そのウマ娘、星を仰ぎ見る   作:フラペチーノ

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とあるウマ娘視点からのお話です。少し曇らせ要素があります。


舞台の裏で

 私は特に目立った特徴も無い、普通のウマ娘だと自分でも思う。

 

 ウマ娘特有の大きな耳、ふわふわの尻尾。そして一般人よりもあるパワー。

 そして常軌を逸した、走力。

 

 でも私は地元じゃ周りのウマ娘よりも速かった……んだと思う。

 知り合いのウマ娘に「貴方なら中央のトレセンも夢じゃないって!」と褒められて、「じゃあ頑張ってみるかぁ」なんて思ってトレセン学園を志望した。

 

 そんなふわふわした理由で、中央の試験を受ける事にした私は試験勉強を始めた。

 流石にそんな簡単に受かるところじゃないって事は分かっていたので、かなり努力した。

 勉強……なんて言ってもトレセン学園の試験で、一番大切なのは結局の所「走り」だ。

 

 トレセン学園の最初の入試試験はいたってシンプル。

 芝とダートの三ハロン、600mのタイムを取る事と面接。筆記試験はある事にはあるがおまけみたいなもんだ。

 

 だから走った。とにかく走った。

 私もその時は小学生。当時はトレーニング方法なんて分からなかったから、日が暮れるまで走った。

 

 その当時は結構努力したと、今でも思う。

 そして、その努力は結果として現れた。

 

 入試本番。数多くのウマ娘の受験者がいる中での本番の試験。

 敷かれたレーンの中に入って、600mのタイムを計測する。

 私はそこで今までで一番いい走りをする事が出来た。

 

 これなら合格できる……! そう思い、走り終わったターフを去ろうとした瞬間

 

 ────風を見た。

 

 三ハロンというウマ娘にとっては少し短めに感じる直線を駆け抜ける一陣の風。

 特徴的なポニーテールと白い流星を携えた彼女は、笑顔でゴールする。

 

 見惚れてしまった。

 

 その走りをずっと見ていたいと思ってしまうほどには。一目惚れだった。

 実際ぼけっとターフに突っ立ていたらしく、試験官の方から「危ないですよ」と注意されてしまった。

 

 正直その日の事は彼女の事で頭がいっぱいだった。

 その後の面接とかも、なんて答えたか覚えてない。もしかしたら志望動機を聞かれたときに「彼女の走りを見たいからです!」なんて答えてしまったかもしれない。

 

 それからしばらく経って、合格発表の当日。

 私は無事中央のトレセン学園に合格する事が出来た。

 凄い嬉しかったし、ママも私に抱きついて、凄い喜んでくれた。

 

 合格したのが分かると同級生の子に「合格おめでとう!」って凄い祝われた。「G1レース制覇しちゃったりする?」とも聞かれたけど、「私は重賞レース取れたらいいなぁ」って答えた。

 

 でもそれよりも私は、あの時見た彼女の走りを、もう一度見たかったのかもしれない。

 

 そして迎えた入学当日。

 私は大勢のウマ娘に囲まれ、流れのままにその日は寮に案内された。

 トレセン学園は全寮制の学園だから、もしかしたらあの時の彼女に会えるかなぁ、なんて思っていたけどそこでは会えなかった。

 

 私が次に彼女に会ったのは、選抜レースの時だ。

 

 選抜レースは、まだトレーナーがついていないウマ娘が自分をアピールする為のレースみたいなもので、ここがトレーナーにスカウトされる為の最大のチャンスだ。

 私は芝のコースを走ったのだが、運が良かったのか選抜レースは一着でゴールする事が出来た。

 その時、大勢のトレーナーさんに囲まれてびっくりしてしまった。

「俺と一緒に」「私と一緒に」なんて熱烈なアピールを受けたけど、私は勘でその中からトレーナーさんを決めてしまった。中堅で、チームを持ってるトレーナーさんだった。

 まぁ正直なところ、分からなかったって言うのが本音ではある。

 

 トレーナーさんを決めてターフを去る際に、私はまた「風」を見た。

 

 彼女だ。

 

 その日も、入学試験と変わらない綺麗な走りを大勢のトレーナーさんやウマ娘の前で見せていた。

 あぁ、やっぱり綺麗だなって、また見惚れてしまった。

 

 一着でゴールした彼女────「トウカイテイオー」と呼ばれていたウマ娘は、私よりも大勢のトレーナーさんに囲まれていた。

 なんなら歓声まで沸きあがってる。まだ選抜レースなのに。

 こういう子がG1レース制覇したりするのかな、なんて思った。けど不思議と、嫉妬とかの気持ちは湧いてこなかった。

 

 

 選抜レースが終わり、トレーナーさんがついてからの日々は、簡単に言うと地獄だった。

 朝早く起きて朝練、少し眠い目を擦りながら学園の授業を受ける。放課後もとにかく練習、そして寮に帰って疲れでベッドに倒れる。

 とにかく大変で、暇な時間なんて無かった。

 けど不思議と楽しかった。疲れるし、辛かったけど、自分が成長出来てるって実感出来たから。

 トレーナーさんやチームのみんなと練習して、数か月があっという間に過ぎ去っていった。

 

 そんな練習をしていたとある日。

 トレーナーさんが私を呼び出して、デビュー戦の日程を伝えてくれた。

 デビュー戦は中京レース場で芝の1800m、マイル距離のレースだそうだ。

 トレーナーさんは「今までやった事を発揮すれば絶対勝てる!」って言ってくれたけど、私は渡された出走表を見て気が気でなかった。

 

 ────二枠二番「トウカイテイオー」

 

~~~~~~~~

 デビュー戦当日。良く晴れたその日は、気温も丁度良く絶好のレース日和だ。

 私は四枠四番。左回りのレース場なので、どちらかというと内枠になる。

 

 二枠のトウカイテイオーさんは……凄い元気そうだ。

 

 だけど今日は競うべき敵。見惚れている暇なんてない。

 

『中京レース場、芝1800m、デビュー戦……今スタートしました!』

 

 ガコンという、心地よい音ともにゲートが開く。

 その瞬間私はターフを蹴りだして、指示されたポジションにつこうとする。

 

 レースが始まる前、トレーナーさんに「トウカイテイオーが気になります」と伝えたら、「じゃあ、テイオーをマークしよう。君は先行と差しどちらもいけるから、テイオーを見てレース展開を決められるはずだ」と指示された。

 

『おっと、トウカイテイオーが先頭を取ったぞ! このまま逃げるつもりなのか!?』

 

 だがそうはならなかった。トウカイテイオーさんが先頭に立ち、逃げる。

 その時の私はとにかく焦っていた。選抜レースで見せた彼女の走りは先行策。

 今回レースに逃げウマがいなかったとしても、確実に先行のペースじゃない。

 

 今思うと、よく掛からなかったと思う。

 逃げてるトウカイテイオーさんには追い付けないから、せめて二番目を取って視界内には捉えるようにする。

 

 でも……でも、全然

 

『さぁ、第三コーナーも終わり終盤に差し掛かります! トウカイテイオーが逃げ続けている! このまま最後までいってしまうのか!』

 

 追い付け無い……! 

 

 だけど逃げはその脚質の都合上、スパートが出来ない。先行や差し、追い込みと違って足を溜める暇がないからだ。しかもわざとペースを落として息をいれている様子も無かった。

 

 まだ私には足が残っていた。なら仕掛ける事が出来る。

 

『さぁ、最後の直線に入った! トウカイテイオー逃げる逃げる! 後ろの子達は間に合うのか!』

 

 最後の直線に入った。ここからスパートする! 

 そう思い、今まで残していた足を解放し、全力で加速する。

 

 足は痛いし、呼吸をするのは辛い。視界はなんか凄い曇ってるし、頭もうまく回らない。

 

 苦しい。

 

 けど、けれどもと、足を回して、トウカイテイオーさんの隣に一瞬立つことが出来た。

 

 隣を見ると、トウカイテイオーさんの顔が見えた。

 

 笑っていた。楽しそうに。

 

 レースを純粋に楽しんでいる顔。

 

 彼女も必死に走っているんだろう。でも、その中で凄い楽しそうに走っている。

 

 それに比べて私は? 

 苦しくて、辛くて……レースを楽しむ余裕なんか無かった。

 

 心が折れた気がした。

 自分の足が回らなくなっていく。どんどんトウカイテイオーさんと距離が離れていく。

 

 「走れ!」と叫ぶ理性に対して、「走れない」と訴える本能。

 

 ───あ、これもう無理だ。

 

 なんて他人事のように思ってしまった。

 

『トウカイテイオー、今一着でゴールイン! 二着の子と三バ身差の勝利でデビュー戦を勝ち取りました!!』

 

 ここで私の最初で最後のトゥインクルシリーズのレースが終わった。

 

~~~~~~~~

 レースが終わり、地下バ道を歩いて控室に戻る。

 とぼとぼと歩いていると、トレーナーさんが出迎えてくれた。

 

「大丈夫だ! 次の未勝利戦で勝ちに行こう!」

 

 そう優しい声で励ましてくれるトレーナさんの言葉が心にしみる。

 

 だけど、私の心はもうダメだった。

 

 

「トレーナーさん……私、もう、走れないです……」

 

 

 頬に伝う涙のせいでぼやけた視界内のなか、私は精一杯の笑顔で本能を吐き出した。

 

~~~~~~~~

 これで私のトレセン学園での物語はおしまい。

 

 このデビュー戦の後、頑張っていればもしかしたらG2とかG3のレースで勝てたかもしれない。

 

 「もし」の話なんてここでする意味なんか無いけど、私は別に後悔なんかしていなし、トウカイテイオーさんを恨んでるわけでも無い。

 

 私は彼女のファンなのだ。あの走りに一目惚れしたウマ娘の一人なのだ。

 

 だからいつまでも自慢しよう。

 

 「お金では買えない特等席で、彼女の顔を見れたんだぞ」って。




こんにちはちみー(挨拶)


本題に入ります。
なんとこの作品のファンアートを頂きました!(2回目


【挿絵表示】


写真を撮られてちょっと恥ずかしがってるスターちゃん可愛いね……好き……
イラストを描いてくださった「パス公」さんありがとうございます!

ファンアート爆撃は……泣いて作者が喜び、のたうち回るのじゃ……

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