気まぐれな吹雪   作:音子雀

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22、『俺の誕生日』

 11月2日。1年365日という流れの中で、ごく普通の時間が流れていくこの日、しかし忘れてはいけないとても特別な日でもある。

 

 12年前の今日、初霜が下りたこの日、一人の女の子が誕生した。

 

「というわけで、今から会場設営を始めます」

 

 場所は霜月家。風紀委員のために要は出かけていて誰もいないはずの家の中に三つの人影があった。

 

「本当に喜んでもらえるかな?」

 

 眼鏡をかけた赤髪の少年が心配そうに呟く。手には飾り付け用の紙の輪が握られている。

 

「うん。きっと大丈夫」

 

 それに答えるのは、藍色がかった黒髪が印象的な少女。その手にはやはり同じものが握られている。

 

「絶対に大丈夫だから任せとけ!」

 

 自信満々に笑顔を見せるのは、ただひたすらに白い青年。こちらもやはり同じように紙の輪を手にしている。

 

 少年の名前は入江正一、少女は三千院凪そして青年は銀という。先程も告げたとおりに、今は要の留守中なのだが、この三人は当たり前のように家に滞在していた。銀がいる、というだけで察せてしまうのかもしれないけど。

 

「要に怒られないかな」

「……たぶん、大丈夫」

 

 その点については自信がないらしい。とはいえ怒ったとしてもとばっちりを食らうのは銀だけと決まっているので問題はない。

 

「部屋がシンプルだから飾りもシンプルに。その分、料理はパーッといこうぜ」

 

 これは、要の誕生日パーティー。要の、8年ぶりの、誕生日パーティー。銀はそれをよく知っていた。銀だからこそ、よく知っていた。ようやく要に“友達”と呼べる存在ができたのだ、それならば開くべきだろう。

 

 今日、凪と正一をこの家に呼び寄せてまでパーティーを開こうとたくらんだのは、何を隠そう、銀なのだから。

 

「だから、絶対に大丈夫」

 

 それは自信であり、願いだった。

 

 

 

 

 †‡†‡†‡†‡†‡

 

 

 

 

 場所は変わり、街中。当の本人である霜月要は、学ラン姿で一人歩いていた。何をしているのかと聞かれれば、もちろん風紀委員の仕事である。日曜日だというのに朝早くから雲雀に呼び出され、朝食もままならぬというのにこうして見回りへと放り出されてしまったのだ。しかも範囲は並盛全域に加えて隣町である黒曜まで。しかも完全徒歩。ようやく人並みになったとはいえやはり体力の少ない要にとってはかなりの労働である。

 

「それにしても、もう11月か……。並中に入学してからとっくに半分以上経ってたんだな」

 

 冬が近づき晴れ渡る空を見上げる。今日もよく澄み切っている。

 

 ふと思う。たった半年なのにどうしてこんなにも原作に巻き込まれているんだ、と。いくらなんでもおかしすぎないか。

 

 山本武と仲良くなったのはまだいいとして、三千院凪や入江正一と仲良くなったのは自分が原因として。リボーンに目をつけられたり長谷川やちるに地味に狙われているのが腑に落ちない。腑に落ちないを通り越してイライラする。やちるに至っては何故か視界にも入れたくない。

 

 思考スパイラルに陥りそうになったその時、携帯から着信音が流れた。

 

「はいよ、どうしましたか委員長殿」

『君ふざけてるの?』

「いんや別に」

 

 電話の主は、要を放り出した張本人、雲雀恭弥だ。

 

『今どこにいる?』

「並盛と黒曜のちょうど境あたりですけど」

『ふうん。じゃあ見回りはそれくらいにしていいから、すぐに学校まで戻って。君がいない間に書類が溜まったから』

「はあ、他の人にやらせればいいのでは」

『何言ってるの。君、“風紀委員長補佐”でしょ。1分以内ね』

 

 言うが早いが、反論の余地も与えられずに通話は強制終了となった。後に残るのはツーツーという無機質な音と、

 

「……え、1分以内?」

 

 衝撃の事実のみ。確かに居場所は伝えたはずだ。並盛と黒曜の境近辺であると伝えたはずだ。ここから学校まで、一体何kmある? 車やバイクを所持していたとして、一体何分かかる? 

 

 ふいに視線が寄せられるのは、左手首につけられたブレスレット。

 

 考えている時間など、ない。

 

 

 

 

 †‡†‡†‡†‡†‡

 

 

 

 

「2分4秒。へえ、なかなか早いじゃないか」

 

 愉しそうに笑う雲雀への返事はない。それは彼も理解している。もちろんわざと声をかけているのだ。声の出せる状況ではないものに対して声をかけるのは、雲雀がただそういう人物であるというだけのことだ。

 

 足元には荒い呼吸以外の機能を失った要が転がっている。皮肉を言ってのける彼に皮肉を言って返してやりたいのはやまやまなのだが、それどころか視線をくれてやることすらもできない。ブレスレットによる力の反動は、今回ばかりは無理をしすぎた、を通り越した稼働(過動)だったようで、非常に非情である。

 

「動けるようになったら応接室に来てよね。今日は草壁もいないから」

 

 ぼそりと呪詛のようなものが呟かれたが、残念なことに彼の耳には届いていない。

 

 結局のところ要がまともに動けるようになって応接室へとたどり着いたのはその10分後のことだった。中では雲雀と別の1年生が一人いるだけだ。その1年生も、要の入室を確認するや否や、そそくさと帰ってしまったのだが。

 

「君に任せる分の書類はそっちのテーブルに置いてあるから」

「……俺に、“任せる分”?」

 

 雲雀が示したのは、よくお茶時間に利用している応接用の机。そして、その上には、大量のしょる大量の書類が積まれていた。

 

「待って」

「文句ある?」

「文句しかない! え、俺の仕事って仕分けじゃなかった!? いつから書類確認になった!?」

「今日から」

「今日から!?」

 

 理不尽極まりないとはこの状況を言うのだろうか。

 

「この半年間、僕がやっていたのを見てなかったわけじゃないでしょ。補佐になったからには草壁の不在中は穴埋めをしてもらうからね」

「好きでなったんじゃないのに……」

 

 そもそも“風紀委員長補佐”なんて役職は、脅迫に脅迫を重ねた上での強制で務め()()()()()ものだ。だというのに、どうしてこうなった。

 

 要の脳裏に浮かんだのは、今はここにいない草壁の姿。果たして彼は何年という時をこの鬼委員長と共にしてきたのだろうか。よくぞ今に至るまで、さらには10年後に至っても付き従っているものだ、と素直に感心してしまう。自分ではきっと、あと1年か2年で潰れて逃げ出してしまうだろうと確信まであるというのに。

 

「大体20:00くらいまでには終わる量だから」

「待って」

「文句ある?」

「文句しかない! え、今ってお昼前ですよね!? 20:00までってどゆこと!?」

「追加あるよ」

「追加あんの!?」

 

 誰か俺に日曜日を返してください。思わず心の中で涙を流した要であった。

 

 今までのホワイト企業よろしくな労働体制はどこへやら、階級差による仕事量まで実感してしまう。草壁さん、早く帰ってきて、と祈らざるをを得なかった。

 

 かくして人生初となる書類確認の仕事が始まるわけなのだが、開始からわずか1時間という早さで最初の関門が訪れた。その名も、空腹。

 

「早起き……少ない朝食……見回り……全力疾走……ヴッ」

「お腹すいてるなら素直にそう言いなよ。冷蔵庫におにぎりが入ってるはずだから、食べていいよ」

 

 エネルギー補充。

 

 気を取り直して作業再開。書類の確認はとにかく読まなくてはいけないものだからどうしようもなく時間がかかるのだ。

 

「ところで恭、気になることがあるんだが」

「何?」

「学内イベントの安全面だとか校内の風紀だとかの書類があるのはわかる。なんで()()()のイベントの安全面だとか()()の風紀だとかの書類があるんだ!?」

 

 沈黙。

 

「何故黙る!?」

 

 無言。

 

「何故返答がない!?」

「喋ってないで手を動かしなよ」

「何故話を逸らす!?」

 

 しかしこれ以降、何度呼びかけようと彼が口を開くことはなかった。謎は深まるばかりである。

 

 時間が過ぎること数時間。気づけば窓の外は暗く、長時間紙とにらめっこしていた要はすでに疲労困憊になっていた。やがて時計は20時を示し──。

 

「終わったあああ!!」

 

 同時に、要はノルマとして与えられた仕事をすべて終わらせた。疲れと嬉しさとetcで視界が霞んでいるが知ったことではない。やっと帰れる、それだけで充分だ。

 

 帰ったら何を食べようか。何を作ろうか。銀は何を食べたがるだろうか。漣志への土産はいるのだろうか。そんなことを考えながら応接室を出ようとドアノブに手をかける。だが、すぐには叶わなかった。

 

「ちょっと待ちなよ」

 

 まさかの呼び止め。一体これ以上何をさせようというのか。不満にまみれた表情のまま首を後ろに回す。

 

「帰る前に駐輪場に寄って。草壁が待ってるから」

「草壁さんが? なんで」

「行けばわかるよ」

 

 草壁といえば、今日は不在だったはずだ。その穴埋めのために要が呼ばれたのだから。だというのに駐輪場で待っているというのはどういうことなのだろうか。不思議に思いつつも、草壁を待たせるわけにもいかないと思い、仕方なしに行くことにした。

 

 結論として、いた。暗い中で、駐輪場の弱い電灯の下で、一人立っていた。日曜の夜は閑静で、けれど彼はそこにいた。

 

「霜月さん、お疲れ様です」

「お疲れ様です。恭に言われて来たんですけど……っていうか、今日は不在だったんじゃ」

「ええ、実は委員長に遣いを頼まれていまして」

「遣い?」

 

 ふと、そんな彼の隣にあるものに目が行った。暗さに目が慣れてきたからだろうか、誰もいない学校の、何もないはずの駐輪場、そんな場所にあるそれがようやく目に入った。ずっと気づけなかったのは、黒い布で覆われていたからだ。

 

「ところで霜月さん、今日は誕生日だそうですね」

「んえ? ああ、そういえば今日か。……よく知ってますね」

「入学した際に委員長の命令で調べましたから」

「……そういえばそんなこともあったな」

 

 すっかり忘れていたのはご愛嬌。

 

「ていうか、俺の誕生日と草壁さんの遣いに何の関係が?」

「ええ、実は委員長の頼まれてこれの手配に行ってきたんです」

 

 草壁が布に手をかける。まるで、びっくり箱をそうとは知らずに開けるときのような緊張感が漂う。

 

「これが、委員長からあなたへの、贈り物です」

 

 隠されていたものが露になる。そこにあるのは、二輪自動車だった。原動付自転車ではない。バイクと称される中型二輪自動車だ。贈り物だと告げられたそれは、どこからどう見てもバイクだった。

 

 当然のことながら、要は活動停止してしまっていた。霜月要という人間は間違いなく中学生である。決して、実年齢は成人だが見た目が子供、というオチではない。

 

「えーっと、待って。どゆこと?」

「並盛町の巡回は大変であることは重々承知しています。委員長からの急な呼び出しもあるでしょう。ですから少しでも楽になるようにと、委員長が」

「なんか色々とおかしくね!? なんでバイク!? なんで贈り物!? あいつの脳内大丈夫!?」

「我々風紀委員の方で免許については解決済みです。それに『乗ったことがあるから大丈夫だろう』と仰っていましたし」

「後ろに乗せられただけな!? 運転はしたことない!」

 

 しかもそれはモレッティ騒動の際に強制的に乗せられただけである。どう考えようとも“乗ったことがあるから大丈夫”で運転できる範囲には至らない。大丈夫とはなんだったのか。

 

 と、ここでふと気づく。草壁は今、なんと言っただろうか? 免許については解決済みです? しかも風紀委員の方で? もはや意味が分からない。次元が違いすぎる。この世界においては風紀委員が秩序を通り越して法律なのでは……。

 

「霜月さん!?」

 

 かくしてキャパオーバーに陥ってしまった要は眩暈を起こしてしまったのである。とっさに支えてくれた草壁のおかげで事なきを得たのだが。

 

「すんません……大丈夫です」

 

 要の中を一抹の不安がよぎる。彼女の中で“雲雀恭弥”という人物像がぼやけてきているのだ。少なくとも原作ではここまで他人に干渉するようなキャラではなかったはず。

 

「まだふらつくようでしたら、少しお休みになって……」

「いや、大丈夫です、ほんとに。家も近いですし、その方が早い……。それで、このバイクなんすけど、ここに置きっぱでもいいですかね? 家に置くとこないんで……」

「ええ、構いませんよ」

 

 ありがとうございます。そう告げて要はようやく帰路に着くことができた。

 

 残された草壁は、外灯の照らす道を歩くその姿が見えなくなるまで校門前に佇むと、駐輪場に置かれたままのバイクに布をかけ直し、静かに応接室へと足を向けた。

 

「どうだった?」

 

 ドアを開けるのと同時にかけられた声に一瞬戸惑う。そこにいるのは黙々と本を読んでいる上司だけだ。思わず零れてしまったのは苦笑いだった。

 

「なんといいますか、いつも通りです。しかし」

「……何?」

 

 流れるように口をついて出てしまった逆接の言葉に彼の視線が上がった。

 

「やはりというか今日のような激務は避けるべきではないかと。体調が優れないようでした。今まで通りの仕事に戻してあげては?」

「何言ってるの。これくらいのこと立場的に当然のことだし、何より人手が欲しいといったのは草壁だろ」

「確かにそうですが、彼女は我々と違って女生徒です。お言葉ですが、その異例を作ったのは委員長かと」

 

 本を読む手が止まった。草壁は、否、並盛に住まうものはみな雲雀恭弥に意見することはない。なぜならば並盛において彼が絶対であり気に入らないと判断されれば咬み殺されてしまうからだ(実のところは群れているのが原因であるのだが、やられる側からしてみれば何も変わらないのである)。それを一番理解しているであろう草壁から反論が出たのは珍しいことだった。

 

 どんな気持ちで、なんて問うまでもない。雲雀に対する反抗心などではなく、純粋に霜月要という人物を労おうとしていることは表情を見れば誰でも気づくことができる。

 

「ふふ、まさかここまでとはね」

 

 取ってつけただけの強さでは本来の弱さを隠しきることはできない。それが霜月要という存在でありそこに魅力を感じて惹かれたことを雲雀は自覚している。方向性は違えども、どうやら草壁もそうらしい。

 

「後でちゃんと考える必要がありそうだな」

 

 

 

 

 †‡†‡†‡†‡†‡

 

 

 

 

「へっくし」

 

 不意にくしゃみが出た。風邪を疑う要に、別所で話題にされていることなど知る由もない。外灯が照らす夜道を歩く者は誰もおらず、閑静な住宅街では小さなくしゃみもやけに響いてしまう。

 

 学校を出てから数分、要はすでに家の前へと着いてしまっていた。真っ暗な自宅とは対照的にこうこうと灯りのついた隣家からはいつもと変わらずに賑やかな声が聞こえてくる。

 

 羨ましいと思ったことがないといえば嘘になる。嘘にはなるが、だからといって心から望んでいるわけでもない。自ら選んだ生き方に反省はあれど後悔はしていない。開いたポストに入っていた小包はそんな思いを揺らがせるのだが。

 

「ただいま」

 

 玄関を入るなり口からこぼれた言葉は体に染みついた癖だ。一人と分かっていても治りそうにない。

 

 そして、玄関の電気をつけようと手を伸ばしたその時、事件は起きた。

 

 パアンッ!! 

 

「「「誕生日おめでとう!!」」」

 

 手がスイッチに触れるよりも先についてしまった明りに不意を食らい思わず目をつむったところに、続けざまに襲う破裂音と理解しがたい声。光に目が慣れるまで数秒、ようやく視界の回復した要の目に映ったのは信じられない光景だった。

 

 飾り付けられた室内、食欲をそそる匂い、そしてなにより、紙吹雪の舞うクラッカーを手に立つ大事な人たちの姿。状況が呑み込めないままに思考だけは必死に働く。

 

「まさか……帰ってくるの待ってた?」

「うん!」

「もちろんだよ」

 

 誕生日おめでとう、だなんて、二度と聞くことはないと思っていた言葉だった。問わなくてもわかる、推察しなくてもわかる。彼らは、誕生日を祝うためにここにいるのだ。この言葉を言うためにいつ帰ってくるかもわからない遅い自分のことを待っていてくれてたのだ。

 

「ところで不在中の在宅に関する主犯は」

「「銀さん」」

「だと思った」

 

 予想通りの展開に思わず身構えた銀だったが、待てど暮らせどいつもの顔面グーパンや脇腹回し蹴りが飛んでこない。

 

「別に、今日くらい……」

 

 目が丸くなった。まさかあの要がデレる日がまた来るだなんて。予想外中の予想外に驚きはしたが、つまりは喜んでもらえたということに変わりはない。きっと銀一人で催していたのなら確実にこうはうまくいかなかっただろうが。要が素直になれ始めたのは大きな一歩で、その一歩はきっと、この世界でつかみ取った一歩。銀はそれが嬉しかった。

 

 あの少女以外に要の心を開いてくれた、彼らの存在が。

 

「そんじゃ、パーッとはしゃぐか!」

「夜なんだから少しは自重しろよ」

「わかってるって」

 

 願わくば、この幸せが永遠に続きますように。

 

 

 

 

 †‡†‡†‡†‡†‡

 

 

 

 

 目が覚めた時、リビングのソファで横になっていた。テーブルの上には夕べの残骸が未だに残されている。散々だべりまくった後に、門限が厳しいはずなのに滞在していた凪と、同じく黒曜住みだという正一を見送ったのは覚えていた。

 

 時計の針は4時を指しており、外の明るさから午前中だとわかる。どうやら学校に遅刻という間抜けはせずに済んだようだ。せめて片づけてから出かけようとソファから降りると、水の音が耳に届いた。見れば、キッチンに銀の姿があった。

 

「よ、起きた?」

「……何してんの?」

「片付けだよ。俺もさっき起きて、要が起きる前に終わらせようかと思ったんだけど」

「ふうん……」

 

 まだ眠そうな生返事ではあったがテーブルの上の残り物をキッチンへと運び出した要に、銀は少し笑った。表情にいつもの鋭さがないのは間違いなく寝ぼけているからだ。本人は自覚していないが、彼女は朝が弱い。もしかしたら、この状態で会話をすれば、ツナや、ともすればやちるとも普通の対応になるんじゃないかと考え始めるぎんであった。

 

「凪と入江はちゃんと帰ったかな……」

「大丈夫だよ。二人ともちゃんと俺が送り届けてきたから。それよりお前、正一って呼ぶよう言われてなかった毛か」

「そだっけ……」

 

 事実である。昨晩のパーティ中、一人だけ苗字で呼ばれている正一が不満を漏らし始め、慣れないながらに呼び方を改めたはずだった。元々、それぞれの呼び方にこだわりがあったわけではない。単純に漫画を読んでいた時に呼んでいた方法をそのまま使っていたにすぎないのだ。だから改めることに違和感はないし、親友という立場上、それも当然と考えたのだった。

 

「よかったな、要」

「うん?」

 

 小さな声に軽く反応する。

 

「祝ってくれる奴ができて、本当に良かった」

「……そうだな……うん、そうだね」

 

 13年目の朝は、とても暖かい。

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