ワールドトランス~魔力が少ない男に転生しましたが、弱い男性は家畜扱いされるので強くなってみせます~   作:タバサックス

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ライバル

課題戦闘があった日から翌日の朝。

ティアとサラは相対するかのように修練場に立っていた。

二人とも構えており、戦闘する直前である。

 

どうしてこうなったのか、については数時間前にさかのぼる。

朝起きていつも通りランニングと呼吸、そして基礎魔法の訓練をした後朝食を準備した。そしてサラと二人で食べ終わった後、彼女は宣言したのだ。

 

「あんたとペアを組むのはやめる」

 

それを聞いたティアの最初の感想は、まじか……である。確かに昨日の戦いはサラにとってはあまり好ましくなかっただろうが、まだ最初に過ぎない。

だからこれからもっと作戦を練っていけば、なんと思っていた矢先にこれである。

 

残念ながらサラは昨日のことについてそれなりに引っ張っていた。なぜかというと、あれでは自分がティアに頼らなければ課題をクリアできないではないか、というプライドである。

 

実際のところ、弾を打つ人であるトリガーが敵に致命傷を与えるという作戦も多い。クローザーは基本的に考えることが多い。敵の動きを観察すること、その位置取り、回避、操作、強化など挙げればキリがない。

 

適切な配分で敵の攻撃を避けるだけでも精一杯だろう。そこに致命傷を与えるという役割を与えてはパンクするわけだ。

そのため、エースはトリガーに……というケースもある。

 

だが、サラも自分がこれをするには問題があるとは気づいていた。それは火力不足。

年齢を重ねれば魔法弾の威力は増える、と思っていたにもかかわらずあまり伸びていない。

 

しかし、その原因がわからない。

だからこそ彼女はいらいらしていた。そんな中、ティアの成長を見せつけられたわけだ。

爆発しても仕方ないというわけだ。

 

とまあ、そんな裏事情を知らないティアは頑張って説得しようとしていた。それが逆に火に油を注ぐ行為だと知らず。こうしてもつれにもつれた結果。

 

「わかったわよ、じゃあ戦って決めましょう! 私とアンタが戦って、勝った方の言うことを聞く。それでいいかしら?」

 

「いいでしょう、約束を忘れないでくださいね!」

 

なんて言って盛り上がったわけである。そして話は今に戻り、修練場。

二人して相対しているわけだ。

 

ぶっちゃけ、勝率二割の敵に挑もうとするティアもティアである。先生に一撃入れられたこと、そして褒められたことに調子に乗っていたのだろうか。お互いに欠点を認識しながら、感情的に動いた結果戦闘になるあたり本質的に似ていた。

 

「あんたがスタートって言ったら戦闘開始よ。先手は譲ってあげるわ。

これに懲りたら、私に共闘を持ち掛けないでね」

 

「……自分に先手を譲ったこと、後悔させます」

 

と言いながら、二人は距離を取る。

一応今までの課題から、距離をある程度取ったうえで戦闘を始めている。その慣例に従ったわけだ。

 

スタート、という前に彼女の分析を始めるティア。

サラの最大の武器は中距離からの魔法弾。近接もできるだろうが、あまり戦闘で使っていないことから得意とは言えないと推測できる。

 

一つ一つの魔法弾の火力は低いが、最も脅威なのはその密度。水滴石穿という言葉がある通り、威力が低かろうとも同じ場所に力をかければ防御を打ち破ることができる。

サラの魔法弾は物量作戦なのだ。

 

メルクもその脅威を理解しており、出来る限り別の場所に当たることで効果をなくしている。だが、あれは技術があるからできることで自分にはできないと考えている。

 

そうなると、彼女に対して有効な戦法は限られる。

すなわち、出来る限りかく乱しながら近づいて攻撃するということ。

なるほど、結局いつも通りである。

 

そんな感じで作戦を決めたティアはイメージトレーニングを始めながら構える。

そして、スタート……と叫んだ瞬間。足に魔力を集中させて強化に使う。すると、サラの意識よりも早く移動することに成功した。

 

メルクとの初期の戦闘時に使っていた、極点集中による高速移動である。今の段階では魔力をすべて使わずとも高速移動ができるため、非常に使い勝手が良かった。

 

ティアがこれだけ早く動けることに予想外のサラ。最近の戦闘ではこの高速移動は使っていなかっただけになおさらである。

 

大分遅れてティアへ意識を向けた後、急いで魔法弾を撃ちだすが速度も出ておらず大きさも小さいため体をひねるだけで躱すことに成功した。先生との近接戦闘の経験が如実に表れている。

 

結果、まともに魔法弾を撃たせず距離を詰めることに成功したティア。彼にとっての間合いにまで近づかれたサラはまずいと思うものの、これ以上動いては攻撃を決められる。

つまり、サラにとって不利な位置で戦わざるを得なくなった。

 

二人とも動きが止まり、一瞬にらみ合い状態となる。だが、すぐにティアが動き出す。例のクイックブロウでサラの肩を狙う。メルク相手にはダメージはほとんどなかったが、サラ相手の場合は話が違う。

 

きちんと魔法で防御していたメルクに比べ、サラの場合はそれどころではない。今は目の前の敵に対抗するために魔法弾を作らなければならない。防御しながらその作業をするのは彼女にはできなかった。そのため回避するしかない。

 

これは魔法の構成という現象に時間がかかるからである。身体が勝手に作ってくれるのは魔力までである。魔法をつくには魔力を使って自分でその現象をイメージしなければならない。

 

一度に二つのものをイメージするのは難しい。少なくとも今のサラにはそんな器用な真似はできない。そのため回避するしかないのだ。

腕や肩に何度も攻撃があたり、痛みに悶えるサラ。

 

だが、そんなサラにも反撃の機会がやってきた。ようやく魔法の構成ができたのだ。

そしてクイックブロウの動作中を狙って胴体へ魔法弾を撃ち始める。

 

それに反応しきれず、魔法弾に直撃するティア。

急いで魔力を体の表面に回しガードしたため軽傷で済んだ。

だが、食らったときの衝撃でサラとの距離が離れてしまった。

 

これはティアのミスだ。

本来なら敵の攻撃を避けることもクローザーの仕事だ。それにもかかわらず、引き際をわきまえず攻撃した結果被弾した。

 

今回は防御がギリギリ間に合ったためダメージは少ない。とはいえ、せっかくの攻撃チャンスを手放してしまったことに変わりない。

 

そこからはサラのターンが始まった。

正面から魔法弾が迫る。防御するには厳しい弾密度。これ以上後ろに下がるわけにもいかないティアは扇状によけるしかない。

 

だが、サラはティアの動きを理解していた。ティアが逃げた先めがけて魔法弾を撃ってくる。仕方なく足に魔力を使って大きく回避するものの、魔力を使ったときまで想定して魔法弾を撃つサラ。

 

これは先ほどの接近の時に、ティアの速度に慣れてしまったが故。サラも一度引っかかったものに二度引っかかるほど間抜けではない。それゆえ、ティアはひたすらサラの周りをぐるぐる回って逃げるしかなかった。

 

 

そんな硬直状態が続く。

ティアはこの状況に徐々に焦りを覚えてきた。このまま続けても自分に勝ち目はないと。

 

なぜなら、保有している魔力はサラのほうが圧倒的に上だから。自分も避けるためだけに魔力を使ってしまっている以上、いつか動けなくなってしまう。

 

いくら急速回復できるとは言え、それは無尽蔵ではない。自分の魔臓を無理やり動かして魔力を作っているに等しい。つまり、限界がある。

 

その回復量とサラの魔力、どちらの方が上かわからない。それに加えて自分の集中力が持つかわからない以上、逃げ回るのは愚策。

 

かといって、円周上に逃げるのではなく横に逃げるのも考え物だ。なぜなら、横に逃げれば逃げるほどサラと距離が空いてしまうから。空中へ飛んで逃げるのも論外。

そうなると、とれる手段がほとんどない。

 

色々考えたが、これ以上魔力が少なくなる前に決断に動いた。

逃げ回るのを止め、サラのほうへ向く。そして彼女のほうへ走り始める。

 

当然目の前には大量の魔法弾。その魔法弾に対抗するため腕に魔力を集中させる。そして、その魔法弾に対して殴りかかった。

瞬間、風が吹き荒れた。

 

その衝撃にサラはティアの姿を見失ってしまった。

急いで感知や閲覧等でティアの姿を探すものの、全く引っかからない。かといって、周囲は土煙のせいで全く見えない。

 

倒れたのかしら……なんて思いながら、キョロキョロと探すサラ。そんな彼女に、ティアが襲い掛かる。横から現れ彼女の胴体へ渾身の右ストレートを決めた。

 

当然、全力の魔力を込めている。不意打ちの攻撃に対応できなかったサラは煙の中吹っ飛んでいき、修練場外にある大樹に当たることで止まった。

場外でもあり、気絶もしている。

 

ティアの勝利で終わった。

 

その後すぐにサラは目を覚ました。すぐ横にいるティアが心配する声をかけたが全く反応なし。直後、彼女が大声で叫び始めた。

 

「なんで! どうして! 私が負けるのよ!

魔力も、勉強量も、距離も、あんたよりずっと多い……なのに、どうして勝てないのよ!

どうしたら、もっと強くなれるのよ……」

 

彼女にとって初めての挫折だった。

自分よりもあれだけ弱かったティアに、本気で戦って負けた。

今まで怠けていたわけではないのにもかかわらず。

 

途中までの展開は良かった。

ティアを追い詰め、このまま押し切れるかと思った。にも拘らず、彼の極点攻撃と魔法弾が相殺してしまった。おかしいだろう。

 

なぜ自分よりも圧倒的に魔力の少ない人間が、自分よりも火力を出せるのか。

そんな叫びにティアは言いづらそうにしゃべり始めた。

 

「その……サラさん。貴方の魔法弾の威力って、自分が最初見た時からあんまり大きく変わっていないような気がします」

 

その一言を聞いて彼女は急に黙ってしまう。

威力が変わっていない? なぜ、どうして? 魔力が増えれば増えるほど威力が高まるはずなのに。悩み始めたサラにティアが質問する。

 

「ちょっと質問ですけど……サラさんって魔法弾をどうやって構成していますか?」

 

「どうやってって……そんなもの意識して……」

 

「こういうことを言うのもなんですが、もしかして意識していないと魔法弾の威力が変わらないとかってありませんか?」

 

ティアの発言にサラは目をびっくりさせる。

無意識で魔法弾を構成しているから、魔法弾の威力が変わらない。

 

言われてみれば……なんて彼女は納得する。

魔法というのはイメージだ。ダメージを与えたい、というイメージがあればあるほどより攻撃力が増す。

 

しかし、サラの場合は天才だった。というか天才すぎた。

なんせ、碌なイメージを持たずともすぐに魔法を再現できてしまう。それが罠だった。

そこに気づいたサラはティアへ近づき揺さぶりながら聞く。

 

「教えて頂戴! どうしたら、もっと威力のある魔法弾が作れるの!?」

 

「た、例えば、先端をとがらせるとか針のような細いものにするとか……あと速度をもっと上げてみるとか……」

 

大した異世界知識ではないが、より火力の出そうな形状を適当に列挙するティアだったが、当の本人は目を白黒にしながらイメージに入る。

 

しばらく自分の世界に入り込んでいたサラだったが、しばらくすると目をかッと開いた。

そして、ティアへ頭を下げてお願いした。今までの態度と異なり、彼を見る目は一人のライバルとして見る目であった。

 

「ティア、もう一回私と勝負して頂戴! もしかしたら、コツがつかめたかも!」

 

その剣幕に驚きながらもティアは頷き再戦を受け入れた。そして再び戦いが始まる。

スタート、と彼が宣言した瞬間。

目に見えたのは空だった。

 

なんと、彼が動き始める前に弾を撃ちだしている。

その弾が今のティアには全く見えなかった。鬼に金棒どころの騒ぎではなかった。

 

夜空が輝く時間になったころ。二人は修行場で横たわっていた。修行場は荒れに荒れており、見るも無残な姿である。

 

なお、あの後の戦績は十戦一勝八敗一分け。もちろん、ティアが二勝の方である。最初のほうはひどく、ちょっと動いただけでティアが射抜かれて試合終了となった。

 

最後の方で速度に慣れたのと、意地を見せて引き分けまで持ち込んだティアをほめた方が良いだろう。初めて魔力という理不尽を感じた。そんなティアへサラが立ち上がり、手を伸ばす。

 

「貴方に借りができたわね。ありがとう。お礼と言ったら何だけど……何か私にできることがあれば何でもするわ」

 

「……もしよろしければ、自分とペアを組んでいただけないでしょうか?」

 

「なんでそんな丁重な態度なのよ……。それに関しては私の負けだから当然従うし、私としてもティアと組みたくなったところよ。もっと他にないの? 聞きたいこととか」

 

先ほどの件があってから、サラは異様に丁寧な態度になった。今までもつっけんどんながらやさしいところはあったが、今となっては別人のような態度だ。

 

そんなことに驚きながらも、ティアは聞きたいことを考える。魔法弾の構成など、技術面で聞きたいことはあるものの……それ以上に気になる内容があった。ゆえにティアは彼女にぶつける。

 

「答えられないことでしたら構いませんが……サラさんってなぜこの場でこのような生活をしているのですか?」

 

そんな予想外の質問に動きを止めざるを得なかった。あまり面白くない話であるが、先ほど何でもと言った以上、答えないわけにもいかない。それになぜかティアには話したい、なんて思った。

 

この感情の正体はよくわからないが、おそらくこの感情に従った方が良いだろうという直感が彼女を動かした。

 

「……そうね。きちんと理解してもらうには最初から話さないといけないわ。長くなるけど聞いてもらえるかしら?」

 

 

★★★

彼女は物心つくのが早かった。普通の子供であればおおよそ三歳ぐらいから記憶があるといわれ、喋り方も単語ではなく文章になる。しかし、サラはそんなレベルではなかった。

 

なんと彼女の場合赤ん坊のころの記憶を持つ。さらに一年半程度で舌足らずとはいえ、きちんとした文章をしゃべり始めた。

異常としか言えない。

 

生まれた時から知識のあるティアでさえ、物心がついたのは三歳。そして、その持って生まれた知識を咀嚼しそれを自分の心情へ昇華したのは四歳の時だ。

 

そんなサラだったが、彼女の父親や母親はすぐに受け入れた。むしろ彼女を歓迎した。なぜなら、この世界では彼女のような子供は天才だとみなされるから。

 

この世には魂というものがあると信じられている。生まれてきた子供に魂が宿ることで思考や意識といった人間に欠かせないものを持つ、という価値観だ。ゆえに肉体はあくまで魂の補助に過ぎない。

 

その魂の出どころは神である。神が魂を改変させ、あるいは作り上げる。それを子供に注入することで命が生まれる。その魂がきちんと身体になじむまで、言語や思考といった能力は統制される。

 

それがうまくかみ合うまでの年数は平均して三年。

だからこそ、三歳まではうまく話せず記憶も定着しないとされている。

以上がこの世界の死生観である。

 

だが、稀にその魂がすぐに定着するケースもある。それがサラだ。彼女の場合、生まれたと同時に定着してしまった。まるで神が彼女の身体専用の魂を作ったがごとく。だからこそ、彼女のことを天才だと祭り上げるに至ったというわけである。

 

加えて言えば、魂も成長……というより適した形へ変形しようとする。そして幼いころのほうがより適した形へしやすいというわけである。魂の成長と精神の成長はつながっているため、彼女は早熟であった。

 

 

そんな彼女にも弱点があった。それは生まれつきあまり魔力が多くないことだ。これは魂の早期定着においてよく見られるケースである。本来魂と魔力を貯蔵、生成する器官である魔臓とは直接的な接点はないといわれているが、なぜかそういう傾向にあった。

 

とはいえ、魔法についての育成は年齢を重ねないと行えないため彼女の両親……オザン家のものはサラを好きなようにさせていた。特に本を読むことや双子の弟と遊ぶことが好きで、教育を終えたらすぐに弟の元へ向かうほどだった。

 

だがそんな彼女の幸せはあっという間に崩壊した。

彼女が二歳の時、彼女の家に魔獣が襲撃したのだ。人を丸呑みできるほどの大きさの魔獣が数えきれないほど襲い掛かってきた。

 

そんな魔獣を見てサラも逃げ出した先には父親であるトトを発見した。トトと一緒にすぐ地下通路から逃げ出すこととなる。ようやく屋敷から抜け出せたときにトトへ聞く。弟と母親はどこか。

 

「カナが今闘っている所だから、ここで待っていよう」

 

一瞬逡巡したその言葉をサラは信じるしかなかった。自分で戦いたいと思えるほどに彼女に力も勇気もなかった。だが、その決断を彼女は一生の傷として残ることとなる。

 

翌朝。

屋敷はボロボロであったが、魔獣はすでにその場にいない。そこにトトと母親のカナが現れた。だがその表情は暗い。

そこで彼女は察してしまった……が、あえて聞いてしまった。

 

「すまない、私の力不足だ。……ライは魔獣たちに連れて行かれた」

 

ああ、やっぱりなんて気持ちが強かった。

どうしてあの時に私は助けようとしなかった。自分だけ逃げてしまった。

 

弟はまだ物心もついてない。逃げることはおろか、現状の把握さえできないだろう。そんな弟を支えるべきなのが姉ではないのか。

 

なのに、どうして逃げてしまったのか。どうして私に力がなかったのか。

 

 

その事件以来、オザン家は別のところに移り住むこととなった。以前と比べて非常に小さな家で部屋も数えるほどしかない。違う場所に住んでも悔しさは全く消えない。だからこそ、彼女は決断した。

 

母親が帰ってきた時に「私を強くしてほしい」とサラは頼み込むことにした。ダメだとカナは言うものの、他の男性が現れカナを遮る。そして、男性がサラへ優しく声をかける。例え痛い思いをしてでも、強くなりたいか。

 

是非もなかった。

 

 

彼女が注射を打ってから数日。彼女の家にカナと一緒にある女性が訪れた。その女性がサラを一瞥した後、カナがその女性へ頼み込んだ。

 

「メルク、頼みがある。サラを住み込みで鍛え上げてほしい」

 

「……カナ、貴方はこの子に何をしましたか?」

 

「サラが強くなれるようなことだ。制限を解放するようなものを」

 

その一言でメルクはカナをぶん殴る。カナの胸ぐらをつかみ、唾がかかるほどの近さで怒鳴る。サラにはその言葉が理解できなかった。できなかったが、自分の母親が殴られているのを見て黙っていられなかったサラは二人の間に割り込み、頭を下げた。

 

「どうか、自分を強くしてください」

 

その言葉を聞いて、メルクは納得するしかなかった。自分の友人とその娘は切羽詰まっている。大事な息女を他人に預けるほどには。

 

そして、この状況を改善するには自分しかいないと納得するまで時間がかからなかった。

こうしてカナを預かったメルクは彼女を鍛えることにしたのだ。

 

★★★

「とまあこんな感じよ。どう、面白くなかったでしょう? それからティアと会うまではソーク・ポリスとかで一緒に仕事とかしていたわ」

 

あっけらかんと笑いながら言う彼女だったが、ティアは絶句せざるを得なかった。ただの興味本位で聞いてよいことではない。それについて謝ろうとするが、彼女は手で遮った。

 

「私が話したいと思ったから話しただけ。気にしないで。ところで、これがあれば先生を倒せると思う?」

 

なんて質問する。

唐突な話題の切り替えに一瞬戸惑ったが、とりあえず思ったことを伝えるティア。

 

「……いや、たぶんできないと思います。ただ、今日のことでとっかかりはできたと思っています」

 

「なるほど、ということはティアに何か考え方があるってわけね」

 

「ええ、まあ……ただ、もう何回か試さないとわからないので」

 

口ごもりながら話すティア。先生相手にごり押しは通用しない。

色々対策を立てねば……なんて考えながらしゃべっているためであった。そんなティアへ

 

「はっきりしないわねぇ……まあいいわ。とりあえず作戦会議よ。言っては悪いけど、貴方もまだまだ弱い。基礎魔法をしっかり習得しなければクローザーは務まらないわよ。ティアにはそれを詰め込んでもらうわ」

 

そういいながら彼女は立ち上がり、一人で家に戻る。夜空を一人見ながらボッーとしていると、すでに遠くへ移動したサラから声がかかる。

 

「いい忘れたけどー! これからは呼び捨てでいいわー!」

 

そんな声に返事しながら、ティアは一人夜空を見るのであった。

こんな夜も悪くない、なんて思いながら。




さーてと。
そろそろ最終回ですね。筆者は結構ワクワクしています。
読者の方にもそれが提供できれば幸いでございます。
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