「骸さん出かけるんれすか?」
その意変に最初に気付いたのは、朝食を胃の中に詰め込んでいる最中の犬であった。
いつもはどんなことにも動じず落ち着いているはずの骸が、どことなく周りを警戒し続けている。
平静を装ってはいるが、長年一緒に居続けた犬にはその異変を見抜くのはとても簡単なことだった。
だから出かけようとする彼のことをあえて呼び止めてみたのだ。
「ええ、少しね。……犬」
案の定何も言わないだろうと思って中に戻ろうとした骸の声は、やはり落ち着きのないものだった。
「クロームとユニのこと、頼みましたよ」
「骸さん!?」
もう一度呼び止めようとした声は虚しく、閉ざされた扉によって遮られてしまった。
呆然と立ち尽くす犬。
そしてもう一人、その後ろで立ち尽くす人物がいた。
悲しげな色を瞳に湛えたユニだ。
彼女が見てしまったのは、骸が残した言葉の真意、もうすぐこの家を訪れる悲劇だった。
それは逃れることのできない、
現実にならなければいいのに、そう強く願う。
ピンポーン
主要人物のいない霜月家に乾いた音が鳴り響く。
誰も知らない。それが要の知り合いでないということを。
誰も知らない。その人物が今からしようとしていることを。
そう、未来を予知した少女を除いて誰も知ることはできなかった。
そして、何も知らない犬は、静かに、その地獄への扉を、確実に開けてしまった。
†‡†‡†‡†‡†‡
家を出た骸が向かったのは、懐かしき場所、黒曜センターだった。
霜月家からはだいぶ距離の離れた、元アジト。
彼は朝からずっと、人の気配を感じていた。
味方ではない、かといって敵という感じもしない気持ちの悪い気配。
それはここに来た今でも続いている。
いや違う。
“彼”をあの家から引き離すためにここまで誘導してきたのだ。
「いい加減出てきたらどうですか、沢田家光」
「……気づいていたのか」
陰から姿を現したのは沢田綱吉の父親である、沢田家光だった。
ボンゴレの門外顧問であり実質的な№2と呼ばれる実力者。
「とぼけないでください。わざと気づかせていたくせに」
「そこまでわかっていたか。伊達ではないな六道骸」
「それで、僕の誘導にのこのこついてきてまで何の用ですか」
骸が放つ殺気に鋭さが増す。
眼差しもまた、鋭くなっている。
いつの間に出したのか、その手には三叉槍が握られていた。
「六道骸、無茶を承知で君に頼みがある。俺の息子の、ツナの霧の守護者を任されてはくれないだろうか」
「……何ですって?」
あまりにも予想外すぎる発言に眉がピクリと動く。
「僕がどこに身を置いているのかわかっていての言葉とは思えませんね。沢田綱吉が理解していなくともあなたは理解しているはず。ギリビッゾは、少なくともボンゴレに協力的ではない。僕個人としても、今すぐに沢田綱吉の体を乗っ取ってマフィアを破壊し尽くしたいのですよ」
「ああ、わかっているさ」
「それならば」
「分かっているからこそ頼むんだ。今のツナの守護者は、秘密裏に敵を1人、しかもツナのことをよく知っている敵を入れざるを得ない事態に追い込まれている」
「……はい?」
秘密裏に敵を守護者に入れなければならない事態とは、果たして一体……。
無意識のうちに三叉槍は降ろされていた。
骸が話を聞く態勢になってくれたことを認識すると、家光は口を開いた。
「ツナの守護者に、裏切り者がいる」