気まぐれな吹雪   作:音子雀

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79、風紀委員再来!?(違います)

任務から帰ってきた2人は疲れ果てていた。

 

今回の暗殺対象は何も知らない一般人に匿ってもらっており、彼らに気づかれないように殺らなければならなかったのだ。

 

彩加の後方支援がなかったら、間違いなくフィリミオは失敗していたといっても過言ではないくらい、彼女たちは危なっかしいことをしてきてしまったのだが、まあ割愛しよう。

 

結果として何事もなく任務遂行できたのだから。

 

アジトに帰ってきたフィリミオを待っていたのは、スクアーロからの呼び出しだった。

 

そんなことよりもお腹がすいた、なんて考えている彼女の思考をよそに、スクアーロが連れてきたのは小部屋だった。

 

ドアが開いたとき、この時ほど逃げ出したいと思ったことはそうそうないだろう。

 

彼女の目の前にあったのは、机の上に山積みされた書類(エベレスト)だったのだ。

 

こんなものを見るのはいつ振りだろうか。

 

いや、そもそもこんなものは並盛にいるとき以外に見てしまってもいいのだろうか。

 

「高城の奴がてめぇは書類仕事が得意だと言っていたからなぁ。動きがあるまでこれはてめぇの仕事だぁ」

 

フィリミオの脳裏に星をぶちかましながらウィンクする彩加の姿が浮かんできたのはきっと思い違いではないだろう。

 

「あんにゃろ、あとで絞めるッ」

 

こんにちは、書類の山。

 

さようなら、私の休息。

 

のちにスクアーロは、この時の彼女はいつになく死んだ目をしていたと語った。

 

呆然とするフィリミオを残して、小部屋のドアは無情にも鍵も含めて閉められてしまった。

 

数か月ぶりの風紀委員モードに入った彼女がそのすべての書類を次の日の明け方にはXANXUSに提出してしまった事は、ヴァリアー内での都市伝説にもなったとかなってないとか。

 

その光景が日常になりだした数日後、フィリミオは完全にだれていた。

 

毎日毎日書類整理ばかりを任されて暗殺任務が一つも回ってこない日もある。

 

紙の相手ばかりをしすぎて流石に嫌気がさした、と言うのもあるのだが、フィリミオ的には何か物足りなさを感じていた。

 

どれだけ頑張っても増える書類。

 

それ自体は風紀委員であれだけ経験したはずなのに、あの時とは違ってなぜか集中が続かないのだ。

 

これ如何に。

 

「――――チーズケーキ」

 

ようやく気付いた。

 

あの時は毎日のように雲雀が用意してくれていたご褒美が何一つここでは出てこないのだ。

 

ルッスーリアの手料理を楽しみに、と言ってしまえば頑張れるかもしれないが、それではいくらなんでも物足りなさすぎる。

 

やっぱり自分にはチーズケーキが必要なのだ。

 

「あ、もしもし、彩加?」

 

そう思い立った瞬間に、彼女は親友へと電話をかけていた。

 

『フィリミオ? どうしたの?』

 

「――――今すぐチーズケーキをよこせ」

 

『……え?』

 

「何でもいいから今すぐにチーズケーキをよこせぇッ!!」

 

あまりの渇望に要に戻ってしまっているが、それどころではない。

 

キャラが壊れることよりもチーズケーキを食べることのほうがよっぽど重要なのだ。

 

『わ、わかったから! わかったから落ち着いて!?』

 

並盛で暮らしていた時のことを思い出したのだろう。

 

電話の向こうで彩加はフィリミオの現状がありありと思い浮かんでしまっていた。

 

すぐにルッスーリアが作ってくれるという一報を最後に、電話は切られた。

 

しばらくして焼きたてのチーズケーキを部屋に運び入れたルッスーリアは思った。

 

「これは、スクアーロに対して怒った時よりも、やばいわ」

 

そして思う、XANXUS並にやばい、と。

 

実際の恐怖感としては天と地ほども差があるのだが、そうではないのだ。

 

居心地が悪いというか、とにかく寒い。

 

自分よりもずっと年下であるにも関わらず若干ビビりながらチーズケーキを差し出すと――フィリミオの表情が一瞬にして変わった。

 

天使――そう、天使だ。

 

見るものを萎縮させる恐ろしい形相が一転、こんな天使がいてたまるかというほどに愛らしくチーズケーキを食し始めた。

 

「彩加ちゃん……この子、なんなの」

 

「うーんとね、チーズケーキ中毒……かな?」

 

「異常過ぎない?」

 

「異常過ぎるね」

 

小動物でも見るかのような和やかさがあるというのに、素直に和めない2人であった。

 

「けど、さすがに毎日は作れないわねぇ。材料の事もあるし」

 

「買えばいいんじゃないかな」

 

「お金は誰が出すのよ」

 

「――――スクアーロ」

 

「真顔で言っちゃダメよ」

 

真顔どころかその裏には真っ黒い笑みを浮かべている彩加なのである。

 

それに気づいてはいたが、ルッスーリアもあえて口には出さなかった。

 

「ぷはっ。ごちそうさま」

 

「「もう食べ終わったの!?」」

 

焼きたてホヤホヤのホールを、ものの10分で完食。

 

ほくほく顔になったフィリミオは完全に呆け顔になっている彩加とルッスーリアにもお構いなしにすぐさま書類整理に戻った。

 

心なしか、その速度は先程よりも5倍ほど速いように見える。

 

いや、実際に速いのだが、脳内での情報処理を拒否してしまった2人だった。

 

「ん、2人ともチーズケーキありがとね。とりあえずそこの書類スクアーロに渡しといて」

 

「う、うん」

 

別の机に積み上げられた処理済みの書類を抱えて、彩加とルッスーリアは上機嫌な彼女をしり目に部屋を後にするのだった。

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