十二月三十日。年末も年末。
世の中はゆっくりと休みのムードになり、年が切り替わる準備をし始めるころ。
時計が午後一時を指すくらいの時間に、俺を含めた三人のウマ娘は車に乗ってとある場所へと向かっていた。
「初めて送迎車に乗りましたが……座席ふっかふかなんですね……」
「凄いでしょ。ボクも最初に乗った時にびっくりしたなぁ」
初めて乗る高級車に驚いているのが、黒く長い髪を垂らしたウマ娘──マンハッタンカフェ。
少し落ち着いた様子で座っているポニーテールのウマ娘──トウカイテイオー。
そして俺は、そんなウマ娘たちに挟まれて後部座席の真ん中に座っていた。
「……トレーナー、緊張してるの? 大丈夫?」
「そうか……? そんなことないと思うんだけどな……」
「いえ、いつもより目に落ち着きがありません……。私でも分かってしまいますよ……?」
そう一番付き合いの長い担当ウマ娘と血の繋がった妹に言われてしまい、俺も自分のことなのに否定が出来なくなってしまう。
この緊張は恐らく、テイオーやカフェがレースに出るといった時とは全く違うものなのだろう。
これは無意識のうちに湧き出るような感情に近くて。気づいたら飲まれそうな──
「大丈夫。ボクはいつでも隣にいるよ」
「安心してください……私も一緒にいます……」
そっと右手をテイオーが、左手をカフェが包んできて彼女たちの体温が伝わって来る。
両手がぽかぽかと温まったかと思うと、次の瞬間俺の体を柔らかい感触が包み込んだ。
「そんなトレーナーにはこうだー! うりうりー!」
「あっ、ちょっとズルいです……。私も……」
ぎゅっと両側から、二人のウマ娘が抱き着いてきた。
テイオーとカフェが普段より近い距離でぴったりとくっついてきて、すりすりと顔を擦りつけてくる。
大きな座席でわちゃわちゃと絡み合っていると、車のブレーキ音が聞こえてスピードが収まった。
どうやら今回の目的の場所に到着してしまったようだ。
さて、俺も覚悟を決めなければ。
「じゃあ、行こうか。ありがとな、テイオー、カフェ」
お礼に彼女たちの頭に手を乗せて優しく撫でると、二人とも目を細めて嬉しそうな顔をする。
いつまでもこうしてゆっくりとしていたいが、そういう訳にもいかない。
今日はURA主催の、年度ウマ娘授賞式の日。
そして──俺がとある覚悟を決めた日でもある。
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車から降りた俺たちはスタッフさんに従って、地下駐車場から入口へと入った。
ここはいつかの皐月賞の記者会見でも使われた都内のビルで、ここの一つのフロアを貸切って今回の授賞式は行われる。
「最優秀ウマ娘って、他の一般の方は知らないんですよね……?」
「基本的に関係者だけだな。一つの一大イベントだから、URA側も盛り上げたいんだろう」
最優秀ウマ娘。
それは一年を通して最も活躍したウマ娘に、トゥインクルシリーズを運営しているURAから授与される称号。
最優秀ジュニアウマ娘、最優秀クラシックウマ娘、最優秀シニアウマ娘。
そして、URA賞。
各世代から一人ずつ、そしてトゥインクルシリーズを走っているウマ娘から一人選ばれるこれは、その年を象徴するものとして大変名誉なことになっている。
そしてそんな賞に、我らがトウカイテイオーが選ばれた。
話題性、戦績。どこを取っても今年のレースの主役というのが、主な受賞理由らしい。
そんな主役を含めた俺たちは、ビルの控室で会場にいくための準備をしていた。
「こんなドレスまで着て会場に行くのかぁ。ちょっと慣れないね」
そう言ってくるりとその場で一回転したのは、綺麗な青いドレスに身を包んだテイオー。
かなりスカートのフリル部分が長く、お嬢様がどこかのパーティーに出かけるような服装だ。
それに加えていつものポニーテールを降ろし、軽く彼女の顔の良さを強調するための化粧までしているのだから美人という言葉がぴったりな少女になっている。
「凄い似合ってるぞ。お嬢様って感じだな」
「ギャップ萌えってやつでしょうか……。凄い美人さんですよ……」
「えへへ。似合ってるなら良かったぁ」
テイオーがふにゃぁと顔を綻ばせて喜ぶ様子を見ると、いつもの彼女という感じがする。
前回の記者会見時には勝負服を着ていたが、今回は授賞式。
主役が一番目立つように、ウマ娘はドレスとのURAからの指定だ。
他の賞が決まっているウマ娘たちも、恐らくドレス姿でこの会場にいるのだろう。
因みにカフェは付き添いなので、トレセン学園の制服でこの場にいる。
だが「とある人」の好意で、彼女にも軽く化粧は施してもらった。
「いやまさかあの時化粧した子が、こんなに立派になってるんですよ。この仕事をやってて良かったって、私思ってます」
そうにこりと大人の笑顔で言ってくれたのは、メイクアップアーティストの安田さん。
皐月賞の頃に彼女に化粧をしてもらった過去があったが、今回も何かの縁でこうして関わって貰っている。
安田さんと初めて出会ったあの頃は、まだテイオーが三冠になる前。あれからかなりの時間が経過したが、本当にあっという間だった気がする。時の流れというのは早いものだ。
「ところで、スターさんは今回お化粧どうします? 相変わらずお綺麗な顔なので、するとしても軽くだと思いますけど……」
「……今回もして貰ってもいいですか? 私も人前に出るので」
「姉さんが自分から化粧するのは珍しいですね……。てっきりこういうの苦手かなと思ったんですけど……」
「前回ちょっと渋ってたもんね。ボクはいい事だと思うよ!」
テイオーが何故かぐっと親指を立ててグッジョブと向けてきて、いい笑顔をしてきた。
安田さんもなんかニコニコしてるし、なんだか恥ずかしい。
正直に言うと俺もまだ少し抵抗はあるが、今日は絶対に見た目を整えなければいけない理由がある。
「そういえば、今日は帽子とかも被ってませんね……。もしかして、そういうことですか……?」
「多分、カフェの思ってる通りだと思う」
「……無理はしないでくださいね」
カフェが俺が考えていることが分かったのか、心配するような声で呟いてくる。
そう。俺が人前に出るときなどは、深めの帽子を被ったりしてこの目立つ白毛を隠してきた。だが今回はそれらは一切なく、素の自分のままでこの場に来ている。
テイオーはその意味が分からなかったらしく軽く首を傾げていたが、これに関しては俺の問題だ。
カフェはギリギリ当事者だから理解していたが、テイオーにこれを悟らせてはいけない。
そのリスクを含めて、俺の覚悟なのだから。
「それでは化粧していきます。楽にしていてくださいね」
俺は大きな鏡の前に置いてある椅子に座ると、化粧をしてくれる安田さんに顔を預ける。
前回と同じように下地から始まり、ファンデーション、アイブロウ、アイシャドウ、チーク、リップと手際よくやってくれた。
目を開けると、大きな鏡の中にはいつもより綺麗になった俺の顔が映っていた。
俺の年齢にあうような、自然な化粧をしてくれた安田さんには感謝しかない。
「はい、お疲れ様でした。とても似合ってますよ」
「ありがとうございます。毎回助かってます」
「いえいえ! これが私の仕事ですので!」
俺が頭を下げてお礼を言うと、安田さんが遠慮するかのように手を振ってくれる。
時計を確認してみると授与式まであと30分くらいの時間になっており、そろそろ会場に移動する時間になっていた。
「さて、そろそろ移動するか……ってなんで二人とも変な方向に向いてるんだ……?」
「いえ……あの、思った以上に火力が高くて……」
「なんか前より綺麗になってるし……」
何故か頬を少し赤くしながら俺から視線を逸らしているテイオーとカフェの肩をぽんぽんと叩くと、俺はドアをゆっくりと開ける。
控室を後にして会場に向かうための廊下を三人で歩くと、多くの視線をちらちらと感じてしまう。
だが注目されるのは、大分慣れた。前より、確実に成長している。
綺麗な廊下を歩いて会場に入るためのドアをスタッフさんに開けて貰うと、そこは多くの関係者が集まっていた。
「じゃあ、ボクは行ってくるね! しっかり見てて!」
全く緊張とは無縁そうなテイオーが、元気そうに会場に設置されたステージの方へと向かっていく。
すると照明の光が落ちていき、がやがやと少し騒がしかった会場内の声が収まる。
そして薄暗くなった会場に、司会役の女性の落ち着いた声がマイクに乗って響いてきた。
「皆様、お待たせしました。これより、今年の最優秀ウマ娘の授与式を始めます」
天井に吊るされていた照明と後ろに設置されていたメディア用のカメラの照明が、パッとステージを照らす。
そこには今年のトゥインクルシリーズを代表する四人のウマ娘が、綺麗なドレス姿で立っていた。
「まずは最優秀ジュニアウマ娘からの紹介です。ホープフルステークスを制し、早くも来年のクラシックが期待されているウマ娘。アグネスタキオンです!」
ぱちぱちと会場内で拍手が起こり、黄色のドレスを着たタキオンが軽くお辞儀をした。
彼女は有マの後に行われたG1レースのホープフルステークスを、二バ身差という圧倒的な強さを見せつけ勝利している。
カフェの友人ということで注目していたが、ここまでの実力者だとは思ってはいなかった。
「タキオンさん……実は大分前から期待されていたみたいです……。今年ようやくデビューして、その実力を見せつけてかなり話題になってました……」
「前って、デビュー前か? テイオーみたいな感じかな……」
テイオーは一度選抜レースを走っただけで、かなり話題になっていた。
それと同じようにデビュー戦の前に話題になるとしたら、そこで強烈な走りをするしかないのだが……
俺の記憶の中で、タキオンが選抜レースに出たという話は聞いた事がない。
「タキオンさん、選抜レースは入学当時……三年前にしていたみたいです……。ですが、そこから一切走らずトレーナーも付けない……。それを含めて問題児だったみたいです……」
「となると、最近ようやくトレーナーが付いたってことか。カフェと同じ時期にデビューして、そのままホープフル……。そりゃ話題にもなる」
世間から見ると、急に現れて劇的な結果を残したウマ娘として認識されているのだろう。
だが何故選抜レースに出た後に、そこから急に走るのをやめたのか。
彼女は俺と初めて会った時に、ウマ娘の可能性を研究していると言っていた。
その時は競争バではないのかと思っていたが、実際はしっかりとトゥインクルシリーズを走っている。
何かタキオンを変える出来事があったと考えられるが、一番ぱっと思い付くのはトレーナー関連だろうか。
「タキオンのトレーナーさん……凄くいい人でしたよ……。真面目そうで、タキオンさんをよく見てくれてます……」
「そっか、例の研究室にいるんだもんな。カフェはもう知ってるか」
「はい……。よく料理をしたり洗濯したり……タキオンさんの身の回りの世話をしてますね……」
「それ本当にトレーナーなのか……? 家政婦とかじゃなくて?」
「トレーナーですよ……。あとよく光ってます……」
「……どういうこと?」
一応顔だけは情報としては知っているが、彼の人となりまでは知らない。
今度研究室に行って挨拶するか……。カフェ専用のスペースも気になるし。
タキオンのトレーナーへの謎が深まってきたところで、会場は次のウマ娘の紹介に移っていた。
「お次に紹介するのは、最優秀シニアウマ娘。天皇賞春、天皇賞秋、ジャパンカップを制した日本総大将。スペシャルウィークです!」
そう言われて会場のライトがぱっと当たったのは、赤いドレスを着たウマ娘。
俺たちの知り合いでもあり有マでもぶつかった彼女は、スペシャルウィーク。
スぺは黄金世代と呼ばれる強いウマ娘が多くいる世代で走っており、彼女の他にもG1ウマ娘が多くいるが今回はスぺが選ばれたようだ。
これからシニア級に入るテイオーと戦わなければいけないと思うと、身が引き締まる。
「それでは最優秀クラシックウマ娘とURA賞を同時に発表いたします!」
その瞬間、会場の空気が一瞬で変わった。
それだけ大きなURA賞の発表を同時に行うということで、メディアたちは歴史を捉えようと集中する。
「最優秀クラシックウマ娘に菊花賞ウマ娘、メジロマックイーン! そしてURA賞に無敗の三冠ウマ娘、トウカイテイオーが選ばれました!」
照明が二人のウマ娘を照らし、主役たちを目立たせた。
紫のドレスを着たマックイーンと青いドレスを着たテイオーが、威風堂々といった様子でステージに立っている。
今年の世間を盛り上げ常に話題の中心にいた彼女たちが、この賞を受賞するのは誰もが疑う余地も無かった。
特にテイオーなんて、今年のトゥインクルシリーズの主人公と言っても過言ではないだろう。
菊花賞直後なんて、類を見ないほどの盛り上がりようだった。
「本当に凄いところまで来ちゃったなぁ……。一年前の俺に話したら驚かれそうだ」
「……でも、姉さんはテイオーさんが三冠を取ると思ってたんですよね? なら、これは必然だったんじゃないですか……?」
「そう……かもな。ここまで話題になるとは思わなかったけど」
テイオーと初めて出会った時から今日のこの日まで、まるで綺麗な星のように輝いている思い出だ。
辛いときもあった。すれ違いもあった。
でもこうして光り輝いている一等星は、全ての要素が集まって出来た結晶だ。
どれも──無駄じゃなかった。
「さて、それでは受賞したウマ娘たちからそれぞれ一言ずつ頂きましょう。それではアグネスタキオンさん、お願いします」
賞の発表がされると、次はそれぞれのウマ娘から一言貰う場面に移る。
まずはタキオンが軽く今後の展開を語り、三冠路線に進むと発表した。
こういうメディアの前に出るのは苦手なのだろうか。台本を用意してそれを読んでいるような感じがする。
次にコメントしたスぺはこういうインタビューになれているのか、すらすらとお礼を述べている。
場数を踏んでいるということもあるだろう。いつもの元気な彼女とは違った一面を見ていると、とある一言で会場がまた揺れた。
「──私たち、黄金世代は海外レースに挑戦していきたいと思います」
日本のトゥインクルシリーズを飛び出して、海外レースへの挑戦。
正直俺もその言葉を聞いて、急に耳がぴんと立つほどびっくりした。
海外レースは日本で行うレースより、基本的に挑戦難易度が高い。
これは当たり前の話なのだが、移動に言語の壁、慣れない生活環境。
そして、日本とは全く違うバ場にレース展開。
かなりリスクのある挑戦という認識もあり、この発言には驚いた。
「……海外か。日本に留まらずに、世界進出するのは自信があるからか」
──それとも、夢を追いかけてか。
詳しくはまだ分からないが、頑張って欲しいと思う。
日本のウマ娘たちが海外でも活躍しているのを見ると、俺も素直に嬉しくなる。
スぺがぺこりと頭を下げると少し会場も落ち着いて、次のウマ娘にバトンタッチされた。
「私、メジロマックイーンがこのような名誉ある賞を受賞でき、ありがたく存じますわ」
落ち着いたようで透き通るような凛とした声が、マイクに乗せて会場内に響き渡る。
俺も良く知っているメジロマックイーンが、いつも以上に清楚な空気を纏いステージ上に立つ。
そしてゆっくりと口を開くと、丁寧に言葉を紡ぎ始めた。
「私の今後の目標は、天皇賞・春。メジロ家として、この名誉ある盾を取れるように、メジロ家の一人としてこれからも一層励んでいく予定ですわ」
そこまで発言したかと思うと、ほんの少しだがマックイーンの目線がちらりとテイオーの方へと向いた。
そんな刹那の間を挟んで、彼女は話を続ける。
「そして……悔しい思いをした有マ記念にも、また挑戦していく予定ですわ。これからも応援のほど、よろしくお願いいたします」
そう閉じてぺこりと優雅にお礼をしたマックイーンに、ぱちぱちと会場内から拍手が鳴り響く。
彼女が明らかに含めて言った「有マ記念」という言葉。そして、視線。
──決着は、有マ記念で!
有マ記念は、マックイーンが三着。テイオーは六着。
菊花賞の時にしたあの誓いが、未だに心の奥底でくすぶっているのだろう。
先ほどのマックイーンは、堕ちたテイオーを上まで掬いあげるかのような感情が籠っているように感じた。
心配してくれてありがとうな、マックイーン。だけど、その峠はもう超えた。
もし俺がいなかったら、テイオーを救っていたのは彼女だったかもしれない。
そんな想いを抱きつつ、俺はテイオーに対して視線を向ける。
丁度マイクが渡された彼女と目線が合うと、そっと一瞬目を瞑った。
「今回の賞は、ボク一人だけじゃ取れなかった。トレーナーにファンに……みんながボクに夢見てくれたから取れた賞だと思ってます」
いつもより落ち着いた調子でテイオーが、一つ一つ丁寧に話していく。
そしてぱっと目を開けると正面を向いて、力強く確かに一歩前に進んだ。
「誰もが夢を託して、最強を駆けるようなウマ娘にボクたちはなる」
ちらりと先ほどのお返しとばかりに、一瞬だけ彼女がマックイーンを覗き込む。
そして、人差し指を一本立ててカメラに突き立てた。
「──無敵のトウカイテイオー伝説はまだ終わってない」
いつぞやにもやった、最強宣言。
だがあの時とは違う。
あの時よりも確かに強くなった。あの時と違って敗北を経験した。
「これからもボクたちから目を離さないでくれると、嬉しいな」
そうテイオーが締めくくると、会場が一瞬の静寂に支配される。
そして、時が戻ったかのように、大きな拍手が会場全体を包み込んだ。
テイオーもふぅと落ち着いた様に息を吐き出して、顔を緩ませる。
流石のテイオーも少し緊張していたようで、無事に言えてほっとしているようだった。
「ウマ娘の皆様、ありがとうございました。これより記念品の贈呈に移ります」
次に始まったのは記念品の贈呈ということで、賞を受賞したウマ娘たちへ盾が渡されていく。
それが終わると司会者の方が、ここからが本番とばかりに少しテンション高めで口を開いた。
「それでは、今回輝かしい戦績を収めたスペシャルウィークさん、メジロマックイーンさん、トウカイテイオーさんに対し、URAから新たな勝負服が贈呈されます!」
「えっ」
司会者の口から急に聞いていなかった情報が出て来てしまい、俺は思わず声が漏れ出てしまう。
俺が知っていたのは、今回の賞を受賞するウマ娘のみ。勝負服の件までは全く知らなかった。
それは登壇していたウマ娘も同じだったのか、声は出さなくともそれぞれ驚いたような表情をしている。
恐らくURA側がサプライズとして用意したのだろうが……これはテイオーも嬉しいだろうな。
「──スペシャルウィークさんには緋色を中心とした、日本総大将をイメージした勝負服を」
「──メジロマックイーンさんには白を基調とした、空に羽ばたけるような勝負服を」
「──トウカイテイオーさんには赤く燃え上がるような、不死鳥のような勝負服を」
スぺは今までの活発なイメージから威厳さへと。
マックイーンは今までの黒い勝負服から白へと。
テイオーは蒼と白の勝負服から、赫へと。
彼女たちが今まで着ていた勝負服とは全くイメージが異なる、新しい装い。
だがそれも問題無く纏ってしまうのだろうという確信が、俺の心の中にあった。
~~~~~~~~
その後、授与式は一時間と少しで特に大きな問題も無く終了した。
ライブ中継なども終了してカメラなどを片付けているメディアを眺めていると、テイオーがステージ上からとててとテンポよく駆け寄ってきた。
「ただいまー! ボクのことしっかり見てた?」
「しっかり見てたぞ。かっこよかったな」
「えへへ」
そう言って嬉しそうに顔を綻ばせたので、頭に手を乗せて撫でてあげる。
尻尾を揺らしながら耳をぱたぱたする様子は、先ほどのきりっとした様子とは少し違って年相応の姿を見せていた。
「まさか新しい勝負服を貰えるなんて思ってなかったよ。今から着るの楽しみだなぁ」
「今それの件について連絡が来てな。これが終わった後、勝負服に着替えての撮影会があるらしいんだけど、参加は──」
「するよ! 勿論!」
「だよな。じゃあ、授賞式の直後に大変かもだけどよろしくな」
「りょーかい!」
テイオーが新しい勝負服を纏うのが待ちきれないといった様子で、その場でぴょんぴょんと跳ねそうになる。
流石にドレスで激しい動きをするのもまずいので軽く目線で注意してから、一緒に一度会場から出て最初の控室へと向かう。
そして勝負服に着替えるためにドアを開けて中にテイオーが入ろうとした瞬間、俺はその前で歩くのを止めた。
「じゃあ、俺は今から別の場所で用事があるから。カフェ、さっき俺が伝えた場所にテイオーを案内してくれないか?」
「分かりました……。お気を付けて……」
「あれ? トレーナーも一緒に来ないの?」
「大事な用事でな、これは外せないんだ」
「えーっ……。せっかくトレーナーに見せたかったのに……」
テイオーがしゅんと耳を垂らして、テンションが下がった表情を見せる。
俺もテイオーのカッコイイ姿を見たいのはやまやまだが、これに関しては仕方ない。
「まぁ、後でしっかり見せてくれ。今は撮影会楽しんできな」
「むー……。じゃあトレーナーの予定が終わったら、特等席で見せてあげるからね! 楽しみにしててよ!」
「楽しみにしてるぞ。あとで、いっぱいカッコイイ姿見せてくれ」
彼女も納得してくれたのかこくりと頷いたのを見てから、俺は一度二人とお別れする。
さて、ここからが俺にとっての本番。
テイオーもみんなの前で覚悟を見せたんだ。俺も覚悟を決めなければ。
「ふぅ……」
頭では分かっていても体の方が追い付いていないのか、心臓がばくばくとなっている。
ぐっと顔を上に持ち上げながら綺麗な廊下を歩いていると、とある一室に辿り着いた。
俺が部屋のドアをこんこんとノックすると、中から「どうぞ」という声が聞こえてくる。
「失礼します」
「どうぞ……。って、スターゲイザーさん。お久しぶりですね」
「こんにちは、乙名史さん。ご無沙汰してます」
部屋の中に入ると一人座れるだけの大きめの椅子が五つと、いくつかのカメラが設置されている。
そしてその一つの椅子に座っていたのが、白いスーツに長い髪を二つに分けた女性。
日本ダービーの時にインタビューしてもらった時以来の再会となる彼女、乙名史記者はにこりと微笑んで返事をしてくれた。
「そこにおかけください。前と違ってカメラとかありますが、あまり緊張せずにいきましょう」
彼女が手を向けた先にあった椅子に座ると、ふわりと柔らかい感触が背中に伝わった。
大分いい椅子のようで、ふかふかで座り心地が良い。
そんな椅子に座って数分待っていると、部屋の中にドアのノック音が響いた。
その後に入って来たのは、スーツを着た人たち。軽く挨拶をすると、俺の隣の椅子に座る。
今入ってきた人を含めて、合計四人。
アグネスタキオン。スペシャルウィーク。メジロマックイーン。そして、トウカイテイオー。
──そのトレーナーたちが、今ここに集まった。
「それでは、これからURA賞授賞式の特別インタビューを行います。トレーナーさんたち、よろしくお願いいたします」
俺が覚悟してしたきたこと、それは。
──世間への顔だしである。
~~~~~~~~
「さて、メジロマックイーンのトレーナーさん。ありがとうございました!」
そう言って、乙名氏さんがメジロマックイーンのトレーナー──北野さんに対してメモを取るのを終える。
今行っているのは、URA賞を受賞したウマ娘のトレーナーたちのへのインタビューだ。
本来G1レースを勝利したウマ娘ならば、そのトレーナーも注目される。
無敗の三冠を取ったテイオーのトレーナーともなれば、メディアなどに大きく取り上げられる……はずだった。
だがそれをトレセン学園側の協力で、情報などを止めてくれていたのだ。
「それでは……最後にトウカイテイオーのトレーナーのスターゲイザーさん。今日はインタビュー、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
じゃあ何故今更出て来たのか。
正直外に出るのが怖かったというのが一番大きい。
俺が初めて触れたトレセン学園という狭い範囲のコミュニティは、優しくていいヒトしかいなかった。
だが、世間というのはそうもいかない。色んな人の目に当たるというのは……それだけ批判されるのは想像に難くない。
それが一番嫌だった。一度は実の親に否定された存在を、これ以上消したくなかった。
「今回スターゲイザーさんは初の公式インタビューということで……。今回のとは少し話が外れてしまいますが、何かトレーナーを目指していた理由はあるんですか?」
「そうですね。私がトレーナーを目指し始めたのは、とあるきっかけからでした。とある人からの勧めで見たレースが──」
世間というのは直ぐに流れが変わる。
一時期話題の中心にいたテイオーだって、今回の有マ記念で少しがっかりしてしまった人が沢山いるだろう。
その目線を彼女だけに、背負わせるわけにはいかない。
「今までこのようなインタビューを受けることは無かったのですが、今回顔出しに踏み切ったのは何かきっかけがあるのでしょうか」
「私は見ての通り、珍しいウマ娘のトレーナーです。下手なタイミングで露出するとテイオーに負担が掛かってしまうと思い、今までは避けていました。ですが今回URA賞という名誉ある称号をテイオーが頂き、ファンの皆様へ感謝を真摯な気持ちで伝えたいと思い、今回インタビューを受けることにしました」
競争バとしてテイオーは俺以上に目立つ立場にいるのに、ここで隠れてしまうのは逃げだと思った。
ファンからの暖かい声援も。一部はあるであろう批判も。
そして、みんなの夢も。
一緒に二人で背負うと、約束した。
だから、俺も覚悟を決める。
「──それでは、最後にファンの皆様に何か一言お願いします」
「今回の賞をテイオーが受賞できたのは、ファンの応援のおかげでもあります。ここまでテイオーが走れてきたのは、決して私だけの力だけではありません」
だから、もう二度と。どこにいてもテイオーを一人にしない。
「これからテイオーは更に飛翔すると思います。これからも、テイオーの応援をよろしくお願いいたします」
そう締めくくって、俺の初めてのインタビューは大きな問題も無く終了した。
これで、俺もテイオーの隣に立てただろうか。
帽子もとって、ありのままの自分を出したつもりだ。あとは──願うだけである。
~~~~~~~~
最優秀ウマ娘授賞式が行われた、次の日の夕方。
今年も残すところ数時間となり、一年の早さを実感するころ。
そんな時間の中、俺を含めた三人のウマ娘が俺の部屋でゆっくりとしていた。
他の二人は言うまでも無く、テイオーとカフェ。
テイオーに関しては実家に帰るのかなとも思っていたが、どうやら今年はこっちで過ごすようだ。
「姉さん、テイオーさん……。お蕎麦貰ってきましたよ……」
「ありがとう、カフェ。そこに置いてくれ」
「わーい! お蕎麦だぁ!」
年末と言えばの年越しそばをみんなで食べつつのんびりとしていると、話題は昨日のURA授賞式の方へと移っていった。
「そういえばあのインタビューっていつ外にでるの? あれ生放送ってわけじゃないよね?」
「あれは雑誌に掲載される予定。確か年明けの一週間後くらいに出るって言ってたかな」
「良かったぁ。生放送だったら、ボク見れてなかったもん」
「最初の顔出しだし、雑誌の記事くらいが丁度いいだろ。写真をいくつか撮られるのは慣れなかったが……」
「ボクとしてはやっとって感じだけどね~。トレーナーをもっとみんなに自慢してもいい日が来るなんてさ!」
正直顔出しインタビューだけでも緊張したのに、ライブ生放送なんてしたら耐えられないかもしれない。
デビュー戦なのだからある程度は多めに見積もってくれ……。G1レース級はまた今度な……。
蕎麦を啜りつつ将来あるかもしれないことを考えていると、ふと決めなければいけないことを思い出した。
「そうだ。今丁度いい機会だから話したいんだけど」
「んー? なに?」
「チーム名に関してなんだけど」
「チーム名!?」
テイオーが蕎麦を食べる箸をやめ、こちらの話に直ぐに食いついてきた。
思った以上に反応が早くてびっくりしたのか、カフェがぴんと耳を立てている。
「チーム名……。そういえばまだ決めてなかったんでしたっけ……」
「別に必須ってわけじゃないんだけどな。決めてもいいんじゃないんですかって、たづなさんに提案された感じ」
「いいね決めようよ! なんかかっこいい名前にしたい!」
トレセン学園では、トレーナーが担当ウマ娘を複数持っている時チームを組む流れがある。
というよりも、専属よりもチームの方がトレセン学園は多いのだ。トレーナーとウマ娘の比率が、圧倒的にウマ娘に偏っているのは仕方のないことなのだが。
今までテイオーの専属をしていた俺だったが、カフェも担当することになり一応複数ウマ娘を持ったことになる。
妹ってことで実感は少し薄かったが、トレセン学園から見れば俺たちは立派なチームと言える。
「テイオー、そんなチーム名決めたかったのか? やたらテンション高いけど」
「だってトレーナーが運営するチームだよ!? 分かってないなぁ……」
やれやれ分かってないなぁとオーバーリアクションで、指をちっちっちと振る。
そこまで大事だと思って無かった俺は首を傾げていると、テイオーが嬉しそうに語り始めた。
「チームの歴史がここから始まるってことでしょ? 伝説の三冠ウマ娘がいるチームの伝説なんて、ワクワクするにきまってるでしょ!」
「自分で伝説って言うんですね……」
「うるさいやい! だって、トレーナーのチームだったら絶対いつまでも語り継がれるでしょ? ウマ娘の歴史に刻まれるって! ボクがチームの一着だし!」
むふーっと音が聞こえるくらい大きく胸を張ったテイオーを見ていると、なんだか本当に凄いことに思えてくる。
歴史に語り告がれる為の第一歩か……。
「あっでもトレーナーがチーム作ったら、入りたいウマ娘増えちゃうかも。うーん……」
「大丈夫。チーム作っても担当増やす気は無いぞ。手が回らなくなるのは嫌だからな」
「そっかぁ。なら良かった、かも」
テイオーが落ち着いたところで、チームの名前について考えるか。
トレセン学園のチーム名は基本的に、星の名前から取ることが多い。
スピカだったり、シリウス、リギルなど……。
それに倣うなら、実は一ついい星を見つけてある。
「で、チーム名なんだけど提案してもいいか?」
「なになに?」
「デネボラ。星言葉だと、信念を貫き通す精神って意味があるな」
「デネボラ……」
「いいんじゃないでしょうか……。私は賛成です……」
「うん……すごくいいと思う。信念、か」
そうテイオーが呟くと、とんと立ちあがってぴんと人差し指を掲げた。
「チーム、デネボラここに誕生だ!」
こうして今。トレセン学園に新たに輝く星が、また一つ生まれたのであった。
あと、分かりにくいかもしれませんが実はこの話数の前に二話分最新話が入っています。是非見てみて下さい。
https://syosetu.org/novel/268791/2.html
https://syosetu.org/novel/268791/34.html
さて、ファンアート紹介のコーナに入ります。
【挿絵表示】
【挿絵表示】
【挿絵表示】
【挿絵表示】
一、ニ枚目のイラストを下さった「おーか」さん。
三、四枚目のイラストを下さった「踏文二三」さん。
本当にありがとうございます
次にIFの宣伝です。
https://syosetu.org/novel/310188/6.html
もし、スターちゃんとテイオーが結婚した世界線のお話。