馬の感情が読める厩務員が転生した件   作:泰然

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53話 麗らかに咲き誇る、満開の桜 

佐竹「どうだ、ウララ。調子は?」

 

ウララ「うん、絶好調だよ!少し緊張するけど」

 

ニッポー「気合い入れろよッ!なんたって相手は二冠バのクワイエットだからな」

 

ウララ「うん、メイちゃんにも勝たなくちゃいけないからね!」

 

三人はチャンピオンズカップが開催される、中京レース場に来ていた。このダート戦は世界の猛者が海を越え集う、謂わばジャパンカップと同じ国際招待競争レース。そこに、まだG1未勝利のウララが挑むのはあまりに無謀。それでもファンはウララを支持し、多くの観客が詰めかけメイセイ、クワイエットも出走するということで入場者数も最多の七万以上を更新した。ダート戦でここまでの集客はありえないが、クワイエットによる海外からの応援も一因と言えた。そしてウララは、時間が近づきバ道を通るとメイセイと対面した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウララ「あっ、メイちゃんだ!」

 

メイセイ「ウララさん、遂にこの日がやってきましたね。今日こそ本気でぶつかり合いましょう!」

 

ウララ「今度こそ勝つからね、負けないよ!」

 

すると遠くでゆっくり歩いてくる人物がいた、クワイエットだ。二人を無視するようにクワイエットは通り過ぎようとするがウララが声を掛けた。

 

ウララ「クワちゃん、無視はダメだよ?」

 

クワ「…………」

 

何も言わないクワイエットにウララは続けて話しかける。

 

ウララ「わたしの友達を紹介するね。メイちゃんって言うんだ、とっても強いんだよ!」

 

クワ「貴方が…………」

 

メイセイ「な、何でしょう?」

 

紹介した瞬間、クワイエットはメイセイに近づき、体を凝視する。まるで品定めしているように。終わったのかクワイエットはスッと距離を取り、また歩き出し背中を見せながら……。

 

クワイエット「馴れ合うのもいいけど…………砂に呑まれるわよ」

 

メイセイ「…………。クワイエットさんって、怖い方ですね」

 

ウララ「でも、カッコいいよね!」

 

メイセイ「ウララさんらしい解答ですね」

 

クワイエットの気迫に押されたメイセイだったが、ウララなりの解釈に微笑むメイセイ。二人はバ道を出て、ダートコースへと脚を踏み入れた。そんな中トレーナーはスタンド前へ行き、ニッポーとウララの応援することにした。そして周りにはウララを応援する商店街の人達が沢山いる中で、何人もの人がウララの垂れ幕を作ってきてくれていた。少数ではあるが、クワイエットのファンも何人が見受けられる。ニッポーとトレーナーが話しているところにアメリアが話しかけてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アメリア「お久し振りです、トレーナーさん」

 

ニッポー「…………トレーナーの女?」

 

佐竹「失礼だろ。この人はクワイエットのトレーナーだ」

 

アメリア「はじめまして。トレーナーさん、この方は……」

 

ニッポー「オレの名は、ニッポーテイオー」

 

アメリア「あぁ、アナタが……それにしても、ウララさんは沢山の方に応援されているんですね」

 

佐竹「こんなに沢山の垂れ幕があってビックリしてますよ。でも、そちらにも多くのクワイエット応援の垂れ幕がありますよ。愛されてますね」

 

ニッポー「日本まで来るなんて、よっぽど物好きなんだな」

 

アメリア「でも、あの娘はそれにも気づいてないんです……」

 

佐竹「えっ、今なんて……」

 

アメリアが発した言葉は人混みに消され、そのまま話は流れ三人で自己紹介をしながら、ウララ達の出走を待った。色んな想いが渦巻いている中京レース場、メイセイオペラの春秋ダート制覇、リアルクワイエットの強さへの証明、ハルウララのG1初制覇。最後まで諦めない者に勝利の女神が微笑む、トレーナーはそう考えながらファンファーレが響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実況「ファンファーレが響き渡る中京レース場。音に聞こえた勇士達が海を越えてでも掴み取りたい栄誉があります。ダート1800m、チャンピオンズカップ。三番人気は勝っても負けても愛されるハルウララ、ライバルであるメイセイオペラに一矢報いることが出来るのでしょうか。二番人気は春秋制覇に期待がかかるメイセイオペラ、強敵が相手でも英雄は怯みはしないッ!人気を譲っても勝ちは譲りません。そして一番人気は勿論この娘、アメリカ二冠ウマ娘リアルクワイエット。その名に相応しく静かなる頂を求めて、この日本でその名を刻むことは出来るのでしょうか」

 

 

実況「さぁ、各ウマ娘16人ゲートに収まりました……スタートですッ。先ずは何が行くんでしょうか、おっと!?メイセイオペラがハナに立ちます。クワイエットによる焦りが生じているのでしょうか、それとも作戦なんでしょうか?!そしてその後ろ四バ身離れて三番手には一番人気のリアルクワイエット、彼女の走りはこの日本でも実力を発揮することは出来るのでしょうか。さぁ、最初のコーナーを通過していきます。そして皆の声援と期待を背負い、ハルウララは中団の九番手の位置、果たして悲願のG1制覇は達成出来るのでしょうか。2コーナーを通過して向正面へと入ります。変わらずメイセイオペラが、先頭を引っ張る形でレースが展開しています。リアルクワイエットはその後ろを追従し、徹底マークを崩しません。3コーナーに差し掛かります、まだまだ飛ばすメイセイオペラ。これが後方のウマ娘に、どのように影響するのかッ!」

 

逃げる形になったのは、メイセイオペラ自身が自然に脚が動き、前に出る形になった。それでもメイセイオペラは、逃げても冷静だった。

 

メイセイ(クワイエットさんにウララさん。強者揃いの秋のダート戦……私はここで勝って、その名を全国に轟かせる。地元の皆への恩返し、トレーナーさんにも、このG1タイトルを届けたい!そして私は、これからも……『どこまでも、全力疾走でッ!』)

 

 

実況「最終コーナーを迎えてメイセイオペラ!どこまで続くか、この独走ッ!これを捉えるウマ娘は現れるのか?!」

 

 

 

 

 

         ドンッ!!

 

 

 

 

実況「轟音とともに鹿毛のウマ娘が飛んできたッ!リアルクワイエットが来たぁぁぁぁぁ!メイセイオペラとの距離が徐々に縮まる。王者の名は伊達ではないッ!」

 

メイセイ(そんな……私の全力でもあの人には届かないの?!脚はまだ残ってるのに……)

 

クワ(悪いわね。私はこんなところで負けていられない、どんなことがあってもッ!)

 

 

実況「直線手前でリアルクワイエットが抜け出した!もの凄い追い上げ、まだまだ伸びる。メイセイオペラを置き去りに、これは彼女の独壇場か?!」

 

メイセイ(くっ……あれだけ特訓したのに。やはり、世界には届かないのか……)

 

 

 

 

         ボンッ!!!

 

 

 

 

メイセイ「ッ!?」

 

クワ「ッ!?」

 

ウララ「根性ぉぉぉぉ!!!」

 

メイセイ(あんな後方に居たのに、私の後ろに!?)

 

ウララ「どぉぉりゃぁぁぁぁ!!」

 

そしてウララはメイセイオペラに並ぶ間もなく、抜き去りクワイエットに食らいついていった。

 

メイセイ(ウララさん、貴方は…………)

 

メイセイオペラは自身を追い抜く、ウララの後ろ姿を見届ける。その姿を目にし、思わずその場で叫んでいた。

 

メイセイ「ウララさん、行けぇぇぇぇ!!」

 

ウララ「根性、根性ッ、ど根性ぉぉぉぉ!!!」

 

 

実況「大外から小さい巨人が轟音とともにハルウララがやって来たぁぁ!リアルクワイエットを捉える!ニバ身、一バ身、そして並んだぁぁぁ!!」

 

クワ(こんな小さいやつ、大したことないと思ってた。まさか並ばられるなんて……)

 

 

実況「残り200ッ、残り200ッ!僅かにウララが先頭!遂に届くのか、悲願のG1制覇が?!残り100ッ、内でクワイエットが食い下がる。ウララがこのまま行ってしまうのか!?」

 

クワ(何で追い付けない、何で並べない。どうしてここまで走れる?!…………ッ、アイツか!)

 

佐竹「ウララァァァァ、行けぇぇぇぇ!!」

 

スタンドで多くのウララを応援するファン。その中で一際必死に応援していたトレーナーを目にしたクワイエットは、あの時自分のレースを思い返していた。

 

『何だ今の走りッ!!』

『細い体が影響したな……』

『寄れて走ったら危ねぇだろッ、ふざけんなッ!!』

 

あの日のトラウマを克服すること、そして勝ち続けることで観客を見返すことが出来る、とクワイエットは信じて勝利し続けた。だから、この日本で負けてなどいられなかった。それを思い返し、叫んだ。

 

クワ「あの日に戻るわけには……いかないんだぁぁぁぁ!!」

 

ウララ「うおぉぉりゃぁぁぁ!!」

 

 

実況「もう一度、クワイエットが差し返そうとするが躱せない!ウララが突き抜ける、ウララが突き抜けるッ!抜けた、抜けたッ!これが小さき巨人の走りだ。ハルウララッ!悲願のG1制覇ッ、ガッツポォォォズ!!ハルウララッ!!」

 

ウララ「勝った、勝ったぁぁぁぁ!!」

 

クワ「クソッ…………」

 

ゴールの直前、ウララは大きく拳を上げガッツポーズを観客席のファンにその姿を見せつけた。クワイエットは屈し、地面を強く叩いた。

 

 

実況「重賞を勝つことさえ難しいとされていたハルウララ、それでもトレーナーと二人三脚で歩み、このG1の大舞台で見事、満開の桜が咲き誇りましたッ!」

 

クビ差で一着となり、スタンドにいたトレーナーとニッポーは感情を爆発させた。だが、その隣でアメリアは悲しい表情を浮かべクワイエットを見つめていた。そして病室に居る、スズカの首に巻かれていたハンカチが破けた。

 

 

 

 

 

 

 

スズカ「えっ、どうして……何もしていないのに」

 

外を眺めていただけで、自然とハンカチが破けることはない。口にはしなかったが、スズカ自身、内心不吉だと感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

佐竹「やったぁぁぁぁ!」

 

ニッポー「よっしゃぁぁぁぁ!」

 

アメリア「フィッシュ……」

 

二人が喜ぶのを尻目に、アメリアは柵を越えコースの方へと歩き出した。

 

佐竹「アメリアさん何処に行くんですか?」

 

アメリア「フィッシュの下へ、です」

 

そうして彼女はクワイエットの下へと歩を進め、項垂れるクワイエットの背中を擦った。

 

アメリア「フィッシュ、よく頑張ったわ。アナタの走る姿、負けてなかったわよ」

 

クワ「くっ……負けちゃ意味なんて無いだろッ!こんなの……あの時と同じだ。あの時と…………」

 

アメリア「ねぇ、フィッシュ。あの三冠に囚われるのはやめなさい、アレはアナタが悪いわけじゃない、アレはアナタのファンなんかじゃない」

 

クワ「そんなわけ無いだろッ!場内中、みんなブーイングをしていた。みんな私の敵だったんだよッ!だから私は、勝って証明してやりたかった……」

 

アメリア「じゃあ、あれを見てみんなが敵だったって言うの?」

 

アメリアが観客席に指を指し、そこには大きくクワイエットを応援する垂れ幕が多く存在した。

 

クワ「ッ……何で」

 

アメリア「いつまでも応援し続けてきたアナタのファンよ。この日本で出走してもアナタを追い続けて、変わらずアナタの側にいた。変わってしまったのはフィッシュ、アナタだけよ」

 

クワ「そんな……どうして」

 

アメリア「アナタが好きだから、アナタの無邪気に喜ぶ顔が見たいからアナタを応援してるのよ、フィッシュ。『勝ち負けなんて関係ない、アナタの走りを見たいのよ』」

 

クワ「うぅ……うわぁぁぁぁぁ、ごめんなさぁぁい」

 

クワイエットはアメリアに凭れ、人目など気にせずその場で啼泣した。そして今のレースを見ていたクワイエットファンは、彼女に讃美を送った。

 

「熱いバトルだったぞ!」

「今回は負けたけど、必ず勝てるわよー!」

「また、応援しに行くからなー!」

 

クワ「ありがとう…………」

 

クワイエットとアメリアはその場で、観客に深くお辞儀をした。その瞬間、場内中から拍手が聞こえた、アナウンスの声を遮るほど。それに感嘆したウララのファンからも、喝采を送られる。

 

「嬢ちゃん、よかったぞー!」

「いいレースだったわよ!」

「『また』、走りに来なよー!」

 

また、という言葉にクワイエットは再び涙を零した。この場で自分が走ってもいい、この舞台で違う戦いを見せてくれ、と言われたような気がしたクワイエットはまたもや、崩れて咽び泣いた。

 

クワ「うわぁぁぁぁ……」

 

アメリア「よかったね……」

 

アメリアはそんなクワイエットを、母のような笑みを浮かべながら髪を撫でた。その二人の下に、ウララとトレーナーが近づきお互いを称え合った。そしてウララは勝利インタビューに応え、トレーナーはスタンドに戻りニッポーの下へと歩いた。

 

ニッポー「やったな、トレーナー。アイツもやっとG1ウマ娘だな!」

 

佐竹「そ、そうだな……俺も嬉しいです」

 

ニッポー「ん?……トレーナー、お前歩き方変じゃね?」

 

佐竹「先まで痺れるだけだったんだけど、また動かなくなりまして……悪いんですけど、肩貸してくれます?……」

 

ニッポー「嘘だろ、大丈夫かよ!?」

 

透かさずニッポーが肩を貸し、トレーナーを支える。

 

佐竹「続けて悪いんですけど、ウイニングライブが終わるまでウララには黙っててくれないですか……今はライブに影響するので」

 

ニッポー「別にいいけどよ……治んのか、それ?」

 

佐竹「わかりません。取り敢えず、病院に連れて行ってもらえませんか」

 

サンデー「私が連れてくよ」

 

そこには、サングラスを付けたサンデーが立っていた。

 

佐竹「何でここに……それにお仕事は?」

 

サンデー「やよいさんが帰ってきたから、私はもう代理の任から外れたの。今は自由の身、つまり暇なの。ほら、行くよ」

 

サンデーはウインクしながら応え、トレーナーを病院まで連れて行くことになった。ニッポーはウララのライブに付き添い、トレーナーのことは悟られないように慎重に動いた。ライブの始まる控室で……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウララ「ねぇ、ポーちゃん。トレーナーは何処に行ったの?」

 

ニッポー「えっ!?あぁ……少し用がある、って学園に帰ったぞ」

 

ウララ「…………ポーちゃん、トレーナーはライブが終わるまでウララを置いて帰らないよ……何か隠してる?」

 

ニッポー「…………ウイニングライブが終わったら話す」

 

ウララ「じゃあ、歌ってくるね」

 

ニッポー「おう…………トレーナー、無理だったわ」

 

一人しか居ない控室で、ニッポーは呟くようにこの場には居ないトレーナーに吐露した。そしてライブは始まり、ウララは歌い踊りながらトレーナーの安否が気になっていた。

 

ウララ(トレーナー、大丈夫かな……。死んじゃったりしないよね……)

 

心の中で呟いた瞬間、涙が溢れた。止めようとして、止められるものではない。相手を思えば思うほど、感情が出る。息が詰まり、声が出なくなった時……。

 

クワ「何泣いての……」

 

ウララ「だって……トレーナーが……」

 

クワ「トレーナーを心配するより、アンタがファンを心配させてどうすんの?」

 

ウララ「っ……」

 

クワイエットに諭され、ウララは笑顔を取り戻し最後まで歌いきった。会場は一瞬ざわめいたが、何とか持ち直しライブは無事終わり、ウララはニッポーの下へと急いだ。

 

ウララ「ねぇ、ポーちゃん。トレーナーは何処?」

 

ニッポー「病院だ。例の脚の痺れだ……」

 

ウララ「トレーナーは大丈夫だったの?!」

 

ニッポー「わからない。今はサンデーが付き添ってるから、心配ないが……」

 

ウララ「ウララ達も行こうよ。今は早く、トレーナーに逢いたい……」

 

ニッポー「そうだな……。支度済ませて早く行くか」

 

二人は支度を済ませ、いつもの病院に向かった。受付に患者の名前を言い、病室を聞き部屋に入った。そこにはトレーナーとサンデー、もう一人はスズカだった。

 

 

 

 

 

 

スズカ「すいません、トレーナーさん。ハンカチ、ダメにしてしまって……」

 

佐竹「いいよ、別に。でも、不思議なこともあるもんだな」

 

スズカ「はい…………それより、トレーナーさん。私、もう歩けるようになったんですよっ」

 

佐竹「そうか、スズカはもう歩けるようになったのか。……おっ、ウララとニッポーさん。その様子だと……ニッポーさん、直ぐバレましたね」

 

ニッポー「すまん……」

 

佐竹「いいですよ、いつかバレるわけだし」

 

ウララ「トレーナー……ドレーナァァァ!」

 

佐竹「お〜よしよし。すまなかったな、最後まで居られなくて」

 

ウララ「わたし……トレーナーが死んじゃったのかと思った……」

 

佐竹「バカだなぁ、そんなわけないだろ?脚が動かなくなっただけだ、心配すんなって」

 

スズカ「普通、脚が動かなくなったら心配すると思うんですが……」

 

サンデー「失言ポイント追加〜♪」

 

佐竹「何のポイントですか、それ?」

 

ニッポー「そう言えば、何でスズカがここに居るんだ?」

 

佐竹「スズカが入院してる病院だからですよ?」

 

サンデー「しかも、スズカの隣の部屋。びっくりでしょ。ね、スズカ?」

 

スズカ「何でそこで私に振るんですか?!」

 

スズカ(こんなこと考えちゃダメだけど、怪我のお陰でトレーナーさんと沢山お喋りできる……)ニヘェ

 

サンデー「スズカ、顔がニヤけてるよ〜」

 

スズカ「ハッ!?」

 

ウララ「トレーナー、いつ治るの?」

 

佐竹「う〜ん……先生に聞いてみないとわからないなぁ。そんなに酷いわけじゃないと思うし」

 

スズカ「以前と変わらないような……」

 

冗談を飛ばしながら、五人は会話を楽しみ、夕方になっていった。他の四人は帰り、トレーナーは病室で医師の話を聞いていた。

 

医者「相変わらず、慕われていますね」

 

佐竹「みんな、いい娘ばかりです。自分が情けなくなるくらい」

 

医者「…………トレーナーさん。貴方の脚のことなんですがね」

 

佐竹「はい」

 

医者「トレーナーさんの右脚……神経細胞が明らかに減り続けています。このままいくと、貴方の右脚は動かなくなります……」

 

佐竹「治せないんでしょうか……」

 

医者「治せないことはないと思います。神経には二つあって、中枢神経と末梢神経があります。この二つで治せないのは中枢神経、治せるのは末梢神経。トレーナーさんの脚は治せる見込みはありますが、長い目で見なくてはなりません。なので、数年はその生活が続くと思ったほうがいいと思います」

 

佐竹「数年ですか……」

 

医者「完治できないわけではないので、気を落とさないでください。後、一週間入院となりますが、その間に痺れが取れない場合、松葉杖での使用になります」

 

佐竹「わかりました」

 

先生の指示の下、トレーナーは三度目の入院を経験することになった。そしていつもの恒例となった、他のウマ娘達に怒られるトレーナー。だが、一人だけトレーナーが入院してウキウキなスズカを見て、トレーナーは嫌われているのかと勘違いしてしまった。そして入院生活が始まり、トレーナーの脚は感覚を取り戻し僅か一日で痺れは無くなり、再び歩くことが出来るようになった。そんなトレーナーの下に、隣の部屋に居るスズカがやってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スズカ「おはようございます。脚の具合はどうですか、トレーナーさん」

 

佐竹「よっ。五日で治った、やっぱりそんな大したことないな」

 

スズカ「ふふっ、元気ですねトレーナーさんは。それより……あの///……」

 

佐竹「ん、どうした?」

 

スズカ「トレーナーさんが良ければ……下の階にある、コーヒーショップに行きませんか?」

 

佐竹「そうだな。いい時間だし、行ってみるか!」

 

スズカ「は、はい!」

 

スズカ(やった……)

 

スズカに誘われ、二人は一階にあるコーヒーショップで朝食を食べることにした。人は少なく雰囲気もいい店内で、コーヒーのいい香りが店中を漂っていた。二人用のテーブルに座り、メニューを選んだ。

 

佐竹「和食もあるんだな。じゃあ、これにしよ」

 

スズカ「私はこのセットにします」

 

二人はそれぞれ注文し、トレーナーは日本食の納豆ご飯に鮭に味噌汁、コーヒーはブレンド。スズカはウインナーに目玉焼きと焼きたてのパン、コーヒーは甘みが残るモカ。よく見る朝の朝食を、二人は食べながら他愛の無い話をしてコーヒーを飲んで寛いでいた。

 

スズカ「トレーナーさんのコーヒーはなんですか?」

 

佐竹「ブレンドコーヒー。お店の人が選んだ豆を混ぜてるから、お店の味が知れて結構楽しいぞ?」

 

スズカ「そうなんですね。私は、普段飲むわけじゃないので味はわかりません」

 

佐竹「飲んでみるか、美味しいぞ?」

 

スズカ「えっ///……そ、それは……」

 

佐竹「遠慮するな、飲め飲め」

 

スズカの内心、合法的に間接キスが成立したことに嬉々として受け止めるが、嬉しさのあまり動揺しすぎて変な顔にならぬよう、必死に堪えていた。

 

スズカ「じゃ、じゃあ……」

 

オグリ「ここに居たか、トレーナー」

 

スズカ「…………」

 

佐竹「おっ、オグリ。来てくれたのか?」

 

スズカがコーヒーを啜ろうとした時に、土産を持ったオグリが来たため、スズカは手を止めオグリをひたすら顔で訴えかけた。

 

オグリ「部屋に行ったのだが、居なくてな。看護師に聞いたらわからないと言われて、トレーナーの匂いを辿ってきた」

 

佐竹「そ、そうか……流石だな」

 

オグリ「それよりスズカ。何故そんなに睨むんだ?」

 

スズカ「何でもないです……もうちょっとだったのに……

 

オグリ「?……そうだ、トレーナー。お見舞いの品だ、果物を沢山買ってきた。食べてくれ」

 

カゴの中には沢山のフルーツが詰められていた。そしてその後、オグリも椅子を持ってテーブルに座った。

 

オグリ「ということで私も食べるぞ」

 

佐竹「何を?」

 

オグリ「店の食べ物だが?」

 

佐竹「俺達食べ終わったから一人で……」

 

オグリ「何故一緒に居てくれない?」

 

佐竹「いや、もう食べたから」

 

オグリ「私が食べ終わるまで待っていてくれ!直ぐ終わるから!!」

 

二人が去ろうとするとオグリに必死に止められ、トレーナーが悩んでいると……。

 

スズカ「いいんじゃないでしょうか、トレーナーさん。時間は幾らでもあるわけですから」

 

佐竹「確かに……まぁ、いいか」

 

オグリ「そうか。トレーナーと一緒に居ると、ご飯が美味しく食べれるから私も嬉しいぞ」

 

佐竹「お、おう///……」

 

オグリの何気ない一言と、屈託のない笑顔に不覚にもやられたトレーナー。その顔を見て、オグリを遠ざけようとした自分を心底殴りたいと思ったトレーナーであった。食事も終わり、三人は暫く話を続け楽しい時間を過ごした。楽しく過ごすトレーナーを他所に、スカーレットはウララが勝ったことに気が気じゃなかった。あの時のタキオンの言葉が正しければ、トレーナーの脚はもうボロボロ。そんなスカーレットは、トレーナーが入院している病院へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダスカ「正直これで、アタシの意思が伝わればいいけど…………まぁ、鈍感なやつに伝わるわけ無いか」

 

スカーレットは見舞いの花束を携え、トレーナーの病室へと向かった。そして部屋に入り、スカーレットはトレーナーの様子を確認しいつも通りであることを確認した。一人でテレビを鑑賞しているようで、テレビ画面にツッコんでいた。

 

佐竹「あははっ…………おぉ、スカーレット。わざわざ来てくれたのか?」

 

ダスカ「はい、お見舞いの花束よ。少しでも周りにお花があったほうがいいでしょ?」

 

佐竹「ありがとう。……綺麗な花なんだが、何でススキが入ってるんだ、これ花なのか?」

 

ダスカ「一応……花?」

 

佐竹「何で疑問形なんだよ…………この花は?」

 

ダスカ「アネモネ。こっちはセイヨウヒルガオ、後はスカーレット」

 

佐竹「随分変わった組み合わせだな、取り敢えずありがとう。お茶でも飲んでゆっくりして……」

 

ダスカ「用があるから帰るわ。他にも沢山来るだろうし、その娘達の相手してあげて。それじゃ」

 

トレーナーの言葉を待つことなく、スカーレットは早々に部屋を出た。

 

佐竹「おい!…………アイツ、調子悪いのか?まぁいいか、花も取り敢えず花瓶にさしとくか」

 

花瓶に花束を入れ替えているとき、数分後にタキオンが入ってきた。

 

タキオン「やぁ、トレーナー君。元気そうじゃないか、結構結構」

 

佐竹「タキオンか……」

 

タキオン「残念そうだねぇ。確かに私としては君の脚の具合いを見に来ただけなんだが……ん?」

 

佐竹「花がどうかしたか?」

 

タキオン「随分と、悲観的な花言葉を並べた花束だねぇ。誰が持って来たんだい?」

 

佐竹「スカーレットが見舞いで持ってきてくれたんだ。どんな言葉なんだ?」

 

タキオン「セイヨウヒルガオは失われた希望、ススキは憂い、アネモネは薄れゆく希望。スカーレットだけだね、明るい言葉は」

 

佐竹「何でこの花を選んだんだ?……それくらい俺のこと嫌いなのか?」

 

タキオン「だったら、スカーレットの花を入れないだろう?スカーレットの花言葉は純愛、小さな強さ、秘められた情熱、印象的。明らかに不自然だろう?」

 

佐竹「確かに。てか、タキオン……花言葉全部、覚えてんのか?」

 

タキオン「本を読んでる内に覚えたのさ。それよりこれが、スカーレット君からの何らかの意図だとすれば……」

 

佐竹「意図って何だよ……」

 

暫く考え込むタキオンは、スカーレットの花言葉の意味を模索する。数分沈黙の時間が流れて、タキオンは口を開く。

 

タキオン「スカーレット君は走りたくないのではないかい。トレーニング時に、そんな素振りはなかったかい?」

 

佐竹「う〜ん……トレーニング時っていうより、ベンチでボケ~っとしてた時があって、それ以来少し元気がないんだよなぁ……」

 

タキオン「その症状はいつからだい?」

 

佐竹「チャンピオンズカップの前だから……数日前の話だな」

 

タキオン「そのレース前なら私達が、トレーナー君の脚の症状を調べている時に当てはまるね……」

 

佐竹「もしかして……」

 

タキオン「あの話が聞かれている可能性が高い……」

 

ここで二人はあの時の話が、聞かれていることに気付く。あの花言葉をもう一度考えると、失われた希望、憂い、薄れゆく希望。自分のやってきたことへの絶望、勝っても負けても意味がない、二度とトレーナーの脚は戻ってこない。スカーレットはそう考えているのでは、と二人は解釈する。スカーレットが出走する有馬記念が差し迫っている中で、トレーナーとスカーレットは大きな問題を抱えながらレースに挑まなければならない。そんな不安を抱え、残り数週間の猶予、解決の目処は立たずトレーナーは退院となった。脚は何とか動くが、自分でもこの謎の症状はわからないため、いつまた、動かなくなるかという煩悶はあるがスカーレットの一生を考えれば答えは一つしかなかった。

 

 

 

 

 




ライスバーガーうまぁ……。

どのウマ娘とイチャイチャしたい?

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