ワールドトランス~魔力が少ない男に転生しましたが、弱い男性は家畜扱いされるので強くなってみせます~   作:タバサックス

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遅くなりました。

本日の話で主人公がようやく活躍し始めます。


タッグ

アバトワールに社会見学に行った日から翌日。

二人はペアで先生に挑むことになった。

 

きっかけは帰りの道。そこでも、ティアはタッグを組まないかとサラへ提案していたのだ。そもそも課題は一人ずつやるものだからペアを組めないと、彼女が猛反発したところ。

 

ティアはそもそも一人ずつ先生に挑まなければいけない、なんて言われてないと反論した。確かに言ってはいないが、ただの屁理屈である。だが、そんな屁理屈が通ってしまった。

なぜなら、メルクは面白がったから。

 

そうなると、サラとしても組まない理由がなくなる。ティアが弱いからというのは理由にならない。なぜならサラも手も足も出ずに負けている。要するに説得力がないわけだ。

 

そうしてごり押しされた結果、組むことになってしまった。そして今先生の元に二人立っているという感じである。

 

ちなみに休日でもないのにメルクが家にいる。それは休日出勤みたいなのを昨日行ったためである。本来なら休んでもよいはずだが、二人の戦闘を見たいということで修練場に立っていた。中々の弟子思いであった。

 

 

そして初めてのペアでの戦闘が始まった。

まずはティアが前進を始める。試験を始めてから一年経っているため、出力の調整ができるようになっていた。あまり直線的にならないように、カーブを描きながら近づく。

 

ティアのいない方向から魔法弾を撃ちだすサラ。狙いはもちろんメルク。

いつも通り魔法弾をはじくものの、ティアのほうを見ていない。彼にとってチャンスであった。

 

魔法弾のおかげでメルクが隙をさらしている。具体的には、ティアへの注意がおろそかになっている。そして間合いに入っても、魔法弾の対処のため別の方向を向いている。そんな先生へ拳を振りかぶるわけだが。

 

拳が胴体へクリーンヒットしようとするとき……メルクが急に動いた。正確には、ティアをメルクとサラの間になるように動く。射程上に人がいることで攻撃できなくなったサラは舌打ちした。

 

一方ティアも攻撃を外したわけだが、すぐ姿勢を戻してメルクへ相対する。そして再度踏み込みながら右腕で仕掛ける。先ほどと異なり前傾姿勢ではなく、構えているような姿勢。

 

いつもと動きが違う、何か違うことをやってくるのではないか、なんて予想するメルクだが、その想像は当たる。そのティアの拳が思った以上に早かった。そのため、避けることにシフトする。

 

避けられたティアだが、表情を変えることなく次の動作に移る。体重を乗せていないためか、腕をすぐに戻し左腕で攻撃を始める。こちらもいつも以上に腕を振る速度が速く、避け辛いと感じたメルクは胴体をひねることで回避した。

 

この避け辛い拳はティアの新技である。

今までは自分の腕に魔力を注ぎ込み、全力で殴りかかるという脳筋スタイルだったが、昨日の戦闘を見て彼は戦闘スタイルを変えた。

 

似ている作戦を上げるならヒット&アウェイスタイルと言える。

厳密には逃げてはいないため意味は異なるが、一撃を軽くする代わりに隙を少なくするため似てはいる。

 

何故そんなことができるのか、という原理は難しくない。

攻撃するときに腕を振る。その時にジェット機のように殴る方向と逆方向に魔力を発射している。戻す時も同じ。

 

その分直線的な攻撃にはなるが、もともと直線的な攻撃だったため大した問題ではない。実際、ティアの攻撃は非常にキビキビとしたものになった。

 

そこに加えて、後ろからサラが何発か魔法弾を放っている。今までのまっすぐ進む魔法弾……通称ストレートではティアがいて邪魔、ということで曲射の魔法弾を撃っていた。こちらはスレイダーと言われており、弾道が撃ったのちに曲がるという性質を持つ。

 

あまり使ったことがない……というよりこちらも新技。加えて距離や状況も悪いことから、スレイダーの命中率は悪い。明後日の方向や地面にヒットすることが多かった。とはいえ、少なくともメルクの牽制や逃げ道を塞ぐことに成功している。

 

複数の攻撃に気を使うのは難しい。それが今のメルクの状態ならなおさらだ。片方だけならどうとでも対処できるが、こうして併せて攻撃されると辛いものがある。しかし、現状から抜け出すこともできずひたすら避けに回るしかなかった。

 

そして戦局が動く。

ティアの攻撃が右肩にあたった。魔力もあまり込めておらず、体重もかけていないためダメージはないに等しいが、体勢を崩すことに成功する。

 

その結果、メルクの胴体ががら空きになった。ここがチャンスと言わんばかりに大技を仕掛ける。魔力を最大限込めた右脚で横蹴り。ガードしようにも、右腕が身体の後ろ側にあり間に合わない。

 

そしてノーガードの胴へ入る直前。

ガンという音がした。そちらを見ると、胴体のすぐ近くに小さな白いものが浮かんでいる。それに右脚が当たっていた。

 

まただ、またこの白い壁だ、とティアは辟易したくなる。隙を作ったとしても、この白い壁に封じられてしまう。しかもどこにでも出てくるというおまけつき。

足だろうと胴体だろうと肩だろうと関係ない。

 

そのせいで今まで攻撃が一回も通じず、倒される。

そして、今回もそう。右脚を上げたせいで大きな隙が生じたティアの額にデコピンをした。

単なるデコピンと侮るなかれ。キチンと魔力は込められている。

 

あの攻撃の反動より魔力切れで防御できない。体を後退させることで何とか衝撃を落とそうとするものの、きちんと距離を詰められることでしっかりダメージを食らってしまった。

 

 

そんなあっさりやられたティアを見て苛立つサラ。勝手に一人で飛び出し、こちらの支援ができないような動きをされて、そして倒されてしまった。ざまあないと言いたくなる。

 

実際のところはティアが悪いというより、メルクの動き方が絶妙にうまかったことが原因だ。サラが動けばメルクも動き、必ずティアを挟むようにしていた。

 

魔法師同士の戦いの場合、こういう場面にならないよう魔法弾を撃つ人……トリガーが上手く位置取りをする必要がある。だが、いきなりそんな高等技術ができるはずもない。それゆえ、サラはティアのことを責めているのであった。

 

サラは向かってくる先生めがけて直線的に進む魔法弾……所謂ストレートを放つ。しかし、そのストレートをすべてはじかれていた。残念ながら、これも日常的な風景だ。

 

いつも魔法弾が全く効かない。胴体に当たったとしても、そのすべてが弾かれている。意味不明としか言えなかった。実際のところは魔法によって、彼女のストレートをはじいているがどんな魔法か不明なので同じである。

 

そしてきっちり距離を詰めて攻撃姿勢に入るメルク。

こうなったらヤケだといわんばかりに至近距離で大量のストレートを用意し、先生にぶつけた。密度、火力申し分ない魔法弾。

 

しかし、メルクにはやはり傷一つ付けられていなかった。さらに接近したせいで逃げ場がない。そんな詰みともいえる状況の中、第三者の手が入った。

 

 

ティアだ。

彼がメルクへ走りながら拳をあげて殴りかかってくる。そんな予想外の乱入に驚き、二人の動きが一瞬止まる。

 

だが、すぐにメルクは動き出しながら分析を始める。

彼の位置が近く魔法を構成する暇もない。とはいえ、今の彼は魔力もなく構成もできていない。つまりただの生身と同じ。ならばカウンターを決めればよい、と判断した。

 

そしてティアの殴り掛かる右拳に合わせて右手を広げて出すメルク。自身が魔法を使っている以上何の問題もないと思ったその瞬間。ティアから魔力が生まれた。そして、それがすぐに右拳に集まっている所まで。

 

まずい、と急いで魔力を右手に回そうとするが遅かった。右手から強い衝撃が加わり、大きな痛みが右手に生じる。予想外の衝撃に顔を歪めた。

 

 

この試験を初めて一年以上経ち、初めてメルクへ一撃を与えたのはティアだった。

 

 

痛みに顔を歪めながら笑顔をつい浮かべるメルクに二人が襲い掛かる。

後方からはティアが再び攻撃を仕掛けてくる。前方はサラが立ち直ったのか、再びストレートの用意をしている。先ほどと逆の立場だ。挟まれている。

 

だが、彼女は全く慌てず右手と左手をティアとサラへそれぞれ向けはじめる。

そして彼女へ接近したときにその手から衝撃が発生した。

 

その結果弾は消えるどころかサラまで届いて少し飛んだ。ましてやティアは衝撃に巻き込まれ、十メートル以上も吹っ飛んでしまう。そしてサラのほうへ再び近づいて彼女へ攻撃を加えて気絶させる。

 

最後はあっけなかったが、試験が終了してしまった。

二人が初めてタッグを組んだ試験だったが、連敗記録を重ねるだけであった。

 

 

二人を起こした後に恒例の講評を始める。

これはメルクが二人の戦いがどうだったか、を述べて改善点や良かった点をほめるという会である。

 

例えば『ティアの攻撃は極点だらけで、動きが単調』と指摘されたのもこの講評によるものである。いつもはメルクがスラスラと説明を始めるが、今回のことについて少し悩んでいた。

 

「うーん……とりあえず、連携部分から説明しましょうか。二人とも初のタッグでしたが、結構息が合っていました。戦い方はおおむね今回の通りで間違っていないので、あとは連携を組む際の動き方についてですね」

 

そんな評価が下る。

実際のところ、ティアが前に出て、サラが後ろで魔法弾を撃つというスタイル自体は間違っていない。問題になったのはもっと難しい部分である。

 

「まずティアのほうはもうちょっとサラの位置を気にすることから始めましょう。私がちょくちょく動いていたにもかかわらず、何の疑問も持たずに追随しているのは少しまずいです」

 

本来なら、魔法弾を撃つトリガーが上手く位置取りをするべきだといわれている。なぜなら、実際に近接戦闘をしている人であるクローザーはそれを気にするだけのリソースがないから。距離がある分余裕があるトリガーが気にすべきということである。

 

ただ、それを考慮してもメルクの誘導に乗っかりすぎたところはある。そのせいでサラが魔法弾をうまく打てるような位置取りができず、何もできない時間が生じてしまった。これでは連携を組む意味が薄まってしまう。

 

その後はサラの機転というか新技のスレイダーで補助をしていたが、もし覚えていなければ何もできずにティアはやられてしまっていた。

それを指摘されシュンとしているティアへこの言葉で締めくくった。

 

「まあ、初めてなので仕方ないです。次からはサラとよく相談してどういう位置で戦うかを決めるか、あるいは上級者向けですが感知でお互いの位置を確認して動くといいでしょう。最初にも言いましたが、動きは悪くなかったです」

 

そんな励ましをしてティアへの指摘を終えた。

自分の言いたいことを言ってくれた、と思い溜飲を下しているサラへ鋭い目が向けられた。

 

「次にサラ。今回は打ち合わせや経験不足もあるなか、よく頑張りました。特に援護のスレイダーは見事で、私をその場から逃がさないようにする動きは見事です。ただ、もっとティアのために大きく動けばなお良かったです」

 

「……誰がこいつのためですって!?」

 

ティアのため、という言葉に憤慨するサラ。

それもそのはず。彼女からすると、いつもならきちんと打てる場所にティアがいる。まあイライラするわけだ。加えて言うと、サラのイメージした連携と実際の結果が異なっていた。

 

サラの考えていた連携はティアがメルクの動きを止め、サラの魔法弾で仕留めるという形だった。なぜこういう形かというと、昨日の戦い方がそういうものだったという点、そして彼女のプライドであった。

 

しかし、実際のところはティアが自由に動いたため、自分はまともに打てなかった。そのせいでイライラしたことに加え、まるで援護する役という扱いに爆発した。そんな様子にむしろメルクは驚いている。

 

「え、今の魔法弾では私に傷一つ付けられない以上、ティアの援護に徹したと思っていたのですが……。もしかして違いますかね」

 

「違うに決まっているでしょ! こいつなんかいなくたって先生を倒してみせるわ!」

 

そう大声をあげてサラはその場から走り去っていった。開始早々タッグ解消の危機である。

自分一人で先生をいつか倒せる、なんて思っているサラからすると、こんなペアや扱いはまっぴらごめんというわけだ。

 

そんな彼女をボケっと見るティアに肩をすくめるメルク。

ヤレヤレと言いたそうである。

 

「彼女は焦っているのですよ、ティアの成長に。昔は決定的な差があったにもかかわらず、今となってはティアに越されたなんて思っています」

 

「え? まだ勝てる実感が湧きませんが……」

 

「でしょうね。多分今勝負したら、勝率二割ぐらいだと思います。それはともかく、私に一撃入れたことに『越された』なんて思っているのではないかなーって思っています」

 

そういわれて、ああなるほどと納得するとともに複雑な気分になるティア。勝率二割程度ということはほぼ惨敗するということだ。そんなことを言われてうれしくなるかという話である。

 

「まあ、貴方のことはなんだかんだ言ってライバルと認めていると思いますよ。そうでなければ、昨日のようなことは言わないでしょうし。それに、今はサラにとって成長するチャンスなのです。ああは言っていますが、ぜひこれからも継続してタッグを組んでくれませんか?」

 

どうして試験官のメルクがタッグを組んでほしいと頼むかよくわからないティア。とはいえ、ティアからしても自分一人ではまだ先生に勝てるビジョンが見えてこないため、もちろんということで返事をすると、彼女はほっとしたような顔をした。

 

「ありがとうございます。サラって同年代と一緒に協力して何かを達成したことがなくて、不安だったのですが……あなたがいてくれて助かりました。さて、サラの件はともかくとして、講評に入りましょうか」

 

という言葉を持って、二人の雰囲気は少し変わった。例えるなら先ほどの空気は師匠と弟子だったが、今は試験官と受験生の関係である。違いはあまりないが、今のほうがピリッとした空気だ。

 

「率直な感想を言えば、すごく良かったです。わざわざ休日に連れ出した甲斐がありました。あの素早く拳を繰り出してすぐに引っ込める技、何か名前でも付けていますか?」

 

「え、名前ですか?」

 

いきなり名前と言われて口ごもるティア。

そんな中二病みたいなことを考えろと言われても、すぐ思いつくほど訓練されているわけではない。

 

「名前を付けた方が魔法のイメージがしっかりするので、つけた方がいいですよ。それはともかく、あの新技のおかげであなたに隙がなくなりましたし、隙を作ることにも成功しましたね」

 

「ありがとうございます。昨日の戦いを見せてもらったら、ぱっと思いつきました。手から魔法を撃ちだすことができるなら、これもできるかなーって。」

 

なんて戸惑いながらも笑って答える。やはりどんな人でも自分の考えたアイデアが上手くいった時はうれしいものである。

 

割と簡単そうに言っているが、昨日の戦いでは手から魔法を出すところはあったが腕や肘から魔法を出すところはない。しかし、今日のティアはそれに近いことを行ったのだ。なぜそれが思いついたかというのはティアだからとしか言えない。

 

その発想力について少し感心するメルクだったが、今回の戦闘で最も疑問に感じたところを質問する。

 

「そういえば魔力が切れたはずなのに、再び立ち上がった時はどうして魔力を持っていたのですか?」

 

本来、魔力が切れたら回復には個人差はあるものの一日はかかるといわれている。つまり、魔力回復量は保有できる魔力に比例する。だが、ティアの場合は一瞬で魔力が回復した。そんな常識離れの結果について、聞いたわけだが聞いた本人が一番困惑していた。

 

「えっと……すみません、よくわからないですが、先生に教えてもらった呼吸をすると、なんだか身体から力が湧いてきたので、出来そうだと思ってやったらできちゃったって感じです」

 

なんて返答である。正直に言えばティアにもわかっていなかった。だからこんな曖昧な返答になるわけだが。そしてメルクのほうも正直原因がわからない。そのため、

 

「まあ、あまり使いすぎると魔臓に負担がかかるでしょうから一日二三回程度に収めておきなさい。

 

とりあえず本日についてまとめると、連携については今度からサラと相談して位置を決めておくこと。あの新技はよくできているのでこれから隙を作るときはしっかり打っていくように」

 

なんて感じにまとめるのであった。

 

 

ちなみにあの新技についてはメルクがノリノリで考えてくれた。

クイックブロウである。魔法師はやはり想像力豊かである。




ここから、ようやく主人公の努力が実を結び始めます。

後三話なのでお楽しみに。
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