りらいと!〜マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝より〜 作:転寝
奏がみかづき荘に迎え入れられてから五日が経過した。
そしてこの五日で、奏を取り巻く環境は大きく変化していた。
みかづき荘に迎え入れられた時、バイトをすると決意したのだが、十四歳の少女を雇ってくれる所はほとんど無い。
動画サイトに動画を投稿して広告料を稼ぐ…という事も考えたのだが、先が長過ぎるし有名になれる保証は無い。
やちよに推薦されてモデル業…という案も出たのだが、これも断念した。モデル業は容姿だけでは無いし奏は可愛らしい顔立ちをしていたので出来なくはないと思われたのだが、そもそも時間が掛かるので現実的では無いという結論に落ち着いた。
後はアンケートモニターなど、家でできる仕事くらいなのだが…これは大したお金にならない。どうしようか迷っていた所、意外な所から救いの手が伸びてきた。
そしてかこの手引きによって夏目書房の店主に会い、魔法少女の事を除いたある程度の事情を話した結果、賃金は安いがそれでもいいならという事でバイトを認めてくれる事になった。
とはいえ、年齢的には中学生なのに学校に行っていないというのも問題がある。一応小学校は卒業しており、中学校も少しの間ではあるが通っていたとの事だったので、色々考えた結果、神浜市立大付属学校の中等部に転入する事に決めた。といっても、生活に慣れてからになるのでまだ少し先にはなるのだが…。
そんな訳で周りの援助もあり、奏は少しずつ新しい生活に馴染んでいった。
*
その日、奏がバイトを終えて帰宅すると、いつものメンバーの他にひとり、見慣れない少女がいた。彼女はリビングに入ってきた奏を見ると目を輝かせてこちらに近付いてきた。
「きみが奏ちゃんかー!」
「は、はい…えっと、あなたは?」
テンションの高い少女に奏は戸惑う。といっても奏は普段からローテンション気味なのだが。
少女は「あ、自己紹介しないとだね」と思い出した様に言ってから、にっこりと笑顔になり、
「わたしは
「さ、最強…?」
「気にすんなよ奏、自称だから!」
「えー!?ひどいよフェリシア〜!」
フェリシアの言葉に、少女―由比鶴乃は頬を膨らませた。フェリシアは慣れているのか「でもま、実際強いんだけどな!」と付け加えた。
それで鶴乃はまた笑顔になる。表情がコロコロ変わって中々面白かった。多分、奏には出来ない芸当だろう。
「えっと、わたしは真白奏といいます。よろしくお願いします…」
いつもの様にぺこりと頭を下げると、鶴乃は「うんうん、よろしくね!」と奏の両手を握った。
眩しいくらいの笑顔に奏は戸惑う。みかづき荘メンバーは基本的にみんないい人なのだが、鶴乃はその中に底無しの明るさがある様な…言ってしまえば、太陽の様な人だと思った。
まあ、恥ずかしいから口にはしなかったけれど。
*
「鶴乃ちゃん、最近来なかったけど忙しかったの?」
場が落ち着いたところで、いろはが鶴乃にきいた。
「うん…団体のお客さんが入ったりしてたし、あと勉強教えたり部活のピンチヒッターに入ってたりしててさ。ようやく落ち着いたんだ」
鶴乃が済まなさそうにそう言うと、やちよが「大変だったのね…」と鶴乃を見て、労る様に言った。
「お疲れ様。辛い様だったらいつでも相談しなさいね」
「えへへ…大丈夫だよやちよ、ありがとう」
鶴乃は嬉しそうに微笑むと、何かを思い付いたように「そういえば…」と呟いた。
「奏ちゃんの歓迎会ってもうやったの?」
「まだやってません…鶴乃さんが来てからやろうって話していたので」
さなの言葉に、鶴乃は「ふむふむ…」と考え込んでから、
「…ならさ、ウチ来ない?」
「ウチって…万々歳?」
やちよが少し驚いた様に言った。それと同時に頭の片隅ではお財布と相談を始めている。みかづき荘は基本的に節約がモットーなので、即断即決という訳にはいかないのだ。
最も、今回は祝い事なので財布の紐を多少は緩める気でいたのだが。
「奏ちゃんにも万々歳の味を知ってもらいたいからね!」
「最近ラーメン食べてねぇし、それもいいかもな!」
早速、フェリシアが賛同した。
「確かに、今から買い物行ってご馳走つくるとなると時間が掛かりますね」
いろはが時計を見ながら言う。
「わたし、ラーメン食べたい!」
「私もです…」
ういとさなの賛同を受けて、いろはが「どうします?」とやちよを見た。
やちよは
「真白さんの歓迎会だし、真白さんの意見をきいて決めましょう」
そう言って奏の方を見た。
「わたしの意見…そもそも、万々歳ってどんな所なんですか?」
「万々歳は参京区にある中華料理屋だよ」
「ひいじいちゃんとじいちゃんが築いた由比家の誇りだよっ!」
「中華飯店…」
というと、ラーメンやチャーハンなどだろうか。食べた事が無いので、前々から興味はあった。
奏はみんなの顔を見渡し、
「皆さんが良ければ…わたしも行ってみたいです」
好奇心を顔に浮かべながら、そう言った。
*
万々歳は空いていた。
といっても今は夕食には少し早い時間帯であり、客が入り始めるのはもう少し後の事なのだろう。
厨房に居た鶴乃の父親に挨拶した後、各々が好きなメニューを注文する。奏は初めてだったのでシンプルな醤油ラーメンを注文した。
ちなみに、魔法少女では無い者にはさなは見えないので、鶴乃の父は人数とラーメンの数が合わない事に首を傾げていたようだったが、特に詮索はしなかった。万々歳で食事をする時はいつもこんな感じなので慣れているのだろう。
他の所ではどうしているのかきいてみると、やちよが多く食べるという事で誤魔化している様だった。そもそもそんな事をきかれる事は少ないのだが。
そんな会話をしている内にラーメンが運ばれてきた。配膳は鶴乃も手伝っている。
早速、各々がラーメンを食べ始める。万々歳は不味くはないが旨いとも思われないという「五十点」の店なので、みかづき荘メンバーは特に感想を言わずに食べていた。悲しいが、これもいつもの光景である。
ただひとり、奏だけは初めて食べるラーメンに興味津々だった。インスタントラーメンすら食べた事が無かったし、そもそも家族で外食なんてした事が無かったのだから当然といえば当然の反応である。
みかづき荘に来てから、奏の栄養バランスは改善傾向にあった。家族の元にいた時は味の無い硬いパンと水だけという生活だったので、ここに来てからようやく色々な物を美味しく食べる事が出来たといえる。
あっという間に食べ終えた奏は、鶴乃の「何点だった?」という質問に「百点です!」と笑顔で答えた。ちなみに、スープを全部飲もうとしたらやちよに怒られたので渋々と残していたりする。塩分過多になるので仕方がない事なのだが。
久しぶりの満点評価に鶴乃が喜んでいると、フェリシアが
「奏は初めてラーメン食ったんだし百点評価つけるだろ」
というツッコミをしていた。
それで鶴乃は意気消沈したのだが、「それでも嬉しいよ!」と直ぐに笑顔になっていた。
お会計を済ませて万々歳を出た時には夜になっていた。
お腹も満たされ、新しい体験も出来て…今日も幸せな一日だったなぁと思いながら、奏はみんなと帰路についたのだった。
ちなみに、奏がラーメンを初めて食べた事をかこに話した所、目を輝かせたかこにラーメンの食べ歩きに誘われたのだが…それはまた別のお話。