ワールドトランス~魔力が少ない男に転生しましたが、弱い男性は家畜扱いされるので強くなってみせます~   作:タバサックス

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伏線回収回でした。


作戦会議

数日後。

ティアとサラは二人で修練場に立っていた。その向かい側にはメルクがいる。

二人がタッグを本格的に組んで初めての試験の日であった。

 

「タッグを組むことになりましたか、良かったです。それでは試験を開始しましょうか」

 

なんて合図を出すメルク。

するとサラはその場で立ち止まり、ティアはゆっくりと円を描くように動き始める。

 

ティアがちょうど反対側にたどり着いたところで止まる。位置としてはティアとサラに挟まれた感じである。その動きにメルクはなるほどと感心した。

 

前回の課題が位置取りについてだったが、それをきちんと守ろうとしている。確かにティアが反対側にいればサラは好きなように魔法弾を撃て、ティアも好きなように攻撃できる。

 

非常に合理的かつ理想的な位置取りを二人は行った。

いきなり攻撃を仕掛けなかったことから、おそらく二人は前もって相談している。前回の反省をしっかり踏まえたうえでの行動に笑みがこぼれた。

 

実際の戦いの場でも挟撃できるのは理想とされているし、それを狙った戦法もある。なんせ防御側の手が足りなくなることに加え、一度に複数の情報を処理することは難しいからだ。

 

それだけに本当の戦闘では中々この状態をとれない。というより試験の場だからこそ、メルクは手を出さず見守っていた。もしこれが戦場や大会などであったら、悠長に待たず一人ずつ攻撃している。

 

しかし、ここから妙な行動を始める。なぜかサラだけが魔法弾を撃ち始めた。ティアは動いていない。密度は低めの威力は普通の魔法弾。それを怪訝に思いながら、普通に手で避ける。別に今まで通りの行動である。

 

それが終わると次はティアが接近する。次はサラの動きが止まる。近づいてから彼は例のクイックブロウで攻撃するが、いつにもまして攻撃が浅く感じられる。

 

たまに隙を狙って大きい攻撃を仕掛けてくることがあるが、それをいつも通り白い壁を使って防ぐことにする。その後隙に関しても、クイックブロウと同じ要領でほとんどなくしていた。

 

ある程度ティアが攻撃すると、彼も後ろに下がる。そしてタイミングを合わせて二人同時に仕掛けてきた。二人の息も完璧。ティアが殴りかかるころにサラの魔法弾が到着するようになっている。

 

個人的な心情で言えば、先ほどの奇妙な動きに関してはともかく、これだけ立派な連携ができるのであれば合格をあげたいところだ。現に何も対処しなければそのまま自分は倒されてしまう。

 

ただ、これは試験だ。二人に魔法師Eランクを認定するだけでなく、その後も活躍することが期待されている。その期待に将来応えなくては意味がないのだ。だからこそエリートコースなんて言われる。

 

そんなことを思ったメルクは二人の方向へ手を向ける。そして発散の準備を行う。

何か対処をしてくるか、なんて二人を見ているが特にその気配は感じられない。しいて言うなら、ティアが防御する体勢に入っていることぐらい。

 

しかし、これからの動作に差しさわりはないと判断した。そのため両手から衝撃波なるものを発生させる。それに対処できず、吹き飛ばされてしまうティアと弾を消されたサラ。ティアのほうは吹っ飛んだもののダメージは少ない。サラも距離があったためノーダメージ。

 

これに関しては二人とも対処していなかったか、なんてメルクは思いながらティアのほうを見る。現に彼はすぐに立ち上がった。だが、今日の中で最も困惑するようなことを彼は宣言した。

 

「今回は二人とも不合格でいいです。ありがとうございました」

 

なんて頭を下げたわけだ。今までは倒れるまで諦めないティア。それがあまりダメージを受けていないにも拘らず、試験終了してほしいという。

驚かない方が無理である。何かほかに原因があるのではないかと彼女は考えを広げた結果、

 

「え!? 打ち所が悪かったですか!? ごめんなさい、大丈夫ですか?」

 

そんな心配をするわけだ。

外から見て損傷が少なくとも、本人にダメージが大きいなんて症例はいくらでもある。そんな心配をされたティアが今度は驚く番であった。

 

そんな光景に呆れた目を向けるサラ。二人の間に入り、自らも説明する。

 

「先生、間違いじゃないわ。今日は不合格でいいわよ、確かめたいことを確かめたし」

 

サラがそういうとティアの手を引っ張り家へ向かった。

意味が解らないまま試験が終わったことに、悩みながらも家に戻ることにした。

 

 

どうしてこんな戦闘をしたのかというのは、数日前の作戦によるものだ。

ティアとサラは部屋内で会議をしていた。題材は先生をどうやって倒すか。

単純明快な目標だが、しかし実際のところは障害があった。

 

「とりあえず、先生の防御を打ち破る必要がある……のだけど、問題はそれをどうやるか」

 

この議論の要点はそこである。今まで攻撃しているにもかかわらず、ほとんどの攻撃は避けられている。当たったのはたった一度。それも完全な不意打ちだ。

そんな問いに対してサラが答える。

 

「基本的に魔法同士の対決はその魔法にかけられた魔力によって決まるわ。厳密にいえば魔法に使ったときに有効となっているエネルギーだけど。だから、私がもっと魔力をためれば……」

 

要するに、使った魔力が多い方が勝つ。だからこそ、魔力が多い人が有利である。

ならば彼女よりも多い魔力をぶつければ勝てる、なんてサラは思っていた。魔力ゴリラである。

 

「……あれ? でもそれっておかしくないですか?」

 

しかしサラの説明にティアは疑問を抱く。

もし純粋に魔力だけで勝敗が決まるなら、なぜ自分の時だけ白い壁を出すのか。普通にサラと同様に対処してよいはずだ。

 

そんな話をするとサラは驚いた後に一人考えに入り、そして本を調べ始める。

いったい何をしているんだ、なんてティアが思ったその時。いきなり紙を用意して書き始めた。

 

「これを見なさい。先生の防御というのは二つの方法があるの。一つ目が魔力を体の膜に使うことで、防御する手法。これを魔装というの。てっきり先生はこれだけしか使っていない、なんて思っていたけど……違っていたわ。

 

二つ目は貴方の攻撃を防ぐときに出てくる白い壁。これを障壁という魔法よ。より狭いけど、防御力は魔装より上。先生はこの二種の防御する魔法を使っているわ」

 

「それはわかったけど、どうして使い分けているの?」

 

そう質問すると、サラは黙ってしまった。彼女は魔法のことは知っていたがその特性までは知り尽くしていない。勉強が不十分だが、そもそもこの話は高等学校向きの話であるため仕方ないといえる。

 

黙ってしまったサラを見て慌てるティア。

調べてくれてありがとう、なぜ使い分けているのか一緒に考えようと言うことで部屋の雰囲気を回復させようとする。この数年間で成長したものだ。

 

とっかかりのために、まず二人は魔装と障壁を使っている場面を挙げることにした。魔装はサラの魔法弾に対処するときに使っている。しかし、障壁は一回も使っていない。

ティアの攻撃も同様。障壁しか使っていない。

 

そこからティアは推理した。

これはただの偶然と考えるには不自然だと。なぜなら、メルクはお茶目なところもあるが、戦闘に対しては合理的な人間だ。つまり、無駄なことをするはずがない。

 

そうなると、サラの攻撃には魔装を使わなければいけない理由がある。

一方、自分の攻撃には障壁を使わないといけない理由がある。

そして状況から推理するに……

 

「……ひょっとしてサラの魔法弾を防ぐには障壁が使えないとか?」

 

「へ? どういうこと?」

 

「言葉通りの意味。サラの魔法弾は数が多く、障壁では数が足りなくなるから……かな?」

 

今のティアに与えられた情報で推理したものは非常に単純だ。

なぜ障壁を使わないか。単純に防げないから。

 

その理由は魔法弾の数が多く、障壁の数が間に合わないから。

あるいは障壁が小さすぎて、魔法弾を防ぐには不適だから。

 

「じゃあ、貴方の攻撃の時に魔装を使わない理由は?」

 

「それも同じく防げないから? 俺の攻撃は先生の魔装を突き破るだけの魔力があるから……とか?」

 

なんて疑問形で言うティア。

彼からしても、完全に思いつきの理論。しかし、この理論を反論するだけの材料は二人ともなかった。

 

「……認めたくないけど、貴方の言う通りだと考えましょう。

先生は魔装と障壁を使い分けている。魔装は広い範囲を守るけど、その分防御力は低い。一方障壁は狭い範囲しか守れないけど、防御力は高い」

 

「うん、それに自分たちの攻撃と先生の防御手段は相性がある。サラの魔法弾は先生の障壁に強く、魔装に弱い。一方俺の攻撃は障壁に弱いが、魔装には強い」

 

そのように二人は結論を出すのであった。こうしてパズルのピースの一つが埋まった。

残るピースは七つ。

 

 

こうしてある程度の推理ができたわけだが、実際に確かめるわけにもいかない。戦闘に関して、先生はストイックなところがある。いくら修業とは言え、自分の弱点をさらけ出すようなタイプではない。

 

それに彼女も二人の動きを見て徐々に対策をしている。

大人げないと言ってしまえばそれまでだが、その分能力を抑えている。要するに先生も成長しているのだ。

 

そのため戦闘をしては先生に情報を渡してしまうことになる。理想的な話をするなら戦わずして情報を得たいわけだ。そのためには推理が必要となる。

そういった理由に基づき、二人は次の疑問について話し始めた。

 

「次の疑問だけど……先生って二方面から同時に攻撃されたとき手から魔力を発散させていた」

 

「ええ、そうね。そのせいで攻撃を兼ねた防御になったわ。それがどうかしたの?」

 

思い出すは前回の戦闘。

ティアがゾンビのごとく生き返って、攻撃を仕掛けた。その時にサラも攻撃しようと思って魔法弾を発射したときのことだ。

 

それに対抗するべく、彼女は魔力を放出することで二つの方角へ同時に攻撃した。その結果、二人の攻撃を打ち消しつつダメージを与えることに成功したというわけだ。さすが先生とサラは感嘆を覚えていたわけだが、ティアはそこを突っついた。

 

どうしてあのタイミングでそれを行ったのか。

言い換えれば、どうして最初からあれをしなかったのか。

そんなことを質問され、答えに詰まったサラは微妙な答えを返す。

 

「……おそらく、手加減なんじゃないの? 最初からそれをやっていては、すぐ倒せてしまうから」

 

「あの先生がそんな手心を加えるように思えないけどなぁ……ただ、ありえなくもないかな?」

 

なんて感想になるティア。手心を加えてくれるなんて疑わしいが、確かに最初は本当にひどかった。そこで二人をズタボロにしてはやる気をなくしてしまうかもしれないと先生は考えた。だからやらなかった、ということに一定の説得力があった。

 

それ以外の理由も考えたわけだが、思いつかない。というより、どれも説得力に欠ける。まだ一回しか撃っていない技について考察しろというのはなかなか難しい。

ただ、ティアの直感の部分が訴える。

 

あの発散は理由あって撃ったものであり、それは戦闘上の理由に他ならないと。

そのため、サラと相談したのだ。先生の弱点を見るには必要な作業だとお願いしたら、彼女は引き受けた。

 

 

そして時は今に戻り、試験終了の日。

二人は作戦と結果を見直していた。あのへんな戦闘方法や舐めプともいえるような行動はすべて実験のためである。

 

「やっぱりそうだ! 先生はあの発散を二人同時に攻撃したときにしか使っていない」

 

実験結果はティアの想像通りだった。個人で攻撃したときはあの発散を使っていない。しかし、同時に二方面から攻撃されたときだけそれを使う。

 

つまり、先生が手心を加えたから説は否定された。代わりに何か戦闘上の理由があっての物だろう。それについてもティアはすでに仮説を立てていた。

 

「おそらくだけど、先生は同時に障壁と魔装を使うことはできない。だから発散で紛らわすしかなかった」

 

一見ティアの仮説は突飛なものに思えるかもしれないが、実は理にかなっている。なぜなら、

魔法の常識として、複数の魔法を同時に扱うことは非常に難しいといわれているから。

 

例えるなら、ハンバーグを食べることを想像しながら寿司を食べることを想像しろと言われたらどうなるか。ハンバーグを食べながら寿司を食べる姿を想像するだろう。

だが、魔法的にはそれでは全く別の魔法になってしまう。

 

つまり、二つのものを別々に考えることはできない。魔法はイメージが重要である以上、基本的に一つしか使えないのである。だから、障壁と魔装は一つずつしか使えない。

 

余談だが、基礎魔法は例外だ。マスターするまで使いこなせば一度に複数使えるようになる。例えるなら目で見ながら音が聞こえるような状態になれるということだ。それだけ基礎魔法というのは魔法にとって基礎的だからこそ、このような名前がついている。

 

閑話休題。

 

こうして、パズルのピースがまた一つ埋まった。

残る空きピースの数は六つ。

 

 

翌日。

二人は修練場に立っていた。

サラがティアに足りないものを教えるからということだった。

 

そこでサラが前に出て、ティアに基礎魔法の練度を聞いてくる。

この基礎魔法が試験でも使えなければ、作戦も何もあったものではない。だが彼の返答は好ましくなかった。

 

「えっと……とりあえずできるかなーって感じ……です」

 

この試験が始まって一年が経過するが、発散はともかくとして閲覧と隠蔽に関してはあまり芳しくなかった。どれも理論も知っており、使おうと思えば使える。

だが、実践レベルとは動きながらでも使えるという意味。

 

「意識を向けなければ」とか「とりあえずできる」では実践レベルとは言えない。そんなティアに呆れるサラ。

 

とはいえ、指導しないわけにはいかない。ティアが最も手っ取り早く実力を伸ばすには基礎魔法を習得することだから。ペアの実力を高めてあげることも自分の仕事であると思っていた。

 

「私、こんな奴に負けたのね……まあいいわ。聞くけど、閲覧って戦闘でどうして役に立つと思う?」

 

「それは……やっぱり、相手の魔力が見えるから……とか?」

 

ティアの返答は間違ってはいないが、あくまで教科書的な答えに過ぎない。確かに閲覧の効果は魔力を視ることだ。だがどう戦闘に役立つのかについて全く説明していない。まあ理解できていないからこそ、こんな中途半端な状態なわけだが。

 

そんなティアにため息をつきながら閲覧について説明を始めるサラ。

 

「動かなくてもいいから、私に対して閲覧を使ってみなさい。そして気づいたことがあれば私に言いなさい」

 

そうして彼女はその場で魔法の構成を始めることにした。あえてティアにもわかりやすいように工夫し、サラに右手と左手に魔法を構成する。するとティアが手を挙げる。

 

「……もしかして、右手と左手で魔法を使おうとしている?」

 

「ビンゴ、その通りよ。貴方が閲覧を使うだけで、敵がどの腕から何の攻撃をしようかなんとなくわかるわけ。熟練ともなると、その人がどんな魔法を構成しているかもわかる。

つまり、相手の攻撃を予知することができる。これが閲覧の真価よ」

 

実際のところ魔力は人によって違うため、魔法も人によって異なる。そのため、あくまで形で予想するしかないわけだが、それでもこれから攻撃するという予備動作がわかるだけでも効果は高い。

 

言うなれば、魔法を鍛えれば武道の極致に近いものを得ることができるわけだ。魔法がいかに便利なものかわかってしまう。ちなみにメルクもティア相手に閲覧を使っていた。そのため、攻撃をほとんど避けることができるというわけだ。

 

「ただ、そんな便利すぎる閲覧に対して対抗策が生まれた。それが隠蔽よ。継続しながら閲覧を使っていなさい」

 

彼女がそういうや否や、自分の魔力を隠し始める。すると先ほどまで見えていた魔法が全く見えなくなった。

 

「今、貴方の目には私の魔法が見えないはず。それはなぜかというと、身体に魔力を通さないようにする膜を張ったから。これをすることで、敵に自分の行動を気取られないようにするわけ」

 

隠蔽は、漏れている魔力を抑えるような膜を張ることだといわれている。この結果、感知も防ぐことができる。相手に気取られないよう、隠蔽をかけながら戦うことは必須だといわれている。

 

ちなみにティアがメルクやサラの攻撃を読めなかった理由は、隠蔽がへたくそというか、ほとんどしていなかったからである。割と致命傷である。

 

「ただ、隠蔽にもデメリットはある。もっと強く閲覧を使ってみなさい」

 

そう指示されティアはより多くの魔力を使って閲覧を行う。すると視覚が強化され、徐々に

サラの魔法がどうなっているかわかるようになってきた。これに不思議だと思っていると、

 

「感知は誤魔化せるけど、強い閲覧を使われると防げないわ。後は隠蔽しながら攻撃は無理。だって魔力を放出せずに攻撃なんてできないもの。身体強化でも魔力を放出するぐらいだから」

 

一見万能な隠蔽だが、デメリットとしてそもそも攻撃できないというのが痛い。

魔法を使えば確実に体外へ魔力を放出するため、隠蔽してもばれてしまう。そのため攻撃の直前まで隠蔽するというスタイルが普通である。

 

「というわけで、貴方には九歳までを目標として戦闘しながらでもこれらができるようになってもらうわ! 対戦相手は私がなってあげるわ」

 

ということで、ティアはこれから初心に戻ることとなったわけである。

ちなみにサラは何をするのか、と聞くと

 

「私? 私はこれから魔法弾の練習よ。主に構成の練習と先生へ確実に隙を作るための戦法ね。貴方との戦闘中に磨いていくわ」

 

「……わかった。ただ、サラの方でも高火力の技を作ってほしい。俺一人だと火力が足りない可能性があるから」

 

彼自身も自分一人では決定打に賭けると気付いていた。だからこそ、彼女に一声かけたわけである。その意見に賛成したのか、コクリと頷いた。

 

こうして一気に四つものピースを埋め始めた二人。

残るピースは二つ。




何か微妙に引きのある終わり方ですが、次回が一章最終回です。
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