そのウマ娘、星を仰ぎ見る   作:フラペチーノ

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11.進軍

 暑かった夏が終わり、少しずつ肌寒くなってきた今日この頃。

 二人の間で既にミーティングルームと化した栗東寮の自分の部屋にポニーテールを揺らしながら俺の話を聞くテイオーがいた。

 そこで俺は彼女に対してデビュー戦の詳細を説明していた。

 

「場所は中京レース場、芝の1800mだから区分的にはマイルだな。そこでデビュー戦だ」

 

「やっとだね! マックイーンはもうデビュー戦勝ったって聞いたからボクもソワソワしてたよ」

 

 テイオーが嬉しそうにそう返事をする。

 

 デビュー戦──それはウマ娘がトゥインクルシリーズを走るにおいて名前の通り最初の公式レースだ。ここに勝たなければG1レースはおろか、重賞レースにも出れない。勝つ、というのは勿論一着を取る事で、ウマ娘によってはデビュー戦にいつまでたっても勝てずにそこで躓いてしまう子だっている。

 またデビュー戦に勝てないと未勝利戦がいつまでも続いて次のステップに進めない。

 「G1レース」に出るためにはまず「デビュー戦」を勝利。その後の「一勝クラス」「二勝クラス」「三勝クラス」などの条件戦に勝利し、「OPレース」「G3、G2レース」のステップを踏んでようやく「G1レース」に挑む権利を得られるのだ。

 

 言うまでも無いが中央のレースはレベルが高い。その為デビュー戦でも油断は出来ないのだが、俺達が目指すのは無敗の三冠ウマ娘、そして皇帝シンボリルドルフを超える事。こんなところで躓いてなんてはいられない。

 

 正直デビュー戦がこんなにも早く出来るとは思って無かった。走法を直すと決心した時点で、かなり長い時間を取る事まで見据えていたのだが、彼女がそれ以上の才能を見せてくれたので今年中にデビュー戦を行う事を決心した。

 テイオーはもう本格化来てるっぽいし、なら早めにデビューした方がいいと判断したという訳だ。

 

「そういえばマイルなんだ。2000mの中距離かと思ったよ」

 

「まぁな。これにはちょっとした理由はあるけど……テイオーなら問題ないだろ」

 

「勿論! デビュー戦から張り切っていくからね!」

 

 うん、やる気十分で何よりだ。

 因みに俺は今から結構緊張している。

 初めて担当したウマ娘がレースを走るのってこんなドキドキするのか……

 

「さて、デビュー戦の日程は以上だ。二日前に現地に入って、本番に備えるぞ」

 

「りょーかい! あっ、そういえば作戦はどうするの? 先行? それとも差し?」

 

 テイオーが手を挙げて質問してきた。

 テイオーの本来の得意な脚質は先行だ。だが走法の切り替えという武器を身に着けるにあたり、差しの脚質も出来るようになってしまったのだ。これが天才か。

 

 まぁ今回テイオーにしてもらうのは先行でも差しでも無いけど。

 

「今回の作戦はな……逃げだ」

 

「……へ?」

 

~~~~~~~~

 テイオーに作戦を伝えた後、レース場の構造を軽く説明してその日はお開きとなった。

 そしてデビュー戦がある二日前。俺達は新幹線に揺られてトレセン学園がある東京都府中市から、中京レース場がある愛知県豊明市に来ていた。

 到着したら予約したホテルにチェックインし、荷物を預ける。

 ホテルの部屋に関しては最初、俺とテイオーで別室にしようとしていたのだが「えーー、一緒でいいじゃん」と言われてしまったので結局一緒の部屋になってしまった。

 

 年頃のウマ娘がこんな無防備でいいのだろうか。あ、俺ウマ娘だった。テイオーからしてみれば同性の、しかも同じウマ娘だから気にする意味ないのか……

 

 俺が過剰に気にしている隣でテイオーは「わーー! ベッドふかふか!」とか言ってベッドにダイブしている。凄い楽しそうだね、君。

 

 ホテルに荷物を置いたら早速今回のデビュー戦がある中京レース場に向かう。

 デビュー戦があるのは休日である土曜日と日曜日。テイオーのデビュー戦は日曜日なので今日はコースの下見という訳だ。

 

 関係者用の証明書を受付に見せてレース場の中に入る。

 平日なので関係者しかいないそこは映像で見るよりもかなり粛然としており、広く感じる。

 周りを見るとちらほらとウマ娘とそれのトレーナーらしきものが確認できた。

 

 余談だが、その週の土日にレースがあるウマ娘は前日である平日に一度だけレース場を下見する事が出来る。一度だけなのは休日に開催されるレースの数がかなり多いため、出走するウマ娘に対して公平を期するためだ。

 出るレースに応じて使える時間も日付もURA側から指定される。俺達が指定された日は金曜日だったという訳だ。

 

 が、今回これは正直やらかした。移動してからすぐ練習なんてテイオーにとってかなり負担のはずだ。

 これは俺の考えが甘かった。次回から気を付けないとな……

 

 テイオーに運動が出来る格好に着替えて貰って、本番のコースを試走してもらう。

 レース場にはその場所によって色々な特徴がある。平坦なコースもあれば坂の起伏が激しいコース。ゴール前の直線が長かったり短かったりと様々だ。

 なのでレース場に合わせてどこから仕掛けるか、どのようにペース配分するかなどの作戦もレース場によって変わったりするのだ。

 

 テイオーが心地よい音を出しながらターフを蹴る。フォームが崩れておらず綺麗な走りだ。

 

 やっぱり調子は良さそうだな。これは心配無用だったか……?

 

「ふぅ……」

 

 試走をし終えた彼女が俺の元に戻って来る。本気で走って貰ってないのでぱっと見疲れていなさそうだが、しっかり足のケアとチェックは行う。これはもう走った後のお約束みたいなものだ。

 

 そこからターフを一緒に歩きながらどうやって走るかを隣で見つつ指導していく。

 やはり実際に体験した方が体感しやすいからな。芝も綺麗に整備されているし、整備士さんには頭が上がらない。

 

「走り方も崩れて無いし、俺からはもう特に言う事無いな。日曜は勝つぞ」

 

「当然だよ! 今からレースが楽しみだなぁ」

 

 テンション高めに尻尾を揺らしながらテイオーがそう答えた。

 

 デビュー戦の予行演習をし終えた俺達は中京レース場を後にする。とは言っても明日明後日もまた来るのだが。

 そしてその夜、「晩ごはんは何がいい?」とテイオーに聞いたところ「ファミレス」と言われたので近くのファミレスで食事を済ませてしまった。まぁファミレス色んなメニューあるからいいよね。

 

 食事を済ませたらそのままホテルで直ぐに寝る準備をする。

 明日も早いという訳ではないが、用事がないなら寝たほうがいい。疲労回復にはやっぱり睡眠が一番だし。

 

 先にシャワーを浴びて貰ったテイオーの後に俺も体を洗う。部屋についていたシャワールームを使用し、持ってきたパジャマに着替える。そういえば最近湯船に浸かって無いなぁと思いつつ髪を乾かしてベッドがある部屋に向かった。

 

「おーい、テイオー上がったぞ。早く寝ような」

 

「はーい。……ねぇトレーナー、それ何」

 

「ん? いやパジャマだけど」

 

「どう見ても男性用のだよね!? うわ、これ尻尾穴無理やり開けてるじゃん! しかもなんかまだ尻尾びしょびしょだし! あーーもう!!! こっち来て!」

 

「え、いや別に」

 

「来て」

 

「はい……」

 

 何故か怒られてしまったのでしぶしぶテイオーの方のベッドに向かった。

 べしべしと手でベッドを叩きながら「ほら早く座って、こっちに尻尾向けて」と不機嫌そうに言う。

 素直にベッドに座った俺は尻尾を持たれてドライヤーで乾かされる。

 テイオーもお風呂上りだからか、彼女のシャンプーの匂いが鼻孔をくすぐる。

 他人に尻尾なんて触って貰った事なんてなかったし、温風が付け根あたりをくすぐりなんかすっごいむず痒い。

 

「……てか尻尾今までどうしてたの」

 

「え? タオルで拭いて自然乾燥させてた」

 

「……一応聞いとくけど尻尾のケアは? 尻尾用の洗剤とか持ってる?」

 

「何それ、そんなのあるの?」

 

 自分が使ってるシャンプーやボディーソープなんて適当にそこらへんで買った奴だ。特にこだわりなんてないし、今日使った奴もホテルのサービスで置いてあった奴を使った。

 え、尻尾も毛だし同じシャンプーで洗っちゃダメなんですか。

 尻尾を乾かす風の音より大きな声で「はぁ~~」という溜息が聞こえる。

 

「もうなんていうかトレーナー、今まで何してたの?」

 

「そこまで言われるレベル?」

 

「そこまで言うレベル。今度全部教えるから時間取ってね」

 

「はい……」

 

 年下のウマ娘に説教される年上のトレーナーウマ娘が爆誕した瞬間だった。

 今まで引きこもりで、更に元が男性という事もあって全くそっちの方面に興味が無かった。

 

「てか禿げるよ。ケアしないと」

 

 ……禿げるのは嫌だな。今度から気を付けよう。

 俺がテイオーにケアの大事さを説明されながら尻尾を好きに弄らせていると、乾かし終わったのか櫛で毛を解かし始めた。

 

「トレーナーって尻尾の先黒いね。他は真っ白なのに」

 

「ん? あぁこれは生まれつきだよ。遺伝なのかな」

 

 俺は世間一般的に白毛と呼ばれる部類なのだが、唯一尻尾の先端が筆に墨を付けたように黒い。

 親が青鹿毛──真っ黒な髪を持っているから少し受け継いだのだろうか。

 唯一母親との接点を感じられる箇所だ。

 

 

 碌な思い出なんて無いが。

 

 

「凄い綺麗だと思うよ。ボクは好き」

 

 

 ……でもまぁ、こうやって他の人に褒められるのなら少しは良かった……のかな?

 

 

 俺はゆらりと尻尾を揺らしてテイオーに返事をした。

 

~~~~~~~~

 テイオーに尻尾ケアされた後すぐに寝た俺達は、次の日またレース場を訪ねていた。

 

「おー、結構人いるね」

 

「だな。レース場を直接訪れるのは初めてだけどこんなに人いるもんなのか」

 

 日付は土曜日。今日の目的は実際のレースを生で見る事と雰囲気に慣れるという目的で足を運んでいた。

 今日は特に大きな重賞レースも無いはずなのだが、それでもかなりの人がいるのを見ると、この世界でのレースへの人気が伺える。

 

「屋台とかもあるんだね。ねぇねぇ、なんか買ってきていい?」

 

「お腹壊さない程度にならいいぞ」

 

 テイオーが「わーーい」と尻尾を揺らしながら屋台の方へ向かってしまった。俺も少しお腹空いたな……

 しばらく待つと、テイオーがプラスチックの容器を二つ抱えて戻って来た。

 

「はいこれトレーナーの」

 

「焼きそば? わざわざありがと」

 

 テイオーから買ってきてくれた焼きそばをありがたく受け取る。後でお金渡しておかなくては。

 ご飯を片手に観客席に向かい、空いている席に座る。なるべくターフが見やすそうな場所に腰を掛けて、焼きそばを啜りながらレースの開催を待つ。

 しばらく経つと、ゲートにウマ娘達が入っていくのが見えた。

 ゲートが開いた音が響き、ウマ娘達が一斉に走り出す。その瞬間歓声が観客席から湧き上がった。

 今は人が少ないからまだ音量は控えめだったが、これがG1レースともなると観客席を埋め尽くして凄そうだ。

 

 レースが開催されているのを映像越し以外で初めて見たが、その場独特の雰囲気が感じられて新鮮な気持ちだ。

 

 生で見るレースって良いな…… 五感で色んな事を感じられる。

 

 明日はここをテイオーが走るのだ。自分の担当ウマ娘がレースをする……やばいまたドキドキしてきた。

 

「トレーナー。ボク、明日勝つよ」

 

「……あぁ、絶対勝とうな」

 

 テイオーがターフを真っすぐ見ながらそう宣言する。

 彼女を支える俺が先に緊張してどうするんだ。しっかり見届ける覚悟をしなくては。

 

 テイオーに対する思いを抱きながら、俺はたった今終了したレースの影響でまた声量を増した歓声に耳を傾けるのでああった。

 

~~~~~~~~

 日曜日。いよいよテイオーのデビュー戦本番である。レースが始まるのは午前十一時半からなのでそれより一時間前に現地に入り準備をする。

 決められていた選手控室に入った俺達はレース前の最終チェックを行う。

 

「……作戦は以上だ。何か質問あるか?」

 

「大丈夫。問題無いよ」

 

 トレセン学園指定の体操服に着替えたテイオーが落ち着いた雰囲気で答える。

 胸には「二番」と書かれたゼッケンをつけている。

 

「……緊張してるか?」

 

「ううん、全然。それよりも……ワクワクしてるんだ」

 

「……」

 

「何て言うのかな…… 今物凄く走りたい気持ち」

 

 レース前にあがってしまい、緊張でダメになってしまうウマ娘だっているのにテイオーはそれすらも前に進む力に変えてしまう。

 俺は何となく座っていたテイオーの頭を撫ででしまった。テイオーもまんざらでもないのか抵抗もせずに俺になすがままされている。

 

「……あっ、ルーティーン決めようよ! ルーティーン!」

 

「ルーティーン?」

 

「うん。レース前にやる事決めるの」

 

 ルーティーン──それはスポーツ選手などが試合前に特定の行動をすることによって集中力を高め、自分のベストパフォーマンスを引き出す方法だ。

 なるほど。テイオーの提案した事は理に適ってるかもしれない。

 

 だけどどんな事をやればいいんだ……? あっ、一ついい事思いついた。

 

「そうだ、レース前とレース後で挨拶しよう。いってらっしゃい、テイオー」

 

「……! いってきます! トレーナー!」

 

 願わくば、無事に帰ってきてまた挨拶出来ますように。

 

 そんな思いを込めて、俺はパドックへと向かうテイオーを見送った

 

~~~~~~~~

『さぁ、始まりました! 秋のデビュー戦! 九人のウマ娘達がトゥインクルシリーズへの道を踏み出します!』

 

 レース場のスピーカーから実況が聞こえる。

 俺はあの後、テイオーのパドックへの入場を見る為に観客席に移動していた。

 

 昨日と同じくらいの観客数だった為、すんなりと一番前の方でテイオーを見る事が出来る。

 

『さぁ、一番人気を紹介しましょう! トウカイテイオー! 私一推しのウマ娘です!』

 

 場内アナウンスと共にテイオーが歩いてパドックの中央へと入場してくる。

 観客の前でバサッと上着を脱ぎ棄て、パフォーマンスを行う。

 テイオーがステージの上で俺を見つけたのか手をぶんぶんと振って来る。

 

 あれなら全然問題無さそうだな。しっかり実力を発揮してくれそうだ。

 パドックでのお披露目が終わったらいよいよゲートインである。

 

 テイオーは二枠二番。左回りのコースなので内枠になる。

 特にトラブルも無くすんなりと他のウマ娘もゲートインが完了した。

 

『中京レース場、芝1800m、デビュー戦……今スタートしました!』

 ガコンという音と共に、ゲートが開かれる。

 その瞬間テイオーがスタートダッシュを決めて一気に先頭に立つのが見えた。

 他のウマ娘はテイオーより前に出ず、後ろから着いて行く形を取った。

 

 よし、作戦通りだ。このままテイオーは逃げさせてもらおう。

 

『おっと、トウカイテイオーが先頭を取ったぞ! このまま逃げるつもりなのか!?』

 

 第一コーナーに差し掛かり、テイオーが後ろと約四バ身差をつけて逃げる。

 

 今回は出走ウマ娘の中に逃げの脚質の子はいなかった。

 だからするりと難なく先頭に立てたのは大きい。まぁテイオーなら他に逃げウマがいたとしても大丈夫そうだが。

 

 目の前でレースをしているテイオーを見ると気持ちが高揚するのが分かる。

 ターフを蹴る彼女を見ているとなんだかこっちまで熱くなってしまい、尻尾がぶんぶんと揺れてしまう。

 

 やばい、担当ウマ娘が走るのってこんな興奮するのか。

 

「なんだ、お前。トウカイテイオーのトレーナーか」

 

 そこに急に横やりを指すような言葉が聞こえた。

 なんかテンションが下がってしまい、隣の方を見ると30代くらいだろうか。無精ひげを生やしたスーツ姿のおっさんが柵に手をかけて立っていた。

 いやなんだこいつ…… 誰だ。

 

「いきなりすまないな。トレーナーバッジをつけてトウカイテイオーを応援していたもんだからな。ほら、ウマ娘のトレーナーなんて珍しいだろ? 少し気になってな」

 

 まぁ確かにウマ娘のトレーナーは珍しいがそれだけで話しかけてくるか?

 

 俺が胡散臭いものを見るような目でとなりのおっさんを睨んでおく。

 すると、彼が挑発的な目をしながらへらへらと話し始めた。

 

「あまりにもやっていることが小賢しくてな。いや、やりたい事は分かるんだぜ?」

 

「……は?」

 

「おーこわ」

 

 何故かいきなり罵倒されてしまい、イラっと来てしまう。耳が帽子の下で後ろに絞られているのが分かった。

 

『さぁ、第三コーナーも終わり終盤に差し掛かります! トウカイテイオーが逃げ続けている! このまま最後までいってしまうのか!』

 

 テイオーは第三コーナーを通過し、未だに先頭。他のウマ娘も大きな順位変動も無く、いつ仕掛けるか伺っているようだ。

 

「なぁ、彼女。トウカイテイオーか、本来の脚質逃げじゃないだろ」

 

「……なんでそう思ったんですか?」

 

()()()()()()()()()。確かに逃げは後ろをある程度警戒するものだが、流石にちょっと目立つぜ?」

 

 そう言われてしっかり観察すると、確かにテイオーの耳がいつもより少しせわしなく動いている。

 

 やっぱり後ろが気になるのか…… だがこれは許容範囲だし、つか狙いはそこじゃ……

 

「んで、大方逃げの脚質を理解させるって所か? 差しウマとかにとって、いつどのタイミングで仕掛けるのかは大事だからな。なら手っ取り早いのはその脚質を体験させる事。まぁ他のウマ娘にブロックされないのも目的にありそうだが」

 

 ……正解だ。

 

 今回テイオーに逃げの脚質をやらせたのはまず逃げの脚質を理解させる為。

 正直テイオーのスペックだったら得意な脚質じゃなくても勝てると判断したからこそ出来る暴挙。これは彼女がトウカイテイオーであるからこそ出来た作戦だ。

 とは言ってもOPクラス以降では通用するか怪しいから今やらせてるわけだが。

 

 確かに他のウマ娘にマークされないように抜け出したって言うのもあるが。

 たった一回の選抜レースで「あのテイオーと」まで騒がれた彼女だ。他のウマ娘から徹底的にマークされる可能性も否定は出来なかった。だからこその逃げでもある。

 

 そして……

 

「あとは脚質が逃げだと勘違いさせる為か。トウカイテイオー、まだ何か隠してるだろ」

 

「……っつ!」

 

「図星か。まぁ、妙に走り方が逃げっぽくないと思ったよ。あれ、我慢してるな?」

 

 テイオーステップまで見抜いたのか!? 何者だ、このおっさん……

 

 今回、テイオーには負けそうにならない限り例の走りを使わないように指示をした。

 これはテイオーステップで目立つのを避ける……って言うのもあるが他の人に脚質を勘違いさせるのが主な目的だ。

 

 これからどうしても目立ってしまうテイオーをどこまでカン違いさせられるか(・・・・・・・・・・・・・・)。これはテイオーと走るウマ娘というよりもトレーナー側の方での策略だ。

 

 マークする相手が、気にしておくようにと指示された相手の脚質がいきなり変化したら?

 どうなるかは想像に難くないだろう。

 一歩間違えば作戦の全てが崩壊してしまうような地雷を設置しておくのも目的だった。

 

『さぁ、最後の直線に入った! トウカイテイオー逃げる逃げる! 後ろの子達は間に合うのか!』

 

 が、それは全て見抜かれなかった時の話。

 今まさに、目の前で、全てバレた。もうここまで来ると驚きを通り越して恐怖すら感じる。

 

 顎のひげを手でぽりぽりと搔きながら、彼は話を続ける。

 

「だからこそ分からん。圧倒的な力を持っていながら何でこんな事をやる? 強者は強者らしく全てを蹂躙するべきじゃないのか?」

 

「……テイオーは確かに強いです。それでも」

 

「それでも?」

 

「テイオーは俺を信じてくれた。なら俺はテイオーを全力で、持っている全てを使って支えるだけです」

 

 

 もし俺の指導が間違っていたとしたら?

 もし俺の考えが全て相手にバレていたとしたら?

 

 

 もし、それでテイオーが負けてしまったら?

 

 

 何の障害も無く全てのレースを勝てると思っているほど幼稚でも無いが、「もしも」の話を全て考慮出来るほど大人にもなり切れていない。

 

 けれど、あの時こうすれば良かったなんて後悔はしたくはない。

 

 彼女は俺に夢を預けてくれた。なら俺も彼女を信じるだけだ。

 

 ──────トウカイテイオーの夢を叶える。その日まで。

 

 

 

『トウカイテイオー、今一着でゴールイン! 二着の子と三バ身差の勝利でデビュー戦を勝ち取りました!!』

 

 レース場全体からわっと勝者を称える歓声が沸き上がる。

 無事テイオーがデビュー戦を一着で制したのだ。

 安心したという気持ちが一気に沸き上がり、体からどっと力が抜けるのが分かる。

 

 良かった…… 本当に良かった……

 

 レース場に目を向けると、ゴール板の方でテイオーが俺の方にぶんぶんと笑顔で両手を振って来るのが見える。俺もそれに右手を振って答えた。

 

「そうか…… すまなかった。いきなり偉そうなことを言ってしまって」

 

「いえ…… それよりも貴方何者ですか? ウマ娘のトレーナーだったりします?」

 

「あーー、俺か? 俺はな」

 

 彼は何処かと遠い所を見ながら

 

「夢を見れなかった大バ鹿者だよ」

 

 悲しそうな目でそう語った。

~~~~~~~~

 テイオーがゴールしたのを見た後、俺は観客席からテイオーの元に向かっていた。

 誰もいない地下バ道はしんとしており、歩くたびに自分の足音が反響しているのが分かる。

 

「あ、トレーナー! ボク勝ったよ!」

 

 そこに聞きなれた一際大きな声が響き渡る。

 レースの後という事もあり、汗をかいていて心なしか顔が赤い。

 

「しっかり見てたぞ。おめでとう。流石だよ」

 

「へへへ。もっと褒めてくれてもいいんだよ?」

 

 胸に手を当てながら、テイオーがどや顔で自慢する。

 実際無茶な作戦に最高の形で答えてくれたから本当に凄い。流石テイオーだ。

 

「そういえばウィニングライブっていつだっけ?」

 

「ウィニングライブは全部のレース終わった後だから、午後六時くらいだな。テイオーなら心配ないと思うけどしっかりパフォーマンスしてきなよ」

 

「当然じゃん! ボクを誰だと思っているのさ。 あ、ねぇトレーナー」

 

 

 

「ただいま! 一着取って来たよ!!!」

 

「おかえり、テイオー」

 

~~~~~~~~

 ウマ娘のレースが終わったらその日の夜にウィニングライブが行われる。

 ステージの上でウマ娘が歌って踊り、その日の観客やファンに感謝を示すのだ。

 

 正直な所俺はウィニングライブの良さというのが分からなかった。()()()()()()

 

 テイオーがセンターで共通衣装と呼ばれる衣装を着て、歌って踊っている。

 トレードマークのポニーテールを揺らしながら、完璧なパフォーマンスをしているテイオーを見た俺は言葉を失っていた。

 

 やばい。何がやばいって上手く表現できないけど、とにかくこれはやばい。

 

 あと語彙力も一緒に死んだ。

 レースで走っている時に引けを取らないくらいキラキラ輝いている彼女を見ながら、俺も手元のペンライトを全力で振る。

 

 デビュー戦のウィニングライブとは思えないほどの歓声の中、俺はやっと自覚した。

 

 

 これが夢に向けての大きな一歩だな。

 

 

 こうして、最高の出だしを切った俺とテイオーの進軍が始まった。

「精神的NL」及び「GL」タグ付けたほうがいいでしょうか

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