そのウマ娘、星を仰ぎ見る   作:フラペチーノ

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【瞳焉】どうえん

①あどけなく無心に見るさま。無知のさまをいう。


32.瞳焉

「私、走るのが好きなんです」

 

 栗東寮のとある一部屋。チームデネボラのトレーナー室にて。

 綺麗な栗毛のロングヘアに緑色のお団子の髪飾りを乗せた少女は、俺に対してとあることを物語っていた。

 

「誰もいない先頭の景色をずっと一人で見ていると……凄い気持よくって……」

 

 その言葉には強い感情が籠っており、本当に彼女の好きが伝わって来る。

 自分の好きなことを語る時は早口になって周りが見えなくなるとはよく言われるが、正に目の前のウマ娘がその状態になっているのだろう。

 

「芝の上だと最高ね。コンクリートの固い感触とか土のちょっと踏み込む感じもいいんだけど、ターフの蒼い景色を見るのが一番好きなの。あとは気温も大事ね。雨でも風が強くてもいいんだけど、走って涼しさを感じられるくらいがいいわ。走る時は誰にも邪魔されず自由でなんていうんだろう救われてなきゃダメなのよ独りで静かで豊で──」

 

「スズカ……? 大丈夫か……?」

 

「はっ! ごめんなさい……私ずっと語っていましたよね……」

 

「うん、まぁ三十分くらい聞いてたけど……」

 

 ほとんど暴走していたそのウマ娘の名前は──サイレンススズカ。

 全戦全勝。

 逃げを超えた大逃げを見せた、歴史に名が刻まれている最強バでもある彼女は。

 

「あれ……私、最初なんの話してましたっけ。自己紹介して……呼び捨てでいいですよって言った所までは覚えてるんですけど……」

 

 その天然っぷりを遺憾なく発揮して、迷子のウマ娘になっている。

 そんなスズカを元の話題に戻すために、俺は二人のマグカップに二杯目のコーヒーをいれるのであった。

 

~~~~~~~~

 サイレンススズカ。

 デビュー戦、一着。

 弥生賞、一着。

 プリンシパルS、一着。

 日本ダービー、一着。

 神戸新聞杯、一着。

 天皇賞秋、一着。

 マイルCS 、一着。

 香港国際カップ、一着。

 バレンタインステークス、一着。

 中山記念、一着。

 小倉大賞典 、一着。

 金鯱賞 、一着。

 宝塚記念、一着。

 毎日王冠 、一着。

 天皇賞秋 、一着。

 十五戦十五勝。常勝無敗。

 これが彼女のトゥインクルシリーズ現役時代の戦績であり、破られることのない歴史の一ページでもある。

 かのシンボリルドルフといえども敗北した記録があるが、彼女に敗北の文字は存在しない。

 だがそれでもルドルフの方が色々と有名なのは、三冠というネームバリューがあるからだろう。

 さてそんな彼女だが、こうして対面で話すことはトレセン学園に来てから初めてだったりする。

 

「さて……そろそろ本題に入ろうか。さっきまで、ちょっと違う話題になってたけど」

 

 スズカをこうしてトレーナー室に招待して、どうしてわざわざ二人きりの状態を作り出しているのか。

 なぜどこにも声が漏れないような環境の中で、話をしなければいけないのか。

 

「なんで、『競馬』って単語を知ってるんだ……?」

 

「……スターさんも『やっぱり』知ってるんですね、競馬」

 

「……なんで俺が知ってるかは、後で説明することにしようか。一応確認するけど、競馬の『馬』は」

 

「漢字です。この世界には存在しない、『馬』の文字です」

 

 理由は単純。

 この世界の根底すら全て覆るような、話になってしまいそうだから。

 先ほどタキオンのところで「ウマ娘は非科学的」なんて話をしたが、この前提があったら結論も違っていたかもしれない。

 まぁ「馬」が先にあったとしても、こちらの世界の「ウマ娘」がファンタジーなのは変わりないが。

 

「私もこれは誰にも話したこと無いんですけど……スターさんも『同じ』みたいなので、話しちゃいますね。あっ、ここで言ったことはスぺちゃんとかには秘密にしてくださいね?」

 

「分かった。誰にも言わない。というか、信じてもらえなさそうだしな……」

 

「ふふ。私も今から話すこと、おかしいなって思います。フクキタルに聞かれたら心配されちゃうかも」

 

 そう軽く微笑んだスズカは手に持っていたマグカップをそっとテーブルに置くと、ふぅと一息吐いた。

 すると直球に、ストレートに。彼女は結論から、それを語った。

 

「私、前世の記憶があるんです」

 

「……」

 

「驚かないってことは、予想していたんですか? 私ちょっとは驚いてくれるかなって思ったんですけど……」

 

「……いや、驚いてるよ。リアクションが出来てないだけだ」

 

 第三者から聞いたからだ、と言ってくれたらどれほど良かったか。

 前世の記憶がある。

 このたった八文字が、自分の境遇を嫌でも思い出させてしまう。

 

「前世って……その、少なくともこの世界では無いんだよな……?」

 

「そうですね。私の前世にはお馬さんがいたので……この世界とは違いました」

 

 ウマ娘がいなくて、馬が存在する。

 俺がこの世界に転生する前にいた世界。とは言っても、前世のことはあまり記憶に残ってはいないのだが。

 覚えているのは、一般常識なその世界に存在する上で必要な事だけ。自分が何者だったのかは、もうさっぱり覚えていない。

 だがここまで話題に出てしまったら、俺も過去のことを軽く話してしまった方がスムーズに会話が進みそうだ。

 そう思い、俺は彼女と同様に話したことがない過去を伝えようと口を開いた。

 

「俺も、スズカと同じ世界……かは分かんないけど。前世の記憶があるから。だから『競馬』って単語も知ってる」

 

「ですよね! 私もそう思って話しかけたんです!」

 

 答え合わせが出来て安心したかのように、ぱぁとスズカの顔が明るくなる。

 さっきも「やっぱり」と言っていたように、明らかに俺が「前世の記憶」があると知って話しかけたに違いない。

 だが、それだと一つの疑問が生まれる。

 何故、俺が前世の記憶なんて持っていると彼女が分かったのか。

 俺は一度も転生したことを話した記憶は無いし、記録すら残していない。これは俺がこっちの世界に生まれてからの記憶なので、絶対に間違っていないはずだ。

 じゃあ、何で俺の境遇が分かったのだろう。

 

「それを教える前に、私の前世のことについてお話しますね。えっと……スターさんって、前世は『人』でした?」

 

「……え? いや、あんまり記憶がないにしろ『人』ではあったぞ?」

 

「あの、私。前世が『馬』だったんです。正確にいうと、『馬』だった時の記憶があるというか……」

 

 俺は今日何度驚いて、言葉を失えばいいのか。

 上手く返事も出来ずにぽかんとしてしまっていると、スズカはそのまま言葉を続けてくれた。

 

「その……凄い表現が難しいんですけど……。私の中には二つ魂があって……もう一つの魂が、前世の記憶があって、その記憶が流れてくるっていうか……んんぅ……」

 

「……ちょっと、待って。整理する時間を少しくれないか……?」

 

「はい、大丈夫ですよ」

 

 まず俺とスズカには、明確な違いがあることが分かった。

 俺は前世が「人」でそこから転生して、「ウマ娘」になったと考えている。

 だがスズカは言い方的に、目の前の彼女は恐らく「転生」はしていない。

 前世の「スターゲイザー」と今この世界の「スターゲイザー」は同一的存在だ。

 だが、サイレンススズカはどうもそうには見えない。

 前世の記憶が「ある」とだけしか言っていない彼女は。

 魂が二つあるなんて発言をしていたが、もしそれが本当ならば。

 

「えーっと……スズカはスズカなんだよな……?」

 

「えっと、それはどういう……」

 

「凄い変なこと聞いてる自覚はあるんだけどさ。俺の目の前にいるサイレンススズカと、前世の記憶があるサイレンススズカって別のモノなんじゃないか……?」

 

「まさに、それです! 私も説明しにくかったんですけど、それで正しいです!」

 

 スズカがこくこくと、力強く肯定するように頷く。

 自分でも上手く言語化出来ていなかったことを言って貰えてテンションが上がったのか、尻尾をぶんぶんと振って嬉しそうにしている。

 ここまでだけだと複雑になってしまっているように見えるが、要点だけ捉えれば大分シンプルだ。

 

「まず、スズカの前世の記憶っていうのは『馬のサイレンススズカ』の記憶になるってこと……で間違いないか?」

 

「そうですね。私と『馬のサイレンススズカ』は違います」

 

「だから、魂が二つあると……なるほどな」

 

 もし世界に魂という概念があるならば。

 俺は前世の世界から魂を引き継いで、この世界に生まれたということになる。

 だが彼女は、少し違う。

 馬のサイレンススズカの魂が、この世界のサイレンススズカの魂と共存しているということだ。

 だから、前世の記憶を持っているということを強調していた。

 

「別にもう一個人格があるとかいう、二重人格ってわけじゃないんですけど……」

 

「それは分かるよ。そこに『記憶』っていう本が存在している感じに近いのかな」

 

「それっ、私は読者って感じなんです。フクキタルみたいに、シラオキ様……? って子に体を乗っ取られることは無いですよ」

 

「……そのフクキタルって子は、一旦聞かなかったことにしておこうか」

 

 どこかでフンギャロ!って声が聞こえたような気もしたが、それはイレギュラーとして置いておく。

 スズカは前世の「馬の魂」──もう一つの魂を持っているから、こうして前世の記憶を読み取れたと。

 

「いえ、ウマ娘はみんな『もう一つの魂』は持ってますよ? ウマ娘だけにある魂なので『ウマソウル』って、私は呼んでます」

 

「……え? もう一つの魂から前世の記憶を読んでるっていうわけじゃないのか……?」

 

「それは合ってます。私が前世の記憶を読み取れるのは、そこに『ウマソウル』があるからじゃなくて……別のモノがあるからなんです」

 

~~~~~~~~

 前提条件が色々と覆ったり、前世と今世、更にウマ娘に馬が混じったりして、大分話がややこしくなってしまった気がする。

 これは要点を一回纏めなおした方が良さそうだ。

 そう思った俺はトレーナー室にあるホワイトボードの前に立ち、黒のマジックペンのキャップを抜いた。

 

「スズカの今までの話と、俺の考えを少し整理しよう。こういうのは、一度書いた方が分かりすい」

 

「スターさん、トレーナーさんみたいですね」

 

「まぁ、トレーナーだからな」

 

「えっ、トレーナーさんだったんですか……? だからターフの上を探しても見つからなかったのね……」

 

「……スペから聞いてなかったのか」

 

「スぺちゃん言ってたかしら……言ってたような……言って無かったような……」

 

 これに関してはスぺが言っていない可能性も否定できないし、スズカが聞いてなくてぽけっとした可能性も否定できない。

 逆に今まで彼女と出会うことがあまり無かったのは、ターフを走っている彼女とターフを眺めている俺では、文字通り舞台が違ったということなのだろう。

 

「まず、根本的な事から。この世界には『魂』という概念が存在すると仮定することから始めよう」

 

「はい。了解です」

 

「この魂はウマ娘でも人でも、誰でも持ってる。よくある魂の定義と同じだな。『ウマ娘のサイレンススズカ』の魂がこれに該当する、で大丈夫か?」

 

「大丈夫です」

 

 俺はスズカから確認が取れると、ホワイトボードにウマ娘と人をデフォルメしてささっと描く。

 そしてその下に「魂」と記述すると、文字を丸で囲った。

 

「で、スズカの言い方的に『ウマ娘のサイレンススズカ』の魂と『馬のサイレンススズカ』の魂は別……これは」

 

「あってますよ」

 

「そうなると、魂には種類があると考えられる。ウマソウルっていうのはウマ娘にのみ存在していて、人には存在しない」

 

「それもあってます。凄いですね……一回しか話してないのに綺麗に纏められて……」

 

 そうやって話を聞きながら、いつもやっているように要点を切り抜いて上手く纏めていく。

 人には魂の文字を。ウマ娘は魂とウマソウルの文字を。

 そして魂と書いた文字の下に一本の線を引くと、そこに「人格」と書き足した。

 

「普通の『魂』には、主の人格が存在しているっぽいな。これが『ウマ娘のサイレンススズカ』になる」

 

「ウマソウルにも性格がありますけどね。みんな走るのが好き……とかは、ウマソウルの影響があると思います」

 

「なるほど……」

 

 この世界のウマ娘が、なぜ走るのが好きなのか。

 この世界のウマ娘が、なぜレースを目指して走っているのか。

 

「さてここまで、整理してきたけど……スズカがどうやって『ウマソウル』の記憶を読み取ったのか、聞いてもいいか?」

 

 この疑問が、一番大事になってくる。

 ウマ娘が少なからず馬の魂──「ウマソウル」の影響を受けているのは、今までの話から分かった。

 そして、この「ウマソウル」は前世の記憶──俺がいた世界の「馬」の記憶を持っているのだろう。

 だから、スズカは「競馬」という単語を知っていた。

 そう考えた俺はホワイトボードの「ウマソウル」の下に「前世の記憶」とだけ書いて、スズカの目を覗く。

 彼女の返事を待っていると、スズカはそっと口を開き──また、衝撃的な発言をしてきた。

 

「私、『ウマソウル』が見えるんです」

 

「……それは、自分のだけ?」

 

「他の子も見えます。こう靄とか霧みたいに、ふわふわ~って。あっ、でも記憶が見えるのは自分のだけですね」

 

 ……そろそろ驚くのにも疲れてきた。

 今日だけで、新情報がどれだけ流れて来たのか。供給過多になってしまっている。

 スズカの特別な能力は「前世の記憶」があるということではなく、それが眠っている「ウマソウル」が見えるということだったのか。

 

「目がいいんだな……」

 

「はい? まぁ、視力はいいですよ?」

 

「じゃなくて。瞳の方ね」

 

 特殊な瞳。

 確かに身近にも幽霊などの「この世界に存在しないはずのもの」が見える、俺の妹──マンハッタンカフェがいるが。

 この世界に存在はするけど、普通は見えない。そんな不思議な魂──ウマソウル。

 そもそも魂なんて哲学に近い考えに誰も知りようがない「馬」の要素まで重なったら、理解出来るのなんて普通はいない。

 それこそ俺とスズカくらい──

 

「──待て。聞く機会を逃したけど、なんでスズカは俺が『競馬』を知ってるって分かったんだ……?」

 

 こうして、最初の疑問に帰結してしまった。

 そもそもこの話はなんでスズカが俺のことを前世持ちなんて分かったのか、から始まっている。

 スズカは自分の「ウマソウル」が見える目を持っていると言った。

 それが正しいならば、別に俺の「魂」の記憶が見えるわけではないはず。というか「ウマソウル」ですら自分の記憶だけしか覗けない。

 だったら、一体何故──

 

「だってスターさん、ウマソウルが見えないんですから」

 

「……え?」

 

「色んなウマ娘をトレセン学園に来てから見てきましたけど……どの子も絶対に『ウマソウル』はあるんです。濃さとか大きさとか色とか、それぞれの『ウマソウル』の個性はあるんですけど」

 

「……」

 

「でも、スターさんにはそこに何も無いんです。透明とかじゃなくて、空っぽ、器の中に何も入ってないんです。だから、もしかしたらって……話しかけました」

 

 ナカニ、ナニモナイ。

 先ほどの前提を思い出して欲しい。

 ウマ娘には全て『ウマソウル』が存在しているとあった。

 だがスズカの言う通りなのであれば、俺にはウマ娘なのに『ウマソウル』はない。

 だが、体はウマ娘だから人ではない。

 じゃあ、一体。

 

「──スターさん、アナタは本当に『ウマ娘』なんですか?」

 

 オレハ、ナニモノダ? 

 

~~~~~~~~

 アイデンティティの喪失という言葉がある。

 ヒトが自分の役割、存在意義、目標などを見いだせず、心理的な危機に陥ったりすることを指す。

 菊花賞の前だったか。俺がウマ娘である理由を聞かせたことがある。

 あの時は自分がウマ娘だから、ウマ娘であるテイオーと一緒に走れると答えた。

 だが俺にはウマソウルがないという。

 確かにおかしな点はいくつかあった。

 ウマ娘なのに、走るのが苦手。

 ウマ娘なのに、身体能力が低い。

 

 ──ウマ娘なのに、走る道ではなくトレーナーを選んだ。

 

 別に後悔しているわけではない。

 テイオーと出会えたことを含めて、今の自分がいるのは間違いなくトレーナーであることのおかげだ。

 ただ、今ここにいる自分が──

 

「誰だか分かんなくなっちゃった、とか?」

 

 急に後ろから声を掛けられて、尻尾をぴんと立たせながら勢いよく後ろを振り向く。

 するとそこには、月日に照らされたオレンジ色の髪をたなびかせた少女が静かに立っていた。

 薄く微笑んでいる彼女の名前は──マヤノトップガン。

 テイオーの寮の同室の子で、同じ世代で走るライバルでもある。

 まぁ、まだ彼女とテイオーは一緒のレースで走ったことは無いのだが……

 

「なんで、ここにいるんだ……?」

 

「それマヤにも聞いちゃう? スターちゃんもじゃないの?」

 

「……それを言われたら、何も言い返せないな」

 

「今日は星が綺麗だからね! マヤも見にきたんだ! ……って答えれば安心する?」

 

 そう。俺たちが今いるのは、深夜の栗東寮の屋上。

 普通のウマ娘ならば大人しく自室で寝ている時間に加え、普通は立ち入れない寮の屋上。

 ならばどうして俺がここにいるかというと、単純に寮長に屋上への鍵を借りただけだ。

 少し考え事がしたいからと正直に理由を述べたら「君ならば大丈夫そうだ」とスムーズに貸してくれた。トレーナーという立場だというのも大きいだろう。

 だからその信頼に応えるため、出入り口の扉は屋上に上がった瞬間に。

 

「……鍵はかけていたはずだぞ」

 

「開けて来たよ? これだけでマヤを締め出すのはちょっと、難しいかな〜。あっ、壊したりとかはしてないから安心してね?」

 

 そう言って彼女は手のひらを振りながら、出来て当然かのように答える。

 ニコニコと笑うマヤ。普通なら微笑ましい光景が、今は少しも笑えない。

 俺がなんとか声を絞り出して話しかける前に、彼女は先読みしているかのように口を開き始める。

 

「何しにここへ──」

 

「ここが、栞を大分過ぎたから。あの時の答え合わせに来たよ」

 

「……なんだ、それ」

 

「あの時ってあれだよ。ダービーの後に、テイオーちゃんと映画見に行った時」

 

 そう言われて、ようやくピンときた。

 ダービーの後、テイオーが軽い捻挫をした時にみんなでお出かけした出来事だ。

 確か俺は、彼女に対して質問をしたはずだ。

 

 ──何で、G1レースに出ないんだ? 

 

 あの時、マヤは「話に介入しないため」という意味の分からない答えをしてきた。

 全てが繋がっているという不気味な感覚を思い出して尻尾の毛を逆立てていると、彼女はくるりとその場を一回転した後。

 コタエハジメタ。

 

「マヤってさ。ウマソウル的には菊花賞に勝ってるんだよ?」

 

「は……? いや、待て。ウマソウルって、なんで知って」

 

「だけど、マヤは出なかった。出走しなかった。介入しなかった。お話を壊すのが、怖かったから」

 

 何を、言っている。

 だが彼女は間違いなく、俺を見ていない。

 なんなら、この世界のどこも見ていない。

 誰かに届かせる、一方通行の独り言。

 

「スズカちゃんが言ってた『ウマソウル』は、間違いなくテイオーちゃんたちの『オーバードライブ』に絡んでる。タキオンちゃんの考察通りだね。その場にいたら花丸あげちゃったかも」

 

 魂とは。俺は人格や性格に由来しているものだと考えた。

 ウマソウルとは。前世にあたる「馬」の魂だと考えた。

 だが今目の前にいるのは、どの「マヤノトップガン」だ? 

 

「本当はね、マヤもお話終わるまで大人しくしてようかなーって思ったんだけど」

 

「それだと、面白くないじゃん?」

 

「このまま行っても、異かずに好って往くだけ」

 

「主人公だけが特別な力に目覚めて。主人公だけが勝つだけなんて。ちょっと刺激が足りないとは思わない?」

 

「だから『オーバードライブ』も『ウマソウル』も分かってるマヤが、次は出る」

 

 そして彼女はどこからともなく六面のサイコロを六つ取り出して、地面にポンと転がした。

 ころころと転がって回っている間も、彼女は口を止めない。

 

「色んな疑問があると思うけど……それはスターちゃんの過去の清算が終わったら、色々知ってること話してあげる。だからまずは『大阪杯』までさよならかな」

 

 そして、ぴたりと止まった六つのサイコロの目が全て赤い「1」を指していた。

 サイコロで「1」が出る確率は、一つ当たり6分の1。

 それが六つ同時に出る確率は、46656分の1。確率にして0.002%。

 これを偶然と捉えるか、それとも必然と捉えるか。

 

「そうそう。『オーバードライブ』は理論的には、どのウマ娘にも起こるよ。けど、それがテイオーちゃんと『ウマソウル』がないスターちゃんだから、起こりやすいってだけ」

 

「理屈は、教えてくれないのか」

 

「え~。それだとつまんないし、説明回が長引くと読者離れちゃうよ? それに……そろそろ次のイベントがくるしね」

 

 そうマヤが断言した瞬間、俺はポケットに入れていた携帯のバイブレーションが鳴った。

 まるで現実に引き戻すために鳴ったかのようなそれを立ち上げて画面を確認すると、そこにはテイオーからのメッセージが映っていた。

 

 ──トレーナー! 大阪杯の前くらいにボクの実家に来ない? 去年の海で、菊花賞終わったらって約束したし! 

 

「ほら、ね?」

 

 全てが分かっているかのようにマヤはふふと微笑みながら思考の渦に捉えようとしてくるが、俺はもうわざと考えるのをやめて彼女に向き合った。

 

「マヤ……分からない事だらけだから、もう敢えて質問しないけど──大阪杯に出るなら、テイオーが勝つぞ」

 

「……! いいよ! マヤも受けて立つからね!」

 

 そう言った俺の宣戦布告は……どうしてか。

 

 ──マヤノトップガンの魂に、伝わった。そんな気がした。




ここで軽く纏めの後書きを。

・人間(ヒトミミ)とウマ娘には魂がある。
・ウマソウルはウマ娘にだけ存在する。
・ウマソウルはお馬さんの魂である。
・スズカはウマソウルが見える。
・オーバードライブは「ウマソウル」と「魂」が関連している。
・マヤノトップガンはマヤノトップガンである。

以上になります。

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