少しファンタシーな鎮守府で   作:朝宮 糸瓜

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 EP4-5、「覚悟」をやる回です。
 推奨BGM:Assaults of Mather Cluster(PSO2内表記:マザー・クラスタ戦)。
 実はこの回シチュのSSをなんとなく撮影した瞬間に生えたのが弊世界でした。ある意味根源と言える回です。


90話 この刃と目で見定めよう

 13:30 月面廃棄施設

 

 

 「……ホントに2人で命がけの時間稼ぎするンですね」

 「立花蒼?」

 「艦娘状態で……何をしに来たの?」

 

 私は施設に残っているオークゥさんとフルさんに話しかける。

 

 「マザーに一戦付き合ってもらった礼として協力しようと思って。2人の前座をやろうかなって思ってさ」

 「前座ぁ?」

 「言っている意味、分かってる?」

 「トーゼン。まあ、死ぬ気はないですけど。それに、私は確かめたいンです」

 「言いたいことが80%分からないんだけど」

 「来ると想定される守護輝士(ガーディアン)に八坂炎雅。連中が八坂火継という個人をどう思っているのか。フワついた同族意識?これ以上マザー・クラスタに優勢を取らせないために仕方なく?それともキチンと情があって?知らないし上辺の言葉じゃ信用出来ない」

 「マザーにやったみたいにぶつかって確認しようってこと?」

 「はい。敵対している相手の上っ面の言葉なんてアテに出来ない。だから心を力に載せてぶつかり合う。これが一番私は識りやすいから」

 

 軽く言ってみせるが本気だ。特にフォトンは想いを力にする性質があるのだ。それはてーとくとなんどもやりあっているからよく理解っている。

 

 「2人にとっても追加の時間稼ぎと消耗を狙えるのは悪い話じゃないでしょ?」

 「90%その通りだけど」

 「うん……それならお願いしようかな」

 「任されました」

 

 トラップを起動させるために陣を組んでいる2人から離れる。そこでハギトさんが声をかけてくる。

 

 「私は脱落者だから今回の戦いには参加しないし影から見守っているよ」

 「やられた後の私の回収、よろしくお願いしますね」

 「勝つ気はないのかい?」

 「守護輝士は厄災も同然ですからねェ。まあ、八坂を道具としてしか見てないンだったらそれでも負けない。ここで殺す。八坂の為にも」

 「友のために、か」

 「はい」

 

 そうして待機し、その時はやって来た。

 

 

 14:00 月面廃棄施設

 

 

 「十分に発達した科学技術は魔法と見分けが付かない、とは言うがこれはどっちのものなんだかな……」

 「科学だろう」

 

 地球水準じゃあり得ない規模の施設に困惑している八坂炎雅と守護輝士に声をかける。

 

 「本当に来たンだね、2人共」

 「艦娘?……阿賀野の言っていた迷い猫(ストレイ・キャット)か!」

 「矢矧じゃなくて阿賀野の方かよ。偏ったこと言われてそうだなァ」

 「お前は純粋なマザー・クラスタとは違う行動原理で動いていると聞いてる。今はお前に構ってる暇はねえ、どいてもらうぜ」

 「断る」

 「……!」

 

 牽制で一発砲撃を撃つ。

 

 「聞いてるぜ?理不尽に巻き込まれた八坂火継って一般人に優しい言葉の一つもかけずに覚悟がどうとかネチネチ言ってたクソ兄貴、八坂炎雅。そしててーとくから忌み嫌われている何も考えてなさそうな守護輝士。今更八坂にどの面下げて何の用だよ、あァ!?」

 「なっ!?」

 「八坂に理不尽を最初に仕掛けたのはマザーだった。だからマザーに直接真意を問いただした。次はあんたらだ。言えよ、八坂をどうするつもりだ?」

 「取り戻すに決まってるだろうが!」

 「何の為に?マザー・クラスタに優勢を取らせないための道具としてか?それとも周囲の目を気にして回収だけしに来たか?」

 「んなわけがねぇだろ!アイツは、火継は俺の大事なーー」

 

 もう一発牽制射撃を撃つ。ともすれば当たるぐらいの位置に。

 

 「口ではどうとでも言えるよなァ、アースガイド様とかいう人類を導くだとかいう崇高な使命ってやつを掲げているような連中だもンなァ!それに守護輝士、アンタ何も言わないけどどーでもいいって思ってンのか?

 そんな奴らに八坂は渡せねェ!これはマザー・クラスタでもなく127鎮守府でもなく、八坂火継の友達として!あいつの慟哭を聞いた人間として!生半可な覚悟で来た奴なんかに引き渡してなるものか!」

 「クソ、さっきから好き勝手に……何で覚悟を測るつもりだ、迷い猫!」

 「一戦付き合えよ。その武器に、力にその本音を、想いを載せてぶつけてみせろ。そんな事もできないなら、ここで殺す。八坂の未来の邪魔でしかない」

 「こいつ……正気か!?」

 「エンガ。やるしかない」

 「守護輝士……ああ、お望み通りぶつけてやるからさっさとそこをどけ!」

 

 臨戦態勢に入る2人。それに対して私は名乗りを上げる。

 

 「マザー・クラスタ、そして127鎮守府所属江風。そしてそれ以前に八坂火継の友人、立花蒼!……行くよ!」

 

 偏向バーニアを最大出力にして、最初からゾーンに入って突撃をかける。守護輝士がいる上で出し惜しみは危険だ。そして主砲を八坂炎雅に向ける。まずはこちらからだ。

 

 「くっ、俺からかよ!」

 「死ねッ!」

 

 主砲に入っているのは実弾である。オークゥさん達に宣言した通り、八坂の未来の邪魔になるのであればここで殺すつもりだ。

 

 「だがよ!」

 「シールド展開」

 「クソッ、127は何でもアリとは聞いてたが、よ!」

 「!」

 「ーーッ!!」

 

 流石はアースガイド代表の懐刀といったところか。すぐに対応してきて反撃を始める。それに合わせて守護輝士が死角から必殺の一撃を平然と放って来る。てーとくと卯月の姐さんのコンビ相手に訓練を積んで良かったと思う。

 

 「散々妹を放置して!何様のつもりでここに来やがった!」

 「俺達2人だけになって、あいつを護るのに精一杯だった!そんな苦労を知りもしないでよ!」

 「八坂に伝わってなきゃ意味がねェンだよ!独りよがりの自己満足でしかねェ!」

 

 シールド越しに当たる銃弾から想いが伝わってくる。それは焦燥。八坂がどうなっているのかをいち早く確認したいという焦り。

 

 「アーデムに拾われて、なんとか火継を食わせられるようになって!そうしたらアイツがマザー・クラスタに入っちまって!ああそうだ!空回っていることぐらい自覚してるんだよ!」

 「……!」

 

 八坂炎雅から伝わる八坂への想い。全ては彼女のために。アースガイドとして以上にたった1人の家族の為に。

 

 「なンでそれを……伝えられなかったンだよ!アンタが離れていったから八坂はマザー・クラスタに入ったんだぞ!」

 「っ!?」

 「エンガ!」

 

 私の言葉に明確に動揺した八坂炎雅の前に守護輝士が躍り出て庇う。その手にした両剣(ダブルセイバー)で私の砲撃を斬り払う。

 

 「フォトンは雄弁なンだな……!」

 

 その防御だけでこの仲間は絶対にやらせないという強い意志が伝わってくる。

 

 「火継がマザー・クラスタに入るほど追い詰められていたのは俺のせいだ!だからこそ、今度こそ取り返さなきゃいけないんだよ!」

 「シールドが、抜かれて……!」

 

 より強い想いの乗った弾丸がシールドを貫く。直撃は避けているが、その想いと覚悟を感じるには十分で。

 

 「だったら、次会ったらちゃんと伝えろよ、クソ不器用が……!」

 「そうさせてもらうから退きやがれ!」

 「ぐっ!」

 「ーー」

 「チィッ!」

 

 もう攻めてもいいんだろう、と言わんばかりに恐ろしいまでの技量で攻め寄せてくる守護輝士。ゾーンに入っていなければ既にやられていただろう。

 そしてその一撃一撃に八坂との思い出や八坂を仲間として想っていること、アルに託されてやって来たことを十二分に載せていた。

 

 「フォトンの扱いが、上手い……!」

 「あいつ、よく仕込んで……」

 「っづ!」

 

 そしててーとくへの想い、対抗心を感じる一撃で私のツインダガーの一本が弾き飛ばされる。飄々として見えていただけで、守護輝士からてーとくに思うところも大きいことが伝わる。

 

 「せめて一撃!」

 「返すよ」

 「だと思った!」

 「!」

 

 斬り込むフリをして迎撃を誘って、その上で本能的にそれをすり抜けるように一撃を入れる。これこそ訓練の結果だ。結果相打ちになるがダメージは私のほうが大きくて。

 

 「ぐあ……っ!」

 「寝てろ!」

 「ッ!!」

 

 そこに八坂炎雅の追撃が入って私は倒れ込んだ。ゾーンに入り続けるのも限界だった。

 

 「クソ、はぁ、負けだよ、私の負けだ」

 「苦戦させやがって……」

 

 うつ伏せだと格好悪いのでなんとか起き上がる。

 

 「八坂が頑なだったのもあるンだろうけど、どうしてそこまで想って一緒に居てすれ違うかな……!言葉をもっと使えよ、馬鹿野郎共……」

 「口ではなんとでも言えるとか言っておいてよく言うぜ」

 「適切に使い分けろってことだよ石頭兄妹め。アンタもだよ守護輝士、背中でだけモノ語ってないでもっと声に出しやがれ、八坂に伝わってねェンじゃ意味、ないだろ……はぁ……」

 「ルーファに鍛えられたとは思えない思考だ」

 「てーとくはもうルーファじゃなくて梓、福山梓だいい加減、覚えろ……!」

 

 こんな状態でも我ながらよく口だけは回るものだなと感心する。

 

 「とにかく、八坂はこの通路を真っすぐ行った突き当たりで寝かされてる。怪我なしだけど昏睡状態で心の中に引き籠もってる状態だ。今のアンタ達なら、ちゃんと起こせるだろうよ」

 「……分かった」

 「行こう、エンガ」

 「八坂を、頼ンだよ」

 

 そうして2人が走り抜けていきトラップに入っていくのを見届けて、脱力した。

 

 「よくやったね、江風君」

 「ハギトさん、へへ、守護輝士に一撃入れてやりましたよ、そう時間は稼げなかったけど……」

 「その時点でもう私より圧倒的に戦力としては上だからね!それとキミが気付いていたかは分からないけど、その一撃結構効いているみたいで守護輝士の動きがぎこちなかったよ」

 「そう、なんだ」

 「とりあえずダメージを回復しておこうか。……この高速修復材を被ればいいんだったかい?」

 「ゲームというかモノメイト程即効性はないですけどね……っと!」

 

 被弾箇所を中心にハギトさんから受け取った高速修復材をぶちまける。

 

 「はあ、ゾーンで消耗した精神までは回復しないからしばらく使い物にはなりませんけど、ね」

 「そこまで効くなら今でも転用できないかの研究は途絶えることはなかっただろうね」

 

 高速修復材は艦娘と深海棲艦にしか効果がない。ある程度の疲労も回復してくれるがそれを込みで他のヒトには効果がないものである。

 

 「しかし、義理堅いキミのことだからこの先の罠について軽くレクチャーすると思っていたけどね」

 「あー、忘れてましたけど守護輝士なら突破できるでしょ。時間操作に対しては強い耐性というか実戦経験持ってるから」

 「本当にとんでもない人物だよ」

 

 そうしてしばし休憩を取った。

 

 

 15:30

 

 

 だいぶ精神力も回復してきた頃、フルさんの展開していたトラップの気配が消えた。

 

 「終わったみたいですね」

 「ああ。それじゃあ回収しに行こうか」

 

 そうハギトさんと呑気に話をしていると地面が揺れ始めた。

 

 「なんだ!?月って地震あるの!?」

 「いやこれは……自爆システムだ!」

 「ンなモンあるって聞いてねェ!!」

 「私も起動するなんて聞いていないよ全く!何、崩落まで後は……5分!?覚悟決まり過ぎじゃないかなぁ!」

 

 そう言いつつ走って彼女らがいるであろう八坂が眠っているところに走り寄る。

 

 「な、迷い猫!復活しやがったのか!」

 「それに亜贄萩人」

 「言ってる場合じゃねェ後5分もしないで崩落するぞ、緊急脱出手段ぐらい持ってるンだろうなァ!」

 「あ、あぁ!って一緒に来る気か!?」

 「そっちで勝手に脱出してろってこと!この人達私が回収するから!」

 「チッ、分かったよ!守護輝士、近くに寄ってくれ!それとな、こいつらにマザーに自分たちの世界に色を貰えただけで十分だとか抜かしてるが精々突っ込み入れてやれ!」

 「あいよ!」

 

 そうして転移陣を展開して八坂炎雅は八坂と守護輝士を連れて転移した。おそらく片道切符の緊急脱出用とかその辺りだろう。

 

 「じゃあ行きますよ、オークゥさん、フルさん!八坂炎雅の言う通り、自分たちの世界だけで完結してるンじゃ悲しすぎるでしょう!」

 「アンタに何が分かるって……」

 「分からないけど折角マザーが見出したのにコレで終わりとか無駄もいいところでしょうよ!それは他者の、マザー以外からの理解を拒んでるだけ……!くそっ、脱力した人間重いな……」

 「あら、考えていることは同じでしたか」

 

 そうわちゃわちゃしているところに声がかかる。

 

 「ファレグの姐さん!」

 「どこから脱出しますか?ハギトには人一人抱えて逃げるのは厳しいでしょうから手伝います」

 「まったくその通りだとも!こっちに127専用のキャンプシップがある」

 

 ファレグの姐さんの手伝いもあってなんとか崩落から逃げ延びることが出来た。

 

 「後はあっちがどうなってるか。てーとく、見届けてね」

 

 

 同時刻 アークスシップ・ショップエリア 梓視点

 

 

 「きゃああ!」

 「クソッ、リミッターが……!」

 「ふん」

 「!」

 「!?」

 

 逃げ惑う民間人もリミッターの下で力を出せないアークスもまとめて庇うように幻創種を斬り伏せる。

 アークスシップ、特にアークスが活動するロビーやショップ等のエリアは力の暴発やアークス同士の衝突を防ぐため大きくその力にリミッターがかかる仕組みになっている。管理者ーーここの場合シエラーーがそれを解除するかリミッターの影響を受けてなお出力が勝る存在でなければ防衛など出来ない。

 

 「お、お前は……【仮面(ペルソナ)】!」

 「そういうのはいいですからその方を安全圏へ。貴方の感情と人の命、どちらが優先すべきものですか?」

 「くっ……君、こっちだ!」

 「はぁ。この程度で済むようになったのはウルクさんのおかげですね。……さて。余計な被害になりそうなものは粗方処理しましたが……ふむ」

 

 エーテルの気配を感じそちらに意識を向ける。そこにはアラトロン=トルストイとオフィエル=ハーバートの2名がいた。

 

 「遠からん者は音に聞け!近くば寄って目にも見よ!我が名は、アラトロン=トルストイ!マザー・クラスタ、土の使徒!破壊を恐れぬならば、いざ参られい!」

 「アレはトルストイ氏。老いて尚盛ん、といったところですかね。ただ、話が違いますが……」

 

 先程江風さんから民間人など余計な被害は出さないようにとマザー氏と約束をした、と連絡を受けていたが展開されていた幻創種の範囲は広く、私の介入がなければ死者が出ていたところだった。

 

 「あれは……このリミッターの上で突撃?勇気は買いますが無茶な……」

 

 数人のアークスがアラトロン氏に突撃をかますが鎧袖一触で薙ぎ払われる。

 

 「見ていられませんね……っと」

 

 そうしてマザー・クラスタの2名の前に躍り出る。

 

 「退け。リミッターがかかっている貴方達では相手にならない。避難誘導を優先しろ。誰も死者を出すな」

 「ぐ、分かりました……」

 「いいのかよ!」

 「この状況下じゃ六芒均衡級でもなけれ無理だ!それに、あの人の言う通り民間人に犠牲を出すわけにはいかないだろ!」

 「くっ……そうだな……」

 「すいませんアズサさん、撤退します!」

 「ええ。後はお任せを。ここまでよくやってくれましたね」

 「!……はい!」

 

 彼のように素直に話を聞いてくれるアークスも一定数出始めたし、そういったアークスと友好的にするように、とウルクさんに口酸っぱく言われていた。これでいいのだろうか。後で確認するとしよう。

 

 「契約と違うぞ、福山梓」

 「それはこちらの台詞ですが、オフィエル=ハーバート。江風さんからはマザー氏と余計な犠牲は出さない方針で行くと約束したと連絡を受けましたが……なんですか?この有り様は」

 「必要な犠牲だ」

 「認められませんね」

 「だから言ったじゃろう、オフィエルよ。範囲は最小限にすべきじゃと。無駄に敵を作るべきではないとな」

 「事情は判りました。がーー」

 

 言葉を続けようとした瞬間、背後から光テクニックがアラトロン氏に向かって飛んでいった。それをアラトロン氏は巨大なハンマーで打ち払う。

 

 「……今のは、警告。このまま帰って……ってルー、じゃなかった、アズサ?」

 「マトイさん!?……こちらは任せていいですか?私は周辺被害を抑えてきます」

 「えっ!?」

 「お主が音に聞く守護輝士の片割れ、マトイか」

 

 推測するに彼らの目的はマトイを引き付ける囮だろう。ならばこれでいいはずだ。それにマトイがやられるビジョンなど思いつきもしなかった。

 

 「余計なエネミーを掃討しつつ艦橋へ向かいますか」

 

 私はマザー氏の行動を見届けるためにアークスシップに待機していたのだ。

 なお、その後にマトイが間一髪で撃破されかけたことに驚いたのとそれを間一髪で救った守護輝士に心を掻き乱されて落ち着くのに相当時間がかかったのは余談である。

 

 

 アークスシップ・環境 梓視点

 

 

 私が駆け付けた頃には艦橋の扉が破壊され、アルさんの前にマザー氏が立っていた。シエラが遠くに弾き飛ばされている辺り、マザー氏の連れている鷲宮さんにやられたのだろう。

 

 「成程、鷲宮さんの具現武装……名はグラムと言いましたか」

 「お前は……福山梓か」

 「ご名答です。初めましてですね、マザーさんに鷲宮さん。第127鎮守府基地司令福山梓と申します」

 「邪魔はしないという約定だったはずだが」

 「後でオフィエル・ハーバートに余計な被害を必要な犠牲と撒き散らそうとしたことへ苦言をよろしくお願いしますね。幸い死者が出ていませんから私はこれ以上介入しません。ただ、見届けさせて頂きます。……アル、貴方は随分と落ち着いているのですね」

 「お姉ちゃんが助けてくれるって、信じているから」

 「融合体とはいえ、同じダークファルスであるのに眩しいことです。ええ、本当に」

 

 そうしてマザー氏がアルの身体をその手で貫くのを見届けた。そしてその直後。

 

 「八坂……火継?」

 

 この場に八坂さんが転移してきた。私はそっと端に寄る。

 

 「お姉……ちゃん……」

 

 マザー氏に貫かれながら力なくアルが八坂さんを呼ぶ。

 

 「……アル」

 「よかった、お姉ちゃん……目を覚ましてくれて……よかった…………」

 

 そう言い残してマザー氏に完全に吸収された。元がダークファルスだと信じられなくなるほどに姉想いだと思う。

 

 「……ふむ、まだいまいち馴染まんな。まあよい、そのうち随意に動くようになるだろう」

 「……アルは、何処?」

 「君も見ただろう、八坂火継。かの融合体は私が取り込ませてもらった。目覚めたのは見事。月からの脱出とあわせPSO2を介しての来訪も慧眼と言える。だが……一足、遅かったな」

 (成程、PSO2へのアクセスを利用しましたか)

 

 現在このアークスシップは地球近辺からマザーシップ近辺に転移されていて、他のシップとの通信も途絶している陸の孤島のような状況だった。それを打開して見せたらしい。

 

 「アルは……マザーの……あんたの、中にいるってこと?」

 「……?それが、どうした」

 「そっか……」

 

 不敵に八坂さんが笑う。それにはマザー氏も反応したようで。

 

 「不愉快な笑い方だな、八坂火継。……それは、私の理解できない笑顔だ」

 

 どこで聞いたか。笑顔とは本来攻撃的なモノだという。彼女の笑みは正しくそれだ。

 

 「……いろいろあるのよ、女の子には。ふがいなさと、悔しさと、怒りと……いろいろ混ざりすぎて、もう、笑うしかない」

 「……今一度、眠るといい。君が次に目覚めるその時には全てを終わらせておこう」

 

 そう言ってマザー氏は徒手の八坂さんに剣を振り下ろすが、何か――透明な納刀された刀だ――に斬り払われた。

 

 「でもね……やっとわかった。何をすればいいか、わかったの」

 「……なに?」

 「ほんっと、あたしはバカだった。愚かで、無鉄砲で、考えなしで……情けなくて、涙が出そうなほどだった。だけど、もうそれは覚えた。……二度は、やらない。絶対に、忘れない」

 

 江風さんの八坂さん評が高かったことを思い出す。彼女は優秀を演じていたのではなく、優秀だからそれが出来ていたのだ。そして、今その想いが結実したのだ。

 

 「……怖いのはやだ、痛いのもやだ。だけどそれ以上に、一人になるのが嫌!もう誰も、失いたくない!あたしのそばから、誰もいなくならせない!それらは全て、あたしのもんだ!」

 

 それは若さ特有の傲慢さにも思える発言。しかし、今の彼女の言葉にはそれを現実にするという揺ぎ無い芯が感じられた。

 

 「そうよ、そうだった、当たり前じゃない!……あたしの居場所はあたしの居る「ここ」なんだから!だから……あたしはもう、自分を騙さない!」

 

 そうして彼女は透明な刀を抜刀する。眩く紅い刀身、神々しさを感じる剣。それに合わせて彼女自身の姿も赤い具現武装衣装に変化する。感じる力も凄まじい。これが、八坂火継という少女の、本当の力。

 

 「なんだ……その武装は……その姿は……!私の中には、そのような記録はない!」

 「あれは……神代三剣の一。「天叢雲」……?」

 

 鷲宮さんの言う通りであれば日本の伝説中の伝説の武具だ。それを具現武装として具現化させたのだ。

 

 「……救うんだ、なにもかも。欲張りでも何でもそれがあたしのやりたいことで……それが、あたしがこの子に選ばれた理由だから。……だよね、蒼。……マザー!あんたを倒して、アルを取り戻す!あたしの目的は、それだけ!これがあたしの……選択だっ!」

 

 吸収された存在を奪い返す。不可能そうなことをやり遂げるのだと迷いなく宣言した。

 

 「ちっ……!鷲宮氷莉!」

 

 命じられた鷲宮さんは大剣を八坂さんに振り下ろすが八坂さんはしっかりと防いでみせた。

 

 「……っ!びくともしない……!前の火継ちゃんと、全然違う!」

 「浮ついていた意志が完全に固まったというのか……!」

 

 そして鷲宮さんも斬り払われる。もはや、敵ではない。その攻防の中でシエラが起き上がる。

 

 「……っ。守護輝士もマトイさんもヒツギさんも頑張ってるんです。こりゃあ、管理者である私が頑張らないわけにはいきませんよねえ!アークスシップ管理用ハイ・キャスト!シエラタイプの能力!甘く見ないでくださいよ!」

 

 ベースがウルクさんなだけあって、ここ一番の奮起する意地は目を見張るものがある。しっかりと継承されているようだ。そして一気に管制を操作し、処理した。

 

 「シップ管制を奪い返し個人の管理下に置いた、だと?……やってくれるな、姪孫(てっそん)!」

 

 てっそんとはなんだろうか。とぼんやり思う中で一気にアークス側有利に状況が転がっていく。

 

 「私が、わたわたしているだけの子供と思われては、しゃくなんでね。ただ、奪い返すのが限界。管制処理は流石にきつい、です……これ以上のサポートは、無理……」

 「あわよくば、ここの破壊をと考えたがこれ以上手間取ると、こちらが不利。……潮時だな」

 「マザーさん?何言ってるんですか?それは私も許しませんよ?」

 

 マザー氏が響さんなら後でしっかりふっかけないとね、と言うような言葉を吐き始めた。

 

 「この場は退くぞ。オフィエル、隔離空間を展開せよ」

 「でもマザー!火継ちゃんが……!」

 「……今は耐えよ。必ず取り戻す機会は来る」

 

 そう言いながら焦燥が存分に感じられた。余程のイレギュラー案件だったのだろう。

 

 「……くっ!火継ちゃん、待っててね……!必ずわたしが、迎えにいくから……!」

 「……氷莉」

 

 そうしてマザー・クラスタの2人は転移していった。そして間を空けずにマトイと守護輝士が駆け込んでくる。あちらの戦いも終わったのだろう。守護輝士も八坂さんに紛れる形でやってきたのだろうか。八坂さんとリンクしているとかいう話であったし。

 

 「ごめんなさい、ごめんなさい……っ。私、アルくんを守れませんでした……」

 

 そんなシエラをマトイが慰める中、守護輝士は八坂さんに声をかける。

 

 「おかえり」

 「……うん、ただいま。でも、喜ぶのは後回しかな。……ごめん、守護輝士。あたしがうじうじしてたから間に合わなくて、アルを奪われちゃった。でも、絶対に取り戻すよ。アルだけじゃない、全部を取り戻してみせる。あたしは、そう決めた。それがどれだけワガママと言われても……あたしは、それをやる。あたしが、自分で決めたことだから。弟を救うのは、お姉ちゃんの役目。……待ってなさいよ、アル」

 

 決意を固める八坂さん。そろそろ言葉を発していいだろうか。

 

 「貴方なら、今の貴方なら成し遂げられますよ、八坂さん」

 「貴方は……福山提督?」

 「はい。目覚められたようで何よりです。アルさんはマザー・クラスタとの契約の為手を出せませんでしたが……でも大丈夫です。アルさんはダークファルス。依り代と魂のつながりが深いモノ。貴方が諦めなければ、必ずアルさんを取り戻せるでしょう」

 「……うん!」

 「うぅ、アズサさん!なんで加勢してくれなかったんですか!?」

 「そういう契約でしたので。これでもアルさん以外の被害は出ないように奔走したのですから十分かと。……おや、響さん?……分かりました」

 「アズサさん?」

 「弊鎮守府のマザー・クラスタとの交渉担当の響さんから貴方方に全てを話していいとの連絡が入りました。情報共有と行きましょうか」

 

 これから私達は、八坂火継さんを支えるための動きをしていくことになるだろう。

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