12.「願い」と「誓い」
「じゃあ……ボクの勝利を祝って、かんぱーい!」
トレセン学園の寮の俺の自室に、テイオーの元気な声が響く。
手には彼女の大好きなはちみーが握られており、とてもご機嫌そうだ。
デビュー戦の翌日、俺とテイオーは小さな打ち上げ会みたいな事をやっていた。
まぁ、テイオーが美味しそうにはちみーを啜りながら、お菓子を食べているだけなのだが。
因みに俺もペットボトルの紅茶を飲みながら、お菓子をつまんでいる。はちみーはちょっと甘すぎてな……うん。
昨日のデビュー戦、テイオーが勝てたから良かったものの、多くの反省点があった。
移動の事や、作戦の指示などなど。新人トレーナーだからというのもあるが、圧倒的に経験の足りなさが露呈した気がする。今後は気を付けなければ。
だけど、今は勝利の余韻に浸っても問題は無いだろう。テイオーも凄い嬉しそうな顔しているし。
そんなにっこにこの彼女とお菓子を食べながら、レースの感想を聞いてみると、凄い楽しかったのが伝わって来た。
ウマ娘である以上、ただ走るのとレースとでは差があるのだろうか。俺にはよく分らない感覚だ。
「ウイニングライブも良かったなぁ。みんな、ボクの事見てくれてるって感じがして!」
ライブをセンターで踊っていた彼女は、その日の主役だったのは間違いないだろう。
事実、俺も見惚れてしまっていたしな。
デビュー戦だからそこまで多くの観客がいなかったが、これがG1レースのライブともなると、熱気は今回の比じゃないだろう。そこのセンターでライブする彼女を見るのは、凄い楽しみだ。
そんな彼女の活躍を見るためにも、ここからの出走レースはしっかりと考えないといけない。
今打ち上げをやっているのがミーティングルームなのも、今後の話をしたかったのもある。
「さて……そろそろ今後のレースについて話そうか。デビュー戦も無事勝てた事だし」
「分かった!」
テイオーが元気よく返事をしてくれた。
切り替える時は、しっかり切り替えてくれるのはテイオーの良いところだ。
俺は部屋に置いてあるホワイトボードの前に立ち、ペンの蓋を開けて、テイオーに説明し始めた。
「まず、テイオーの
「うん! 無敗の三冠はカイチョーもなったけど……
そう、俺達の目標はあの皇帝シンボリルドルフを超える事。具体的にどうすれば、ルドルフを越せたのかはまだ分からないが、彼女が通って来た道を目標にしていくのは悪いことでは無いだろう。
だがその為には、まず皐月賞への出走権を得ないといけない。
「皐月賞にはトライアルレースがあってな。そのレースで勝つと優先出走権が得られるんだ」
「えっと……ホープフルステークスとか? G1だし」
「何故かホープフルはトライアルレースでは無いんだよな。G1だけど」
俺は皐月賞のトライアルレースと呼ばれているレースを三つホワイトボードに書き出した。
まず、一つ目にG2の弥生賞。皐月賞と同じレース場、同じ距離で行われるそれは、最も有名なトライアルレースとも言えるだろう。
二つ目に、G2のスプリングステークス。皐月賞と同じレース場で行われるが、距離が1800mと距離200m短い。区分としてはマイルレースに入るだろう。
この二つのレースは上位三着のウマ娘に出走権が与えられる。
そして三つ目、若葉ステークスと呼ばれるOP戦だ。これは阪神競馬場の2000mで行われ、上位二着のウマ娘が出走権を得られる。
また、上記のレースに出なくても、獲得賞金が一定数を超えていると抽選枠で出走出来たりもする。
獲得賞金──この世界のウマ娘のレースには賞金の概念があり、掲示板入りするとそのレースに応じて選手に賞金が渡される。掲示板とは五着までのウマ娘の事で、勿論一着に近いほど、渡される賞金が多い。
賞金の数字は、OP戦ですら割ととんでもないのだが、これがG1になるともっと増える。初めて知った時、軽く「ひっ」と声が漏れたが今回はあまり関係無いので除外しよう。
まぁ、賞金がまるまるウマ娘に渡されるわけではなく、学園や俺らみたいなトレーナーにも配分されるのだが。因みに比率は秘密である。
閑話休題。
俺がざっとトライアルレースを書き出して、テイオーに説明する。
彼女が「ふむふむ」と時々頷きながら話を聞いてくれている。すると、途中で俺に質問してきた。
「あれ? って事はホープフルステークスで勝ったら、賞金的には皐月賞に出れるんじゃないの? G1だし、賞金高いでしょ?」
「まぁ、間違いではないけど…… 二つ問題がある。一つは賞金が高いとはいえ、優先出走権では無いと言う事。そして、もう一つが……」
テイオーの実力ならば、ホープフルステークス以外にもいくつかOP戦に出て、賞金は稼げるだろう。それさえあれば、優先出走権が無かったとしても、皐月賞に出られるとは思う。
だが、それよりも危惧している問題がもう一つ。というか、こちらが本命なのだが……
「ホープフルステークスにメジロマックイーンが出走する」
「マックイーン……!」
そう、マックイーンがホープフルステークスに出走するのだ。
テイオーの同期でライバルである彼女は、天皇賞制覇を目標にして、トゥインクルシリーズに挑んでいるらしい。
彼女の実力は、テイオーが全て解禁して走っても勝率五分五分……くらいだろうか。
テイオーが負けるとは考えたくは無いが、それでも絶対があるとは言い切れない。間違いなく、マックイーンはテイオーと同じくらいの「天才」だ。
前回勝負した時はテイオーが未完成だったとはいえ、三バ身もの差を付けられた。彼女も今、めきめきと実力を伸ばしている最中だろう。
正直な所、ここでテイオーとマックイーンをぶつけたくない。
だが、三冠に挑む以上彼女との対戦は避けては通れないだろう。なら、今ぶつかるのも手だ。
テイオーが望むなら、ホープフルに挑むのも視野に入れるが……
俺が思考を巡らせていると、テイオーが何か思い出したのか、口を開いた。
「あっ、マックイーン、皐月とダービーは出ないらしいよ?」
「え? そうなのか?」
「うん、なんか理由は分かんないけど…… でも菊花賞には出るって言ってたかな」
それは意外だ。彼女の実力ならば三冠を狙えると思っていたから、余計に。
何か彼女には彼女なりの理由があるのだろう。となると、マックイーンとぶつかるのは遅くても菊花賞か…… これは手ごわそうだな。
「ねぇ、トレーナーはどう考えてたの? ボクよりトレーナーの方が詳しいでしょ?」
テイオーが俺の考えを聞いてくれたので、一度咳払いして口を開く。
俺は、ホワイトボードの若葉ステークスと書かれた文字をペンの先端で叩いた。
「俺は、若葉ステークスに挑むのが一番いいと思ってる。シクラメン、若駒、若葉っていう三つのOP戦に挑む形だな」
弥生賞やスプリングステークスでもいいのだが、重賞レースよりも負担の少ないOP戦を多めにする事によって、テイオーに経験を積ませるのが一番いいと考えている。
レースの勘を鈍らせずに、皐月賞に挑む事も出来るので一石二鳥という訳だ。
「うん、いいと思う。レース計画はそれにしようよ」
そう説明したら、彼女があっさり承諾してくれる。
特に批判もされずに、あっさりと受け入れてくれた事に少し驚いた。
「ボクはレースの事はそこまで詳しくないからさ…… トレーナーがボクの為に考えてくれたんだもん。間違いないでしょ」
テイオーが腕を組みながら「うんうん」と頷く。
ここまで、無条件に信頼されていると少し照れくさいな。俺もテイオーの事は信頼しているが、それと同じではあるのか。
とにかく、今後の予定は決まった。皐月賞に向けてOP戦をこなしながら、トレーニングを積んでいく。
「よし……無敗の三冠に向けて、頑張るぞ」
「勿論! ボクたちの無敗伝説、始まっちゃうもんね!」
テイオーが右手を上に掲げて宣言した声が、俺の自室に響き渡った。
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快勝。悪く言えば、蹂躙。
世間一般的に年末と呼ばれる十二月の末頃。京都競馬場で行われた、芝2000m、右回りの「シクラメンステークス」は、テイオーの二バ身差の勝利で終わった。
二バ身差の勝利ですら、かなりの快勝と言えるのに、テイオーは本気を出さずに勝ってしまった。
OP戦はデビュー戦とは違い、一度はレースに勝利したウマ娘しか出れない。
デビュー戦とは状況が違う為、俺はテイオーに「危なくなったら全部使っていい」とまで指示した。
取った作戦はデビュー戦と同じ逃げ。
今回は逃げウマ娘が、テイオーの他に二人いたので少し不安だったが、スタートした瞬間あっという間に先頭に立ち、他のウマ娘に先頭を譲らずゴールしてしまった。
これには間近でレースを見ていた俺もびっくりした。いや、テイオーの事は信じていたが、ここまであっさりと終わってしまうと興醒めな所がある。
他のウマ娘を寄せ付けないほどの圧倒的な才能と力。これでまだ、成長途中なのだからテイオーは恐ろしい。
年内最後のレースを、無事勝利で終えれた事に安堵を覚えつつ、次のOP戦である「若駒ステークス」に向けて、俺達はまた一歩進み始めた。
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とはいえ、休息だって必要だ。
俺は休む時は休むがモットーなので、休日である今日は一日中部屋でゴロゴロしていようと思っていた。
パジャマのままベッドで寝転がりながら、タブレットで過去のレースを見ていると、ピコンと携帯の通知音が鳴る。
確認してみると、テイオーからのメッセージだった。あれ、今日はテイオーも休みにしてたけど……
何だろうと思い、メッセージを開いて確認してみる。
『あけましておめでとう! 今日、一緒に初詣に行かない?』
その内容を見てようやく思い出した。
「……そういえば、今日元日か」
そう、今日は一月一日。新年の始まりの日である。
元々引きこもりだったというのあってか、俺はこういう季節的なイベントに疎い。
昨日、大晦日だったから寮の晩ごはんがそばだったのか……
そういえば理事長から、今日はトレセン学園が全体的に休みだって言われてたな。年末年始しっかり休みをくれるあたり、トレセン学園はしっかりしている。
時計を確認すると時間は午前の十時頃。特に何もする用事も無かったので、テイオーに『いいぞ、三十分後くらいに寮の前に集合な』と返信しておく。すると、直ぐに『りょーかい!』と返事が返って来た。
携帯の電源を一旦落として、ベッドの毛布から脱出する。部屋は暖房を付けていなかったので、少し肌寒かった。
適当に髪を櫛で溶かし、寝癖になった部分を整えておく。パジャマからいつもの服装に着替えて、帽子と防寒具を着こめば準備は終わりだ。あと持っていくのは財布くらいか。
特に時間もかかることなく、部屋から出て集合場所の寮の前に向かう。
玄関で靴を取って外に出ると、寮内との温度差もあってか体が震える。やはり冬は寒い。
寒さのせいで既に少し帰りたくなっていると、テイオーが目の前に立っていた。
タイツにスカート、あったかそうなジャケットの装いで、マフラーも付けており、彼女なりに防寒対策をしてきた事が分かる。
テイオーが俺を見つけたのか、手を振ってこちらに近づいて来た。
「トレーナー! あけましておめでとー! 今年もよろ……相変わらず凄い格好だね」
「いや、普通じゃないか?」
「流石にもこもこすぎるよ!」
俺の服装はスーツの上からコートを羽織り、ネックウォーマーに手袋、帽子。確かに言われてみれば重装備かもしれない。
「俺は寒いの好きじゃないから……」
最近知ったのだが、俺は重度の寒がりで、どっちかというと暑い方に耐性がある。
トレセン学園に来て冬になった時、外でテイオーのトレーニングなどを見てると、寒さで死にそうになるのだ。それが分かった瞬間、直ぐに防寒具一式を購入した。トレセン学園に来てから、一番高い買い物はこれかもしれない。
初めてトレーニング場にこの格好をして行ったら、テイオーに凄い驚かれた。
「走れば暖かくなるよ~」と言われたが、俺はあんまり走るの好きじゃないしな……
俺から見ると、テイオーの私服の方が寒そうで心配になるのだが、別にそんな寒い訳じゃないらしい。確か、ウマ娘って少し体温が高いんだっけな。
「で、どこの神社にいくんだ? 歩いて行ける距離?」
「うん、三十分くらいで行ける距離だよ」
「ん、了解」
テイオーが案内してくれるそうなので、俺もそれに後ろからついて行く。
……てかここら辺に神社なんてあったっけ。
~~~~~~~~
「とうちゃーく! ここが一番ご利益がある神社って、マックイーンが言ってたんだ!」
「ぜぇ……ぜぇ……」
「え、大丈夫?」
ウマ娘の徒歩三十分を舐めてはいけなかった……
トレセン学園を出てすぐに、テイオーが道路のウマ娘専用レーンを駆け足で走り出した瞬間、嫌な予感がした。
現役ウマ娘にとってはほんとに軽いジョギングかもしれないが、俺にとっては辛すぎる……
テイオーに必死で着いて行った結果、ここに来るだけで結構疲れた……
「でも、暖まったでしょ?」
「いやまぁ、それはそうだが……」
テイオーがにししと笑いながら俺に話しかけてくる。
確かに走り込んだ結果、体が暖まって少し熱いくらいだ。ネックウォーマーと手袋は外しておくか。
その二つをコートの中に突っ込んでおいて、息をいれる。
彼女に案内された神社は、それなりに有名な所なのか、それとも元日だからなのか多くの人とウマ娘で賑わっていた。
これは……この時間帯に来るのが間違いだったか?
鳥居に一礼してくぐり抜けると、賽銭箱までの参道がかなり混みあっていた。
人混みのせいで、手水舎も利用できそうに無い。あれ冷たそうだしあんまやりたくないけど。
待つこと自体は割りと嫌いではないので、テイオーと一緒に行列に並び、会話をしながら前に進むのを待つことにした。
「他の友達とか誘わなかったのか? テイオーは友達多いだろ?」
「マックイーンとネイチャとかはトレーナーと行くってさ。みんなもそんな感じみたい」
「なるほどねぇ」
「それに」
そう言って、テイオーが俺の顔を下から覗き込んでくる。
そして、にかっと笑って口を開いた。
「ボクはトレーナーと初詣に行きたかったしね!」
「……そっか」
俺も誘われなかったら、初詣なんて行って無かったしテイオーと一緒に行けて嬉しい。
……なんて口には出せなかった。真っすぐな好意を向けられることに未だに慣れていない。
テイオーと話しているとそのうち列が前に進んで、賽銭箱の前にまで来れた。
上の方に設置されている鈴を鳴らして、財布からあらかじめ取り出しておいた五円玉を放り込む。お賽銭を五円玉にしたのは縁起がいいと聞いた事があったからだ。
お金を入れたら二回お辞儀をして、二回拍手。そして目を瞑ってお願い事をする。
願い事は決まってる。
『テイオーが怪我無く、無事に走れますように……』
そして────
『テイオーと一緒に走っていけますように』
ウマ娘の最大の敵の一つに、怪我がある。時速六十km以上で走るウマ娘は、それに耐えられる頑丈な体をしているかというとそうでも無い。いや、普通の人間と比べたら勿論頑丈なのだが、レース中の事故、足の怪我などでターフを去るウマ娘は少なくない。
レースに絶対が無いように、テイオーがどんな原因で怪我してしまうかも分からない。
こればっかりは神様に祈るしかないのだ。
あともう一つの想いは……語るまでも無いだろう。
────ボクたちはいつか必ず、皇帝を超える帝王になるよ! だから覚悟しててよね! カイチョー!!!
あの時約束して、誓った「夢」を守る為。
願い事と誓いを心の中で思って、俺は一礼をする。
目を開けて、隣のテイオーを見るとほぼ同時にお参りが終ったみたいで、目が合った。
次の人の為に賽銭箱から離れた後、彼女に質問をしてみる。
「テイオーは何をお願いしたんだ?」
「えへへ、内緒!」
そんなに元気な声で内緒にされたら、追求出来ないなぁ……
俺達は神社の本道から外れて、外の方に歩いていく事にした。
こっちの方も本道ほどでは無いが、それなりに多くのヒトで賑わっていた。
少し眺めて見ると、屋台が出店していて、屋台からいい匂いが漂ってくる。
時間を確認すると、大体昼の十二時頃。そういえば朝ごはんとか食べて無かったから、お腹空いたな……
「なんかご飯買っていくか?」
「食べる! ボク焼きそば買ってくるから、トレーナーは唐揚げお願いね!」
テイオーはそう言い残して、焼きそばの屋台に一直線で向かっていってしまった。
テイオーなんかこういう屋台好きだよね…… 俺も結構好きだけど。
彼女に言われた通りに屋台に並んで、二人分の唐揚げを購入。
器を手に持って元居た場所に帰ると、まだテイオーは戻って無かった。
辺りを見渡してみると、横にぴょこぴょこ揺れるポニーテールと、どこかで見た芦毛のウマ娘が目に入った。
確かあれは……
「メジロマックイーンじゃないか。あけましておめでとう」
「あら……スターさんまで。あけましておめでとうございます」
彼女が頭を下げて、新年の挨拶をしてくれる。どこかお嬢様の雰囲気を漂わす、気品のある仕草だった。
「マックイーンも奇遇だねぇ。一人で来たの?」
「いえ、私はトレーナーさんと一緒に……」
「と、呼んだかい?」
テイオーがマックイーンに尋ねると、後ろの方から銀髪の少し身長低めの男性が姿を現した。俺より身長が低いかな? 彼女がトレーナーさんって言ってたし、彼が……
「初めましてだね、スターゲイザーさん。僕はトレーナーの北野だ。話はマックイーンから聞いているよ」
丁寧に自己紹介してきた彼が、やはりマックイーンのトレーナーらしい。
こちらも「スターゲイザーです。マックイーンには、色々とテイオーがお世話になってます」とお辞儀をして返事をした。
にしても、外見が凄い若いなぁ…… もしかして俺と同世代とかあるのか……?
「ははは、僕は既に成人済みだよ。トレーナーになったのも成人後さ」
「え」
「よく見た目が若いって言われるけどね」
俺の思っていたことが顔に出ていたのか、北野さんから訂正を受けてしまった。
その後、トレーナー同士という事で、連絡先を交換してもらった。マックイーンとは今後関わる事が多そうだし、彼女のトレーナーと知り合いになっておいて損は無いだろう。
「ねぇ、トレーナー。そろそろ行かない? 焼きそば冷めちゃうよ」
「……ん? あぁ、ごめんテイオー。そろそろ行くか」
テイオーが俺の裾を引っ張りながら抗議してきたので、一旦話を中断して北野さんに別れを告げる。
別れ際に「スイーツの屋台を制覇しますわ! まずはおしるこ!!」という声が聞こえてきた。体重管理とか大丈夫なのだろうか。
テイオーに買って来た唐揚げを渡して、彼女から焼きそばを貰う。
流石に食べ歩き……とはいかないのでどこか座れるところを探す為に、一度神社の敷地外に出ることにした。
近くの座れる場所を探して、徒歩数分歩いていると、公園によさそうなベンチがあったのでそこに腰をかける。
しばらく二人で焼きそばを啜っていると、どこかで聞いた事がある声が聞こえて来た。
「あれ、スターさんじゃないですか。こんな所で奇遇ですね」
「桐生院さんに蔵内さんまで。あけましておめでとうございます」
「あけましておめでと~ スターちゃん、今年もよろしくね~」
挨拶してきたのは俺と一緒の時期にトレーナーになった、桐生院さんと蔵内さんだった。
二人は同期の為、時々連絡を取り合っていたりしたが、こうして顔を合わせるのは久しぶりかもしれない。
新年の挨拶を交わしていると、桐生院さんの後ろの方で白い髪がぴょこんと揺れた。
気になって、目線をそちらに向けて見ると白毛の大きなウマ耳に、真っ白な尻尾が見える。……確か彼女が桐生院さんの言っていた。
「ハッピーミークです! 私の担当ウマ娘ですよ!」
「どうも……ハッピーミークです」
ぺこりと頭を下げて、俺に自己紹介してくる。
にしても本当に真っ白だな…… 白毛って実はそんなに珍しくないのか……?
「ミークは今年デビューする予定なんです! 彼女は凄いですよ、どんな距離でも走れるんです!」
今年デビューって事はテイオーの一つ下か。当たるとしても大分先だが、気にしておくに越したこと事は無いか……
ハッピーミークを少し観察していたら、背中にぺしっと何かに叩かれた感触がする。
気になって隣に顔を向けると、テイオーが「う~~」と呻きながら、ふくれっ面でこっちを見ていた。
……なんか怒ってらっしゃる? 尻尾でぺしぺしするのやめて、地味に痛いから。
「あらあら~ 葵ちゃん、ミークちゃん私達はそろそろ行きましょうか~」
「そうですね、スターさんまた今度会いましょうね!」
「……ばいばい」
三人を見送って姿が見えなくなった後、テイオーに少し気になったので尋ねてみた。
「……テイオー、なんか機嫌損ねる事したか? ごめん」
「違うけど! 別に違うけど!! うぅ~~」
テイオーがほっぺを膨らませながら、プイっと顔を横に向けて目を合わせてくれない。
よく分らないけど、なんか拗ねちゃったか?
ここは機嫌を取っておいたほうがいいか……
「……この後時間あるし、なんか付き合うよ。どこか行きたい場所あるか?」
「ホント!?」
その言葉を聞いた瞬間、目を輝かせながら凄い勢いで俺の方を向いて来た。
あれ、ホントに拗ねてたのか? 演技だったりした?
「にっししー じゃあ、トレーナーにはこれからボクと一緒に街に行ってもらおうかな~」
「あ、あの。お手柔らかにな?」
「ダメです~ 今日はボクの言う事聞いてもらうからね?」
俺が今日一杯、テイオーに振り回される事が確定した瞬間だった。まぁ、いいけどさ……
テイオーがベンチから立ち上がって、ぴょんと跳ねる。ステップまで踏んで、凄い機嫌が良さそうだ。
彼女はまだ座っている俺の手を掴んで、ぐいっと引っ張る。
「いこっ! トレーナー!」
テイオーが楽しそうならいっか。
そう思いながら、俺はテイオーに引っ張られて立ち上がるのだった。
トレーナーは何をお願いしたのかなぁ。
あの時は、秘密にしちゃったけどもしかしたら、トレーナーにはバレちゃってるかも。
『無敗の三冠ウマ娘になれますように』って事と
『トレーナーと一緒に走っていけますように』って!
ホントに何となくだけど、一緒のお願い事してる気がするな。
二人で願ったら絶対叶うよね。
いや、絶対叶えるよ! 二人で、一緒に!
スターゲイザーのヒミツ②
実はかなり寒がり
みなさんこんにちはちみー(挨拶)
お久しぶりです。少し時間が空きすぎましたがなんとか書き終えました。
さて、本題に入ります。
なんとこの作品の主人公事、「スターゲイザー」に設定画が追加されました!
【挿絵表示】
色や髪飾り、服装まで丁寧に描いてくださったので良かったら参考にしてください!
設定画を纏めて下さった「おーか」さん。本当にありがとうございました!
そして更に、この作品のファンアートを頂きました!(4回目
【挿絵表示】
トレセン学園制服を着たスターちゃんです。あっ、可愛い……(遺言
イラストを描いてくださった「霧風」さん。本当にありがとうございました!
色んな方からFAを貰えて、感謝の気持ちでいっぱいです。