そのウマ娘、星を仰ぎ見る   作:フラペチーノ

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第二章 テイオージュニア級
4.出会い


 そこは真っ白な場所だった。

 

 視界内から入る情報が「白」しかなく、全く風景の変化がない水平線まで真っ白な空間。

 そんな場所に俺はいた。

 

 またこの夢か……

 定期的に見るこの状況に即座に夢だと判断した俺は、座っていつも出てくる茶髪のウマ娘の少女を待つことに……

 

 ん? 座れる?

 

 そう、今回の夢はいつもと少し違った。

 いつもは「視覚」以外の感覚が無く、座る事はおろか、動くことすら出来なかったのだが何故か今回は自由に動ける。

 気になって自分の状況を確認してみると、ぴこぴこと耳が動く感覚があり、尻尾も動かせることから恐らくスターゲイザーの体でここにいるのだろう。

 ただ喋る事は出来なかった。あと聴覚と嗅覚も効いていない。

 よく分らない状況に頭が混乱していると、奥の方から茶髪でロング髪のウマ娘が歩いてくるのが見えた。

 その少女はにっこりと笑みを浮かべ、俺のそばに近寄る。

 俺は動くことが出来ずに立っていると、その少女は俺の目元に手を当て、呟いた。

 

『うん、これでよく見えますね』

 

 ピピピと、無機質な電子音が部屋に響く。

 俺はゆっくりと上半身をベッドから起こし、目覚まし時計を止める。

 

「知らない天井だ……」

 

~~~~~~~~

 俺は寝ぼけ眼を擦りながら、今いる状況を把握する。

 確か昨日はこのトレセン学園のウマ娘寮に引っ越してきて、トレセン学園や寮の構造を把握した後、次の日の準備をして眠りについたはずだ。

 道理で知らない天井なはずだ。ここで寝起きするのは初めてなのだから。

 

 それにしてもあの夢は何だったのだろうか。

 なんか『よく見える』とか言われたが、特に変わった感じは見受けられない。

 部屋の中に最初から置いてあった姿見で目を確認してみるがいつも通りの琥珀色だ。

 なんか不思議なものとか見えたりもしないし何だったんだろうあれ……

 

 そんなことを考えてたらくぅとお腹が鳴る。

 時計を見ると朝の七時。

 昨日は色々とありごはんを取らずに寝てしまったので、余計にお腹が空いている。

 朝ごはんは寮の一階で食べれるらしいので部屋を出ようとするが、ここで問題が発生した。

 

 あれどんな格好で外に出ればいいんだ?

 

 俺の今の格好はパジャマ。しかも男性用の少しサイズが大きめの奴である。

 こんな格好でのは論外。

 が、スーツ姿で外に出ていくのはまたそれはそれで目立つだろう。だってここは現役トレセン学園生徒が住む寮なのであって、基本的にトレーナーが住む寮ではない。

 

 ……どうする?詰んだ?

 

 朝ごはんを食べれる時間は決まっている為生徒たちが登校した後に行くことも出来ない。

 仮に出来たとしても、今日は入社式の為のんびり朝食なんて取っていたら確実に遅刻してしまうだろう。

 今日の朝ごはんは我慢するか……なんて考えに至っていると、視界内に段ボールが入る。

 

「……」

 

 え、あれ着るの? 女性用の制服なんて転生してウマ娘になっても着た事ないんですけど? なんならスカートすら履いた事無いよ?

 

 俺は空腹と恥を天秤にかけ、結局段ボールを開け

 

 

 

 トレセン学園のジャージに袖を通した。

 

 ……うん、わざわざ制服である必要はないんじゃないかな。

 

~~~~~~~~

 ジャージに着替えた俺は食堂がある一階に向かう。

 階段を降りて移動していると、多くのウマ娘達とすれ違う。因みに制服姿かジャージ姿だ。流石にパジャマ姿の子はいなかった。

 食堂に到着すると多くのウマ娘がいて大変にぎわっていた。

 どうやら二つある定食から自分で選ぶらしい。パンかご飯か。

 俺はパンをチョイスし、トレーに受け取って開いてた席に適当に座る。

 

「いただきます」

 

 美味しい。普通のベーコンエッグとパンのシンプルなメニューだったが、これがなかなかに美味い。

 しかもこれがトレセン学園の全寮で調理されて提供されていることを考えると、規模の大きさが伺える。

 一体何人の従業員がいるのだ。

 そんなトレセン学園のヤバさについて考えながら朝食を食べていたところ、声をかけられた。

 

「あの、相席いいですか?」

 

「……ん? あぁ、どう……ぞ?」

 

 顔を上げて確認すると山盛りにご飯がよそられたお茶碗が真っ先に目に入る。

 「ありがとうございますー」と言ってそのウマ娘は俺の正面に座る。

 ウマ娘がよく食べるのは知っているが、朝っぱらからこんなに食べて胃もたれとかしないのだろうか。

 「いただきます」と言って彼女はご飯を食べ始めた。凄い食べっぷりになんか見てるだけでこちらもお腹いっぱいになりそうだ。

 

「あの、もしかして昨日新しく寮に来た子ですか?」

 

「……なんでそう思ったの?」

 

「いやあの、昨日に新しい子が入るって噂になってて、それで見かけた事の無い綺麗な白毛の子がいたのでそれで」

 

 なるほど。やはりこれだけウマ娘がいても白毛のウマ娘は珍しいのか。

 帽子でも被ってくれば良かったかなーと思いつつ黙々と食事を続けていると、彼女は「あ」と口を開いた。

 

「私、スペシャルウィークって言います! 何か分からない事があったら聞いてくださいね!」

 

 と元気に自己紹介されたので、俺も名前くらいは名乗ろうかとしたが

 

「あ! もうこんな時間! またトレーナーさんに怒られる! じゃあまた会いましょうねー!」

 

 とだけ残し、あれだけ大量にあったご飯を全て完食し、慌てて何処かへ立ち去ってしまった。

 

 ……にしてもスペシャルウィークさんか。

 自分の髪の事を綺麗なんて言ってきたのは二人目だ。なんかこちらに来てから調子が狂う。

 

「ごちそうさまでした」

 

 俺は食事を済ませ、着替えるために自室に戻る事にした。

 そういえば結局名前名乗れなかったな。まぁ同じ寮ならまた会えるでしょ。

 

~~~~~~~~

 部屋に戻りスーツ姿に着替え、トレセン学園に向かう。

 本来であればこのまま入社式の会場に向かうのだが、何故かたづなさんにメールで『理事長室に来てください』と言われたので会場には向かわず理事長室へ向かう。

 理事長室を訪れるのは面接以来だが、こんな短期間に連続して呼ばれるなんて俺くらいじゃないだろうか。

 

 理事長室のドアをノックして、返事を待つ。

 すると中から「どうぞ」と声が聞こえたのでドアを開けると、そこには理事長はおらずたづなさんだけが立っていた。

 

「おはようございます、スターゲイザーさん。顔を合わせるのは面接の時以来ですね」

 

「おはようございます。お久しぶりです」

 

 お互いに挨拶を済ませると、たづなさんはすぐ呼び出した本題に入ってくれた。

 

「今回お呼びした理由なんですけど、スターゲイザーさん。入社式の代表挨拶ってご存知ですか?」

 

 代表挨拶…… 確かその年のトレーナー試験で主席だった人がやるんだっけな。

 

「それでですね。今回の試験の主席がスターゲイザーさんだったので、本来は貴方が挨拶するはずなんですが……」

 

 ……えっ、俺主席合格してたの? 合格通知では点数とか出ないし分からなかった……

 

「でも私何も準備していませんが……」

 

「はい、その点なんですが今回は代役をお願いしました。スターゲイザーさんも最初から目立つのは嫌でしょうと思ったのですが、大丈夫でしたか?」

 

 確かにただでさえ目立つ姿をしており、あまつさえ中卒が主席合格したなんて知られたら第一印象としてはあまり良くないだろう。

 これには気を使ってくれたたづなさん側に感謝である。

 

「因みにどなたにお願いしたんですか?」

 

「桐生院さんって方です。成績はスターゲイザーさんに次いで次席ですね」

 

 桐生院家。トレーナー界隈で大きな名を連ねる言わずと知れた名家だ。

 なんでも定期的に優秀なトレーナーを輩出しているのだとか。

 つかトレーナーの才能って遺伝する物なのだろうか……

 

 俺は取り合えず代わりになってくれた桐生院さんに心の中で感謝しておくことにした。

 

「あとスターゲイザーさん、携帯電話番号教えてくれます?いちいちPCでメールを確認するのも面倒じゃないですか?」

 

「あ、私携帯無いです」

 

「嘘ですよね……?」

 

~~~~~~~~

 たづなさんと後日携帯を買う約束をした後、俺は理事長室を後にし入社式の会場へ向かう。

 入社式の会場は小さな体育館みたいなところで行われるようだ。

 受付で自分の名前を言うとトレーナーバッジとトレセン学園での身分証明用のカードを貰った。

 大事に受け取りつつ、室内へ。

 どうやら席は決まってるらしく、俺は案内された端の方の席へ座る。

 ……ここもたづなさん側が目立たないように気を使ってくれたのだろうか。本当に頭が上がらない。

 

 周りを見渡してみると、同じ新人トレーナーの席に座っている人が二十名ほどいた。

 男性トレーナーの比率が高く、女性のトレーナーはぱっと見俺含めて数人だろうか。

 因みにウマ娘のトレーナーは俺しかいなかった。これはかなり目立つ。

 

「宣誓! これより入社式を始める!」

 

 理事長の元気な挨拶と共に始まった入社式はつつがなく進んでいき、代表挨拶も桐生院さんがしっかり務めていた。

 あと桐生院さんって女性だったんだね…… 真面目そうな雰囲気の方だった。

 

 入社式自体は三十分程度で終わり、ここからはたづなさんからの新人トレーナーへの説明会だ。

 内容を要約すると、新人トレーナーには大きく二つの選択肢があるとの事。

 まず一つ目は今いる先輩トレーナーの下に付き、ノウハウを学ぶ事。これが新人トレーナーとして一般的な流れらしい。

 

 そして二つ目がすぐに担当を持ってしまう事。

 これはウマ娘をスカウトし、チームを持ったり専属になったりすることだが、新人トレーナーにこれは難しいため、滅多にいないらしい。

 そもそも新人トレーナーのスカウトにウマ娘側も拒否してしまうとの事。そりゃウマ娘側も新人トレーナーより、しっかりとしたベテラントレーナーの指導を受けたいに決まっている。

 

 トレセン学園側からもどうするかを新入生の入学式の後に開催される選抜レースまでには決めて欲しいそうだ。

 

 俺?

 俺は勿論既にやる事は決まっている。

 

 さて、約束を守りにいきますか

 

~~~~~~~~

『ねずみさん! ボクトレセン学園合格したよ! まぁ当然だね~』

 

 入社式が終わったその日の夕方。

 帝王さんがトレセン学園に合格したというDMが届いた。

 

『おめでとう! これで二人ともトレセン学園に来れたな』

 

『だね! ボクの方は入学式もう少し後だけど、それまで待っててね!』

 

 良かった…… これで俺だけ合格して帝王さんが落ちたら気まずかった……

 まぁ帝王さんが落ちるところを想像が出来ないんだけど。

 まだ一回も会った事は無いが、今までの発言が凄い自信たっぷりに言うものだから、本当に天才なのかもしれないと思ってしまっているのはある。

 

 そんな帝王さんとリアルで会う事を楽しみにしながら俺は眠りについた。

 

~~~~~~~~

 入社式から一週間が過ぎた。

 俺は寮での生活にもある程度慣れ、新入生の入学式の為の準備に雑用に駆り出されていた。

 看板を設置したり、アーチのようなものを作ったりなどなど……

 

 そこでは男性とも一緒に作業していたのだが、明らかに俺の方がパワーがあった。

 本当にウマ娘とは不思議である。自分でもよく分かんないくらい。

 

 そんな桜が見ごろを迎える中行われた、トレセン学園入学式。

 俺はこの日に帝王さんと会う約束をしていた。

 

『えっと、入学式終わったらトレセン学園の三女神像の近くのベンチにいるから! ポニーテールで、前髪に白い流星が入ってたら多分それボクだよ!』

 

 そんな割と曖昧な見た目の連絡を受けて、俺は待ち合わせ場所の三女神像の所へ向かう。

 因みに三女神とは全てのウマ娘の始まりと言われている三人のウマ娘の事で、ウマ娘の神様として有名である。

 

 三女神様にでも聞けば俺がウマ娘に転生した理由も明らかになるのだろうか……

 

 そんな事を考えつつ歩いていると視界内に三女神像が見えて来た。

 

「……あれ?」

 

 何故か凄い違和感を感じる。ここの三女神像を見るのは初めてのはずなのだが、なんか前にも見たことがあるような…… 凄い馴染み深いような…… なんだこれ。

 

 が、分からない物を考えても仕方ない。

 俺はつい最近買った携帯からDMで帝王さんに話しかける。

 

『おーい、俺は到着したけどそっちは?』

 

『もういるよー! ベンチに座ってるから!』

 

 もう着いているとの事なので探してみると、長めのポニーテールに白い流星、身長は俺より小さいだろうか、そんな活発そうな少女が携帯片手にベンチに座っていた。

 ……絶対あれだ。すげぇ見ただけで分かる。

 

『あれねずみさんいるの? 見当たらないんだけど……』

 

『いや、目の前にいるじゃん』

 

『えー、ボクの目の前にはスーツ着たウマ娘しかいないけど』

 

 そうメッセージを送って携帯から顔を上げた帝王さんらしき人物に、俺はひらひらと手を振る。

 

「え」

 

 その少女はベンチから立ち上がり

 

「えええええええええええええええええ!?!?!?!?!?」

 

 その場に大きな叫び声が響き渡った。

 

 

 

 

 これが俺と帝王さん――「スターゲイザー」と「トウカイテイオー」のリアルでの初対面である。

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