そのウマ娘、星を仰ぎ見る   作:フラペチーノ

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【スターの日常】値段が高いスイーツはその分だけ価値がある

 レースのトレーニングの中に「併走」と呼ばれている練習法がある。

 これは一人で走るのでは無く、複数人のウマ娘と一緒に走るトレーニングだ。二人以上で競り合うことによって、タイムの向上や仕掛けるタイミングなどを図れたりする。

 模擬レースとは違い練習の一種なので、併走トレーニングはテイオーと同じ実力のウマ娘──あるいは上位のウマ娘と一緒にやるのが望ましい。

 この条件はかなり難しいところだ。テイオーは皐月賞を取ったウマ娘。同じ実力のウマ娘を探そうとしてもなかなかいるものでもない。

 となると、テイオーよりも先輩のウマ娘に頼むのが一番いいのだが…… あいにく俺はそこまで交流関係が広い訳ではないため、どうしたものかと悩んでいたところ、テイオーがとあるウマ娘を連れて来てくれた。

 

「こんにちは! 今日はよろしくお願いします!」

 

「こちらこそよろしくな。スぺ」

 

「スぺちゃん、よろしくねー!」

 

「はい! テイオーさんのお役に立てるように頑張ります!」

 

 気合の入った声で返事をしたのは、黒鹿毛のセミロングの髪に白い流星。人懐っこそうな笑みを浮かべている彼女だが、これでも日本ダービーを勝利したダービーウマ娘。俺とテイオーの数少ない共通の知り合いでもあるウマ娘、スペシャルウィークが拳をぎゅっと握り、テイオーの顔を見た。

 彼女とはよく一緒に朝ごはんを食べる仲で、テイオーが併走トレーニングをお願いしたところ、快く引き受けてくれたのだ。

 

「テイオーさん、この前の皐月賞凄かったですね! おめでとうございます!」

 

「いやぁ、それほどでもあるかな? トレーナーが色々やってくれたおかげだよ」

 

「スターさん、本当にトレーナーだったんですね」

 

「まだ疑ってたのか……?」

 

「冗談ですよ! スズカさんはなんか信じて無さそうでしたけど……」

 

 他愛も無い会話をしながら、テイオーとスぺに準備体操をしてもらう。

 今回の狙いはダービーウマ娘のスぺにアドバイスを貰いながら、テイオーにG1ウマ娘の走りを経験してもらうことだ。俺の方は、スぺの走りを間近で観察する目的がある。

 この併走トレーニングは、他のウマ娘から見たらとんでもなくレアな光景だろう。お金を払ってでも混ざりたいと思っているウマ娘すらいるかもしれない。

 それほど今回の練習は貴重なのだ。色々と学ばせて貰わなくては。

 

「スぺ、東京レース場を走ってる時に何か気を付けることとかあるか?」

 

「気を付けること、ですか?」

 

「そんな難しく考えなくていいぞ。走ってて、一番辛かった場所とかあれば聞いておきたくてな」

 

 そう質問すると、スぺが顎に手を当てて首を傾け考える仕草を取った。

 東京レース場の構造は俺も色々な資料で把握しているが、それはあくまでデータ上の話だ。

 実際走った経験のあるスぺから意見を貰えたら、また違った視点から話を聞けるかもしれ──

 

「えっと、最後がなんか長いので、そこを気合でびゅんって行くといいと思います!」

 

「……そっか。ありがとうな」

 

 スぺが勢いよく「ふんす」と息を鼻から噴き出して、ドヤ顔で答えてくれた。彼女の自信満々の顔を見て、テイオーも「あはは」と苦笑いしている。

 とても彼女らしい解答で、俺も返答に困ってしまった。スぺはフィーリングで感じている面が大きそうだな…… 彼女のトレーナーはどう指導しているのだろうか。

 

 実際東京レース場は、皐月賞が行われた中山レース場よりも最後の直線が長い。中山レース場を走った経験もあるスペは、それと比べてスパートを掛けるタイミングが重要だと言いたかったのだろう。恐らく。

 まぁ、その曖昧な部分は併走トレーニング中に掴んでいくとしようか。

 

「じゃあ、ダービーと同じ2400mのコースで───っ」

 

「トレーナー? 大丈夫?」

 

「あぁ、うん。大丈夫……」

 

 俺が指示を出そうとした瞬間、視界が若干白くなり立ち眩みがしてしまった。

 ふらりと体が倒れそうになるのをなんとか立て直しつつ、今回の練習内容を二人に伝える。

 

「スぺが先行でテイオーは後ろから着いて行ってくれ。俺が手を上げて指示したら、テイオーがスぺを抜かす形だ。その時、スぺはテイオーに抜かされないようにしてくれ」

 

「りょーかい!」

 

「分かりました!」

 

 準備体操を終えた彼女達が、スタートラインに向かう。

 今回はゲートが無いため、片足だけを前に出してスタートの準備をしてもらった。いわゆるスタンディングスタートの体勢を取ったことを確認し、俺は声をあげた。

 

「……よーい、スタート!」

 

 ガッと蹄鉄で地面を蹴る音が聞こえ、その勢いのままスぺが前に出てテイオーがその後ろに入った。

 

「やっぱり速いな……」

 

 ぽつりと俺が呟く間に、あっという間に加速した二人が遠くに行ってしまう。

 上から見れるレース場とは違い、今回は俺もターフに立っている状況だ。自分も動かないと、テイオー達が視界から消えてしまうから気をつけなければ。

 ……本当は自分がウマ娘であることを活かして、一緒に走りながら指示とか出来たら良かったんだけどな。だが俺はそこまで速く走れないし、体力も無い。ウマ娘のトレーナーでありながらそれを活かせないのは、勿体無いと感じているのは内緒だ。

 ストップウオッチ片手に持ちながらスぺの走りを観察してみると、体幹がしっかりとした力強い走法なのが分かる。それでいながら「足を溜める」走りが出来ているため、最終直線の末脚が強いのも納得がいく。

 そうしていると、テイオーとスぺがぐるりとコースを一周し、最後の直線に差し掛かろうとしていた。

 俺はテイオーに指示を出すため、2400mのラスト3ハロンに差し掛かるタイミングで手をあげようと───

 

「っ!? トレーナー!?」

 

「スターさん!?」

 

 瞬間、目の前が真っ白になった。頭がガツンと殴られたような衝撃を受けたかのようにふらつき、首に力が入らなくなる。足から気が抜けるような感覚と同時に膝が折れ、地面についてしまった。

 帽子越しに聞こえるのは、二人のウマ娘の声。そして滲んだように目の中に映る、全力疾走してきたテイオーの姿だった。

 

「トレーナーしっかりして! ねぇ、トレーナー!」

 

「あっ…… ごめん、テイオーか…… ちょっと意識が飛んでた」

 

「ちょっと意識が飛ぶ勢いじゃなかったよ! 倒れそうになってたんだよ!」

 

「スターさん、大丈夫ですか!? 何か悪いもの食べたとか……」

 

 スぺじゃないんだから……と返事をする気力は今の俺には無かった。

 少し回復してなんとか立ち上がったが、それでもまだ足元がふらふらする。

 これは……ちょっと、マズいかも……

 

「ごめんね、スぺちゃん! ちょっと今日の併走終わりで!」

 

「了解です! スターさんを宜しくお願いします!」

 

「また今度ね! トレーナー、失礼するよ───っと!」

 

「へ? うわっ!?」

 

 テイオーが崩れそうになっていた膝の方に手を回し、腰に手を当ててひょいと俺を担ぐ。

 ぽふんと柔らかい感触が頭に伝わり、疑問に思って上を見上げると真剣な表情をしたテイオーの顔が見えた。

 そしてそこに追い討ちをかけるかのように、ふわりと彼女の香りが鼻腔をくすぐる。

 ん……? あれこれ、俺お姫様だっこされてる……? 

 

「舌噛まないでねっ!」

 

「うひゃぁ!」

 

 テイオーがその状態のまま地面を蹴り、走り出した。ゴォと空気を切り裂く音が聞こえ、風圧が自分の体を押し込んできて、俺と彼女の密着度があがる。

 俺を持っているはずなのによくここまで速さで走れるなぁ、とかこれがテイオーが見てる景色かぁなど。どこか他人事のように感じながら、俺はテイオーになされるがままに運ばれてしまった。

 

~~~~~~~~

「知らない天井だ……」

 

「あ! トレーナー起きた? 大丈夫?」

 

「大分回復したかな…… 悪いな」

 

 あのあとお姫様抱っこのまま保健室に運ばれた俺は、その勢いのままベッドに投げ込まれた。

 運ばれている間はあまり意識が無かったが、他の人にじろじろと見られていた気がする。変な噂になってないといいが……

 で、結局俺が倒れた原因はただの疲労らしい。保健室の先生が言うには、仕事のし過ぎだそうだ。そういえば最近ちょっと忙しくて、睡眠時間が短かったかもしれない。

 

 ベッドから体を起こし、ちらりと窓の外を見ると既に日が落ちて真っ暗になってしまっている。

 慌てて時計を確認すると、時刻は午後七時。放課後の四時くらいに練習を始めたのを考えると、約三時間も保健室で寝ていた計算になる。テイオーはその間ずっと見ていてくれたっぽいし、悪いことしたな……

 

「併走トレーニングはまた俺からスぺに頼むよ。今日はありがとうな、テイオー」

 

「もう! 無理しないでよね!」

 

「今日は早めに寝るよ。仕事は明日だな……」

 

 別にトレセン学園はブラック企業という訳ではない。休みだってしっかりあるし、基本定時退社も出来る。ただ、自分が担当しているウマ娘が活躍すると、その分仕事が増えるのが難点だ。テイオーが活躍して仕事が増えるのなら、俺としても嬉しい悲鳴ではあるが。

 働いた分だけ給料は出るので、大分お金は貰っていると思う。あんまりお金も使わないし、貯まる一方だ。

 ベッドから這い出て、靴を履いて背伸びをしてみると背筋がほぐれる感覚がした。

 

「トレーナー、部屋まで運んであげようか?」

 

「……いや、大丈夫。歩けるから」

 

 テイオーがそう提案してくれたが、そう何度も世話になるわけにはいかない。

 というか「ついてく」じゃなくて「運ぶ」と言うあたりウマ娘の力を感じてしまう。

 この歳で200kgのバーベルを持てるウマ娘からしたら、俺を運ぶなんて本当に造作も無いのだろう。

 彼女がそわそわと自分の服を弄りながら、心配そうな目で俺の方を見てくる。

 これ以上の心配をテイオーにかける訳にはいかないため、今日は部屋に戻ったらすぐに寝ようと決めたのであった。

 

~~~~~~~~

 俺が倒れてしまった次の日の朝。

 寝る前に部屋でシャワーだけを軽く浴びて自室のベッドで素直に寝た俺は、朝六時の目覚ましと共に目を覚ました。

 普段より長く寝れたおかげで、大分疲労が取れているのを感じながらパジャマからジャージに着替える。

 その後、朝ご飯を食べに行こうと自室から出て寮の一階へ。

 今日は土曜日だということもあり、いつもの平日の朝よりかは食堂のウマ娘の数が少ない気がする。

 もうちょっと惰眠を貪って、いつもより遅い時間に朝食を食べようと考える子が多いのかもしれない。

 俺も本当は今日休みだしな。けど昨日やってない仕事が残っているから、早めに終わらせなくては。

 そんなことを考えながら、一人で朝食を済ませて部屋に戻るために階段を登る。

 さて、テイオーのためにお仕事頑張りますか──

 

「あ、お帰りトレーナー。じゃなかった、お嬢様かな?」

 

 自室のドアを開けて目の前に立っていたのは俺の担当ウマ娘のトウカイテイオーだった。そこまでならまだ普通なのだが、どう見ても服装がおかしい。

 黒色の高級そうな生地を使用した、腰から足まで全て隠れる程のロングスカート。白いエプロンを纏い、邪魔にならない程度にフリフリのレースが着いており可愛らしい。ふわりとスカートが舞うそれは、一般的に「クラシカルメイド服」と呼ばれていたはずだ。

 急な情報量の多さに、頭が混乱してしまう。

 

「……部屋間違えたかな」

 

「間違えてないって! ちょっと待ってトレーナー!」

 

 まだ寝ぼけてるのかもしれないと思い、一度外に出て部屋の番号を確認するが何度見ても自分の部屋だ。

 どうやら、目の前にいるテイオーは本物らしい。いや……何故メイド服を着ているんだ……? 

 

「んーこれ? マックイーンに借りたんだ」

 

「……メジロ家のメイド服? 見るからに高級そうだもんな…… よく借りれたな」

 

「最初は少し渋ってたけど、パフェ奢る約束したら貸してくれたよ」

 

「それでいいのか」

 

 あのメジロのお嬢様。スイーツとか甘いものをぶら下げれば、何でもやってくれるんじゃないだろうか。皐月賞の時もりんご飴を食べてたし、大分庶民感のあるお嬢様だな。

 

「いや、それよりもなんでメイド服着てるんだ。コスプレ?」

 

「違うやい! 今日はトレーナーのメイドをやろうと思ってさ」

 

「ごめん……どういう?」

 

「もー、仕方ないなぁ」

 

 テイオーが肘をきゅっと曲げ腰に当てて手首を外側にし、やれやれといったポーズを取って俺に説明し始めた。

 

「最近、トレーナー仕事し過ぎ! 今日はボクがメイドになって癒してあげるからね!」

 

「いやでも、昨日の分の仕事が…… あと別にもう体調は良くなったし……」

 

 これに関しては嘘は言っていない。俺は昔から回復するスピードが早いのだ。

 一回しっかり寝れば、疲れが次の日まで残ることが無いのがほとんどで、疲れが残る時は大体睡眠時間が短い日である。

 あと何故か分からないが、風邪とかの病気にかかったことが無いので多分この体頑丈なんだと思う。

 

「ダメ。絶対ダメ」

 

「なんでそこまで……」

 

「ボクが頑張るにはトレーナーも元気じゃなきゃ。 だから今日はおやすみ!」

 

「テイオー……」

 

 彼女が訴えかけるかのように、俺の目を真っすぐ見つめてくる。その口調は俺の事を心配してゆっくり話しかけてくると共に、若干の怒りを感じ取れてしまう。

 ここまで言われてしまっては、休まないわけにはいかない。俺はふぅと息を吐いて、テイオーに返事をした。

 

「分かった、休むよ。で、メイドのテイオーは俺に何してくれるんだ?」

 

「え? えっと…… あ! 肩! 肩揉んであげるよ!」

 

「何も考えて無かったのね」

 

 取り合えず恰好から入ったのか。テイオーらしいと言えばテイオーらしいが……

 俺はとりあえずベッドに座り込み、肩をすくめる。すると、テイオーがするりと後ろに回り込み、膝立ちになって俺の肩に手をかけた。

 

「おきゃくさま~ 痛いところはありませんか~?」

 

「お嬢様なのか、お客様なのかどっちだよ」

 

「もう! 細かいよ! ……てか全然肩凝って無いね」

 

 テイオーが「座り仕事だから凝りそうだと思ったんだけどなぁ……」としょんぼり呟いた。

 言われてみれば確かに、肩を凝った記憶が無い。テイオーの反応を見るに、ウマ娘だから疲れにくいという訳では無さそうだ。やはり俺の体質なのだろうか。

 凝りが無いのを確認して、何もやることが無くなったのか。テイオーが、俺の頭に顎を乗っけて唸り始めた。「う゛~」と言いながらマッサージ器具みたいにバイブレーションし、俺の脳が揺れる。あ、ちょっとこれ気持ちいいかもしれない。

 

「……どうしよ。何かして欲しいことある?」

 

「特には思いつかないなぁ……」

 

「そっかぁ…… どうしよ」

 

 トレーニングは……今日は休筋日だからダメだな。休日は休んで欲しいし。メリハリは大事だ。

 どうしたものかと頭を物理的に揺さぶられながら考えていると、とある疑問が浮かんでくる。

 

「そういえば、テイオーは誰かと遊ばないのか? 今日は休みだろ?」

 

「今日はみんな予定があってさ。……てかトレーナー一人にすると仕事始めちゃいそうだし」

 

 これもうメイドの奉仕じゃなくて監視だろ、と言いたくなってしまったがぐっと堪える。

 見られている以上仕事するわけにもいかないし、何か趣味でもした方がいいのかもしれない。

 最近見れてなかった歴代のレースをテイオーと一緒に見るか。……あれこれレースの勉強か? いやでも俺はレース見るの好きだし、セーフな気もするけどどうだ。

 趣味が思った以上に仕事方面に偏っていたことに自分で驚いていると、頭の上から「あっ」という声が聞こえてきた。

 その声と同時に俺の耳にテイオーの息が入ってきてしまい、反射で耳がピンと立ってしまう。

 頭に乗っけるのおしまいと伝えるために、テイオーの頬を耳でペチペチ叩くと、彼女が顎をどけてベッドの上で立ち上がった。

 

「トレーナー! お出かけしよ! 最近美味しいパフェ見つけたんだ!」

 

「パフェ…… 」

 

「あれ、甘いもの苦手だっけ?」

 

「いや甘いものは好きだぞ」

 

 俺がトレーナーに……もしかしたらウマ娘になってからかもしれないが、だいぶ甘味好きになっている。頭使うからかもしれないが、糖分を体が欲してるんだよな。仕事で疲れると、ついコンビニでお菓子を買ってしまうのがあるあるになってしまった。

 何故かウマ娘には甘い物好きが多いらしい。テイオーもはちみーとかいう糖分の塊を飲んでいるし、どこぞのお嬢様もスイーツをパクパクしている。

 

「良かったぁ。 じゃあ、午後に行こ! 一時に寮の入り口に集合ね!」

 

 そう言い残して、テイオーがドタバタとメイド服のまま俺の部屋から出て行ってしまった。

 随分と慌ただしいメイドさんだったな。と、いうか──

 

「メイド服着る意味あった……?」

 

 もしかしたらメイド服を貸したマックイーンが泣き崩れているかもしれない。そんな想像をしてしまうほど。

 結果としてメイド服はテイオーがコスプレをするための衣装になってしまった。

 

 いや、可愛かったけどさ。

 

~~~~~~~~

 午後一時。

 パフェを食べるということで念のためお昼ご飯を抜いた俺は、寮の前でいつものスーツ姿でテイオーを待っていた。

 ウマ娘が食べるパフェとなると、やはり量が多いのだろうか。どう考えても一人前ではない料理を、ウマ娘はペロリと平らげてしまう。

 俺はそこまで食べれないが、もし量が多かったらテイオーのをちょっと分けてもらうだけにしようと思っていると聞きなれた声が聞こえてきた。

 

「トレーナー! お待たせー!」

 

「時間丁度だから大丈夫だぞ」

 

 手をぶんぶんと振りながら近づいて来た彼女は、先ほどのメイド服では無く私服だった。

 白いレースの入ったワンピースに薄い青色のカーディガンを纏った彼女は、いつも見る制服姿とは違い大人っぽい印象を与えてきた。青と白の対比は、テイオーにピッタリと合いとても似合っていた。

 

「さぁ、行こうか!」

 

「いちおう聞いとくんだけど、どうやって行くんだ……?」

 

 これを聞いておかないと、ウマ娘は平気で十㎞をジョギングで、とか言い出すからたまらない。

 さすがに俺がそこまで走るとなると覚悟がいるため、テイオーに恐る恐る聞いてみるとテイオーがぽかんと口を開けていた。

 

「ボクもこの服じゃ走らないよ~ 電車だよ、電車」

 

「良かった……」

 

 走らない事実にほっとしつつ、テイオーが駅に向かって歩き始めたので後ろから着いて行く。

 そのまま電車に乗って、揺られること十分程度。

 トレセンの最寄駅から六駅程度離れた場所で電車から降りて、徒歩数分。

 目的地に到着したのか、テイオーがビルの前で止まった。

 

「ここの二階だよ! パフェの専門店なんだ」

 

「専門店とかあるのか……」

 

 ビルの入り口を眺めて見ると休日だからだろうか、案内されたお店がある二階までの階段に多くの人が並んでいる。

 やはり女性の若い人が多く、きゃっきゃという話し声が聞こえてきた。

 

「ちょっと混んでるね」

 

「まぁ、一時間も待たないだろ。パフェだし」

 

「女の子はパフェでも時間かかる時はかかるよ。写真撮ったりとか」

 

「あー…… 今どきの子はそっか」

 

「トレーナー、時々アラサーみたいな発言してない?」

 

「うっ」

 

 アラサーと言われてしまい軽くショックを受けていると、彼女が列に並び始めたので俺もそれにならう。

 テイオーと話ながら待っていると、列自体は割とすぐ進み三十分程度待つだけで店内に入ることが出来た。

 店内はそこまで広くないが、おしゃれな装飾品や綺麗な壁紙が貼られている所に多くの女性客が座っている状態だった。

 俺達は従業員に案内され、テーブル席に向かい合わせで座る。正面からよく見たテイオーは少し化粧をしていたのか、いつもとは違った印象を俺に与えた。目がぱっちりと開き、口元が自然で綺麗なピンク色をしていて、とても可愛らしいと思ってしまった。

 そんな可愛らしいテイオーに若干見蕩れつつも、近くのメニュー票を開く。

 さて……どんなパフェがあるのかな──

 

「さんぜんえんっ!? たっか!?」

 

「あーうん、ここのは高いよ。その分美味しいから!」

 

 美味しそうに撮られたパフェがメニュー票で目立つ中、それに負けず劣らずの値段設定に驚きの声をあげてしまう。

 ファミレスとかのパフェでも千円程度なので、専門店とはいっても……と思っていたが、考えが甘かったようだ。

 が、その分と言っては何だがどのパフェも美味しそうに見える。

 悩んでしまって決められなさそうだったので、一ページ目にあったこの店おススメのパフェにするか。

 

「すみません、このイチゴのパフェでお願いします」

 

「じゃあ、ボクこのメロンパフェで!」

 

 注文をし終えて待つこと数十分。店員さんがパフェをテーブルに運んできてくれた。

 

「お待たせしました。こちらイチゴパフェとメロンパフェでございます」

 

「おぉ……」

 

 真っ先に目に入ったのは、パフェグラスに綺麗に盛り付けられたいっぱいのイチゴ。恐らく違う品種が使われているのか、一番上とその下に置いてあるイチゴで色合いが違っており、生クリームの白さと対比して美味しそうに見える。

 イチゴの下には赤、白、赤とソースの層が連なっており、視覚的にも食欲を駆り立てられるものになっていた。

 量はウマ娘専用とかではなく、常識的な範囲内に納められていた。逆に言えば、値段が高い理由は量では無いということが分かる。

 テイオーが注文したパフェはメロンが色々な形に切られて盛り付けられており──こういうのを「映える」というのだろうか、これも美味しそうに見えた。

 

「いただきます」

 

「いただきまーす!」

 

 一番上のイチゴをクリームと一緒に食べてみると、イチゴの酸味と一緒に甘さ控えめのクリームが溶けあって舌を刺激する。

 二口目に下のイチゴを食べてみると、先ほど食べた物より甘みが強く、別の品種を使っているということがすぐに理解出来た。

 なにこれ美味しい…… 三千円の価値はしっかりあるぞ。

 

「やっぱりここのパフェ美味しい!」

 

 目の前にいるテイオーもその美味しさにやられたのか、にこにこした笑顔でパフェを食べている。耳はぴこぴこと揺れて、とてもご機嫌そうだ。

 かく言う俺も、かなりこのパフェの魔力に夢中になっている。今まで食べていた「パフェ」の根底が覆りそう。

 二人して「美味しい」と言いながらパフェを食べすすめていると、テイオーが俺の方をじっと見てきた。

 何か思っていると、メロンとアイスがのっかったスプーンを俺の前に突き出してきた。

 

「はい、あーん」

 

「いや……自分で取れるぞ……?」

 

「あーん!」

 

 テイオーがぐいっとスプーンを俺の口元にまで当ててきて、全く譲りそうにない。

 恋人達がよくやってそうな「食べさせあいっこ」だが女の子同士、この年齢くらいの子たちだと普通なのか……? 

 かなり恥ずかしいのだが、目を輝かせながら俺を見つめてくるのでとても断りにくい。

 仕方ない、覚悟を決めるか……

 

「はむっ…… うん、こっちも美味しいぞ」

 

「でしょ~! あ、トレーナーのも頂戴!」

 

 欲しいと言われてたので、パフェを少し押してテイオーの前に置いてあげたのだが、また彼女の動きが止まった。

 あれ……もしかして俺も「あーん」しなきゃいけない流れ……? 

 テイオーの期待に満ち溢れた視線を感じてしまい、逃げ道が無くなってしまう。

 スプーンでイチゴとアイスの部分を掬い取り、彼女の口元に差し出す。

 

「はい。あ、あーん」

 

「んっ! うん、()()()()イチゴも美味しいね!」

 

 その結果、どうやら満足していただけたようでテイオーの耳と尻尾が激しく揺れている。

 恥ずかしかったが、テイオーが嬉しそうでなによりだ。

 

~~~~~~~~

 ちょっとお高めのパフェを堪能した俺達は、そのままトレセン学園に帰ることにした。

 テイオーのおかげで大分リフレッシュ出来た気がする。スイーツって凄いな。

 寮についた俺達は自分の部屋に戻り、お風呂に入る。やはりここのお風呂はデカくて足が伸ばしやすい。

 お風呂で思う存分温まって癒された俺は自室に戻り、髪や尻尾を丁寧に乾かす。

 最近は身だしなみにも最低限気を遣うようになり、ウマ娘としてみんなやってることはやっている。俺も禿げるのは嫌だ。

 パジャマも最近テイオーと一緒に選んで買い、男物に尻尾穴開けた服装からは卒業した。なるべく青っぽい地味目の物を購入したら「もっと可愛いの買えばいいのにー」と言われてしまったが、可愛い服装には慣れていないのでこれでいいとは思う。

 ベッドに座りながらドライヤーを使って頭を乾かしていると、こんな時間にも関わらず唐突に部屋のドアが開いた。

 

「トレーナー! 一緒に寝よ!」

 

「……いや何言ってるんだ」

 

「ボクが見てないところで仕事するかもしれないでしょ! 今日は一緒に寝て見張り!」

 

 さすがにもう仕事する気は全く無かったのだが…… 

 そもそも、寮内で部屋の出入りって門限過ぎても自由なんだっけ……? 

 

「もー! 細かいことはいいの! マヤノにも言ってきたし、大丈夫だって」

 

 マヤノ──マヤノトップガンか。テイオーの同室の子で、同じ時期にデビューしたと聞いている。三冠路線には全く出てこないから警戒してなかったけど、いちおうレース映像見ておくくらいは……

 

「またトレーナーがお仕事の目してる…… ほら、もう寝るよ」

 

「あ、ちょっと、テイオー」

 

 普段からトレーニングしているウマ娘に適うはずもなく、パジャマの裾を掴まれてベッドに押し倒される。

 隣にテイオーが横になり、川の字になって寝ている状況だ。というか、地味に一人用のベッドに二人寝ている状況だから狭い……

 

「はぁ…… 分かったから寝るぞ。大人しくしてろよ」

 

「分かってるって。トレーナーと一緒のベッド♪」

 

 この状態のまま向かい合う勇気はなく、テイオーから顔を背けて横になる。今テイオーには、俺の背中しか見えていないはずだ。

 今は四月の後半。日中はだんだんと暖かくなってはいるが、夜はまだ寒かったりする状況だ。

 俺とテイオーと体温が混ざり合い、すぐに布団の中が温まる。時期的にも丁度いい暖かさが体全体を包み込む。

 いつもよりふわふわする感覚と安心感を得ながら、俺はいつもより寝つきがよくすんなりと寝れたのであった。

 

「おやすみ、トレーナー」

 


 スターゲイザーがすんなりと眠りにつき、すぅすぅと規則的な寝息を立て始めてから数十分が経過したころ。

 隣で横になっていたトウカイテイオーは、今日あったことを振り返っていた。

 

 ──あれボク、何してたの? 

 

 彼女がメイド服をマックイーンから借りたのはトレーナーを心配してこそだ。

 いや、トウカイテイオーの発想が変な方向に飛躍したのは間違いないが。

 メイド服を着てトレーナーと遊べたらいいなぁくらいにしか考えて無かったが、話の流れでパフェを食べに行くことになってしまった時、彼女は真っ先にこう思った。

 

 ──あれこれデート? 

 

 トレーナーとウマ娘。なんなら同性でもあるトウカイテイオーとスターゲイザーの関係性だが、若干かかり気味であった彼女はそこまで考えが至らなかった。

 自室に帰るなり、メイド服を乱雑に脱ぎ捨て同室のマヤノトップガンに化粧を貸してもらうまで頼み込んだのだ。

 その焦りようと言ったら、メイド服を貸したメジロマックイーンがその雑な脱ぎ捨て具合に悲鳴をあげるくらい、と言ったら分かるだろうか。

 それを見たマヤノトップガンが何となく状況を察し(分かっちゃった)、器用な手先でただお出かけにいくなら絶対しないであろう化粧をトウカイテイオーに施した。

 更に、トレーナーとただパフェを食べにいくだけなら着ないであろう可愛らしいワンピースを取り出して、ウキウキで出ていったのだ。

 この時点で大分掛かり気味ではあったが、彼女はまだ止まらなかった。ノンストップガールである。

 

 ──なんで、ボク食べさせあいっこなんかしたのさ……! 

 

 スターゲイザーは、今どきの女の子同士なら普通なのか……? と勘違いしていたがその疑いは正しい。

 トウカイテイオーもここまでやる気は無かった。トレーナーに対して自分のパフェを食べさせてあげるまでは良かったのだが、それ以降は完全にテンションがおかしくなっていた。

 実はトウカイテイオーが、ここのパフェを食べにくるのは初めてではない。前回、メジロマックイーンと一緒に来た時に、スターゲイザーが頼んでいたイチゴパフェを食べていたのだ。

 なので、味は知っていたし食べる意味も薄かったのだが「トレーナーにあーんしてもらいたい」という彼女の中の悪魔のささやきにより、無言でトレーナーに「あーん」をねだってしまった。

 

 ──でも、前食べたときより美味しかった気がする……

 

 やりすぎたかもしれない。あの時のボクは何していたんだと。トウカイテイオーの気持ちはぐちゃぐちゃであった。

 今何故かトレーナーと一緒に寝ている状況に、彼女の頭が逆に冷静さを取り戻し思考を加速させる。

 トウカイテイオーが寝れずにうんうんと小さく唸っていると、スターゲイザーが「んっ」と言う声と共に寝返りをうった。

 

「ピェ……」

 

 普段は絶対に見ることの出来ない、大好きなトレーナーのあどけなく、無防備な寝顔が自分の目の前にある状況に。

 トウカイテイオーはスターゲイザーを起こさないように、そっとベッドから抜け出して自室に戻るのであった。

 その後、マヤノトップガンにからかわれたのは言うまでもない。





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