気まぐれな吹雪   作:音子雀

16 / 88
この話は、13話とリンクしています。


14、『あと5分経ってから』

「では、この課題を明日までに終わらせてくださいね。1問でも解けなければ落第となってしまいますからね」

『ええ~っ』

 

 夏休み真っ盛りな今日、蒸し暑い教室に、やる気も覇気もな少人数のブーイングが響いた。ここにいるのは全員が俺を含む赤点補習組。期末テストで悲惨な点数を取った10人弱が、夏休みという時間を返上で、こうして学校に来ていた。

 

 っていうか、勉強ができないから来てんのに課題ができなかったら落第ってなんかおかしくね!? 

 

 そんな俺たちの気持ちを知ってか知らないでか、先生はブーイングを完全に無視して教室を出て行った。もし補習の担当が新島先生だったらもうちょっとだけでもゆるくしてもらえたかもしれないけど……、あの人、体育だからなあ。

 

「ツナ!」

「あ、山本。どうしたの?」

「課題、一緒にやろうぜ。1人より2人の方がはかどるだろ?」

「そ、そうだね!」

 

 さすが山本! 頼りになるなあ。さてと、あとはどこでやるかなんだけど……。

 

「家でやればいいだろ」

 

 考え込んだ俺の背後から突然の声。ま、まさか。

 

「チャオっす」

 

 やっぱりというか、そこにいたのはリボーンだった。

 

「お前なあ、勝手に決めんなよ!」

「どうせ獄寺ややちるも呼ぶんだ、うちの方が集まりやすいだろ」

「それは、そうだけど……」

 

 ぐうの音も出ない。ていうか獄寺君たちのこと呼ぶ気でいたんだ。確かにあの2人って頭がいいし頼りになるけど。

 

「そんじゃ、行こうぜ」

「ちょっと待て」

「……今度は何?」

「あと5分経ってから昇降口に迎え。会ったら絶対に連れて来いよ」

 

 はい? 

 

「ってリボーン! どこ行く……って、行っちゃったよ」

 

 あと5分? 5分経ったらなんかあんのか? 連れて来いって言ったって、誰がいるって言うんだよ。

 

 結局、俺は山本と2人で首を傾げながら、5分後に昇降口へと向かった。正直なところ、この時点で嫌な予感があったんだ。

 

「あれ、霜月さんだ」

「よっ要!」

 

 あからさまに嫌そうな顔をする“彼女”。リボーンに言われた通りに向かった先にいたのは、幸か不幸か、霜月さんだった。しかも意外なことに、頭の上にはリボーンを乗っけている。

 

 い、いつの間に仲良くなったの!? どういうこと!? 

 

「今日も風紀委員だったのか?」

「まぁな。お前らは……聞かずとも補習か」

「タイミングが合うなんて偶然ですね……ハハハ」

 

 なわけねーだろ。これは確実にリボーンにはめられた。その証拠にずっとニヤニヤしてるし! 

 

「隣人のよしみだ、用件は聞こう」

「えっいいんですか!?」

「やめるか?」

「いえいえいえ!」

 

 まさかリボーンの奴、霜月さんのこと脅したりしてないだろうな……。前みたいに手錠かけたりとか……。いや、まさかね……。

 

「あ、あの、もしこれから時間があるなら勉強を教えてくれないかな、って思ってるのと、リボーンからの強制と……」

「予想以上に正直に言ってきたな」

 

 現状、そう言うしかなかった。実際には直接的に霜月さんを連れて来いと言われたわけじゃないけど、リボーンがそこにいる以上は十中八九、目的は霜月さんだ。それにあらかじめ言っておけばこの前にみたいに機嫌を損ねないで済むかなあ、なんて。

 

 それでいて、当の本人は黙っていた。考えていた、の方が正しいのかもしれない。途中でニヤついていた理由は知る由もない。

 

「ま、行ってやるよ。どうせ沢田の家でやんだろ? 奈々さんに渡したいもんあるし、一旦帰らせてくれりゃ問題ねえよ」

「本当!?」

「サンキューな要!」

 

 じゃあ1時くらいに。そう約束して俺達は帰路についた。って言っても家が隣同士なんだから一緒に帰るんだけどね。

 

 そういえば霜月さんと一緒に通学路歩くのって超レアかもしれない。朝は俺が寝坊して遅刻ばっかりしているのもあるんだけど、そうじゃなくても風紀委員になってからは校内ですら顔を合わせる機会が多いとは言えない。同じクラスなのに。

 

 改めて並んで歩いてみると霜月さんについて気付くことがいくつかあった。まずは、めちゃくちゃ意外なことに、小さい。俺と同じくらい……? いや、俺より小さい……? なんか大きいイメージあったから意外すぎる。あと、まつげが長い。これは隣に並ばないと気づかない。それと同時にやっぱり女の子なんだなあって再確認できる。

 

「はあ……」

 

 うわ、ため息つかれた。じっと見てたのバレたかな……。不安になって聞いてみると、まったく別の答えが返ってきた。

 

「人生そう思い通りに行かねえなって痛感しただけ」

「あ、やっぱりリボーンのこと怒ってます?」

「それなりにな。何でこんなに付け回されてんだよ。闇討ちの機会でも狙われてんのか?」

「いやなんというか、興味津々で……」

 

 だって今も頭の上でニヤついてますし。お前今の会話楽しんでるだろ絶対。

 

「つーか思ったんだけど、勉強教えんなら獄寺と長谷川呼べよ。成績いいし、お前だってそっちの方が話しやすいだろ」

「あ……その、もう呼んであります」

 

 やっべー言ってなかった。まあ、言ったら言ったで断られそうだし……。

 

「その環境下に混ざれと」

 

 ほらぁ、あからさまに嫌そうな顔しちゃってるよ! 

 

「いいよもう、ふて寝してやる。全員が解けなくなるまでふて寝してザマァってしてる」

「ええええ……」

 

 この人めっちゃ性格悪……。びっくりするくらいに性格悪い……。やちるちゃんが絡んでるから仕方ないのかもしれないけどさ。

 

「ま、霜月が誘いを受けただけでも良しと思え」

 

 と、ここでずっとニヤニヤしていたリボーンが話に割って入ってきた。途端に霜月さんの表情が嫌悪感丸出しのものになった。しかも「許可した覚えはねえ」……って、あれ? 

 

 

「あのぉ……学校を出たときからいたけど……」

「なんですぐに言わなかった」

「てっきり霜月さんが許したのかと思って、珍しいこともあるんだなあって……」

「監視の上にストーカーとはいい度胸してんじゃねえかこのクソチビィッ!」

 

 捕まえようとする霜月さんの手の間をするりと抜けたリボーンは、そのままレオンが変化したグライダーで飛んで行ってしまった。残されたのは笑っている山本と不安で仕方がない俺、そして意識が半分は飛んでしまった霜月さん。

 

 ……大丈夫かこれ。

 

 

 

 

 †‡†‡†‡†‡†‡

 

 

 

 午後1時。獄寺君ややちるちゃんも来ている中に霜月さんがやってきた。やっぱりというか、獄寺君とはいがみ合うしやちるちゃんに至っては見なかったことにしてるし、2人に対する嫌悪がすごい。

 

 しばらくして母さんがお茶を出してくれて、勉強会が始まった。

 

 完全に非干渉な霜月さんが何をしているのかと思えば、リボーンに絡まれていた。しかも膝の上に乗られている。

 

「そんなに霜月のことが気になるんスか?」

「え?」

 

 ふいに呼ばれた声で我に返る。

 

「ずっと向こう見てますよね」

「う、うん。リボーンと2人きりで大丈夫なのかなって」

「そもそも何なんスかあいつ。ボンゴレのことも知ってるみたいですし」

「あー、えっとね」

 

 そういえば知らないんだっけと思って、前にリボーンが勧誘した時のことをかいつまんで話した。その際に思い切り霜月さんの機嫌を損ねてしまったことも。

 

「けど、山本とは仲が良いみたいだし勉強ができて頭もいいからってリボーンが放っておかなくてさ、それで余計に嫌がってるんだよね」

「なんでわざわざ構うんですかね」

「さあ……」

「私は少し、理解ができますよ。リボーンが彼女に付きまとう理由」

 

 そういって口をはさんできたのはやちるちゃんだった。

 

「霜月要はとても理解しがたい人物ですが、だからこそ理解したい。そう考える人でしょう、リボーンという殺し屋は」

 

 確かに的を射ているような、そうでもないような……。だからって機嫌を損ねてたら元も子もないんじゃ……。

 

 そう悩んでいた時に俺の耳に聞こえていたのはとんでもない言葉だった。

 

「……寝よ」

「ええっ!?」

「疲れてるから寝る。詰んだら起こして。おやすみ」

 

 数秒後、霜月さんは完全に寝ていた。リボーンを膝の上に乗せたまま。

 

 よくよく考えればさっきまで風紀委員の用事で学校に行ってたんだよね……。それなのに来たくもないだろうこんな場所に来て、疲れてないわけがない。

 

「って、やちるちゃん!? 何してんの!?」

 

 あろうことか、やちるちゃんが寝ている霜月さんの頬をつつきだしたのだ。

 

「何ってチャンスですよツナ。普段は決して人を寄せ付けない彼女がこんなに無防備に寝ているのです、いたずらをする大チャンスですよ。見てくださいこの肌、どんなケアをしたらこんなに綺麗になるんでしょうか」

「やちるちゃんってそんなキャラでしたっけ!?」

「寝顔はこんなにも可愛らしいんですね。学ランではなくセーラー服にしてもっと髪を伸ばしてみればとても素敵になるのではないでしょうか」

「やちるちゃーん!?」

 

 やばい、なんかよくわからないけどやちるちゃんの変なスイッチが入った。これで霜月さんが起きたりなんかしたら本当に怒られるんじゃないの!? 

 

「おい、やちる。今日の目的を忘れんなよ」

「……はっ、そうでした。私としたことが。ツナと武のための勉強会だというのに、お見苦しい姿を見せてしまいました」

「いや、やちるちゃんの意外な姿を見れてよかったというか……うん」

 

 うん。と、それはさておき勉強会を再開させた俺たち。獄寺君はなんだかんだで理屈っぽい話ばかりでよく分からなかったんだけど、やちるちゃんはすごく丁寧に教えてくれたから何とか課題のプリントも進んでいった。途中で母さんが霜月さんからもらったとかっていうチーズケーキを差し入れてくれたから、ちょっと休憩をはさんでおしゃべりをしたりもした。そうしているうちに課題は進み、俺と山本は残すところあと1問になった。

 

「問七……」

 

 やちるちゃんが嫌そうな顔をする。問題を読んでも俺にはさっぱりであるこれは、やちるちゃんや獄寺君ですら手を止めてしまった。もちろんリボーンは何も言ってこない。

 

 しばらくの間は負けじと紙とにらめっこしていたやちるちゃんがお手上げしたとき、俺たちの視線は1人に集中した。

 

「お、起こす?」

「悔しいですが、知恵をお借りしませんと」

 

 数時間前と同じ体勢で寝ている霜月さんの肩を揺らす。さっきいたずらをした時とは違ってすぐに目を覚ましてくれた。

 

「あ、起きた」

「んー……何? だいぶ時間かかってたみたいだけど終わったの? それとも解けなかった?」

「えっと……解けなかったです。獄寺くんもやちるちゃんもお手上げみたいで……」

「ふぅん。問題見せてみ」

「あ、この問七です」

 

 机の上のプリントを手渡す。気のせいかもしれないけど、問題を見た霜月さんが一瞬だけ笑ったように見えた。

 

「一応聞くが、長谷川が解けなかったんだな?」

「おや、私に聞きますか。ええ残念ながら公式に目処はついていても解き方を知りませんでしたので」

 

 意外なことにやちるちゃんに話を振った。なんだかんだでやちるちゃんも頭がいいってことは知ってるのかな? っていうか、解けなくても公式に目処がついてるやちるちゃんも十分にすごいからね!? 

 

「沢田、紙とペン貸して。持ってくんの忘れた」

 

 そう言えばチーズケーキ以外は何も持たないで来てたよこの人。

 

「ドジっ子属性ですかあなたは」

「えーっと計算式は」

「結局無視!?」

 

 すごい勢いで聞かなかったことにしてる!? やちるちゃんまたしょんぼりしちゃったよ……。

 

 適当なコピー用紙とシャーペンを渡すと、問題を読みながらペンでコツコツ叩いていた。悩んでるのかな? と思ったのもつかの間、突然コピー用紙を埋め尽くす計算式を書き殴りだした。速すぎるし何より難しすぎて何を書いているのかさっぱりわからない。それは獄寺君ややちるちゃんも同じだった。

 

「答えは4。差異なし上出来」

「すっげー……」

 

 あんなにいがみ合っていた獄寺君でさえも呆然としながら羨望の眼差しを向けている。ただ、解いた張本人はとてもつまらなそうな、不満げな顔をしていた。山本に褒められた時にはすごく嬉しそうにしてたけど。

 

「さてと、今のが最後の問題だろ? 用も済んだことだし帰らせてもらうぞ」

「待て霜月」

 

 帰ろうとした霜月さんを制したのはリボーンだった。

 

「なんであの問題が解けたんだ。大学レベルだぞ」

 

 ……えっ? 今なんて? 

 

「西条考古学院、って言ってわかるか?」

 

 思わず首を傾げた。なんかすごく仰々しい名前だけど、残念ながら聞いたことがない。みんなが不思議そうな顔をする中で、リボーンだけは知ってるみたいだった。

 

「世界屈指の超難関校だな」

「リボーンは知ってるの?」

「まあな」

 

 そういえば前に、どっかの学会に出没するボリーン博士の話を聞いた気がするけど、その関係なのかな。

 

「俺さ、並盛に来るまでそこにいたんだわ」

「なっ!?」

「ええっ!?」

「マジか」

「進学校ですか……!?」

 

 超難関校から並盛に進学したの!? なんで!? 

 

「てわけで解けました。それでいいだろ」

「まだ聞きたいことがある。何で並盛に来たんだ。お前、本当にツナと同い年か?」

「リボーン!?」

「ツナは黙ってろ」

 

 いやいやいや!! 質問の意味が分かんないんですけど!? 中学生かどうかってどういうことだよ! 

 

 最初は嫌そうな顔をしていた霜月さんも、リボーンのしつこさに観念したのか、西条考古学院について教えてくれた。あまりにも壮大な話だったから半分も頭に入ってこなかったけど。それでも、霜月さんはとんでもなくレベルの高い学校に通っていたとてつもない天才だってことだけは、何とか理解できた。

 

「だったら尚更だ。なんで学院を出て並盛に来た」

「……追い出された」

「何?」

「追い出されたんだよ、俺の学力を恐れた理事長にな。けど、学院の院長と並中の校長が旧知の仲だっていうんで、唯一のツテでこっちに来たんだよ」

 

 へ、へえ……。あ、そういえばよく校長室に行くの見かけてたけど、そういうことだったのかな……? 根津先生の事件の時にも校長先生と気さくに話してたみたいだし。

 

「そういうことだ。変な話を聞かせて悪かったな」

 

 ドアノブを回してドアを開ける。出ようとして、一度こっちを振り返った。

 

「一応言っておくけど、これでもちゃんとお前らと同い年だからな」

 

 ドアが閉まった後はすごく微妙な空気が流れていた。

 

「な、なあリボーン。どういうことだよ」

 

 沈黙があまりにも耐えがたくて俺は思わずリボーンに詰め寄った。

 

「何がだ」

「何もかもだよ! 特に、本当に中学生か、なんて質問……」

「ああ、それか」

 

 この場にいる全員からの視線の意図を察したであろうリボーンは、小さくため息をついてから話し始めてくれた。

 

「西条考古学院ってのはな、さっきの話でも言ったが世界でも指折りの超難関校だ。ただし、大学なんだけどな」

「「「「なっ!?」」」」

 

 だ、大学!? あの人、そんなとこ出身で並盛に来ちゃったの!? 

 

「大体は理解したみてえだな。そんでもって、あそこは何歳から何歳までっていう何年制が決まってない全寮制なんだ。あいつみたいにずば抜けた頭脳を持ってるやつにはうってつけの場所だな」

「なるほど……。しかし全寮制からの並盛だなんて、ご家族はどうなさっているんでしょうか」

 

 ……あっ。

 

「やちるちゃん、知らないの……? 霜月さんって一人暮らしなんだよ」

「そうなんですか?」

「親のことは俺も聞いたことねえな。一人暮らしだから風紀委員での不規則な生活になっても迷惑かける相手もいなくて気楽だって言ってたくらいだしな」

 

 それを聞いて、やちるちゃんはまたしょんぼりした。自分だけ相当嫌われているうえに何も話してくれないのは確かに悲しいだろうけど……。霜月さんだってあんなに嫌うことないのに。

 

 どうにかできないかなあ……。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。