りらいと!〜マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝より〜 作:転寝
それはバイトの帰りでの事だった。
奏が通い慣れた道を歩いていると、躰に電流が走る様な奇妙な感覚を覚えた。
それと同時にソウルジェムの指輪が熱くなる。これは―魔力反応だ。
奏はソウルジェムを宝石の形に変え、魔力反応を探る。いつもなら歩き回り、あちらこちらを探さなければ行けないのだが…今回はその心配はなかった。
(…向こうから来てる?)
魔女が此方へと向かってきていた。こんな事は初めてだったので少し驚いたが、どの道倒すつもりではあったのでむしろ有難いといえる。
そうしているうちに、周りの景色が変化した。夕焼けに染まるアスファルトが広大な砂場と散乱する遊具に姿を変えていく。
遊具の影からは複数の団子に足をくっつけた様な使い魔が現れ、奏を無感情に害そうとしてくる。その数は十匹ほどで、いちどに相手にするにはキツい数だった。
だが…やるしかない。
使い魔が攻撃してくる。
自らの躰を飛ばすという奇妙な攻撃を、横にズレる事で回避。
そのまま突撃し、部分的に魔法少女に変身した。具体的には、腕のみを変化させた。
そのまま殴り掛かる。
使い魔は吹っ飛ばされてひっくり返った。
喜ぶ暇もなく、もう一体が背後から襲いかかってくる。
今度は完全に変身し、横に転がる事で回避。
体勢を整えたその手には銃が握られていた。それを無造作に構え、使い魔に発砲。
無数の銃弾が使い魔の躰を貫き、骸に変えた。
すぐさまリロードし、別の使い魔を撃つ。
だが、数が多過ぎる。いくら弾幕を張ったところで、背後は守れない。
「うあっ!」
背後からの攻撃が直撃し、熱い砂の中に倒れ込む。
口に入った砂を吐き出してから起き上がり、近付いてきた使い魔を銃で殴り飛ばす。
今度は左側面から攻撃が飛んでくる。
躰を前に逸らして回避。しかしそれを狙っていたかのように四方八方から攻撃が飛んできた。
「…あ」
避けれない。
次の瞬間、奏は激痛と共に床に倒れ込んだ。
「あ……ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………」
口から出るのは呻き声のみ。
激痛で目に涙が滲む。
立てない。それどころか、倒れている事すら苦痛に感じる。
意識を失っていない我が身を呪いたくなった。
(……とりあえず、魔法で治癒力を上げなきゃ…)
やるべき事は分かっている。
だけど、それが出来ない。
ぼやけた視界に、カラフルな使い魔が映り込む。
ああ…殺されるんだな。
何故かすんなりと、その状況を受け入れた。
侮っていた。使い魔にさえ苦戦するなんて…。
確かに、奏は以前いた街でも強い魔法少女ではなかった。むしろ弱い方で、時として使い魔にも苦戦する程だった。
それでも、両親のスパルタともいえる教育を受けて多少はマシになった。その筈だった。
だけど、それは間違っていた。
自分は弱いままなのだ。
実際、神浜の魔女や使い魔は他の街のそれより強い。それは奏も噂できいていたし、覚悟はしていた。
それでも、使い魔にさえ勝てないのではこの街でやっていけない。
なら、ここで死ぬのも仕方がない事じゃないか…。
(…ごめんなさい)
脳裏に浮かぶのは、みかづき荘のみんなの顔。
変われると思ったのに、まさかこんな簡単に終わるなんて思わなかった。
使い魔がトドメを刺そうと近付いてくる。
躰が痛みに耐えられなくなったのだろう。奏は目を閉じて…そのまま意識を失った。
*
僅かに時間を遡る。
学校からの帰り道、
なんで疲れている時に限って来るかなぁとぼやく。今日はももこにしては珍しく一人で行動していたし、学校帰りなので疲れてもいる。だがそれを理由に魔女を見逃すなど、ももこには出来なかった。
魔力反応を頼りに動き回り、結界を見つけて中に入る。
砂場の魔女の結界だった。入口付近に使い魔の姿は無いので気にせず進むと、少し行ったところに使い魔が密集しているのを見つけた。
まさか、人が入り込んだのか―自然に駆け出し、武器である大剣を振り回して使い魔を蹴散らした。
使い魔が狙っていたのは花車な少女だった。飾り気のない白いコートと黒いブーツという出で立ちで、首から下げたペンダントには鍵を象った宝石がついていた。
少女の隣には軍用らしき銃が転がっていた。恐らく…というか、確定で魔法少女だ。
少女はぐったりしている。見かけない顔だし、この街に来たばかりなのかもしれない。
魔女を放っておくのは心苦しいが、それよりも人命優先だ。ももこは少女を護るように立ちはだかり、大剣を構える。
使い魔の攻撃が飛んできた。
避けたら少女に当たってしまう。かといって食らってやる事もないと思ったので、大剣でガードした。
少し後ろに下がるが、それだけだ。そもそもこの程度の使い魔なんてももこからしてみれば雑魚に近い。
攻撃を冷静に見極め、防御したり弾いたりしてやり過ごす。といっても防御ばかりしている訳にもいかないので、ももこはある程度の攻撃を凌いだ後で攻撃に転じた。
大剣で次々と使い魔を薙ぎ払っていく。倒す必要はないが、数が少ないに越したことはないので倒すつもりでやっていた。
大剣なので、多少は動きが鈍くなる。その隙を突いてくるヤツもいたが、そんな事は予想済みだった。
蹴りを食らわせ、使い魔を吹き飛ばす。魔力を込めていたので面白い様に吹き飛ばされていった。
倒せば倒すほど使い魔は出てきたが、それでも無限ではない。暫くすると出現する数は減っていき、遂には一匹も出現しなくなった。
ももこにしては珍しくグッドタイミングだった。自分を褒めてもいいくらいかもしれない。
「ふう…」
一息ついてから少女の方を見る。
相変わらず意識を失ったままだ。ソウルジェムの色も濁っているし、調整屋に運んだ方がいいだろうと思った。
少女はももこより小さかったので簡単に背負う事が出来た。恐らくまだ小学生だろう。
かわいそうにと呟いてから、ももこは結界を脱出して調整屋へと向かった。
移動しながら、そういえば…と思い出す。
(この前、いろはちゃんが外から来た子を調整屋に運んだとか言ってたな…)
昼食の時、いろはからきいた話だ。
なんでも、今はみかづき荘に引き取られ、慣れない生活に戸惑いながらも楽しくやっているのだとか。
一度会ってみたいなと思っていた。最近はみかづき荘にも顔を出していないし、調整屋の帰りに寄っていくのもいいかもしれない。
自分が背負っている少女がみかづき荘の新たな新入りだとは全く気付かず、ももこは慣れた様に調整屋への道のりを歩いていったのだった。