4月22日 10:00 第127鎮守府 会議室
てーとくは鎮守府の全員を集めた上でアークスシップーーシエラ達ーーと連絡を取りながら今後の方針について話をしようとしていた。
「現状の月ですが、エーテルというよりもエスカダーカーに覆われているという認識のほうが正しいでしょうね」
『いきなりぶっ込んできましたね!?』
「天体・月は模倣シオン1号機の残りであり、フォトンが変質したエーテルの元です。であればその中核であるマザーさんがダークファルスと融合した今、そのエーテルが変質しエスカダーカーになっている。シエラ、そちらの分析は?」
『概ね同じですが……こんなに早いなんて……!』
「マザーシップ・シオンがダークファルス【敗者(ルーサー)】に飲み込まれてからの推移を考えればまだまだ落ち着いている方でしょう」
『なんでそんなに冷静なんですか!?』
「想定内だからですが?成程、演算能力の低い……」
『その結論には断固抗議します!』
何を言っているんだ、と言わんばかりのてーとく。マザーがアルを吸収するのを知った段階でこうなるのは予測済みだった、といったところらしい。というかてーとくはシエラにやたら辛辣だ。
「現在月からエスカダーカーの群れが地球に伸びているのはダーカーのフォトンを感知すれば手当たり次第侵食する特性によるものと同じでしょうが、速度は微々たる物。
よってマザーさんにとってそれは不本意であると考えられます。マザーさんにとって地球をエスカダーカーで汚染するメリットも動機もありませんからね」
「じゃあ、マザーは抗っているってこと?」
「えぇ。ですから早く止めなければなりません。その為には……」
てーとくがアークスシップにいる八坂と守護輝士(ガーディアン)を見据える。
「八坂火継さん、そして守護輝士。貴方達が中心になって解決して頂きます。ダーカーは負の感情の集合体。負の念を晴らせなければ解決には遠いでしょう」
『お前はどうする』
「貴様が敗退した時の控え、とでも言っておきます」
『……』
「実際、マザーさんの言う次の復讐対象であるフォトナーの産物と呼称すべき存在に最も近しいのは私です。シオンに溶け込まなかったフォトナーでありダークファルスとなったルーサーに直接作られた実験体。そしてフォトナーがアークスの他に残した負の遺産、ダーカー因子を過剰に浴びた結果であるダークファルスとなった。
対して現在のアークスは野生化した家畜も同様。滅ぼしたところでさしたる達成感もないでしょう。その旨を響さんからマザーさんへ伝えていただきましたが……」
「渋い反応をしていたね。梓に同情的だったと言っていいだろう。それほどマザーは感情で動いているものの理性的でそれを手放せる程自棄になりきれていないと言えるね」
「そういうわけです。それでもなお残る負の感情、フォトナー共にぶつけたかった思いの丈。それを受け止めて破砕して来てください」
『簡単に言うな、ルーファ』
「梓です次間違えたらマザーさんとはさみ撃ちで貴様を殺す」
『やってみろ』
『ちょ、ちょっと2人共!?』
どうあってもてーとくと守護輝士は水と油らしく、言葉の応酬が殺伐としている。というかその状況になったらマザーもだいぶ困惑すると思う。
「さて、冗談はともかく……」
「どこまで冗談だったの!?」
「マザーさんの力を削る主軸に守護輝士。マザーさんからアルさんの救出及びダーカー因子を浄化、切り離していただくのを八坂火継さんにお願いします。八坂炎雅さん、鷲宮氷莉さん、貴方がたにはその支援を。要は八坂火継さんです」
『うん、あたしが、あたしたちが決着を着けなくちゃ……!』
「我々第127鎮守府は契約が有効ですから直接マザーさんに攻撃するのはそちらが壊滅した時まで止めておきます。もしそうなったら八坂火継さんを回復させつつマザーさんをこちらで削りきり、計画通り八坂火継さんに決着をお願いします」
『梓さんよ、それまでどうするつもりだ?』
「エスカダーカーはマザーさんのダーカー因子に反応して勝手に発生している状態です。そして、この手の浄化の際には周囲のダーカー因子を出来る限り削っておいたほうが有効であることが既に判明しています。ですので周囲のエスカダーカーをひたすらに殲滅します。全戦力を投入して」
「えっ」
「荒潮さん、海での初陣からあまり日が経っていない貴方がたに頼むのも思うところはありますが……少しでも人手の欲しい状況です。よろしくお願いします」
「朝潮、頑張ります!」
「大潮もアゲアゲで狩っちゃいますよ〜!」
「勿論大和もです!」
「当然武蔵もだ!」
「ああもう、私だけパスなんて言ってられないじゃないの……!」
荒潮には同情する。
「火力部隊は暁さん、防衛部隊は天龍さん、サポート駆逐隊は龍田さん、遊撃部隊を卯月、憲兵隊は坂田さんにそれぞれ指揮をお願いします。陽炎姉さんと黒潮には間間のサポートを。特にマザーさんの近くには寄せないでください」
「分かったわ。大和、武蔵、私の指揮下に入ってね」
「面制圧は任せろ!」
「荒潮ちゃん、ちゃんと動けるように指示するから頑張りましょうね」
「思う存分戦わせてやるからな夕立」
「血が滾るっぽい!」
「シエラ。アークスから出せる戦力は?」
『梓さんの下で戦いたいと志願しているアークスが複数いますのでそこからですね。後は同時展開が予想される地球でのエスカダーカー及び幻創種の対応に回ってもらいます』
「私の下で……?」
『マザーによるアークスシップ襲撃時に貴方に助けられたアークスを覚えていますか?彼が中心になって支援部隊を結成しました』
「……」
「へっ、嬉しそうだな梓」
「えぇ。それに報いるためにも。誰一人欠けさせません。シエラ、決行は何時に?」
『まだちょっと準備が……明日の13:00に突入でお願いします!』
「了解です。各員、それまでに準備を!」
「「了解!!」」
各自解散の流れになったところでてーとくが声をかける。
「あぁ、それと八坂炎雅さん。貴方に話があります」
『……テキサスの件、か?』
「えぇ。濁流さんと覚さんの協力の元現地のミュータント計画は阻止、敵の用意していた核爆弾により全てが消滅しました」
『核なんて用意してやがったのか……』
「そして背後にいる人物を覚さんが特定しました。連絡役オフィエル=ハーバート、そしてその先はアーデム=セイクリッド。彼らで間違いないそうです」
『アーデム……』
「彼らは『争いのない新人類の創造』への投資を行っていたそうです。マザーさんの件が片付き次第、こちらも決着をつけさせてもらいます」
『あぁ、その時は俺も同行する。いや、同行させてくれ』
八坂炎雅は頭を下げる。
「むしろ道案内をよろしくお願いします。何が彼をそこまで駆り立てるのか、私には想像できません。八坂炎雅さん、貴方なら可能なのではないですか?」
『前に疑いがあるって話を聞いてからずっと考えてた。アーデムは人類に躍進してほしいと心から願っている。エーテルなんて人類の文明を飛躍的に進化させる存在が出てきてからは特に、と古株のアースガイドメンバーからも聞いていた。
だが、結果として人は争いにそれをつぎ込むばかりで変わらないと嘆いていた。深海棲艦の存在がなかったらもっと各地で人同士の戦争が起きていただろうしな』
「深海棲艦によって海が奪われたことで縮小せざるを得なかった、といったところですか」
『あぁ。だから内陸での紛争だとかそういうのの調停にアーデムは普段働きかけている。いつからやってきたのかは知らないが、もしそうして擦り切れたのだとしたら……』
「物理的に人類を進化させる、変化させる極端な方向に走っても……というわけですか」
『正直そんな可能性を考えたくはない。だが、火継にあれこれ言った手前俺がそういうわけにも行かないだろ』
「……確かめましょう。一緒に」
「……あぁ」
16:00 第127鎮守府
決戦前に皆の様子を伺うことにした。今の時間はそれぞれの班でまとまっているはずだ。卯月の姐さんには「心残りをなくしてこい」と放り出されたところである。
「まずは暁の姐さんのとこは……っと」
「あら、江風じゃない。いつもの?」
「はい」
私の彷徨い(ストレイ)癖はもう周知である。
「私達はいつも通り、というかやっとって感覚よ」
「こっちが陸であれこれしてる間も海の方をお任せしてましたモンね」
「遊撃部隊の真似事までさせられて忙しかったわよまったく。今回の一連のことが収まったらまとまった休暇を新人の子達に与えないとね」
「大和も武蔵も頑張ってくれてますからね」
「亜贄社長の期待を受けている、ってことがいいモチベーションになっているみたいだからやる気はいいけど息抜きも覚えなくちゃなのよね」
「はは、耳が痛い」
昨年は何かと限界まで頑張って気絶して復活してまた頑張っての繰り返しだった記憶がある。極めつけにはバミューダの決戦で精神を使い果たしているのだ。後輩には真似させてはいけない。
「江風、貴方も先輩になったんだから変な背中は見せないようにね」
「了解です」
そうして暁の姐さんと話し終えたところで。
「あっ、江風!」
「うん?瑞鳳に羽黒に赤城にアウトローにって一気に来るな!」
「とりあえず味見して」
「うん。……食感が面白いなこれ」
「よっし!これ興行での新商品にするの!ふっふーん♪」
「いやそれだけかよ!もう戻って行ったし!」
「瑞鳳ちゃん、今回の決戦は決戦扱いしてないから……私もだけど」
「羽黒?」
「今回の決戦でマザーさんを正気に戻して、その後。アーデムとオフィエルが私達のメインターゲット、だよね?」
「ああ。だから前哨戦のコレはしっかりきっちり終わらせたい」
「その確認が出来てよかった。江風ちゃんみたいに当事者になりきれなかったけど、置いてけぼりは嫌だから」
「海上での通常任務に阿賀野型との殴り合いに、かなり助けられているって思ってるけどね」
「私達の意識としてはまた別なんですよ」
「赤城。まあ、そうだね。そもそも私含めた127組はこの騒動のオマケみたいなモノだから」
この『物語』の主人公はやはり八坂だと確信している。
「だからこそ最高の結末にアシストしなければ気が済みません」
「そこの擦り合せをしたかったの」
「同じ気持ちだよ。なんなら全部終わったらマザー含めて皆で一緒にどんちゃん騒ぎだってしたいぐらいだよ」
「終わればノーサイド、ってことですね」
「そもそも私がマザーを敵だと思ってないからね」
「お前らヨォ、その後のことナメ過ぎじゃねーか?」
「アウトロー?」
「『組合』の連中目茶苦茶だろ?それが目の敵にしているあべのせーれー?だとか言う奴と同じ扱いだーって言うんだぜ?セコいことしてきそうじゃねぇかよ」
「確かにな……」
私達を非正規方面で強くしてくれた『組合』。それが平安時代にもっとも恐れた、というか壊滅させたのが安倍晴明だ。それこそ濁流さんの祖父もその子孫に殺されたという。
そんな安倍晴明と直接やりあった覚の姐さんがまるで彼の様だ、と評するアーデム・セイクリッドを甘く見てはいけないだろう。
「最悪を想定して……だけど何をしてくるのか、だな」
「決着の横入りでもしてくるんじゃねぇか?」
「懐刀の八坂炎雅を裏切る行為になるンだけどな、それ……」
「指揮者(コマンダー)に入れ知恵してた可能性があるんだろ?それぐらいイカレててもおかしくないと思うけどな、ハハハ!」
「笑えねェ……けど、気にかけておく。ありがとうアウトロー」
アーデム・セイクリッドは底が知れない、というか情報がなさすぎるのだ。誰か詳しい人でもいればいいのだけれど。そう思いつつ次に向かった。
「龍田の姐さんは……演習場?」
「あら江風ちゃん。荒潮ちゃんの要望でね」
「朝潮姉さん、次の標的をお願い!」
「はい、頑張ってください荒潮!」
荒潮はギリギリまで鍛錬を行っていくつもりのようだ。
「荒潮ちゃん、良くも悪くも普通の子だからこんな展開は不安で仕方ないのよ。だから少しでも、ね?当然無理なんてさせるつもりもないし、その辺りの力加減は慣れてきたもの」
「頼りにしてます」
「それにね、荒潮ちゃんと朝潮ちゃんは興行部の方に回そうと思っているの。大潮ちゃんは遠征部で貰い受けたいわねぇ」
「へぇ」
「一般人としても艦娘としてもまっすぐにあれこれを見据えられる朝潮ちゃんに尖りすぎた彼女をフォローしようとする荒潮ちゃん。鎮守府の顔としていい塩梅だと思うのよね」
「確かにそうですね」
「だからこんな戦いになんてあまり調整はしてほしくはないのだけれど、そうも言ってられないものね」
「……はい」
「だからこそ。ちゃんとマザーさんに決着つけさせてあげなさい?」
「はい、必ず!」
次は天龍さんだ。
「よう江風!」
「お邪魔します」
「つっても俺達はいつも通りだけどな。のんびりリラックスタイムだ。俺達は補給拠点とか護りつつ敵を撃ち破る、それだけだ」
「安定してくれるの有り難いですよ。てーとくだって安心して割り振れてると思いますし」
「そうこなくっちゃやり甲斐がねえってもんだ。まあ、オフィエルって奴が相手だと後手に回っちまうだろうがな」
「あの転移能力?」
「あぁ。守護輝士の戦闘ログとかを見ても一方通行とかそういう不便な代物じゃねぇ。どれだけ大部隊を展開しててもすり抜けてくるぞアレは」
「ですよね……」
「だからよ、お前は何があっても即応できる位置に陣取っておけよ。奇襲に一番有効なのはお前の直感だ」
「……はい!」
そうして次は憲兵隊の下へ向かう。
「やあ江風ちゃん」
「坂田の兄さんにハギトさんにベトールさん?」
「対多数想定の戦いだから脱落とか関係なしに引っ張って来たんだよ」
「まったく、私はエメラルド・タブレットを喪失しているんだけどねぇ!」
「ハギトには量産化したグリーンタブレットがあるだRO!……俺としてもマザーの願いをパーフェクトに叶える為なら手を貸すSA」
「オークゥって子とフルって子はまだ回復しきっていないからお留守番だけどね。後一日あれば前線復帰させたんだけどね」
「守護輝士達相手に瀕死もいいとこでしたからね。私が艦娘って特性使ってインチキで復帰しただけだもの」
「高速修復材はホントインチキだよなー。ま、こっちはこっちでやれるだけのことをやるから安心していいよ。それこそいくらでも戦えるように補給物資もガンガン積み込んでいくからね」
「お願いします。……ここまで準備して、バッドエンドなんて認めない」
「背負いすぎないようにね!」
「……はい!」
19:00 アークスシップ 艦橋
「こっちの様子はどうかな、っと」
「蒼!」
「蒼ちゃん!」
「何か進展でもあったか?迷い猫(ストレイ・キャット)」
「様子見に来ただけ。鷲宮、調子はどうだ?今回の戦い、来れそうか?」
「大丈夫!全然いけるよ!火継ちゃんとならどこまでも!」
「お前一応洗脳された上で酷使されてたんだから気を付けろよ?」
「メディカルチェックはちゃんと受けたよう。それと、火継ちゃんも一緒に!具現武装!」
「天叢雲!」
鷲宮の装いが濃い青を基調とした洋装の戦闘服へと変化する。赤で和風な八坂に対して綺麗にマッチしている。禍々しい彼女の具現武装・グラムを持っても違和感が薄いのもいい。
「おぉー!いいな、すげェいい!なンだよカッコよすぎるだろ羨ましいぜ」
「ふっふーん!」
「鎮守府の面子は衣裳チェンジに乗り気じゃなくて私だけ改造服着てるようなモンだからさァ。後で海辺りにでももっとけしかけるかな」
「まったく、非現実的な神話の武器に豪華な衣裳……アースガイドじゃそうそう出てこねぇぞ」
「兄さんの具現武装も実銃基準だもんね」
「今の時代で強い武器、って言ったら普通は銃だろ。ま、矢矧みたいに刀になったり爆発起こせる阿賀野みたいな特化技能型もいないわけじゃないんだがな」
「そもそも具現武装もなにも艤装として射撃装備あるから具現武装いらないからね、艦娘は」
「それもそうなんだよな」
「お話のところすみません、その矢矧さんから連絡です。繋ぎますね」
「ン?」
『炎雅、聞こえてる?って江風、貴方もいるのね。ちょうど良かった』
「どうした?」
『私も、私だけでも今回の作戦に参加させてくれないかしら』
「俺はいいが……梓さんがどう答えるかだな」
「マザーと直接殴り合いたいってンなら駄目だよ。けど、外部でエスカダーカーひたすら殴るならいいかもしれない。……けど、お前だけなんだな?」
『えぇ。それは約束するわ。と言っても、最近のアーデムさんの様子がおかしくてうちの姉妹艦はそれどころじゃないの』
「様子がおかしい?」
『何か準備しているみたいでね。正直私は不審で仕方ないの』
「……さっきアーデムから連絡がこっちにもあったんだが、画面が繋がらなくて音声だけでな。だがその時俺と守護輝士とシエラさんだけがいて火継はいなかったんだが……まるでそれが見えているかのように火継の名前を呼ばなかったんだ」
「怪しいって前提があるから余計怪しく思える……」
「その時にアーデムが『此度の戦いは、地球に生きる人々が更なる進化を迎えるため必ず勝たねばならない戦いです』って締めてな。この言葉の意味を考えていたところだ」
「……」
嫌な予感がますます膨れ上がっていく。
「マザーのことを排除するつもり?だけどそれが進化となんの可能性が……」
「俺にもさっぱりだ。そもそも現地で戦う人員はここにいる俺達だからな」
「兎に角、気にかけてみるよ炎雅さん。矢矧、てーとくに許可もらえるか確認してくるから待っててくれ。シエラさん、てーとくがアークスシップにいるとは聞いてるけどどこに?」
「会議室の一つに……場所を出しますね」
「ありがとう。八坂、鷲宮、何が起きても、やり遂げるぞ」
「「うん!」」
アークスシップ とある会議室
「てーとく、いる?ってすごい数」
「おや、江風さん」
「江風さん、どうも」
「テオドールさんもどうも。先に用件を伝えるね。矢矧が一人だけ私達の部隊に合流したいって言ってるけどどうかな?私は矢矧だけなら信じられると思うけど」
「江風さんがそう判断されるのであれば構いません。江風さん達と同じ遊撃部隊に加わってもらいます」
「分かったよ。それで、ここの人達が今回の協力者?」
「えぇ。ウルクさんのおかげですね」
「ウルクは梓自身の頑張りもある、って言ってますけどね」
「江風さんですね、お初にお目にかかります!」
「は、はい。貴方は……あ、マザーがアークスシップに襲撃してきた時にアラトロンさんに突撃した人」
映像記録でアラトロンさん相手にリミッターがかかったまま果敢に突撃して薙ぎ払われ、てーとくに撤退を促されていた人だったな、と思い返す。
「不甲斐ないところをお見せしました。……はい、その時のアークス、ソキウスと申します」
「ご丁寧にどうも。そんなに畏まらなくてもいいですよ、そういうのはてーとくにだけしてくれればいいから」
「ああ、分かったよ江風さん」
「しかし、てーとくにこんなに慕ってくれるアークスが居たなんてね。てーとくのよさは勿論知ってるけど予想外だったよ」
「俺に限らず、少なからずはいたんだ。助けてもらったり指導してもらったり、ダークファルスだって言うけど悪い人じゃないし結構親身にしてくれるし、指導もいいし……それでもダークファルスだから、って声が主流で表立って意見できなかったんだけどね」
「成程」
「今回の件、詳細についてここのメンバーは聞いているんだ。正直同情できるし、梓さんが頑張ってくれたおかげで民間にもアークスでさえも死者が出ていないから付き合うだけ付き合おう、って思ってね。それに今回あふれ出しているのはダーカー因子。ダーカー退治は俺達が本来やるべきことだからね」
「そこまで知って……頼りにしてますからね」
「えぇ!」
てーとくがちゃんと見ているメンバーだし、足手まといにはならないだろう。
「にしてもてーとく、照れてるね?」
「え、えぇ……」
「もうちょっと慣れておきなよ」
「……うぅ」
「実はそこの改善もウルクに指示されているんですよ」
「やっぱリーダー資質すごいよウルクさん」
そういう采配が出来るリーダーが味方だと頼もしい。
21:00 第127鎮守府 防波堤部
「……ふぅ」
帰ってきてこれまでのやりとりを反芻する。全体的にはいい傾向だ。各自やる気十分だしアークスも友好的な存在が増えてきている。だが……
「アーデム・セイクリッド、か」
「アーデムがどうしましたか?」
「うわっ!?……あ、ファレグの姐さん」
「ご機嫌よう、江風さん」
「どうも。ファレグさんってアーデムのことを知っているの?」
「えぇ。誰よりも」
「……教えてくれない?アーデム・セイクリッドがどういう男なのか」
「あら、貴方は明日のマザーとの決戦に全力を注ぐと思っていましたけど」
「うん、その不安要素にアーデムの名前が上がってね」
アーデムとオフィエルが繋がっていたことが確定したこと、『組合』が安倍晴明級という凄まじい警戒をしていること、どうやらマザーとの決戦に何かしら横入れを準備している事を話した。
「成程。アレらしいことです」
「私はマザー含めて皆笑ってハッピーエンドを迎えたいしその為に全力を尽くしたい。だけどその不安不確定要素がアーデムとオフィエルなんです。知ってること、教えてもらえませんか?」
「……そうですね。私がオフィエルに対して『貴方から、厭な臭いがしているものでして。自らこそ人の支配者であるべきという傲慢さと愚かさの共存した、とても厭な臭い。マザーとも、アークスとも異なる私がもっとも嫌いとする臭いが』と評したことを覚えていますか?アレはアーデムを指していました」
「!……オフィエルがアーデムとグルなら同じ感じがしてもおかしくはないのか」
「アレは本気で人類のことを想っています。その傲慢で独りよがりな思考で、ですが」
「こっちの常識、感覚が通用しないってこと……」
「はい。先程、貴女の協力者が安倍晴明のようだ、と評していたのも間違いでは有りません。何故なら安倍晴明というのは彼の顔の1つでしたから」
「……えっ?」
1000年以上前の人物と今を生きる人物が同一人物?私の頭が混乱した。
「他にもマーリンだのなんだのと名乗っている時期もありましたね。結局、どれも彼の思い通りにはいかなかったようですね。接する人々を愚かと断じている時点で破綻は当然でしたが。私が最後に彼を研究所ごと破壊した時は……錬金術師パラケルススと名乗っていましたか」
出てきたのは遥か昔の伝説の人物や近代の偉人の名前である。
「なっ、えっ、それじゃあ、アーデムは人間ではないってこと?ファレグの姐さんも……」
「いえ、人間ですよ?彼は最初に人として作られた個人であり、私はずっと彼と喧嘩をしてきた仲、というだけです」
「最初の人間……アダム……そしてイヴ」
「その名前で呼ぶのはやめてください。今の言葉でいうと、黒歴史といったところですから。まあ私はアレの独善独行を殺して止めるために生きてきた、ということです」
「……信じるよ。そうするとアーデムの摩耗、人類への諦観もハッキリする。今まで新しい既存の技術を塗り替える知識で導こうとして失敗して、今度はエーテルという人々のステージを押し上げる存在が出現した上で変わらなかった。だから極端な行動に走ろうとする傾向がある。そういうことだよね?」
「えぇ。彼は自分の尺度でしか人々を評価しない。人々の無限の可能性を信じない。考慮しない。それが私と彼の相反するところで私が殺そうとする理由です」
「ファレグの姐さんは私達がどこまでも高みに到れるって信じてくれてるもンね。それを踏まえるとやっぱり、アーデムはこのマザーとの決戦に何かを企んでると考えて間違いはなさそう。ただ、どうやるのかが分からないンだ」
「マザーが融合体の少年を吸収したことを覚えていますか?」
「はい。……まさか」
「アレは同様のことが出来ます。ならば機会は決着のついた後。マザーの力を吸収してこの星のエーテルを大規模に使役する能力を得るつもりでしょうね」
「……!!」
今までの不穏な会話のピースがピッタリとハマる。
「絶対に、させない。ファレグの姐さん、手伝ってくれない?アーデムを止めて、マザーを助けるために」
「マザーの決着に首を突っ込むつもりはありませんでしたが……その直後のアレの凶行を妨害してほしい、ということですね?」
「はい。私もそのつもりで動くけど、分かって出来る人が多いほうがいいから」
「構いませんよ。その上で助言を。アレは独善で自己完結した人の言葉を話すだけの殺すしかないもの。艦娘である貴女には理解できる概念だと思います」
「対話不可能な深海棲艦と同じ。……分かった、ありがとう。明日は、よろしくお願いします」
「えぇ」
絶対にアーデムの好きにはさせない。そう誓った。