そのウマ娘、星を仰ぎ見る   作:フラペチーノ

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22.蒼の章─菊花賞

 カツ、カツ、カツ、と蹄鉄で地を叩く音が地下バ道に響く。

 さっきまでトレーナーといたときはそうでも無かったのに、離れると音が響くのが耳に入るのだから不思議だ。

 ボク──トウカイテイオーは今から無敗の三冠をかけて菊花賞を走る。

 トレーナーといってらっしゃいのルーティンをし、地下バ道を歩いてパドックに向かっているところだ。

 ボクの目の前には今から菊花賞を一緒に走るライバル達がいて、みんなぴりぴりとしている。

 その中にボクの知り合いで、最大のライバルが一人。

 

「あら、テイオー。今日は宜しくお願い致します」

 

 優雅に礼をしてきたのは、普段の言動からは想像出来ないような葦毛のお嬢様。

 そしてこの菊花賞でボクもトレーナーも一番警戒しているメジロマックイーンがボクに話しかけてきた。

 その姿は初めて間近で見る勝負服の恰好で、黒を基調とした色にメジロ家のカラーリングが入っており、マックイーンによく似合っていた。

 

「どうしたのさ。急に改まって。もしかして緊張してるの~?」

 

 ボクが少し茶化すようににやにやと笑いながらマックイーンに話しかけると、彼女がくすりと微笑んで口を開いた。

 

「まさか……と言いたいところですが、少し緊張してますわね。ですが、心地よい緊張ですわ。それは貴方も同じでしょう?」

 

「まぁね」

 

 ボクも緊張していないと言えば嘘になる。

 無敗の三冠ウマ娘。ボクの夢の一つがもう少しで叶うという直前にいるんだ。緊張していないわけがない。

 しかも、ボクのファンからの期待も大きく背負っている。

 けど……ボクが一番気にしているのはきっと。

 

「トレーナーのせいだよ」

 

「ふふ…… 私もそうですわ。トレーナーさんに菊花賞の冠を取らせてあげたい。それも大きな理由ですわね」

 

 マックイーンもそうなんだ。

 ボクも今まで支えてくれたトレーナーに無敗の三冠ウマ娘の称号をあげたい。

 何より一緒に喜びを分かち合いたい。

 ボクの緊張はそこから来てるけど、マックイーンの言う通り心地良い緊張だ。

 何より、レースが楽しみでボクはドキドキしている。きっとみんなびっくりしてくれるよ。

 にししとボクが笑っていると、マックイーンがボクの正面に立って目を見つめてきた。

 

「いいレースにしましょう。テイオー」

 

「勿論。ボクが勝つけどね!」

 

「それは私のセリフですわ」

 

 ふふと一緒に笑ってマックイーンと見つめ合っていると、地下バ道に女の人の声が響いた。

 

『さぁ、お待たせいたしました! 京都レース場、第10R、菊花賞に出走するウマ娘のパドック入場が開始されます!』

 

 実況の人の声だ。今回は人気順による入場だったから、ボクが一番最初か。

 その言葉が聞こえた瞬間、ボクたちがいる場所にまでわっと湧き上がった観客の声が聞こえる。

 皐月賞も日本ダービーもこの声援を浴びたけど、いつ聞いても嬉しい。

 みんながボクに期待しているって事だもん。こんなに嬉しい事はないよね。

 

『まず一番人気を紹介しましょう! ここで勝てばシンボリルドルフ以来の無敗の三冠ウマ娘! ファンからの期待を一心に背負い、クラシック最強が期待されています!』

 

 来た。

 ボクはその言葉と同時にパドックのステージの上に入場した。

 地下バ道の薄暗い場所から、光が差し込む外に移動すると太陽の光がボクの目に入り込んできて少し眩しい。

 これは何度やっても慣れないや。

 

『一番人気! トウカイテイオー!!!』

 

 ボクは背中の赤いマントをばさりと翻してびしっとポーズを取る。

 右足を前に突き出して左手を自分の腰に当てて、観客のみんなにアピールした。

 ポーズを取り終わったら、大きく手を振ってみんなに挨拶だ。トレーナーはモニターで見てるはずだから、カメラに向かって気持大きめに手を振る。

 すると、観客のみんなから「きゃーっ」とか「わーっ」って大きな声が上がった。

 テイオーってボクの名前を呼ぶ声なんかも聞こえる。観客席なんかを見てみると、ボクのぱかプチを持ったファンがボクの名前が書かれたうちわを振っている姿も見えた。

 凄く嬉しい。こうやってボクは色んな人に支えられて走っているんだなっていうのを実感出来ると共に期待に答えなきゃという気持ちも湧いてくる。

 ボクが時間いっぱいアピールした後、ステージから降りてパドックの方に向かう。

 そこで足を伸ばしたりしっかりと準備体操をしていると、次の出走者が紹介された。

 

『お次のウマ娘を紹介しましょう! ダービー二着と惜しい戦績を残しながらもファンに押されて二番人気! レグルスナムカです!』

 

 その声と同時にボクの友達でもあり、ライバルのレグルスが入って来る。

 和服をモチーフにした彼女の勝負服は良く似合っていて。だけどどこか威圧感を感じた。

 耳がぴくりと無意識に動く。多分これはきっとダービーで感じた謎の気迫。きっとトレーナーが言っていた「領域」みたいな感じ。

 彼女の周りの空気がピリピリとしているのが、肌で感じ取れてしまった。

 彼女がステージ場でポーズを取ると、これまた声援が上がる。

 そしてレグルスがステージ上からパドックの方に降りてくると、ボクの方に近づいて来た。

 あれ、なんのようだろう? 

 

「トウカイテイオー、貴様に今度こそ勝つ。真剣勝負しよう」

 

「へぇ…… 勿論だよ。ボクが勝つけどね」

 

 彼女が話しかけてきたと思ったら、ボクに対しての宣戦布告だった。

 皐月賞の時もされたけど、全く変わんないや。けど、勝つのはボクだけどね。

 少しの間、彼女と軽く睨みあっているとまた声援がひときわ大きくなる。

 

『次のウマ娘を紹介しましょう! あのメジロ家の秘宝。ステイヤーの能力を推されての三番人気! メジロマックイーンです!』

 

 先ほど地下バ道で挨拶していたマックイーンがステージ上に登って来る。

 先ほどまでもプレッシャーらしきものを感じていたのだが、今の雰囲気はまた違う。

 軽口を叩き合っていた彼女とは違い、凛とした表情にすさまじい集中力。

 普段の姿からは想像出来ないほどの姿に、ボクも隣にいたレグルスもはっと息を飲んでしまった。

 マックイーンが優雅にその場で一礼すると、会場全体が彼女の雰囲気に包み込まれたように声量が落ちる。

 ちょっと……マックイーン怖くない? 

 

『四番人気を紹介しましょう! ファンからの期待が厚く、菊花賞でもいい成績を残すことを期待されています! ナイスネイチャです!』

 

 マックイーンがパドックに降りた後、勝負服姿のネイチャが入ってきた。

 確かクリスマスカラーがモチーフとか自分で言ってたっけ。

 その黒を基調として赤と緑がワンポイントで入っている勝負服は彼女に良く似合っていた。手をひらひらと振りながら入場してきた彼女が正面を見ると、「たはー」って声を漏らした。

 ちょっと気になって、ネイチャの視線の方を確認してみると、「ナイスネイチャ頑張れ」なんて書かれた横断幕を下げた集団が見える。

 よく耳を澄ますと「ネイちゃーん! 頑張れー!」って声が聞こえる。

 恐らく、ネイチャの知り合い……多分商店街の人達かな。それを確認したネイチャが少し照れくさそうにしている。

 だけど、自分の顔をぱんと両手で叩くとその表情は一変した。

 いつものネイチャじゃなくてしゅっとした真剣な表情。

 この表情はボクだけじゃない。レグルスもマックイーンもネイチャも同じなんだ。

 菊花賞にかける想いはみんな重くて、熱い。

 だけど──負けていられないんだ。勝つのは、ボクたちだ。

 

 ~~~~~~~~

 実況の人たちが全ての出走ウマ娘の紹介が終わった後、ボクたちは本バ場入場ということでターフの上に移動する事になっている。

 辺りを見渡すと緑色のターフがボクを迎えてくれる。

 あぁ、この感覚だ。レース直前、一気に集中力が高まる感じ。すーっと空気が軽くなって、ボクたちのレースが出来ると確信するこの瞬間。

 すぅと息を吸い込むと、はぁと吐き出して深呼吸する。よし、いける。

 

 スタッフさんの指示に従って、ゲートインする。

 ゲートの中は結構狭くて、これを嫌がるウマ娘もいるみたいだけどボクは嫌いじゃない。

 足を完全に広げられないほどの大きさの場所で、足を出してスタートの体制を取る。

 他のウマ娘もゲートインがスムーズに完了したみたいで、会場内が静寂に包まれる。

 さぁ──

 

『さぁ京都レース場、第10R、菊花賞! 勝つのは無敗の二冠バか! それともメジロ家の意地か!? それとも伏兵か!』

 

 ──ボクたちのレースを始めようか。

 

『スタートしました!』

 

 ガチャンという音と共に目の前のゲートが開かれて、菊花賞が始まる。

 いつもならば綺麗なスタートを決めれたら先行の位置を確認していくんだけど、今日は違う。

 

『おっと!? トウカイテイオー出遅れか!? 最後尾からのスタートです!』

 

 にっしし。これにはみんな驚いているだろうなぁ。

 ボクがトレーナーと立てた作戦。菊花賞追い込み大作戦のスタートだよ! 

 ボクはスタートして一直線で向かうウマ娘達を尻目にゆっくりと自分の位置に取る。

 

 ──今回は内枠だが、追い込みなら関係無い。自分のペースを守っていけ。

 

 トレーナーの言う通りに従ってボクは最後尾に位置を取る。

 ふぅと息を入れて、少し外側のみんなが見れる位置に取るのが大事って師匠が言っていた。

 

『他のウマ娘は出遅れ無しの綺麗なスタートです。先頭に立ったのはフジヤマケンセイ。次にシンクルスルーが続いています。メジロマックイーンは五番手。レグルスナムカが六番手です』

 

 うん。なんかマックイーンにレグルスがいつもよりボクのいるところの近い場所にいるね。

 トレーナーの言った通りだ。ボクの事をマークしてくるからって。

 後ろから見ると先行の位置に多くのウマ娘がいる。恐らくボクのいつもの位置を考えての結果だろう。

 やっぱりトレーナーは凄いや。ボクの分からないところはピタって当ててくれる。

 少し辛い坂を何とかペースを守り坂を登っていく中、ボクはそんな事を考えていた。

 菊花賞が行われている京都レース場には急坂がある。

 なんか具体的な数字は忘れちゃったけど、とにかく高低差が激しい事だけは覚えている。

 しかもこの坂をスタートの時と、もう一周ぐるって回った時に登る坂。二回も登るからスタミナの管理が大切になってくるけど……

 

「ふっ……ふっ……」

 

 坂の走り方なら師匠とトレーナーにここは散々教わった。

 思い出されるのは山でやった夏合宿。ここでステップを使った登り方に下り方。そして呼吸の仕方を何回も何回も繰り返した。

 うん、思った以上に辛くない。それになにより誰にも邪魔されないことで、内枠の不利も競り合う必要も無い。思った以上に楽かも、これ。

 坂を下っていると目の前のウマ娘が、どうしたらいいのか分からなさそうにきょろきょろと尻尾を振っている。

 どうやら一番人気のボクが後ろにいる事で混乱しているようだ。これはラッキー、なのかな? 

 

『京都レース場の坂を超えてウマ娘達がホームストレッチに入っていきます! 多くの観客が迎える中、自分のペースを維持できるのかにも注目です!』

 

 坂を下り終えて、次に正面のホームストレッチ部分に入った。

 大勢の観客がいるのが横目でチラ見しただけでも分かる。

 大声援ががーっと耳に浴びせられる感じ。走って風を切り裂く音よりも、声援の方が大きい。

 

 ──まぁ、テイオーなら大丈夫だと思うけど。ここで掛からないようにな

 

 なるほどね。トレーナーが言っていたのはこういう事だったのか。

 当然だけど、ボクはこの程度じゃ掛からない。

 でも流石に他の子も同じみたいでこの声援で掛かった子は誰もいなかった。

 ん、ちょっと残念かも。

 

『先頭に立っているのは一バ身差フジヤマケンセイ。二番手にシンクルスルーがあがってまいりました。メジロマックイーン、レグルスナムカは中団先行の位置。ナイスネイチャは中団やや後ろ。トウカイテイオーは未だに最後尾であります』

 

 後ろから眺めている感じ逃げは二人くらいなのかな。先行集団が多そう。あそこから内側からいかなくて本当に正解かも。

 ネイチャは後ろから数えたほうが早いね。

 まだまだスタミナには余裕はある。そろそろトレーナーの言った仕掛け所まで行けそう。

 そのまま第二コーナ―を通過した後、スローペースだったレースにボクが歩を進める。

 

「さぁ、行こうか」

 

「ちょっ、もう!?」

 

『第二コーナーから向こう正面に入ります。おっとここでトウカイテイオーが少しずつ前に動き始めました! それにつられてかナイスネイチャも動き始めます!』

 

 ネイチャが少し驚いたような表情をして釣られてか、ボクと一緒に上がり始めた。

 差しで競り合っていたけど大丈夫なのかな。いや、今は他の人の心配をしてる場合じゃないや。

 ここでゆっくり前に行く! 

 

 ──追い込みは確かに自由に動けるのは利点や。けどな、仕掛け所を誤ると一気に崩れるで。

 

 ──テイオー、疲労と末脚を考えてここから仕掛けよう。スパートは下り坂を利用してだな。

 

 ありがとう、トレーナーに師匠。今その通りにレースが進んでるよ! 

 ゆっくりと外側から坂に差し掛かる道を蹴る。

 こっからあの坂をもう一回登るのか……ちょっとキツイけどボクならやれる! 

 

『さぁ問題の第三コーナー登りに差し掛かろうとしています! 中団がやや固まった感じになってきたか!』

 

「はぁ……はぁ……」

 

 急坂と言われるだけ会って、この登山ともいえるこの走りを攻略するのはキツイ。

 ボクはトレーナーに指示された通りに、テイオーステップを解禁して走り方を切り替える。

 この走り方はボクしかできない特別な走り方。

 普通の走り方をしていた足を、バネのように沈めさせて跳ねる。

 同じ歩幅で更に距離を稼ぐこの走り方は坂と相性がいい。そのままスピードを上げずに登り切る! 

 登っている途中でも何人かウマ娘を抜かしていた。恐らくみんなのスピードが坂のせいで落ちているのだろう。

 徐々に、徐々に。焦らずペースを崩さずにいけば、ボクが前に行けるってトレーナーの言う通りだ。

 

『中団からメジロマックイーン、レグルスナムカと上がってまいりました。更にサクラコンゴオー、ナイスネイチャにトウカイテイオーも上がってきた! ここから一瞬たりとも目を離せません!』

 

「よしっ!」

 

 ボクが一度思いっきり息を吐きだして、きゅっと足を更に沈める。

 坂を登り切った。ならここから、スパートをかける! 

 

 ──スパートをゆっくりかけるのは坂の下り坂にしよう。ロングスパートになるけどスタミナ的には間に合うと思う。

 

『下り坂に突入して中団の集団が徐々に動き始めています! おっと、ここでトウカイテイオーが更に上がってきた!』

 

 まだまだ末脚を残っている状況でボクは下り坂でロングスパートをかける。

 位置取り争いも無かった。頭もあんまり使わなかったから脳もクリアだし、視界はまだまだ広い。

 いける! 夏合宿で培った技術を駆使すれば、ここまで楽になれるんだね! 

 だけど。ここで誰も予想しなかった事が発生した。

 残り600m。

 ボクがスパートをかけて中団の前より、五番手の位置にいる時に起きた。

 

『さて600mの標識を通過しました! レグルスナムカ、ナイスネイチャ共に進出! 前の逃げの集団はやや苦しいか? おっと、ここでメジロマックイーン更に動いた!』

 

 四番手にいたマックイーンがいきなり前に飛び出していく。

 ボクが来たことで焦ったかと思ったけど、様子がおかしい、そんな感じじゃない。

 その瞬間、マックイーンの体から黒いオーラがゆらゆらと靡くのが見えた。

 そしてボクの足が一瞬だけど、そこだけ重力を増したように重くなる。

 何……このプレッシャー。

 

「くっ……!」

 

 そしてマックイーンが前にいるのに、確かにボクの頭に声が響いた感じがした。

 

 ──お先に行かせていただきますわよ。

 

「──ッツ!?」

 

 この感覚、あの時と同じだ。

 思い出されるのは夏合宿の時にやった師匠との本気のレース形式の練習。

 あの時は雷みたいな音が後ろから轟いて、びっくしたと思ったら強大な威圧感が後ろからしたっけ。

 それと同じ。ううん、それ以上の圧がボクの前にいるマックイーンから感じ取れる。

 間違いない。これ、領域って奴だ。

 

『さぁ、残り400m! 現在トウカイテイオーが二番手にまで上がってきました! メジロマックイーンは先頭をキープ!』

 

「うがっ……!」

 

 本来であればここら辺りでマックイーンと並んで、ボクとの末脚勝負を仕掛けるはずだった。

 それなのに、一バ身。たった一バ身の差が縮まらない。

 足が重い。ただでさえ前から感じるプレッシャーに汗が流れ、ずっと足にしがみつくような重みを感じる。

 まだ……! まだ距離はある……けど……! 

 なんでさ。抜かせる気がしないって思っちゃうのは。

 

『さぁ残り200m! 最後の直線です! メジロマックイーンか!? トウカイテイオーか!?』

 

 あはは。確かボク、夏合宿の時トレーナーに聞いたっけ。

 

 ──菊花賞に負けちゃったらどう思う? 

 

 なんて言ってたかなトレーナー。

 なんか、思考もぼんやりしてきて、重いや。

 その時だった。

 ボクの耳に愛しくていつも元気をくれる声が入ってきた。

 

「いけぇぇぇぇ!!! テイオー!!!」

 

 この大勢いる観客の中で絶対聞こえないはずなのに、確かに聞こえた。

 ボクのトレーナーの声が。

 心にしみて暖かい、ボクのトレーナーの声援が。

 なんだよ、いつもなら出さないような声出しちゃってさ。

 そうだ、ボクはみんなに支えられてる。

 そして何よりトレーナーの笑顔が見たい。

 

「はぁ……!」

 

 大きく息を吐いて、すぅと息を吸う。

 足はもう限界。スタミナも底をつきそう。視界は揺れてるし、なんかフラフラしてる。

 体の至る所が痛い、重い。

 

 だけどそれがどうした。

 

 ボクは誰だ。

 

 無敵のトウカイテイオー様だぞ。

 

 辛いとかキツいとかの感情は引っ込んでろ! 

 

 こんなところで諦めるのはボクじゃない!!! 

 

 

 絶対はボクたちだ。

 

 

 そう思った瞬間、すぅと目の前に光が走る。

 白く光った筋はフラフラとボクの隣に来て不思議な形を形成していった。

 真っ白な耳に真っ白な髪。そして先っぽだけ少し黒い特徴的な尻尾。

 ──そして真っ白なコートのような勝負服。

 見間違えようがない、ボクが大好きでやまない。

 

「トレー……ナー……?」

 

 瞬間、ボクの時間が止まる。

 世界はモノクロに。歓声は無音に。

 風を切り裂く感覚は無に。足の感覚も無くなる。

 残ったのは頭を回転させる思考と、やたらクリアに見える視界のみ。

 隣をチラりと見た時、トレーナーはふっと微笑んでボクの背中に回り込んで、そっと押してくれた。

 幻覚? 幻影? 

 違う、これはトレーナーだ。ボクがトレーナーの温もりを間違えるはずが無い。

 なら。あぁ、ボクの。いや、ボクたちのこれこそが。

 

 この蒼白い光と暖かさが。

 

 ボクたちの領域なんだね。

 

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