そのウマ娘、星を仰ぎ見る   作:フラペチーノ

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そのウマ娘、星を仰ぎ見る 外伝「シャッターチャンスを切り取って」
挿絵:H.B.K様 https://x.com/HIBIKI_zerocodo


【挿絵表示】


・一章 かけがえのない絆を感じるひととき
スターちゃんとテイオーがホテルに行って、わちゃわちゃする話。ウエディングドレススターちゃんが見れます。

・二章 白ネコカフェで心からのおもてにゃし
スターちゃんが可愛いネコになっちゃう話。今回のサンプル部分です。

・三章 白黒ガールズリミックス
別世界のスターちゃんと出会ってしまう不思議な話。新キャラ出ます。

・四章 ソシテミライノ
本編完結後スターちゃんのお話。未来の担当ウマ娘も登場します。

※2025年6月30日 2025年の夏コミに向けて、話数並び替えさせていただきました。


【第二章】白ネコカフェで心からのおもてにゃし

 にゃあ。

 そんなこの状況に似つかわしくない音が、静かな部屋の中に響き渡る。

 お昼ごはんを食べて、ウトウトと少し眠くなるこの時間帯。

 この空間にいる四人のウマ娘は、一斉に耳をぴくりと揺らしていた。

 

「あっ……」

 

 その中の一人──マンハッタンカフェは、焦ったように自分の持っている携帯の音量を下げていた。

 察するに、たまたま見ていた動画の音が携帯から漏れ出してしまったのだろう。

 本を読んでいた俺が視線を上へとあげると、ソファの後ろからポニーテルをぴょこぴょこと揺らしたウマ娘が彼女の携帯の画面を覗き込んでいた。

 

「ネコちゃんの動画? かっわいー!」

 

 そう言ってカフェに話しかけている少女──トウカイテイオーは、楽しそうに弾んだ声を出している。

 いつの間にか後ろにいる距離の詰め方がテイオーらしいなと思いつつ、俺は本を閉じてカフェの方へと視線を向けた。

 先ほどまでのソファの並び順は右から、カフェ、俺、テイオー。テイオーがぐるりと回って、ソファ越しにカフェの後ろに立っている形だ。

 

「動物可愛いよねぇ。ボクは子犬とかが好きかな! トレーナーは?」

 

「俺は……どちらかといえばネコ派かなぁ……」

 

 言われて思い返してみれば、俺は特に動物と触れ合ったことがない。

 実家ではペットは飼っていないし、動物園や水族館などには行ったことはない。

 好きな動物と聞かれたら返答に困るくらい、そういうものとは無縁な生活を送って来ていた。

 まぁでも敢えて言うのであれば──鳥、だろうか。

 

「見てください、姉さん……。可愛くないですか?」

 

 俺がネコが好きなのを聞いたからか、カフェが先ほどまで見ていたであろう動画を音有りにして見せてくれる。

 そこには、二匹の白と黒の子猫がじゃれ合ってにゃーにゃーと鳴いている場面が映し出されていた。

 愛くるしいネコがこうやって遊んでいる様子は、確かにとても愛らしい。

 

「これは可愛いな……」

 

「私もネコが好きなんですけど……なかなか触れ合える機会が無くて……」

 

「気軽に動物と触れ合えるところか……。となると、ネコカフェとか。明日は休みだし、時間空けて行くか?」

 

「いいんですか……!」

 

 俺がそう提案すると、カフェが嬉しそうに尻尾をぱたぱたと振って反応してくれる。

 カフェがかなりネコ好きだとは、姉である俺も知らなかった。

 ここまで嬉しそうにしてくれるのだったら、メリットしかないしもっと早めに行けば良かったかもしれない。

 

「ボクも! ボクも行きたい!」

 

「分かってるって。次の休みの日に行けるように、近場のネコカフェを調べておくか」

 

 アニマルセラピーという単語がある。

 動物との触れ合いによってヒトの心に癒しを与えることなのだが、これがバカにならない。

 特にウマ娘はメンタル面がかなり重視されているため、こうやって精神面のケアはとても大事なのだ。

 トレセン学園の寮は勿論ペットは禁止だし、こういう機会を用意するのは彼女たちの息抜きにも繋がる。

 トレーナー目線で見てもとてもいいこと尽くしだと考えつつ、俺が手元の携帯を使ってネコカフェについて調べていると、この空間にいた「四人目」のウマ娘が声をあげた。

 

「ここは私の実験室なのだがねぇ! なんでチームでイチャついてるんだい!?」

 

「うるさいですよ、タキオンさん……。ここは私たちの部屋でもあるんですから……」

 

 頭をぽりぽりと搔きながらも、手元のフラスコを弄っているウマ娘の名前は──アグネスタキオン。

 俺の妹のカフェと同世代のウマ娘であり、生粋のトレセン学園の問題児。

 そして、世代最強の名を欲しいままにしている名バでもある。

 

「カフェの部屋なのは百歩譲っていいとして、キミたちにはトレーナー室があるだろう……。なんでここにわざわざ、寄るのかねぇ……」

 

 実は俺たちがいる空間の半分は、学園で特例で認められたタキオンのための実験室になっている。

 もう半分はカフェのスペースで、コーヒーの香りが漂う小さな喫茶店のような場所。

 今ではすっかり「昼休みに学園にいるなら栗東寮にあるトレーナー室に行くより、こっちの方が近いよね」ということでチームのたまり場になってしまっている。

 

「全く……手元がぶれたらどうしてくれるんだい。薬の被検体になってもらおうかねぇ」

 

「……勝手に盛ったら怒りますよ?」

 

 そんなマッドサイエンティスト的な発言をしている彼女だが、それはあながち間違いではない。

 彼女は目的のためなら人体実験すらいとわない。それが自分の体を使ったものであってもだ。

 レースの勝率よりも、目的──ウマ娘の可能性を追い求めるその姿は、トレセン学園では異質の部類に入る。

 勝利には一切興味がない彼女なのだが……そのせいか少し頭のネジが外れてしまっているところがあり──

 

「やらないさ。君の姉にそれをやったら、身の危険を感じる」

 

「よく分かってるじゃないですか……」

 

「だから、カフェに盛った」

 

「……は?」

 

 ──こういうところがある。

 タキオンが無言でピンと人差し指で指さしたのは、カフェが口をつけていたコーヒーが入っているマグカップ。

 彼女の言うことを信じるのであれば、自作の薬をカフェに無許可で飲ませたということになってしまう。

 サラッとそれをするあたり、倫理観が欠如しているというか。なんというか。

 それは──ボーダーラインを越えている。

 

「タキオンさん……?」

 

「ひぃっ!? なんだい!?」

 

「勝手に薬を盛るのは、ヒトとしてどうなんですか? それに、あなた自覚してやりましたね?」

 

「こ、小粋なジョークさ! 入れる暇なんてなかったし、私が物理的に薬を盛るのは不可能なのはキミが一番分かっているだろう!? それにそんなこと、モルモットくんにしかやらないねぇ!」

 

「自分のトレーナーにはいいと思っているあたり、どうなのかと思いますが……盛ってないならいいです。そういうのは、絶対にやめてください」

 

「はい……。申し訳ないねぇ……」

 

 指導者としての意味合いを込めて、少し睨みを利かせつつタキオンのことを叱ると彼女がしゅんと首をうなだれて謝ってくる。

 ただでさえ、タキオンの薬は飲んだら発光するような代物なのだ。それをカフェに勝手に飲ませるのは、絶対に許されない。

 するとタキオンがいつも以上に大人しくなったため、確かに反省しているのが分かった俺はこれ以上追及するのをやめる。

 説教を長引かせるのは俺も嫌いだからな。話はこれで終わりだ。

 

「うわ……トレーナーがガチギレしてるところ、久しぶりに見た……。やっぱり笑顔が怖い……」

 

「姉さん……カッコいいです……!」

 

 二人とも同じものを見ているのか疑いたくなる感想だが、これに関してはあまり気にしないようにする。

 俺は気恥ずかしさからかこほんと息払いをすると、空気感を変えるためにタキオンに対してとある質問を投げかけた。

 

「ところで、タキオンは好きな動物はいるのか?」

 

「そうだねぇ……私の言うことに忠実なモルモットが一番好きだねぇ」

 

「それ……あなたのトレーナーしか該当しませんよ……?」

 

「お弁当にはお肉類を多めにしてくれるモルモットくんが好きだねぇ」

 

「もうこれ、トレーナーじゃないとボク思うんだけど……。お母さんとか?」

 

 そんな他愛も無い会話をしていると、昼休み終わりのチャイムが鳴り今日の集まりは解散ということになる。

 いつも通り過ぎる、昼休みの一コマ。

 だから。この時はまさかあんな風になるとは、俺自身予想なんてしてなかったのである。

 

~~~~~~~~

 ネコカフェにいく約束をしてから、次の日の朝。

 その日は休日ということもあり、いつもセットする目覚ましをかけずにゆっくりと寝ていた。

 チームで出かけるのは昼ご飯を食べた後の午後から。

 俺の体質的に寝過ごすということはないし、万が一起きられなかったら絶対にテイオーあたりが部屋に突撃してくるだろう。

 結果としてはそんな心配することもなく、俺は朝日がカーテンの隙間から差し込む時間に目を覚ますことが出来た。

 

「んっ……。まだ、七時か……」

 

 結局いつもと同じくらいの時間に起きてしまったのを見ると、もう体に起床時間が染みついてしまっているのだろう。

 ベッドから頭を起こすと、軽く体をほぐすために腕を上へとあげながら手を組んで背筋を伸ばす。

 その後布団から出て寝ぼけ眼を擦りながら、着替えるためクローゼットの前へと向かうと自分の体が鏡に映る。

 

「──え?」

 

 その瞬間、俺の中の時が止まった。

 ただ、自分の体を映せるだけの大きさの姿見。

 朝日に反射した自分の姿が、目に入っただけの何もおかしくない現象。

 

「にゃ……にゃ……」

 

 問題があったのは、鏡に映る自分の立ち姿。

 ショートヘアに切り揃えられた真っ白な白毛の髪と琥珀色の瞳。

 頭からぴょこんと生えている、白いネコ耳。

 そして力なくぶらりと垂れている、先っぽが丸いネコの尻尾。

 

「にゃんだこれぇ……?」

 

 朝起きたらウマ娘ではなく、ネコ娘になっていた件について。

 頭の中で異世界転生アニメのタイトルのような単語を思い浮かべながら、俺はほっぺたを軽くつねる。

 

「痛い……。夢ではないのか……」

 

 確認の為に頭に力を入れると、いつも通りぴょこぴょこと耳が左右に揺れた。

 尻尾も同様に、ぶんぶんとウマ尻尾のように自由に動かせる。

 取り敢えず、これは自分の体の一部らしい。耳を触ってみるとしっかりと感覚があるし。

 となると、次はこうなった原因を考えるべきなのだが……

 

「心当たりがない……」

 

 当たり前のことだが、ウマ娘がネコ娘に変わることなんて前例が無い。

 オカルトか、それともサイエンスフィクションか。

 一人で可能性を考えていても、俺の頭ではこれ以上何も思い浮かびそうもない。

 ここは、頭が柔らかいヒトとオカルトに詳しいヒトを呼ぶか……

 俺は携帯の画面を操作し、メッセージアプリを起動するとチャットをぽちぽちと打ち込んだ。

 

『すまん、今起きてるヒトいるか?』

 

『起きてるよー!』

 

『今、丁度起きました……』

 

 俺がメッセージを送ったのは主に業務連絡で使用している、チームデネボラの三人が入っているグループチャット。

 既読が素早くついたのを見ると、寝ている間に通知音とかで起こしたわけでは無さそうで少しほっとする。

 俺はそこに、今起こってる異変について書き込みを始めた。

 

『ちょっと、連絡というか。自分の身に覚えのないことが起きてな……』

 

『どうしたの? 風邪ひいた……?』

 

『そういうわけじゃないんだけど……。 いや、実物見せた方が早いか』

 

 言葉で説明しても伝わりにくいと判断した俺は、携帯の内カメラを起動させて一枚かしゃりと自撮りを撮影する。

 普段はこんなことしないから少し下手くそだが、まぁそこはご愛敬だろう。

 ネコ耳にネコ尻尾がしっかりと映る角度になっていることを確認し、画像にメッセージを添付して送信ボタンを押した。

 

『ネコ娘になった、助けてくれ』

 

『すぐ行く』

 

『すぐ行きます』

 

 次の瞬間爆速で既読がついたかと思うと、彼女たちからの連絡が途絶えてしまった。

 まさかのすぐ来る宣言に、俺は焦って服をクローゼットから取り出す。

 二人に会うならいつものスーツ姿にしようと思い、さくさくと着替えると最後に尻尾穴に尻尾を通す。

 通すのはウマ尻尾ではなくネコ尻尾なのだが、大きさ的にはすんなりと入ってくれて安心する。

 そしてメッセージに既読がついてから数分後。

 どたどたという足音が廊下から聞こえて来たかと思うと、ばんと大きな音と共に部屋の扉が開けられた。

 

「トレーナー! ネコになったってホント──うおっ、可愛すぎ……」

 

「姉さんがネコって……べた過ぎませ──可愛いすぎませんか……?」

 

 返事をする前に速攻で入ってきた二人だったが、俺の姿を見るなり可愛い可愛いと連呼し始める。

 いつも以上の彼女達の食いつきっぷりに、俺も足元が揺らついてタジタジになってしまう。

 それと同時に頭についてたネコ耳がぴょこんと。そして猫シッポが、くるりと巻くように揺れた。

 

「すぅ……ふぅ……」

 

「なんかテイオーが至ってるんだけど。大丈夫か、これ」

 

「まぁ、気持ちは分かるので……。大丈夫だと思いますよ……」

 

 テイオーが普段は絶対にしないであろう、どこか目に焦点があってない表情で両手をわきわきさせている。

 カフェもカフェでうずうずと何かをやりたそうに我慢して、何かを言いたそうに口をもごもごと動かしていた。

 俺の体をじろじろと見つめてきて二人が少し落ち着かない中、流れを変えるためにこほんと軽く咳ばらいをすると口を開いた。

 

「取り敢えず……どうしてこうなったか考えなきゃいけないんだけど、なんか分かるか?」

 

 テイオーとカフェを呼んだ目的は、俺の体がどうしてこなったかの追求だ。

 元に戻る為にも、原因から逆算しないとどうしようもない。

 自分で言っていてなんだが、この質問かなり荒唐無稽だな……

 するとテイオーが意識を取り戻したように喉を鳴らし、質問に答えてくれる。

 

「んっ……ボクが何かしたわけじゃないし……。こういうのはカフェの方が詳しいんじゃない?」

 

「確かにオカルト的な現象ですが……姉さんに何か悪霊が憑りついているとかは無さそうです……」

 

「そうなのか?」

 

「あとは、神罰……。例えば、ネコの神様を怒らせてしまったから罰としてこうなった……とかは考えられますが……。姉さんが、怒りを買うことなんてないですし……」

 

「ネコなんて触れてないしな。覚えが全く無い」

 

 これでカフェが詳しい心霊的な現象の線は消えた。

 オトモダチが見えるカフェが言っているのだから、オカルト的な話では無いのだろう。

 となると、もう一つの可能性であるサイエンスフィクションなのだが……

 

「何だろう、ボク。唐突に思い当たる節が出てきたよ」

 

「奇遇ですね……私もです……」

 

「……昨日の今日だしな。流石に状況証拠が揃いすぎてる」

 

 俺は携帯を取り出すと、ある番号に対して通話のボタンを押す。

 電話をかけると、数回コールが画面から鳴り響くが相手が出てくれる様子がない。

 ついには電話の画面の方が、ぷつりと切れてプープーと音が鳴ってしまった。

 

「寝てるのか……?」

 

「なら私が直接実験室に行ってきます……。どうせ、寮に帰らずそこで寝ていると思うので……」

 

「分かった。頼む、カフェ」

 

 カフェはそう言ってこくりと頷くと俺の部屋から小走りで出ていき、トレセン学園の方へと向かってくれる。

 行き先は勿論あのマッドサイエンティスト──アグネスタキオンの元へである。

 

~~~~~~~~

「ただいま戻りました……」

 

「お帰り。どうだった?」

 

 カフェが部屋から出て行ってから数十分後。

 走ってきたのか切らした息を整えながら、彼女はタキオンのことを纏めて話してくれた。

 

 ──曰く、このネコ娘化の原因はやはりタキオンの薬だということ。

 

 ──曰く、このネコ娘化は何もせずとも一日で治るということ。

 

 ──曰く、ウマ娘に戻る薬を作るにしても時間がかかるので待った方がいいとのこと。

 

「そして……わざと混入したわけではないとのことでした……」

 

「まぁあれだけ釘を刺しといたからな……。逆に、俺にどうやって薬を飲ませたんだ?」

 

「飲ませた……というより、吸ったが正しいらしいです……。気化した成分が、部屋に漂ってしまったと……」

 

「それは見えないし、防ぎようがないな……」

 

 そうなると、その部屋にいた俺だけに影響が及んだ理由がいまいち分からないが……取り敢えず原因は分かった。

 効果時間に関しても嘘ではないだろうし、薬に関しても予想外のことなら用意して無くても仕方ない。というより、最初から短時間での運用を考えていたのだろう。

 

「大人しくするしかないか……。すまんな、今日はネコカフェ行けなさそうだ」

 

 流石にこの状態で外に出たら、大騒ぎになることは容易に想像出来る。

 ただでさえ目立つ白毛なのだ。メディア露出が増えてきた今、そんな爆弾を投下したくない。

 

「……そんな気にしてないよ。別にネコカフェはいつでもいけるし」

 

「そう……ですね。また次の休みにみんなで行きましょう……」

 

 それに関しては彼女たちも理解してくれているようで、聞き分けよくこくりと頷いてくれた。

 外に出れない休みの日にどうしようかなと考えていると、二人は俺のことをじっと見つめながらにこりと微笑んだ。

 

「だって、目の前にネコがいるんだし」

 

「行く必要無いですよね……」

 

「……ん?」

 

 なんか流れ変わった? 

 両脇にじりじりと近寄って来るテイオーとカフェに、俺はぼふんとベッドに尻もちをついてしまう。

 目つきがギラギラとしていて、餌を前にした猛獣のような圧が肌からひしひしと感じられる。

 

「ねぇ、トレーナー……」

 

「にゃ、にゃに……」

 

 まるで小動物のように俺がびくびくと震えていると、テイオーがぱんと両手を合わせてきた。

 そしてベッドに座っている俺を上から見下ろすと、もう我慢できないといった様子で口をゆっくりと開く。

 

「……耳、触らせて?」

 

 そう言っておねだりしてきたのは、俺のネコ耳に触れるための許可だった。

 まぁ……自分に無いタイプの耳だからどうなっているのか気になるのか。

 知らない人に言われたら流石に断るが、テイオーになら別にいいだろう。痛くしてくる心配も無いだろうし。

 

「んっ……。敏感だから、優しく触ってくれよ?」

 

 耳をピンと上に立てて目を軽く閉じながら、俺は彼女に対して頭を差し出した。

 すぅとテイオーが息を飲む音が聞こえると、そっと俺の右耳に彼女の指の温かさが伝わってくる。

 むにむにと耳の先端を中心に揉まれて、なんだかこそばゆい。

 

「ふわふわ……やわ……」

 

「……っつ! 姉さん、私も……」

 

「空いてるほうな。優しくしてくれよ」

 

 テイオーが触ってるのを見て我慢できなくなったのか、途中からカフェも参戦してきた。

 むにむに。ぷにぷに。もみもみ。

 ふぅふぅと息がかかる距離まで近づいて来た二人は、無言になるほど夢中に耳をずっと触ってきている。

 そんな二人の触れ方が上手いのか、俺も段々と気持ちよくなって目のあたりがとろんと下がってきてしまう。

 心地よい眠気に似ているといえばいいだろうか。緊張が解れて、体がふにゃふにゃとリラックスしていく感じ。

 

「……もう我慢できませんっ!」

 

 俺が一人で心地よさを感じていると、カフェが突然ばっと耳から突然離れて俺の正面に立ってくる。

 何事かと思って目を開けて確認しようとすると、もう既ににゅっと彼女の手が伸びている途中だった。

 そして俺の喉元当たりにそっと指先を当てたかと思うと、顎あたりに持って来るようにゆっくりと優しく撫で始めてくる。

 別に触られて嫌な場所では無いが、急にどうしたのだろうか──

 

「……ごろごろ」

 

「ふふ……」

 

「えっ……なに、なんか勝手に。ごろごろ……ちょっ、にゃにこれ」

 

「ちょっ、カフェ! ボクも! ボクも!」

 

 何故かゴロゴロという中低音程度の音が、喉元から勝手に流れてしまう。

 口から出た声というわけではなく、空気が揺れているような音。

 しかも自分から止めることが出来ないというのが恐ろしい。

 

「ネコが喉を鳴らすのは、リラックスして気持ちがいい時らしいですよ……」

 

「んぐっ……否定できにゃい……」

 

 何か追及するわけでも無くカフェが笑顔でそう言ってきたのを、俺は否定することが出来なかった。

 その後カフェは十分に俺のことを撫でて満足したのか、テイオーと場所を交換して後ろに回る。

 そうなると俺の前にテイオーが移動してきて、むふーっと息を吐きながら膝立ちになった。

 そして俺の頬を両手で包み込むと、わしゃわしゃと顔全体を撫で繰り回し始める。

 

「うりうり~。もっと鳴いてもいいんだよ~」

 

「ふぁ……。ていおー、ちょっとちからつよい……」

 

「うえっ!? トレーナー、ごめん──あれ?」

 

「……?」

 

 特に抵抗もせずにテイオーに顔を遊ばせていると、彼女が何かに気づいたような声をあげたのが聞こえる。

 顔をもみもみと揉まれた影響で細目になった目をぱっちりと開くと、何故かテイオーがにやにやと微笑んでいた。

 その顔はとても満足しており、頬は緩みきってなんだか可愛らしいものを愛でているような……

 

「ふみふみかわいいね~♡ いっぱい踏んでいいんだよ~♡」

 

「……にゃ?」

 

 そこまで言われて、ようやく気づいた。

 俺の手がグーの形になって、テイオーの肩の部分をとんとんと優しく叩いている。

 完全に無意識だった。

 本当にネコみたいな行動をしていたことを自覚してしまい、顔が一気にかっと真っ赤に染まっていくのが分かってしまう。

 

「ネコがふみふみするのは甘えや慕いの表現と言われています……。安心している証拠でもありますね……」

 

「なになに~? トレーナー、ボクのこと大好きすぎでしょ~~~♡」

 

「解説しないでくれっ……」

 

 無意識で行動していたことが、まさか理由だということがカフェから明かされて余計に顔の熱が足されてしまった。

 何も無ければこの場から逃げ出したい気持ちに駆られたが、二人にがっしりと前と後ろを防がれていて移動が出来ない。というかそもそも体に力が入らない。

 

「すーっ……」

 

「うゃあ」

 

 そんなでろんでろんに溶け切ってしまっていた俺の頭に、突然吸い込まれるような感覚が襲ってくる。

 流石に後ろまでは見えないが、俺のネコ耳にはカフェがすぅすぅという音をたてているのが聞こえてきた。

 もしかして俺の髪に顔を埋めて呼吸してる……? 

 

「さ、流石に匂わないと思うけど、それは俺もちょっと恥ずかしいかなって……」

 

「ネコ吸いです……」

 

「ネコ、吸い……?」

 

「ネコに顔を埋めて吸うことです……。甘い匂いがします……」

 

 謎の文化の解説もされ、そのままネコ吸いとやらを継続するカフェ。

 そんな彼女を羨ましく思ったのか、立ちながら俺の耳の裏をかりかりしてくるテイオー。

 そして、それらに一切抵抗せずにモフられている俺。

 こんなことまでされても、不思議と全く不快感は感じない。

 なんだか、チームの飼いネコになった気分──

 

「いや俺、ウマ娘なんだが?」

 

「今はネコですよね……?」

 

「そうそう、だからトレーナーが、ネコちゃんの反応しても仕方ないのだ♪」

 

 俺が反論しようとするたび、担当の二人が無駄な思考をさせないようにと触られて心地よい場所を優しく撫でてくる。

 そのせいで、いつも以上のまともな思考を回すことが難しくなっていた。

 それを、彼女に見抜かれたのか。

 カフェが俺の頭から顔を埋めるのをやめると、ぱっと理解できないことをぽそりと呟いてきた。

 

「ネコカフェに行けないなら、ここでネコカフェを開けばいいのではないでしょうか……」

 

「……?」

 

「……! 天才だよ、それ!」

 

 ネコカフェを、今ここで? 

 急に言われて意味が分からないため、かみ砕くために一旦要素を取り出して整理してみようか。

 まずネコカフェとは、店内で飼われているネコを愛でながら食事をしたり出来る一風変わった喫茶店だ。

 さて、ここでネコに該当するのはだれだろうか。

 

「いや、ちょっと待って。まさか」

 

「そうです……。姉さんを愛でるためだけのカフェを、一日限定でオープンします……!」

 

 なんかそれ、ネコカフェとは違う施設じゃないか? 

 そんな突っ込みをぐっと飲み込んで、俺はもうなんか暴走している彼女になんとか口を出す。

 

「俺も知らないヒトに触られるのは嫌なんだけど……」

 

「大丈夫です……。私とテイオーさんが許可を出したヒトしか通しませんので……」

 

「いっぱい撫でて貰えるよー! あとは、これとか」

 

 そう言ってテイオーが取り出してきたのは、一本の細長い子袋。

 よくコンビニとかで無料で貰えるような調味料のような包み。

 彼女はマジックカットになっている先端を手で切り取ると、俺の口にすっと近づけてくる。

 その瞬間俺の中にある何かが、それを舐めろって言ってきた気がした。

 

「すんすん……。んにゃ……にゃに、これうみゃ……」

 

「またたびが入っているネコ用のおやつなんだけど……思った以上の食いつきかも……」

 

「かっわ……。ちょっと写真撮るので、テイオーさんそのままで……」

 

 何とも言い難い大好物の匂いと一緒に、ぽかぽかと暖かい味が舌に乗っている。

 脳に直接伝えてくるような快楽の暴力に、俺は夢中になってそれをしゃぶっていた。

 テイオーが差し出してきた包みから出てくるおやつをちゅっちゅっと吸っていると、それがぱっと口元から離れてしまった。

 なので俺が寂しそうな視線をテイオーに向けると、彼女がにこりと微笑んでとある提案をしてくる。

 

「これ、いっぱい貰えるよー? どうする?」

 

「にゃっ……」

 

「姉さん、撫でられてる時気持ちよさそうでしたし……痛くはしませんから……」

 

 おいしいもの食べられて、みんなから撫でて貰えて気持ちよくなれる……? 

 思考が鈍い。まともより、本能が奥底から出てくる。しかも、ネコの方の。

 お酒を飲んだことは無いが、アルコールが入った時のようなぽわぽわとした感覚の中。

 俺が口に出した答えは──

 

「今日、だけだしな……」

 

 結局、俺は本当に押しに弱い。

 

 ────────────────

 みんなはネコは好きだろうか。

 いや、好きだと思う。トレーナーさんも好きって言ってくれたし。

 ぽけっとそんなことを考えていたアタシ──ナイスネイチャはぽけっとした頭をふらふらと揺らしていた。

 

「はぁ~」

 

 なんかいつも通り朝起きたのはいいけど、休みの日だったから特にそんな必要も無く空回りしてる寝起き。

 こういう日ってあるよね。でも起きて動かないと、多分なんもせずに惰性で睡眠貪っちゃう。

 同室の子はマーベラスと伝言だけ残してどっか行っちゃったし。

 

「晴れてるしなぁ……」

 

 透き通った蒼い空を見上げながら、もぞもぞとベッドから這い出てなんとか私服に着替える。

 トレーニングは休みで禁止されているし、トレーナーさんも忙しくて会えない。

 こういう日は、そうだねぇ……ネコでもモフりにいこう。

 確か、商店街にネコのたまり場があったはず。今もふもふすれば、天気的にお日様の匂いがするだろう。

 なんか、元気出てきたかも。

 

「商店街のおっちゃん達に顔出すついでに……っと?」

 

 アタシがすっかりネコを愛でる気分になっていると、突然ぶるりと携帯の通知音が鳴った。

 明るくなった画面を覗いてみると、アタシが良く知ったヒトからのメッセージ。

 アイコンをタップしアプリ画面を出すと、とあるメッセージが目に入った。

 

『おはよう! 当然なんだけどさ、ネイチャってネコ好きだったよね』

 

 そんな言葉を送って来たのは、アタシのライバルで友達でもあるトウカイテイオー。

 彼女からのメッセージが来るのは別に珍しいという訳でも無かったが、急にネコの話とは。

 丁度ネコのことを考えていたアタシは、それに対してぽちぽちと画面をタッチして返信を返した。

 

『ネコ好きっちゃ、好きだけど。なんかあったの?』

 

『いやぁさ。ちょうどネコカフェ開いてさ。お客さんにならないかって』

 

 ほうほう。ネコカフェですか。

 ネイチャさん的には、合法的にネコを摂取できる場所ということで結構ポイント高かったりする。

 けどノラネコとかは違って、ネコに触るための成約が多いからそこは一長一短って感じかなぁ。

 そんなネコカフェへのお誘いだったら、アタシも丁度暇だったし行く──

 

「……ん?」

 

 そこまで考えたところで、アタシは変な箇所に気づいた。

 ネコカフェに一緒に行こうという誘いではなく、ネコカフェを開く……? 

 テイオーがお金の力でネコカフェを立ち上げたとかいうトンチキな発想も浮かんだが、流石にそれは無いよね……。いつか自分はお嬢様だってマックイーンに対抗してたけど、まさか……。

 

『どういうこと? ネコカフェを開いたって』

 

『今ちょうどネコがトレーナー室にいてさ。その子も嫌がってないみたいだし、ただでモフらせてあげるよ? 今日一日だけだけど』

 

 ほうほう、それは魅力的な提案だ。

 人懐っこいネコは大好きだ。モフってネコ吸いまでしちゃおうかな~。

 アタシはるんるん気分で、テイオーに対して『行く!』とメッセージを送り場所を教えて貰う。

 その時のアタシは特に気にしてなかった。

 テイオーのチームのトレーナー室は、動物持ち込み禁止の寮の中にあるっていうことに。

 

~~~~~~~~

 栗東寮、四階のとある一室。そこがテイオーがアタシに来るように指示した場所だった。

 廊下を歩いて行くと、その場に似つかわしくない姿のウマ娘がアタシに手を振っているのが見える。

 

「ネイチャー、こっちこっち」

 

「おいっすー……って、何その格好」

 

 制服や私服、勿論勝負服とかではない衣装。

 上半身は緑色と茶色が層になった和服。下半身はふわっと広がったチョコ色のフレアスカート。

 例えるならば和服とメイド服を融合したようなガーリー系の可愛い服に、ネコの足跡がアクセントのようにマークとしてプリントされている。

 更にそれに合わせてか、テイオーの髪型がいつものポニーテールから三つ編みに変化していた。

 喫茶店に合わせてかとても可愛いらしい衣装に身を包んでいたテイオーに、アタシは思わず息を飲んでしまう。

 

「これ? ネコカフェやるっていったら、マックイーンが貸してくれてさ。どうどう? 似合ってる?」

 

「似合ってる……けど。なんかすごい気合い入ってますなぁ」

 

「そりゃ、ネコを最大限可愛くするために衣装は必須でしょ?」

 

 なんだろう。ネコちゃんに服でも着せてるのかね。

 まぁ、それも入ってみれば分かると思うし。さてさて……そろそろネコをおがませて貰いますからねぇ……。

 

「あっ、入る前に注意。ネコの嫌がることだけはしないでね」

 

「当ったり前じゃないですか。ネイチャさんをなんだと思ってるのよ」

 

 こちとらネコをモフって数年のベテランですよ。ネコの嫌がることとか、好きなことは把握してますよっと。

 どんなタイプのネコちゃんなのかと気になりながら、トレーナー室の扉を開けるとそこには二人のウマ娘が──あれ? 

 

「……ん?」

 

「いらっしゃいませ……。次はネイチャさんでしたか……ようこそ、ネコカフェへ」

 

 そう言って出迎えてくれたのは、綺麗な黒髪を一本の三つ編みに纏めた一人のウマ娘。

 テイオーと同じ和メイドを着ていて、不思議な雰囲気により一層深みを持たせていた。

 実際にしっかりと会話したことは無いけど、彼女の名前は知っている。

 マンハッタンカフェさん。チーム「デネボラ」所属で、テイオーのトレーナーさんの妹だったはずだ。

 で……そのトレーナーさん。私の知り合いでもある、スターさんなんだけど……

 

「うぅ……」

 

「……へ?」

 

 何故かネコ耳とネコ尻尾が生えて、ネコ娘になっていた。

 理解が追い付かなくて頭にハテナマークが浮かんでしまうが、もしかして。もしかしなくても。

 

「そうだよ! トレーナーがネコのカフェだよ!」

 

「いやアンタ! トレーナー室にネコがいるって……いや、間違ったことは言ってない……!?」

 

「ボクは嘘ついてないよ? ネコがいて、モフモフ出来るって。さぁ、さぁ! 好きにどうぞ!」

 

 この際、なんでスターさんがネコになっているのかは置いておいて。

 テイオーやカフェさんたちと同じ衣装を着て、ネコ耳をぴょこぴょこと揺らしている様子はアタシの愛でたい気持ちを刺激してくる。

 ただウマ耳からネコ耳に変わっただけなのに、なんでこんなにも撫でたくなるの……。

 

「変なところに触らなければ大丈夫です……。姉さんの了承は取っているので、お好きに……」

 

「いやいや! スターさんも、こんなの嫌ですよね!?」

 

 ネコならもう我慢せずにモフっていたのだが、相手はスターさん。

 いくら知り合いとはいえ、限度が……。

 やんわりと断ってくれることを期待して話しかけたのだが、彼女はちょっと頬を赤らめてこくりと頷いた。

 

「俺は……大丈夫だから」

 

「あぁ~! もう!」

 

 ネイチャさん、我慢できませんでした! 

 アタシはそっとスターさんの頭に手を置くと、いつもネコをモフるようにぐりぐりと動かす。

 

「やっぱりトレーナー、なんか良くないフェロモン出してるんじゃないの?」

 

「マックイーンさん、生徒会長さん……全滅でしたね……」

 

 普段ネコをモフっているアタシでも、満足する毛並みの仕上がり。

 触りがいのあるふわっとしたお耳に、ネコ特有の甘い香り。高貴なネコ様って感じがする。

 すーっと髪に顔を埋めてネコ吸いをしても、全く嫌がる気配は無くてとてもいい子。

 

「ごろごろ……」

 

「かわいい~~~♡」

 

 もうメロメロだった。スターさんにはちょっと悪いけど、思う存分モフらせてもらおう。

 いやぁ、もうネイチャさん大満足。こんな幸せなこと教えてくれた、テイオーに感謝よ。

 

「オプションならこっちに……」

 

 えっ、なにおやつもあげられるの? じゃあそれも。

 写真とかも撮れる? じゃあ、そっちも……というか、全部欲しい! 

 こうして。アタシの休日の時間は、癒しにより速攻で溶けていったのであった。

 

────────────────

 そこは真っ白な場所──ではなかった。

 辺りを見渡してみると大きなテーブルにふかふかのソファが置いてあり、どこかの喫茶店のような内装になっている。

 窓から差し込む暖かな太陽の光の中、心地よい空気がふわふわとその場を流れているようだった。

 

「おはようございます……姉さん。よく眠れましたか……?」

 

 そんな空間の中で、俺のことを上から覗き込んでくるウマ娘が一人。

 ネコカフェの時の和服メイドの衣装をふわりと漂わせている彼女は、俺の大切な妹で担当でもあるマンハッタンカフェ。

 もしかしてあの後、気づかぬうちに眠ってしまったのだろうか。

 

「なぁ~」

 

「ふふ……撫でて欲しいんですか……? ブラッシングしてあげますね……」

 

 そう言った彼女は俺を抱きかかえて、ぽんと膝上に置いた。そう、まるで小物を持ち上げるように、膝上にだ。

 その時点でやっと、違和感に気づく。

 いつもより低い視点。視界に映る白い毛むくじゃらな姿に、ぷにぷにとした肉球。ちりんと首元で鳴る鈴がついた首輪。

 ネコ娘どころではない。完全に、俺がネコそのものになってしまっている。

 びっくりして四つ足をバタバタとしてしまうと、カフェに上からぐっと抑え込まれてしまう。

 

「急に暴れたら危ないですよ……。ほらお腹をなでなでしてあげますので……」

 

「にゃっ……ゴロゴロゴロ……」

 

 多分、これは夢の中だ。

 現実感が無さ過ぎるこの状況に、ふわふわと纏まらない思考がそれを物語っている。

 まぁ……夢の中なら、ネコの本能に任せてもいいか……。

 

「おもちゃもありますよ……。ボールころころしましょうね……」

 

 カフェが転がしたボールのおもちゃに飛びついて、遊んでしまったり。

 

「いっぱい遊びましたね。お腹が空いたでしょう……? ゆっくり……食べて下さいね……」

 

 彼女の手のひらに置かれたご飯を、歯を立てないようにぺろぺろと食べてしまったり。

 

「ご飯を食べて眠くなってしまいましたか……? それなら……」

 

 耳の裏を優しくかりかりと撫でられて、気持ちいい声を出してしまったり。

 

「力を抜いて眠ってください……。膝から落ちないよう……抱っこ、しておきますから」

 

 そのまま丸くなって、ネコのように眠ってしまったり。

 こうしてしまうのも、全部夢の中だから。親しい、妹の前だから。

 

「姉さんは頑張り屋さんです……。毎日私たちのために頑張ってくれて、嬉しいです……」

 

 ころころとカフェが微睡みの中、俺をゆっくりと撫でてくる。

 その手つきは、俺のいいところを全部わかってるみたいで。

 

「でも……姉さんが元気でないと、寂しい……ですから。だから……時には。こうやって……」

 

 カフェからしたら、俺は年上で姉でトレーナーだ。

 夢の中でしか、伝えられないこともあるのかもしれない。

 だから──

 

「甘えて……くださいね」

 

 ありがとうな、カフェ。

 

「にゃあ」

 

 その鳴き声は。きっと、ちょっと特別な姉妹の間でしか知らない。

 




今回公開させていただいたのは、C104夏コミ新刊『そのウマ娘、星を仰ぎ見る 外伝「シャッターチャンスを切り取って」』の二章部分となっております。時系列的には、前回の話の少し後くらいです。
サンプル部分では公開していませんが、章ごとに素敵な挿絵もついております!とっても可愛いスターちゃんが見れます。
現地にいけないけど実本が欲しい……という方のために、メロンブックスにいくらか委託を行わせていただきました。
少なめの25冊しか委託してないので、是非早めに予約してあげてください。

https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=2476995

因みにDLサイトでも販売予定です。電子派の方は、こちらから。

https://www.dlsite.com/home/announce/=/product_id/RJ01229846.html

現地ではスターちゃんアクリルキーホルダー(ウエディングドレスと猫カフェ衣装の2種類)に新しい表紙イラストがついたコピ本を用意して待っています。去年の実本もあります。
「日曜日 東地区 “e” ブロック 01b」で待っています。
クソデカスターちゃんポスターが目印です。

75000文字超えの書き下ろし作品。頑張って書いたので、素敵なイラストともにお手に取ってみて下さい。
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