少しファンタシーな鎮守府で   作:朝宮 糸瓜

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89話 刃を持って貴女の復讐を測ろう

 4月17日 11:00 月面廃棄施設

 

 

 ハギトさんに連れられてきた過去の月面開発で使われた施設の跡。その後もマザー・クラスタの手配である程度の物資の搬入が行われていたという拠点だ。

 

 「マザー!いる!?八坂もここにいるのか!?」

 「なっ、貴公何故ここに!?」

 「アンタに用事はないんだオフィエル・ハーバート。私が探しているのはマザーと八坂だ」

 「私が招待したんだよオフィエル。マザー・クラスタであり間接的に関わってきた127鎮守府の1人であり、八坂火継君の友人。袖にすべきではないと思うけどね?」

 「亜贄萩人……!」

 「どうするかの権限はマザーにあるはずだよ。こんな電撃訪問、マザーが予め指示を出していたからその命に従い排除、なんて通ると思わないほうがいい。

 仮に私を殺せても蒼君は一度見た攻撃に2度も3度もやられるほどヤワじゃない。最近はファレグと福山提督に徹底的に扱かれて緊急回避の本能も動きも拍車がかかっているからね。それでもなおベトールの時の様にマザーの指示と偽ってやるつもりかい?」

 「そのような戯言を」

 「127の電君は非常に人の悪意や嘘に敏感だ。その彼女がキミのあの宣言を嘘だと断じた。127は以後そう判断するさ」

 

 ハギトさんがオフィエルを相手にしている間にズカズカと奥へ進む。内部構造も予めハギトさんに叩き込まれているし、エーテルが2人が此処に居ると伝えている。

 

 「100%待ちなさい」

 「勝手にここからは進ませない」

 「オークゥ=ミラー、フル=ジャニース=ラスヴィッツ。なんの権限があって止めるンです?」

 「アンタが70%危険だからよ」

 「マザーはこれから大事な作戦の準備があるの。邪魔はさせない。……この言葉は使えるかも。メモメモ」

 「私はマザーと敵対するつもりはない。127とマザー・クラスタの契約は続行中だしアークスに肩入れする気もない。ただ、マザーが何を考えているのか確かめたい。心の根っこに何があるのかを知りたい。それが八坂の願いだったから。マザーはマザー・クラスタで地球人の八坂の心を踏みにじるだけ踏みにじって省みないヒトじゃないだって信じてる。だから、会わせて」

 「……蒼ちゃん?マザーは正しいんだよ?だからこうして火継ちゃんも取り戻せた」

 「五体満足でか?鷲宮」

 「一度殺さないと取り戻せないってマザーが」

 「……八坂は生きているんだろうな」

 「眠ってて目を覚ましてくれないけど……」

 「その容態も確認させてくれよ。私達友達だろう?それとも私が勝手に思い込んでいただけか?」

 「……」

 「通してやるがよい」

 「「アラトロン(さん)!?」」

 「その娘っ子には知る権利があるじゃろう。だが、邪魔はしないと改めて誓ってもらうぞ」

 「なんなら無理を聞いた報酬としてその作戦を手伝うことに躊躇いもないよ」

 「ほっほ。ならついてくるといい。マザーと八坂火継は同じところにいる」

 

 

 11:30 更に奥の空間

 

 

 アラトロンさんに連れられて更に奥の広間に通される。そこの玉座にはマザーが座っていて、その前には八坂が横たえられたストレッチャーがあった。

 

 「八坂!それに、マザー」

 「何用だ、立花蒼」

 「目的は2つ。1つは八坂の容態を確認すること。……呼吸はしてる。アルが治療したっていうのは本当らしいね」

 「だが、心が破壊されている。目覚めることはもうない」

 「鷲宮にはこれで助けられると言っておいて?目茶苦茶だよ、理不尽だよマザー。全然正しくなんてない。……だからなんでそんな理不尽に走ったかを知りに来た。それは八坂の願いでもあったから」

 「何故君が確認する」

 「八坂の友達だから。今の私は127鎮守府の特命を受けて派遣されているけど動機はそれだけ。127の皆は知った上で送り出してくれた。ハギトさんもマザー・クラスタじゃなくて127の協力者としてここに送り届けてくれた」

 「……そうか。私の目的はそうでもしないと成し遂げられないことだからだ」

 「八坂を理不尽に巻き込ませることが?」

 「それによりアルのダークファルスの力が覚醒した。故に、取り込むのに不足ない状態となった」

 「響の姐さんが情報開示してくれないからそれを復讐に使う以外の何にも知らない。誰にどうやって?何を持って復讐を完遂したとするの?何にもわからない。だから、今のマザーは信用できない」

 

 知っていることはそれでもやらせないと心が晴れることはないだろうということだけだ。

 

 「それに」

 「立花蒼?」

 「その願いがどれだけまっすぐか、歪んでいないか、変な理屈つけて元から遠ざかっていないか。そんなかけ離れた復讐モドキなら見ているつもりはないよ。マザー・クラスタの1人として、マザーにそんなことをしてほしくないから、止める」

 「何を持って判断する」

 「どうせアークス、というより守護輝士(ガーディアン)とやりあうつもりなんでしょ?その想いと力を見せてよ。私は守護輝士の次に強いてーとくの強さをよく知ってる。逆にあの人のことはそれ以上知らないけど、想いだけ一丁前で力がてんで駄目ならそもそもやめとけ、になる。だから、私ぐらい打ち破って見せて。その心を力に載せて!」

 「作戦までには時間もあるし、戦うのは儂らじゃ。やってやれ、マザーよ。蒼よ、邪魔は入れさせん。安心せい」

 「ハギトさん達からも貴方が一番信頼できる使徒だって聞いてる。その言葉、信用させてもらうよアラトロン=トルストイさん」

 

 そしてアラトロンさんに別の空間に案内された。戦うにはちょうどいい空間だ。

 

 「気の済むまでやり合うといい。他に茶々は入れさせん。オフィエルもハギトに足止めされているようじゃしな、ほっほっほ」

 「有り難いなぁ、ハギトさんは。……さあ、マザー、構えて。マザー・クラスタに具現武装を与えておきながら自分は戦えませんなんて認めないから。……変身、江風。そして具現武装!」

 「相応に対峙させてもらおう立花蒼」

 

 マザーは宙に浮き、両手に長剣を出現させる。それぞれ赤と青の剣でエーテルなのかオーラなのか、揺らいで見える。圧も今まで見てきた具現武装とは格が違う。

 

 「私はマザー、私の願いは、復讐!」

 「127の江風、この刃で、全部『識る』!」

 

 十二分な威圧。覇気。だけどそれだけでビビってはいられない。

 

 「『レイジングワルツ』!」

 「無駄だ」

 

 突撃をあっさりと止められてしまう。だがそんなことは織り込み済みで。

 

 「八坂を何で巻き込んだ!」

 「八坂火継がかの融合体を引き出したからだ」

 「アルの力の危険性を、分かって言ってるのか!」

 「無論」

 「アルの人格を、八坂の心を、蔑ろにする大義名分はあるのか!」

 「……ッ!」

 

 一閃一閃、言葉を載せてぶつける。やっぱりマザーはマザー・クラスタ想いでありーー

 

 「それでも為さなければ機はない!」

 「くっ!」

 「それほどの相手なのだ、それ程に狡猾で非情で無慈悲なのだ、フォトナーは!」

 「フォトナー!?」

 

 以前八坂がチートプレイヤーのフォトナーを探せと指示が下っていたと言っていたのを思い出す。

 

 「ならばこそ!犠牲にも目をつぶらなければならない!理想のみで戦える相手ではない!」

 「ーーッ!」

 

 フォトナーが『既に滅んで久しい種族フォトナー』なのであれば、どれだけ虚しい戦いなのか。そして響の姐さんのスッキリさせるまでやらせる必要があるという言葉に納得する。

 

 「アークスは、オラクルの人達はフォトナーじゃない!復讐の相手を間違えないで!」

 「彼らがフォトナーに生み出されたのなら同じこと!」

 「オラクルにぶつけてもフォトナーには届かない!もう、フォトナーはオラクルにはいないんだから!」

 「っ!」

 

 目を逸らしたい現実、ということだろうか。マザーの剣筋が鈍る。

 

 「オラクルの人にぶつけるのは八つ当たりに過ぎない!オラクルにフォトナーが残ってたならてーとくがいの一番にぶっ殺してる!」

 「滅ぼしたと思って滅ぶ存在な筈がないだろう!」

 「マザーをそこまで思わせるフォトナー……マザーはフォトナーになにをされたのさ」

 

 一度距離を取る。ここまでの言葉が真実なのは刃を通じて感じていた。

 

 「私は、フォトナーに創り出された模倣シオンの1号機だ」

 「模倣シオン……亜空間に棄てられたっていう……それがこの世界!?」

 「だから復讐しなければならない、お前達の思うような欠陥品ではないと結果を示すために!」

 「……ッ!!」

 

 マザーが突撃しながら叫ぶ。そして刃を受けて感じる。『それは真実ではない』と。

 

 「……違うンでしょ」

 「……何?」

 「八坂と同じだ。それが行動原理でも、願いは違う!じゃなきゃその剣筋にブレなンて生じる筈がない!」

 

 鍔迫り合い、蹴り飛ばす。そして追撃をかける。もうPA(戦技)なんてものは使わない。

 

 「マザーも八坂も願っていることは同じだ!『私を見て!』だろう!!」

 「!!」

 「八坂は家族を失って兄も離れていって独りぼっちになった!だから行動力のあるいい子でいて居場所を欲しがった!それはいい子でいたいからじゃない、『独りは嫌だ』だからだ!

 マザーもフォトナーにもう一度見てもらいたい、見棄てたことを後悔して受け入れて欲しい、そうじゃないの!?そのための復讐じゃないの!?」

 「私、は……!」

 「そこがブレてる復讐者に復讐なんてさせない!ブレた復讐なんて手段はゴミクズ以下だ!」

 「立花蒼……!」

 「私も復讐したいよ、故郷に。でもそれは鬱憤晴らしだけじゃない。一回帰郷して見つめ直して分かった。私が恨んでいるのはあの街を狂わせた狂気だ、だからその根源たる母多神を滅ぼす。

 復讐をしてそこで生きていく友達が狂気に振り回されずに生きていけるように!!マザーは復讐の果てに何を見る!」

 「復讐の、果て……」

 「復讐ってには前に進むためにあるんだ。復讐対象を滅ぼして安全な道のりを進むでも、自分の中の感情に決着をつけて前を向くでもいい。後ろ向きな復讐なんて無駄なんだよ!マザーにそんな無駄に命をかけてほしくなんてない!!」

 「それでも、この身に蓄積した想いは振り払えない!」

 「!!」

 

 ここ一番の大振りで吹き飛ばされる。ゆうに10mは吹き飛ばされる。

 

 「私の中の激情は、それで納得など出来ない!」

 「そっか」

 「……立花蒼?」

 

 武器を捨てる。マザーは困惑している。

 

 「なら、それを精一杯ぶつけてくればいい。でもアークスだってやられるだけじゃない。私を倒しきれないマザーにアークスを打倒することは出来ない」

 「……」

 「だから思う存分ぶつけてきてよ。手伝うから。ただ、民間人に手を出すのは駄目だからね」

 「お前は構わないのか?」

 「全然構わないといえば嘘になる。だけど、そうしないとスッキリしないのも分かった。後は1つ忠告しておくけどさ」

 「……何だ」

 「てーとくからの伝言でもある。アルの、ダークファルスの力を使うのは止めたほうがいい。アレの本質は汚染。どれだけ高潔でもどれだけ精神が強くても蝕み、どんどん歪んでいって本来の願いから外れたとこに着地しちゃうから。やるなら速戦即決、さっさとやることだね」

 「……覚えておこう」

 「さて、そろそろいいかのう、2人共」

 

 ずっと見守っていたアラトロンさんが声をかけてくる。

 

 「私はいいよ。全部、聞けたから。約束通り手伝うよ。どうせ八坂を取り戻しに突っ込んでくる守護輝士をこっちに引き寄せている間にアークスシップを強襲してアルを奪取、そんなところでしょ?」

 「ほっほ。見抜かれているな、マザーよ」

 「被害を最低限にすることは約束しよう。これは礼儀だ」

 「うん。思う存分やってきてよ。それと、守護輝士が来るまで八坂のことを見ていていい?」

 「だが、彼女は……」

 「案外心の中で起きたくねぇって駄々捏ねてるだけかもしれないよ。だから見させて」

 「あぁ、構わない」

 「……あぁ、最後にもう1つ質問だけどいいかな」

 「どうした立花蒼」

 「鷲宮にやってる思考誘導というか洗脳。アレはいつもやっているの?マザー自身が」

 「今回だけだ。オフィエルが必要な措置と言って施した」

 「……へぇ。分かった、ありがとう。もう聞くことは聞けたよ」

 「では皆のところに戻ろうかの」

 

 そうして私とマザーの戦いは終わった。

 

 

 12:30 月面廃棄施設

 

 

 「マザー!」

 「マザー、大丈夫?」

 「問題ない。むしろ好調だ。それと立花蒼を八坂火継の下へ」

 「マザー!それは……」

 「構わない。そういう約束だ。私は準備に入る。亜贄萩人、立花蒼のことは任せた」

 「……」

 「不満そうだねぇ、オフィエル?キミもやるべきことがあるんだろう?早く準備したらどうだい?まさか『奇跡の執刀医』は事前準備を軽視している、なんて言わないよね?」

 「……そうさせてもらおう」

 

 そうして眠る八坂の前に残ったのは私とハギトさんと鷲宮だけになった。

 

 「……蒼ちゃん。火継ちゃんは大丈夫、大丈夫なんだから……」

 「見舞いぐらいいいだろ?それに起きない理由、案外大した事ないかもだぜ?鷲宮も覚えてるだろ?八坂が初対面のハギトさんにさんざん不審者扱いした挙げ句お茶代浮いたとか図太く宣ってたのをさ」

 「本当に図太いね火継君は!」

 「何が言いたいの蒼ちゃん」

 「具現武装、すなわち心が砕けるなんてソートーな衝撃だぜ?私ならこれを機にガンガン眠るし多少起こしにかかられようが後数日〜とかやる自信あるよ。八坂もンなこったろうと思ってね」

 「どうやって、確かめるの」

 「なンか私さァ、艦娘の魂の江風のお陰で魂に接することになんか慣れちまってな?ま、その要領でやってみるよ。出来なくてもまあその時はその時だ。それより鷲宮もマザーと同行して強襲するンだろ?さっさと用意しておけよ、わたわたしてマザーの足引っ張りたくないだろ?」

 「……うん」

 

 そうして鷲宮も去った。

 

 「さて、ああは言ったけど本当にやれるのかい?」

 「ま、やってみますよ」

 「それに氷莉君の様子、想定以上に……」

 「洗脳されてますね。今回は私という洗脳におけるイレギュラーだったから話が通じただけ。そしてこれは見覚えがある」

 「小桃李君、いや海風君だね」

 「はい。そしてやったのはオフィエル・ハーバート」

 「疑念が確信になったかな」

 「はい。ベトール監督を始末しようとしたり、そもそもあの人は1人だけ別の目的で動いている。それを見極めるためにも、まずは八坂をなんとかしなくちゃいけない」

 「私は今回君の送迎をするだけだから見物しているとするよ」

 「はい。……八坂……」

 

 意識を八坂の中に落としていく感覚で接する。

 

 

 八坂火継の意識空間

 

 

 「ここは……どこ……?」

 

 ――火継ちゃんはそんなこと言わないよ。

 

 「そうだ、あたし、氷莉に斬られて……。……あたし、死んじゃったの?いや……でも、あのとき……」

 

 ――ぼくがお姉ちゃんを助ける!……絶対に、死なせたりしない!

 

 「アルの声が……聞こえて……あったかくて……。……それから、どうなったんだろう。どうでも、いいか……。どうでもいいよね、あたしなんか。あたしのこと、なんか…………」

 

 八坂火継は投げやりな言葉を紡ぐ。

 

 「……何をしたいのかも何をするべきなのかもわからないままただ、流されるままにそこにいただけ。全部、あたしが悪いんだ……。だから、もういい……もう、何もしたくない。そう、そうだ、あたしに価値ないもん……武器も折られて、氷莉に負けて……。……誰の役にも、立てなくて」

 

 ネガティブな言葉がどんどん吐き出されて行く。

 

 「……元々、向いていなかったんだもん。そうよ、全部、あたしがやりたかったんじゃなくみんながやれって言うから、仕方なくやってただけ。生徒会に入ったのだってマザー・クラスタに入ったのだって、そう。アルを、助けたのだって…………っ!」

 

 そこで彼女は自分の願いに気付く。

 

 「助けて欲しかったのは、あたしの方だった!お父さんもお母さんもいなくなって……兄さんもこっちを向いてくれなくて……!みんなあたしのそばから離れていくからそれが怖かったから、頑張って頑張って頑張って……頑張ってた……はずなのに…………」

 

 後ろで立花蒼が佇んで居るのに少女は気付かない。

 

 「……なのに、誰もあたしを守ってくれない。誰も、あたしと一緒にいてくれない!もう、疲れた……!もう、やだ……!いい子でいるの、やだ……!怖いのやだ、痛いのもやだ!苦しいのも、辛いのも……ひとりぼっちももう、絶対にやなんだから……!」

 

 それは純粋な少女の慟哭。

 

 「あたしが何をしたいのか?あたしの目的は何なのか?……そんなの、あたしはわかってた。あたしは、居場所が欲しかった。あたしの好きなものを、守りたかった。それだけ、なのに……。……どうして?何が間違ってたんだろう?どこで、間違えちゃったんだろう?教えて……誰か、教えてよ……!あたし、いやだよ……もうヤだよ……!氷莉……お兄ちゃん……アル……守護輝士…………!」

 「八坂は間違えてなんかいないよ」

 「ッ!?」

 「よ、隣、座っていいか?」

 「あ、蒼?」

 「鷲宮でもお前の兄貴でもアルでも守護輝士でもなくて悪かったな」

 「どうして……?」

 

 どうしてここにいるのか。どうしてここに来たのか。様々な『どうして』が少女を駆け巡る。

 

 「とりあえずここはお前の心の中。外のお前は絶賛昏睡中だ。アルが頑張ってくれたおかげで命には別状がないどころか外傷も残っていないよ」

 「アル……あの時のアルの声は、本当にアルだったの……?」

 「私はその場に居なかったけど、お前が鷲宮にざっくりやられた直後にアルが八坂の元に現れて治療したらしいよ。だから、多分それは本当にアルだったんだ」

 「そうなんだ……」

 「それでオフィエルがアルを確保しようとした」

 「じゃ、じゃあアルは!?」

 「守護輝士がそこで辿り着いてな。こりゃ無理だと悟ったオフィエルが第二の手段としてお前を攫ったのさ。それでお前は月のマザー・クラスタ所有の施設の奥地で寝てるってわけだ」

 「そう、なんだ」

 「マザー達は八坂を囮にして守護輝士を誘き出そうとしている。入れ違いにオラクルに攻め入ってアルを奪うためにね」

 「来るわけないよ、あたしなんかのために」

 「私、さ。お前の兄貴も守護輝士のこともカタログスペックでしか知らないからどんな人間してるかなんて全く知らない。マジでお前のことを見捨てるのか、何かしらの理由をつけてやってくるのかも分からない。とりあえずマザー達は来るだろうって踏んでるけどね」

 「来ないよ」

 「根拠でもあるのか?」

 「だって皆離れていった。それが嫌でいい子を演じて、頑張って頑張って……それでも、結局あたしはひとりぼっち」

 

 少女は今目の前にいる蒼に対してもそう言ってしまう。

 

 「これは私の偏見だけどね。八坂はいい子を演じ切ってたし頼れるしすげぇ奴をやれていたと思うよ。ただ、それは普通の女の子としてだ。そして八坂に降りかかってきたのは理不尽。災害とか厄災とか言えるようなシロモノだよ。ここまで頑張ったお前はすごいよ、尊敬する」

 「……」

 「この前話した時、お前が『知りたい』を基準に動きたいって話をしていたのは居場所を守るためだったんだね。それは誰にも悪く言う権利はないし間違っていない。絶対に」

 「……本当?」

 「本当だよ。だから、よく頑張ったよ、お疲れ様」

 

 それは立花蒼の純粋な本心だった。

 

 「うぅ……」

 「そしてこんな理不尽、引き起こしたのはマザーだった。だから、さっきマザーに直接殴りに行ってなんでこんなことすンだよ、八坂悪くねェだろって突っ込み入れて来たンだよね」

 「えっ!?」

 「そしたらさ、マザーも理論的にとか合理的にとか、完璧なヒトとして動いてなかったンだよね。感情的ってヤツ?さっき八坂が言ってた皆が離れて怖かった、ってのと似ていたンだ」

 「……似ている……?」

 「マザーってすごいざっくばらんに言うと捨て子なんだ。だから捨てた生みの親連中に仕返ししたかった。仕返しすることで、自分を見てほしかった。そうして居場所を取り戻したかった」

 「マザーも……」

 「でもね、その生みの親連中ってもうこの世に存在しないンだ。だからマザーはやけっぱちに手段を取っていこうとしている。それに八坂は巻き込まれたンだよね」

 「マザーは……」

 「アルってダークファルスだっててーとくが言ってただろ?その力を吸収してパワーアップして私はすごいんだぞー!ってやるんだって。そうしないとずーっと溜め込んでた鬱憤が晴らせないって」

 「蒼の言い方じゃ、子供みたい」

 「実際大きな子供だよ。でも、いいじゃンかさ、子供で。子供する機会がなかったんだから今やってもいいじゃンか。当然、八坂、お前もだよ」

 「あたし、も……」

 「なんで離れていくんだ、なんで守ってくれないんだ、なんで辛い思いしなくちゃいけないんだ。そう思うことの何が悪いってンだよ。幼いころに家族を失ったから?それで兄が疎遠になったから?ンなモン理由になるか!そんなの子供が心を押し殺す理由になんかなりはしないよ!」

 「蒼……」

 「だからさ、もっと素直になっちゃいなよ。ワガママになっちゃいなよ。独りにするンじゃねェ!私の手のひらから零れ落ちていくンじゃねェ!ってさ」

 「でも……」

 「今までいい子やってて、それが失敗だったンだろ?なら逆をやるのもアリだろ。ま、それに」

 「それに?」

 「それでも失敗して、誰もいねぇってなったら127鎮守府に来いよ。艦娘になるでもならないでも歓迎だぜ?他の誰が受け入れなくても私は八坂が役に立つ立たないじゃなくて八坂だから受け入れるよ。だから、気楽に行けよ」

 

 カラっと蒼は笑う。

 

 「蒼……うん、でも、踏ん切りがつかないの」

 「具現武装、つまり心ごとぶっ壊されたンだぜ?しゃあないしゃあない。もしお前に手を差し伸べる存在が居たらその時に考えればいいよ。……さて、行ってくるかな」

 「どこへ行くの?」

 「マザーと約束したんだ。計画前に一戦やり合う代わりにその計画に付き合うよって。とりあえずお前を奪取しに来る奴の迎撃だね」

 「律儀だね、蒼は」

 「もっと褒めてくれていいンだぜ?ついでに見極めてくるよ。お前が求めるにふさわしい連中なのか、ってね。さっきも言ったけど私は八坂と一緒に行動していた連中を何も知らない。だから信用もしていない。だから、確かめてくるよ」

 「うん……」

 「だから、もう少し休ンでな?なーに、バチなンて当たりはしないって」

 「ねぇ、蒼」

 「うん?」

 

 縋るように少女は口にする。

 

 「もし私がどう行動するか決めた時、蒼は手伝ってくれる?」

 「マザー・クラスタの妨害『は』しないって契約がある。だけど、それ以外なら喜んで。きひひっ、その為にこんなファジーな契約にしてンだぜ?」

 「契約の穴をつく気満々なんだ。悪いんだ」

 「悪くても間違いじゃないって思ってるからな!それじゃ、また後でな!」

 「うん、行ってらっしゃい」

 

 そうして蒼は八坂火継という少女の精神空間から出て行った。




 江風の「刃を交えれば理解る」「精神に侵入する」は江風自身のエーテル能力の進化の結果ですが本人は気付いていません。なんか出来たし出来ると言われたから出来た、ぐらいの認識です。つまり他の人々からしたら「出来るなら苦労しねぇよ!」です。
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