そのウマ娘、星を仰ぎ見る   作:フラペチーノ

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6.確認

 テイオーと専属契約を結んで次の日。

 俺はテイオーと初トレーニングを行うため、放課後、練習場の横に一人立っていた。

 

「……こねぇ!」

 

 が、テイオーが一向にくる気配がない。

 約束した時間から既に30分が経過している。しかも特に連絡もない状態だ。

 ここまで遅いと何か事故に遭ったとかの方を心配してしまう。

 

 俺はポケットから携帯を取り出し、テイオーに電話をかけようとすると、

 ピンポンパンポーン

 

『トウカイテイオーのトレーナーさん。至急生徒会室までお越しください。繰り返します。トウカイテイオーのトレーナーさん。至急生徒会室までお越しください』

 

 そんな放送が練習場に響き渡った。

 

 ……え、俺なんかやっちゃいましたか?

 

 まさか理事長室だけでなく、生徒会室までに呼ばれる事になるとは。ここだけ見ると問題児に見えてしまう。

 呼ばれてしまっては仕方ないので、テイオーにメッセージアプリの方で「今どこだ」とだけ送り、生徒会室へ向かう事にした。

 

 全く初日からサボるのだけは勘弁してほしいものだ。

 

~~~~~~~~

 自らの記憶を頼りに生徒会室に向かう。

 トレセン学園はそれはもう広いので、移動するだけでも大変なのだがそれは普通の人間のお話。

 ウマ娘である俺は駆け足で向かえば数分で着く。因みにトレセン学園には「学園内は静かに走るべし」という校則がある。走るのはいいのか……

 

 そんな事を考えながら練習場から移動する事、数分。俺は生徒会室のドアをノックしていた。

 

「すみません、テイオーのトレーナーなんですけども……」

 

「入りたまえ」と言う声が中から聞こえたので、無駄に大きなドアを開けるとそこには、

 

 このトレセン学園の生徒会長にして、唯一の七冠ウマ娘。その強さ故「トゥインクルシリーズには絶対は無いが彼女には絶対がある」とまで言われた「皇帝」こと「シンボリルドルフ」

 

 トレセン学園の副会長であるトリプルティアラ保持ウマ娘、「女帝」こと「エアグルーヴ」

 

 そして自称三冠ウマ娘こと「トウカイテイオー」が……いや何お前ここでくつろいでるの?

 

「貴様か、テイオーのトレーナーは。しかし本当にウマ娘なのだな……テイオーの奴が適当言ってると思ったぞ」

 

「だから本当だって言ったじゃん! エアグルーヴは疑い深いんだから」

 

 そうテイオーがぷんぷんと文句を言っている。

 で、俺はなんでここに呼ばれたんでしょうか……

 

「いや、こいつがずっと生徒会室にいるもんでな。トレーナーがいるなら引き取りに来てもらおうかと思ったわけだ」

 

「本当にうちのテイオーがすみませんでした」

 

 俺は素早く頭を下げる。生徒会室に初めて呼ばれてやったことはまさかの謝罪という最悪な出だしを切ってしまった。

 

「てか、テイオー。もう既にトレーニングの集合時間過ぎてるんだが?」

 

「え! もうそんな時間だったの!? ごめん気付かなかったや」

 

「たわけが! 時間を守るのはヒトとして最低限の事だぞ!」

 

 エアグルーヴさんのお叱りに、テイオーは「エアグルーヴは厳しいんだから~」と飄々としている。

 そんな中、シンボリルドルフさんが口を開いた。

 

「仲がいいようで何よりだ。だがテイオー、約束の時間を忘れるとは感心しないな。次からは気をつけるように」

 

「……まぁカイチョーが言うならそうするけど」

 

「全く、会長はテイオーには甘いんですから……」

 

 シンボリルドルフさんの言う事は素直に聞くテイオー。

 

 まぁ色々聞きたいこともあるし、テイオーをさっさと連れて行くか……

 

 そう思い、生徒会室から出ようとするとシンボリルドルフさんに呼び止められた。

 

「君、スターゲイザーだね? トレセン学園はどうだい?」

 

 俺の名前知ってるのか。一応帽子で白毛と耳を隠しているのだが。

 

「……そうですね。レースを走るウマ娘にとってこれ以上無い最高の環境でしょう。ところで私の名前よくご存じですね」

 

「何、たづなさんから気にかけておいてくれと連絡を受けてね。まさかテイオーのトレーナーになったとは驚きだが、良い機会だし挨拶もしておこうと思ってね」

 

「はぁ……どうもよろしくお願いします。ほらテイオー、トレーニング行くぞ」

 

 皇帝様に挨拶され、上手い返しが思いつかなかった俺はテイオーを連れ出して生徒会室を後にしようとした。

 テイオーは少し不服そうに「はーーい」と返事をして俺と一緒に生徒会室を出ようとする。

 

「テイオー」

 

「なーに、カイチョー?」

 

「……良いトレーナーを持ったな。その出会いを大事にするんだぞ」

 

 そう語ったシンボリルドルフさんの目はーーどこか悲しい目をしていた。

 

~~~~~~~~

「で、テイオーなんで生徒会室にいたんだ?」

 

 テイオーと一緒に練習場に向かう途中、俺は気になっていた事を尋ねた。

 

「いやカイチョーのとこにお邪魔してただけだよ。別にボク生徒会に入ってないし」

 

「えぇ……」

 

 つまり特に理由も無いけどシンボリルドルフさんとお話する為にいたって事か……?

 

「シンボリルドルフさんとは知り合いなのか? 随分と仲良そうだったけど」

 

「知りたい!? ボクとカイチョーの出会いはね……」

 

 そう切り出されて始まったテイオーの説明は長かった。

 どれくらい長かったかというと、生徒会室から練習場についてからも30分くらいシンボリルドルフさんの栄光を語られるくらいには長かった。

 

 テイオーの説明をかいつまむと、まだトレセン学園に入学する前のテイオーが、シンボリルドルフさんの皐月賞の時に偶然直接話せたことがきっかけで交流を持ったそうだ。

 トレセン学園に入学してからは、毎日生徒会室に通ってシンボリルドルフさんとお話しているらしい。

 いやそりゃエアグルーヴさんも怒るよ……

 

「でねー、カイチョーはボクの憧れなんだー! いつかボクもカイチョーみたいになりたいんだよね!」

 

「はいストップ、この話続けてたら練習時間が無くなる」

 

 このままほっておくと永遠にシンボリルドルフさんの話を続けそうだったので、俺が待ったをかける。

 テイオーは少し不満そうな顔をしながら、口を閉じた。まだまだ語りたそうだがそれは別の機会にしてもらおう。

 

「ほら、準備体操してこい。こっちはちょっと他の準備があるから」

 

「トレーナーが準備体操とか指示するんじゃないの? ほら、どんな体操しろーとか」

 

「今日は大丈夫だ。テイオーがいつもやっているアップをしてくれ」

 

 テイオーが「はーい」と返事して、軽く走り始めたので俺も準備を始める。

 用意したのはスマホと三脚のスマホスタンド。これを今回走ってもらう直線コースのトラックの外の方に設置する。そしてビデオを撮れるようにしてと……

 

 俺の方の準備が終わり、テイオーの方を確認すると軽いランニングが終わったのか、座って前屈の体操をしていた。

 

「柔らかいな……」

 

 テイオーの胸が地面に付くくらい前にペターッと倒されている。本人は全く痛くなさそうだし、あれがテイオー本来の柔らかさなのだろう。

 そして手首足首をぐるぐる回して準備体操が終わったのか、俺の方に近づいてきた。

 

「トレーナー準備体操終わったよ! 何すればいい?」

 

「じゃあ今日やる事を説明するぞ。と言っても、今日は練習というよりはテストなんだけどな」

 

「テスト?」

 

「あぁ、直線600mのこのレーンをいつもの走りで数本走ってくれ。タイムは気にしなくていい」

 

 そう言って俺はゴール付近に向かい、テイオーにスタート地点を指さす。

 それを見たテイオーはスタート地点に向かい、スタートの体勢を取る。ゲートは無いので足をスタート地点に合わせている。

 

「よーい、スタート!」

 

 俺はテイオーがいる方にまで届くようにいつもより少し大きい声でスタートの合図を送る。

 それと同時にテイオーがターフを蹴る。

 模擬レースと同じような、しなやかな走りだ。

 

 距離が600mと言う事もあってか、あっという間にゴールについた。

 

「ふぅ……」

 

 テイオーが一息つく。それを確認した俺は

 

「んじゃ次いくぞー。また同じように走ってくれ」

 

 ゴール地点から外側、つまりスマホを置いてある方へと移動する。

 

「トレーナー、これ何やってるのー?」

 

「テストだってさっき言ったろ?」

 

 テイオーが不思議そうな顔をしながらもう一度走るためにスタート地点に戻る。

 スタート地点についたらまたゴールまで走る。それを数回繰り返してもらった。

 

 俺がテイオーを見る位置を変えながら(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「……ん、大体分かったかな。おーいテイオー! 終わりでいいぞー!」

 

「そうなのー? まだ走り足りないんだけど……」

 

 走り終わったテイオーは、不服そうな顔でこっちに歩いてくる。

 そりゃ、テイオーはただ数本走っただけだからな。欲求不満だろう。

 

 だが今回はテイオーの為というより俺の為にやって貰ったテストという面が大きい。

 勿論最終的にはテイオーの為になるのだが。

 

「取り合えず明後日までは練習休みな。次の予定が決まったら連絡するから待っててくれ」

 

「ふーん? まぁトレーナーが言うならそうするけどさ……」

 

 俺はスマホでしっかりテイオーの走りが録画されている事を確認し、スタンドを片付ける。

 テイオーは俺が機材の片づけ終わるの待っていてくれたみたいで、一緒に寮に帰る事にした。

 

「あ、さっきの話の続きなんだけどね、カイチョーは……」

 

 そんな彼女によるカイチョートークを聞きながら俺達は帰路に就いた。

 

~~~~~~~~

「さて…と」

 

 テイオーのテストが終わった翌日の午後七時。あたりも大分暗くなり、ライトにより明かりがターフを照らしている。

 大分時間も遅いため、学園のウマ娘はみな帰寮したようだ。

 そこに、トレセン学園のジャージを着て軽く準備体操をする白毛のウマ娘が一人。

 

 そう俺である。

 

 こんな時間にトレセン学園の生徒がターフになんて立っていたら間違いなく問題なのだが、俺はトレーナーである。この特権を活用させてもらおう。

 因みにこのジャージは段ボールに入っていた物なのだが、後から確認したら蹄鉄に靴まで入っていた。ここまでくると恐怖だが、ありがたく使わせていただく。

 

 さて俺がここに来た理由だが、とある事をする為である。

 

 準備体操が終わった俺は、昨日テイオーが走ったコースのスタートラインに立ち、ターフを蹴る。

 

 

 なるべく、テイオーの走りを再現しつつ(・・・・ ・・・・・・・・・・・・・)

 

 

「……っつ!」

 

 知っていたがとんでもない無茶である。あの走りはテイオーの体の柔らかさがあるからこそ実現出来る走りだ。俺がやったところで劣化にしかならない。

 が、それでも

 

「ダメだ…… この走り……」

 

 俺は確信する。

 あれは確かにテイオーにしか出来ない走りだ。

 

 

 が、あの走り方はテイオーを確実に殺す。

 

 

「……帰るか」

 

 確認したいことを確認出来た俺は、さっさと寮に帰ろうとターフから出ようとした。

 すると、何故かこんな時間なのに声をかけられた。

 

「あ、あの!」

 

 声がした方に目を向けると、黒髪を後ろで一つ縛りした真面目そうな女性が俺の方に近づいてきた。

 

 ……げ、見つかったかな。

 

 今の俺はどっからどうみてもトレセン学園に居残りしている不真面目な生徒である。

 トレーナーであることをどうやって説明したものか……と考えていると予想外の言葉が飛んできた。

 

「わ、私の! 担当ウマ娘になってくれませんか!!!」

 

「え、嫌ですけど……」

 

 いきなり何言ってんだこの人……

 そう返すと、その女性は崩れ落ちて

 

「ふふふ、そうですよね…… ウマ娘に声をかけ続けて貴方で三十人目…… やっぱりみんなベテラントレーナーの方がいいんだ……」

 

 とぶつぶつ呟きだした。

 

 それと同時に俺は彼女が誰だか思い出す。確か……

 

「そうだ、桐生院さんだ」

 

「私の事知っているんですか!?」

 

 どこかで見たことあるなと思っていたが、入社式の時に俺の代わりに代表挨拶してくれた方だ。

 あとちょくちょく研修中にも見かけていたから覚えていた。

 が、そうなると彼女は新人トレーナーのはずで…… 新人トレーナーなのに担当を持とうとしているって事か?

 

「まぁ、頑張ってください。じゃあ俺はこれで」

 

「ちょ、ちょっと待ってください! 話だけでも聞いてください! そうしないとこんな時間に自主練してた事バラしますよ!」

 

「いや別に……あっ」

 

 そうか、桐生院さんは俺がトレセン学園の生徒に見えてるのか。俺の今の格好はトレセン学園のジャージ。これで俺がトレーナーだなんて判断出来る人なんていないだろう。

 誤解させたまま放っておくのもめんどくさいので、弁明しておくことにする。

 

「えっとですね、俺はトレーナーで…… トレーナーを持つ側というよりかはトレーナー側というか……」

 

「じゃあなんで走ってたんですか? しかもそんな恰好で」

 

「……担当ウマ娘の為です」

 

「……嘘にしてはきつくありませんか?」

 

 デスヨネー。

 さて、どうやって納得させたものかと悩んでいると、ズボンのポケットにあるものが入っていた事を思い出す。

 俺はそれを取り出して、彼女に見せた。

 

「ほら、トレーナーバッジ。これで納得してくれました?」

 

「他のトレーナーさんが落としたものをたまたま持っているだけでは?」

 

「あーもう! 入社式で代表挨拶してた桐生院さん! これで納得してくれましたかね!」

 

 俺がちょっと大きな声で言うと、桐生院さんは納得してくれたのか……いや納得してないな。凄い疑わしそうにこっち見てくる。

 

「……まぁ今日の所は納得してあげましょう。私はまた担当ウマ娘の子を探す旅に出ますね……」

 

「でも新人トレーナーだったら、サブトレーナーになってもいいのでは? 新人で担当ウマ娘持つ方が難しいでしょう」

 

「そうなんですが、家の都合でちょっと色々と……」

 

 あぁ、桐生院家は優秀なトレーナーを輩出する家だったか。家庭の事情とやらもあるだろうが大変そうだ。

 

「じゃあ、俺はこれで。気をつけて帰ってください」

 

「はい、また機会がありましたら……あの、そっち方向トレーナー寮じゃないですよね?」

 

「俺住んでるの栗東寮なんで」

 

「いや本当にトレーナーなんですか?」

 

 失礼な。中卒のウマ娘で栗東寮に住んでいる一般的なトレーナーだ。

 

~~~~~~~~

 桐生院さんと接触した次の日。

 俺は寮の自室に籠って、録画でテイオーのフォームを確認しつつ、今後のトレーニング計画や目標レースを数種類考えていた。

 

「けど、どうっすかな……」

 

 俺は誰もいない部屋で一人呟く。

 テイオーが三冠取りたいと言ってるので、それを目標にしたレースは組める。

 が、それよりももっと先に片付けなければいけない問題が大きく二つある。

 

 一つは、テイオーのフォームの問題。

 

 そしてもう一つは……

 

 コンコン

 考え事をしていたらドアのノック音が聞こえる。

 

 わざわざ俺の所に訪ねてくるとは誰だろうか

 

 そう思い、椅子から立ち上がってドアを開けるとそこには

 

「やぁ、ちょっとお話いいかな?」

 

 シンボリルドルフさんが立っていた。

 

~~~~~~~~

 「お邪魔するよ」と言い、自室に入って来たシンボリルドルフさんは、座るとこが無いので俺のベットに腰をかけている。

 

 何だこの状況……

 

「で、何の用でしょうか?」

 

「いや、ちょっとテイオーの事でね」

 

 はぁ、一体何だろうか。テイオーが生徒会室入り浸っているからそれの注意かな?

 

「単刀直入に言おう。テイオーと私で模擬レースをやる予定は無いかい?」

 

「……何でですか?」

 

「そうだね、テイオーの為だって思ってくれて構わない。それに君の悩みも一つ解決すると思うが?」

 

 見抜かれてたか……。

 だが、この提案は俺としては棚から牡丹餅の提案だ。

 だからこそ、少し気になってしまう。シンボリルドルフさんにはメリットが無いように見えるが……

 

「私の願いは全てのウマ娘の幸福だからね。悩んでいるウマ娘がいたら協力したくなるものさ」

 

 そっか俺も一応ウマ娘なのか。

 

 とは言っても全てのウマ娘の幸福か…… それはまた大層な願いを。

 

「あと……」とシンボリルドルフさんが言葉を続ける。

 

 

「テイオーとはどこか他人のような気がしないんだ。好きな後輩に思い入れることは悪い事かい?」

 

「いえ、ありがとうございます。こちらとしてもありがたいです」

 

「そんな他人行儀じゃなくていい。ルドルフでいいさ」

 

「……じゃあ、ルドルフ。よろしく」

 

 

 俺達は声を揃えて言う。

 

 

「「テイオーに敗北を教えようか」」

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