気まぐれな吹雪   作:音子雀

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17、『読書感想文が終わらない』

「ねえ霜月、ちょっと時間あるかしら」

 

 長かったような短かったような夏休みも終盤、特にすることもなく学校を訪れていた俺だったが、そんな最中にあまりに意外な人物から声をかけられた。

 

「え、まあ暇だし……。ていうかいきなり声かけんな黒川、心臓に悪い」

 

 あろう事か、笹川京子の親友・黒川花である。よく良く考えれば剣道騒ぎといい調理実習といい、何かとこいつに絡まれてる気がする。俺って黒川と仲良くなるようなこと何かしたか? 

 

「で、何か用?」

「大した事じゃないわ。ちょっと読書感想文が終わらないから手伝って欲しいのよ」

 

 ……はい? 

 

「笹川に頼めばいいのでは……? 何がどうして俺なんかに」

「京子、なんだか最近忙しいみたいでさ。ちょっと困ってたんだけどなんか暇そうに校内ほっつき歩いてるあんたを見かけたから声かけたのよ」

 

 なんつー理由。ていうか忙しいのかよ笹川。え、もしかして沢田付近でなんかイベント勃発? でも夏休みは問七と入江正一くらいしかメインイベントなかったはずだし……。まあ家の都合ってこともあり得るか。

 

 とりあえず黒川は原作キャラでありながらストーリー的にほとんど無関係と言っていいほどの脇役だ。ただし未来編でも絡んでくる名脇役だけど。だとしてもこいつと親しくしたところでなにか支障が出るわけでもあるまい。

 

 凪&入江と仲良くなった時点で手遅れだろって? 俺は何も聞こえない。

 

「手伝ってと言われても具体的な俺は何すれば?」

「そうね、書き方とか教えて欲しいんだけど、まずは本を探さなくちゃ」

「そこから!?」

「そこからよ。悪いかしら」

 

 悪いもなにも、もうすぐ夏休み終わるんですけど。

 

「今日中に終わらせればいいのよ」

「うわー、宿題を最終日に溜め込むタイプだこれ」

 

 そんでもって今日1日ずっと拘束されるやつだこれ。まあいいか、暇だし。

 

「だったら中央図書館にでも行くか」

 

 中央図書館とは、並盛町において一番大きい図書館だ。どれくらい大きいかっていうと、図書館戦争のロケ地として一時注目を浴びたあの円形図書館と同じくらいだ。黒川が探し求める本がどんなものかは知らないが、なんにせよあそこが蔵書量トップなんだ。行くしかない。

 

 俺と黒川だなんてまた珍妙な組み合わせだな、となんとなく思いながら2人で学校を出た。そう遠くない距離を歩いてついた先は、似たような思考回路を持ち合わせた奴ばかりなのか、制服を着た人が結構いる。

 

 そして悲しきかな、不幸が積み重なる。

 

「よっ、要じゃねえか!」

「どうしてこうなった……」

 

 頭を抱えたくなるのも無理はない。そこにいたのは紛れもなく武なのだから。

 

「……って、あれ、1人? てっきり沢田とかと一緒にいるもんだと思ってた」

「ああ。実は読書感想文が終わってなくてさ、本を探しに来たんだ」

「お前もかよ!」

 

 なんでどいつもこいつも読書感想文をやってねえんだ! あんなもん一番最初に終わらせるもんだろうが! 

 

「そういえば要はなんの本で書いたんだ?」

「ん? 銀河鉄道の夜」

「すっごいベタね」

「本すら決まってねえ奴に言われたくねえ」

 

 宮沢賢治作品舐めんな。カムパネルラ舐めんな。超名作舐めんな。

 

「で、お前らは何で書きたいとかあんの?」

「ないわ。あったらとっくに書いてるもの」

「俺もー」

 

 ドヤ顔するなバカ共が。

 

「だったらとりあえず図書館1周してこい。なんか見つかんだろ」

 

 そう言って2人を放置し、俺は併設されているカフェに向かった。何を隠そう、この中央図書館の最大の売りは蔵書量でも大きさでもなく、併設されているこのカフェにある。もちろん図書館の本を持ち込むことができるから最高に便利だ。

 

 コーヒーを飲みながら時間を潰していると、30分くらいしてから黒川が、それから10分遅れて武が本を持ってやってきた。……思ってたより時間かからなかったな。

 

 黒川が『西の魔女が死んだ』、武が『夜のピクニック』。意外なような、そうでもないような。

 

 ついでに俺も適当に本を探してきて、それから3人でカフェで本を読んで時間を過ごした。途中で何度か武が話しかけてきたり、黒川が飽きたと騒いだり、不毛な時間もあったのだがあえて割愛させてもらう。本当に不毛だった。

 

「ふぅ、やっと読み終わった。結構感動するわねこれ……」

「けどこっから何書けばいいかいっつも迷うんだよなー」

「あくまでも感想文、思ったこと書いてりゃいいんだよ。黒川なんか感動したって明確に分かってんだし」

「それをどう書けばいいか分からないって言ってるのよ。みんながみんなあんたみたいに天才だと思わないで」

 

 えー、なんか怒られた……。だってただの作文じゃん。俺だって作文は嫌いだし質だってそんないいやつ書けたことねえし。てか書けてたら賞とってるわ。

 

「じゃあさ、要がどんな風に書いたか教えてくれよ」

「別にいいけど……」

 

 俺が書くときには、まずはあらすじを省略すること、最も印象に残ったシーンとその理由を書くこと、etc……を2人に伝えた。あくまでも普段使っている書き方ってだけで、これが正解という訳では無い。

 

「ありがとな要! おかげで先生に怒られずに済みそうだぜ」

「……まあ、別に暇だったし」

 

 頼られたのが嬉しくて思わず引き受けたとか別にそんなことは無いからな。決して。リボーンが絡んでこないと分かりきっていたから心置きなく友達として接することができたとか、そんなこと全く考えてないからな。断じて。

 

「なんか霜月の奴、嬉しそうね」

「だな」

 

 なんか2人が楽しげに会話してるが俺は知らん。それより『男子は軒並みサル』と豪語する黒川が武と普通に会話してるのが意外だ。

 

「なあ要、まだ時間あるか?」

「絶賛暇人に何か用? もしかしてまだ残ってる宿題あんのか」

「いや、手伝ってくれたお礼にさ、うちに寄ってかね? 俺んち寿司屋なんだぜ」

 

 竹寿司バンザイ。

 

「行く。黒川は?」

「私はパス」

「そっか。じゃあ案内するぜ」

「そんじゃ黒川、残りは頑張れよ」

 

 カフェでの会計を全員分済ませ、武に連れられ竹寿司へと向かった。

 

 テンション高い? 気のせいだ。思った以上に普通の中学生してるから嬉しくてテンション上がってるとか、そんなことないから。

 

「なんか要と2人で話すのってあの屋上以来だな」

「屋上……? ああ、お前が突然ぶっちゃけたアレか」

 

 雲雀と不毛なバトルをしたかと思えば直後に武から友達申請されたあの日。だいぶ前の出来事のような感じがするが、実はたったの2ヶ月しか経ってない。

 

「武、あのさ……本当に後悔してねえか……?」

「ん? 何が?」

「俺と友達になったこと。疎まれこそすれ、仲良くしようなんていう奴、この人生において一人もいなかったからさ」

 

 正直なところ、まだ怖い。彩加のいなかったこの世界での人生、俺の理解者はどこにもいなかった。院長はあくまでも院長、いつまでもそばにはいてくれなかった。

 

 近づかれると、失ってしまうのがとても怖い。そしてそれは、凪も、入江も、同じこと。

 

「なんでそんなこと言うんだ」

「…………」

「要?」

「……ごめん、やっぱ何でもない。忘れてくれ」

 

 言えない。言えたら、離れてくれたら楽だったのに、結局俺は離れられるのも怖い。せっかく出来た友達を、どんな形であれ失いたくない。

 

 隣で笑いかけてくれる親友に、『俺は“氷の死神”だから関わらないでくれ』、なんて、言えるはずがない。

 

「要、困ってることがあるならなんでも言ってくれよ? 俺たち、親友だろ」

「……うん、ごめんな」

 

 武は優しい人だと知っているから、助けを求めたら、泣きついたりしたら、きっと迷わずに助け、寄り添ってくれるんだろう。でも、そうありたくない。相手が武じゃないとしても、助けを求めることも泣きつくことも、決して許されない。

 

 俺は、どんなことがあろうとも、自分の身は自分で護ると、“あの日”心に決めたから。

 

「さ、着いたぜ」

「おおー、ここが噂の竹寿司」

 

 気づけば武の家こと竹寿司に到着していた。外までほんのり海鮮の香りが漂ってくる。

 

「親父ー、ただいまー」

「お邪魔します」

 

 のれんをくぐると、その先、つまりは店の中のカウンターで、ちょうど武の父親こと山本剛が包丁を研いでいた。

 

 わーお、この人が滅びの流派・時雨蒼燕流の正当後継者7代目か。全然そんなふうには見えねえよなあ。ただの優しそうなおっちゃんだよ。

 

「いらっしゃい! なんだ、武の友達か?」

「霜月要って言います」

「武が世話んなってんな」

「いえ、こちらこそ……」

 

 少なからずこっちも世話になってる。特に面倒事に巻き込んでくるという意味ではめちゃくちゃ世話になってる。

 

「友達連れてくるなんて初めてじゃねーか」

「はい!? え、沢田は!?」

「ツナ達もまだ来たことないぜ」

 

 ……マジですか。あー、そう言えば2学期の食い逃げ騒動が沢田たちの初エンカだったっけ。あれ、なんで俺はここにいるんだ? 寿司に釣られたからだな。うん、アホか。

 

 そして武父の持ち前テンションでお寿司をご馳走してもらえることになった俺。マグロやらサーモンやらえんがわやらetc……。回転寿司すらロクに行ったことがない俺にとっては正しく至極の時間だ。

 

「はっ! こういうとこの寿司って一貫いくらだ……」

「気にすんな嬢ちゃん、俺のおごりだ」

 

 な、なんですと……!? 

 

「さ、さすかにそれは……。回らない寿司って高いんじゃ……」

「親父がおごりたいみたいだし、気にすんなって」

「ええ……」

 

 一生に一度味わえるかどうかの事態だ。ありえない。高級な寿司をただで食ってるなんてありえない……。

 

 あ、よく良く考えれば『Bliss:』のチーズケーキをただ同然で食ってたわ。いや、でも、うん、金額差がデカすぎるよ……。本当に払わなくていいのか……? 不安しか残らないぞ。

 

「えっと……ありがとうございます」

 

 そうしてイクラ軍艦を口に放り込むのだった。

 

 帰る時に、あまり高くないネタをいくつか持ち帰り用に購入した。さすがにこっちはちゃんとお金を払った。何のために買ったのかと聞かれると、銀への土産用。俺だけ寿司食ったって知ったら、どうせ駄々をこねるんだろうし。

 

 竹寿司を出た頃には、既に日は暮れていた。一体何時間居座ってたんだって思ったけど、結構喋ってたし、そう悪い時間でもなかった。

 

 こうして、長くも短い1日が幕を閉じた。

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