど……』
「オンオフが強めの人だからね。頼りになるンだけど自分が犠牲になっても他が助かればいいのメンタルしてるからてーとく達がハラハラしっぱなしなンだよね」
『そうだったんだ……』
「で、マトイさんと何を話したの?」
『大事なのは何をしたいのかだ、って。だから私は知りたい。何でこんなことになっているのか、マザーが、皆が何を考えているのか、知りたい。1つずつでも知っていきたいんだ』
「そっか。いいンじゃないか、それ」
『いいのかな』
「心にもねぇ履歴書の志望動機みたいなモン無理矢理掲げるよりよっぽどいいだろ。なんならもっと我儘に教えろバーカ!でも……」
『それは、だめ』
「八坂?」
『そんな態度じゃ見放されちゃうじゃない。そんなの、嫌。嫌なの……』
「……そっか」
八坂火継という少女の根幹に触れた気がした。
「ま、私は不良ムーブしてたからこの感想だからね。押し付ける気はないよ」
『ううん、ごめん』
「気にするなよ、大事なところなんだろ?まあ、だけどお前の中の『知りたい』と『いい子でいたい』のどっちを選ぶような時が来ると思う。こんな騒ぎだからさ」
『……うん』
「それともう1つ。ファレグさんに殺す意志がないって言われただろ?アレは気にしなくていいよ」
『でも、戦うってことは……』
「もっと上を一足飛ばしに目指しちまえばいいのさ。『殺すなんて温いこと言ってねぇで殺さずに制圧してやる』ってな。ハギトさんやベトール監督も言ってただろ?エーテルはそういう望みをカタチにするモンだって」
『そうだったかな。頭に血が上ってたからよく……』
「傍から聞いてたらだいたいそんな感じだったよ。そういうの、もっと素直になるといいと思うよ」
『素直に、かぁ……』
「そういう相手はいなかったのか?鷲宮とか」
『氷莉……あたしは氷莉相手にも強がっていたと思う。そうでないと氷莉まで失っちゃうと思って』
「成程ねぇ。じゃあさ、試しにぶつけてこいよ。多分次辺り仕掛けてくるぜ、鷲宮」
『……!』
「確証はないけどさ、ベトール監督を襲撃したマザー・クラスタ五人のうちのフードの女覚えてる?多分アレ鷲宮だ」
『え……』
「繰り返すけど確証はないからね。だけどそうだった場合、鷲宮も具現武装を手にしてマザーの言いなりになってお前を取り戻すために襲いかかってくると思う」
『……』
「だからその時に話し合えよ。あたしはおかしくなんてなってない、話を聞けってな」
『……』
「その迷いが一番危険だよ」
『!』
「迷いは具現武装の性能に現れる。そして具現武装は心の結晶化したものだ。負けるどころじゃすまなくなる。迷いが抜けないなら逃げたほうがいい」
『……うん』
(ここさえ乗り越えられれば、なンだろうけどそれはキツいよな)
私の最悪の予想が当たっていれば、鷲宮は強力な思考誘導による強固な意思で襲いかかってくるだろう。これ以上干渉出来ないのがもどかしい。
「とりあえずこれだけは言っておくからな。私はマザーの敵にはなれないけど、お前の味方だ。見捨てなンかしない。お前がいい子だろうと悪い子だろうと、ね」
『……うん、ありがとう』
「月並みだけど……頑張れよ。いつでも連絡寄越していいからさ」
『うん、頑張る』
私は友人の行く末が良いものになることを祈った。しかし、それは打ち砕かれた。
4月16日 第127鎮守府
「八坂が……鷲宮に具現武装ごと斬られて死にかけた……!?」
「致命傷を負ったけどアル少年が力を開放して一命は取り留めたみたいだ。それをオフィエルが回収しようとして守護輝士に妨害されて、次の手として八坂火継を攫って撤退したそうだよ」
「そんな……!」
『江風君』
「……ハギトさん」
『連れ去られた火継君の居場所に思い当たる場所がある。おそらくマザー・クラスタの使徒やマザー本人もそこにいる。……行くかい?』
「……!」
もう傍観者では居たくない。