そのウマ娘、星を仰ぎ見る   作:フラペチーノ

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3.旅立ち

 トレーナー試験が終了して二週間が過ぎた。

 俺は試験結果がネットでも見れるという事で、合格発表がある今日、朝からPCの前でずっと待機していた。

 発表は昼の十二時。 

 発表されたらすぐに確認出来るように、画面の前でそわそわしていた。尻尾も無意識に揺れるゆらゆらと揺れる。

 

「……来た!」

 

 十二時ちょうど、俺は立ち上げておいたサイトに急いで自分の受験番号を打ち込む。

 受験生が皆このサイトを見ているのだろうか、表示が切り替わるのが遅い。

 パッと、一瞬サイトが白くなる。

 

 そこには自分の受験番号と共に「合格」の文字が書かれていた。

 

「……よっしゃぁ!」

 

 柄になくガッツポーズを取ってしまう。

 やはりいつになっても何かに合格すると嬉しいものだ。こっちに転生してから初めてだから余計に。

 合格を確認した後、すぐにDMを立ち上げ、帝王さんにメッセージを送る。

 

『トレーナー試験合格したぞ! 来年からトレセン学園でトレーナーとして働けるわ!』

 

 合格した報告メッセージを送って数分後。すぐに帝王さんから返信が来た。

 

『ホントに!? おめでとー! じゃぁ次はボクの番だね!』

 

『そろそろ試験なんだっけ?』

 

『そうそう! でもワガハイ天才だから絶対合格出来ちゃうもんね!』

 

 凄い自信だが、これくらい自信家の方がいいのかもしれない。

 それくらい中央のトレセン学園は狭き門なのである。全国から有数のウマ娘が集まり、そこからさらに試験で選ばれる。

 中央のトレセン学園に入る事はウマ娘の憧れの一つでもあるのだ。

 

『帝王さんも頑張れよ! 応援してるから』

 

『勿論! 約束の為にもボク頑張っちゃうもんね!』

 

 ……覚えてくれてたのか。俺も約束の為に頑張っていた所はあるのでなんというか、こう言ってくれて凄い嬉しい。

 

 そんな会話をDMでやり取りした後、俺はPCのメールに一通のメッセージが来てる事に気づいた。

 何だろうっと思って覗いてみると、差出名は「日本トレセン学園」と書いてあった。

 

 ……えっ、もしかしてあの合格通知がミスだったとか? 

 

 少し不安になりながらメールの内容を見てみると、どうやらトレーナー寮への案内みたいで合格した人に送られるメッセージのようだ。

 ほっと胸を撫でおろしながら、メッセージを読み進めていると何故か明らかにテンプレと外れた文章が書いてあった。

 

『ご連絡失礼致します。駿川たづなです。スターゲイザーさん、合格おめでとうございます。いきなり本題で申し訳ないのですが、スターゲイザーさん、トレーナー寮では無くウマ娘の寮に入るつもりはありませんか? トレーナー寮と違って料金は頂きませんし、同じウマ娘も多く住んでいるので暮らしやすいとは思います。ご検討宜しくお願い致します』

 

 なるほど。俺にトレーナー寮では無く現役ウマ娘がいる寮への入寮の勧めか。

 ……いやなんで? 

 俺は確かにウマ娘だし、中学三年生……トレセン学園に行く頃には世間一般的には高校一年生なので、年代も似通ってはいるが。

 先ほど送られてきたトレーナー寮への案内を読み返してみると、トレーナー寮に入ると少しだが家賃も発生するみたいだ。

 光熱費や水道代も自分持ちみたいだし、確かにこれならばウマ娘への寮に入った方がお得なのは理解できる。

 

 さてどうするべきか。

 ……でもわざわざ勧めてくれたのを無下にするわけにもいかないしなぁ。

 少し悩んだ結果、どうせなら勧めてくれたしお金も節約できた方がいいよねって事でウマ娘の寮に入寮する事にした。

 トレーナー寮で一人暮らしするのも少し不安なとこあるし、丁度いいかもしれない。俺引きこもりで基本生活力皆無だし。

 

 と言うわけでたづなさんに『ウマ娘の寮の方でお願いします』との旨で返信。

 すると数秒で返事のメールが帰って来た。早くね? 

 

『かしこまりました。こちらの方で寮長にお話を通しておくので、訪れる日付だけを聞かせて貰ってもよろしいですか?』

 

 との事だったので取り合えず家を出発する予定の日を送っておく。

 

 トレーナー試験も合格した。住む場所も予想以上に早く決まった。後は家を出る準備をするだけだ。

 

~~~~~~~~

「おばぁちゃん、今大丈夫?」

 

 試験の合格発表翌日。俺はおばぁちゃんにトレーナー試験に受かって、この家から出ていく事を伝えた。

 おばぁちゃんには今までで一番お世話になった人物だ。本当に幼少期からずっと俺の事を心配して育ててくれた。

 

「そうかい、そうかい。スターはやりたいことを見つけたんだねぇ」

 

 おばぁちゃんが嬉しそうに返事をする。

 

「…今まで本当にありがとう。俺、頑張るから」

 

「いいのよぉ。スターは好きな事をやりなさい。私はずっと応援してるからね」

 

 優しい笑みで俺に微笑んでくれる。ヤバイ泣きそうだ。

 するとおばぁちゃんが俺を優しく抱き寄せて、ぽんぽんと背中を叩いてくれた。

 

「ありがと……」

 

「うんうん、たまには甘やかさせてくれないと。スターは大人っぽいからねぇ」

 

 それは、とても温かい抱擁だった。

 

~~~~~~~~

 おばぁちゃんに家に出ることを伝えてから数日後、そしてたづなさんに伝えた寮を訪れる日の前日。俺はトレセン学園に行くための準備を進めていた。

 ……とは言ってもあんまり持っていくのも無いため、荷造りはすぐに終了。足りないものはあっちで買えばいい精神だ。

 キャリーバッグに荷物を詰め、自室の整理整頓を行う。俺の部屋は本当に物が最低限しか無く、片付けるのもすぐ終わってしまった。すっかり殺風景な部屋になってしまった。元から多く物があったわけではないが。

 明日は朝早く家を出るつもりなので、今日は早めに就寝しようと思いつつ寝る準備をする。

 そんな時突然、部屋のドアが三回ノックされる。

 

「……入っていいぞ」

 

「こんばんは……お姉ちゃん」

 

 ドアを開け入って来たのは、真っ黒な長髪の髪とウマ耳が特徴的な俺の妹、「カフェ」だった。

 その手には枕が握られていて、恰好がパジャマである事もあり、寝る準備万端だ。

 が、そんな恰好で俺の部屋を訪れるという事は……

 

「今日、一緒に寝てもいいですか……?」

 

 ですよね。

 

 因みになのだが、俺と妹の関係は悪くない。むしろ良好な部類だろう。

 よく妹が俺の部屋に訪れるので、勉強を教えてあげたり、一緒に遊んだりもした。

 ただ、俺と妹が会うと母親の機嫌が悪くなってしまうので、なるべく来ないようには言ってはいたのだが……

 それでも妹は俺の部屋を訪れるのをやめなかった。

 なんなら今日のように一緒に寝てくれるようにせがんでくるのも珍しくはなかった。

 しかしそれも小学生の頃の話で、彼女も中学生になってしまい会う機会自体も少なくなってしまった。

 

 それなのに今日いきなり添い寝を頼んでくるとは予想外だ。

 

「……俺と会うと母親がうるさいぞ? カフェも中学生なんだから一人で……」

 

 そう言いかけた途中で彼女を見ると、上目遣いで俺を見つめて

 

「ダメ……ですか?」

 

 うっ。

 そう上目遣いで頼まれてしまうと断るに断れない。

 結局俺はベットに寝転がり、ポンポンと手でベットを叩く。

 

「ほら、おいで」

 

 そう言うと、妹は嬉しそうな顔をし、隣に潜りこんできた。

 彼女は俺の腰の方まで手を回し、ギューッと抱き枕のように抱いてきた。

 

「おやすみ」

 

「おやすみなさい、お姉ちゃん……」

 

 そう言って俺と妹は眠りについたのだった……

 

 

 

 

「ずっと一緒にいてね……?」

 

~~~~~~~~

「んあ……」

 

 妹に抱きかかえられ眠りについた結果、目覚ましもかけることも出来ずに自力で起きる羽目になった俺はあんまり寝付けずに夜を過ごすこととなった。

 結果、寝ぼけ眼をこすりながらなんとか4時に起きることに成功した俺は、ベットから起き上がろうとしたが

 

「……」

 

 尻尾が妹に握られており、動くに動けない。

 尻尾を少し自分で引っ張ってみるが、手を放してくれそうにない。

 仕方ないので、尻尾を握っている妹の手のひらを力を入れて開かせようと試みる。

 

「……かってぇ」

 

 結局一本一本手の指をほどき、俺の尻尾が解放される頃には数十分の時間が経過していた。

 当の本人は気づかずにぐっすりと寝ている。

 俺は妹を起こさないように前日に準備していたスーツ姿に着替え、帽子を被り、荷物を持つ。

 そしてそっと自分の部屋から出て、玄関へ移動。

 そうして玄関のドアを開けて、家から出ようとすると

 

 そこには父親がいました。

 

 あれデジャブかな? 

 

「乗れ。駅まで連れて行ってやる」

 

~~~~~~~~

 こう言われてしまったので、俺は荷物を後ろの席に置き、助手席に座る。

 最近も同じようなことがあったなぁと思いつつ、車に揺られていると

 

「すまなかった」

 

 いきなり父親から謝罪された。

 

「え、いきなりどうしたの」

 

「……俺のせいでお前には辛い思いをさせてしまった。本当に申し訳ない」

 

 辛い思いか……

 普通の子だったらトラウマレベルの傷を負ってそうなものだが、俺は転生者。

 精神が最初からそこそこ成長しきっている為、辛いって事はあまりなかったとは思う。

 確かになんでこんなに嫌われるんだって思ったりはしたけど。

 

「いや別に……そうでもないけど」

 

「お前は小さい頃から何かと達観していた。俺はそこに甘えてしまったのかもしれないな。……父親失格だよ」

 

 それは俺が転生者だからですね……

 だが確かに俺が年相応の振る舞いを見せていれば、また違う未来があったのかもしれない。

 もう後悔しても遅いが。

 

「スター、新しい所でも頑張れよ」

 

「言われなくても」

 

 駅に到着し、前回と同じ場所に車を止める。

 俺は助手席から降り、後ろの席から荷物を取り出す。

 すると、父親も車から降りて来て俺の正面に立った。

 

「……いってらっしゃい、スター」

 

「いってきます、父さん」

 

~~~~~~~~

 その後、予約していた電車に乗り、目的地に向けて移動する事二時間ちょっと。

 俺は駅に到着すると荷物を持って、そのままトレセン学園に向かった。

 試験の時も見たでっかい門には入らず、今回は門の向かい側へと歩いていく。

 

 案内されたウマ娘専用の寮はトレセン学園の正面にあり、トレセン学園に劣らず寮も大きい。

 二千人近くいるトレセン学園の生徒が一部の例外を除いて全て寮生活なのだ。

 計八棟あるその建物は一つ一つが巨大なマンションのようだ。

 

 俺が指定された場所に向かって移動していると、いきなりイケメン系の顔をしたウマ娘から話しかけられた。

 

「やぁ、ポニーちゃん」

 

 ……ポニーちゃん? 

 

 どう見てもそこには俺とそのイケメン系のウマ娘しかいないのだが、あたりをきょろきょろと見渡してしまう。

 

「ははは! 君がスターゲイザーちゃんだね? いきなり話しかけてすまない。私はこの栗東寮の寮長、フジキセキだよ。たづなさんから案内役を承ったんだ」

 

 なるほど。彼女がたづなさんが言っていた寮長か。

 にしてもいきなりポニーちゃん呼びはどうなの? 見た感じ多分フジキセキさんの方が年上のようだが……

 俺がそんな怪訝な顔をしていたからだろうか、フジキセキさんが口を開く。

 

「すまないね、可愛らしい顔をしていたからつい話しかけてしまった」

 

「かわっ!?」

 

 俺は驚いて変な声を出してしまった。

 今まで容姿で褒められることが無かったので、急に照れくさくなってしまう。

 

「顔が赤くなってるよ? 大丈夫かい?」

 

「……はい大丈夫ですお気になさらず」

 

 分かったこのウマ娘、顔以外にも言動もイケメンだわ。絶対女性人気が高い。

 

「それじゃ、寮を案内するね。ついてきて」

 

 そう言ってフジキセキさんが歩きだしたので後ろからついていく。

 八棟ある寮の中の一つに入ると他のウマ娘の姿は見当たらなかった。

 訪れた時間が平日の昼だから、恐らく生徒はトレセン学園にいるのだろう。

 

 玄関に靴を置き、階段を上り四階へ。

 案内され、たどり着いたのは寮の端の方の部屋だった。

 

「ここが君の部屋だよ。基本は二人相部屋なんだけど、今回は特例で一人部屋として使ってもらって構わないらしい」

 

 俺が部屋を覗いてみると、確かにそこは二人相部屋くらいでちょうどよい広さだった。

 しかもシャワールームが部屋にある。流石はトレセン学園と言ったところだろうか。

 

「ベッドは二つあったから運び出しておいたよ。開いてあるスペースは部屋の形を変えないんだったら自由に使って貰って大丈夫だよ」

 

 え? 今まで部屋の形が変形したことあったの? 何それ怖い。

 

「部屋の中に段ボールがあるが、どうやら君宛のプレゼントらしい。好きに使ってくれとの事だ。あと何か寮生活で困った事があったら私か、もう一人の寮長に気軽に相談してくれ」

 

 そんな感じでフジキセキさんの話は終わり、俺がお礼を言うと「また会おうね」とウインクしながら去っていった。

 最後までイケメンだったな彼女……

 

 俺は部屋の中に持ってきた荷物を下ろすと、グッと背伸びをする。

 

「よっし……頑張るか」

 

 確か明日が入社式だ。それまでに貰ったウマ娘用の寮の案内を見てルールを確認しておこう。

 あと寮とトレセン学園の構造も把握しておかなくては。

 

「そういえば、この段ボール何が入ってるんだろ。プレゼントとか言ったけど」

 

 俺は部屋にポツンと置いてあった段ボールを開く。

 するとその中には、トレセン学園の制服にジャージ、更には蹄鉄まで入っていた。

 制服を広げてみると、ぱっと見俺のサイズにピッタリに見える。

 よく見ると、何かが書かれたメモ用紙も入っていた。

 

『是非使ってくれたまえ!!!』

 

「……」

 

 俺は広げた制服を元に戻してそっと段ボールを閉じ、見なかったことにした。

 


『それは誰かの独白か、あるいは……』

 

 

 

 むかしむかしあるところに二匹の子猫がいました。

 

 二匹の猫は姉妹で、お姉さんは真っ白な毛を、妹は真っ黒な毛をしていました。

 

 姉妹の仲は大変良く、いつも一緒にいました。

 

 ですがーー、姉妹は平等ではありませんでした。

 

 白毛の猫はみんなから愛されず、黒毛の猫だけ一心に愛情を受けていました。

 

 そのうち白毛の猫は、少しずつ黒毛の猫から距離を置き始めてしまいました。

 

 黒毛の猫は姉を心配します。

 

「大丈夫?」と。

 

 白毛の猫はどこか憂いのある笑みで答えます。

 

「大丈夫」と。

 

 そんなある日の事です。

 

 白毛の猫は黒毛の猫の前からいなくなってしまいました。

 

 黒毛の猫は走りました。

 

 居場所も分からないお姉さんを探すために。

 

 どこまでも、どこまでも。

 

「置いて、いかないでっ……」

 

 その声が白毛の猫に届くことは無いというのに。

 

 いつまでも、いつまでも。




お久しぶりです。リアルとかの都合で色々と遅れてしまいました。ごめんなさい。
おまけも一緒に投稿しておく予定ですので良かったらご覧ください。
感想ありがとうございます! モチベに直結して嬉しいです。

それではまた次の話で。

※追記 おまけを活動報告に移動しました

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