そこは真っ白な場所
こちらの世界に来てから時々見ていた、夢。
だが、今回はいつもと違った。
白色の空間は、透き通るような綺麗な青色に。
全く動きが無く地平線まで広がっていた世界には、雲のような半透明の物体が存在し、漂っている。
青と白のコントラストが映える空の下、俺はそこにぷかぷかと浮かんでいた。
夢の中だから、なのだろうか。
何もしていないのに、どこか心地よく、落ち着く。
前回、この夢の中にいたときは「視覚」「皮膚感覚」以外は無かったが、今回は「聴覚」も「嗅覚」も感じられ、更に喋る事も出来る。
耳や尻尾も揺らす事が出来るため、スターゲイザーの体としてここにいるのだろう。
夢だと分かっているのに、どこか現実じみた世界。
いつもなら謎の少女──栗毛のロング髪のウマ娘が出てくるのだが……
「夢の中だけど、眠いな…… これ、このまま寝たらどうなるんだ?」
心地よさに揺られて、目を閉じてしまってもいいかもしれない。
そう思った次の瞬間────空が割れた。
比喩とかでは無く、目の前に突然ひびが入り、金属がきしむような音が聞こえる。
空いた穴からどろりと、液体とも固体とも言えない、その中間点のような物質が漏れ出す。
空間が捻じれ、「青」と「白」の色に「黒」が混入する。
そして、その謎のモノは先ほどまで鮮やかだった空を黒く、黒く染めあげた。
突然起こった出来事に困惑していると、上のほうからどこかで聞いた事のある声が響く。
「オイテ、イカナイデッ……」
それが聞こえた瞬間────体が落ちた。
突然重力の存在を思い出したかのように、下に引っ張られる。
右手を何か掴むために上に掲げるが、その思いは空を切るのみ。
地面があるかも分からないのに、いつまでも。いつまでも落下していくような感覚に──
「──っつ!!!」
目が覚めた。
慌ててベッドから体を起こして時計を見ると、時間は朝の四時。
まだいつもの起床時間までは時間はあるし、朝練するウマ娘にしても早い時間だ。
「……」
春も近づき、過ごしやすい時期になったにも関わらず、俺の体は冷や汗をかいていた。
汗を含んで肌触りが悪くなった布団を蹴り落とし、ベッドから這い出る。
これはシャワー浴びたほうがいいな…… 二度寝も無理そうだし……
ふらふらと自室に設置しているシャワールームに入って、パジャマを乱雑に脱ぎ捨てる。
いつもより温度を下げた水を浴びると、意識がクリアになっていく感覚がした。
目が覚めて汗が流れると同時に、心に残るどろりとした何とも言えない感情が湧き出る。
「……ごめん」
誰に向けたのか。
自分でも分からない謝罪の言葉は、水の音と共に一人きりの部屋に消えた。
~~~~~~~~
四月。
空気は暖かくなり、桜も見ごろを迎えて、トレセン学園前の景色もピンク一色に染まる。
花びらが漂う陽気な日に、俺はトレセン学園内を散歩していた。
この時期はトレセン学園も、入学式の準備とかで忙しいため、色々な人が慌ただしく動いていた。
俺は特に急ぐ仕事もないので、こうして気分転換に散歩しているわけだが。
寮から出て、敷地内を少し歩いていると、目の前に三女神像と呼ばれている噴水が見えた。
「あれから、一年か……」
そういえばテイオーとここで出会って、もう一年も経過したのか。
思い返せば毎日が濃くて、あっという間に月日が過ぎていった気がする。
ここで初めて会った時、めっちゃ驚かれたな。「ええええ!?!?」なんて叫んでいたっけ。
そこから選抜レースを見て…… テイオーの走りを初めて見た時、魅了されたけど危なさも感じた。
その後、ルドルフと模擬レースして、テイオーに敗北を教えたな。少し大人気無かったかもしれないが、あれがあったから今の俺たちがいると思うと、ルドルフには感謝してもしきれない。
目標を決めて、練習して、レースして、ライバルとも戦った。順調に勝ち進んで、もう次は皐月賞だ。
外に出て、色々な景色を見れた。
トレーナーになって、ようやく俺の世界は色づき始めたのかもしれない。
────そっと、過去に蓋をしたくなるくらい。ここは魅力に満ち溢れていた。
ざぁっと少し強めの風が、俺の頬を撫でる。かなりの強風だったため、俺の頭に被っていた帽子が飛んでいってしまった。
俺の白い髪が露わになってしまう。やばいと思い、直ぐに帽子を拾おうと後ろに振り向く。
「っと。あれ、トレーナーこんなところで奇遇だね」
後ろから、聞きなれたいつもの声がする。
視線を向けると、テイオーが飛んでいった俺の帽子をキャッチして、くるくると指で遊んでいた。
「はい、これ帽子」
「ありがと。……いや、返してくれない?」
何故か、テイオーは素直に帽子を渡そうとしてくれない。
手を出したら、帽子を上にひょいとあげられて持ち上げてしまった。
あの、落ち着かないから返して欲しいんだけど……
「ねぇ、トレーナー。そろそろ帽子取る気ないの? 外に出るときは絶対被ってるけど」
「もうずっと被ってるからな。無いと逆に違和感感じるんだよ」
「えー、綺麗な髪なのに」
「……まぁ、そのうちな」
「! にっししー! しょうがないなぁ、返してしんぜよう!」
テイオーが、持ち上げた帽子をそのまま雑に降ろして、俺の頭に被せてくる。
ぽふんと頭に乗った帽子は、少し横にずれたがいつもの定位置に落ち着いた。
帽子の位置を微調整しながら、テイオーを見ると、何が良かったのか。
軟らかな目色で、どこか慈しむような雰囲気を纏い、静かに笑っていた。
今までに見た事の無い、彼女の表情。俺は……その笑顔に見惚れてしまった。
桜の花びらがひらひらと舞い散る道で、笑うテイオーは、まるで絵画のような美しさだ。
──あぁ、綺麗だな。
ファウストだったか。「時よ止まれ、お前は美しい」という言葉がある。
なんて、そう思ってしまうほど──
その瞬間、携帯の着信音が鳴り響き、驚きのあまり俺の耳がピンと立ってしまう。
おかげで、一気に現実に引き戻されてしまうような感覚に襲われてしまった。
「うわっと……誰だ。たづなさん?」
ポケットから携帯を取り出し、画面を操作して電話に出た。
ウマ娘が通話に出ると、耳に端末を当てられない関係上、スピーカーモードで対応する事になるので、基本声が外に響く事になる。
今は近くにテイオーがいるが……聞いて大丈夫な内容か?
「もしもし、スターゲイザーです。何か急ぎの連絡でしたか?」
「もしもし。あの、今お時間大丈夫ですか?」
「私は大丈夫ですが…… 近くにテイオーがいるので。離れますか?」
「いえいえ、テイオーさんがいるなら丁度良かったです! 一緒にお話聞いてもらえますか?」
たづなさんにそう言われたので、テイオーに近くに来てもらうようにと、右手で手招きをした。
テイオーは少し不思議そうな顔をしながら、ぴょこぴょことポニーテールを揺らして、俺の傍に近寄ってくる。
「もしもし。テイオーを呼びました。お話進めてもらって大丈夫ですよ」
「ありがとうございます! いきなり本題に入るのですが──」
「──皐月賞、クラシックレース最初の記者会見の日程が決まりました」
~~~~~~~~
記者会見は、G1レースの前などに行われるウマ娘へのインタビューみたいなものだ。
ファン投票で選ばれた、一番人気から五番人気までのウマ娘たちが、メディアからの取材を受け答えする、ファンたちにとって待ち望んだ事の一つだろう。
テイオーは今回の皐月賞で一番人気に抜擢され、今世間から大注目のウマ娘になっている。
ジュニア級のレースで無敗の四戦四勝。あまりエゴサしないため、実感が湧かなかったがかなり有名みたいだ。
そんな記者会見をテイオーと一緒に受けるため、都内のホテルにトレセン学園手配の車で移動する。
流石に、電車だと危ないからなのだろうか。
黒色の車の後部座席に座り、テイオーと一緒に揺られていると、彼女がふと思い出したかのように質問してきた。
「そういえばさ。トレーナーはなんか話すの? てか、ボク何話せばいいんだろ」
「いや、今回は俺は話さないな。テイオーも、そんな難しい事考えなくていいぞ。質問に少し答えるくらいだからな」
どちらかというと、今回は勝負服のお披露目会というものが大きい。
しかも、クラシック級最初のG1レースの記者会見だ。
シニア級のレースとは違い、あまり実力差を判断しにくい中での今回の人気投票。
ファンもメディア側も、これからクラシック級に挑むウマ娘を見たいという気持ちが強いだろう。
投票数は明かされていないが、噂によるとテイオーはかなりの票を集めたらしい。トレーナーとしても、担当ウマ娘が人気なのは嬉しい限りである。
メディアも、ウマ娘側に注目してくれているのはありがたい。トレーナーは、付き添いみたいな感じだ。
俺は、あんまり目立ちたくないからな……
──誰かに、見つかるわけでもないのに。ここまで過剰に露出を避けるのは、自分でも分からない。
「到着しましたよ! ここが今回の記者会見の会場です!」
運転席から声が聞こえたので、窓の外を見るとそこには大きなビルが建っていた。
ここのワンフロアを貸し切って、記者会見が行われるようだ。
駐車場に止めてもらった車から降りて、運転手さんに控室まで案内してもらう。
控室のドアをノックして中に入ると、そこそこの広さの間取りに、大きな鏡。そして、ゆったりとした黒いワンピースを着て、柔らかな雰囲気を纏った女性の方が、部屋の中に立っていた。
えーっと…… どちら様だっけ……
「こんにちは。トウカイテイオーさんとそのトレーナーさんよね? 始めまして、今回テイオーさんのメイクを担当する安田って言います。よろしくね」
「こんにちは、今日は宜しくお願いします」
「よろしくー!」
そういえばたづなさんが、メイクアップアーティストを頼んだって言っていたな。それが彼女なのか。
化粧については、俺はあんまり詳しくないので、こうしてプロの方にしてもらえるのはとてもありがたい。
一旦荷物を置いて、テイオーには区切られた場所にある更衣室で着替えてもらう。
この前準備した、白を基調とした勝負服は、何度見ても彼女に似合っていた。
「それでは、お化粧していきますので。こちらに来てもらっていいですか?」
「はーい」
安田さんの指示に従い、テイオーが鏡の前に設置された大きめの椅子に腰をかける。
見たことないようなメイク道具を、黒の小さなカバンから取り出す安田さんを横目に、俺は部屋のソファに座った。
ポケットから携帯を取り出し、アプリを立ち上げ、今回の記者会見の情報を確認する。
この会場にいるのは五番人気のウマ娘までだが、それだけで実力を判断するのは危険だ。
まだデータが少なく、ウマ娘の得意不得意がはっきりとしない中でのG1レース。
どちらかと言うと、一番人気のテイオーがマークされるほうが、可能性としては高い。
今回の皐月賞は、出走回避が無ければ十八人のウマ娘によるフルゲート。
他の十七人のウマ娘から、テイオーが徹底マークを受けると考えると……正直ぞっとする。
まぁ、そのために今まで策を講じてきたのだが……どこまで通用するか。
そんな事を考えていると、テイオーの化粧が終わったのか、安田さんの声が聞こえた。
「はい、完成ですよ。テイオーさんは若いですし、ほんと軽めの化粧ですけどね」
「ねぇ、見て見てトレーナー! どう? 似合ってる?」
「おー…… 似合ってるぞ。流石だな」
「ホント!? もっと褒めてもいいぞよ~」
軽めの化粧と言っていた通り、一見大きく変化してる部分は無いが、いつもと比べるとテイオーの表情がはっきりとしている気がする。
彼女の明るさの中に少し大人っぽさを加えて、全面的にアピールする。そんな印象を与えるメイクだ。
化粧一つでこんなにも違うのか……と感心して頷いていると、安田さんからとんでもない事を告げられた。
「それじゃあ、スターさんの化粧を始めましょうか」
「へ?」
驚きのあまり、自分の口から少し変な声が漏れ出してしまう。
自分の耳を疑ってしまうが、聞き間違いが無ければ今から俺の化粧するって言った?
「はい、そうですよ。見たところ、何も化粧とかしてませんよね? いい機会だし、やってしまいましょう」
「え、いや……あの、えっと」
自分に矛先が向けられるとは思っておらず、答えに詰まってしまった。
というか今回はテイオーが主役だし、別に俺のほうはしなくていいのでは…… それに、俺がしたって意味無いと思うのだが……
助けて欲しいという意味合いも込めて、テイオーのほうをチラ見する。
それに気付いてくれたのか、彼女がにっこりといい笑顔で口を開いた。
「トレーナー、美人なんだしやってもらいなよ」
逃げ場が無くなった。
~~~~~~~~
さっきまでテイオーが座っていた椅子に、帽子を取って腰を降ろす。
観念したとは言え、若干だが化粧に対して抵抗がある。
何をされるんだ……?
「はい、肩の力を抜いてくださいね。そんな怖い事しませんから」
安田さんが、先ほどまでテイオーに使っていたメイク道具をもう一度机に机に広げる。
その中からチューブを手に取って、肌色をした薬品らしきものを片方の手に絞り出した。
「それではまず、下地を塗っていきますね」
安田さんが下地と呼んだそれが、おでこ、鼻、両頬、あごに塗られる。
その後、下地を顔全体に、丁寧に指で広げられた。なんだか顔のマッサージをされているみたいだ。
「次、ファンデーションいきますねー」
こんどはパフに粉らしきものをつけて、ぽんぽんと顔に馴染ませられる。
反射的に目を瞑ってしまい感触だけが伝わるが、嫌な気持ちはしなかった。
「アイブロウとアイシャドウとかは軽くでいいかな…… なんか凄い綺麗ですし」
安田さんが謎の単語を発した後、椅子を回転させられて、向かい合う形を取る。
タッチペンみたいなもので眉の辺りをぐりぐりと弄られ、少しくすぐったい。
目元も筆みたいなもので軽く触られて、何かを描かれる。
「最後にチークして、リップですよ」
やっと大体の化粧の行程が終わったのか、チークと呼ばれたものを顔に塗られる。
何度も顔に色々な物を塗られたが、世の中の女性はこれを毎日やっているのだろうか。お風呂でテイオーに色々と教わった時もそうだったが、やる事が多くて女性は大変だな……
新品のリップをわざわざ開け、唇に塗ってもらって終わりになった。
「はい、お疲れ様です。とても似合ってますよ!」
椅子を前に向けられ、自分の姿を鏡で見てみると、違和感ない程度に仕上がってるとは感じた。
正直自分ではよく分らないが……変にはなってないだろう。プロの方がやってくれたしな。
一息ついて時計を確認すると、記者会見の時間間近だった。そろそろ移動しなくては。
「安田さん、わざわざありがとうございました」
「いえいえー。インタビュー、頑張ってくださいね」
「頑張るのはテイオーのほうですけどね…… ほら、テイオー行くぞ。テイオー?」
テイオーのほうに目を向けると、何故かぽーっと目を見開いて、感動したような表情を浮かべて固まっていた。心なしか、彼女の頬が赤い。
……大丈夫か?
「……はっ! ト、トレーナーすっごい似合ってるじゃん! 毎日やろうよ!」
「いや、流石に毎日やるのは大変だから……」
今回はやってもらったが、自分から化粧する気は今の所無い。もう少し年を重ねれば、俺も化粧をするようになるのか……?
テイオーのお墨付きももらった所で、帽子を被り、控室から会見会場に移動するためにドアを開ける。
さて……行くとしますか。
~~~~~~~~
控室を後にして、ビル内の廊下を歩く。
会場までは、そこまで離れているわけではない。距離的にはとても短いのだが、やたら視線が集まるのを感じる。……なんか落ち着かない。
ドアの前につくと、一旦テイオーと別れて俺は後ろのドアから会場に入る。
ウマ娘側は、司会のアナウンスと共に登壇するらしく、ここで順番待ちというわけだ。
部屋の中に入ると、多くの人でごった返していた。がやがやと声が響いており、なかなかうるさく耳を絞ってしまう。
一番前のほうにURAのロゴが背景にあるステージ、真ん中にメディアの人たち用のパイプ椅子が敷き詰められている。大きなカメラが有るのを見ると、これもテレビで放映されるのだろう。
俺は、こぎれいに装飾された部屋の後ろにある関係者席に腰を降ろした。
待つ事数分。司会らしき人がマイクの傍に近づき、電源のボタンを押したかと思うと、キーンというハウリング音が会場に響いた。
「お待たせしました! 只今より、皐月賞、出走ウマ娘記者会見を始めていきたいと思います!」
司会の女性のはきはきとした声が、部屋全体に反響する。
今まで喋っていた人たちも口を閉じ、一斉にステージのほうに目を向けたのが分かった。
「それでは登壇して頂きましょう! まず五番人気、イイルセブン選手! 四番人気、サクラコンゴオー選手です!」
勝負服に身を包んだウマ娘が二人、入り口のほうから入場してくる。
イイルセブンは、やはりどこか緊張しているのか、びくびくと震えながら登壇した。サクラコンゴオーのほうは……なんかめっちゃ笑ってるな。目も輝かせているし、場慣れしているのだろうか。
ステージに上がったウマ娘たちが、カメラのフラッシュの光で照らされる。シャッター音だけでもかなりの音量だ。
「さて次に参りましょう! 三番人気、逃げが得意のシンクルスルー選手! 二番人気、この中で唯一のG1ウマ娘! ヒノキヤネカグラ選手です!」
次に登場したのは、若駒ステークスで見たウマ娘の一人。テイオーの前で大逃げを披露した、シンクルスルーだった。彼女はテイオーに破れた後、G3とG2のレースで勝利を重ねている。またあの大逃げをされると、テイオーのペースを乱される可能性があるため、かなり怖い。
ヒノキヤネカグラは朝日杯FSを勝利した、この中だと一人だけG1で勝利しているウマ娘だ。自信があるのか、かなり余裕を浮かべた目つきをしている。
ホープフルステークスで勝利したメジロマックイーンが今回皐月賞に出走しないから、敵なしだと思っているのか?
──メジロマックイーン。あのメジロ家の秘蔵っ子とまで言われており、実力も今のクラシック級ではトップクラスのウマ娘。テイオーと仲がいいという事もあり、俺が最も警戒しているウマ娘の一人なのだが……何故か皐月賞には出走しない。
正直、彼女が出ないと聞いて、少しほっとしていた。が、それと同時に疑問も残る。
皐月賞に出ないのはもっと別の所を見ているのか、あるいは──
「そして最後に登場するのはこのウマ娘! 現在四戦四勝! 一番人気、トウカイテイオー選手です!」
司会の人の紹介が終わった瞬間、会場が一気にざわついた。
俺も一旦考え事を中断し、視線を上にあげる。
テイオーが入り口から、マントを翻しながら入場してくると、シャッター音が、先ほどまでのウマ娘の比じゃないくらい鳴り響いた。また、カメラのフラッシュの光が、彼女を白く照らす。
流石に、あの量のフラッシュがたかれると眩しいと思うのだが、テイオーはそれを気にする様子を見せず、堂々とステージに登壇した。
「白を基調とした勝負服が似合っていますね。他のウマ娘の方も、ここで勝負服初披露の方が多くいます!」
勝負服をまとった五人のウマ娘たちが、横一列にステージに並ぶ。その壮観な光景は、レースファンならば生で見たいだろう。かく言う俺も、かなり興奮している。
ステージ上のテイオーは俺を見つけたのか、こちらのほうに向けてピースサインをして来た。全く緊張していないな……いつものテイオーだ。
「さて、これから各ウマ娘の意気込みを聞いていきましょう! G1レースに対する想いなどを、まずイイルセブン選手からお願いします!」
イイルセブンの元に、係の人からマイクが渡される。
大勢の人が見守り注目する中、皐月賞の記者会見が始まった。
~~~~~~~~
「────皐月賞、私が必ず勝利します。誰にも負ける気はありません」
「ヒノキヤネカグラ選手ありがとうございました! 続いては──」
あれからつつがなく、記者会見は進み各ウマ娘が意気込みを語って言った。
緊張の度合いは違ったが、どのウマ娘も共通しているのは「勝ちたい」という執念。
どれだけ彼女たちが、このレースにかける想いが大きいのか分かる。
そして、とうとう彼女の順番が回ってきた。
「──トウカイテイオー選手お願いします!」
テイオーにマイクが手渡される。いつもの笑顔で受け取り、とんとんとマイクを叩いて音声が入っているかどうか確認している。
彼女が目を閉じて「ふぅ……」と呟いた音がマイクにのった。
「皐月賞、日本ダービー、菊花賞。ボクは……いやボクたちは
会場内の時が止まった。
テイオーが目を開いて発した言葉に、会場内がざわつく。「冗談でしょ?」と言いたげな顔を、ステージ上のウマ娘たちもしていた。
それもそうだろう。
無敗の三冠など、かの皇帝「シンボリルドルフ」しか達成出来ていない偉業だ。
しかもそれを「まず」と言った。普通ならば、気でも狂ったのかと疑われてしまうような発言。
だが……彼女は本気だ。
テイオーがちらりとこちらのほうに目線を向けてくる。
──いいよね?
──あぁ、大丈夫だ。
俺は、首を縦に振り彼女に返事をする。
テイオーはそれを確認できたのか、目をキッと細め、微笑んだ。
その笑みは、いつもの彼女の人懐っこいものではない。
誰かを威嚇するような、雷が奔るかのごとく、重厚感のある黒いオーラ。
そのオーラは会場全体を包み込み、やがて音を消し去った。
──さぁ。
「そして……皇帝を超える、最強のウマ娘になる」
テイオーの──いや俺たちの。
「無敵のテイオー伝説、ここからスタートだ!」
────新たな伝説を始めようか。
【皐月賞】トウカイテイオー、堂々の無敗三冠宣言!
4月×日 12:00 配信 134
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記者に向かって勝利宣言をする
トウカイテイオー選手
先日行われた皐月賞の記者会見にて、トウカイテイオー選手がクラシック三冠制覇を宣言した。これで無敗の三冠を達成すると、かの皇帝「シンボリルドルフ」以来の偉業となる。
今年の皐月賞のレース、トウカイテイオー選手に注目が集まる。皐月賞は4月〇日に出走。今年のクラシック級のレースからは目を離せない。
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バ場とは? 初心者向けの用語解説
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本当にお久しぶりの更新になってしまい、申し訳ないです。リアルが少し……
本題に入ります。
なんとこの作品のファンアートを頂きました!(5回目
【挿絵表示】
夜空にスターちゃんがかっこよく映えますね! イケメン……
イラストを描いてくださった「とりていこく」さん。本当にありがとうございました!感謝の五体投地。
さて、この作品もあともうちょっとで総評10000だそうです。
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