そのウマ娘、星を仰ぎ見る   作:フラペチーノ

1 / 53
この話は時系列の関係で一番前にありますが、第三章「蒼白の流星」を見てからの閲覧を強くお勧めします。


第零章
三女神の戯れ


 この世界には三女神と呼ばれる神様みたいなウマ娘がいます。

 世界を一つの大きな「木」とすると、スターゲイザーたちがいるのは「根」の部分。神様がいるのは木の「樹冠」の部分です。

「世界」とは言ってもウマ娘における全ての世界線の始まりなんですけどね。

「根」はウマ娘の世界における無数に分かれた「可能性」のお話です。

 つまり無数に広がった世界線には例えば「テイオーとスターが会わない世界」や「スターゲイザーがトレーナーにならない世界」……「足が折れて三冠ウマ娘に成れなかったテイオーの世界」などなど……

 数え切れないほどの無数の「可能性の世界」が存在しています。

 それを管理、というか監視してどっかおかしなところが無いか確かめるのが「三女神」という存在なわけです。

 あとはウマソウルの管理とかもやってます。

 まぁこれは「あっち」の世界の木で生まれた「馬」を「ウマソウル」に変換するお仕事。

 これくらいのお仕事をこなしながら三女神様たちは思いました。

 

 ──暇だ。めっちゃ暇。てか飽きた。

 

 そもそも世界線のバグなんてめったに起こらないし、あったとしても根っこが絡まっちゃうくらいだから、ぱっぱとほどいてあげるくらい。

 まぁ単純作業ですよね。それを時間や空間の概念がない世界でやるんだからもはや半分拷問です。

 今どきのブラック会社でもこんな事しねぇぞ、と。

 んで、変わらない仕事に対しての文句を言うのも諦めた三女神様たち。

 仕方がないので娯楽を探すことにしました。

 まぁ、精神世界みたいなこの場所。イメージすれば大体なんでもできます。

 例えばレース場。

 ウマ娘の神様だから走るのは好きだけど三女神だから三人しかいないんですよね。すぐ飽きました。

 例えば美味しいごはん。

 味のイメージは出来ませんでした。悲しいですね。つかそもそもご飯いらないのが。

 例えばボール。

 蹴ったらどっかに飛んでいきました。ウマ娘の脚力って凄いですね。

 例えば……例えば……例えば……

 そんなこんなして最終的にたどり着いた娯楽。

 それは「世界を覗く事」でした。

 幸い腐るほどある木の根っこ。閲覧する量には困りません。ちょっとした「if」で無数に広がる世界の根っこ。一個一個見ていけば面白んじゃね? と。あっ、この子可愛い今回はこれにしよ────

 

 ────飽きました。

 

 いやこれに関しては仕方ないのです。

 色んな世界を覗くって言っても必要な最低限の情報しか得られないのです。

 一番近いのは年表でしょうか。何年何月何日何時何分に何々がありました! って連なった文見て面白いと思いますか? いやーきついっしょ。

 三女神様が見たいのはもっとリアルな情報。その子の表情、その子の感情、その子の様子。

 もっともっと文字以上に情報を得たい。

 でも下手にその世界線に三女神様たちが行くとその根っこが腐ったり爆発したりして大変なことになります。

 じゃあどうすんのって思った彼女たち。

 とある女神が一つの提案をしました。

 

 ──いくつかのウマソウルに録画機能をつければいいのでは? 

 

 ──天才か? 

 

 そんなこんなでウマソウルに三女神様たちが世界を閲覧できる機能を追加。

 多くのウマソウルにつけちゃうと怖いからほんの一部のウマ娘に「観測者」としての役割を渡して。

 とは言っても役割を持った子はそのことを分かんないんですけどね。普通に暮らしているだけで三女神様たちに覗き見されています。

 盗撮? でも許されます。我神様ぞ? 

 そんな盗撮もとい、観測機能のおかげで三女神様たちの娯楽は潤い始めました。

 あ、この子面白い。

 そうして過ごしているうちに三女神様たちはとあることをやりたくなりました。

 自分で世界線を構築したい!!!!! 

 まぁ読み専門から創作者になりたいと。随分とアクティブな女神様たちだなこいつら。

 はてさて、どんな事をしましょうか。

 あっ、このテイオーって子いいんじゃない? なんかいっつも菊花賞の前に足折れてるのばっか。

 面白くなくない? この子が三冠ウマ娘になる姿見たく無いやつおる? 

 いねぇよなぁ!!! 

 そんな悪ノリで始まった創作活動。

 目標はテイオーが三冠ウマ娘になるお話を作る事。

 勿論テイオーを導くのは私達! 三女神!!! 

 ウマ娘のトレーナーを作って、私達でテイオーを育てながらそれを間近で観測する。

 最高の娯楽だ…… 

 早速アバターを作りましょう。どんな子がいいかな。

 こねこねとアバターを作る三女神様たち。

 そんなこんなで出来たアバターは「黒髪のウマ娘」、青鹿毛と言われるタイプの子です。

 我らながらいい出来だ。まぁ女神だしね。

 が、ちょっと問題がありました。三女神様たちが作ったのは「体」のみ。中身の「魂」がありません。

 動力が無ければ車は動きません。

 

 ──「あっち」の世界から可哀想な魂を持ってくればいいのでは? 

 

 ──天才か? 

 

 可哀想な魂──そう例えば若くて死んでしまった魂。もっと生きていけた魂を救出する目的で掠め取れば「あっち」からも怒られないでしょ。

 そしてなんとか「あっち」の世界から適当に持ってきた魂をさっきの「体」にぶち込んで……

 あ、魂の記憶は消しておいてねー、私たちが操作するんだから素直な魂にしなきゃ。

 よっしぶち込んでやるぜ! それを新しい世界の根っこにシュート! 

 テイオーを三冠ウマ娘にするRTAはっじまるよー。操作は私達三女神様! 

 よしよし無事作ったアバターが生まれましたね。まー最初の赤ん坊のころはどうしようも……

 その時とある異変に気付きます。

 まず一つ目。「白毛のウマ娘」が生まれたこと。三女神様が作ったのは「青鹿毛のウマ娘」。母親も青鹿毛のウマ娘なのに何で……

 そして二つ目。何故か「前世の記憶がある事」。記憶消したはずなのに何で……

 三女神様たちは緊急会議を始めます。

 観察する子間違った? いや、しっかり景色は見えてるし「特別な目」もある。この子で間違いない。

 じゃあ、なんでこうなってんの? こっちが知りたいんですけど? 

 三女神様たちは大混乱です。流石に作った根っこを破壊なんて出来ません。可能性を潰すのはタブーですから。

 更に異変が訪れます。妹が生まれたことです。

 ウマ娘の世界の根幹にある「ウマソウル」とは不思議なもので「あっち」の世界での姉妹のつながりや親子での繋がりがかなり強く出ます。

 まぁだから妹が生まれる事はおかしくないのです。普通なら。

 しかし「ウマソウル」なんて入れてないアバターの子の妹? 

 しかも生まれた妹は三女神様たちが最初に作ったアバターの姿にそっくり。なんか白いアホ毛がぴょんと生えていますが。

 そして特別な目を若干受け継いでいます。

 そのせいか分かりませんが、本来のアバター、白毛の方の目の繋がりが悪くなっています。

 もう謎に始まったこの世界線。最初に操作する狙いは謎に前世の記憶があるせいで失敗。

 なので夢の中に出て来てなんとか誘導する事に。これはなんかうまく成功しましたが。

 まぁどっかの根の分岐が成功すればいいですけどね。別にどっかがダメでも他の見ればいいし。

 でもなんでこんな事に……

 おかしかったのは……あっちの世界から持ってきた「魂」か。

 んまぁ考えても仕方ないか。仕方ないしこのまま続けよーと三女神様たちは「スターゲイザー」と名付けたウマ娘の世界を観察し始めました。

 

 ですが三女神様たちは忘れていたのです。三女神様、腐っても「神様」。

 それは誰かの願いを叶える存在なのだから。




 三女神様は全知全能では無いのです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。