「うっしゃ見たかオグリ! クリーク!」
菊花賞が行われた京都レース場に響き渡る、小さな体から発せられた元気な声。
その葦毛の少女は嬉しそうにぴょんぴょんとその場で跳ねる勢いでガッツポーズをしていた。
今声を上げた少女はトレセン学園に所属しているウマ娘のタマモクロスというウマ娘。
そして彼女の隣にいるウマ娘も同じくトレセン学園に所属しているウマ娘で、タマモクロスの親友でありライバル。オグリキャップとスーパークリークだ。
その三人のウマ娘がどうしてこの京都レース場にいるかというと、ただ菊花賞を見に来たというだけでなく、それぞれの弟子の応援をしにきたのである。
そう、タマモクロスにはトウカイテイオーが。オグリキャップにはナイスネイチャが。スーパークリークにはメジロマックイーンが。
それぞれが師匠と弟子の関係になっており、夏ごろからお互いに能力を高めあっていた。
そのため優勝したトウカイテイオーを見て、その師匠であるタマモクロスが喜んでいたということになる。
「あらあら~ マックちゃんも勝ちましたよ~ 私も嬉しいです」
「ネイチャは……惜しかった」
そういって微笑みながらマックイーンの勝利を喜んだスーパークリークとは対象に少し悔しそうに言葉を吐くオグリキャップ。
教える側としてオグリも感じることがあるんやなと思ったタマモクロスは、話題を少し逸らすために自分の中で気になっていたことをスーパークリークに訊ねた。
「つか……クリーク。マックイーンに領域についてなんて教えたんや? あの入り方普通じゃなかったで」
「そのことですか。簡単ですよ~? 領域に入れるまで練習しました~ それだけです~」
「なっ、なんて無茶しおる…… 魔王かいな……」
「だってマックちゃん、基礎は完璧でしたもん。だったら後は私が領域に入るまでお手伝いするだけでした」
因みにここでスーパークリークのいう「お手伝い」というのは、彼女が領域を出してメジロマックイーンをひたすらに追い詰めるということだったのだが、スーパークリークはそのことに関しては内緒にしていた。
実際そのスパルタ特訓のおかげでスムーズに領域に入ることができたメジロマックイーンはあそこまでトウカイテイオーを追い詰めたのだが……
これに関して言ったら、タマモクロスとオグリキャップは間違いなくドン引きするだろう。
にこにこと柔和な笑みを浮かべていたスーパークリークは、次はこちらの番と言わんばかりにタマモクロスに対して質問をした。
「それを言ったらタマちゃんだって。テイオーちゃんの領域は……普通じゃありませんでした」
「そうだぞ、タマ。あんな領域見たことなかった」
スーパークリークもオグリキャップも領域に入って時代を創ったウマ娘の一人。
トウカイテイオーが見せた領域に関してはどこか不思議な違和感を感じていたのは、自明の理だ。
まるで領域を出したウマ娘が二人いたみたいな重なりを見せたテイオーの領域に対して、彼女たちは一体なんだとタマモクロスに対して訊ねたが、返ってきた答えは意外なセリフだった。
「ウチが聞きたいわ!!!」
わー、わーー、わーーー
と、まるでその場でエコーするかのように言葉を投げつけたタマモクロスの顔には、怒りと疑問のマークが浮かんでいた。
その発言を聞いたスーパークリークとオグリキャップが「えぇ……」という顔をする。それもそうだろう。一番知っていそうな人物が匙を投げたのだから。
「なんやねんあの領域! そもそもウチは領域の存在しか教えてへんで!? それやのに…… 何も分からん!」
「そ、そうだったんですね」
ぎゃーぎゃーとタマモクロスが耳をぴこぴこと揺らしながら跳ねているのを見て、落ち着いてと言うスーパークリーク。
それを見てのほほんとしてるオグリキャップと、なかなかに騒がしい光景がその場で展開されていた。
瞬間、そこに投じられる一つの声がその喧騒を止めた。
「はぁい☆ みんな変わらないね」
そう挨拶してきたのは金髪の髪にニコニコの笑顔を携えたウマ娘。
明らかに日本のウマ娘ではない外国バなのだが、日本語を流暢に喋る姿は全く外国バであることを感じさせなかった。
そのウマ娘の名は──
「オベイやないか。なんやアンタも菊花賞を見にきとったんか」
「ちょっと気になってね」
オベイユアマスター。
ジャパンカップ優勝バの一人で、全ての情報をコントロールし騙すことにたけたエンターテイナーだ。
タマモクロスとオグリキャップとはジャパンカップを争った仲で、タマモクロスは彼女の素の顔をしっている。
そんな彼女が何故ここにとスーパークリークが首を傾げていると、それに気付いたオベイユアマスターがそんな彼女に対して言葉をかけた。
「可愛い弟子の為さ。テイオーを見に来たんだけど……正解だったね☆」
そう言ってターフの上で歓声を受けているトウカイテイオーに目線を向けるオベイユアマスター。その目を細めてじっくりと観察するようにトウカイテイオーを眺めていた。
その時、ふとタマモクロスは引っかかる事が出てきた。
「弟子って……アンタも師匠やっとるんかいな」
「わぁお☆ 貴方達も? 私もちょっと弟子をもっているんだよね。 まっ、可愛い子さ。ここには来てないけどね」
そう思い出すようにしみじみとオベイユアマスターが発言する。
それを見たタマモクロスがにやっと笑って、とある提案を彼女に持ちかけた。
「せや! なら戦争といこか? うちの弟子とあんたの弟子どっちが強いか…… ジャパンカップとかで勝負出来るかもしれへんやろ?」
「あら~ ならうちのマックちゃんも負けませんよ~」
「むっ。ならネイチャも負けないぞ」
「あはは! いいねぇ。けど……」
その直後、オベイユアマスターが顔に手を当てて仮面を一度剥ぎ取った。
その顔はにやりとほくそ笑んでいてこちらがぞくっとするような表情だった。
「凱旋門賞とか…… どうかな?」
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「スターちゃんにテイオーちゃん、やっと分かったのかな」
菊花賞の京都レース場の大分人混みが少ない場所で彼女は一人ぼやいていた。
オレンジの髪を可愛く二つに縛りぴょこぴょことしている彼女はマヤノトップガン。
菊花賞に出れたはずなのに出なかった彼女は、観客席でトウカイテイオー達のレースを見ていた。
その理由はただ一つ。
「うん☆ よく見えたね」
観察。それだけである。
彼女が椅子に座りながら足をぶらぶらとさせていると、トウカイテイオーとマックイーンがターフの上で歓声を受けているのを見てにっこりと笑顔を浮かべると、よっと椅子から立ち上がり、ふらふらと地下バ道に向かい始めた。
「スターちゃんも自分の存在理由も分かったみたいだし、マヤもそろそろ参戦しよっかなぁ」
そう意味深な発言を呟きながら彼女は歩き始める。
人混みを避けて、するすると人の間を縫う姿はまるで彼女がそこに存在しないようだった。
「……んっ。 あーでもそっか。そろそろ彼女が来るんだもんね。じゃあマヤはもうちょっと待とうかな」
一体誰と会話しているのか。
見えない誰かとお話しているかのように独り言を呟く、マヤノトップガンの目はハイライトが消えて黒い闇を映し出していた。
「頑張ってね。スターちゃん。マヤはどこからか見てるよ」
そう絶対にスターゲイザーに届かない声援を呟きながら、彼女は京都レース場の人混みの中に消えていなくなった。