そのウマ娘、星を仰ぎ見る   作:フラペチーノ

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【スターの日常】聖蹄祭とお着替え人形と化したスターちゃん

 菊花賞も終わり、自分の妹との問題も一旦落ち着いた頃。

 最近はカフェのトレーニングのことばっかり考えながら仕事している。

 そんな俺がいつもの通り仕事をしている時にその連絡は来た。

 ぶるりと携帯が震えた音と振動が、テーブルをつたって俺に知らせてくる。

 

「……ん? なんだろう」

 

 一旦パソコンを弄る手を止めて携帯のメッセージアプリを確認すると、そこにはシンボリルドルフの文字が。

 ルドルフから連絡が来るなんて珍しいなんて思いながら、内容を確認してみると「聖蹄祭の件で話があるから、テイオーと一緒に生徒会室に来て欲しい」とのことだった。

 そういえばつい最近たづなさんに出しものとか考えて欲しいって言われてたな……そのことだろうか。

 頭の片隅でそんなことを考えながら、携帯を操作してテイオーに連絡を取る。

 時間的にはすでに放課後だったため、テイオーには俺の部屋じゃなくて生徒会室で待ち合わせすることを伝えつつ、椅子から立ち上がった。

 凝った体をほぐそうとんっと背伸びをすると、俺はゆっくりと自室のドアから外に出ていく。

 学校が終わったため少しずつウマ娘が帰ってきている寮を後にして、トレセン学園へと向かう。

 なんとなく駆け足で向かっていると、多くのウマ娘とすれ違った。

 そのまま生徒会室に辿り着くと、扉の前にはいつも見慣れたポニーテールがゆらゆらと揺れているのが見える。

 

「お待たせ、テイオー」

 

「ううん、ボクも今来たとこ」

 

 そう言って俺の方を見た担当ウマ娘のトウカイテイオーは、ぴょんと一歩踏み込んで隣に立ってきた。

 そして少し首を傾げると、俺に質問をしてくる。

 

「ボクたち何で呼ばれたのかな。トレーナー知ってる?」

 

「なんか聖蹄祭に関してのことらしいぞ。詳しいことは中に入ってからかな」

 

 こんこんと生徒会室の無駄に立派なドアをノックすると、中から「どうぞ」と声が聞こえた。

 がちゃりとドアを開けて中に入ると、そこにはこのトレセン学園の生徒会長であるシンボリルドルフが椅子に座りながら何かの作業をしていた。

 俺たちが入って来ると、ぴくりと耳を揺らして作業の手を止めて顔を上げる。

 

「やぁ、スターにテイオー。待っていたよ」

 

「カイチョー! ボクが来たよー!」

 

 ルドルフに会えたからか、テンション高めの声でテイオーが返事をした。

 ぶんぶんと尻尾が揺れており、テイオーがどれだけ彼女が好きなのかが分かる。

 そんなテイオーを見てふっと微笑みながら、手を机の上に乗せて俺たちに再度向き合った。

 

「さて単刀直入、話をしようか。聖蹄祭の出し物の件については二人とも知っているね?」

 

「勿論! えっとカイチョーは、去年喫茶店やってたんだっけ?」

 

 聖蹄祭は別名ファン感謝祭と呼ばれており、一般人の方がトレセン学園に入れる数少ない機会の一つだ。

 出し物とはその中で行われるレクリエーションみたいなもので、ウマ娘とファンとの交流を図るものになっている。

 普段はターフの上で走っているウマ娘が、ファンと近い距離で接する。ファンとしてはこれほど嬉しいものはない。

 そんな出し物についてはたづなさんから事前に説明を受けていた。

 テイオーは今や世間を騒がせている無敗の三冠ウマ娘。トレセン学園としても、是非この聖蹄祭で彼女に何かやってほしいのだろう。

 だが最近忙しくてそのことがすっかり頭から抜けていたなと思っていると、ルドルフがそのことを知っていたかのように話を続けた。

 

「うむ、それがかなり好評でね。是非今年も継続してやってくれとお願いがあった。そこでだ」

 

「うんうん」

 

「スターにテイオー、私達の喫茶店を手伝ってはくれないか?」

 

「いいよ!」

 

 ルドルフからのお誘いに細かい話を聞かずに、テイオーが速攻で了承してしまう。

 俺は去年の聖蹄祭に行ったわけではないのだが、資料の記憶を呼び起こすと確かかなり賑わっていたらしい。

 それもそのはず。この喫茶店はルドルフを中心にエアグルーヴやフジキセキなど、G1を取った有名なウマ娘が名を連ねていたらしい。

 そりゃこれだけ豪華なウマ娘が集まってくれたら、ファンとしては卒倒ものだろう。

 そんな喫茶店にテイオーも出て欲しい……というのは俺としてもありがたい申し出だった。

 これでテイオーが何か出し物をするという問題も解決するし、テイオーもルドルフと一緒に入れて大喜びだろう。

 しかし、ルドルフにテイオーが喫茶店をやるのか……。これは集客率が凄いことになりそうだなと思っていると、ルドルフの言ったことが何か引っ掛かる。

 

「なんで、俺も誘われてるんだ……?」

 

「ん……? あぁ、単純に今回のコンセプトにスターが合っていると思ったからさ」

 

「コンセプト?」

 

 喫茶店にコンセプトとは。何か出す料理とかにこだわるのだろうか。

 でも、俺は普通の一般トレーナーの一人。

 G1ウマ娘とは釣り合いが取れるとは到底思えないのだが……

 

「今回のコンセプトはずばり……執事喫茶だ」

 

「おぉ~!」

 

 テイオーが目をキラキラとさせながらルドルフのいう事に喰いつく。

 コンセプトってそっち方向なのかと心の中で思いつつ、俺は話の続きを聞いた。

 いわく執事服を着てファンをお出迎えし、来てくれた人とコミュニケーションを測るのだそうだ。

 飲み物や食べ物を提供はするが、あくまでそれはおまけで本体はファンとの交流。

 今の時代、メイド喫茶とかもあるしそれと同系統の奴だろう。

 とそこまで、情報を整理したがそれでも俺が誘われる理由がいまいちピンとこない。

 俺が頭を捻っていると、ルドルフがくすりと笑って俺に対して口を開いた。

 

「普段からスーツを着ているから執事服も似合うと思ってね? どうだろうか」

 

「トレーナーの執事服!? 見たい見たい!」

 

 そうルドルフが提案してくると、テイオーがきらきらした目で俺のことを見てくる。

 そんな適当な理由で俺が喫茶店に出てもいいのだろうか。

 いや、ダメでしょ。明らかにバランスが取れていない。

 俺が自分で無理だと結論づけていると、ルドルフがそれを察したのか別の案を出してきた。

 

「無理にとは言わないが……。 よければ裏方として手伝ってくれないだろうか? 人手が欲しくてね」

 

「あー、それなら。大丈夫かな」

 

 あくまで表に立って接客するのはテイオーやルドルフで、俺が裏方として働くならば個人的には問題ない。

 聖蹄祭の日には特にやることもないため、こうやってテイオーの手伝いをするのならばトレーナーとして働いているということになり予定も埋まる。

 俺はあまり表に出ることは好まないが、こうやって裏方としてテイオーのファンに陰ながら感謝するのは大事だ。

 そう思った俺は、ルドルフに対してオッケーと返事をした。

 

「助かるよ。人手は多いに越したことは無いからね」

 

「ちぇー、トレーナーの執事服見たかったのになぁ」

 

 テイオーが不満気にぷんぷんと言った様子で文句を言うが、別に俺のを見たって得はあんまり無いだろうに。

 俺が残念だったなという意味を込めてテイオーに視線を送ると、ルドルフがにやりと口を開いて衝撃的なことを発言してきた。

 

「あぁ、裏方も執事服は着るよ。残念だったね、スター」

 

「え」

 

「ホント!?」

 

 机にばんと手が付く勢いで、テイオーが前のめりになる。

 そして彼女が上目づかいで、俺のことをジーッと見てきた。

 

「ねぇ、トレーナー。お願い!」

 

 うっ。そんな曇りない眼で見つめられると、俺が強く出れないじゃないか……

 助けを求めるようにルドルフに視線を送ると「諦めたまえ」とそっと目を閉じられた。

 テイオーにこれだけ期待されてるし……まぁ、執事服だったらまだ恥ずかしくは無いからいいかな……

 かくして。俺は聖蹄祭で、執事喫茶の裏方として働くことになったのであった。

 

~~~~~~~~

 それから約一週間後。

 学園内の空気もどこかそわそわとしだしていたが、無事に準備も終わって聖蹄祭当日になった。

 トレセン学園は知っての通り、かなり広い。

 そこにまるで夏祭りのように出店や簡易的なお店が、ところせましと設置されている。

 トレセン学園の校舎内にも展示物が設置されているらしく、外も中も出し物でいっぱいだ。

 そして聖蹄祭当日の朝、俺たちはルドルフたちが出す喫茶店の後ろに集合していた。

 そこにはルドルフのほかに、寮長であるフジキセキ、ヒシアマゾン。生徒会メンバーであるエアグルーヴ、ナリタブライアン。更には三冠ウマ娘が一人、ミスターシービー。スーパーカーことマルゼンスキーまでいた。

 ここに集まったメンツはレジェンドのウマ娘ばかりであり、俺の肩身が自然と狭くなるように感じる。

 というかよくこれだけのウマ娘を集めることが出来たな……と心の中で戦慄しつつ、俺はすーっとテイオーの後ろに隠れた。

 

「? どうしたの?」

 

「いや……ちょっとメンツが豪華でな……」

 

「ボクのトレーナーなんだからもっと胸張ってもいいんだよ?」

 

「そうですよ……三冠ウマ娘のトレーナー……。かなり凄いことですよ……?」

 

 そう俺の隣で言ってきたのは、黒く長い髪を携えたウマ娘。

 まだデビューはしていないが、俺の担当ウマ娘で俺の妹。マンハッタンカフェが励ましてくれた。

 なぜここにカフェがいるかというと、俺が喫茶店を手伝うことを彼女に伝えた結果「私もやります」と立候補してくれたので、こうして手伝いに来てもらったというわけだ。

 ルドルフにはしっかり連絡して増員の報告はした。すると彼女は手伝ってくれるならとても助かるよと言ってくれたので、ありがたくカフェにも協力を仰ぐことにしたのだ。

 俺が少しおどおどして二人からシャキッとしろと言われると、ルドルフが息払いをしてゆっくりと話始めた。

 

「みんな、今日は集まってくれてありがとう。聖蹄祭はファン感謝祭とも呼ばれている。今まで私たちが支えて貰った恩を、ファンの皆様に返していこう」

 

 ルドルフが真面目な話をして最初の挨拶をすると、全員の気が引き締まった気がする。

 その後エアグルーヴさんが着替えの指示をしてくれたので、俺たちは更衣室に移動して用意してくれた執事服に着替え始めた。

 渡された服を手に取ってみて分かったのだが、明らかに安物の生地とかではなく材質がかなりしっかりとしている。

 お嬢様ウマ娘が多いトレセン学園だ。執事とかいるウマ娘の誰かから借りたのかなと思いながら、袖を通すとぴったりと自分にフィットした。

 いつも着ているスーツと見た目的にはほぼ一緒なのだが、ちょっと雰囲気が変わる気がするのは何故なのだろう。

 丁寧に服を着ていって、最後に白い手袋をきゅっと嵌めたら準備は完了だ。

 だがちょっと不安だったので、テイオーとカフェに確認してもらおうと声をかけた。

 

「大丈夫か? 変なところとか無いかな」

 

 その場でくるりと一回転して、執事服をたなびかせる。

 すると、それを見たカフェがにこりと微笑んで俺に感想を言ってくれた。

 

「えぇ……とても似合ってますよ。流石ですね……」

 

 そう褒めてくれたカフェも着替えが終わっており、執事服をその身に纏っている。

 それを見た俺の率直な感想だが、かなりかっこいいと思ってしまった。

 カフェの儚げな雰囲気にマッチしており、すぅと消えてしまいそうな微笑みをしている。

 これは自分の妹ながら、かなりイケメンに仕上がってしまったのではないだろうか。

 

「カフェもかっこいいぞ。凄い似合ってる」

 

 俺がそう褒めると、嬉しそうに耳を立てて俺の方に近寄って来る。尻尾もゆらりと左右に揺れており、かなり上機嫌のようだ。

 そのまま俺がカフェの頭にぽんと手を置いて撫でると、彼女は目を細めて抵抗せずに享受した。

 その後一旦カフェの頭を撫でるのをやめて辺りを見渡すと、他のウマ娘も着替えが終わったのか自分の持ち場に移動しようとしている。

 俺も裏方として働くために喫茶店へ移動しようとすると、ぽつんと一人座っているウマ娘が視界に入った。

 どうしたのかと思ってしっかりと見ると、そこには執事服を着たテイオーがぽけっと俺の方を見ながら椅子に座っている。

 容姿端麗ということも相まって執事服が良く似合っているなと思っていると、テイオーがぴくりと動いた。

 

「ト、トレーナー。すっごい似合ってるよ! かっこいいね!」

 

「そうか? なら良かった。テイオーも似合っているぞ」

 

「ふぇ……。あ、ありがと……」

 

 俺が素直に思ったことをテイオーに伝えると、何故か彼女の頬が少し赤くなってそっと俯く。

 あれ。テイオーはこういう褒め言葉には強いと思っていたけど……照れる彼女の姿を見るのは珍しいな。

 テイオーが座ったまま足をもじもじとしていたので、俺はぽんと彼女の頭に手を置いて囁く。

 

「ほら、ファンが待ってるから行こうか」

 

「ふぁ、ふぁい……」

 

 テイオーが気の抜けた返事をすると、ゆっくりと立ち上がってふらふらと喫茶店の方へ向かっていった。

 俺もついて行こうかと思ってカフェの方を見ると、呆れたような目でじーっと見つめてくる。

 

「今のは姉さんが悪いですよ……」

 

「え? 俺なんかダメなことした……?」

 

「はぁ……。罪なウマ娘ですね……」

 

 そう言い残してカフェは、先に出口の方へ向かっていってしまう。

 俺はなにかしたかなと自分の行動を振り返りながら、喫茶店へ向かうことにした。

 

~~~~~~~~

『これより聖蹄祭、開催致します!』

 

 そんな女性の声がスピーカーを通して学園内に響き渡る。

 午前十時。聖蹄祭開始の合図が宣言された。

 ぱちぱちと拍手の音が辺りから聞こえてくる。

 俺とカフェは裏方の仕事ということで、お客さんに出す飲み物やお菓子の準備をしていた。

 そこに最初は表に出ないフジキセキさんとヒシアマゾンさんが、一緒に手伝ってくれている。

 この執事喫茶はローテ制になっており、ファンと対応するウマ娘、裏方として働くウマ娘、休憩するウマ娘と分かれていた。

 最初はテイオー、ルドルフ、シービーさん、ブライアンさんが接客役らしい。

 三冠ウマ娘勢揃いでお出迎えしてくれるこの喫茶店なんて、この聖蹄祭でしか見られないだろう。

 そうしていると、最初のお客様が来たのかルドルフの声が聞こえた。

 

「お帰りなさいませ、お嬢様」

 

 そう言った直後、女性の悲鳴のような声が上がる。

 俺が予想した通り、ファンの一人がやられてしまったようだ。まぁ、気持ちは分かる。

 俺もトレセン学園のトレーナーになって感覚が鈍ってきているが、本来であれば手を伸ばしても近づけないスターウマ娘が目の前で対応してくれるのだ。

 ファンにとってこれ以上の喜びはないだろう。

 因みに聖蹄祭は一般人が入場するにはチケットが必要であり、人数制限がかかっているとのこと。

 この世界のウマ娘人気を考えたら、無制限に人をいれたら大変なことになってしまうのは目に見えているので妥当と言った所か。

 がやがやと接客スペースに人が集まって来る音が聞こえ始める。

 それからは注文に合わせて、飲み物をカップに注いだりお盆にお菓子を乗っけたりしていた。

 食べ物や飲み物は基本最初から用意してあったものをお盆に置くだけなので、そこまで労力はかからない。

 だが、唯一めちゃくちゃこだわっているメニューがあった。

 それが、カフェのお手製コーヒーである。

 一体どこから持ってきたのか分からないミルで、ごりごりと豆からコーヒーを淹れている。

 聞いたところによるとコーヒー豆も持参したらしい。

 

「カフェってコーヒー淹れるの趣味だったんだっけ?」

 

「はい……機材とかも全部自分で揃えました……。正直寮の部屋に置けないくらいだったので……タキオンさんの部屋を貸して貰えて助かりましたね……」

 

 カフェがコーヒー好きだということは少し前に耳にしていたのだが、ここまで本格的な機材を揃えてやっているとは思わなかった。

 いわゆるガチ勢というやつなのだろう。

 

「私がいる間……コーヒーを好きに淹れていいとルドルフさんから許可を貰いました……。お客さんに飲ませるコーヒー……せっかくなら美味しいものをお出ししたいです……」

 

 カフェの献身的な気遣いで淹れてくれたコーヒーを味見させてもらったが、市販のコーヒーよりもかなり味わい深くコクというのを感じることが出来た。

 コーヒーでここまで「美味しい」と感じたのは初めてかもしれない。

 そんなコーヒーの良い匂いが充満している室内で、俺たちは特に詰まることも無く順調に作業を進めていた。

 

「すまない、スター! これそっちに持って行ってくれないか?」

 

「了解です」

 

 ヒシアマゾンさんが準備したお盆を俺はバックスペースから指示された場所へ運んでいく。

 裏で準備した食べ物を一旦中間地点にある机に置いて、外から接客役が取りに来て提供する。

 そのため、俺の姿が外に出ることはない。だが彼女たちが接客している様子は、仕切られたカーテンからちらちらと見ることが出来た。

 

「はーい! 今からじゃんけんしてボクに勝てたら、一緒に写真取ってあげる!」

 

 テイオーが喫茶店の中で一段高いところに立って、右手を上に上げているのが見える。

 どうやらじゃんけん大会みたいなのをやって、写真を撮る人を決めているらしい。

 こうやって写真を撮る人を決めるのは、恐らく全員が撮れるとなったら大変なことになるからだろう。

 ウマ娘とのツーショットなんて、一人一人対応していったらかなりの時間がかかる。

 給仕姿のウマ娘を写真に納めるのは自由らしいが、客側から接触するのは基本禁止だ。

 いくら治安がいいこの世界といえど、何をされるか分からないというのが全てだろう。

 だからこうしてミニゲームで楽しみながら、抽選を行っている。

 こうして始まったテイオーのじゃんけん大会は最後の一人になるまで続いて、勝った女の子の携帯を使って一緒にツーショットを撮っていた。

 かなり近づいての三冠ウマ娘とのツーショット。これは少女にとっても宝物になるんじゃないだろうか。

 そんな外の様子をカーテンの隙間から眺めていたら、カフェに裏側に呼び出されたので急いで戻る。

 テイオーはいつも通りの調子に戻っていたし、これは安心かな。

 こうして聖蹄祭の執事喫茶は順調に進んでいたのだが、ここで一つ小さなトラブルが発生した。

 

「ごめん! なんかお客さんが携帯を忘れちゃったみたいでさー! これ、後ろで預かってくれる?」

 

 そう言って裏側に入って来たのは、携帯を手に持ったテイオーだった。

 どうやら忘れ物が出たらしく、それを後ろで保管して欲しいとのこと。

 フジキセキさんが「取りに来るかもしれないしね」と言って、一旦預かってそれでも来なかったら学園祭の運営に届けようと提案してくる。

 俺がその落とし物をちらっと見ると、どこかで見覚えがあるストラップが付いた携帯だった。

 

「あ、その携帯」

 

「知ってるのかい?」

 

 知ってるも何も、先ほどテイオーとツーショットしていた女の子が使っていた携帯だ。

 少し特徴的な人参のストラップをしていたから直ぐに分かった。

 それをフジキセキさんに説明すると、ふむと頷いてテイオーに訊ねる。

 

「彼女が出ていった時間は覚えているかい?」

 

「さっき出ていったばっかりだと思うよ。まぁ、気付くんじゃないかな」

 

「じゃあ、俺が届けましょうか?」

 

 先ほど出ていったばかりならそこまで遠くに行って無いだろう。

 幸いなことに、ここへ来るには一方通行の道を通らなければいけない。

 混むことを前提にして、人数を整理しやすいよう道が設定されている。

 ならば、見つけるのもたやすい。

 そう思って俺が手を挙げてみたのだが、フジキセキさんは少し渋った顔をした。

 

「……顔は覚えているのかい?」

 

「大丈夫です。一回見たので」

 

 俺は一回見たら基本顔は忘れない。

 なんならテイオーと一瞬だけだが一緒にいた人だったため、服装まで全部覚えている。

 これなら人違いすることはないだろう。

 

「まるでルドルフみたいだね……。なら、任せようかな。頼んだよ」

 

「頼まれました。じゃあ、テイオー、カフェ。ちょっと行ってくるな」

 

「トレーナー、気を付けてねー!」

 

「はい、ほんとにお気をつけて……」

 

 何か含みのある言い方をしてきたカフェを背に、俺は落とし物を届けに出口に向かった。

 執事喫茶の裏側の出口からこっそりと出て、正面の入口へと移動する。

 そこには多くのトレセン学園生徒だけでなく、私服の一般人やウマ娘も多くいた。

 この人数の多さと熱気は、G1レースがある時のレース場を彷彿とさせる。

 さて、外に出たからには俺のやるべきことをしなければ。

 なんとか人混みを縫って、お目当ての人を探そうと辺りを見渡す。

 記憶を思い出しながらきょろきょろと視線を回していると、意外とあっさりと探し人を見つけることが出来た。

 俺はその少女に近づくと、とんとんと肩を叩いて話しかける。

 

「すみません、先ほど喫茶店で携帯落としませんでしたか? 届けに来たんですけど……」

 

「あ、ありがとうご……ひょっ!?」

 

 くるりと体を回して振り返ってきた少女と目が合った瞬間、彼女の体の動きが固まった。

 なんかぽかんと口を開けて、俺の顔をじっと見つめている。

 ……なんか、顔についていたかな。

 

「か、かっこいい……」

 

「え」

 

「あ、あの! すみません、一生応援します! これから! それでは、失礼しますー!」

 

 携帯をぽんと手渡しすると、彼女が突然動き出してどこかへ走り去っていってしまった。

 顔を真っ赤にしてその場から逃げるかのように行ってしまった彼女に、何が起こったか分からずぽかんとしていると周りの人からの視線を感じる。

 ひそひそという話し声が聞こえてきたと思うと、その場にいたとある少女が俺に対して話しかけてきた。

 

「す、すみません……。 トレセン学園の生徒さん、ですよね……?」

 

「いや、俺は」

 

「あの! どこのチームに所属しているとかあるのでしょうか! デビュー戦とかは!」

 

 話も聞かずに、興奮気味に俺に質問してくる。

 どうやら俺がトレセン学園の生徒だと勘違いしてしまっているらしい。

 俺はトレーナーで、競争ウマ娘じゃないよと説明したいが……ここでそれを言ったら逆効果か……? 

 俺が何もできずにあわあわとしていると、周りから「かっこいい~」とか「髪、綺麗~」、「執事服似合ってる~」等の声が聞こえてくる。

 間違いなく俺のことを指しているのだろうが、不特定多数の人に褒められるという未知の経験に頭がパンクしそうになっていた。

 た、たすけてテイオー……

 

「あー! トレ……んぐっ! スターこんなところにいた!」

 

 そこに見える一筋の光。

 帰りが遅いことを心配してくれたのか、テイオーが俺を探し出してくれた。

 助かった……このまま、連れて帰ってくれ……

 そう期待してほっと息を吐いたのだが、ここで忘れてはいけないのはテイオーの知名度である。

 三冠ウマ娘が執事服姿でファンの前に出て来たのだ。しかもお店の外に。

 するとどうなるか──

 その瞬間、ざわざわと辺りが湧き上がって色んな人が集まってきた。

 え、これどうするの。大丈夫? 

 俺がテイオーにちらっと視線を向けると「任せて」と言わんばかりに、彼女がぱちんとウインクして返してきた。

 そしてテイオーがすぅと息を吸うと、周りに集まった人に聞こえるように声を出した。

 

「彼女はボクの大事なウマ娘。会いたい人は……もしかしたら執事喫茶に来れば会えるかもね♪」

 

 そのままぐいっと俺と腕を組むと、人混みの中に突っ込んでいく。

 俺はテイオーに引っ張られるままに、喫茶店がある方向へと歩みを進める。

 ぐいぐいとかなり強い力に抵抗しないままにしていると、俺たちはいつの間にか喫茶店の裏側の方へ戻ってきていた。

 

「助かった……テイオー、ありがとう……」

 

「あ、の、さぁ?」

 

「へ」

 

 テイオーが怒り半分嬉しさ半分といった謎の配分がされた表情で、俺のことを睨みつけてくる。

 かなり長い間彼女と付き合ってきたと思っていたが、こんな表情を見たのは初めてだ。

 そんなテイオーが俺に対して少し語尾を荒げて説教してくる。

 

「トレーナーはさぁ! その恰好で外に出たら、他の人を魅了しちゃうでしょ! もっと自分がイケメンだって自覚持ってよね! もう!」

 

「え、あ、あぁ。なんか、ごめん」

 

 テイオーが早口でまくしたてて来たセリフに、俺はなんとなく謝ることしか出来ない。

 なんかちょっと理不尽なことで怒られてないかと思っていると、後ろの出口からカフェが姿を現した。

 そして、ちらりと俺たちを一瞥すると──

 

「全く……罪なウマ娘たちですね……」

 

 そう小声で呟いて、そっとこめかみを押さえるのであった。

 

 ~~~~~~~~

 執事喫茶で働き始めて数時間後。時間としては午後の一時頃。

 俺とテイオーとカフェは休憩ということで、執事服から着替えて普段の格好に戻っている最中だった。

 

「やっとお祭り回れるね! ねぇ、トレーナーにカフェ。どこにいく?」

 

 テンション高めにテイオーが、俺たちのことを誘ってくる。

 どうやら俺たちと一緒にお祭りを回ることは確定しているらしい。

 まぁ、この後も特に用事は無いから大丈夫だけどさ。

 

「取り敢えずご飯にするか……? お腹空いたでしょ」

 

 聖蹄祭は俺たちのように喫茶店を経営する者もいれば、屋台をやったり、展示会をしたりするウマ娘もいる。

 屋台は多く出ているので、何か食べようとするならばそこに行けば困らないだろう。

 俺がそこに行こうかとやんわり提案してみると、二人も乗り気になってくれたのかこくりと頷く。

 じゃあ、みんなで行くか──

 

「待ってください……姉さん」

 

 歩き始めようとした瞬間、カフェにぐっと右手を掴まれて妨害される。

 いきなりどうした……? 

 首を後ろに向けてカフェと目を合わせると、彼女がジト目で俺を見つめてくる。

 

「姉さんはさっきのことを忘れたんですか……? その恰好で歩いたらまた大変なことになりますよ……?」

 

「スーツでもか? でもこれしか服無いぞ」

 

「木を隠すなら森の中……。 ウマ娘を隠すなら……トレセン学園の中です」

 

 その言葉を待っていたと言わんばかりに、テイオーがとあるものをバッグから取り出す。

 そして、それを俺の前にばっと広げて見せてきた。

 いや、それって──

 

「トレセン制服では……?」

 

「そうだよ。トレーナーにはこれに着替えて貰うからね」

 

 恐らく俺の部屋のクローゼットに段ボールのまま封印していた制服が、突然俺の目の前に現れる。

 いや、おかしいでしょ。

 別にお祭りを回るのに、そんなの必要無い……よな? 

 

「これを着ていれば……テイオーさんと一緒にいても違和感はないでしょう……。きっと、ただの友人に見えるはずです……」

 

「お願い! ボクを助けると思ってさ!」

 

 テイオーが上目遣いで、俺におねだりする様に見つめてくる。

 カフェもカフェでうるうると、俺に目線を送って来た。

 そんな二人のお願い攻撃に結局折れてしまった俺は、ぽつりと彼女たちに呟く。

 

「分かった……。今日だけだぞ……」

 

 そう言うと二人は「いえーい」と言いながらハイタッチを交わす。

 もしかしてテイオーとカフェ、グルだった……? 

 だが承諾してしまったのは仕方ない。

 俺はテイオーから制服をしぶしぶ受け取ると、スーツを脱ぎ始めてもう一度着替え始める。

 まさか制服をこんなところで着る羽目になるとは思っても無かった。

 俺は着たことの無い制服になんとか袖を通すと、きゅっとリボンを結んだ。

 

「これでいいか……?」

 

「完璧」

 

「最高です……」

 

 二人から食い気味のお墨付きを貰ってしまった。

 前に水着とか着てある程度女の子の格好に慣れたと思っていたのだが、まだ全然経験値が足りていないようで羞恥心が大きくなる。

 スカートで過ごすのは未知の領域で、とにかく足元が不安になってしまう。

 俺がもじもじと足を閉じていると、テイオーが右手をカフェが左手を掴んでくいっと引っ張ってきた。

 

「いこっ! トレーナー!」

 

「いきましょう……姉さん」

 

 そんな二人の嬉しそうな顔を見ていると、俺が制服を着た意味もあったのかもしれないと思える。

 今日は聖蹄祭、お祭りだ。

 お祭りの魔力に俺も当てられて、テンションが上がってしまった。

 そういうことにしておこう。

 それにもし──俺がトレセンに入学していたら、こんな光景も日常だったのかもしれない。

 たまには年相応になっても、バチは当たらない……よな? 

 俺は転生者やトレーナーという立場を一度置いて、二人と聖蹄祭を楽しむことにした。

 

~~~~~~~~

 テイオーとカフェに挟まれながら、人混みの中を三人で歩く。

 最初に向かったのは、屋外に出てる屋台があるスペースだ。

 まるで夏祭りのように焼きそばやお好み焼きの屋台が並ぶ中を歩いていると、いい匂いが漂ってきて食欲を刺激される。

 何を食べようかなと思いながら辺りを見渡していると、俺の耳に聞きなれた声が入ってきた。

 

「おっ! スターにテイオーやん!」

 

「あれ、師匠じゃん。お店出してたんだ」

 

 テイオーが師匠と言ったのは、かのレジェンドウマ娘。長い葦毛にちょこんと右耳に耳飾りを乗せた少女。身長は低めだが、そこに宿る闘志は大きい。俺たちがいつもお世話になっているタマモクロスさんが、制服の上にエプロンをつけてたこ焼きを焼いていた。

 隣を見ると、タマモクロスさんの他にも同じチームのイナリワンさんとクリークさんが一緒に料理をしていた。

 屋台の奥の方では彼女達のトレーナーであり俺の先輩の谷口さんが座っていて、俺に手を振ってきた。

 手を振り替えて返事をすると、その隣にぽっこりとお腹を膨らませたウマ娘が転がっている。

 なんだ……あれ。

 

「あぁ、あれは気にせんでええで。さっきまで食ってただけのウマ娘や」

 

「む。それは違うぞタマ。私もしっかりたこ焼きを作っていた」

 

「それ以上に食ってちゃ意味ないっちゅーねん! 減る量の方が多かったわ!」

 

 タマモクロスさんの鋭いツッコミがオグリキャップさんに対して飛ぶ。その隣でクリークさんが苦笑いしていた。

 そんなタマモクロスさんは俺たちの方を見ると、驚いたような顔をして目を少し見開いた。

 

「スター、制服着てるやん……。実は生徒やったんか……?」

 

「いやこれはちょっと……紛れるために?」

 

「まぁなんにせよ似合ってるで。可愛いやんけ」

 

「……どうも」

 

 やはり他人に褒められるのはむずがゆく、気の利いた返事が出来ない。

 俺が無意識にタマモクロスさんから目線を逸らしてしまうと、隣でテイオーとカフェがニコニコの笑顔で立っていた。まるで自分が褒められたかのように。

 気分が良くなっているテイオーは、そのままの勢いでタマモクロスさんに対して注文をしていた。

 

「師匠ー! たこ焼き三つちょうだい!」

 

「おーきにな! 今日はウチが奢ったるから持ってき!」

 

「ホント!? わーい、ありがと!」

 

 くるりと生地をひっくり返して、たこ焼きをプラスチックの容器にスムーズに乗っける。

 そしてそれをイナリワンさんに手渡すと、彼女がソースとマヨネーズをかけて俺たちに手渡してくれた。

 出来立てで熱いたこ焼きは、持つのも一苦労だ。

 

「ありがとうな、タマモクロスさん」

 

「ええて。ウチとあんたとの仲やろ?」

 

「ありがとうございます……姉さんと仲良くしてくださって」

 

「ええって、ええって! ……姉さん? え、スター。お前、姉やったんか!?」

 

「ん、まぁ一応な」

 

「はー、マジかー……。なんか今日一番驚いたわ」

 

 そんな驚いているタマモクロスさんにお礼を言って、俺たちはたこ焼きを持ちながら座れる場所を探してまた移動を始める。

 少し歩くと飲食スペースがあったので、座ってアツアツのたこ焼きを食べるとお腹も結構膨れた。

 ウマ娘用なのか、かなり量があり一個一個にボリュームがある。俺にとってはこれだけでも十分すぎるほどだった。

 食べ終わって休憩していると、隣でテイオーが携帯を操作し始める。

 何をしてるのかなと思っていると、彼女が俺に画面を見せてきた。

 

「トレーナー、次ここに行ってみない?」

 

「メジロ喫茶? なにここ……」

 

「名前が安直すぎませんか……?」

 

「なんかマックイーンがいるらしいよ。気になってさ」

 

 どうやらテイオーが見ていたのはトレセン学園のホームページらしく、そこには今日やっている聖蹄祭のパンフレットが乗っていた。

 名前の通りのメジロ家のウマ娘が働いている喫茶店らしく、俺たちがやっていたものと似ているのだろう。

 俺たちはテイオーに提案されたところに行くため、一旦休憩所から離れて学園の校舎内に入る。

 がやがやと騒がしい廊下を三人で歩いていくと、一つ抜けて騒がしいスペースがあった。

 

「あれかな! メジロ喫茶! 結構な列になってるねー」

 

「凄い悲鳴が上がってるような……。なんだあれ……」

 

 きゃーという甲高い声が聞こえてくる教室に近づいて、列になっている場所に俺たちは並ぶ。

 列で待機し始めて少し待っていると、数十分くらいで前に進んで教室の入り口に辿り着くことが出来た。

 

「あら、テイオーにスターさん。いらっしゃいませ。メジロ喫茶へようこそ」

 

 そう言って優雅にお辞儀をしてきたのは、俺とテイオーの共通の知り合いのウマ娘。

 綺麗な葦毛の髪をたなびかせながら、クラシカルタイプのメイド服を着た綺麗な少女は菊花賞ウマ娘のメジロマックイーンだ。

 恐らくメジロ家のメイド服を借りたのだろうか。上品で綺麗なメイド服を着ている彼女は、可愛らしさに加えて美しさを兼ね備えていた。

 

「ご案内しますわ。こちらへどうぞ」

 

 教室の中に入るといくつかのテーブルが設置されており、そこにお菓子や飲み物が提供されている。

 特に紅茶のいい香りが漂ってきていて、これだけでいい茶葉が使われているのが分かった。

 そんな綺麗な喫茶店の装飾に改造された教室をマックイーンに案内されて、指定された席に座る。

 彼女にメニューを渡されてそれを確認してみると、割と多くの種類のお菓子や飲み物があった。

 

「ボク、この紅茶とおまかせお茶菓子で!」

 

「じゃあ、俺も同じにするかな」

 

「私は……コーヒーで……」

 

「かしこまりましたわ。少々お待ちください」

 

 そう言うとマックイーンが裏側へ移動して、商品を取りに行く。

 辺りを見渡してみると、マックイーンの他にもメイド服を着たウマ娘が接客している。

 メジロライアンにメジロアルダンだろうか。重賞レースを制した有名なメジロ家のウマ娘とこうして触れ合えるのだから、ファンとしてはたまらないだろう。

 座って頼んだものが来るのを待っていると、メニューを眺めていたテイオーが「あっ」と声を出しながら俺にとあるものを見せてきた。

 

「見て見て! メイド服着て記念撮影出来るんだって!」

 

「へー、こんなのあるのか。テイオー、着たいのか?」

 

「いやボク前着たしなぁ……」

 

「そういえばそんなことあったな……」

 

 思い出すのはダービー前に俺が無茶をして倒れた時のこと。

 その時にテイオーがメイド服を着て、俺にご奉仕しようとしてくれたのだ。

 そんなこともあったなぁと思い出に浸っていると、テイオーがにやりと笑って俺の方を見てくる。

 

「ねぇ、トレーナー。着てみない?」

 

「え」

 

「姉さんのメイド服……!」

 

 カフェがその言葉を聞くと、凄い勢いで食いついてくる。

 執事服を着てトレセン制服まで着たのに、これ以上着るとか今日だけでどれだけ着替えるんだ。そろそろ自分のスーツが恋しい……

 俺がやめてという視線を彼女たちに送ってみるが、二人はすっかり乗り気のようできらきらとした視線を送って来る。

 俺がその視線に耐え切れず横に目を逸らしていると、お盆に紅茶とお茶菓子を乗せたマックイーンが隣に立っていた。

 俺が彼女に対して助けを求めようとすると、先に彼女がにこりと笑って口を開く。

 

「裏に撮影スペースがありますわ。そこならば他の人に見られることはありませんわよ」

 

 何故かマックイーンまで退路を塞いできた。

 じーっと見つめてくる彼女たちの攻撃に、俺は結局ぽっきりと折れてしまった。

 

「ちょっとだけだからな……」

 

 なんか俺、あまりにも押しに弱くないか? 

 いやでも考えて欲しい。自分の担当ウマ娘と妹に上目づかいでお願いされたら、それに応えちゃうのも仕方ないと思う。

 てかもうここまで着替えてるんだから、あんまり変わらない気がしてきた……

 

「ところでスターさん。制服似合ってますわよ」

 

 今自分が揺らいでいる時に、そうやって褒めてくるのはちょっと効くからやめてほしい。

 

~~~~~~~~

「可愛い! トレーナー、可愛いよ!」

 

「……似合ってますよ、姉さん」

 

「え、姉さん? スターさん、お姉さんでしたの?」

 

 メジロ喫茶で出された紅茶とお茶菓子を堪能した後、俺はテイオー達に連れられて裏側のスペースに連れてこられていた。

 簡易な撮影スペースに置いてあった更衣室でメイド服に着替えた俺は、三人の前に姿を現す。

 クラシカルタイプのメイド服なので露出は控えめになっており、着てしまえば割とそこまで気にならなかった。

 これならさっきの制服の方が足元が不安になるな。あれなんか、徐々に毒されている気がする。

 

「トレーナー! お帰りなさいませお嬢様って言って!」

 

「調子に乗るな」

 

「あう」

 

 テンションが上がって変な事を口走ったテイオーを軽くチョップして黙らせる。

 流石にそこまでサービスするのはまた別のお話だ。

 

「記念撮影だけしてしまいますわね。そこに立って下さいまし」

 

 そうマックイーンに指示されると、テイオーとカフェが俺を挟み混むように移動してきた。

 両脇をきゅっと二人に固定されて身動きが取れない中、かしゃりとシャッター音が響き渡る。

 

「はい、綺麗に取れましたわ」

 

「テイオーさん……あとで私の携帯にも送ってくださいね……」

 

「勿論! マックイーンありがとねー!」

 

 わいわいと騒いでいる三人を横目に、俺はふぅと溜息を付く。

 なんか今日は色々あったな……

 執事服着て騒ぎになったり、制服着て色々な人に褒められたり。そして、現在進行形でメイド服を着たりと。

 なんかばたばたと騒がしい聖蹄祭だったけど……こんな日もたまには悪く無いかな。

 そんなことを思いながら、俺たちの聖蹄祭の時間はゆっくりと過ぎ去っていくのであった。

 

~~~~~~~~

 聖蹄祭当日の夜。

 俺は片づけを手伝った後、自室に帰ってベッドに倒れ込んでいた。

 

「ちょっと疲れたな……」

 

 メジロ喫茶を訪れた後もネイチャが出していた出店に行ったり、タキオンが出していた謎の実験スペースに行ったりと聖蹄祭を隅々まで回っていた。

 楽しかったが二人に色々と振り回された結果、いつもより疲労が溜まっている。だが心地よい疲労なので、俺も満足しているのだろう。

 ベッドで少しゴロゴロしていると、こんこんとドアのノック音が聞こえた。

 こんな時間に誰かなと思いつつベッドから立ち上がってドアを開けると、そこには寮長であるフジキセキさんが段ボールを抱えて立っていた。

 

「やぁ、夜にすまないね。君にお届け物だよ」

 

「はぁ、ありがとうございます」

 

 そう言ってそこそこのサイズの段ボールを彼女から手渡しされる。

 持った感じはそこまで重い感じはせず、この大きさにしては軽いくらいだ。

 俺に荷物を渡したことを確認したフジキセキさんは、おやすみと言って去っていってしまった。

 受け取った段ボールを一回床に置いて、外見を確認してみる。

 差出人どころか宛先まで書かれていないところをみると、俺が知らないうちにネットとかで何か頼んだという訳ではなさそうだ。

 段ボールの中を確認するために開けてみると、そこには何かの服が綺麗に梱包されて入っていた。

 なるほど。この大きさで軽かったのは、入っているのが服だったからか。

 とはいえ、俺自身服を頼んだ記憶が全くない。なんだろうこれ……

 俺が疑問に思っていると、中には服の他に封筒が入っているのが見える。

 封筒を取り出して開けてみると、そこには一枚の手紙が入っていた。

 

「差出人……テイオーとカフェ……?」

 

 二つに折りたたまれた手紙を開いてみると、差出人の欄にテイオーとカフェの文字があった。

 俺の疑問が深まる中、手紙を読んでいくとそこには──

 

『トレーナー! 誕生日おめでとう! 遅れちゃったけどプレゼントだよ!』

 

『姉さん、遅くなりましたが誕生日おめでとうございます。私たちからのプレゼントです。受け取ってください』

 

 そう二人の手書きの文章が、手紙の中に収まっている。

 それを見て俺はようやく思い出した。

 

「あー、俺誕生日だったか……」

 

 俺の誕生日は九月二十日。菊花賞が十月末。聖蹄祭が十一月に行われるため、それに向けて仕事をしていたためか自分でもすっかり忘れていた。

 テイオーに俺の誕生日なんか伝えたかなと思ったが、きっとカフェが教えたのだろう。

 忘れていた誕生日を今になって祝ってくれるとは思わなくて、自分のテンションも少し上がる。

 そうなるとこれは俺への誕生日プレゼントということになるが、一体どんな服を買ってくれたのだろうか。

 俺は綺麗に折りたたまれた服を段ボールから取り出して、梱包を開ける。

 広げてみると、上も下も更には靴まで入っていた。

 上はテイオーの勝負服のような模様が散りばめられているコートがベルトできゅっと纏められていて、下のズボンは少し短めのショートパンツみたいになっている。

 ロングブーツに靴下もついており、一式のセットになっていた。

 

「なんか凄い良い生地使われてないか……? てかこれ、絶対私服とかじゃない……」

 

 私服とかに使う布地ではなく、全体的に高級感が漂っているこの謎の服。どちらかというと、何か式典とかに参加する時の正装みたいだ。

 俺は一度服を眺めるのをやめて手紙を読み進めてみると、最後の方にとんでもないことが書かれていた。

 

『最後になるけど、これトレーナー専用の勝負服だから! 大事にしてね!』

 

 そっか、勝負服か。だからこんなに重厚感があるのか……

 

「いや、おかしいでしょ」

 

 ここで忘れてはいけないのは、俺はトレーナーであるという事である。

 年齢的にはトレセン学園に通っていてもおかしくない年齢ではあるのだが、実際はウマ娘を指導する側。

 走ってレースに出るわけでも、ましてやG1レースに出走するわけでもない。

 

「でもまぁ……」

 

 きっと二人は俺のことを考えて送ってくれたのだろう。

 そう思うと、なんだかこの勝負服に愛着が湧いてくる。

 全く知らされていなかったのでサプライズとなったこの勝負服は、俺にとってとても嬉しい誕生日プレゼントだ。

 正直綺麗に保管しておきたい気持ちもあるが、やはり自分だけの勝負服を着てみたい気持ちもある。

 今日色々と着替えをさせられていたので、感覚が鈍っていたのかもしれない。

 俺は丁寧に取り出した勝負服を着るために、一旦スーツを脱いでそれに袖を通した。

 

「おぉ……」

 

 鏡で自分の姿を確認してみると、方向性としては可愛い系とかではなくカッコよさを押し出したスタイルとなっており、俺の好みに合う感じになっていた。

 ふりふりとしたスカートを履かされるよりも、こっちの方がしっくり来て少しテンションも上がる。

 しかもサイズもぴったりと合っていてとても動きやすく、今ならば走れそうな気がするくらいだ。

 勝負服に不思議な力があると言われてしまったら、今ならば信じてしまうかもしれない。

 耳と尻尾も自然に動いてしまい、自分が思っている以上に喜んでいるのが分かってしまった。

 そしてそのままの勢いで俺はビシッと上に三本の指を掲げると、足を突き出してポーズを取った。

 

「テイオーの真似……。な、なんかやってみると恥ずかしいな」

 

 自分でもテンションが上がってしまって変な行動を取ってしまい恥ずかしくなっていると、俺の後ろの方から声が聞こえてきた。

 

「あれ、続けないの?」

 

「えっ」

 

 その声を聞いた瞬間、体が固まる。

 ぎぎぎとなんとか首を回して視線を後ろに向けると、そこにはいつも見慣れたポニーテールを揺らしたウマ娘──トウカイテイオーが立っていた。

 

「なんで、テイオーがここに……?」

 

「いやー、ノックしてるのに返事が無くてさ。ドアが開いていたから入ってみたら、トレーナーがポーズ取ってたんだよね」

 

「うぅ……」

 

 担当ウマ娘に自分の恥ずかしい所を見られたおかげで、かーっと顔が赤くなる感覚がする。

 今だけはテイオーの前から消えていなくなりたい気分だ。

 俺がその場でうずくまってぷるぷると震えていると、テイオーがぽんと肩を優しく叩いてくる。

 

「かっこよかったよトレーナー。それに、プレゼント喜んでくれたみたいで嬉しいな」

 

「今はそっとしておいて……」

 

 結局その日の夜はテイオーが帰るまで、彼女が隣に立って凄くいい笑顔でにこにこしていたのであった。

 今日の教訓。部屋の戸締りはしっかり確認しよう。

 




スターゲイザーの勝負服イメージです。


【挿絵表示】


イラストを描いてくださった「おーか」さん。ありがとうございました。
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