4月24日 21:00 第130鎮守府
「夏菜さん、マザーの容体は?」
「ううん、相変わらず。元が元だから流出するエネルギー量が凄くて輸血がてらの行為も収支マイナスだよ。持って……数日かな」
「くっ……」
マザーは昏睡している。いつかの八坂のように。そしてアルのような治療もできない為、死へと向かっている。
「マザーさんの失血に比例してなのか、アーデムが力を段々と制御できてきているからか、世界中で幻創種が現れているのを確認しているよ。アークスの人達もその対処で手一杯みたい」
「そう……ですか」
「それと梓ちゃんから連絡きたよ」
「!……なんて!?」
「ファレグさんを守護輝士(ガーディアン)とラスベガスに送った時にアースガイドの近衛兵が逃げてくるのに遭遇。その近衛兵は目の前で幻創種に苦しんで変化したのを確認したって」
「あの野郎……!」
「守護輝士達は一旦情報整理の為に撤退したけど梓ちゃんはそのまま発生源と思われるアースガイド本部に強襲を仕掛けて、生存者がいないこととただでさえ地下深くにあるアースガイド本部の更に下層に広大な空間が有って、そこに多くの幻創種が展開していることを確認したって。
無尽蔵に沸く幻創種が相手で調査どころじゃなかったけど、おそらくその最奥にアーデムはいるんじゃないかって推測したって。今アークスシップでそれを共有中だよ」
「アーデムの野郎……!」
「江風ちゃん、落ち着いて。今が一番冷静になるべきシーンだよ」
「……はい」
「梓ちゃんからの全域放送、来るよ!」
「!」
モニター越しにてーとくが映る。アークスシップ艦橋にいるようだ。
『現状確認をします。こちらの映像はアースガイド本拠地地下にて確認された大空洞。その中心に柱があり、それをなぞる様に螺旋階段がかなり下までで続いているようです。
また、アーデムがアースガイド職員を幻創種化させたものとそれに付随して発生した素体(ベース)なしのものも多く発生していると考えられます。いずれにせよ、それ程の敵密度でした。
彼らは航空能力を持つため、螺旋階段を降り奥を目指す上で周辺宙域から途切れない増援を相手にし続けなければならず、少数精鋭では消耗は避けられないでしょう。
ですが、最下層の方よりマザーさんのエーテル、つまりアーデムが奪ったエーテルを感知しているためターゲットはこの最下層にいると思っていいでしょう』
てーとくはかなりしっかり踏み込んで調査していたらしい。詳細な地形や各種幻創種の造形についてもしっかりと情報が纏められていた。
『今回の幻創種は現代人の感性からすると異形という他ありませんが、天使等が描かれた古書物の記載の天使には近しい特徴があると判断できます。アーデムが始祖アダムであったことを考慮すればこれら幻創種はそちらにイメージを寄せたと判断すべきでしょうね』
そういえば現代の天使こそ羽の生えた人だが、昔の書物に書かれたイメージは正気を削るような怪物だった。
『アーデムに真相を問いただしたい八坂火継さんの意志を尊重するとしても殺害するとしてもこの大量の幻創種天使群を突破する必要がありますが、ここに至る入口の狭さや螺旋階段という地形の関係上補給車や大規模戦力を投入するということも難しいこと、現在ラスベガス地上部にも幻創種天使群が出現していることからある程度人数を絞った上で、各所で一部残留し足止め役を請け負っていただく必要があります。つきまして突入班はーー』
結果として、メンバーは八坂火継、八坂炎雅、鷲宮氷莉、守護輝士にてーとく、私が固定。追随メンバーとして27年同期組と遊撃隊面子、101鎮守府の阿賀野型姉妹という形になった。他の突入メンバーは早い段階で足止めとして離脱する流れや地上部での交戦担当になっている。
阿賀野型に関しては不安こそあるが、この状況で部外者ではいられないという私達が断れない理由と、もし暴走した際は監視下に置いておいたほうがいっそ安全という判断だ。
ファレグの姐さんはアーデムの殺害を主張していたが、八坂の熱意に折れ「先に到着したほうが好きにする」という形でまとまったそうだ。おそらく八坂達がどうにもならなくなったタイミングで突入するつもりだろう。
『突入開始時刻は現地時間11:30、各自体調を整えておいてください』
そうして段取りが決まった。
「マザー……」
髪を掬い声をかけてみるが反応がない。精神の中にも入れない。
「江風ちゃん、キャンプシップで一瞬で行けるとは言っても時差がヤバいから休んだほうがいいよ。マザーさんは私と睦月ちゃんがしっかりとガードしておくから!」
「……はい、お願いします」
そうしてふらふらとマザーのいる空間を出たが、目的地が定まらない。
「私が、もっとうまくやれていれば……」
「江風さん」
「ッ、てー、とく」
「……」
なんて言ったらいいのか、と被りを振ってからてーとくは私の両肩にガシッと手を置く。
「江風さん、その悔恨は、まだ早いですよ」
「え……」
「マザーさんは致命的な重傷を負いましたがまだ生きています。後悔するのは完全にその命の灯火が消えた後でも遅くはありません」
「うん……分かっては、いるんだ。いるんだけど……」
「先程確認したところ、守護輝士のストーリーボードに変化が生じたのを確認しました」
「ストーリーボードって……あの?」
「はい」
ストーリーボード。過去を変えるための惑星シオン製作のマターボードを望む未来の為に改造した代物だ。その過程ではてーとくがデータ収集用に試製マターボードを使って完成させたはずだ。
「そのストーリーボードはマザーさんとの決着前はマザーさんとの決着を、そして決着の次にはアーデムとの決着をと示されていました。ですが、『そしてマザーを救う』という一文が書き加えられました」
「!」
「おそらくですが、この『物語』においてマザーさんはアーデムによって殺害されて退場させられる『運命』、『役割』にあったのでしょう。そしてその力を十全に奪ったアーデムが事を起こすので阻止する、そういうシナリオであったと推測されます」
「……」
「ですが先の一文が加えられたということは、予定になかったマザーさんの生存可能性が生じてその有用性があったからこそであると推測しています。ということは江風さんの一手がその『運命』、『選択肢』を斬り拓いたということ。貴方の行動は意味があった、ということです」
「てーとく、でも怖いんだ。マザーをこのまま失ってしまいそうで、みんなを巻き込んでやって来た意味がなくなりそうで、怖い。ううん、今回だけじゃない。東条の街だって、私は麗華を救えるの?目の前で取りこぼしたくない、それがすごく怖い。怖いよ、てーとく……」
私の中にあった不安が、恐怖が決壊した。今の私はみっともない泣き面を晒していることだろう。
「大丈夫ですよ」
「!」
てーとくが私をぎゅっと抱きしめる。私の顔が華奢だけど頼れるてーとくの身体に埋もれる。
「江風さんには頼れる仲間たちがいます、そして、私がいます。ですから大丈夫です。決して、貴方一人には背負わせません。その不安も一緒に、抱えていきましょう。他の誰よりも、私が受け止めます」
「うん、うん……!」
恐怖や不安が完全に拭えたわけではない。だけど、少し、安心した。そうだ、私には頼れるてーとくや仲間たちがいるのだから。
「江風さん、一緒に頑張りましょう」
「……うん!」
負けない。てーとく達となら。
4月25日 ラスベガス アースガイド本拠地下層 11:30
「ここが……」
「ずっとアースガイドにいたのに気付かなかったなんてよ……!」
「各員戦闘準備。早速来ますよ」
広大な空間から羽が生えた騎士、羽が生えた豊かな髪の頭部だけの化け物といった『天使』が飛んできた。
「火継ちゃん……!」
「うん、あの人達、魂はもう『ここにはいない』……けど苦しみが伝わってくる……!」
「アーデム=セイクリッド……ずっと一緒にやって来た人たちへの仕打ちがこれなの!?」
「……」
「阿賀野姉……」
「来ますよ!」
「『レイジングワルツ』!」
「『紫電一閃』!」
私と矢矧の一撃が敵の先鋒を斬り伏せる。
「解ってるみたいだな、矢矧!」
「えぇ!こうなったらもう、討ち取って解放してあげるしかない!」
「突入部隊は2人に続いてください!天龍さん!」
「おう、防衛部隊はここを軸に制圧していく!……頑張れよ!」
そうして突入を開始した。
「この……っ!」
「数が多い上に……!」
「苦しみが直に伝わってきてキッツいのです……!」
「アーデムさん、なんでこんな……!」
「ぴゃあ、酷すぎるよ……」
幻創種天使型から伝わってくる負の感情に皆参っている。阿賀野型にとっては顔馴染みがいたかもしれない、という事実で余計にだ。
「キツイなら引っ込んでろ!オラオラオラオラ!」
「はあっ!」
「鎮魂歌(レクエイム)を奏でてあげるっぽい……!」
「ぐだぐだ言ってないでここで果てなさいよぉ!」
「皆落ち着いて、今癒すから……!」
覚悟の上で突入している卯月の姐さんを皮切りに遊撃部隊のエーテル感応の低い面子が攻めていく。感応が低いということは負の感情を受け取る感覚が鈍いということでもある。精神面を癒せる雷の姐さんも同行していて助かった。そうしてしばらく進軍して。
「皆さん、後方から反応多数!」
「ッチ、空から……!」
「対処するっぽい!」
そうしててーとく、私、夕立の姐さんが後方に意識を向けた瞬間。
「ッ、空間遮断!?」
「このタイミングを狙ったっぽい!」
「オフィエル……オフィエル=ハーバート!!」
私達はオフィエルの創り出した空間によって分断されてしまった。
「どうするのてーとくさん!貴方なら力付くで壊せない!?」
「ですが……」
「後方から幻創種天使型多数!クソ、壁にかかずらっている余裕がねぇ!」
「中には他の皆さんもいます。皆さんがオフィエルを撃破できるまでここで防衛戦をしますよ……!」
壁の内部 羽黒視点
「あんたは、マザーを裏切ってアーデムさんについて……一体、何をしようとしているの」
「……裏切った、とは心外な表現だな。私は、マザーを裏切ったつもりもないし。アーデム卿に与したつもりも、ない」
火継ちゃんの言葉に当然だ、というようにオフィエルは応える。この地球の行き詰った未来を憂い、導き手としての可能性を感じた側についているだけだと。彼はぺらぺらと語る。手術で1人を救う間に犠牲になる人々が何万と出ているのか。人は同じ過ちを繰り返し、それは世界を蝕む根源の病巣だと。
「……ハッ、いい年して自分の絶望を人に押しつけてんじゃねぇよオッサン。無駄に頭のいい奴は一人でぐるぐる考えまくって勝手に極論に達するから、始末に負えねえ。なあ、火継」
「……どうしてそこであたしに話振るのよ」
それを炎雅君は子供の駄々と変わらないと一蹴する。それは私達も同じ思いだ。その駄々の為に被害を受けた人々の苦しみを、私達は忘れていない。
「……軽巡阿賀野、アーデム卿の為に為すべきことを為せ」
「……はい」
「阿賀野姉!?」
「きらりーん☆」
「ここまで見て、それでも盲目的に信じ……きゃっ!?」
「火継ちゃん!?」
「そんな、阿賀野姉……」
オフィエルの言葉に阿賀野が従い、火継ちゃんを攻撃する。直撃こそなかったが明確な敵対行為だ。
「オフィエル!アーデム!貴方達は……!」
「『ウォークライ(私が相手です)』」
「!」
「こちら羽黒、軽巡阿賀野を敵性存在と判断、撃破します……!」
「そんな……」
「くっ……」
こうなる予感は、正直していた。以前東京で交戦した時のような侮りが感じられたこと、それ以上に洗脳を受けていた海風ちゃんや氷莉ちゃんのような様子のおかしさを感じていたからだ。だから、その対策も覚悟も出来ている。
「能代さん、酒匂さん。こういう時に選べない人は誰とも組めないんです。矢矧さん、貴方の力はこの先で使ってください。瑞鳳ちゃん、赤城ちゃん、艦載機は使えそう?」
「この空間狭すぎるよぉ!」
「えぇ、広大な空間前提で組んでいましたからね……」
「それじゃあ、私一人でやります」
「羽黒ちゃん!?」
「……本気?」
「本気だよ加賀ちゃん。私には具現武装なんて特別な力はないけど、自分の意志でここにいる。福山提督を盲信しているわけでもなくて、自分で考えてここにいる!前の戦いで示したと思ったけどそれでも伝わってなかったみたいだから、ここで骨身にまで染み渡らせる」
オフィエルの張った領域展開はかなり狭いものだ。十分な空間が必要な艦載機運用には適さなかった。これもまたオフィエルの狙いなのだろう。
「私に勝てるとーー」
「勝ちます。私には特別伸ばせるものがなかったから、ひたすらに過去の戦いを何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も反復して物にしてきたんです。大事なのはガッツだって足柄姉さんも言っていました。
だから、特殊能力が全てだとか一つ上のステージにいるとかそういう甘ったれた認識を全てここで打破します!それがここでの私の、戦いです!」
「よく吠えた羽黒!ならオフィエルはアタシに任せな!コイツへの恨みは皆の分までアタシが背負ってきたんだ!他の連中は体力温存してな!こんなやつらに力を消耗する必要はねぇ!各員、障壁だけは貼っておけ!八坂火継達を守れ!」
「「了解!」」
「……羽黒」
「はい、矢矧さん」
「阿賀野姉を、お願い」
「はい!」
意識を艤装妖精さんとリンクさせる。特別な応用ができないのであれば、基礎の徹底だ。
「アーデムさんの想いは、私が支える!」
「盲信でしか信じられない人に何が支えられると言うんですか!偏向バーニア起動!グリーン・タブレット、支援展開!」
偏向バーニアで江風ちゃんのように、卯月さんのように巫山戯た挙動を出来るわけではない。グリーン・タブレットでタさんのように堅牢な防御ができるわけではなく、加賀ちゃんのように精密射撃が出来るわけでもない。
「でもそれで十分!妙高型重巡洋艦を、甘く見ないで!」
駆逐艦より軽巡より堅牢で安定し、戦艦より機動性順応性に優れている重巡洋艦。元々優れたその性能をほんの少し安定、強化できれば良い。こと水上ではない陸での撃ち合いなら軽巡洋艦に負ける理由はないのだ。
「きらりーん☆打ち崩してーー」
「知ってますか?種の割れた奇策ほど無力な戦法はないんですよ?」
阿賀野の具現武装は指をさした先の空間を爆破させる能力だ。だがそれは、軽巡洋艦の火砲を任意の地点で起爆できるだけでもある。
「バーニアで、ステップ回避!そこから反撃!」
「なっ、恐れていない……?」
「火力も撃ち方の癖も爆発半径も把握しているんです!後は適切に対処すればいいだけ!」
そもそも日本艦は防御能力に秀でている。それを最低限シールド強化できれば恐れる必要はない。
「ちょっとだけ動くなんて……ならこれは!」
「把握していると言ったはずです!」
「くうっ!?」
直撃を含めた連続起爆攻撃。その意図も透けて見えるなら恐れることはない。予め砲弾も火薬も抜いておいた第三砲塔で直撃弾は受ける。砲塔だって硬いのだ。
「くぅ、ダメージが……」
「そこです!主砲開け!」
態勢を崩したところに第三砲塔以外の斉射で追撃。基本中の基本だ。
「貴方は何のために戦っているの!?」
「少なくとも仲間をあんな風にする人の為には戦っていません」
「ーー!」
説得を行うつもりはない。ただ、この盲信者を私の意地で撃破するだけだ。
「ぐぅ、はぁ……まだまっ――」
「『二つ名』って存外、軽いんですね」
「なっ――」
心の底から出た侮蔑。正直『一撃淑女(ワンショット・レディ)』こと金剛さんのような二つ名持ちのような強さは感じられなかった。むしろその称号に胡坐をかいているような印象だ。それこそ、二つ名を付けられたからには全力で二つ名持ちを誇れるように――本人は嫌がらせな名前だと嫌がっているけれど――努力している江風ちゃんと雲泥の差だ。
「江風ちゃんと訓練でやり合う方がよっぽどいい運動になります。それでは」
主砲を連撃モードに切り替え、反応が消えるまで撃ち込む。
「ぁ――、アーデムさ……」
「それでもすぐ横の姉妹艦を呼ばないんですね。呆れました」
一切容赦なく。私は妄信にふらふらしている阿賀野を撃破して見せたのだった。
羽黒の開戦と同時刻 卯月視点
「テメェ、阿賀野を洗脳してやがるな?」
「彼女に必要な措置を行ったまでの――」
「死ねぇ!!」
「なっ!?」
洗脳濡れの妄信者なぞ羽黒の相手ではないだろう、と思いながら目の前の男に憎悪を滾らせる。コイツはどれだけこういうことを行ってきたのだろうか。
「テメェの『必要』の為にどれだけの奴が遭わなくてもいい悲惨な目に遭って!それでも一人ひとりの患者(クランケ)に気を配る医者かよボケカス詐欺医師がよ!」
「貴公には分かるまい!この手でいくら個人を救おうともそれ以上が喪われるこの虚無が!」
「だからって喪わせる側に回ってほざく権利にはなりはしねぇんだよ!八坂炎雅のいう通りだ、テメェは駄々こねてるだけなんだよ!それにアタシの大切な奴らを巻き込みやがって……そして今も!そうやって続けやがって!死んで贖えクソボケが!!」
「そうやって私の邪魔をすることでより命が失われていくのだ!」
「軽快に命を浪費して命だったモノにしてるやつに追随してる奴が偉そうに!」
「ぬぅ……!」
アースガイド職員の幻創種天使型化。これにはオフィエルも思うところがあったらしい。だがそれで止められない辺り同罪だ。
「にしてもテメェ……実戦経験は甘いな?」
「ぬぅ、後ろにも目がついているとでもいうのか!?」
障壁の生成、死角からのメスの山、細かな転移。鷲宮氷莉は『空間隔離と座標置換』と言っていたか。初見を殺すには、弱った相手を処刑するには十二分なマジックめいた能力だろう。逆に言えばそれを乗り越えさえすれば『ただのパターン』になり下がる。そして私は多くの死地を乗り越えている。であるから、『ただの対処可能な一発芸』でしかなくなっている。
アタシや江風、矢矧や阿賀野にも言えることだが一点突破の一芸があるタイプは攻略方法さえ見いだされてしまえば圧倒的に不利になる。そもそも相手にとって不慣れな戦い方で翻弄してそのまま制圧するのが基本になるからだ。アタシはそれでも攪乱して乱れたところに味方の斉射による制圧、江風は読まれたうえで対処し続ける徹底訓練を前提にしていたからその問題は薄いが、羽黒のような基礎を徹底してそういう一芸型にも徹底的に対策をとって自分の戦いを貫けるようにするタイプにはめっぽう弱いという関係性があった。端的に言うと江風は羽黒には勝てない。それもあって、一発芸の阿賀野に対して研究し尽くしていた羽黒がタイマンを申し出たあたりで問題なしと判断した次第だ。
「障壁が次々と飛び越えられて、攻撃も尽く交わされて……!」
「殺意が、やりたいことが丸見えなんだよテメェにできることは不意打ちと弱った奴の虐殺ぐらいだろうなァ!」
「っぐ……!」
「障壁には限界がある、だから的確に自分を護る面を出す必要がある、それもだめなら安全圏に、だけど羽黒の攻撃に巻き込まれないように、メスは自分をまきこまずに敵の死角から撃って制圧する……分かれば飛び越えるだけだ!」
具現武装能力を跳躍に振り切った私にとってそれらの障害は意味をなさないものだった。オフィエル自体障壁を張っているが、それもいつまで持つことか。
「くっ、バケモノめ……!」
「そこまでのバケモノに仕立て上げたのはテメェらだぜ!それを悔いて死にな!!」
お前達が扇動しなければただの異常適性(イレギュラー)な艦娘で済んだのに。こんな復讐心に駆られて殺しの技術を磨くことも躊躇いを捨てることもなかったのに。そうさせたのは、お前達だ。
「ぐっ……なっ、足場が、燃えている?」
「今更かよ!狡く移動するならその足場を縮めていけばいいだけの話だろうがよ!」
今回は、というより私の標準搭載の砲弾は三式弾だ。発火性に優れ、直撃よりも延焼ダメージでじわじわと削っていくもの。そんなものを足場という足場にばら撒いているのだ。当然逃げ場はどんどん失われていく。
「くっ、これではーー」
「隙を見せたな?」
「ッ!!」
「接射ァ!!」
「ぐああっ!?」
障壁を生じることもできない距離での接射による連続攻撃によりオフィエルは崩れ落ちた。
「……見事。だが、勝敗などもはや関係ない」
負け惜しみを言うオフィエル。
「ちっ、元々足止めが目的か!」
「だろうな。落ち着け八坂炎雅。それでも全員を消耗させるより単騎突破のが効果的だと判断したまでだっぴょん」
「アーデム卿が神へと至るための時間を稼ぐ。それさえ成し遂げられれば…………ッ!?」
負け惜しみを延々と紡ぐオフィエルが驚愕する。梓たちが残された側の壁が一撃で大きく破壊されたからだ。そこにはファレグ=アイヴズとその後ろに梓達がいた。梓達は背後から延々と迫りくる幻創種天使型と交戦を続けている。
「あら、軽くノックした程度で割れてしまうなんてずいぶんと根性のない領域ですね。術者にそっくりです」
やってきてそうそう辛辣な言葉を吐くファレグ。
「バカな……私の領域を、力尽くで……?」
「……エーテルを薄く展開し空間を具現している、といったところですか。なかなか面白い手品です。が……薄っぺらい。まるで貴方の人間性を表しているかのよう」
「魔人……ッ!」
その分析が本当であれば、幻創種天使型の妨害さえなければ梓も多分壊せたのだろうな、と思う。そしてファレグが八坂火継に話を振る。
「何をほうけているのですか。貴方がたは、早く先に進みなさい」
「……え、いいの?」
「アーデムを殺すのは、貴方がたが失敗した後でも可能ですからね」
「くっ、軽巡阿賀野、役割を果たせ!」
「……ぐっ……はい」
「阿賀野姉!?阿賀野姉!!」
やはり、八坂火継達という人類の可能性を見届けたいのが本音のようだ。それと同時にオフィエルが阿賀野を転移させた。おそらくは、アーデムの元へ。
「それに、私にはちょうど今やりたいことができてしまいました。この、勝手に人類に絶望している痴れ者に人類の素晴らしさを教え込む。再教育、というやつですね」
「ファレグさんよ、ちょっと混ぜてくれよっぴょん」
「あら?いいのですか?」
「元々八坂火継や守護輝士をアーデムの元に送り届けるのが主任務で、途中の邪魔次第で別行動する予定だったからな。アタシは元々どうせ出てくるオフィエルをぶち殺したかった。でも死ぬより過酷な再教育を行うってんならそれでもいい。一緒させてくれよ」
「ええ。構いませんよ」
「福山提督!江風ちゃん!後は私に任せて!早く行って!」
「空間が開けた今なら……後続は私達も残って対応するよ!」
「私もご一緒します。羽黒、瑞鳳、赤城ここで残留します。……能代さんと酒匂さんもここで残ってください。その様では阿賀野さんに追いついたところで第二第三の犠牲者になるだけですよ」
「……うぅ、分かった」
「ぴゃん……矢矧ちゃん、阿賀野姉をお願い!」
「……任せて」
「了解しました。我々は先に!各員進軍!」
「……ち、待て!」
置いてけぼりで進路上の壁も破壊しようとする私達に反応するオフィエルだったが。
「おや、レディを前によそ見とは失礼ですよ?」
その間隙をついてその一面の壁をファレグが完全に破壊して通路を開いた。梓達は素早く駆け抜けていく。
「私の領域を、闘気で歪めるだと……!この……バケモノめ!」
恐れを多分に含めたオフィエルに対してファレグはすました顔で返す。
「御冗談を。私はれっきとした人間ですよ。他人(ひと)よりも少々頑丈で、少し長生きできたのでその間ずっと身体を鍛え続けた、ただの人間です。マザー・クラスタ、火の使徒。ファレグ=アイヴズ。人類の可能性の極致、それが私。この拳も、この脚も……私の身体の全てが貴方の信じられなかった人類の可能性の結晶です。……とくと味わっていって、もらえますよね?」
怯え情けなく逃げ出すオフィエル。
「おいおい、ここは行き止まりだぜ?テメェの人生の、なぁ!」
当然、私も逃がす気はない。愉快な再教育の開始だ。