少しファンタシーな鎮守府で   作:朝宮 糸瓜

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 EP4-6想いのかたちをやります。もうEP外の話を挟む暇はありませんね……?


92話 友を救う奇跡を

 4月21日 17:00 アークスシップ艦橋

 

 

 私と海は八坂に呼び出されていた。八坂炎雅と守護輝士、シエラも一緒である。なんでも、一昨日?ラスベガスで鷲宮と交戦したとのことだった。そして似た事例を経験した私達の話を聞きたいとのことだった。

 

 「よお、八坂。大丈夫か?」

 「……うん。私は平気」

 「そっか。詳しい話、早速聞いても?」

 

 守護輝士(ガーディアン)の専属オペレーターシエラが確保していた記録映像を元に確認する。

 

 「ダーカー型の幻創種……!」

 「マザーがアルを吸収したからだろうね。けど、今更地球に破壊活動して意味があるのか……?」

 

 てーとくが見守っている中でアルを吸収したマザーが「馴染まない」と口に出していたことを思い出す。

 

 「幸い、といいますかこのエスカダーカーはダーカーのような侵食能力は持っていないようでした」

 「持ってたらシャレにならないもんね」

 

 シエラ曰くただのダーカー型の幻創種だという。今はまだ、という但し書きが付くが。

 

 「それらを一通り倒したら、氷莉に出会ったの。迎えに来た、って襲ってきてね」

 「あくまでも取り戻すってスタンスか」

 「そこにエスカダーカーの襲撃があって、氷莉を庇ったの」

 「流石じゃン?」

 「そこで氷莉が操られてるはずなのにどうして、って聞かれたから友達だからに決まってるでしょって返したの。そしたら氷莉が混乱して、オフィエルが現れた」

 「!」

 「それ以上考える必要はない、って氷莉の意識を失わせて……」

 「余計なことを考えずにすむように取りはからっているとか言ってたが、そういうのを操ってるって言うんだよ」

 「炎雅さんのいう通りだよ。あの洗脳と同じだとしたら、そうやって洗脳と齟齬が発生してそっちに気を向けようとしたら無理矢理軌道修正してくるの。想いと願いと体が滅茶苦茶になって、とても、辛かった……」

 「海……」

 「やっぱり、そうなんだ」

 「八坂?」

 

 思い詰めるように八坂が言葉を絞り出す。

 

 「氷莉の笑い方ね、無理をしているときの笑い方だった。元々何があってもへらへらって笑っている抜けた子だったけど……そうね、あれはあたしたちが生徒会に入ったころかな。氷莉が、ちょっとしたいじめを受けたのよ。ものを隠されたりとか結構長い間ね」

 「経験ある。きついよな、耐えるの」

 「うん。とても、辛かったよね」

 

 私達も虐められた経験はあるから察して余りあるものがある。

 

 「……その間も氷莉はずーっと笑ってた。あたしの前では、楽しそうに笑ってた。……そもそもの原因は、あたしにあったのに。あの子は、ずっと笑ってたんだ」

 「「!」」

 「……そう、いじめの元々の対象はあたしだった。生意気盛りで協調性のないあたしへの嫌がらせに、氷莉が気付いて、止めた。そのせいでターゲットは氷莉に移った」

 

 八坂が独立志向だった話は聞いている。そういうものに対して出る杭を打とうとする連中がいるのもよくある話であり、虐めを止めようとした人にターゲットが移るのもまた、珍しい話ではなかった。私は麗華という誰にも虐められない、逆らってはいけない人物が庇ってくれたから鎮火したが……。

 

 「氷莉ちゃん、すごいね」

 「うん。あたしはそんなことも知らずにずーっと氷莉をうっとうしく思ってた」

 「強いな、鷲宮」

 「……そんなある日、あたしは氷莉がいじめられてる現場にたまたま鉢合わせした。でもその時、あの子はさ……あたしを見て、笑ったんだ。いつもみたいに笑ったのよ、氷莉。……それが無理してる合図なんだってその時にようやくわかった。それが助けてほしい、っていう合図だとその時まであたしは、気付けなかった」

 「……」

 「その場であたしはいじめグループと大げんか。すぐに先生に見つかって大目玉。両成敗的な感じで、うやむやに決着よ。そして氷莉は、その後からさらにあたしにべったりくっつくようになって……あたしも、それを受け入れた」

 「だから共依存みたいな印象を受けたのか、お前達に」

 「氷莉ちゃんは火継ちゃんが大好きで、そんな氷莉ちゃんを火継ちゃんは受け入れていたよね」

 「一昨日戦った時の氷莉、笑ってた。あの時と同じように、笑ってた」

 「助けて、の笑いってことか」

 「うん。……前と同じなのよ。あたしを助けようとして、あの子が苦しんでる。だから、あたしが……」

 「あたしが、じゃねェだろ?」

 「そうだよ火継ちゃん!」

 (やれやれと首を振る)

 「ちゃんと言葉に出せって言ってンだろ守護輝士。八坂だけじゃねェ、私達で一緒に助ける。だからお前も私達を呼んだンだろ?」

 「……うん、あたしが……じゃない。あたしたちが、助けてあげないと、だよね」

 「よっし奪還鷲宮!打倒オフィエル!手ェ前に出しな!」

 「手を合わせて、火継ちゃん!ほら、守護輝士さんも!」

 「えっ、うん」

 「127(ウチ)式の気合いの入れ方さ。えい、えい、おー!」

 「えい、えい、おー!」

 「……えい、えい、おー!!」

 「えい、えい、おー!」

 

 私達の友達で、八坂火継の大切な大親友。鷲宮氷莉を必ず取り返す。

 

 「お取込み中悪いんですが、エスカダーカーの反応です!」

 「ちっ、また出てきやがったのか!場所は!?」

 「チッ、鷲宮に集中したいのに……!」

 「座標照合中……完了。この座標って……天星学院高等学校!?ヒツギさんたちの、学校ですよッ!」

 「……ッ!」

 「八坂、覚悟は良いか?」

 「蒼?」

 「私が相手なら……鷲宮を投入する。そして、学校を破壊させる。お前を、誘き出すために」

 「!」

 「だから、今回で救うぞ、いいな!」

 「うん!」

 「提督に連絡を入れたよ!周辺の警戒は任せてって!」

 「よし、やるぞ!」

 

 

 18:00 天星学院高等学校正門

 

 

 エスカダーカーと共に鷲宮氷莉が降り立つ。何故ここに居るのか、疑問に思って言葉に出しながら一つ気が付く。

 

 「……ああ、そうか。マザーのお願いでここに来てるんだったっけ。ああ、そうだ、そうだ。ここで暴れれば、火継ちゃんは必ず来るからって、言われて……」

 

 この作戦の目的を思い出す。

 

 「この学校は、わたしと火継ちゃんの日常。わたしたちの帰る場所だから……きっと、守りに来るはずだから……わたしが……壊して……?」

 

 少女は矛盾にぶち当たる。

 

 「わたしが、壊すの?……火継ちゃんを取り戻すため?火継ちゃんを助けるため?それなのに……帰る場所を、壊すの?」

 

 それは目的と手段がぶつかり合う、異常。

 

 「……なんで、なんでなんでなんでなんで!?だめだよ、そんなのだめだよ、氷莉!何を言ってるの、わたしは!ここは……わたしと、火継ちゃんの思い出の場所、なんだよ……!?一緒に勉強して、一緒に運動して、一緒に笑って、一緒に怒って、一緒に泣いて……ずっと一緒にいた、場所なんだよ?」

 

 そんな少女を無視するように1体のエスカダーカーがすり抜けて破壊しようと動き出す。

 

 「……ッ!」

 

 思わず、といったように少女はそのエスカダーカーを斬り倒す。

 

 「はあっ、はあっ、はっはっ、はあっ……!……ダメ、だよ!絶対に、そんなの、駄目!ここは……この学校は……わたしと火継ちゃんの居場所なんだ!……絶対に、壊させたり、しないんだから!」

 

 それは純粋な少女の心からの叫びだった。そんな彼女を敵と見なした他のエスカダーカーが背後から少女を狙い――

 

 「っ!!」

 

 それを八坂火継が斬り払った。

 

 「……火継ちゃん!」

 「氷莉、話はあとよ!まずはこいつらを片づけて、あたしたちの学校を守る!いいわね!?」

 「……うん!うん、うんっ!」

 「私達を忘れるなよ八坂に鷲宮ァ!」

 「友達の居場所を、守り切ってみせるんだから!」

 「負けてられねぇな、なぁ、守護輝士!」

 「うん」

 

 そうして大量に現れるエスカダーカーを八坂火継と鷲宮氷莉を中心に全て撃破した。徹底的に学校を破壊するつもりだったらしく、相当数の戦力が投入されたが彼女たちの連携、そして援軍である守護輝士や江風達の前には一方的に殲滅されるだけだった。

 

 「反応消失、かな?」

 「……どうかな」

 「おい迷い猫(ストレイ・キャット)、もう一波乱来るってことか?」

 「今までのオフィエルのねちっこさを考えたらまだあると思う方が自然でしょ?それに私の勘がまだ警戒を解くなって言っている」

 「警戒をより強めるね!」

 「氷莉……」

 「火継ちゃん……その……ごめんなさい!わたし、ここを壊そうとしてた!わたしたちの居場所を、壊そうとしてた!なんでだろう……そんなことしたくないのにそうしないと、火継ちゃんが戻ってこないような気がして、それで……それで……ッ!」

 「……でも、守れた。氷莉も協力してくれたからちゃんと守れたよ、ここを」

 「うん……うん……っ!」

 

 このまま和解できれば、そう思った瞬間鷲宮の様子が一変する。

 

 「氷莉!?」

 「あ、ああっ……?ああああああっ!?」

 「どうしたの、氷莉!氷莉っ!」

 「海、八坂達を頼む!私はオフィエルを探してくる!」

 「うん!多分、上……上方からだよ!」

 「分かった!」

 

 現場を海達に任せてオフィエルを探す。海の時のケースを考えれば、洗脳を補強する存在が必要なはずで、それをやっているのはオフィエルのはずだった。

 

 「クソ、ジャミングが!急がないと……!」

 『わたしは火継ちゃんと戦いたくなんて……ないのにィッ!……でもしょうがないよね。マザーのためだもんね。守護輝士と火継ちゃんを殺さないと、火継ちゃん戻ってこないし……』

 『駄目だよ氷莉ちゃん!自分を、願いを思い出して!』

 「クソ、鷲宮……!」

 

 痛々しくて聞いていられない。

 

 『どこまで……腐ってるのよ……ッ!あんたらはぁッ!!』

 「ああ、こんなのは、絶対に、認めない……!」

 

 下で八坂達の戦いの音が聞こえる。そしてそれを補強するようにどこからか洗脳波が出ているのを感じる。

 

 「後もう少し、クソ、小賢しい真似しやがって……ッ!」

 『氷莉さんのバイタルは明らかに異常です……身体全体に過負荷がかかってて動けないぐらいに苦しいはず……なのに』

 

 シエラからの通信で海の時以上に状況が不味いことを察する。

 

 『もとはといえば、氷莉としっかり向き合わなかったあたしが悪いの』

 「八坂?おい、止めろ!」

 『だから、けじめはあたしがつける。氷莉は……あたしが斬る!』

 

 その結末だけは、あってはいけない。そしてそう思ったのは私だけではなかったようで。

 

 『は、離して、守護輝士!氷莉は、あたしが……!』

 『諦めるな』

 「そうだ、諦めるなよ、八坂火継……!」

 

 必要な時に必要なことを的確に言う。憎らしいほどに、羨ましいほどに。そうてーとくが守護輝士を評価していたことを思い出す。

 

 『……あたしだって、諦めたくないよ!でも、このままじゃ氷莉が苦しむだけだから…………!』

 『――』

 『……っ!貴方はそれでもあたしに諦めるなって言うの?』

 『そりゃあ守護輝士さんはそう言いますよ。当たり前です』

 「……だろう、な。じゃなきゃてーとくがダークファルスに心身侵されてなお軌道修正するはずがないンだ」

 『あのですね、火継さん。そこにいる人はですね、どーんなときでも諦めなかった人なんです。すごい人なんです』

 

 だから、私達もそれに倣えと決意を固めて、今日だってここに居るのだ。

 

 『……だから、諦めちゃだめです、ヒツギさん。諦めたら、何も出来なくなっちゃいます。あなたたちの持っているその力は、願いを具現化したものなんですから……諦めたら、絶対にだめです!』

 「そうだぜ八坂!お前が迎えたその剣は、天叢雲なンだろ!?」

 『蒼!?』

 「天叢雲、つまり草薙剣!厄災を薙ぎ払い平穏を齎した伝説中の伝説の剣!そんな剣が応えてくれたお前に不可能は、限界は、ない!!」

 

 具現武装が妄想の具現化だというのなら。無意識に引き出せたのがそんな存在なのであれば。文字通り「限界などない」はずなのだ。後は、それを彼女が引き出せるか否かだ。

 

 『シエラ……蒼……』

 『やーれやれ……さくっと倒しちまったほうが手っ取り早いと思うが……後味悪いのはオレも嫌いだ。おい火継、お前はアルも救う気なんだろ?だったら、こいつぐらいさくっと救ってみせろ!夢物語を、その手で実現させてみせろ!』

 『そうだよ火継ちゃん、やろう?氷莉ちゃんを、身も心も、命も救おうよ!』

 『皆……』

 

 八坂の意思は固くなったようだ。それでいい。

 

 (お願い……力を貸して……あたしの願いを叶えるための、力を……!)

 

 祈るように刀に思いを込める八坂が眼下に見える。そして守護輝士がそっと手を伸ばす。

 

 (あったかい光……これって……あたしを助けてくれたときの守護輝士の力……?)

 

 溢れるような想いが、八坂から、その手にした天叢雲から溢れる。

 

 『氷莉……今、助けるから!はあああああっ!!』

 

 浄化の炎となった剣筋が鷲宮を一刀両断した。そして鷲宮の具現武装が解け、脱力する。それを八坂が抱き留める。

 

 『氷莉!』

 『火継……ちゃん……?火継ちゃん……!火継ちゃあん!』

 

 もう、大丈夫だ。そして、今八坂が斬り払ったことでジャミングも晴れた。今なら、目指す目標が、視える。

 

 「逃さねェぞ、オフィエル!!」

 

 私は更に上に駆け上がる。目指すは屋上より更に上、屋根上だ。

 

 「バカな……領域破断、術式切断……っ!?肉体を傷つけず、エーテルのみを斬り裂くだと……。……八坂火継の天叢雲。その伝承にある通りの浄化の力……まさか、そのような形で具現するとは。願いの成就だというのか……?鷲宮氷莉を救いたいと願い、融合体を救いたいと願う彼女の想いに、エーテルが応えたとでも……?……っ!?」

 「らァッ!!」

 

 私の殺す気で放った斬撃と空からファレグの姐さんが空中から奇襲を仕掛けるのは同時だった。それをなんとかオフィエルは回避する。

 

 「……あら、思いの外いい反応しますね?完全に殺ったつもりだったんですが。江風さんもいい殺気ですね」

 「どーも」

 「ファレグ……それに駆逐艦江風……貴様等、何のつもりだ」

 「殺すつもり、と申し上げたはずですが?」

 「テメェは死ぬべき人間だ。これ以上やらかす前にな」

 

 ファレグの姐さんも殺しに来たらしい。動機は知らないが。

 

 「何故、と問うている……!」

 「貴方から、厭な臭いがしているものでして。自らこそ人の支配者であるべきという傲慢さと愚かさの共存した、とても厭な臭い。マザーとも、アークスとも異なる私がもっとも嫌いとする臭いが、ね」

 

 凄まじいほどの殺気を隠さずに発言するファレグの姐さん。相当嫌悪感があったようだ。そしてオフィエルは無言で転移して消えた。

 

 「……逃げましたか」

 「チッ、逃げ足が速い……!」

 「まあ、いいでしょう。あれはいつでも殺せますし」

 「姐さんならそうだろうね。それに、もうアイツは鷲宮に手出しできない。私としても今回は十分かな」

 

 早々にオフィエルがどうでもよくなったらしいファレグの姐さんは眼下の八坂達を見る。

 

 「ふふ……よい具合に成長しているようですね。全力の貴方がたと相見える機会が楽しみでなりませんよ」

 「あれ、ファレグの姐さんまだ本気出してもらったことなかったの?守護輝士にも」

 「ええ。残念ながら。では、また」

 「うん、また」

 

 そうしてファレグの姐さんは脚力だけでこの場所から姿を消した。てーとく以上に無茶苦茶する。

 

 「私も下に戻ろうかな」

 

 

 19:30

 

 

 「おいこら氷莉!あたしの服で鼻かむな!」

 「うええええええん!ぐふ、ぐふふっ、ふへへへへっ!火継ちゃん、火継ちゃあああん!」

 「うっわ、見覚えがよーくある光景だわ」

 「あ、おかえり江風」

 「やれやれ……さっきまでの剣幕はどこへやら、って感じだな。迷い猫、そっちの首尾はどうだ?」

 「逃げられたけどもう鷲宮に手出しは出来ないだろうね。ファレグの姐さんもなんか殺しに来てたし、余計なことをする余裕もないだろうね、オフィエルは」

 「魔人が殺しに来るとは……難儀だな、オイ」

 「守護輝士、ファレグの姐さんから。全力で相見えたいってさ?」

 (やれやれと首を振る)

 「てーとくはやったよ?ガンガン戦いまくって切磋琢磨してたよ?アンタは逃げるの?」

 「……!」

 

 そうして話しているとシエラから連絡が入った。

 

 『守護輝士!みなさん!聞こえていますか!』

 「シエラさん?どうしたんだ、そんな血相を変えて」

 『詳しい話はあとです!そこからなら見えるはず!空、空を……月を、見てください!』

 「月……?なに……アレ……月の色が……変わってく……!?」

 「アレ、全部エーテル?それに……」

 

 青く染まった月から漏れ出たエーテルらしきものが地球に向かって伸びてきているようにも見えた。

 

 「チッ、丸く終わることさえ許してくれないのかよ、マザー……!」

 

 

 同時刻 テキサス州 とある田舎町 覚視点

 

 

 「観念しろやこのクソ”スラング”!」

 「ご自慢のお遊戯作品も全部ないなったからねぇ、詰みやわぁ」

 「クソが、ジャップ共め!だがまだ……」

 『こちらスティーブ!第3拠点制圧!』

 『こちらソニア!後は製造施設だけ!』

 「……や、そうやねぇ」

 

 私と濁流ちゃんはテキサスの田舎町をまるっと実験場にした狂人と向かい合っていた。犠牲になった住民たちを全て倒し、後は自らをミュータントに改造した本人と背後にあるコアとなる施設だけだ。生存者の民間人は、レジスタンスが既に保護して移送したいくらかしか残っていない。少なくともこの周囲には死しか存在しない。

 

 「さ、テメェのスポンサーも残りの手段も、全て洗いざらい吐いてもらおうか!」

 「くっ、誰が……」

 「へぇ、スポンサーがアーデム=セイクリッド。連絡役はオフィエル=ハーバート。同族で争いのない新しいステージの人類を創るというお題目に賛同してくれた、ねぇ?」

 「なっ」

 「うち、ぜぇんぶ頭の中読めるんよ。ほら、考えちゃいけないことを考えてしまうから情報がどんどん漏れ出てくるわぁ」

 「シット!ジャップモンスターが……!」

 「テメェの狂った欲望と行動のほうがよっぽどモンスターよこの屑鉄め」

 「お前達さえ、お前達さえいなければぁ!」

 

 暴れくるう元凶。自身に最大限の強化を施しているようであり、金属がペラ紙のようにひん曲げられ投擲される。私も濁流ちゃんも当たることはないが。

 

 「いけずやわぁ。濁流ちゃん、製造施設はこの先のあの扉の先、奥深く。そこまでのセキュリティはないけど停止措置をしたら最後、ここら一帯が核爆発で消失するねぇ」

 「”スラング”!スティーブ、ソニア、聞こえたわね!?総員離脱!転移陣を使って!姐さん、範囲は!」

 「10kmは離れたほうが良さそうやねぇ。濁流ちゃん、今から10分後に停止措置。起爆まで2分。その間に転移して離脱してぇな」

 「了解。コイツは姐さん1人で大丈夫?」

 「久々に本気出すから心配せんでええよ。ここまで許せない思うたのは久々や」

 「分かった。カウント、スタート!」

 「行かせ……あぁぁあああ”あ”あ”!!?」

 「可哀想になぁ、辛いことがたくさんあったんやなぁ。けどここの人達を犠牲にする権利はないんよねぇ。だからその悪夢の中で、儚くなりや」

 

 記憶を揺さぶるからわかる。この男がどれだけの仕打ちを受けて新人類に希望を見出したか。それに甘い誘いを繰り出してきたアーデム=セイクリッドの醜悪さ。そしてこの街の人々の悲鳴、絶望、恐怖。そこに輝かしい未来などないのに自分に酔いしれたこの男はそれに目もくれていなかった。

 

 「破界式、血槍衾」

 

 血でできた大量の槍で男を刺し貫く。

 

 「ぐおおあっ!」

 「濁流ちゃん」

 「今ね!」

 「濁流とかいうジャップの威力とは桁が違う……!?」

 「あの子は保持魔力と複数展開に優れているけど威力は今ひとつ伸びない子やからねぇ。急急如律令。破断の杭」

 「ぐふっ」

 

 破魔属性の大きな杭を召喚して串刺しにする。杭には多くの返しが付いていて早々抜けるものではない。

 

 「さて、抉らせてもらいますわぁ」

 

 一度傷つけたら再生が効かない妖刀を取り出す。

 

 「ひとぉつ」

 「肩がぁ!」

 「ふたぁつ」

 「ぐあああっ!何故だ、何故この肉体に刃が通るのだ!」

 「うちが人の膂力で刀を振るっていないからやねぇ。みぃっつ」

 「ぎゃひい……!」

 「人を痛めつけるのは得意でも痛めつけられるのは苦手なんやねぇ。いけずやわぁ」

 「がっあっ……!」

 「苦しんで苦しんで苦しんで……逝きぃや」

 

 一撃必殺が叶わない相手であるならば嬲り殺しにするしかない。というのは建前で罪のない人々を実験台にしてきたこの男が許せないのが正直なところだ。

 

 「やめっ、俺は、無力じゃな……痛い……俺は、俺はあああっ!!」

 「トラウマと痛みの中で儚くなりぃ。止めや」

 「ーー」

 

 先程放った術の血槍衾も破断の杭の効果も継続している。いくら屈強なミュータントの上位種とはいえ限度を超えればこの通りである。

 

 「しかし、まぁ……」

 

 記憶から読み取ったアーデム=セイクリッドという人物に思いを馳せる。

 

 「まるで安倍晴明のような自らこそ人の支配者であるべきという傲慢さと愚かさの共存した、とても厭な面やったね……あの喋り方も、何もかも。そういえば髪色もアレは金髪で……まさか、ね」

 

 私も組合の当時の仲間も歯が立たず多くを失いながら京を落ち延び、東へ、東へと逃げた当時を思い出す。

 

 「あれから1000年は経ったけれど……生まれ変わり?それとも……」

 

 今、自分の表情には恐怖が張り付いていることだろう。

 

 「何にせよ、江風ちゃん達は碌でもないモノと相対することになるね。ああ、こんな時にあの方が居てくれたら……」

 

 落ち延びる最中、安倍晴明本人の追撃により当時の組合当主が戦死し、残りもあわやといったところで空から亜麻色の女性が降ってきて安倍晴明と衝突したことを思い出す。彼女のおかげで逃げ延びることが出来たのだ。

 

 「はれぐ・いーぶず様……あの子達を守ってやってください」

 

 その時は知らなかった。その彼女が、ファレグ=アイブズがガンガン戦場に立ち、アーデム率いるアースガイドから魔人と呼ばれ恐れられていることや彼女に江風達が鍛えられていることに。覚や濁流といった『組合』がそれを知るのはもっと後のことになる。

 

 『姐さん、時間通りに装置の破壊完了!退避急いで!』

 「分かったよ、気張ったねぇ濁流ちゃん。……さて」

 「グルルア……」

 「大したバケモノやねぇ。でも事切れても本能で動けるいうても貫かれたままでは動けへんやろねぇ。あんさんの研究も実績も存在も、あんさんの用意した爆弾で消し飛びや」

 

 そう言い残して転移した。そして、全てを消し去る大爆発がその地を尽く焼き払ったのだった。

 

 

 転移先 覚視点

 

 

 「終わった……のか?」

 「終わったねぇ。綺麗さっぱり」

 「皆、終わったよ……!」

 「姐さん、さっきのスポンサーだけど」

 「江風ちゃんに伝えなね。それとこう伝えてや。アーデム=セイクリッドは安倍晴明同様の気色悪さと底知れなさがある。気い抜いたらあかんよって」

 「……!分かった。……もしもし、江風ちゃん?ーー」

 

 決戦の準備が、性急に整っていく。




 覚は読心能力に胡座をかかずに武芸も術師としても研鑽を1000年以上続けた女傑です。趣味はサブカルの対読心戦術を行うバトル物を見ること。そんな彼女を圧倒するなら読心が意味をなさないレベルで圧倒する他ありません。とはいえ、彼女が前線に立つことは稀ではありますが。

 破界式・血槍衾:血で出来た鋭い槍を雨のように降らせ範囲殲滅する。通常のそれより遥かに高威力。
 破断の杭:陰陽術の奥義級の術。その太い杭に貫かれた大抵の怪異はその場で死ぬかそれを以て封印される。杭には返しの付いた棘が無数に生えており、攻撃対象をその場で縫い殺すという強い意志が具現化したような術。
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