気まぐれな吹雪   作:音子雀

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16、『本日8月8日は何の日だ』

 どうも、相も変わらず夏休みを満喫している要です。うん、そろそろこのくだりいらねぇよな。俺の近況報告なんて誰が楽しいんだ。そもそも俺は誰に向かって喋ってるんだ。暑さで頭がおかしくなったかコノヤロー。ちなみに外は気温30℃近くの夏日。そんな中で絶賛クーラーで快適生活中。最高かな。

 

 ところで、クーラーはいいんだけどな、ぶっちゃけて今はとんでも事態に見舞われてるんですわ。それはだな──。

 

「やっぱ夏にクーラーって最高だわー」

「何やってんだサボり神」

 

 そう、久しぶりに銀がここに現れたのだ。俺が朝起きてきた時には既にクーラー付けてくつろいでたもんだから夏なのに凍えるかと思った。20℃設定まじ許すまじ。

 

「お前さ、仕事サボりすぎて漣志って奴に怒られて見張られてたんじゃねぇの」

「はっはっはー。俺を甘く見るんじゃあないさ。1ヶ月先の分まで終わらせて大神様に許可とってきた」

「大神様? 誰それ」

「神界のトップ」

 

 ふぅん。まあどうでもいいや。神界のことなんてさして興味ないし。そんなことよりせっかく来たんだからこいつも誘うか。

 

「ところで銀、本日8月8日は何の日だ」

「え、お前の誕生日?」

「縊り殺すぞ」

「スミマセンデシタ」

 

 ニアピンですらねえしもはや季節外れにも程があるわ。つーか今日が俺の誕生日じゃないってお前がよく知ってんだろバ神が。

 

「入江正一のイベントだろ」

「あー、そういうことね。……え、行くの?」

「いや行かねえけど?」

「行かねえのかよ!」

「よく考えてみろよ。俺の家は沢田家の真横だぞ。現場なんて正面も同然じゃねえか。窓から見れるわ」

「あらズルい」

 

 ずるくない。保身第一だ。西側の和室なら2面に窓があるし、正面の道路も沢田家の方も良く見えるし、今回のイベントにおいては絶好の傍観スポットだろ。何より家から一歩も出る必要性がどこにもない。

 

「あ、別に興味が無いなら別に構わねぇよ。けどその代わり、家のことやっといてもらおっかなー、せっかく来たんだしー」

「やっぱ一緒に見てる」

 

 チッ。洗い物とか洗濯とか掃除とかやっててくれればいいのに。

 

 場所は変わり2階の和室。うん、思ってたより良く見える。階段を上った時に聞こえてきた音はおおむねアレだろ、ランボが投げた手榴弾をリボーンが跳ね返してランボごと吹っ飛んだ音。

 

 この時点での入江正一の居場所は……ああ、いた。塀に隠れて電話してるわ。つか隠れてる場所ってバリうちの敷地内じゃん笑える。うーん、窓が遮蔽になって声が全く聞こえてこない。ちょっと暑いけどしゃーない、窓開けるか。

 

「リボーンさんがランボにドカーンだよ!! は!? ドカーンと買ってない!!」

 

 ……リアルで聞くと思ってたよりも煩いな。漫画読んでた頃は“かわいそー”なんて思ってたりもしてたけど、現実的にはただの近所迷惑だよなあ。なんで他の家の人は気づかんの。モブ補正でもかかってんの。つーかそろそろ笑えてきた。哀れすぎて。爆笑していい? 

 

「お前、性格悪いな」

「さて何のことでしょうか」

 

 なんて無駄話をしているうちに、騒ぎに気づいた沢田がようやく外に飛び出してきた。そこから先は、まあ原作通りの展開だな。ランボが10年バズーカを使って、ロメオと勘違いしたビアンキが殺しにかかって、リボーンが沢田を使って沈静を試みるもあっけなくポイズンクッキングにより撃沈。

 

 ……普通に考えて“にらめっこ弾”なんかで沈静するわけないしビアンキの反応は正常かつご尤もだと思う。本当に沢田は遊ばれ損だよな。

 

「さて、入江正一を回収するか」

「はい!?」

「何を驚いてるんだ。うちの敷地内で倒れてんだぞ、今までの惨状を抜きにしたとしても然るべき行為であると判断すべきだと思うがな。それともお前は助けないのか? 神のくせに」

「いや、だって原作……」

「神のくせに」

「…………あの、要さん?」

「神のくせに」

「あーっ、もう分かったよ好きにしろ!」

「あざーっす」

 

 

 

 

 †‡†‡†‡†‡†‡

 

 

 

 

「……あれ、ここは?」

「お、気がついたか」

 

 入江をリビングに運び入れてソファに寝かせてから十数分、ようやく目を覚ました。用意しておいた水を渡してやると、少し困惑しながらも受け取ってくれた。

 

「大丈夫か?」

「あの、あなたは?」

「俺は霜月要。こっちは黒猫のジジ」

「いや違くね!?」

「間違えた、真っ白な銀」

「紹介おかしくね!?」

「え、えっと、銀、さん……」

「それで正解!」

 

 なんか銀がめっさ嬉しそう。

 

「それで、ここほ?」

「俺の家だよ。お前、うちの前で倒れてたからさ」

 

 いまいち合点がいかないようで、うーんと首を傾げる入江。どうやらさっきまでの惨劇についてきれいさっぱり記憶から吹っ飛んでいったらしい。

 

 まあそうだよな。目を覚ますまでずっと魘されてたわけだし、忘れた方がいい。というか忘れるべきだ。にらめっこ弾は上から見ていてもショッキング映像だったもんな。

 

「そ、そうですか……。ご迷惑をおかけしました」

「いえいえ~」

 

 また小さく頭を下げてから、帰ろうと立ち上がる入江だが、その足取りはフラフラと覚束無い。

 

「まだ調子悪いんなら休んでいけば?」

「あ、いえ、大丈夫です」

 

 そうは見えないんだけどなー。あ、でも一応おつかいって名目でこっちに来てたんだっけか。じゃあ帰んなきゃダメだよな。そっかー残念。

 

 ある程度の場所まで見送ってやり、無事に帰路についた入江。俺たちから少し離れた場所まで歩いた時に不意に立ち止まり、こちらを振り向いた。

 

「僕は入江正一です。今日はありがとうございました」

 

 うん、名前は聞かなくても知ってるよ。君はモブじゃないからね。

 

 手を振りつつ見送っていると、地味に横から視線を感じる。ものすごくチクチクしてる。痛い。

 

「あー……修正不可だな」

 

 なんか言ってる。

 

「もうこれで原作通りの未来にならないどころか……うんうん、俺知らね」

 

 なんか言ってるね。聞こえない聞かない聞きたくない。気にしない気にしない気にしてたまるもんか。

 

 

 

 

 †‡†‡†‡†‡†‡

 

 

 

 

「確かこの辺だったような……」

 

 僕は今、ある人の家を探していた。数日前のことだけれど、僕を助けてくれた優しい人がいた。うろ覚えなトラウマと一緒に思い出すことの出来る、僕の恩人。曖昧な記憶だけを頼りに、彼の家を探していた。

 

「あ、あった」

 

 “霜月”とプレートのかかった家。

 

 ピンポーン

 

『はーい』

 

 新しめのインターホンの音に続いて中から声が聞こえてきた。開いたドアから覗いたのは、エメラルドグリーンの髪。ああ、見覚えがある。

 

「あ……」

 

 自分を見つめる緑色の瞳。そこに、なにか冷たくて暗いものを感じてしまって、思わず半歩身を引いてしまった。けれど、それは一瞬のことだった。

 

「入江! よく来たな。何もないけど、とりあえず上がってくれよ!」

 

 あの時と同じ、優しい笑顔が出迎えてくれた。小さく頭を下げてから玄関を上がると、リビングらしい部屋に通された。

 

「今お茶とか出すから座って待っててくれよ」

「あ、はい」

 

 そう言って家の奥へ向かう霜月くん。目で後を追ってみると、ダイニングがあって、その先にキッチンがあった。

 

「ほい、緑茶だけどいいか?」

「ありがとうございます」

 

 お礼を言うと、霜月くんは一瞬びっくりした顔になり、クスクスと笑い出した。

 

「ど、どうしたんですか……?」

「いんや別に」

 

 そういいながらもわらっている霜月くん。何がおかしいんだろうかと思いながらも、出してくれたお茶を口に運ぶ。

 

「あ、これすごく美味しい」

「だろ? ちょっといいとこの取り寄せてもらったんだ」

 

 取り寄せって……そんなにいいやつなのかな。でも美味しいし、もしかして高級品とかかな……。

 

「そういや、なんで家に来たんだ? 来てもいいことないと思うんだけど」

「その……お礼を言いに。この前はすぐに帰っちゃったから」

「ははは、律儀なんだな」

「そ、そんな事は……。ただ、あの日のことはよく覚えてないけど、助けてもらったことには本当に感謝してて」

「だからそう言うのよしてくれって。感謝されるためにやったわけでもねえんだしさ」

「どうして霜月く……むぐっ」

 

 突然、話を遮るようにして口の中に何かが突っ込まれた。甘くてふわふわしたものが口の中で溶ける。それは、マシュマロだった。一体どこから出したんだ……。

 

「なあ、入江っていくつ?」

「え、えっと中2……」

「ありゃ、俺の方が下だ。中1なんだ。敬語使う立場が逆だったな。今更だけど敬語は使わなくていいぜ」

「う、うん、わかった。なら、そっちもそのままでいいよ」

「ありがとな。あと、要でいいよ」

「えっと、じゃあ要く……むぐっ」

 

 何故かまたマシュマロを口の中に入れられた。

 

「要」

「……はい」

 

 どうやら、何がなんでも呼び捨てがいいらしい。

 

 それから僕は、要と2人で1時間くらい話し込んでいた。実は女の子だって知った時の衝撃は、しばらくは忘れそうにない。あの時のマシュマロはこれが原因か。

 

「そうだ。これ、他の人からもらったやつなんだけど、得意じゃないからやるよ」

「えっ」

 

 帰り際に、そう言って渡されたのはお徳用サイズの、マシュマロがたっぷり入ったお菓子袋。なんて言うか、ものすごく多い。お土産として持ち帰るにしても多い。

 

「……こんなに食べられないよ」

 

 あ、そうだ。最近仲良くなった彼にもおすそ分けしてあげよう。確かマシュマロが大好きだったはずだから。

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