気まぐれな吹雪   作:音子雀

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18、『おっ、ここが応接室か』

 それは、長かった夏休みも明けて2学期に入ってまもなくの事だった。

 

「ねえ、君」

 

 応接室にて夏休み明けにおいての書類の仕分けをしていると、唐突に雲雀から声をかけられた。一体なんのこっちゃと思い振り返る。

 

「今日から君のことを要って呼ぶから、君もいい加減僕のことを名前で呼びなよ」

 

 刹那、持っていた書類の束がすべて床に落ちた。

 

「ぎゃーっ!」

「うるさいよ」

 

 慌てて書類を拾い集めるのだが、何がなんだかわからない。えーっと……え? 

 

 雲雀が? 俺のことを? 名前で呼ぶから? 自分のことも? 名前で呼べ? 

 

「はいー!?」

「うるさいよ」

 

 いやちょって待って! 何があったんですか!? 夏休みが明けた途端に何が起きたんですか!? 

 

「それじゃあ僕はこれから委員長会議があるから後はよろしくね。行くよ、草壁」

 

 イマイチ理解の追いつかない俺を置き去りにして、雲雀と草壁さんは応接室から去っていった。

 

 ……え、マジでどうなってんの? あー、チーズケーキ食べたい。そんなことを思いながらもボケーっと書類をボックスに仕分けるのであった。

 

 

 

 

 †‡†‡†‡†‡†‡

 

 

 

 

「あ゙ー、チーズケーキ食べたい」

 

 委員長会議が終わった彼を出迎えた俺の第一声はそれだった。

 

「うるさいよ」

「委員長さんおかえりー。チーズケーキ食べたい」

「……。冷蔵庫の上から2ば」

 

 ガコッ

 

「お~、あったあった。準備いいな」

「早いよ」

「気のせい」

 

 モソモソモソモソモソモソモソモソモソモソモソモソ ※チーズケーキを食べる音

 

 うっはー、チーズケーキまじうめぇっ! 『Bliss:』は当然のことながらも『ラ・ナミモリーヌ』のチーズケーキもめっちゃうめぇっ! てかなんで用意してあんだよまあいっかうめぇっ! 

 

「それ食べ終わったら仕事しなよ。さっきの会議でまた書類が出たから」

「はーい」

 

 “食べ終わったら”ねー。残念ながらホールでじっくり味わう予定なんでしばらくは働く気ありませんよー。この至福の時間は誰にも邪魔させないぜ。

 

「それと、今日をもって応接室が風紀委員の活動場所になったから留意してね」

「あいよー」

 

 なんか言われた気がするけどテキトーに返事をしてひたすらチーズケーキを頬張る。モソモソモソモソモソモソモソモソモソモソ

 

 ガチャッ

 

 ……えー、なんでこんな時に限って来客かなー。いや待て……草壁さんないし風紀委員の人間が来ただけかもしれない。なにせ今は2人っきり。まだ平和。

 

「おっ、ここが応接室か」

 

 って、武ぃっ!? なんでお前がここに……って、まさか今日ってアレの日じゃ……。え、MA・JI・DE? あ、そう言えば今さっき、今日からここが風紀委員の場所だって……。わぁお。

 

 慌てて部屋の隅っこに移動して、ついでにブレスレットの効果で気配は完全に消し去ることにした。よし、食事再開。

 

 

 

 

 †‡†‡†‡†‡†‡

 

 

 

 

 ドカッと鈍い音を立てて、沢田が雲雀……じゃなくて、恭によって叩き飛ばされた。あ、恭って呼ぶことにしたよ。恭弥だと在り来りでつまらんしな。

 

「ツナ! くっ、水天逆巻け 捩花!」

 

 いやさ、悪いことは言わないしやめとけば? お前がそれなりに強いってことはまあ知ってるけど、だからと言って恭より強いなんてことにはならないぞ。

 

「なにそれ。武器の持ち込みは原則禁止だよ。生徒会長が秩序を乱していいのかい?」

「何をいまさら、あなたが言えるセリフだとは思えませんが。それに今は生徒会長だなんて関係ありませんよ。あなたはツナ達を、私の友達を傷つけたのです。秩序を乱そうとも私は仲間を守ります。それが道理というものなのです」

 

 お、おう……意外と気迫に押されちまったぞ。どういう感情でそれ言ってんのか知らんがさ、意外と怒ってる? え、お前トリップ者だよな? 展開知ってたよな? なぜに怒ってる? 

 

 ていうか恭よ、お前はなんだかんだで目の前の人物が生徒会長って認識はちゃんと持ってたんだな。それが一番意外だよ。

 

「ワォ、勢いだけは認めてあげるよ」

 

 振り下ろされたトンファーは的確に槍の軸を突き、悲しいかな、捩花は無残にも折れてしまった。

 

 はっはっは、無様なもんだな長谷川よ。綺麗に斬魄刀を折ってもらえてよかったな、未練も残らんだろ。お前にはもう戦う手立てはない、諦めたまえよ。

 

 て、待て待て。斬魄刀ってそんな簡単に折れちゃっていいわけ? BLEACH的には本当によっぽどの事がない限りは、少なくともトンファーごときでは折れないはず。やっぱりオリジナルじゃないから強度は格段に下がってたりすんのかな。

 

「そこまでだ」

 

 恭の目の前を何かが飛び抜ける。思わず目で追った先には、1粒のコーヒー豆が落ちていた。

 

 あー、この声はリボーンですなあ。窓際に座るあいつの手には、原作通りに手榴弾が……。ん、手榴弾? そう言えばこの部屋ってめちゃくちゃになるんじゃなかったっけか? 

 

 ……ヤバくね!? 

 

「吹き抜けろ 霜天氷龍!!」

 

 ピキイィィッ

 

 溢れ出た冷気が瞬時に手榴弾を凍てつかせ、爆発を阻止することに成功した。だがそれと同時に俺の気配を消していたブレスレットの効果が消滅してしまった。

 

「「「「………………」」」」

 

 痛い。周りからの視線がかなり痛い。やめて、注目されるの得意じゃないんだよ勘弁して。

 

「霜月要、いつからいた」

「最初っから」

「嘘をつくな。気配はなかったぞ」

「いやいや、本当にいたよ。な、恭?」

 

 やけくそになって恭に話を振った。意味もなく肯定を期待する。なにへこの状況下でお前が嘘をつくことに利害は一切無いはずだからな。

 

「確かに、要はずっといたね。仕事サボって」

 

 やったぜ愛してる。一言多いけどな! 

 

 まあ、初めからいたらどうなのかって話だけど、いないことになってたとしたらこの瞬間のために登場したお助けキャラになりかねないじゃん。俺はそんなキャラじゃない。

 

 っていうか、さっきからずっとずーっと長谷川の視線がチクチクと刺さってきて痛いんだけど。

 

「霜月さん、よろしければこのあとお話でも」

「お断りだ! ボンゴレに関わるのはお断りだ! 恭、悪いが俺は帰る。仕事は悪いが明日にするか他の奴に頼んでくれ。んじゃ!」

 

 誰かに何かを言われる前に窓から外に出てベランダから飛び降りた。ちょっとここ3階……なんてツッコミはいらないからな。もちろんのこと俺にはそんな身体能力はない。ブレスレットをいじってうまくダメージを最小限に抑えた。

 

「しからばさらば!」

 

 ついでに脚力の底上げをして、出せる限りの全力疾走にて学校を背に走り去った。

 

 ここまで来たら傍観がどうとか悠長に構えてる場合じゃねえ!! ちっくしょおお!! 

 

 

 

 

 †‡†‡†‡†‡†‡

 

 

 

 

 一方で。

 

「ねえ、君たち。いつまでここにいるつもり? 早く出ていかないと」

「すっすみません!」

 

 咬み殺されるのを察知したツナは、言い切るよりも先に慌てて応接室を飛び出した。全員が満身創痍だと言うのに再度咬み殺されるなんてまっぴらごめんである。色々と不完全燃焼なやちるが不機嫌なのは言うまでもなく。

 

「ていうか待って。霜月さんと雲雀さん、名前で呼び合ってなかった?」

「「「「あ…………」」」」

 

 そして応接室内では……。

 

「草壁、誰でもいいから風紀委員の人間よこして。仕事が残ってる」

 

 何事もなかったかのように、残された仕事に取り掛かる雲雀の姿があるだけだった。

 

 

 

 

 †‡†‡†‡†‡†‡

 

 

 

 

 家に帰って来た俺は、なんとなく自分の短刀を眺めていた。目の前にあるのは神によって造られた刀だ。長谷川が使っているのは神によって持ち込まれた刀だ。たとえオリジナルでないとはいえ、神が持ち込んだ斬魄刀があんな簡単に折れていいもんなのか? だとしたら、俺の刀はこの世界において通用するのか? 

 

「何を悩んでんだ?」

「うわびっくりした。突然現れんなアホ神」

「酷い」

 

 酷くない。

 

「なあ銀、聞きたいことがあるんだけど」

「ん?」

「俺の刀と長谷川の刀の違いって何なんだ?」

「え、うーん……。要の刀は俺が造った普通の刀で、やちるの刀は漣志が用意した斬魄刀のレプリカってとこかな。なんで?」

「実はさ」

 

 今日の応接室で起きた出来事、しいては長谷川と恭の戦いのことを話した。トンファーの一撃で折れてしまった斬魄刀のことを。

 

「あーなるほど。そのことについては、まあ何だ、気にするな」

「気にするわ!」

 

 なんなんだよ、その“つまんねーこと気にしやがって”とでも言いたげな顔は。

 

「そりゃ当然だろ。捩花は元々志波海燕のもので、つまりは別世界の遺物だ。それを無理に持ってくるっていうのは劣化させる行為であって、レプリカならなおさらだ。別世界、別次元からものを持ってくるってのはそれなりにリスクがあるんだよ」

「あ、だから前世のものを持ってくんのは原則禁止って言ってたのか」

「そういうこと。でもお前のチョーカーや刀は大神様の許可ありきで特別な加工をしてあるから時空による劣化はすることがない」

 

 へえ、そういう事情とかあったんだ。つまるところは、長谷川ザマァってことか。うん、なんか安心した。

 

「やっぱりお前、性格悪いわ」

「そんなことない」

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