そのウマ娘、星を仰ぎ見る   作:フラペチーノ

10 / 67
この作品はフィクションですのであらかじめご了承ください

2021/11/04 19:00 一部表現を修正しました
2021/11/05 4:30 谷口トレーナーに担当ウマ娘を追加しました
2021/12/23 20:00 「平成三強」を公式情報追加により「永世三強」に変更しました。


【スターの日常】酒は呑んでも飲まれるな

「飲み会……ですか?」

 

 とある日の放課後、俺はとある資料を取りに行く為にトレセン学園の廊下を歩いていた所、そこで桐生院さんに捕まっていた。

 桐生院さんは俺と同期で入った方で、少し前に俺の事をスカウトしそうになっていた女性のトレーナーだ。

 まさかまた懲りずにスカウトしに来たのか……? 

 

「いえ、流石にスーツ姿見ればトレーナーだって認めますよ…… じゃなくてですね、飲み会ですよ、飲み会。良かったらスターさんも参加しませんか?」

 

「いやまぁ大丈夫ですけど、どうしたんです? 急に」

 

「実は先輩トレーナーに交流を深める為にって誘われたんです。とは言っても女性の方しかいないので大丈夫ですよ」

 

 桐生院さんが「女性のトレーナーって少ないですしね」と付け足す。

 

 なるほど。確かに女性のトレーナーは少ないし、もしかしたら交流を深めるいい機会なのかもしれない。

 俺はサブトレーナーとかについていないので、他のトレーナーとの関係がほぼ無かったのだ。

 

「いいですよ、俺も行きます。詳しい日程教えて貰えます?」

 

「本当ですか! 良かったぁ…… えっと、日程は今日の七時からですね。場所は案内しますよ!」

 

 今日……今日なんだ。俺に予定があったらどうするつもりだったのか。いや無いけどね? 

 あとついでと言う事で、桐生院さんと連絡先を交換しておいた。

 

「そういえば、桐生院さん。担当ウマ娘見つかりました?」

 

「いえ、まだです……」

 

 俺はやっぱりこの人どっか少し抜けているんじゃないかと思い始めた。

 

~~~~~~~~

 桐生院さんと約束した数時間後の夜六時半ごろ。集合場所のトレセン学園の正門前で、いつものスーツ姿で帽子を被って桐生院さんを待っていた。

 一応寮住みなので、寮長に「今夜はトレーナー間での用事で遅れます」とは伝えておいた。

 

 実はと言うと少しワクワクしている。こんな夜に飲み会なんて経験した事無かったから、ちょっとテンションも上がるというものだ。もしかしたら尻尾も揺れているかもしれない。

 

 俺が到着して待つこと数分。向こう側から桐生院さんがスーツ姿でやって来たので少し安心した。

 これで私服とか言われたらどうしようかと…… つか私服がこれしかないんだが。

 

「それでは行きましょうか! こっちですよ!」

 

 そう言って桐生院さんが歩き始めたので俺もそれについて行く。

 桐生院さんが向かったのはトレセン学園の近くにある商店街の方だ。なんでもトレーナー間では良くここが利用されているらしい。

 

「そう言えば、俺たちの他に同期の女性トレーナーっているんでしたっけ」

 

「あともう一人いますよ。私はその方に誘われたんです。もしかして……知らなかったんですか……?」

 

 桐生院さんがちょっと呆れたように返事をする。

 トレーナーになってから何かと忙しくてそんな事確認する暇なかったからなぁ……

 テイオーの担当になったり、ルドルフと協力して色々やったり、とても濃い日々を過ごしていたと思う。

 

 話をしているうちにどうやら目的地に到着したようで、桐生院さんの足が止まった。

 商店街の中にある居酒屋が飲み会の場所らしく、良くも悪くも普通の外見のお店だ。

 ここからどうしたものかと思っていると、居酒屋の前に立っていた女性に声をかけられた。

 

「ねぇ、貴方達が桐生院さんとスターゲイザーさんであってる?」

 

 声がした方を見ると、そこにはスーツ姿で黒髪ポニーテールの女性が立っていた。身長は俺よりちょっと高いくらいだろうか。

 

「あぁいきなりごめんね! 私は清水光(しみずひかり)。貴方たちの先輩よ」

 

 そう自己紹介してきた女性はどうやら俺達の先輩にあたるトレーナーのようだ。

 

「どうもスターゲイザーです。よろしくお願いします」

 

「き、桐生院葵です! よろしくお願いします!」

 

 俺達も自己紹介し返すと、清水さんが珍しいものを見るような目で俺をじろじろ見てくる。

 

「な、なんでしょうか」

 

「んー? いや本当にウマ娘なんだなぁって。ほらウマ娘のトレーナーって珍しいからさ」

 

「おr…私の他にもウマ娘のトレーナーっていないんですか?」

 

「今はいないわね。聞いたことはあるけど」

 

 どうやら今のトレセン学園でウマ娘のトレーナーというのは俺だけらしい。

 やはりウマ娘のトレーナーというのは珍しいのか。

 

 そんな事を考えていると清水さんが「立ち話も何だし入ろうか」と案内してくれたので俺達もそれについて店の中に入る。

 お店の中は意外とこじんまりしており、落ち着いた感じの雰囲気が漂っていた。

 もう既に席は取っているようで、店の奥側のテーブル席に着くと既に三人ほど座っていた。

 何故か一人はもう既にビールだと思われるものを飲んでいる。飲み始めるの早くね? 

 

「あらぁ、こんばんは。よく来たわね~ 私は谷口(たにぐち)よ よろしくね~」

 

 そう黒髪ロングのストレートの女性が挨拶してくれた。

 ……ん? あれこの女性って

 

「あ、あのもしかして永世三強のトレーナーですか?」

 

「あら、よくご存知で」

 

「スターさん知ってるんですか?」

 

「逆に知らないんですか!?」

 

 永世三強――かの有名な「オグリキャップ」「イナリワン」「スーパークリーク」そして更に「タマモクロス」までを全て担当した伝説のトレーナーだ。担当している子それぞれが歴史に名を刻んだ凄いウマ娘だ。

 俺はレースオタクなのだが、ウマ娘だけでなくトレーナーの方もよく見ていたりするので有名どころのトレーナーは把握していたりする。

 まさかこんな所でかの永世三強のトレーナーと会えるとは……! 少し感動している。

 

「まぁ、座ってくださいな。自己紹介しちゃいましょうね」

 

 谷口さんがそう促してくれたので俺と桐生院さんが隣合わせで席に座る。

 

 最初に自己紹介の流れになったので、取り合えず俺と桐生院さんが自己紹介をする。

 何故か俺が自己紹介してる時に「白毛のウマ娘ちゃん!? グフッ」とか言って先輩と思われるトレーナーが一人気絶してた。怖いんですけど……

 

「あたしは~蔵内望(くらうちのぞみ)だよ~ よろしくね~」

 

 そうビールジョッキ片手に自己紹介した、蔵内さんと名乗るどこかフワフワしている子はどうやら俺たちのもう一人の同期のトレーナーらしい。

 

「桐生院ちゃんとスターちゃんはもう担当ウマ娘持とうとしてるの? 凄いね~」

 

 蔵内さんは現在清水さんのサブトレーナーとして勉強中との事。

 まぁそれが普通なんだけどね……

 

「で、こっちで気絶してるのが……おい起きなさい」

 

「ふぁい! 姫宮(ひめみや)です! ウマ娘ちゃんを見る為にトレーナーになりました!」

 

「姫宮ちゃんはそろそろ担当ウマ娘持たないとダメよ? いつまで私のサブトレーナーやるつもりなの?」

 

「うっ…… ハイ、ショウジンシマス……」

 

 姫宮さんは俺たちの先輩だが、どうやら谷口さんのサブトレーナーについているらしい。

 ウマ娘を見るためにトレーナーになるとは変わった人だなぁ。

 

「本当はもう一人来る予定だったんだけど、仕事で忙しくてパスね。機会があったら紹介するわ」

 

 清水さん曰く、その方はトレーナー業だけでなくマネージャーとしても働いているそうだ。

 トレーナー業だけでも大変なのに、他の仕事も抱えるのは素直に尊敬してしまう。

 

「自己紹介も一通り終わったし、ご飯食べましょうか。今日は私たちが奢るから好きなの頼んで大丈夫よ」

 

「本当ですか~? じゃぁ、あたしこの高いお酒で~」

 

「あんたはちょっと遠慮しなさい」

 

 そう言って蔵内さんがガンガン高いお酒を頼んでいた。

 俺は一応未成年なので最初に貰ったお冷を飲みながら、運ばれてきた大皿に乗ったご飯を食べる。

 焼き鳥やサラダ、唐揚げなどを口に運ぶが普通に美味しくて箸が進む。

 

 そんな感じで食事をしながら俺は先輩トレーナーの話を聞いたりしていた。

 特に永世三強を担当していた谷口さんと話をさせて貰っていた。

 レースの裏側やオグリキャップやタマモクロス、スーパークリーク、イナリワンのお話を聞けたりしてとても楽しかった。ただでちゅね遊びって何なんだ……

 

「飲み物頼んじゃうけど一緒に欲しいのある~?」

 

「あ、烏龍茶ください」

 

「はいは~い」

 

 蔵内さんが飲み物を頼んでくれるようなので俺のも一緒に頼んでもらう。

 

 美味しい食べ物を食べながら、こう先輩の話を聞けるなんて今日はここに来て正解だったなぁ。

 誘ってくれた桐生院さんには感謝しなくては。

 

~~~~~~~~

「そっか、名家の出身も大変なのね。新人から担当ウマ娘を持てだなんて」

 

「はい……」

 

 私、桐生院葵はちょっとした愚痴を先輩トレーナーである清水先輩に話していました。

 先輩は私の話をしっかり聞いてくれて、返事を返してくれます。

 

「私も担当……ドーベルを持ったのはトレセン学園に来てから2年後くらいだったかしらね。普通はそんなものなんだけどね」

 

「ですよね…… 新人トレーナーってこんな難しいものなんですね……」

 

 私の実家は桐生院家と言って、優秀なトレーナーを輩出してきたことで有名な家系です。そこで生まれた私も例外なく期待されており、なかなかに辛かったりします。

 担当ウマ娘を持とうと、トレーナーであるスターさんに声をかけるくらいには焦っていました。

 

「まぁ焦らないことも大切よ。しっかりウマ娘の子と話をすればきっと一緒に走ってくれる子が現れるわ」

 

「……はい! ありがとうございます!」

 

 やっぱり先輩は頼りになるなぁ。こうして悩みを聞いてくれるなんてとても優しくていい人なんですね。

 スターさんとかはもう担当持ってるっていうし、私も頑張らなきゃ! 

 

 そう新たに決意を抱いていると、私の肩に重みを感じました。

 横を見てみるとスターさんがその綺麗な白毛をあらわにして私の肩に頭を預けて寄りかかっています。

 

「……え?」

 

「えへへへ、葵ちゃん肩借りるねー?」

 

「葵ちゃん!? ちょっ、ちょっとどうしたんですかいきなり!」

 

 スターさんの顔を確認してみるといつもより顔が赤く、お酒の匂いも少しする。

 ……もしかしてこれ酔ってます!? 

 

「はえ~スターちゃんって酔うとこんな感じになるんだ~ 可愛いね~」

 

「はい可愛いですね、じゃなくて! 彼女未成年ですよ! なんで酔ってるんですか!」

 

「「「え」」」

 

 テーブル周りの空気が一瞬で冷えたのを感じました。

 


 ここで少し補足をしておこう。まずウマ娘というのは見た目がかなり美麗であり、歳をとっても若々しい子がとても多い。つまり顔だけで年齢を判断しにくいという事がある。

 更に、トレセン学園のトレーナー試験を受けるのは大体専門学校を卒業した人が多い為、トレセン学園で働く頃にはもう既に20歳を超えていることが基本である。この場の新人トレーナーである桐生院葵や蔵内望もお酒が飲める飲めないは別にして、一応成人は迎えている。

 

 が、ここに例外が一人。そう、スターゲイザーは専門学校になんて通っておらず自力で合格した異端児中の異端児である。さらに中卒でトレーナーに就くなんて前例がなく、まぁなんだその

 

 彼女たちがスターゲイザーを成人していると勘違いするのも仕方ない事なのである。

 


「未成年!? 嘘でしょ!? ちょっ、蔵内何飲ませたの!」

 

「え、あの、烏龍茶って言ってたのでウイスキーの烏龍茶割りを~」

 

「あんたの酒豪脳で考えるなぁ!!! どうすんのこれ! 未成年飲酒じゃない!」

 

 スターさんがお酒を飲んでしまった事でテーブル席はパニック状態。

 さっきまで落ち着いていた谷口先輩も「あらあらどうしましょう」と余裕が無くなっているように見えます。

 姫宮先輩はなんかよく分んないけど倒れていました。「仰げば尊死」とかぶつぶつ言っているけど……

 

 ギャーギャー言ってるのをよそに、未だにスターさんは私の肩に寄りかかっていました。

 本当に綺麗な白毛だなぁなんて思っていると

 

「葵ちゃん、ぎゅーーーー」

 

「!?!?!?」

 

 そう言ってスターさんが私に抱き着いてきました。

 お酒で酔っているからか、心なしか少しあったかいじゃなくて。

 

「スターさん離してください! 離し……力強い!」

 

 抱きつかれて困っていると、谷口先輩が立ち上がってこっちに向かって来ました。

 そうして、突然スターさんの頭に手を置いて撫で始めた。

 

「はぁい、いい子だから少し大人しくしてましょうねー」

 

「……ふぁい」

 

 先輩がスターさんの頭を撫でていると、突然私の方に一気に体重がかかる。

 咄嗟に支えて、スターさんを見るとすやすやと気持ちよさそうに寝ていました。

 え、眠らせたんですか……? 

 

「クリークに色々教えて貰ったけどまさかこんな所で役に立つなんてね」

 

「谷口先輩ナイスです! これで家に送り届ければ……!」

 

 谷口先輩はどこかほっとした表情を浮かべていました。姫宮先輩は何故か「供給過多……」とか言いながら倒れていました。

 

「さて……桐生院さん。私達スターさんの住んでる場所分かんないんだけど分かったりする? トレーナー寮ではないと思うから実家暮らしとかなのかしら」

 

「えーっと…確か……」

 

 私はそう聞かれて、いつぞやのスターさんとの会話を思い出す。

 確かあの時……

 


 

「はい、また機会がありましたら……あの、そっち方向トレーナー寮じゃないですよね?」

 

「俺住んでるの栗東寮なんで」 

 

「いや本当にトレーナーなんですか?」

 


「……栗東寮だったと思います」

 

「……一緒にたづなさんに謝りましょう」

 

~~~~~~~~

「……ん? あれ?」

 

 俺が目を覚ますとそこは寮の自室だった。

 カーテンの隙間から光が見えているので恐らく朝なのだろうか。

 時計を見てみると時刻は朝の七時。

 

 えっと昨日先輩達と居酒屋行って、お話を聞いて……なんかそこから記憶がない。

 なんか妙に頭も重いし…… スーツ姿のままベッドに入ってるし……

 

 どうしたものかと、ベッドから起き上がって携帯を取ると桐生院さんからメッセージが届いていたので確認してみると

 

『あの……昨日の事は気にしてないので! 大丈夫です! はい!』

 

「……」

 

 一体昨日の夜、俺は何をやったというのか。その真相は、結局誰からも教えてはくれなかった。




おまけのトレーナー紹介のコーナー

・桐生院葵(きりゅういん あおい)
スターの同期のトレーナーで有名な桐生院家出身。その為、期待が大きく担当ウマ娘を持とうと現在奮闘中。割とポンコツ。

・谷口海(たにぐち うみ)
現在トレセン学園の中の女性トレーナーの中で一番先輩。担当ウマ娘は「オグリキャップ」「タマモクロス」「スーパークリーク」「イナリワン」 別名トレセン学園の母。髪型は黒髪のロングのストレート。因みにでちゅね遊びは彼女には効かない為、クリークのフラストレーションは主にタマモかタイシンなどに向かっている。

・清水光(しみず ひかり)
スター達の先輩にあたるトレーナー。担当ウマ娘は「メジロドーベル」 先輩だが最近担当ウマ娘を持った。黒髪をポニテで纏めている。大体ツッコミ役にされている苦労人。

・蔵内望(くらうち のぞみ)
スター達の同期のトレーナー。どっか垢ぬけたようなふわふわしている子。現在清水トレーナーのサブトレーナーとして勉強中。髪は茶髪のふわふわパーマ。酒豪、めっちゃお酒飲むが二日酔いしない。

・姫宮明(ひめみや あかり)
スター達の先輩だが未だに担当を持たず谷口トレーナーのサブトレーナーにいる。ウマ娘を見る為にトレーナーになった変わった人。アグネスデジタルでは無いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。