そのウマ娘、星を仰ぎ見る   作:フラペチーノ

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2.約束

「ねぇねぇ! 昨日送ったレース見た!? すっごい面白かったでしょ!」

 

 ヘッドホンから、テンション高めの元気な少女の声が聞こえる。

 いつもなら慣れているのでそんな気にしなかったが、今日だけは別だった。

 

「すまん帝王さん……もうちょい声量を落としてくれ……」

 

 帝王さんの声が頭にガンガン響く。

 それも全て帝王さんが、昨日送って来た動画のせいだ。

 いや、あの後俺自身で色々調べ事して徹夜してたわ。自業自得か。

 

 結局あの後ベッドに倒れ込んだ俺だったが、あんまり寝付けなかった為、寝起きは最悪の状態で迎えることになった。

 そんな中、今にも寝てしまいそうな頭を叩き起こし、わざわざボイスチャットを起動しているのは、とある事を帝王さんに伝えるためである。

 

「帝王さん、昨日送ってくれた動画なんだけど……全部見たわ、うん、凄い良かった」

 

「でしょー? やっぱりレースはいいよねぇ。ボクも早くレースで走ってみたいよー」

 

 帝王さんが、「うんうん」とうなづいた様に返事をする。

 

「で、俺さトレーナー目指す事にしたんだ」

 

「ホント!? ほら、ねずみさんゲーム上手いし。なんかトレーナー向いてそうって思ってたんだよね」

 

 ……それはどういう理論なのだろうか

 

「帝王さんのおかげで新しい夢見つけられた。なんか、その、ありがとな」

 

「……! ふっふーん! ボクも夢を与える存在になっちゃったかぁ」

 

 少し浮ついたような声がヘッドホン越しに伝わってくる。

 その後、「あ」と帝王さんが呟いたのが聞こえた。

 

「ねぇねぇ、ねずみさん、トレーナーを目指してるんでしょ? だったらさ、ボクのトレーナーになってよ!」

 

 いきなり何を言いだすんだ、この子は。

 そもそも、帝王さんが入学するまでに俺がトレーナーになって無かったらどうするんだ。

 

「うーーーーん、分かんないや!」

 

 あと中央のトレセンのトレーナーになれるか分かんないんだぞ。もしかしたら、地方に行くかもしれん。

 

「でもでも、ねずみさんだったらなんか中央に受かりそうな気がする!」

 

 それはどうだろうな……

 

「あとさ」

 

「なんか、ボクたちここで会ったの運命だと思わない?」

 

「三冠を目指すボクと、トレーナーを目指すねずみさん」

 

「絶対何かの運命だって! だからさ約束しよ!」

 

「もしネズミさんが中央のトレセンのトレーナーになって、ボクが中央のトレセン学園に入学出来たら……」

 

「ボクの専属トレーナーになってよ!!! 約束!」

 

~~~~~~~~

 帝王さんがまた嵐のように過ぎ去っていった。

 俺はヘッドホンを耳から外し、PCの隣に置く

 

 約束、か。

 久しぶりに約束なんてしたな。こっちの世界に来てから約束なんてした事無かったし、随分と懐かしい言葉な気がする。

 

 ……約束しちゃったし頑張るしかないな!

 

 俺はボイスチャットを閉じると、そのままの勢いで中央トレセン学園のホームページを開き、昨日確認していたトレーナーを目指す人向けのパンフレットを取り寄せてみることにした。

 その後、ネットでトレーナーになる為に必要な事を調べてみる。

 

「えっと……なになに、ウマ娘のトレーナーになるには試験が必要です。って試験とかあるのか……」

 

 それもそうか。ウマ娘のトレーナーっていうのは人間で例えると陸上選手のコーチみたいなものだ。

 その分専門の知識も必要だし、責任も一緒に伴ってくるのは理解できる。

 

 取り合えず俺は「トレーナー試験 過去問」で検索をかける。

 するとトレーナー試験予想問題みたいなものが出て来たので、そのサイトを開き、問題を見てみる事にする。

 

 ……

 

 いや、なにこれ。

 予想はしていたが全く分からない。

 ウマ娘の身体構造、レースの仕組み、ウマ娘のメンタル面についてなどなど……

 少なからず義務教育の課程内で習うような、いや下手したら高校レベルの問題が一つも無く、本当にウマ娘の専門的な知識が問われるような問題が多く出題されていた。

 これは俺の前世の知識があっても全く歯が立たない奴だ。

 

 が、俺には時間がある。

 本来であれば中学校に通うであろう時間を全て、トレーナーに関しての勉強に費やせるのだ。これは大きなアドバンテージである。

 ……実は義務教育って登校はしなくても卒業出来るんだよね。ただ進学する時に登校日数が進学校に見られるだけで。

 トレーナー試験を受ける時に学歴が見られるのは仕方ないにしても、それを気にされない程度の点数を叩き出せばいいだけだ。

 

 そんなちょっと無茶な決意と共に、トレーナー試験の為の勉強を始めようと教科書や参考書を……教科書や参考書?

 

「あ、俺トレーナー試験の勉強する為の本とかなんもねぇわ」

 

 まぁこれはしょうがない。逆に、中学生がそんなもの持っている方が稀なのだ。

 ネットショップとかで買えるかな……?

 そう思い、また検索をかけて見るとトレーナーを目指す人向けの教科書や参考書、問題集などが販売されていた。

 値段を見ると一冊、五千~六千円くらいしており結構良いお値段するようだ。

 

「あ、俺金ねぇわ」

 

 ここにきて引きこもり中学生のデメリットが出て来てしまった。

 

~~~~~~~~

 この世界の現実を知ってから、早数日が経過した。

 俺はトレーナーになる為に勉強しなくてはいけないのに、特に何も出来ない日々を過ごしている。

 

「バイト……いや無理だ中学生でバイトは出来ないし、もし仮に出来たとしても親の許可がいる……」

 

 もう完全に手詰まりだった。まさかトレーナーになるのを、金銭問題という悲しい事情で諦めることになるとは帝王さんも思ってもないだろう。

 もし俺が高校生とかだったらなんとかバイトしてお金貯めて受けるという選択肢も生まれるが、それが出来てトレーナー試験受ける頃には六年後だ。

 帝王さんの年齢は聞いていないが、今までの発言的に恐らく二~三年でトレセン学園に入学するだろう。

 このままでは、俺がトレセン学園に就職する頃には帝王さんはもう既に三冠取ってました!なんて事も十分あり得る。

 

 なんかそれは嫌だ。

 

 仮に、教科書や参考書を買わないとしよう。今のご時世、ネットで検索すれば信憑性と効率は落ちるが、勉強自体は出来ないことはない。

 だが、勉強以外にもお金はかかるのだ。

 ざっと思いつく限りでも、試験代、洋服代、交通費……。

 交通費に関してはウマ娘パワーを使えば走れんことも無いが、電車を使っても約二時間かかる試験会場に向けて走る気が起きない。てかまず体力が持たない。

 

「はぁ……」

 

 全く……前途多難だな。

 

 時計を見ると深夜の二時。

 俺は煮詰まった頭をリフレッシュする為に、シャワーを浴びる事にした。

 他の人を起こさないように静かにドアを開け、自室を出る。そして音を立てないようにこっそり階段を降りて、風呂場がある一階へ。

 実家でこそこそ動く怪しい不審者ウマ娘の図である。変な家族関係に絡まれてしまったものだ。

 

 階段を降り、風呂場へ向かおうとする。

 しかし俺の家は、リビングを経由しないと風呂にいけないとかいう謎構造している家なので、階段のドアを開ける必要がある。

 二階の階段とリビングが繋がっているのだ。なので、ここでお祈りタイム。深夜なので遭遇率は低いが……

 ゆっくり階段のドアを開け、リビングを覗く。

 そこには父親がおり、俺と目が合った。

 

「……」

 

「……」

 

 まぁ、父親だったらまだいいか……

 一番気まずいのは母親、次に妹である。因みにおばぁちゃんは大当たり。

 

 俺はそのままドアを開け、リビングを通過し風呂場へ向かう事にした。

 家族間で互いに無視を決め込むのもなんだと思われそうだが、これが俺の日常である。

 だが、その日は違った。俺がさっさと風呂場へ向かおうとすると、父親に呼び止められてしまった。

 

「スター」

 

「……」

 

 名前を呼ばれてしまったからには、流石に無視する事も出来ない。

 俺は、仕方なく父親の方を見つめる。

 

「お前、トレセン学園に行きたいのか……?」

 

「なんの話……げっ」

 

 父親の手には、数日前に取り寄せたトレーナー向けのトレセン学園のパンフレットが握られていた。

 

 マズいマズいマズいマズい……!

 

 俺宛の郵便物なんて、どうせ見向きもされずに放置されそうだから、おばぁちゃんに「俺宛に手紙が来たら取って置いて」と任せたのだが……

 まさか金銭問題以外に家族バレとか言う謎理由で、トレーナーになる事を諦めなくてはいけないのか……

 俺が絶望に染まった顔をしていると。

 

「お前、走るの嫌いじゃないのか」

 

 ……? 

 あぁ、なるほど。トレセン学園からのパンフレットになってるからどうやら俺がトレセン学園に入学したいと思っているみたいだ。

 さてどう答えたものか。

 嘘ついてもいいが、単純に俺側にメリットがない。

 が、ウマ娘のトレーナーになりたいと素直に答えたらもっと気味悪がられるだろうか。

 

 ……まぁ、今更か。悩んだ末、俺は素直に答えることにした。

 

「……ちげぇよ。俺がなりたいのは走る方じゃなくて走るのを指導する側。ウマ娘のトレーナーだ」

 

 さぁどう出る。最悪なルートは母親バレからの就活禁止コースだが……。でもあの母親だ、知っても意外と無視するか?

 

「……ちょっと待ってろ」

 

 そう言って父親が、リビングを出ていった。

 待てと言われたので仕方なく大人しく待っていると、数分後、父親が戻ってきた。

 

「これやる」

 

 父親が、俺に何かが入った茶色い封筒を渡してきた。

 不思議に思い、中身を確認すると中には一万円札が入っていた。

 しかも、一枚とか十枚とかじゃない。見た感じ百万円近くあるのか……?

 

「え、なにこれ……」

 

「お前が生まれる前から貯めていたお前の為の貯金だ。やる。好きに使え」

 

 まさかの金銭問題が解決した瞬間である。

 が、いきなりどういう風の吹きまわしだ。見た感じ、どうやら母親にバラすつもりもないみたいだし本当に何で……。

 俺が困惑していると、父親は何も言わずに階段のドアを開ける。そのまま二階の寝室に戻っていきそうになっていたので、急いで呼び止めた。

 

「あ、あの」

 

「……」

 

「ありがとう……父さん」

 

 父親は返事を返すことなく、そのまま階段のドアを閉めてしまった。

 リビングに俺だけが残る。俺はお金の入った封筒を握りしめ、有意義に使わせてもらおうと感謝した。

 

~~~~~~~~

 そんな訳で金銭に余裕が出来てから、俺はトレーナー試験の勉強に打ち込むようになった。

 

 まずネットで教科書と参考書、問題集を購入。勉強面で困る事は無くなった為、本来であれば学校に行っていた時間全てをトレーナー試験の為の勉強に費やす事が出来た。

 とは言ってもずっと勉強することも出来ないので、帝王さんと時々ゲームで息抜きしつつ、会話もしていた。

 そして帝王さん曰く、彼女が入学するのは二年後…つまり俺が中学卒業と同時にトレーナー試験を受かった場合、一緒にトレセン学園の門をくぐれると言う事で自然と気合が入る。

 

 

 トレーナー試験の勉強をしつつ、息抜きに帝王さんと会話しながらゲームをしたり、レース動画を見たりする毎日が続いてはや二年が経過した。

 

 

 いや、言いたいことは分かる。時間が飛びすぎだろうと。だが勉強する事以外にやる事も、大きな出来事も無かったのだ。

 引きこもりはイベントに乏しい。

 

 

 そして今日は、スターゲイザー十五歳、こちらの世界に来てから初めての試験の日である。

 試験会場は、家から電車で約二時間の府中にあるトレセン学園の中だ。

 この試験は学力面のペーパーテストと面接の計二日間に分かれており、俺はその為に試験会場の近くの宿を取った。

 試験会場入りは朝の九時から。前日から行って泊まる選択肢もあったが、ちょっとお金が勿体ないと思い、試験当日に電車でトレセン学園に行くことにした。

 

~~~~~~~~

 朝四時。

 まだ朝日が昇っておらず、若干外もまだ暗い時間帯である。

 

「忘れ物は無いな……」

 

 俺は前日に準備しておいた、受験に必要な道具や泊まるための着替え、受験票などを念の為に一つ一つ確認しながら、リュックとキャリーバッグに詰めていく。

 そして女性ウマ娘用のスーツに着替える。服装については指定されていなかったが無難なものでいいと判断し、スーツをチョイス。どうせ今後も使うと思って、購入したのだ。

 因みに、全部ネットで買った。全く技術の進歩さまさまである。

 

 リュックを背負い、キャリーバッグを持った俺は、自室のドアを開き静かにリビングに移動する。

 そしてそのまま洗面所に行き、寝癖とかついていないか鏡でチェック。

 髪は肩にかからないまでバッサリ短く切っている為、準備をほぼしなくていいのは楽だ。

 

 特に問題が無いことを確認した俺は頭にウマ耳が隠せるくらい大きな帽子を被る。

 この世界で白毛は珍しい。いちいち目立つのも嫌なので帽子を被ってみたのだが存外しっくりくる。

 正面からパッと見ただけではウマ娘には見えないだろう。

 ……まぁ尻尾は隠せていないのでバレるが。頭隠して尾を隠さず、である。

 

 全ての準備が完了して荷物を持ち玄関へと向かい、家族に気づかれないようにゆっくりと玄関のドアを開ける。

 家から駅まで少し距離があるが移動方法は徒歩だ。こんな朝からでは流石にバスも通っておらず仕方のない選択肢と言える。

 

 ……たまにはウマ娘パワー使って走ってもいいよな。

 荷物もあるので少し大変だなぁと思いつつ玄関のドアを開けると、目の前に父親が立っていた。

 

 ……いやなんで?

 

 父親は手に車の鍵を持っており、それを手にしながら口を開く。

 

「乗れ。駅まで連れて行ってやる」

 

~~~~~~~~

 流石に、あそこまで出待ちされては断るのもヒトとしてどうかと思い、荷物を後ろの席に放り込み、俺は助手席に座る。

 ……父親と車に乗るなんていつぶり、いや初めてだろうか。

 車を発進させてから全く会話が発生せず、車内に気まずい空気が流れる。

 

 よく見ると、父親は少し眠そうだ。

 まさか、受験日は分かるが俺が出ていく時間は分からなかったから、徹夜で待っていたのか……?

 それはなんとも……

 

 駅に到着し、近くに車を止める。

 俺は助手席から降り、後ろから荷物を取り出して、父親にお礼を言った。

 

「送ってきてくれてありがとう、父さん」

 

 父親は特に返事もせずに、車を発進させその場を去る。

 だが俺は「頑張れよ」と言ったのを聞き逃さなかった。

 全く、耳がいいのも考えものだ。

 

~~~~~~~~

 その後電車に乗り、試験会場である府中のトレセン学園に向かう事、はや二時間。

 俺は目的地に到着後、すぐに今日泊まるホテルにチェックイン。

 キャリーバッグをホテルに置き、試験道具などをリュックに入れホテルからトレセン学園に向かう。

 ホテルはトレセン学園から地図上ではそこまで離れておらず、すぐに到着することが出来た。

 

「でっけ……」

 

 まず正門がでかい。これ学校って本当?団地か何かじゃないの?ってくらいの広さの土地に、トレセン学園の生徒だろうか、多くのウマ娘がそこらじゅうを歩いている。

 ここまで多くのウマ娘がいる空間に初めてきた。今まで会った事のあるウマ娘はおばぁちゃん、母親、妹だけだ。

 俺は無意識に頭の帽子を深くかぶり、置いてあった矢印の看板に従って試験会場に移動する。

 

 看板に従って歩いていると、受付が見えたので受験票を見せ試験会場の中へ。

 指定された席に座り、筆記用具を出し試験を受ける準備をする。

 

 ……よし! じゃぁいっちょ頑張りますか!

 

~~~~~~~~

 ……頭が糖分を求めている。めっちゃ甘いものが食べたい。

 

 試験開始が午前十時、一教科につき五十分のテスト。途中途中で休憩をいれつつ五教科のテストを受けた結果、全てのテストが終わったのは午後五時だった。

 緊張から解放されたのか試験会場内は少し騒がしい。

 

 つか本当に疲れたな…… 問題難しいし…… 明日面接あるってマジか……

 そんな少し憂鬱な気分になり、試験会場を後にする。

 トレセン学園の敷地内を通り正門から出ようと移動していると、まだ多くのウマ娘が練習しており、活気に溢れていた。

 

 そんな若者の活気に溢れているトレセン学園を出て、宿泊先のホテルに向かう。

 若者の活気って……一応俺も体は若いんだけどなぁ。中身がもうおっさんになってしまったのか。

 

~~~~~~~~

 試験を終えてホテルに帰った俺は疲れてきっており、風呂と着替えだけして即就寝。

 二日目の面接だが、人数が多いため最初から面接時間が決まっており、俺の面接時間は午後の三時からだったので、当日は少し遅めの朝十時頃に起床。

 朝食か昼食か分からないご飯を、ホテル近くのコンビニで買ってきて食べる。

 食べ終えると、スーツに着替え、身だしなみを整えつつ帽子を被る。

 流石に面接中は帽子は外すが、落ち着くので移動するまでの間だけでも被ることにした。

 

 昨日と同じ道を通り、トレセン学園へ。

 受付場所も同じだったので面接開始三十分前に会場に着いた俺は受験票を受付の方に見せたのだが。

 

「あの……スターゲイザーさんで間違いないですよね?」

 

「え、はい。間違いないですけど……」

 

 受付の人が「少々お待ちください」と言い残し、どっかに行ってしまった。

 待つこと数分。受付の人が戻って来たと思ったら、隣に緑基調のスーツを着た女性を連れてきた。

 

「初めまして。私、駿川たづなと申します。面接なのですが私が面接会場にご案内しますので一緒に来ていただけませんか?」

 

「は、はぁ。分かりました」

 

 たづなさんと名乗った女性は、その面接会場があるであろう場所に向かって歩き始めたので、俺も後ろからついていく。

 

 ……てか何故わざわざ違う場所にまで案内して面接するんだ?俺なんかやらかしたっけ

 

 たづなさんの意図が分からず、別室に呼ばれる心当たりも無い俺は少し不安になりつつ歩いているとどうやら面接会場に到着したらしく、彼女が足を止めた。

 そして随分と立派な扉をノックすると。

 

「理事長、入りますよ」

 

 そう言ってドアを開いた。

 

 ……理事長?え、理事長???

 

 扉を開くとそこには俺よりも小さい……子供のようにしか見えない女性が椅子に座っており、「歓迎!」と書かれた扇子をバッと開くと

 

「歓迎ッ!これより面接を始める!!!」

 

 俺の頭は情報量でオーバーフローした。

 

~~~~~~~~

 俺が困惑し、どうすればいいのか分からず動けないでいるとたづなさんが「どうぞ」と室内にあったソファに手の平を向ける。

 その言葉に従いソファに腰を掛ける。……うわぁ、ふわふわだ。

 「今お茶持ってきますね」とたづなさんが一旦席を離している間、理事長は俺の向かい側のソファに座りテーブル越しに俺と対面する。

 

「よく来た。いきなりこんな場所に連れて来られて困惑しているだろうが、リラックスして面接に臨んで欲しい」

 

 そう理事長は俺を心配するかのように声をかける。

 

「お茶です、どうぞ」

 

 たづなさんも戻ってきて、お茶を二つテーブルに置くと、理事長の後ろ側に立つ。

 

 面接ってお茶出されるものだっけ?

 

 理事長がお茶を啜り、湯呑をテーブルに置く。

 そうして大きく口を開く。

 

「疑問ッ!何故君はトレーナーを目指そうと思ったのか!」

 

 来た。間違いなく来るであろうと思っていた質問だ。

 これの答えはもう決まっていた。

 俺は一呼吸置き、質問に答える。

 

「夢を与える存在を支えたいと思ったからです」

 

「ほう…?」

 

「私は初めてウマ娘のレースを見たとき、画面越しでしたが夢を与えられました。それはウマ娘のトレーナーになるという、自分自身がウマ娘であるにも関わらず持った夢です。夢を与えるウマ娘ですが、それは一人で成り立っているものでは無いと思っています。トレーナーの支援があるからこそ、ウマ娘達はレースで競いあい、そして初めて夢を与えられるものだと考えています。私はそれを支えていきたいと思いました」

 

「理解……だがこの若さでトレーナー試験を受ける意味はあったのか?もっと後からでも受けられるだろう?」

 

「それは……約束があるからです」

 

「約束?」

 

「はい、私の知り合いに今年トレセン学園に入学する、三冠を取りたいというウマ娘がいます。彼女と約束したんです。彼女の専属トレーナーになるって」

 

「……」

 

 理事長がジッと俺を見つめてくる。品定めするような目で落ち着かない。

 

「うむ……分かった。これで面接は終わりだ。お疲れ様であったな」

 

 え、終わり?一個しか質問されてないけどいいのか……?

 

「出口まで案内しますね。どうぞついてきてください」

 

 そうたづなさんに言われたので俺は荷物を持って立ち上がり、「失礼しました」とお辞儀をし部屋を出る。

 部屋から出た途端、緊張が切れたのかどっと疲れが襲ってくる。

 

 なんで理事長とかいう一番偉い人と対面で面接しなきゃいけないんだ。その理由は結局最後まで分からなかったな。何か俺がやらかしたという訳でもなさそうだが……

 

 その後俺はたづなさんに連れられてトレセン学園の出口へ。

「今日はお疲れ様でした」と言われ俺も礼をしてトレセン学園を去る。

 

 何はともあれ計二日間の試験は終わった。後は結果を神様にお祈りするだけである。

 

「今日くらい食事贅沢してもいっか」

 

 そう思い、俺はホテルに駆け足で戻るのであった

 

~~~~~~~~

「たづなよ、彼女を見てどう思った?」

 

「至って普通の子に見えましたが…… 実際の年齢以上に大人びている感じはありましたね」

 

「うむ……しかもテストの点数なのだがまさかの首席合格だ。文句のつけようがない」

 

「ですが中卒、ましてやウマ娘のトレーナーなんて前代未聞ですね……」

 

「……確信! 彼女は必ずこのトレセン学園に新たな風を取り入れてくれる! 故に彼女をトレーナーにする事にする! が、こちらも彼女を全力でサポートしよう。たづな、頼めるか?」

 

「はい、分かりました」

 

「うむ! よろしく頼むぞ!!!」




ここまで読んでくださいありがとうございます。過去最多で文字を書きました。疲労感ヤバいですが書きたいところまでかけたので満足です…
ここから物語は加速します。

そして次話なのですが少し投稿が遅れると思います。待っていただけたら幸いです。
ではまた次のお話で。

2022/3/18 表現を変更しました。読みやすくなっていると思います。

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