りらいと!〜マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝より〜 作:転寝
学校から帰宅する途中、小さな公園の脇を通る。いつもは子供が遊んでいたり、或いは部活をサボったらしき学生が屯していたりするのだが…その日は公園に誰もいなかった。
…否、いなかったというのは間違いか。正確にいえば、ひとりだけ…幼い少女が地面に倒れていた。ピクリとも動かないのを見る辺り、ただ転んで泣いていたという訳では無さそうだ。
びっくりして、いろはは少女の元へと駆け寄った。灰色のセミロングにくせっ毛の前髪。目は力無く閉じられており、何よりその手には―黒く濁った宝石が握られていた。
いろはは咄嗟に制服のポケットを探る。しかしこんな時に限ってグリーフシードを切らしていた。
神浜市内では魔女にならないとはいえ、ドッペルを出すのもよろしくない。間に合うかどうかは分からないが、とりあえず調整屋に連れていく事にした。
少女の
小さく開かれた唇からは苦しげな吐息が漏れ、躰は熱を持っていた。一刻を争う状況だという事は直ぐに分かったので、いろはは全速力で調整屋―
*
「…これでもう大丈夫よぉ」
調整屋の扉を破壊せんばかりの勢いで入ってきたいろはに驚いたみたまは、いろはの背中でぐったりしている少女を見ると顔色を変え、ストックしてあったグリーフシードを少女のソウルジェムに押し当てた。
穢れが吸い込まれ、少女の顔が穏やかなものへと変わる。それを見たいろはは安心した様に息をつき、みたまにお礼を言った。
「ありがとうございます、みたまさん」
「お易い御用よぉ…それにしても、どうしてこんな酷い事になっていたのかしら?」
少女は魔女化する一歩手前だった。魔女と戦い、勝利したもののグリーフシードが無くて倒れた…それが一番納得がいく説明だったが、どうも腑に落ちない。
公園で戦っていたのだとしたら、いろはが魔力反応に気付いてもおかしくなかった。だが魔力反応は一切無く、公園で戦っていたと考えるには不自然だという結論に至った。
「まあ、それは本人が起きたらきいてみればいいわね…それより、ファインプレーだったわよ、いろはちゃん」
みたまは微笑み、少女の寝顔を見つめる。
「ドッペルで魔女化は回避できるとは言え、リスクはあるから…その前に連れてきて正解だったわ」
「私がグリーフシードを持っていればこんな事にはならなかったんですけど…ストックを切らしちゃってて」
いろはは申し訳なさそうに言う。グリーフシードは魔法少女の生命線だ。神浜にいるとはいえ、切らすのは良くないな…そう、強く反省した。
その様子を見たみたまがいろはに微笑みを向け、にこやかに言った。
「…なら、うちのストックを買う?対価はひとつにつき調整屋の周りの使い魔退治一ヶ月分という事になるけれど」
「……もしかしてからかってます?」
「冗談よぉ〜。本当に困ったらいつでも相談してね」
今度の言葉は本気だった様なので、いろはも「ありがとうございます」と頭を下げた。
と、そこで寝台の方から小さな呻き声が聞こえた。どうやら少女が目を覚ましたらしい。
「目を覚ました?」
いろはがきくと、少女はまだ焦点の合っていない目のまま頷いた。
「…ここは」
「ここは調整屋だよ」
「調整屋…?」
そのうちに少女は意識がハッキリしてきたらしく、いろはとみたまの方を向いた。
「…えっと、あなたたちは…」
「私は環いろは。よろしくね」
「調整屋の八雲みたまよぉ」
「いろはさんに、みたまさん…ですか。助けて下さりありがとうございます」
少女は無表情で起き上がり、頭を下げる。
「ううん、大丈夫…あなたの名前は?」
いろはがきくと、少女は俯いて、
「…名前は、ありません」
呟くような言葉に、思わず「え」という声が出る。隣のみたまも驚いた様に少女を見ていた。少女はその反応を気にする事もなく付け加える。
「…正確に言うと、名前はありました。でも、
「使えなくなった…って、どういうこと?」
みたまがきくが、少女は俯いたまま答えようとしない。答えたくないというよりは、何かを我慢している様にも見えた。
と、その時誰かのお腹が鳴った。いろはではなかったので咄嗟にみたまを見るが、彼女は首を横に振った。
少女に視線を移すと、俯いた顔が真っ赤になっていた。
「…もしよければ、ご飯作ってあげようか?」
自然とその言葉が出た。少女が顔を上げ、いろはを驚いた様に見る。だが直ぐに申し訳なさそうな表情に変わり、首を横に振った。
「…いえ、大丈夫で―」
言い終わらないうちに再度お腹がなり、少女は「ぅ…」と呻いて沈黙した。
「大丈夫だよ。これから帰って作るところだったし、人数は多い方が楽しいから」
いろはが優しく言うと、少女は空腹感に敗北したらしく、「…すみません」と謝った。
「大丈夫だから…あ、みたまさん、私はこれで失礼します」
「またいつでも来てね〜」
みたまのホンワカした声に見送られ、いろはと少女は調整屋を出ていろはの下宿先―みかづき荘へと歩き出した。
少女はいろはの後ろで、ずっと申し訳なさそうな表情をしていた。
*
みかづき荘に帰る途中、少女に断って買い物を済ませてからいろはは帰宅した。
「おかえりなさい、いろはさん…って、その子は?」
出迎えてくれた
「ただいま。えっと、この子はね…」
いろはが事情を説明するとふたりは納得したようだった。戸惑った様に突っ立っている少女を見て、ういが柔らかい笑顔と共に自己紹介をする。
「環ういです。えっと、よろしくお願いします!」
「二葉さなです。よろしくね」
ういに続いてさなも自己紹介をすると、少女は「よ、よろしくお願いします」と頭を下げた。
「すぐにご飯作るから待っていてね」
そう言って少女をリビングに案内した後、いろはは自室に鞄を置き、夕飯の準備を始めた。
さなも「私も手伝います…」とひっそりと付き従い、ふたりで手際よく料理を作っていく。
みかづき荘にはあとふたり、
実際、それから暫くしてやちよとフェリシアは帰ってきた。ふたりも少女を見て驚いた様だったが、事情を説明するとすんなり理解して、自己紹介をした。フェリシアは若干警戒していたが。
そうこうしているうちに夕飯が出来上がった。テーブルに運ばれてきたものを見て、フェリシアが嬉しそうに声を上げる。
「おおっ!ハンバーグだ!」
今日のメインディッシュはハンバーグだった。誰よりも早くフェリシアが手を洗い、嬉々としてハンバーグを食べ始める。
いろは達もきちんと手を洗ってから座り、いただきますを言って食べ始めた。
少女はというと、どうしたらいいのか分からないという様子でぼんやりしている。手は洗った様だが、箸を持つ様子はない。
「食べていいんだよ?」
いろはが優しく言うと、少女はおずおずと箸を手に取り、それを使ってハンバーグを一口大に切り取って食べた。
―瞬間、少女は目を見開いた。口の中に拡がる味を確かめる様にゆっくりと咀嚼し…ごくりと飲み込む。
「…お」
「お?」
「おいしい…!」
少女の目から涙がポロポロと零れる。
突然の事に全員がびっくりして少女を見た。
「どうしたの!?」
「マズかったのか!?」
「いや、さっきおいしいって言ってたでしょ…」
やちよが呆れた様にフェリシアを見て、それから「大丈夫?」と少女を落ち着かせる様に言った。
「ち、違うんです…こんなおいしいもの食べたの、初めてで…っ」
少女は泣き笑いの様な表情を浮かべる。
その表情を見て、少女がこれまでどういう環境に居たのか、少しではあるが察してどうしようもない気持ちになる。
その後、少女は一心不乱に食事を始めたので、とても事情をきける状態ではなかった。
ある程度の事情をきき出す事が出来たのは、少女が夕飯を綺麗に完食し、食後のお茶を飲んでいる時だった。
*
「本当に綺麗に食べたわね…」
米粒ひとつ残っていない茶碗やハンバーグの欠片ひとつも残っていない皿を見て、やちよが感心したように呟く。
「ご、ごめんなさい…がっついてしまって」
少女は恥ずかしそうに頬を赤らめる。だが作ったいろはとさなは嬉しそうだった。
「こんなに綺麗に食べてもらえて嬉しいよ」
「作った甲斐がありました…」
ふたりは手際よく茶をいれ、テーブルに運んだ。ちなみにフェリシアだけはホットミルクである。「茶より牛乳だろ!」というのが彼女の言い分であった。
「…それで、もしよければなんだけど…」
茶をおずおずと飲み、その熱さに飛び上がった少女を落ち着かせてから、やちよは口火を切った。
「きかせてくれないかしら?あなたの事を…」
その質問が来る事は予想していたのだろう。少女は少しだけ躊躇う様子を見せたが、こくりと頷いた。
「…そう、ですね。お話しします」
少女は息をふきかけて茶を冷まし、ひとくち飲んでから話を始めた。
「まず―いろはさんには話したと思うのですが、わたしは本名を使えなくなっているんです。だから、偽名という事にはなってしまいますが…とりあえず仮の名を名乗ろうと思います」
少女は立ち上がり、お辞儀をする。
「わたしは
「十四歳!?オレより上じゃん!」
フェリシアが驚いた様に言う。少女―真白奏の外見はどう見ても十歳程度にしか見えない。
奏は慣れているのか特にリアクションは返さなかった。
「奏さんね。その…本名を使えないというのはどういう事かしら?」
全員が気になっていたであろう事をやちよがきいた。
奏は一瞬だけ迷う様な表情を見せたが、話す事を決めたらしく「不幸自慢みたいで、あまり気乗りはしないのですが…」と前置きした後―とんでもない事を口にした。
「…わたしは、魔法少女として役立たずの存在と
以前お試し版を投稿したマギレコ二次を書こうとしたらこの作品のアイデアが思い浮かんだので、じゃあ先にこっちを書こうと思って書いた作品です。
もはや何番煎じだよという感じではありますが、よろしくお願いします。